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J・モロニー vs 天心 直前プレビュー  - 有明バンタム級フェス Part2 -

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■2月24日/有明アリーナ/119ポンド契約10回戦
元WBOバンタム級王者/WBC・IBF5位 ジェイソン・モロニー(豪) vs WBA2位 那須川天心(帝拳)

会見で顔を合わせた天心(左)とモロニー

”日本キック史上最高の天才児”こと天心が、転向6戦目で早くも大きな勝負に出た。一時はどこやらの暫定王座戦になるとかならないとか、あらぬ風聞も出回ったが、発表されたのは119ポンド契約の10回戦。

お相手は、何とあのジェイソン・モロニー。昨年5月の東京ドーム興行に参戦して、武居由樹(大橋)に中差の0-3判定負け。プロ9年目にしてようやく掴んだWBOのベルトを手放すも、日本のファンにもすっかり打ち解けて、「いいヤツ」キャラが浸透定着してしまった。

キックで無敵を誇った者同士、近い将来の激突に注目が集まる武居を、これでもかと意識した分かり易いマッチメイク。武居の回復具合(右肩関節唇損傷)にもよるが、早ければ年末にも・・・?。


今現在の世界ランクは、何故か天心が上に行ってしまっているけど、実績と経験では明らかにモロニーが上回る。前王者が早速ジャブを放つ。”時期尚早”とのコメントにカチンときた天心が、上から目線を弾き返すべく応戦。

◎那須川天心、モロニーからの“挑戦早い”発言にアンサー「舐めてもらっちゃ困る」 『Prime Video Boxing 11』記者会見
2025/年2月22日/oricon



フィリピンのアシロに手を焼き、一度ならずヒヤっとする貰い方をした前戦について、経験不足を指摘されるのは致し方がない。アシロも想像以上にいい選手だったし、何より現代のボクサーがやらなくなって久しい、上体と頭を小刻みに柔らかく動かすウィービング=一昔前の定石=を使っていた。

これで天心は的を絞り切れなくなり、第9ラウンドのダウン(アシロはスリップを主張)も加味され、オフィシャル・スコアは大差(98-91×2,97-92)が付いてしまったが、実際の試合内容にそこまでの開きはない。

上半身のウィーブに、丁寧にリズムを刻む下半身のステップが連動すれば、オールド・スクール(20世紀)のセオリー完成となって言うことはないけれど、そこまで望むのは無いものねだりになる。

いずれにせよ、天心ほどのスピード&ムーヴィング・センスの持ち主にも、20世紀のセオリーが充分過ぎる有効性を示してくれたことだけで、拙ブログ管理人は十二分に満足した。

◎試合映像:天心 10回判定 アシロ
2024年10月14日/有明アリーナ
WBOアジア・パシフィックバンタム級王座決定戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=rJaDXH2XZr0


一方、武居にかなりの点差を付けられて陥落した後、悔し涙にくれたモロニー。最終盤の猛攻が見る者の胸を打ち、「もう少し早くあれをやっていれば・・・」と惜しむ声も多かった。

以前からある「サウスポーは大の苦手」説を証明したとの伝聞が、ネット上を飛び交うことになる。真相は未だ藪の中ではあるが、得意にしていないだけで、たとえば小國以載のように、とにもかくにも不得手という程酷くはないというのが、拙ブログ管理人の現時点での見立て。

捲土重来を期して日本の地を踏む表情には、勝手を知る余裕が垣間見える。南半球のオーストラリアと季節が逆転する為、日本の寒さにはびっくりした様子も、「これまで培ってきた技術&経験値があれば大丈夫」との自信が、泰然自若とした佇まいに裏づけを与えているのは確かだろう。

その傍らには、長年マネージメントを任されてきたトニー・トルジが、巨体を揺らしながらぴったりと張り付く。

モロニーと長年のマネージャー,トニー・トルジ


公開された練習では、スパーリングまで披露した天心に比べると、型通りのシャドウで体裁を整えたモロニーにどうしても不満は残るが、これもまた駆け引きの1つだけに止むを得ない。

ただし、フルトンのように短時間であっという間に切り上げた訳ではなく、2ラウンド近くは動いてくれた。

◎公開練習
<1>那須川天心戦に臨むジェーソン・モロニー、丁寧なシャドーを披露!『Prime Video Boxing 11』公開練習
2025年2月18日/マイナビニュース


<2>『Prime Video Boxing 11』那須川天心公開練習|プライムビデオ
2025年2月12日/Prime Video JP - プライムビデオ


プロで味合わされた3度の黒星のうち、2度が日本人。達人の居合い切りで一刀両断されたかのごとく、右ショートのカウンターで沈んだラスベガスでのモンスター戦と、必死に食い下がりながらも反撃及ばす敗れた武居戦。そしてもう1人は、技も力も届かなかったIBF王者マニー・ロドリゲス(プエルトリコ)への初挑戦。負けた3試合はすべて世界戦で、それ以外にはすべて勝利を収めている。

安定した試合運びには定評があるけれど、日本のファンが忘れていけないのは、プロの裏技を容赦なく駆使する”マリーシア”を辞さないところ。記事の終わりに附記した、モンスター戦のプレビュー記事をご参照いただけると有難い。

正直に本音を言うと、今でも拙ブログ管理人はモロニーを信じる気にはなれず、好きか嫌いかと問われれば、「好きなタイプではない」との回答になる。以前は「嫌い」だったが、少しづつ「いいヤツ」キャラに毒されているようだ。


直前のオッズは天心を支持。判断の決め手になったのは、やはりスピードの違いだろうか。ロドリゲスを攻略してIBF王者となり、昨年末ようやく初防衛を終えた西田凌佑(六島)のスパーリング・パートナーを務めたアシロも、「技術は互角だと思うが、天心の方が速かった」と認めている。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
天心:-260(約1.38倍)
モロニー:+188(2.88倍)

<2>betway
天心:-250(1.4倍)
モロニー:+200(3倍)

<3>ウィリアム・ヒル
天心:2/5(1.4倍)
モロニー:19/10(2.9倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
天心:4/9(約1.44倍)
モロニー:5/2(3.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

個人的には、2人の地力はここまで離れていないというのが偽らざる実感で、武居との比較を気にし過ぎた天心が真正面から倒しにかかると、「サウスポーが大の苦手」な筈のモロニーにペースを握られてしまうのではないか。

毎回同じ繰言で恐縮だが、この際倒すことは全部忘れて、国際式デビュー戦の「かすらせないボクシング」に徹することが、勝利への最短距離という気がしてならず、誤解を恐れずに言い切ってしまうと、その思いは確信に近いとさえ言える。

豊富な運動量とフットワークを武器に戦うモロニーは、完璧にし止められたモンスター戦を含めて、「空転させられた」経験は無い筈で、3度の敗戦に限らず、そうした感覚を持っていない可能性が極めて高い。


だからこそ、モロニーに裏の顔(ラフ&ダーティ)を諦めさせる為にも、「マタドール天心」の全開を願っておく。散々苦しんだ挙句に、僅差の2-1判定勝ちだったとしても、今の天心に取っては快勝と評価すべき。

それぐらいモロニーは難敵だというのが、拙ブログ管理人が受ける強い印象であり、天心の判定負けも想定の範囲内。そうなったとしても、けっして驚くような結果ではないと、現時点では考えている。


もう1つのバンタム級フェス、堤聖也(角海老)と比嘉大吾(志成)のWBAタイトルマッチについては、誠に残念ながら記事を準備する時間的余裕がなく、断腸の思いで諦めるしかない。


◎モロニー(34歳)/前日計量:118.8ポンド(53.9キロ)
元WBOバンタム級王者(V1)
※現在の世界ランク:WBC・IBFバンタム級5位/WBO6位
戦績:30戦27勝(19KO)3敗
アマ通算:53勝19敗
2010年コモンウェルス・ゲームズ(デリー/インド)フライ級ベスト8
※マイケル・コンラン(2012年ロンドン五輪銅,2015年世界選手権金)に総合点(10-10)で僅差ポイント勝ち
身長:168センチ,リーチ:170センチ
※Boxrec記載の最新データ:身長,リーチとも165センチ
トレーナー:アンジェロ・ハイダー(Angelo Hyder)
マネージャー:トニー・トルジ(Tony Tolj)
プロモーター:リンデン・ホスキング(ホスキング・プロモーションズ/豪ビクトリア州)
右ボクサーファイター


◎那須川(26歳)/前日計量:118.8ポンド(53.9キロ)
現在の世界ランキング:WBA・WBC:3位/WBO11位
戦績:5戦全勝(2KO)
キック通算:42戦全勝(28KO)
※各種のキック世界タイトルを総ナメ
身長:165センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーファイター

t計量をクリアした天心(左)とモロニー

◎前日計量


契約ウェイトがバンタム級リミット+1ポンドであることに、何だかんだと言う声も聞こえてくるが、こうした契約はプロボクシングでは当たり前の日常茶飯。何も問題はない。

そして、無駄なく引き締まった天心のボディの見事なこと。すっかりプロボクサーの身体になった。


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■オフィシャル

主審:中村勝彦(日/JBC)

副審:
染谷路朗(日/JBC)
メキン・スモン(タイ)
エドワルド・リガス(比)

ノンタイトルの10回戦だから、てっきり全員日本人かと思っていたが、タイとフィリピンから1人づつジャッジを呼んで、一応バランスに配慮した布陣。拮抗した僅差の判定勝負で天心の手が挙がった場合、オーストラリアから1人も呼ばれていない点が火種になる恐れはある。


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◎モロニーと天心に関する過去記事
<1>モロニー
(1)リアル・モンスター,遂にラスベガスへ /J・マロニー戦プレビュー Pert 3 - 2度目の米本土上陸で狙う快心のKO防衛 -
2020年11月1日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/bbb1675c47ac556113d7f2493a1efe72

(2)リアル・モンスター,遂にラスベガスへ /J・マロニー戦プレビュー Pert 2 - 2度目の米本土上陸で狙う快心のKO防衛 -
2020年10月31日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/9420b7e0cf16a9ee42eca9ab830f75fe

(3)リアル・モンスター,遂にラスベガスへ /J・マロニー戦プレビュー Pert 1 - 2度目の米本土上陸で狙う快心のKO防衛 -
2020年10月3日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/5bf388a97121f7230e6d99c8f2c779a6


<2>天心
(1)”宇宙系(?)”で初載冠へ /「世界タイトル7連戦+1」- 天心 vs アシロ プレビュー -
2024年10月14日
https://keisbox.online/archives/27014059.html

(2)倒せないキックの天才児 /狂っているのはどちらの感覚・・・? - L・ロブレス vs 天心 プレビュー -
2024年1月23日
https://keisbox.online/archives/24440151.html

(3)有明4大決戦+α プレビュー 3 /キックの神童は国際式でも花開くのか? - 那須川天心 vs 与那覇勇気 -
2023年4月8日
https://keisbox.online/archives/20017399.html


”愛の拳士”あらため”ビッグ・バン(Big Bang)” 3度目の有明登場 - 中谷潤人 vs D・クェジャル 直前プレビュー 有明バンタム級フェス Part1 -

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■2月24日/有明アリーナ/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC6位 ダヴィド・クェジャル(メキシコ)


会見で撮影用のポーズを取るクェジャル(左)と中谷(右)

■充実進境著しい中谷に死角無し・・・?

118ポンドで持てる潜在能力を開花進行中の中谷が、早くも3度目の防衛線を迎える。

栄えある3階級制覇の仲間入りを果たしたのが、丁度1年目の同じ日。会場は有明アリーナではなく両国の国技館だったが、モンスター返上後のWBC王座をノニト・ドネア(比)と争って、明白な3-0判定で新チャンピオンになったアレッサンドロ・サンティアゴ(メキシコ)に6回TKO勝ち。

第2ラウンドに左フックを貰ってヒヤリとしたが、出足のタイミングと間合いを掴んだ3ランド以降は、長いワンツーに得意のアッパーを混ぜて距離を制圧。公称159センチの勇敢なメキシカンに付け入る隙を与えず、第6ラウンドに強烈な左ストレートを決めてダウンを奪うと、ダメージが明らかなサンティアゴをロープに詰めて右フックを一閃。

サイズの違いが大きな追い風になったことも確かだが、無駄に打たせてくっつかれると煩いサンティアゴを着実にコントロールして、試合全般を通じて安定感が増した。


昨年7月の初防衛戦は、落日のリゴンドウを明白な3-0判定で下した後、やはりモンスター返上後のWBO王座決定戦に進み、ジェイソン・モロニー(豪)を相手に、0-2のマジョリティ・ディシジョンまで粘ったビンセント・アストロラビオ(比)との指名戦。

サンティアゴ以上に計量後のリバウンドを上手く利用するフィリピン人は、165センチの公称よりもずっと大きく見える。おそらくだが、15ポンド(6~7キロ)前後レベルを戻しているのではないか。

修行時代にマレーシアで組まれた8回戦で、六島ジムのストロング小林佑樹に2度のダウンを奪われ4回TKOに退いた頃は、幾ら加齢とブランクで錆付いていたとは言え、リゴンドウから大金星を挙げて、世界タイトル挑戦まで辿り着くなんて想像もできなかった。

一廉(ひとかど) のメイン・イベンターに成長したアストロラビオは、鍛え込んだ頑健なフィジカルを武器に、粘り強くしぶとくラウンドを持ち応えながら、重い左右で上下に揺さぶりをかけながら、手堅く流れを呼び込むタフなボクサーファイターへと変貌。

スタンスを適時拡縮させつつ、左の上下を軸に崩しと突破を仕掛けるアストロラビオは、右の拳をしっかり右頬に密着させ、中谷の左対策も万全。それでいて、全盛のドネアの左フックを警戒する余り、ほとんど右を出せなくなってしまった西岡利晃のような不自由さは感じさせない。


深めの半身とやや遠目のミドルレンジを堅持して、踏み込む時は思い切り良く、右ストレートを中谷のボディへ持って行く。右拳を元の位置に戻す引き手も素早く、無理に顔面を狙わない。

功を焦って深追いすれば、顎が上がりオフ・バランスを招く。中谷に対するこのミステイクは致命的で、そこで試合が終わりかねず、リスク回避への配慮を怠らない、しっかり練られた戦術と、キャンプで取り組んだ具体的な中谷対策を、本番のリングでちゃんと再現できるアストロラビオの戦術的ディシプリンに思わず感心する。

隙あらばいつでも,との緊張感がむしろ心地いい。中谷も強めにギアを上げた左で、わざと挑戦者が頬に密着させた右拳の上を繰り返し叩く。しかし、挑戦者もけっして怯まず、立ち向かう姿勢を見せ続ける。

ドネアをリスペクトし過ぎたことが、西岡が冒した最大の失敗だったけれど、アストロラビオにそうした心配は無用のようだ。


「世界戦はこうでなくちゃ。でも、長い勝負になるかもしれないな・・・」

なんて勝手な予想を思い浮かべた途端である。上に意識が傾き、ガラ空きになったアストロラビオのミゾオチ目掛けて、軽量級離れした重量感溢れる左ストレートを貫く。速い右のショートジャブでハイガードの上を1回タッチして、僅かながらでも重心を持ち上げさせ、ボディに開いた穴を閉じさせることなく、つなぎのスピードも十分な、教科書のような上→下のコンビネーション。

アストロラビオも気が付いて、お腹を引っ込め肘を内側に絞りながら、1歩半のステップバックで反応したが間に合わない。

後ろに下がりながらも保持していた半身&ハイガードの態勢が、一瞬遅れて腰から崩れ落ちる。典型的なディレイド・アクション。尻餅を着くように倒れたアストロラビオは、そのまま身体を反転させて両膝と両肘をキャンバスに着き、時折腹部を左右の片手で交互にさすりながら苦悶。

カウント9で何とか立ち上がったが、痛みに耐え切れずまたすぐに倒れて万事窮す。圧巻の初回KOで、モンスターが去った後のバンタム級最強をアピールした。

◎試合映像:中谷 KO1R アストロラビオ


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さらに10月14日、2度目の有明アリーナ登場は、前日の13日と合わせて、2日間で世界戦を7試合開催する日本ボクシング史上初の試み。

13日には、WBA3位堤駿聖也(角海老)の挑戦を受ける同王者の井上拓真(大橋)、WBCフライ級の王座決定戦に臨む寺地拳四朗(B.M.B.)、そしてそのフライ級で安定政権を築いたアルテム・ダラキアン(ウクライナ)を破り、WBAのベルトを巻いた”地方ジムの星”ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)、108ポンドのWBO王座決定戦に己のすべてを懸ける岩田翔吉(帝拳)の4名が並ぶ。

そして中谷がオオトリを務める2日目は、井岡一翔(志成),モンスター井上尚弥(大橋)に続く国内3人目の4冠王,田中恒成(畑中)、中谷のステーブルメイトで、日本のファンにもすっかりお馴染みとなったアンソニー・オラスクアガ(米)が、昨年7月に獲得したWBOフライ級王座のV3戦。

なおかつ、倒しても倒せなくても話題になる那須川天心(帝拳)も、プロ5戦目で初のタイトルマッチにアタック。フィリピンの曲者ジェルウィン・アシロを相手に、WBOアジアパシフィック王座の決定戦が用意された。

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前日のメインを託された拓真が、堤が仕掛ける嵐のようなインファイトに巻き込まれて、0-3の明白な判定で陥落する大波乱にボクシング界隈は騒然となったが、他の5王者と那須川は無事白星をマーク。
※3月3日訂正
修正前の原稿を誤ってアップしてしまいました。
以下の通り訂正いたします。ごめんなさい。
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堤の激しいチャージを懸命に耐える拓真

前日のメインを託された拓真が、堤が仕掛ける嵐のようなインファイトに巻き込まれて、0-3の明白な判定で陥落する大波乱に続き、14日の第3試合(那須川 vs アシロにセミを譲った)でも、勝利を確実視されていた田中恒成が南アフリカの伏兵プメレレ・カフにダウンを奪われ、拮抗した勝負を引き寄せ損ねて落城。

恒成ほどのポテンシャルと実力を持ってしても、4つ目の階級ではこれまで通りには行かない。井岡一翔に喫した初黒星は、左フックのカウンターで待ち構える井岡に対して、何の工夫も変化もなく同じタイミングで真正面から突っ込んでしまう、コーナーワークも含めた無策による自滅と表するしかない。

しかし、カフ戦では細かいステップにボディワークを連動させ、適時出入いりとポジション・チェンジを繰り返しながらの切り崩しが出来ていたにもかかわらず、第5ラウンド、右アッパーをカチ上げたところに、左ではなく右フックを合わされ痛恨のダウン。

恒成 vs カフ 第5ラウンドのダウンシーン

深刻なダメージでこのままストップされるかと思ったが、井岡戦同様、驚異的なタフネスと回復力で持ち直した。オフィシャル・スコアは、三者全員が1ポイント差の1-2スプリット(113-114×2,114-113)。まさしく、5ラウンドのノックダウンが勝敗を分けた格好。

ミニマム級~フライ級までは、圧倒的なスピード&クィックネスのアドバンテージに加えて、体格差を利したフィジカルの強度で勝ち続けてきた恒成も、スピードを捨てて大幅なリバウンドを武器にした井岡に叩きのめされ、カフには黒人特有のナチュラルな身体能力(パワー&バネ,柔軟性)に遅れを取った。

あらためて打たれ強さを証明した恒成だが、115ポンドで2度目の復活を成功させ、さらに防衛ロードをサバイバルする為には、「倒して勝つ」ことへの徹底した割り切りが必要になる。

アマ時代に”スーパー高校生”と呼ばれて、熾烈なライバル争いを繰り広げた拓真と恒成の敗戦に、ボクシング界隈は騒然となったが、他の4王者と那須川は無事白星をマーク。
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モンスター vs ネリーの東京ドーム興行とは意味合が異なるけれど、ビッグイベントの〆を飾るべく、満を持してリングに上がった中谷のチャレンジャーは、タイの実力者ペッチ・CP・フレッシュマート。

ランキングはWBC1位で、2試合続けての指名戦。初回で沈んだアストロラビオに替わり、トップ・コンテンダーに浮上した。2019年6月のフィリピン人選手(19戦目:初回KO勝ち)以来、およそ5年半ぶりのサウスポー対決となった。

ムエタイから転向した1993年生まれの30歳は、二昔前ならロートルの扱いを受ける年齢。2011年3月から積み上げた国際式のレコードは、77戦76勝1敗。プロの試合数が激減した現在のトレンドに照らせば、途方もない戦績と言わねばならず、53ものノックアウトを量産している(KO率:68.8%)。


負ける心配がまずない無名の格下を選び、休み無くリングに上がり続けながら、タイに本部を置くABC(WBCが直轄するアジア地域タイトル)のベルトを利用してランキングを上げて行く。

パンチのあるムエタイ出身者を国際式で育成するタイならではの流儀であり、しかし同時に、修行時代の休み無い連戦(”無名ばかりをあてがう”点を除いて)は、20世紀のプロボクシングにおけるセオリーだった。

心身のタフネスが前提にはなるが、ディフェンスのベーシックをきちんと身に着けていないと、とてもこんな真似はできない。昭和の日本人ボクサーが、ディフェンスのできないサンドバッグのように思う若いファンを時々お見受けするが、それは大いなる誤解に基づく無理解である。


パンデミックの間もコンスタントに試合をこなし、13年を超える国際式のキャリアで唯一喫した黒星は、2018年12月30日の大田区総合体育館。ここまで記せば、ピンとくる方も多い筈。そう、井上拓真とのWBC暫定王座決定戦で、0-3の判定を失い無念の帰国を余儀なくされた。

序盤から拓真の出入りに苦しみ、あと数歩を追い詰め切れないままポイントを逃し続け、終盤にはボディを効かされて足が止まりかけたが、旺盛な回復力とメンタルの強さで12ラウンズを耐え切っている。

打たれても簡単に怯まず退くことを知らない気の強さと、ひたすら前進を繰り返すしつこさは、「ひょっとしたら化けるかも・・・?」と思わせるポテンシャルを垣間見せはしたけれど、この当時はまだまだ線が細く、どの距離でもパンチにウェイトが乗り切らない、未成熟な印象が優っていた。


今の中谷ならまあ大丈夫。早めのラウンドで倒すに違いないと、楽勝に近い雰囲気が充満しそうになる中、拓真戦後の6年近くで28戦(全勝20KO)を消化したペッチは、身体も大きくなって力強さを増す。計量後のリカバリーを含めた調整方法も確立したと思われ、気持ちの強さにしっかり身体が付いてくるようになり、パンチのキレと重さが格段にアップ。

かつて渡辺二郎と激闘を交わしたパヤオ・プーンタラトを、一~二回り大きくしたような当たりの強さ、身体全体のパワーが拓真戦の頃とはまるで違う。

ガンガン前に出て圧力をかけ続け、積極的に左右の強打を飛ばす。中谷の打ち終わりに合わせて、クロス気味に速いストレートを放ち、密着するとガードの上からボディ→上を重いパンチで連射。

アストロラビオに引けを取らないテンションの高さ。がしかし、ヒリヒリ感は過去8回の世界戦でおそらくNo.1。拓真との比較の上でも、下手な試合はできない。明確な差を付けた上で、倒し切って勝ちたいのは当然の成り行き。


めまぐるしい攻防の中でも、ペッチの動きとパンチの振り出しを非常に良く見て、反応の遅れや隙がほとんど無く、危険なクロスレンジでは、小さく頭と上体を動かすディフェンスを忘れない。

前半4ラウンズを終えて発表された最初のオープンスコアは、3-0(39-37,40-36,40-36)で中谷。ただし、はっきりペースを引き寄せ切った訳ではなく、ペッチの勢いもそう簡単にシフトダウンする気配は無し。被弾しても顔色1つ変えないペッチもまた、ディフェンスラインは相当頑丈。

どうなることかとハラハラしながら観ていたら、徐々に中谷の右が当たる確率を増し、それに比して左の精度も上がって来る。完全にペッチの間合いを把握したようだ。流石のペッチにも、バタつくシーンが見られ出す。

中谷の脚捌きがいよいよスムーズになり、意外に早く倒す時間帯に入ったなと驚いていると、第6ラウンドの1分半を過ぎたところで、ワンツーの連射にアッパーを混ぜた得意のコンビネーションが火を噴き見事なノックダウン。

ダメージは深刻で、スロー再生のように鈍い動きで立ち上がるペッチ。主審のローレンス・コール(米/テキサス州)が厳しい表情でペッチの表情を見つめ、中谷を見て臨戦態勢に戻ろうとするペッチを立ち止まらせ、自分の方へ歩けと指示。意識の状態を2度も確認する。

反応は明らかに鈍っていて、このまま止めるかと思ったが、ここまでのペッチの奮闘に配慮したのだろう。ワンチャンスを与えた。


ここでフィニッシュを急がないのが、中谷の余裕と上手さ。グラグラとヨロけながらも、まだパンチには相応のパワーを残している。右のリードからセットアップし直し、距離を詰めてボディを打ち直す。

アップアップのペッチが、強引に左をスウィングしてロープから飛び出しそうになる。下半身の支えも限界に近づいている。前に出た右腕を下げたヒットマン・スタイル、崩壊寸前の身体を意思の力だけで保つペッチに、また強烈なワンツー。そして間髪を入れずに左アッパー→右フック→左アッパーの連打がヒット。

ペッチはダッキング&ローリングで何とか対応しようとするが、もはやボビングと表した方がいいぐらい遅く大きい。ラウンドの残り時間が僅かとなり、「1分の休憩をあげたくないな。ここでし止めたい・・・」と余計な老婆心が頭をかすめたのは、きっと私だけではない。

そんなファン心理を見透かすかのごとく、止めのワンツーを炸裂させる中谷。前のめりに倒れ込み、そのまま仰向けになるペッチ。今度はコールも迷い無くストップの合図を出す。ただただ見惚れるしかない、完璧なノックアウト。

◎試合映像:中谷 6回TKO ペッチ
2024年10月14日/有明アリーナ


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近いところでは、山中慎介のゴッド・レフトと西岡のモンスター・レフト(この人がモンスターと呼ばれた日本人第1号)、そして昭和を代表する名選手,海老原博幸のカミソリ・パンチ&青木勝利のメガトン・パンチに、15連続KOの日本記録を塗り替えて、J・ウェルター級を撮った浜田剛史の豪腕・・・。

日本ボクシング史にその名を刻む、錚々たる左の豪打者たちの列に並ぶのは勿論、中谷の左(ワンツー)はその序列をグンと上げたように思う。


若き日の海老原&青木のレフティ2人は、ファイティング原田を加えて「三羽烏」と謡われ、世界チャンピオン候補として大いに持て囃されたが、練習嫌いと飲酒癖が直らなかった青木は、”黄金のバンタム”エデル・ジョフレに挑戦が叶うも3ラウンドで沈められ、原田とのライバル対決にも3回KO負け。1人だけ夢を掴み損ねて姿を消す。

もはや忘れ去られてしまったと評して間違いないけれど、青木の左は本当に凄かった。現代のトップボクサーは、すっかりアスリートになったと言っていいと思う。

そういえば、浜田代表に追い抜かれた前記録保持者(12連続KO)のムサシ中野も左だった。世界水準では最激戦区となるウェルター級で東洋王者となり、世界ランキングも3位まで上げたが、1967(昭和42)年8月8日、時の王者カーチス・コークスへの挑戦権を懸け、西海岸の人気者アーニー・”インディアン・レッド”・ロペス(米)と愛知県体育館で対戦。

あえなく3回KOに退き、中量級の分厚く高い壁を思い知らされることになったが、アーリー・アメリカンの血を引くスターボクサーを、名古屋に呼ぶことができたんだと思うと感慨深い。

閑話休題。話を元に戻そう。

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◎カネロ・ファミリー門下のチャレンジャー

28連勝(18KO)中の挑戦者は、中谷より5歳若い23歳。中身をよくよく吟味する必要はあるにせよ、勇ましくも立派な「El General(The General:将軍)」のニックネームに相応しい、立派なレコードではある。

アマ経験の有無を含めた詳しい経歴は不明。カネロ・アルバレスを生んだグァダラハラから、内陸に向けて400キロ程離れたクェレタロ(Queretaro)という、人口70万人規模の大きな地方都市の出身で、いつ頃カネロのチームに合流したのかも判然としない。

ちょうど中間地点に、メヒコ最大のアイドル,ルーベン・オリバレスのライバルとして名を馳せたチューチョ・カスティーヨ(元世界バンタム級王者)の故郷グァナファトもあるが、ボクシングでの成功を夢見るクェレタロの有望な若者なら、迷わずグァダラハラを目指すだろう。


公称174センチのタッパは、中谷を1センチ上回る超大型のバンタム。リーチは171センチで、安定感を増すばかりの王者より5センチ短いが、リアルなトップレベルであればことさら問題にはならない。

カネロのヘッドとして売れっ子になったエディ・レイノソではなく、少年カネロの才能を見出し、手塩にかけて育て上げたホセ・レイノソ(エディの実父)が、老体に鞭打って直接指導をしたという。

メンター兼トレーナーのチェポ・レイノソ(左)とクェジャル

”チェポ”の愛称で親しまれる老匠を、再び第一線へと押し戻すだけの素質の持ち主・・・ということになるのかどうか。実際にコーナーで実務をリードするのは、ジョナタン・レイジェスというチェポが信頼するコーチで、総勢20名に及ぶ大軍での来日は、”カネロのメンター”に対する最大の配慮と言うべきで、5~6名体制でやって来るのが平常運転だ。

並みのプロモーターでは容易に呑めない痛い出費も、本田会長と浜田代表にとっては必要経費。きっとそういう判断なのに違いない。


サイズのアドバンテージを頼りに、身体ごと押し込んでくるタフ・ファイター。適時ボクシングもこなすけれど、耐久力勝負の打ち合いに持ち込んで、相手をすり潰すのが本来の持ち味になる。

いわゆる出世試合に当たるのが、2023年10月のルイス・コンセプシオン戦。近年のパナマが輩出した数少ない人気王者コンセプシオン(フライ級&S・フライ級の2冠王)も、40歳(しじゅう)の不惑を目前にして、往時の面影はなし。

タイソン・マルケスに喫した2度のKO負け(2011年)による被害は甚大で、”肉を切らせて骨を絶つ”スタイルの代償が目に見えて顕在化。その後ウェイトをS・フライ級に上げて、中堅クラスを相手に連勝を続けると、2015年5月、カルロス・クァドラスに挑戦して12回判定負け。

昇り調子だったカル・ヤファイ(英)やアンドリュー・モロニー(豪)にも敗れて、流石にこれまでかと思われたが、2020年2月にWBAのフライ級暫定王座に返り咲いたと聞いた時は、「まだ戦っていたのか?」と本当に驚いた。


戦った相手はコロンビアのベテラン中堅ロベール・バレラで、それでも11回にTKOしたというから、パンチング・パワーと強靭なメンタルは健在なのかと感心。パンデミックによる休止を挟み、翌2021年12月に行われた正規×暫定の統一戦で、アルテム・ダラキアンにほとんどいいところはなく9回TKO負け。

今度こそキャリアを終えるものと思いきや、2022年に復帰して無名選手に勝った後、因縁のタイソン・マルケスと3度目の対決。2人合わせて70歳超えロートル対決(失礼)は、メキシコ国内の開催ということもあり、マルケスに2-1判定が与えられて、10年越しの雪辱はならなかった。

マルケスとの第3戦からジャスト1年経った2023年10月、慣れ親しんだメキシコからまたお呼びがかかり、若くて活きのいいクェジャルの踏み台にされたという次第。

そして昨年5月、何かとお騒がせのムロジョン・アフマダリエフに挑戦(2021年11月)して判定まで粘り、2023年9月には岡山で和氣慎吾と8ラウンズをフルに渡り合った小兵のベテラン,ホセ・ベラスケス(チリ)に大差の10回判定勝ち。

◎試合映像
<1>クェジャル 8回TKO コンセプシオン
2023年10月13日/カンクン


<2>クェジャル 10回3-0判定 J・ベラスケス


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また、クェジャルのキャリアでもう1つ印象深い試合が、2021年10月16日にカンクンで行われたモイセス・フェンテスとの10回戦。ここでも打ちつ打たれつの白兵戦になったが、若さと体力にモノを言わせたクェジャルが6回TKOで勝ち名乗りを受ける。

フェンテスを悲劇が襲ったのはこの直後で、意識を失い救急搬送されて開頭手術を受けたが、ご家族の献身的な介護にもかかわらず、1年後の2022年11月24日に回復しないまま息を引き取った。

105ポンドと108ポンド(暫定)でWBOの王者となり、田中恒成(畑中)との決定戦を得て2016年の大晦日に初来日した時には、歴戦のダメージによる消耗疲弊が顕著で、勢いに乗っていた恒成の敵ではなく、5回TKOで役割を終え帰国。

王座復帰を諦めずに戦い続けたフェンテスは、WBCフライ級王者となった比嘉大吾(白井・具志堅:当時)の挑戦者に選ばれ、2018年2月に再来日。初回2分30秒余りで比嘉の強打に捕まり、呆気ない結末となったが、下手に長引いて打たれ続けるよりは良かったと本気でそう思う。

さらに7ヶ月後の同年9月、シーサケットに連敗して急降下したローマン・ゴンサレスの復帰戦に呼ばれたフェンテスは、ラスベガスのT-モバイル・アリーナで5回KO負け。長い休養にパンデミックが加わり、風光明媚なビーチで知られるカンクンを訪れ、クェジャルに打ちのめされた10回戦は、実に3年ぶりのリング復帰だった。

「ボクシングを辞めるのは難しい。こっぴどく負けてもう駄目だと思い知らされた筈なのに、少し時間が経ってダメージが抜けると、まだやれると考えてしまうんだ。」

「もう戦うべきじゃないとエディ(ファッチ:ローチの面倒も見ていた)に忠告された時、素直に辞めていたらと思うことはある。こんなに苦しむことにならずに済んでいたかもしれない。でもそれもこれもひっくるめて、自分自身で選択した私の人生だからね。受け入れているよ。」

現役時代最終盤に喫した敗戦の影響(ご本人が明言)で、外傷性のパーキンソン病を発症したフレディ・ローチが、パッキャオの引退について問われた時、自らの経験を踏まえてそう述べていた。

田中に負けた後すぐに辞めていればと、今になって言うのは簡単なのだが・・・。

◎試合映像:クェジャル 6回KO フェンテス
2021年10月16日/カンクン
https://www.youtube.com/watch?v=GFjt61iPDM4

またまた、閑話休題。


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そんな挑戦者の実力はいかほどのものなのか。直前のオッズを見てみると、思いの外接近している。クェジャルの戦績がいいからだと考える他ないが、オーバー・レイテッドの気配が濃厚に漂う。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
中谷:-950(約1.11倍)
クェジャル:+540(6.4倍)

<2>betway
中谷:-1000(1.1倍)
クェジャル:+600(7倍)

<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/7(約1.14倍)
クェジャル:9/2(5.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
中谷:3/19(約1.16倍)
クェジャル:13/2(5.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

個人的な思いとしては、1-8ぐらいが妥当なセンではないかと。クジャルの武器で怖いのは、唯一左フックのみ。中途半端な間合いに留まって、打つかどうかの判断を躊躇する僅かな隙を突かれる恐れはある。

軽めの右のリードを待たれて、引き手の戻りに合わせた左をカウンターで食う可能性も皆無ではない。左ほどではないけれど、一定の距離が取れた時の右は、それなりのタイミングと切れ味が伴っていて侮れない。ないけれども、9割方王者の防衛は堅いと見るのが常道。

率直に申し上げて、ランク6位の現在地はメキシカン優遇のお家芸、「WBCあるある」の典型例にしか見えない。

総勢20名の大名行列(?)は、載冠への確信と手応えの現れだと、そう捉えても不思議はないけれど、チェポ・レイノソほどの海千山千が愛弟子の力量を見誤るとも思えず、「負けても失うものはない。無敗のレコードが途切れても、P4Pトップ10相手なら大きな傷にはならないし、善戦できればそれだけでも大成功」と


クェジャルはフィジカルの強度に恵まれているし、ハートの強さにも目立った不足はなく、経験もまずまず。ただし、頭と上体を振らない現代のボクサーに特有の傾向が明白で、打たれ(せ)ながら打つ耐久・消耗戦になりがち。

想定を超える苦闘を強いられた2人のメキシカン、フランシスコ・ロドリゲス・Jr.とアルヒ・コルテスの成功(?)は、チェポとクェジャルにとって大いに参考になっている筈。ガシャガシャの混戦に持ち込めたら、今をときめく中谷も無敵ではなくなると、陣営なりに突破口が見えたと考えているに違いない。

それこそが、逆に中谷にとって攻め込む糸口になると、確信に近い勝機を感じさせてくれる。注意して欲しいのは、アストロラビオ戦のように距離をはっきりさせること。

切った張ったのカウンター合戦になっても、ペッチに比べればリスクは低く、距離&間合いに関する判断(ケアレス)ミスと油断さえ無ければ、中盤までには倒し切れるし、倒し切って貰わないとトゥルキ長官と御大アラムが困ってしまう(?)。


◎中谷(27歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
WBCバンタム級(V2),WBO J・バンタム級(V1/返上).WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:29戦全勝(22KO)
世界戦通算:8戦全勝(7KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:173センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーパンチャー


◎クェジャル(23歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
戦績:28戦全勝(18KO)
アマ経歴:不明
身長:174センチ,リーチ:171センチ
右ボクサーファイター

公開計量を1発クリアしてポージングする両雄
※公開計量を1発クリアしてポージングする両雄/左端は中谷を今日に導いた功労者でチーフとして支えるルディ・エルナンデス

◎前日軽量


体温の低さと脈拍が多少気になるぐらいで、調子は悪くなさそう。クェジャルは中谷以上に減量がキツそうで、ここから何キロ戻す予定なのか・・・。

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■オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
スティーブ・モロウ(米/カリフォルニア州州)
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
リー・エブリィ(英/イングランド)

立会人(スーパーバイザー):ドゥウェイン・フォード(米/ネバダ州/NABF会長)

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 5 -

カテゴリ:
■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)



■フルトンに完敗・・・122ポンドでの復活に見切り

そして翌2021年の年明け早々、武漢ウィルスの感染症から回復したフルトンが満を持してレオにアタック。東部の要所フィラデルフィアの伝統を継承する”クール・ボーイ(Cool Boy Steph:フルトンのニックネーム)”は、秀逸なディフェンス・テクニックに加えて、レオの活路となる筈の接近戦でも容易に優位を譲らず、大差のユナニマウス・ディシジョンでゴールテープを切る。

公称されている身長は1センチしか違わない(フルトン:169/レオ:168)のに、計量の時点で明らかにフルトンが大きい。海外のボクサー(マネージャー)は、1インチ程度は平気でサバを読むことが多く、レオもその例に含まれるのかもと推察。そしてフルトンの申告は、案外正確なのかもしれないなと感じた。

当日のリング上で向かい合った両者を見比べると、少なく見積もっても一回りは違う。いかにも黒人らしい、柔らかく上質な筋肉をまとった厚みのある上半身に、スラリと伸びる長く細い下肢。どちらかと言えばズン胴で、東洋人に近い体型のレオが可哀そうになるくらい、フルトンは完璧なアスリートに見える。


レオも頑張って内懐に潜り込み、果敢にコンビネーションを繰り出してはいたが、クール・ボーイの本領とも言うべき、クリンチワーク込みの老獪なディフェンスに絡め取られるだけでなく、フィジカルの違いにも吸収されて、効果の大部分を殺がれてしまう。

まともに貰っているように見えるパンチでも、ほとんど効いていない。素早い見切りと反応が実現する絶妙なスリップ&ウィーブを軸に、上体を僅かに傾けて相手のパンチを流し、必要に応じて使う大きめのダックとボブにステップワークを組み合わせる。

ハイリスクな至近距離では、クリンチ&ホールドによる回避がメインにはなるが、堅実なブロック&カバーもサボらない。一流のプロが操るディフェンス・ワークの妙・・・これは安直にまとめ過ぎで、「言うは易し行うは難し」を象徴する技術&ハイ・センスと言い換えておく。

◎試合映像:フルトン 判定12R(3-0) レオ
2021年1月23日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)
オフィシャル・スコア:109-119×2,110-118×1
WBO世界J・フェザー級タイトルマッチ12回戦

※フルファイト(一部省略・抜粋)
https://www.youtube.com/watch?v=yWW0J8yPxIg

◎フルトン戦の前日計量


フルトンに完封を許し、唯一にして初の敗北を喫したレオは、5ヶ月開けて同じウェイトで再起。ルイス・ネリーといい勝負をやってのけたメキシコの中堅ローカル・トップ,アーロン・アラメダに粘られ、スコアが示す通り苦しい2-0判定勝ち。

◎試合映像:レオ 判定10R(2-0) アーロン・アラメダ(メキシコ)
2021年6月19日/トヨタ・センター(テキサス州ヒューストン)
オフィシャル・スコア:98-92,96-94,95-95
ref: Gregorio Alvarez Jesse Reyes Randy Russell Eva Zaragoza
S・バンタム級10回戦(レオ:122ポンド/アラメダ:123.5ポンド)
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=ZlGcFJR4Nuc

◎アラメダ戦の前日計量


フルトンとアラメダの2試合に共通していたのが、明白なサイズのディス・アドバンテージ。想像以上にフィジカルの違いを実感させられたフルトン戦に続き、公称168センチのレオは、170センチ(Boxrec現在:168)のアラメダと比べても一回り小さく映った。

さらにもう1つ、自分より大きな相手に対して真っ正直に打ち合いを挑み過ぎる。出入り(はいり)のボクシングなど、ハナからほとんど頭に無い。技術戦になったらおよそ勝ち目のないフルトンに対して、速攻突撃するのはまだわかる。

例えば王座統一を懸けてフルトン敗れるダニエル・ローマン(2022年4月)だが、なまじボクシングが出来るがゆえに、駆け引きに応じて中途半端にお見合いの時間を増やし、クール・ボーイの土俵でアリ地獄にハマり込んでしまった。

レオはジャブもフェイントもそこそこに、一気に距離を潰して回転の速さに注力した連打を振るう。放っておいてもフルトンがクリンチするから、ブレイクを待って同じやり方をリピートする。これはこれで、立派な作戦ではあった。

ただし、中に入って密着した後もフルトンに堅く守られ、自信を持っていた強打のコンビネーションもフィジカルの差で中和されてしまい、目論みが完全に外れてしまったのが最大の誤算。


アラメダについては、リミット丁度を計測して秤を降りたレオに対して、123.5ポンドで計量したアラメダとのウェイト・ハンディを考慮する必要はある。計量時点で1.5ポンドだった乖離が、リカバリーを経てどこまで拡がっていたのか。

メキシコの中堅どころは、例外なく攻防の基本をしっかり叩き込まれていて、タフでしぶとく簡単に試合を諦めない。侮ると痛い目に遭う。とは言っても、フルトンほどの上手さがアラメダにある筈もなく、丁寧な出入り(はいり)からの波状攻撃を選択すべきだったと今でも思う。

ステップをまったく踏まない訳ではないが、短い間を置く為に使うのみ。サイドからの揺さぶりは皆無と表して良く、細かくフェイントを入れながらタイミングと角度に変化を付ける工夫も見られない。

結局、正面に立ち続けて打ち合いを仕掛ける以外にやりようがなく、そうなるとレオの守りには小さからぬ綻びが生じる。ディスタンスの長短にかかわらず、アラメダ(サウスポー)の左を貰って右眼をブラック・アイにされるなど、いい場面を作り切れなかった。

Leo_Black_Eye

9歳の時から恩師チャベスと父ミゲルの指導を受け、ジュニア&ユース限定ながらもニューメキシコのローカル・トーナメントで好成績を残したレオは、好戦的でありながらも、相応に脚も使って無駄に打たせ(れ)ない、伝統的なメキシカン・スタイルを基本にする。

本来なら青タンになるほど打たれることはないし、フルトンにもここまで酷くはやられなかった。バランス&柔軟性を優先重視するフルトンは、そもそも踏ん張って打たないのに対して、ある程度の力みは仕方がないと割り切って強振するアラメダとの違いが、レオの顔の腫れになって現れた。

「勝ったんだからいいじゃないか。」

そうしたご指摘もあろうかと思う。しかし、これだけ消耗の激しい戦い方をしていたら、蓄積したダメージの影響で早晩引退に追い込まれかねない。何より心配されるのは眼疾だが、ロペスと同じ悲劇も当然懸念される。

幸運に恵まれ無事に現役を終えてホっと一息ついた後、重大な健康被害に苦しむケースも皆無ではない。

20世紀のトップボクサーたちは、その多くが打たせずに打つ上手いイン・ファイトをこなしていた。数が少なくなる一方の現代のファイターは、例外なくディフェンスが粗くなっている。無駄に打たれ過ぎていい事は1つもない。


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■長いレイ・オフと転級・・・新たな環境で再出発

王座転落後に生じた長い中断は、直接的にはパンデミックによるものだが、イベントを手掛けるプロモーションの対応のバラつきとも無縁ではなかった。

トップランクはラスベガスのMGMグランドの協力を得て、5千名収容のボールルーム内に小さな無観客用の会場(数百名規模)を準備して興行を継続。我らが井上尚弥も、ボブ・アラムが「The Bubble」と命名したボクシング専門の小ホールに馳せ参じて、マイケル・ダスマリナスを強烈なボディブローで一蹴。

1万人超の大観衆を前に晴れのラスベガス・デビューとはならなかったが、ESPNの生配信を81万8千人(ニールセンが公表したアベレージ/瞬間最高値も同じ)が視聴。同じく5月にESPNが配信したジョシュ・テーラー vs ホセ・ラミレスのS・ライト級統一戦が記録した130万人(平均/第1位)に次ぐ堂々の第2位で、同日ヒューストンのトヨタ・センターで行われたジャーモール・チャーロ vs ファン・M・モンティエル戦(有観客)の33万3千(平均/瞬間最高:37万9千)を圧倒した。

マッチルームのボクシング部門を率いるエディ・ハーンも、ロンドン北部ブレントウッド(ウェンブリー・スタジアムとアリーナが有名)にある広大な自宅敷地内に、無観客を前提にした屋外リングを仮設。「HQガーデン」と名付けて、2020年8月に4回、2021年7月~8月にかけて3回の計7回興行を打っている。


メイウェザー一家はと言うと、予定していた興行を原則すべて中止にして、相当数の支配下選手を放逐する現実的な手段を講じた。レオも契約を打ち切られた中の1人だった。

「焦りはあった。この先どうなるのかって不安にもなった。でも、世界中のありとあらゆる人たちが、出口の見えない状況で苦しんでいる。そこはもう割り切るしかない。コンディションの維持に集中するしかなかった。」

天は自ら助くる者を助く。捨てる神あれば拾う神ありで、フロリダで成功した実業家ゲイリー(ギャリー,ガリー)・ジョーンズから声がかかる。

Garry Jones 2021-04
※ゲイリー・ジョーンズ(2021年4月)

フロリダのゲイリー・ジョーンズと言えば、2011年から12年にかけて、アクエンティ・スポーツ(Acquinity Sports)という興行&マネージメント企業のCEOに収まり、ボクシング界に参入した人物である。

自前の配信サービスも視野に入れて、新たなWEBサービスの開発と提供にも熱心に取り組んでいたのだが、アドレスを取得したユーザーに対して、無料のギフトカードを添付した大量のスパムメールを送りつけた上に、架空請求を目的とした詐欺サイトに誘導した嫌疑をかけられ、FTC(Federal Trada Commission/連邦取引委員会:米国の公取)から告発されてしまう。

対象となったのは、アクエンティ・スポーツを含む詐欺行為に関連した3つの企業で、総額1千万ドルの罰金を科せられた。ジョーンズは興行&マネージメント会社を休眠させると、以前から口説いていたマイク・タイソンを遂に担ぎ出し、「アイアン・マイク・プロダクションズ(新しいプロモーション)」を立ち上げる。

会社名義の口座と金庫はスッカラカンになったが、引き継ぐことができた人的資源(実働部隊)を現場で指揮していたのは、2008年頃から同じフロリダを地盤に活動していたヘンリー・リヴァルタというプロモーターで、ジョーンズとリヴァルタは罪に問われずに済んだらしい。

Team Iron_Mike
※左から:マイク・タイソン,ヘンリー・リヴァルタ,ゲイリー・ジョーンズ

悪質極まる犯罪行為に一切関わっていなかったのか、あるいはジョーンズとアクエンティ・スポーツも騙された側だったのか。この辺りは時間の都合で詳しく調べることができず、つまびらかな経緯と正確な結末についてはよくわからない。

プロモーターとボクシング・ビジネスをまったく信用していないタイソンを、よくもまあ引っ張り出せたものだと感心するが、その一方で「どうしてわざわざタイソンと・・・」と間逆の声が多数派だったとも記憶する。

ジョーンズによれば、各地で開催したプレ・イベントでのタイソンは、遅刻やすっぽかしも無くきちんと出席して、サイン会でもファンが最後の1人になるまで丁寧に対応した上、舞台裏で汗を流すスタッフへの気遣いを忘れず、「事前の心配事はすべて杞憂だった。マイクは常識をわきまえた真っ当なビジネスマンだ」と満点の評価を述べていたが、やはりと言うべきか、タイソンとジョーンズはすぐにソリが合わなくなり、程なくして活動停止に追い込まれた。


折りしも米国ボクシング界は、オスカー・デラ・ホーヤの右腕リチャード・シェーファーの造反と主力選手の大量離脱で騒然としていた。中核を担うウェルター級のランカーを始めとする数十名規模を受け入れたのが、メイウェザーのマネージメントで業界に隠然たる影響力を行使するようになり、影の大物と呼ばれていたアル・ヘイモン。

どの選手もゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(以下GBP)との契約満了に合わせて、順次PBC(Premier Boxing Champions)との複数年契約を結んで行く。法的には何1つ問題はないが、あらかじめこの時を見据えて、母国スイスの一流銀行家だったシェーファーが、用意周到に計画した前代未聞の大規模な引き抜き工作である。

その為シェーファーは、あらかじめ目を付けた主力級を、1人残らずアル・ヘイモンとのマネージメント契約にサインさせていた。

飛ぶ鳥を落とすかのごとく、数年の間に全米最大規模に急成長したGBPは、一気に経営危機まで囁かれるなど窮地に陥る。急拡大したヘイモン一派に対抗する為、トップランクが一肌脱ぐ。パッキャオとドネアの争奪戦を繰り広げるなど、訴訟を繰り返して冷戦と呼ばれるほど対立が激化していたデラ・ホーヤとボブ・アラムが、急転直タッグを組み共闘路線に転換する。

「アラム+デラ・ホーヤ連合軍 vs ヘイモン一派」の抗争勃発は、タイソンとジョーンズの内輪揉めをいとも容易く吹き飛ばし、ジョーンズは完全に蚊帳の外へと追いやられた。


時を同じくして音楽業界から参入して来た50centは、ビジネス・パートナーとして信頼していた”マブダチ”のフロイド・メイウェザーと仲違いし、自らのセックス・スキャンダルが原因で自己破産(計画的)。具体的に動き出す前に急停止してしまい、音楽ビジネスに精を出す必要に迫られた。

ラッパーとして50cent以上の成功を手にした他、スポーツ・バーのプロデュースやファッション・デザインにも手を伸ばし、ビヨンセのパートナーとなり、NBAとNFLを中心にしたスポーツ・マネージメントでも大きな成果を残したジェイ・Zも、ロック・ネイションの名前を冠したボクシング・プロモーションを立ち上げている。

ところが、カネロ vs ミゲル・コット,アンドレ・ウォード vs セルゲイ・コヴァレフ第1戦,ロマチェンコ vs リゴンドウ戦を共催したまでは良かったが、他に目ぼしいイベントが無く、2017年以降活動休止状態となり、武漢ウィルス禍を契機にして2020年にボクシング興行から撤退。


ただしジェイ・Zは、スポーツマネージメント参入の最大の動機になったNBAとMLB、NFL,MLS(デヴィッド・ベッカムの加入で遂に全米の認知を得たサッカー)にラグビーを加えた5つのメジャー競技で、総勢100名を超える選手をハンドリング中。

マルチに才能を発揮するジェイ・Zの眼には、ビジネスとしてのボクシングは将来性と魅力に乏しい、典型的な斜陽産業と映ったらしく、投資の回収は難しいとの結論に至った模様。


アル・ヘイモンも80年代に音楽プロデューサーとして一家を成した人で、エントランス(入場)のBGMや演出等に関する様々な相談を受けたのが、ボクシング興行に関心を持つきっかけだったらしい。

HBOで長く副社長を務めたケリー・デイヴィスも音楽業界からの転入組みで、芸能界とボクシング界の腐れ縁は、洋の東西と時代の別を問わない。

以前から噂が出ては立ち消えを繰り返してはいたものの、2大ケーブル局のHBO(2018年末)とShowtime(2023年末)が遂にボクシング中継から完全に手を引き、カネロとの超大型契約で全世界を驚かせたDAZNも、パンデミックの影響が大きかったとは言え、ボクシングの配信は必ずしも堅調とは言い難い。

ヘイモン率いるPBCは、Showtimeの中継終了に伴い、amazon primeとの複数年契約を発表。トップランク=ESPN,GBP・マッチルーム=DAZNという具合に、一応の棲み分けは出来ている。


こうして、どちらかと言えば、先行きについて明るい話題がほとんど聞かれない2019年~2021年にかけて、ヘンリー・リヴァルタとゲイリー・ジョーンズがボクシング界に復帰してきた。

先に行動を開始したのはリヴァルタで、自身の名前を冠した興行会社(Rivalta Boxing)を興し、フロリダ州ACのライセンス認可を受けて、2019年3月から興行を再開。

フロリダ州内にオフィスを置くUSAテレムンド(スペイン語の配信プラットフォーム)や、「TikTok」の対抗馬として発足し、「タイソン vs ロイ・ジョーンズ」の実現に一役買ったトリラーTV(Triller TV)で配信も行ったが、パンデミックの襲来と時期が重なり、昨年までは年1回ペースの開催に止まっている。


片やジョーンズだが、とてつもない初期投資を行い、万全の態勢を敷いてのリスタート。ハリウッドから映像製作のプロフェッショナルをプロダクションごと買い取り、「ProBox TV」と名付けた配信プラットフォームをiOSとスマホ向けのアプリ込みで開発しただけでなく、ニュースサイトとして「Boxing Scene」を買収。

公式サイトと公式SNS、youtubeの公式チャンネルの準備はもとより、配信のメイン解説には、アナリストとして一定の評価を確立したポーリー・マリナッジ(140ポンドの元王者)を配して、2021年5月からライヴ配信(興行)をスタートさせた。

フロリダ出身のロイ・ジョーンズとアントニオ・ターバー(現役時代はライバル)、全米のボクシング興行を支える集客基盤に成長したヒスパニック(メキシコ)系コミュニティの顔としてファン・マヌエル・マルケスを招聘。解説に華を添えつつ、サブスクの登録ユーザー獲得にまい進(月額1.99ドルに価格設定)。



肝心要のライヴ配信プログラムは、「Contenders(コンテンダーズ)」と銘打ったシリーズを柱に、プロスペクトの発掘を目的にした「Future Stars(フューチャー・スターズ)」と題したイベントに、タイトルマッチとビッグ・ファイトを単発で打つ標準的な構成。

パンデミックがようやく落ち着きを見せ始めた2022年以降、ほぼ毎月1回の配信(興行も開催)を続けて、今年の7月以降は月2回ペースに拡大。ライヴ配信済みのイベントはアーカイヴとして残し、youtube公式チャンネルと公式サイトの両方(当然アプリも可)で無料視聴できる。


フロリダとも縁の深いプエルトリコ,ドミニカの選手を手掛けるミゲル・コットのプロモーションと正式に提携した他、ESPN(トップランク)とDAZN(マッチルーム&GBP),amazon prime(PBC)とも積極的に協調を図り、プレス・カンファレンスと計量,興行全体のハイライト限定ではあるが、カネロ vs バーランガ,ジャーボンティ・ディヴィス vs フランク・マーティンなど、わざわざ放映権を買って、上乗せ無しの月額1.99ドルの範囲内で無料公開する大判振る舞い。

ジムでの様子を含む舞台裏を捉えたドキュメンタリーなど、先行するESPN,DAZN,amazon primeに引けを取らないコンテンツ製作にも注力。


※業務提携の発表会見(2022年7月20日)/左から:ミゲル・コット,ファン・M・マルケス,エクトル・ソト(ミゲル・コット・プロモーションズ副社長)


今はとにかくコンテンツの充実に全振りしていて、コットも自ら手掛ける興行の放映権を提供するとの内容だった。従って、現在ProBoxが支配下選手として完全に掌握しているボクサーは、「Future Stars(フューチャー・スターズ)」の中軸になる若手数名のみのようだ。

メイン・コンテンツの「Contenders(コンテンダーズ)」は、月1~2回の定期放送「Wednesday Night Fights」と、不定期の「Live on ProboxTV(単発のタイトルマッチ)」の2本立てになっていて、ニコラス・ウォルタース,ジョセフ・アドルノ,サリヴァン・バレラらのオールドタイマーを起用。

新興のプロモーションには定石とも言うべき手法だが、彼らの全員と直接契約を結んだのかどうかはよくわからない。折角獲得したアンジェロ・レオを、敢えて複数試合契約を交わしてトップランクに任せる現実的な方法を採った。既存プロモーターとの共同保有を基本にしているように見受ける。

ヴェナード・ロペス vs レオのタイトルマッチは、ESPNから権利を買うことができず、「ProBox TV」での配信は出来なかった。レオが安定政権を築く公算は、ただ今のところは希少と言わざるを得ない。今後予定される防衛戦の配信については、今一度トップランクを通じてESPNと話し合うつもりではいるだろうが、望み通りの回答を引き出すのは難しいだろう。

トップランクとの契約満了まで持たず、レオが丸腰になって戻って来ることになっても、それでもジョーンズはマイナスとは考えていない筈だ。

Leminoが配信した井上尚弥の試合映像(日本国内開催/フルファイト)が、トップランク公式チャンネルのアーカイヴに載るまで1年かかっている。そこまで待たされることは無いと思いたいが、ESPNが配信するレオの試合映像もいずれOKが出て、ProBox TVのアーカイヴに載る可能性はあると思う。

ちなみに「Wednesday Night Fights」のネーミングは、ESPNの長寿看板番組だった「Friday Night Fights」に由来するが、大元を辿ると、1948年から1960年までのおよそ12年間、CBSとABCが中継を行ったボクシング番組の名称そのもので、筋金入りのマニアたちの心理をくすぐる効果も狙ったのは明々白々。


サブスクの登録ユーザーが増えて、経営が軌道に乗るまでの間は、若くてバリバリに元気なチャンピオンとランカークラスの獲得(直接保有とプロモート)はお預けといったところか。という訳で、今後も勝ち続ける前提にはなるが、レオのプロモートは引き続きトップランクが仕切る。


※Part 6(Final Chapter)へ


◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 4 -

カテゴリ:
■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Leo

快心の左フックで世界チャンピオンに返り咲き、2つ目の階級で息を吹き返したレオ。クラスNo.1と目され、7月までのリング誌階級別ランキングでも2位(1位はS・フェザー級初戦を待つリー・ウッド)に付けていたロペスに勝ち、8月末の更新で入れ替わりの2位に上昇はしたものの、絶対的な存在では有り得ない。

◎リング誌フェザー級ランキング(9月7日更新:8月31日更新時に同じ)
https://www.ringtv.com/ratings/?weightclass=283
C:空位
1位:リー・ウッド(英/元WBA王者)※
2位:アンジェロ・レオ(米/IBF王者)
3位:レイ・バルガス(メキシコ/WBC王者)
4位:ニック・ボール(英/WBA王者)
5位:ルイス・A・ロペス(メキシコ/前IBF王者)
6位:ラファエル・エスピノサ(メキシコ/WBO王者)
7位:ブランドン・フィゲロア(米/WBC暫定王者)
8位:レイモンド・フォード(米/前WBA王者)※
9位:ロベイシー・ラミレス(キューバ/前WBO王者)
10位:ジョシュ・ウォーリントン(英/元IBF王者)
※130ポンドへの転出を表明済みのウッドとフォードの名前が消えないのは、まだ新たな階級で戦っていない為。S・フェザー級での初陣を終えた時点で、リング誌のランキング・ボードはフェザー級での投票を止める。


チーフ・トレーナーとして今もコーナーを支え続ける実父ミゲル・レオによって、9歳の頃からボクシングを叩き込まれた親子鷹。父ミゲルが愛息アンジェロに託した当初の夢と希望は、サッカー選手としての成功だったという。

「El Chinito(中国系/小さい・幼い・可愛いのニュアンスを含む)」のニックネームは、父方の曽祖父が中国からの移民だったことに由来する。

アンジェロとミゲル:レオ親子

フットボールよりもボクシングに興味を示したアンジェロを、父ミゲルは地域のコミュニティ・センターへ連れて行き、そこで教えていたベテラン・コーチ,ルイス・チャベスにヘルプを依頼し、本格的な指導育成に取り掛かった。

77歳になるチャベスは、レオの一家と同じくメキシコ系の移民で、アルバカーキを代表するボクシング・ヒーロー,ジョニー・タピアと激しいライバル争いを繰り広げ、ホームタウンの人気を二分した”キッド・ダイナマイト”ことダニー・ロメロのチーム・メンバーだった他、キャリア最終盤のタピアを破ったフランキー・アーチュレッタやリー・モントーヤら、同地出身の有望株を鍛えた筋金入りのトレーナー。

レオにとっては、一般的に言われるトレーナー,セコンド(いつでも交代変更が可能なアシスタントやカットマン)ではなく、メンター的存在と表すべきだろう。


「世界チャンピオンになりたい。」

10歳になったばかりのアンジェロ少年に、「オリンピックのメダルとプロのチャンピオンベルト。欲しいのはどっちだい?」と優しく尋ねるチャベス。幼かったチニートは、キラキラと瞳を輝せて答えたという。

「ボクシングのプロとアマはまったく別の競技と考えるべきで、トレーニングの内容も自ずと変わる。だから私は最初に聞くんだ」と、チャベスは地元紙のインタビュー等で語っていた。

レオが実際に憧れていたアイドルは、ロベルト・デュラン,シュガー・レイ・レナード,マイケル・カルバハルにマルコ・アントニオ・バレラだったそうで、それでもレオはこの類の質問に対して、ダニー・ロメロを加えることをけっして忘れない。

team Leo
※チーム・レオ/左から:ルイス・チャベス/アンジェロ・レオ/ミゲル・レオ(実父/チーフ)/ジョナサン・バルゲイム(ベルゲイム,バルガメ,ベルガメ等々カナ表記は様々/アシスタント:MMA選手のコーチとして地元では有名らしい)


プロの世界王者を夢見て・・・とは言え、9~10歳の子供が上がるリングはアマチュアの幼年クラスに限られる。アメリカのアマは年齢(2歳ごと)ごとに細かくクラス分けされていて、それぞれの年齢クラスに合わせて専門の指導者が付くが、チャベスはアンジェロ少年を初めから「プロ仕様」で育てた。

ニューメキシコのローカル・トーナメントでまずまずの成績を残し、中学の卒業を機に父ミゲルの指示で、アルバカーキに比べて格段に軽量級の競技人口が豊富なカリフォルニアに移る。ロサンゼルスの高校に通いながら、シニアに進んでロンドン五輪出場を目指すも、全国規模のトーナメントで思ったように結果を残せず、2012年11月に18歳でプロデビュー。

代表チームに召集されなかったレオに大手プロモーションからのスカウトは無く、レストランでアルバイト(ホールや厨房の手伝い)をしながら、タピアと人生をともにしたテレサ夫人が代表を努めるタピアズ・プロモーションズ(Tapias Promotion)など、ニューメキシコのローカル・プロモーションが手掛ける興行で下積みを開始。

最初に下したチャベスの判断が適切だったのかどうか、この点は賛否色々あると思う。「アマチュアのスタイルで長くやり過ぎると、プロに進んだ後で苦労する」と考えるトレーナーは、王国アメリカでも案外少なくない。

ルールを含むプロとアマの競技実態の乖離が拡大し出すのは、ヘッドギアの着用が義務付けられた1984年のロサンゼルス大会(旧ソ連・共産圏諸国がボイコット:モスクワ五輪の報復措置)だった。

この大会を頂点にして、五輪と世界選手権でアメリカは急速に勝てなくなって行くが、体格と身体能力に恵まれた優秀な黒人の若者が4大スポーツや陸上などのメジャースポーツを目指せるようになり、基本的な人材不足,人材の枯渇が最大にして根源的な原因(特に重量級)ではある。

競技人口に占める優れた素質の現象に加えて、階級に関係なく最終的な目標をプロでの(経済的)成功に置く、米国に特に顕著な背景と風土の影響も無視できない。年を追うごとに苦しくなる状況にあってなお、まだまだ選手層が厚い中量級に比べて、もともと黒人と白人が少ない軽量級は、メキシコとプエルトリコを中心にしたヒスパニック系移民が選手の供給源として定着。

ヘビー級と中量級のスケールに遥か遠く及ばないのはしようがないにしても、アメリカン・ドリームへの欲求は常に高く、アマの国際ルールに特化したスタイルと指導に取り組むコーチと選手は、ロシアとキューバの2トップを頂く旧共産圏と欧州に比べれば、その割合(数)は限定的(少数派)と言わざるを得ない。

長い歴史と伝統を誇るナショナル・ゴールデン・グローブスと全米選手権(旧AAUトーナメント)、ナショナルPALの米国内3大トーナメントでの実績があれば、五輪と世界選手権に出られなくても、大きなプロモーションから好条件のスカウトが望める。

プロの世界王者を目指して練習を続けて、運良く代表チーム入りが叶い、大きな国際大会に派遣されて勝ち上がれなくても仕方がないと割り切れてしまう。


デビュー後に連勝を続けて、有力プロモーションの目に止まる場合も勿論あって、レオにもチャンスが訪れた。2016年の1年間、ルーツのメキシコ国内で3連勝(全KO)を飾った後、1年超のブランク期間中にメイウェザー・プロモーションズと正式に契約。

フロイド・メイウェザーとレオ

ただし、アマチュアで目立った戦果を持たないレオに、中継(配信)の枠に入るカードはそう簡単に用意されない。メイウェザー一家のジムがあるラスベガスに移らず、アルバカーキを拠点にし続けたことも、まったく影響が無かったとは言えないだろう。

2017年11月の6回戦から2019年5月の初10回戦まで、中継に含まれない完全な前座で7試合をこなすと、六島ジムと契約して2012年~18年まで日本で戦ったマーク・ジョン・ヤップ(比/元OPBFバンタム級王者)戦が、ようやくメイウェザー・プロモーションズの公式facebookで配信された(他にも2~3試合を同プロモーションの公式youtube等で不定期に配信)。

一般のローカル・ボクサーや海外から移住してきた無名選手と同じプロセスを経て、ヤップ戦から3ヶ月後の更新でWBOランキング入り(9月度月例:14位)。

続く10月の月例で、スティーブン・フルトンが8位に登場。3~7位の5人をすっ飛ばして、2位に上昇したアーノルド・ケガイ(ウクライナ)とのエリミネーターが用意される運びになった。

参戦8試合目にして、レオはようやくPBC(Premier Boxing Champions)の中継枠に入る。2度の世界挑戦経験を持つセサール・ファレスを11回TKOに下し、NABO(WBO直轄の北米王座)のベルトを獲得。この勝利により、翌2020年1月の月例でWBO1位に大躍進。

近い将来の王者と見込まれるホープに課せられた、正真正銘タフなテストマッチ。本場のリングでは(本来なら日本でもどの国でも)、避けて通る事のできないプロとしての通過儀礼であり、この関所を突破せずして次のステージは有り得ない。

◎試合映像:レオ TKO11R C・ファレス
2019年12月28日/ステート・ファーム・アリーナ(ジョージア州アトランタ)
オフィシャル・スコア:99-89,97-91,96-92
北米(NABO/WBO)J・フェザー級王座決定12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=zGfZbkJSQYo


ところが、1月25日にブルックリンの新名所バークレイズ・センター(N.Y.)でフルトンがケガイに圧勝(大差の3-0判定)。2月の月例更新に合わせて、指名挑戦権を獲得したフルトンが1位になり、レオは2位に後退する。

そしてパンデミックの急拡大に伴い、WBOは2020年3月~7月までランキングの更新を停止。武漢ウィルス禍による最大の被害国となったアメリカは、それでも州の独立性を重んじる国家体制は不変。経済の停滞に対する許容の度合いは、州ごとに対応がバラつく。禁忌とされた音楽とスポーツイベントも、無観客での開催を減速にしながらも、一定数の客を入れた開催を許可する州もあった。

厳しい制限下にあってなお、ボクシング興行にも少しづつ動きが出始め、WBOがフルトンとレオに承認済みの王座決定戦(S・フェザーへの階級アップを理由にエマニュエル・ナバレッテが放棄)が、自粛明けのPBC興行第1弾に組み込まれる。

ところが、本番直前のPCR検査でフルトンがCovid-19の陽性が判明。開催地コネチカット州出身のアマ・エリート,トラメイン・ウィリアムズ(19勝6KO1NC/アマ通算:97勝10敗)が急遽代役に呼ばれることに。


プロ入りに際してトップランクと5年の長期契約を結んだ小柄な黒人サウスポー(公称163センチ)は、2014年1月23日に参戦を予定していたMSG興行の2日前に、武装強盗に加わった疑いで逮捕収監され、無実を訴え続けたが有罪が確定。2年半の実刑に処された。

幼少期から指導を受けたコーチ、ブライアン・クラークら周囲の尽力とウィリアムズ本人の努力により、1年に短縮された刑期を終えて仮釈放されると、Jay-Z(著名なラッパー,音楽プロデューサー/ビヨンセのパートナー)が出資した新興プロモーション,ロック・ネイション・スポーツの傘下に迎えられ、キャリアをリスタート。

カリフォルニアの元プロスペクト.クリストファー・マーティン、大ベテランのメキシカン,へルマン・マレス、L・フライ級の元WBA暫定王者で、井岡一翔やミラン・メリンドと対戦した他、階級を上げてジェルウィン・アンカハスに挑戦したり、アストン・パリクテにも敗れたホセ・ロドリゲス(メキシコ)、ドミニカのローカル・トップ,イェニフェル・ビセンテらを破って復調。千載一遇のチャンスを得た。


ナバレッテの後継王者と目されていたのは無論フルトンで、2位のレオと6位のピンチヒッターへの期待値は正直なところ低かったが、サイズで上回るレオのプレスが利いて、待機型で駆け引き重視のウィリアムズに大差の3-0判定勝ち。宿願だった世界タイトルに辿り着く。

◎試合映像:レオ 判定12R(3-0) T・ウィリアムズ
2020年8月1日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)
オフィシャル・スコア:118-110×2,117-111×1
WBO世界J・フェザー級王座決定12回戦


ウィリアムズも地元ファンの声援を背に良く頑張ったが、「マイティ・ミゼット(The Mighty Midget)」の二つ名を、この時ほど重く辛く感じたことは無かったのではないか。その後もフェザーに留まっていたが、昨年4月の復帰2戦目で、オクラホマの黒人ホープ,イライジャ・ピアース(27歳/20勝16KO2敗)に10回0-3判定負け。

公称173センチのピアースはやはり大きく、レオ戦よりもさらに体格差が際立つ。ウィリアムズは二回りぐらい小さくて、身体負けが顕著だった。ただ、ピアースにも「おおっ!」と思わず感嘆せずにいられないパンチや手足の速さ,身のこなしなど、強く人目を惹き付ける特徴は見当たらず、地域王座の突破に四苦八苦するローカル・トップが精一杯か(失礼)。

世界に打って出ようというボクサーなら、ローカルレベルにおけるこの程度の体格差は、さほど苦労せずに克服しないと先はどんどん細り厳しくなる一方。日本がベルトを独占(あくまで今のところ)するバンタムに下げても、4強+1(天心)の攻略は極めて難しい。

115ポンドのS・フライ級まで絞ってコンディションの維持が可能なら、かなりの明るさで雲間から光明が射すと思う。それでもなお、黒い雲は完全に胡散無償しないだろう。

ピアース戦以降実戦から遠ざかっていたが、「Team Combat League(TCL:チーム・コンバット・リーグ)」という、全米各州コミッションが未承認(非公認)のボクシング興行に参戦。米本土でDaznの配信リストに載っているだけでなく、日本国内でも物好きなAbemaが食い付いているが、コミッション非公認の草興行であることに変わりはない。

そして、レコードブックに掲載されることのない戦いを選択したウィリアムズの身に、不測の事態が発生してしまった。この一件については、別記事にて後日あらためて触れる予定。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 3 -

カテゴリ:
■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Vansdo

ボクサーとして致命的とも思える事実が判明してもなお、早々に復帰宣言済みのロペス。半年後(来年の早春)に予定される再検診の結果(主治医の所見)次第にはなるが、今後の展望はやはり不透明と言わざるを得ない。

最初の章で指摘した通り、ライセンス許可に関わる健康面の問題ではなく(MRIをクリアすればメキシコ国内での再起は既に認められたも同然)、純粋にロペスのマネージメントに起因するもので、2人いる共同マネージャーの1人、エクトル・フェルナンデスが否定的な見解を示している。

「大概のプロモーターは、レコードに大きなキズが付いたボクサーを使いたがらない。仕方のないことだが、(ファンの)誰もが完璧な戦績を求め、完璧なファイターを望む。」

「まずは、半年待ってMRIの再検査を受けること。担当の医師がOKするまで、彼をリングに上げることは無い。どんなオファーが来ても断るつもりだと、彼とチームには伝えてある。」

「経済的な問題は重要だが、命には代えられない。我々(マネージャーとチーフ・トレーナー)は、預かっているボクサーのキャリアを進めるのと同時に、彼らを命の危険から守る義務も負っている。」

「負ける覚悟なら出来ている。毎度のことだ。でも、今度の事は余りに酷過ぎる。本当に受け入れ難い。それが誰だろうと、こんなことがあってはならない。」

venado_manager
※ロペスとエクトル・フェルナンデス・デ・コルドバ(共同マネージャー)


※左から:ロペス/ルイス・ネリー/”キキ”の愛称で呼ばれるルイス・エンリケ・マガーニャ(共同マネージャー)

激しいフィジカルの接触が不可避なコンタクト・スポーツは、たった一度のアクシデントによって、競技人生を根こそぎ奪われるリスクを常に孕んでいる。その危険性と発生の確率等々、科学と医学の進歩に合わせて、終わりのないルールの整備と改訂は続く。

レフェリングやコーチングは勿論のこと、日々のトレーニング・メニューから用具の1つ1つに至るまで、新しい技術や理論も採り入れながら、日夜改善への努力も継続されるけれど、それでも事故を根絶することはできない。

中でも恐ろしいのは、首(頚椎)と腰(脊髄)へのダメージであり、膝や足首などの関節に関わる部分の故障だが、人間の急所(頭部と上半身の前面)を直接殴打し合うボクシングは、脳と眼に取り返しのつかない損傷を負う可能性を前提に戦うという点で突出している。

顕著な障害を伴う重大事故に遭わずに済んでも、引退後に言語障害や眼疾を発症したり、運動機能に支障をきたすなど、現役時代に蓄積したダメージが後になって顕在化する場合も珍しくない。

幸運にも軽い程度で済み、日常生活に支障をきたしていない今だからこそ、現役に見切りを着けるべきとの忠告は傾聴に値するが、「辞めたくても辞められない。それがボクシングの一番の恐ろしさ」だと、2度の世界大戦に見舞われた大昔から、連綿と言われ続けてきた。


古くなって傷んだ各地にあるモスクの修復と、建て替え・新設をライフワークの1つにしていたモハメッド・アリは、資金を得る為に周囲の制止を振り切って無謀な復帰戦を行い、宿痾となったパーキンソン病を悪化させ、四肢と言葉の自由を失ってしまう。

アリは40年近く病魔と闘いながら、事情が許す限り公の場にも姿を見せて、多くの人々に笑顔と安息を与え続けたが、2016年6月3日に入院していたアリゾナ州内の病院で天に召された。

今や世界有数のトレーナーとして知られるフレディ・ローチも、選手としてキャリアの最晩年を迎えたある時期、強固に引退を主張して譲らない恩師エディ・ファッチの下を去る。他のトレーナーと契約して現役を続け、アリほど症状は深刻ではないが、同じ病に悩み苦しむ運命を背負うことに。

「エディの忠告通りすぐに辞めていたら、こうはならずに済んだかもと思うことはある。自分はまだやれると信じていたから、どうしても素直になれなかった。あの時辞めていても、結局は同じ事になったかもしれないが、エディと別れた後にやった4~5試合は、きっと余計だったんだろう。」


開頭手術を受けたことが判明しただけでなく、致命的な敗北を喫したにも拘らず、その後も現役を続けてチャンスを得られ続けたマルコ・アントニオ・バレラのようには行かないかもしれないが、今回のKO負けによって、ロペスの商品価値が完全に消失した訳ではない。

ネバダかカリフォルニア、もしくはテキサスでライセンスが認められれば、トップランクはこれまで通りロペスを興行に呼ぶだろう。そして内容と結果が思わしくないと判断されても、同じか近い階級にいる子飼いのプロスペクトの踏み台としての用途は残る。

そこでドヘニーのように一定の成果を上げれば、一発逆転の目がゼロではないけれど、大体はボロボロにされてジ・エンド。骨の髄までプロモーターにしゃぶり尽くされて、ようやくお払い箱。


カス・ダマトがドン・キングを蛇蝎のごとく忌み嫌い、ボブ・アラムを「北半球で最もダーティな男」と口を極めて罵り、「ワシの目が黒いうちは、大切なマイク(タイソン)をヤツらのいいようには絶対にさせない」と、天下の2大プロモーターを忌避し続けた気持ちもわからなくはない。

だが、政治力と資金力を併せ持つ興行師が、プロボクシングの世界にどうしても必要な存在であることも現実。複数年に渡る独占的な専属契約を結ぶかどうかは、1歩間違えれば飼い殺しにされるリスクを天秤にかけた上で、冷静な観察と熟慮が必須になる。

それでもなお、腕と目が利いて交渉力があり、多くの人たちと協調しながら、目的達成の為にハードワークを厭わないプロモーターのバックアップは、ボクサーが持てる才能に相応しい環境と運を引き寄せる為に、信頼できるチーフ・トレーナー(チーム・リーダー)とともに欠かすことができない。

凄絶なノックアウトで丸腰にされ、脳出血が判明したロペスに対して、「お前はもう用無しだ。五体満足でいられるうちに辞めるのが賢明」なのだと、冷たく三行半を突き付きけたのではなく、プロボクシングの裏も表も総てをひっくるめてた、ベテラン・マネージャーの換言なのだと受け止めておきたい。

Orijinal Team Lopez
※チーム・ロペス/左から:アルマンド・バレンスエラ(共同トレーナー)/ロペス/ラファエル・ロハス・エレラ(フィジカル・コーチ)/ファン・ベタンコート(共同トレーナー)
※今回ヘッドの重責を任されていたのはベタンコートではなくバレンスエラ

ESPN(スペイン語による配信)のインタビューを受けた際、「(予期せぬ結果に)さそがし驚いたのではいか?」と聞かれ、フェルナンデスは次の通り答えたという。

「ボクシングや格闘技のバックボーンを一切持たず、ストリート・ファイトの経験しか無いサッカーに熱中するだけの青年が、二十歳を過ぎてからジムに通い出してプロになり、誰も想像すらしなかった世界チャンピオンになって3度もベルトを防衛した。こちらの方が、私に取っては遥かに大きな驚きだよ。」

「既にヴェナードがやり遂げた成功は、それ自体が奇跡的と称されるべきだ。」

イタリア系の売れない一俳優に過ぎなかったシルヴェスター・スタローンがインスピレーションを受け、大ヒットを飛ばして人生を一変させた映画「ロッキー」のモチーフにした、チャック・ウェプナーとタメを張れるぐらいのサクセス・ストーリー。フェルナンデスが言いたかったのは、多分そうした類の逸話に違いない。

だから「もう充分じゃないか」と、そちらの方向に誘導するつもりでは無いと思うけれど、検査結果を聞いたフェルナンデスが受けた衝撃は、それほど重く厳しいものだった。

そしてマネージャーのフェルナンデスは、アシスタントの1人として自らも必ずコーナーに入る。おそらく毎試合、欠かさしていないと思う。

カウントアウトの直後、ノンビリ歩きながら問診に向かうドクターと役員と思しきスーツ姿の男性2名が、ダメージの深いロペスが誰の力も借りずに1人で立ち上がり(!)、彼らが持参した椅子に自力で座るのを待つ(!!)その脇を疾風のごとく駆け寄って、前のめりに再び倒れそうになったロペスの身体を大急ぎで抱えていたのもフェルナンデスだった。







レフェリーのアーニー・シェリフだけでなく、ニューメキシコの試合運営の酷さとリングドクターの非常識には驚き呆れるばかり。ロペスは是が非でもレオにリベンジしたいだろうが、来春希望通りに再起が叶い、米国内でライセンスを認可されても、二度とニューメキシコ州内で戦うべきではない。

レオ陣営がアウェイでやる訳がない?。どうだろう。ロペスの再起について可否が判明する頃、IBFのチャンピオンが交代している確率は結構高いと思うのだが・・・?。


Kay Koroma
※ケイ・コロマ(シャクール・スティーブンソンのチーフ・トレーナー)とロペス

ロペスのチームは非常に大所帯で、マネージャーとヘッド格のトレーナーがそれぞれ2人づついて、さらに数名のアシスタントが常に帯同してトレーニングを行う。

普段は地元メヒカリにある老舗ジム(Gimnasio Polideportivo/ヒムナシオ・ポリデポルティーヴォ:総合型のスポーツ・センター)で日常的なジムワークを行っているが、2023年5月のマイケル・コンラン戦に備えて、シャクールやジャレット・ハード,ミカエラ・メイヤー(最近離反した)らのコーナーを歴任し、長くアマチュアの米国ナショナル・チームをサポートしてきたケイ・コロマの指導も仰ぐようになった。

ただし、コロマの本拠地があるヴァージニア州アレキサンドリアではなく、米国アマチュア・ボクシング界の重鎮,老匠ケニー・アダムスが今も教えるラスベガスのDLXジム(DLX Boxing)を間借りして、追い込みのトレーニング・キャンプを行う。

何かと話題になることが多いアンヘル・メモ・エレディア(メモ・エルナンデス:バルコ・スキャンダルで大物アスリートの禁止薬物使用を証言したPEDのオーソリティ)のフィジカル・トレーニングも受けたと報じられている。

メモ・エレディア(エルナンデス)は一連のスキャンダルで明らかになったドーピング違反を主導した1人として、張本人のビクター・コンテらとともに逮捕収監されたが、司法取引に応じて刑期を大幅に短縮された。米本土での活動を禁止され、釈放後は母国メキシコに戻り、ボクサーや総合格闘技のプロ選手を対にフィジカル&ストレングスのトレーナーとして成功。

打倒パッキャオに異常な執念を燃やし、ウェルター級に本格参戦したファン・M・マルケスの驚異的な肉体改造を実現した他、カネロのチームとも深い親交を結ぶ。どうやら米国での仕事も可能になっているようだが、ライセンス申請を行った州と時期などは不明。


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■群雄割拠ならぬ本命不在・・・フェザー級戦線の現在(いま)

昨年12月9日、フロリダでロベイシー・ラミレスが、破格のサイズ(185センチ)を誇る痩身の巨人ラファエル・エスピノサに、逆転のダウンを奪われ大番狂わせの判定負け。高齢を押して来日を繰り返している御大アラムだけでなく、「あれなら(問題なく)勝てるよな」と大いに乗り気な様子を見せた大橋会長が、井上尚弥との激突を匂わせていた矢先の出来事に、「126ポンドのラス・ボス敗れる」的な喧伝を、自らのyoutubeチャンネルで行う国内ボクシング関係者もいた。

続いて今年の3月2日、体重苦を理由にベルトを返上したリー・ウッド(英)の後継王者を決めるエリミネーターが、N.Y.州ヴェローナのインディアン・カジノで行われ、デリク・ゲイナー(フレディ・ノーウッドからWBA王座を奪取/ファン・M・マルケスに譲る)を最後に、この階級には絶えて久しい黒人スピードスター候補として注目を集めるレイモンド・フォードが、ウズベク出身の万能型オタベク・ホルマトフとのサウスポー対決に挑み、最終12ラウンド残り10秒のTKO勝ち。

11ラウンドまでのスコアは、2-1(106-103×2,104-105)でホルマトフを支持。複数回のカウンターを効かされたホルマトフが、ノックダウンの大ピンチをフォードに抱きついてしのぎ、振り回されての転倒をスリップ裁定に救われながら、反撃にこだわり過ぎて最後の最後でまたカウンターを浴び、背中を向けて走り出してニュートラルコーナーに詰まり、逃げ場を失ったところでレフェリー・ストップ。

クリンチ&ホールドで時間を使わず、堂々と打ち合って勝とうとしたプライドと心意気は当然買うけれど、あと10秒・・・を考えると、瞬断的に使う数回程度のホールディングなら、問題なく許容されたのではとも思う。

物凄く簡単にまとめてしまえば、スコアリングに対するコーナーの”読み”も含めた「プロの実戦経験不足(13戦目)」に集約されてしまうが、無理に打ち合って墓穴を掘るケアレス・ミスは、フォード(17戦目)にもまったく同じ事が言える。


2016年のユース世界選手権(サンクトペテルブルグ/ロシア)で、フライ級の銅メダルを獲得したホルマトフは、同じ年のアジアユース選手権(パヴロダル/カザフスタン)でもL・フライ級に出場して銀メダルを獲り、ジュニア&ユース限定ながら国内選手権も制したトップ・アマ出身組み。

フォード戦を前にトップランクとの正式契約もリリースされ、ロベイシー・ラミレスとのエリート対決(WBOとWBAの2団体統一戦)が既定の路線となっていた。

ホルマトフを劇的なTKOに下したフォードには、「126ポンドのNo.1」に推す声が上がるなど期待値がさらに上昇するも、本人とチームが「ウェイトの維持が困難」だと、決定戦の前から階級アップに言及。

すぐにでも返上を表明するのかと思いきや、傘下に入っているマッチルームUSAのオファーに応じて、6月1日のリヤド興行に参戦。マッチルーム本体が強力にバックアップするイングランドの小型攻めダルマ,ニック・ボール(英)の突貫アタックに苦しみ、1-2のスプリット・ディシジョン(113-115×2,115-113×1)を失い王座転落。

フォードの勝利を信じるファンの間で、スコアリングに対する不満と批判も聞かれたが、足を止めてボールの土俵で勝負に応じる戦術選択のミスは相変わらず。過度な減量が祟って足が動かず、他にやりようがなかったのかもしれないが、この人が持つ速さの本領は、ゲイナーのようにフットワークも込みのスピードではなく、瞬時に小さく鋭く動く反応(シャープネス&クィックネス)に限定されるようだ。

「勝敗に関係なくこれがフェザー級のラストマッチになる」との意思をあらためて示したフォードは、ウッドの後追いでS・フェザー級への転出を決めた模様。

こうして「クラス最強」のお鉢が回ってきたロペスも、122ポンドでフルトンに完敗したレオに、圧巻のワンパンチ・フィニッシュを許しKO負け。

「フェザー級は違う。強い王者が次から次へと負けて行く。井上は自身が述べている通り、S・バンタムに止まった方がいい・・・」

とまあ、そんな声がチラホラ聞こえてくる。詳しくは章をあらためて述べるが、私はまったくそうは思わない。井上とクロフォード、パンデミックに襲われる以前のGGGように、誰もが納得せざるを得ない絶対的な強さを持つ大本命がいない。日替わりで4番打者が入れ替わる、プロ野球の猫の目打線のような状態だと考えている。

そうした意味において、井上尚弥が本当にフェザー級を目指すのであれば、加齢による衰え(反応と回復力の低下=特に膝と足首など下半身の故障が怖い)を考慮しても、むしろ急いだ方がいいのでは。小さいとは言い難い課題も、見え隠れはするが・・・。

レイ・バルガス(WBC)とディヴィーノ・エスピノサ、ようやく再起戦が決まったフルトンらを含めた詳細は、次章以降にて。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
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※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

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