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”見えざる意思”は動いたのか / - P・タドゥラン vs 銀次郎 2 レビュー Part 2 -

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”見えざる意思”は動いたのか / - P・タドゥラン vs 銀次郎 2 レビュー Part 2 -

■5月24日/インテックス大阪5号館,大阪市住之江区/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ペドロ・タドゥラン(比) 判定12R(2-1) 前王者/IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)

勝者タドゥランが告げられた瞬間、国家演奏の時のように左胸に手を当てて天を仰ぐ銀次郎

意識が未だに戻らない重岡銀次郎の容態も含めて、どんな具合に記事を書けば良いのか、様々思い悩む間にも容赦なく時間は過ぎて行く。

Part 1の記事中、リベンジを期すチーム銀次郎のタドゥラン対策について、ほぼ計画通り、狙い通りに機能していたと書いた。次の一点を含めて。

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ただ1点、前戦の教訓を活かし切れなかった事象を除いては・・・。現代アメリカのレフェリングの問題点として、検証の必要性に言及しておくべきかもしれず、詳しくは後述する。
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あらかじめお断りしておきたい。この記事を書くことによって、重岡銀次郎が見舞われた悲劇の原因を発見したかのように騒ぎ、そうだと決め付ける意図は毛頭ありません。

そしてこれもまた当然ながら、第1戦と第2戦の主審を務めたスティーブ・ウィリスとチャーリー・フィッチ(いずれも米/ニューヨーク州)両審判、ペドロ・タドゥラン本人、両軍のコーナーを束ねたカルロス・ペニャロサ(王者陣営),町田主計(まちだ・ちから)両チーフ・トレーナー等々、誰か特定の個人(と両陣営を支えるスタッフの面々)に、重大事故の責任をなすりつける意思もまったくない。

また、タイトルマッチを承認したIBF、試合を公式戦として認定した上で運営全般を所管したJBC、2名の主審を派遣したニューヨーク州アスレチック・コミッション(NYSAC)等々、今回の興行に関わった特定の組織に対して、「あなた方が定めた試合ルールが間違っていた。だからこの深刻な事故を招いたのだ」と、明確な医学的根拠を示すことができないにも関わらず、一方的に非難・批判を浴びせるものでもない。


では、「前戦の教訓を活かし切れなかった唯一の事象」とは何か。それは、「ホールディングで相手の動きを止めた状態での加撃」である。

昨年7月末~8月の頭にかけて、第1戦のレビューを書いた。その中で第9ラウンドに発生した場面を例に上げて「極めて危険な状況」だと指摘した。

加えてノーチェックのまま静止しようともしない主審スティーブ・ウィリスについて、「何というボンクラぶりだろう。」と批判した。さらに、「こんなレフェリーを、二度と呼んではいけない。」と続けている。

第1戦・第9ラウンドに発生した問題の場面

文章の走り過ぎを恥じつつも、当該記事に書き連ねた文面を転載しておこう。

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上体を折った低い位置から銀次郎が出そうとした左と、タドゥランが打ち下ろす右が交錯して、そのまま抱え合った状態で固定されると、強靭なフィジカル・パワーで銀次郎をロープに押し込んだタドゥランは、空いている左の拳を思い切り、連続で6発も銀次郎の顔面に打ち込む。

銀次郎も思い出したように右の拳を上げて防ごうとしたが、もう間に合わない。あろうことか、主審ウィリスはただ見ているだけ。6発殴ったところでようやく間に入った。何というボンクラぶりだろう。

【画像】

潰れた右眼にも当たった筈である。背筋が凍るとはまさにこの事だ。「お前はいったい、何をチェックしていたんだ!」と、ウィリスを怒鳴りつけたい衝動にかられる。
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「2試合の主審に事故の責任を負わせようという気は一切無い」とのお断りにウソ偽りはないけれど、同時に第1戦と第2戦を担当した2名のレフェリーに対して、「何故この危険な行為・状況を見過ごすのか?」との疑念(と怒りに近い感情)を禁じ得ないのも事実。

ただし、今読み返すとやはり文章が走り過ぎていたと思う。なおかつ最も重要な指摘が抜けている。「ホールディングで相手の動きを止めた状態での加撃」は、ルール上反則に該当するということ。

身が縮む思いだが、よりにもよって、けっして欠いてはならない「反則」への言及を忘れてしまうとは・・・!


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◎JBCルールとWBCルールにおける反則とみなす行為の規定

では、本当に反則に該当するのか。まずは、試合を所管したJBCルールを見てみよう。JBCはルールブックを有料で販売している為、公式サイト上にPDF化されたファイルをアップロードしていない。

西日本協会の公式サイトに全文ではないが掲載されており、幸いなことに反則の規定も含まれている。

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【第28章 ダウンおよびファウル】
第89条 次の各項をファウルとし、これを禁ずる。
11 リング・コーナー又はロープに相手を押さえ付けること及び一方の手で相手を押さえながら片方の手で加撃すること。
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西日本協会公式サイトの掲載
JBCルールが定める反則に該当する行為(西日本協会公式サイトより)-2

JBCルール「第28章-第89条」の規定は、もう長らく変わっていない。WBAは2000年代に入って以降、いつの総会で改訂されたのかはよくわからないが、反則に該当する行為を箇条書きにした部分をカットしてしまった。

タドゥラン vs 銀次郎戦に懸けられたベルトは、周知の通りIBFである。困ったことに、WBAの内部機関(事実上の下部組織)として発足したWBCの後に続き、WBAから分裂を繰り返したIBFとWBOの後発2団体も、WBAに倣った訳ではないだろうが、反則に該当する行為を明文化していない。


WBCを除く3団体が個別具体的に反則を明文化しない理由に進む前に、主要4団体中唯一規定しているWBCルールを見てみよう。公式サイト上にPDF化した公式ドキュメント(各種ルール)をまとめてアップしてあり、大変分かり易く有り難い。

「WBCチャンピオンシップの為の統合ルール(WBC Synthesized Rules for Championship Fights)」と題された公式文書中、16番目の項目として「ファウル」に関する具体的な項目が記述されている。

RULES WBC OFFICIAL DOCUMENTS
WBC Synthesized Rules for Championship Fights
WBCルールにおけるファウル規定

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16. Holding the opponent’s head or body with one hand while hitting with the other.
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日本式に言えば「第16条の第16項」となるのだろうか。内容をそのまま直訳すると、「片手で相手の頭や体を押さえながら、もう一方の手で打つ。」となり、「リング・コーナー又はロープに」という附帯条件有無の別はあるにせよ、禁止される行為そのものはJBCルールと変わらない。

第1戦・第9ラウンドのケースは、タドゥランが打ち込んだ右をかわしざまに銀次郎が両腕でその右をキャッチする格好となり、フィジカル・パワーに優るタドゥランがそのままの態勢で銀次郎をロープ際まで押し込み、ガラ空きになった銀次郎の顔面を自由になる左腕で何発も殴るというもの。

「一方の手で相手を押さえながら(JBC)/片手で相手の頭や体を押さえながら(WBC)」という状態とまったくイコールではないと、へ理屈をこねくり回すこともできる。

がしかし、この規定によって防止したい危険な状況とは、「正当な打撃以外の方法で相手を無防備な状態に追い込み殴る,殴り続ける」ということに他ならない。どのような手段(組み付く・腕を絡める・その両方等)を用いるにせよ、「正当な打撃」に該当しなければ反則とみなす。


第2戦-第5R終了間際に起きた問題の場面

今回の第2戦、第1戦の第9ラウンドと同じ危険な場面は、第5ラウンドの終了間際に訪れた。第1戦のウィリスと同様、主審フィッチは銀次郎を押さえつけて殴るタドゥランを静止しようとしていない。

拙ブログ管理人には、もはや理解の外としか言いようがないけれど、第2戦の問題はこの場面に止まらない。第1戦との違い、本質的な問題点については章を改めて検証する。


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◎IBFルールの問題点

「相手を押さえながらの加撃」について明文化していないIBFは、同様に規定の無いWBA,WBOに比べると、開催地を所管する地元コミッションとの連携について、あれこれと記している。

はっきり「尊重すべし」とまでは書かれていないが、IBFルールとその方針を優先し過ぎることがないよう、地元コミッションとの協調関係に配慮した文面であることは間違いない。

IBF Bout Rules (Effective 10-19-2015)
https://www.ibf-usba-boxing.com/wp-content/uploads/BoutRules.pdf

<1>カットが発生した場合の対応(2頁)
故意による反則によって一方の選手がカットした場合、レフェリーは「故意であることを」をジャッジ,コミッショナー(地元コミッションから現場に派遣された代表者)、IBFから派遣された立会人(スーパーバイザー)に伝える。

<2>偶発的な反則によって試合が続行不可となった場合(3頁)
原因となった反則について、レフェリーは「偶発的な事故(故意ではない)であること」を、コミッショナー(地元コミッションから現場に派遣された代表者)、IBFから派遣された立会人(スーパーバイザー)に伝える。

<3>薬物と刺激物の使用に関する規定(3頁末尾~4頁)
試合中に選手が摂取できるものは、地元コミッションが許可した水又はスポーツドリンクに限る。

<4>アンチ・ドーピングに関する規定(4頁)
ドーピング検査の実施は原則試合(直)後の実施を義務付けているが、地元コミッションの要請(規定)により、試合(直)前に行うこともできる。
採取した検体は所定の容器(改ざん防止措置済み)を使用し、対象となる2名の選手ごとにA検体とB検体とに分けて保管した上、地元コミッションが指定する検査機関に提出する。
A検体に陽性反応が確認された場合、すべての関係者に通知し、対象の選手が希望した場合、上述した検査機関においてB検体の検査を実施する。

<5>総則及び規制(5頁)
ジャッジが採点を記すスコアカードは、毎ラウンド終了後に回収して、コミッショナー(地元コミッションから現場に派遣された代表者)と、IBFから派遣された立会人(スーパーバイザー)が集計を行う。

<6>IBF立会人(スーパーバイザー)に対する指示確認事項(8頁)
立会人は試合会場に到着次第、速やかにプロモーター,地元コミッショナー(地元コミッションから現場に派遣された代表者)と連絡を取ること。
地元コミッショナー,又は地元コミッションから現場に派遣された代表者とともに、公式計量を行うこと。

◎IBFルール 反則に関する規定(1頁末尾~2頁)
IBFルール/反則規定

という具合で、試合を所管する地元コミッションの果たす役割が大きいのは当たり前で、IBFに限らず、認定団体が承認する世界戦と地域タイトルマッチは、何から何まで認定団体のルールで運営される訳ではない。

特に世界最大のボクシング・マーケットを誇る米本土は、年間に行われる興行数もダントツに多く、チャンピオンシップの承認料を経営基盤とする認定団体に取って、アメリカは最高最大のお得意様になる。

ボクシングに限らずあらゆるスポーツは、「1国1コミッション」が大原則になるが、各州の独立性を重んじるアメリカでは、「開催地を所管する各州ルール」が認定団体のルールより優先され、認定団体もこれを受け入れるしかない。


そんなアメリカでさえ、世界戦や地域タイトル戦の運営ルールが州ごとに異なることへの異議、主要4団体が独自に定めるそれぞれのルールとの整合性に関する問題意識、アマチュアと同じく、「1国・1コミッション制度」のデファクト・スタンダードに従うべしとする声等々、「統一コミッション」の必要性を説く人たちはいた。

「1国・1コミッション」でなければオリンピックに参加できないアマチュア・ボクシングは、「州の独立性」を乗り越えて、全米を統括する組織「USA Boxing」を運営できている。アマにできることを、なぜプロはできないのかという次第。

90年代末~2000年代初頭、大のボクシング狂でもあったジョン・マケインが中心になって尽力・推進した、いわゆる「モハメッド・アリ法」を制定する際、各州コミッションの上部統合組織として「ABC(Association of Boxing Commissions)」を立ち上げ、さらには各州ルールの上に位置付ける「米国統一ルール(Unified Boxing Rules:ユニファイド・ルール)」も策定する。

なおかつ「ユニファイド・ルール」の実際は、コモンセンスとして定着したプロボクシングのルールについて、そのアウトラインをざっと取りまとめたに過ぎず、具体的な採点基準(拙ブログ管理人は重大な欠陥だと考えている)を明示せず、反則行為に関する列挙も無し。

◎Unified Boxing Rules - Association of Boxing Commissions
https://www.abcboxing.com/unified-rules-boxing/


「ABC」に対する各州コミッションの反発は想像以上に根強く、自ずと「上部統合組織」には成り得ず、有体に申し上げれば、主な役割は「ユニファイド・ルールの管理と更新」のみと表してもあながち間違いとも言い切れない。

そんなだから、スーパーや暫定を乱発するWBAに対して、「ABC」が主体となり、「本来世界王者は各階級に1人であるべき」との主張に基づき、「同一階級に複数の世界王者を常設する異常事態を解消せよ」と提言を行い、「できなければWBAを全米から締め出す」と脅しをかけた時には驚いた。

慌てたWBAは暫定王座の解消に動いたが、ほとぼりが冷めたと考えたのか、性懲りも無く「暫定王座の並立」をまたぞろやらかしている。「2~3年でもいいから、WBAを米本土から締め出してくれ」と本気でそう思う。


IBF設立のそもそもの動機は、WBA内部の権力闘争だった(1968年のWBC独立とまったく同じ)。中南米に握られたWBAの実権を王国アメリカに取り戻すべく、長期化するベネズエラのヒルベルト・メンドサ会長を追い落とそうとした旧NBAの残党が、1983年の会長選挙で推したロバート・リーが僅少差で落選した為、そのままリーを担いで分派独立に踏み切った。

1983年の発足以来、IBFの本部はニュージャージー州内に置かれ続けている。設立の経緯からみても、他の3団体に比して、「地元(全米各州)コミッションとの連携協調」にことさら留意するのは自明の理。

ならば、ウィリス&フィッチのレフェリー2名と、重責を託されたベン・ケイティ(ケイルティ/豪),ジョージ・マルティネス(カナダ)の両立会人は、JBCルールを承知した上で「ルール上の問題とすべき状況」を放置したのか、あるいはJBCルールへの理解も尊重も無かったのか。

ことに第2戦に臨席したマルティネスは、IBF本部でチャンピオンシップ・コミッティのチェアマンを務める大幹部の1人でもあり、開催地を所管するJBCとの密な連携を、より一層求められる立場にある。

数十年に1人出るか出ないかという、リアルなモンスターの出現で一時的に沸き返ってはいるが、ナオヤ・イノウエが現役を退くまでの泡沫(うたかた)の夢でしかない。

ボクシングが斜陽産業であることは紛れもない事実で、米日両国のマーケット規模は比ぶべくもなく、何だかんだと言ってみたところで、彼らが尊重・遵守すべき対象はあくまで米本土。極東の島国(のルールなど)知ったこっちゃない・・・ということなのか。


その答えは、いずれも否。何が悪いと言って、JBCの忌むべき官僚的な体質こそが諸悪の根源であり、拙ブログ管理人が書き記さねばと考えた今回の問題も、JBCの「事なかれ主義」が大きく影響している。


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◎何が起きても他人事?-主体性と責任感がまったく見えないJBC

日本国内で重大事故が繰り返される中、遂に世界タイトルマッチのリングでも起きてしまった。しかし、ルールの違いについて余りにも無頓着な、あえて申せば無責任な姿勢と体制は変わる気配すらない。

怒りと衝動に任せて、「JBCの日和見主義,事なかれ主義に起因する」と書きたいところなれど、それでは文章が走り過ぎた第1戦のレビューと同じ禍根を残してしまう。

こと世界戦に関する限り、JBCは自ら定めた国内ルールを易々と放棄する。WBAとWBCが分裂した60年代末~2013年3月までの間、日本国内で行われたWBAとWBCの世界戦について、JBCは「WBAとWBCのルールで運営される」との姿勢を変えずに来た。

四半世紀以上に渡って「存在しないもの」として扱い、見てみぬフリを決め込み続けた後発2団体への加盟・参加を表明した2013年4月以降は、IBFとWBOがそこに加わる。

突発(偶発)的なトラブルやアクシデントが起きると、「今回はWBAルールで運営されていますので・・・」などと臆面もなく話し、堂々とエクスキューズに使う。その一方で、試合開始時に「コミッショナー宣言」を執り行い、「世界タイトルマッチであることを認める」と公言。終了後のリング上では、「(世界王者として認める)認定証の授与」を行ってきた。

典型的なご都合主義、日和見主義と断じざるを得ない。

2023年に萩原実氏(東京ドーム顧問→JBC理事長→コミッショナー)が就任して以降、この恒例行事は行われなくなったけれど、「世界戦として認める」と世界に向けて言い放ちながら、各認定団体のルールとJBCルールの整合性は一切考えない。

相対的に海外の選手たちより真面目で、減量の失敗(体重オーバー)はほとんどゼロに近く、ドーピング違反に至っては長きに渡り皆無だった。

「日本のボクサーに限って・・・」

「何か起きたら、その時考える。起きてから考えればいい。」


思い返すのもいまいましい、亀田一家の国内復帰容認と安河内剛事務局長の復職騒動、井岡一翔のドーピング違反を巡って露呈した、杜撰かつお粗末過ぎて話にならないJBCの管理体制も、同じ根っこから派生した悪しき事例。

ルイス・ネリーの悪質なドーピング違反が発覚した山中慎介と第1戦の公式結果(ネリーの4回TKO勝ち)を、ノーコンテストに改めなかったことも含めて(米欧のコミッションにおいてはNCへの変更が必須・常識)、一時が万事である。

ニューヨークとネバダ,カリフォルニアの3州並みに、自らのルールと立場を認定団体に対して強く主張しろと言うつもりはないが、試合ルールに限らず、すべての運用について責任を持つ矜持無くして、コミッションもへったくれもないだろう。


ルールの違いがレフェリングとスコアリングに影響する可能性を、どうして考えようとしないのか。

「レフェリーがチェックしない限り反則ではない=チェックされなければどんな状況であったとしてもセーフ」では無い筈だ。誤審が一切無いなら話は別だが、レフェリー&ジャッジも人間である以上必ず間違う。

主要4団体すべてへの加盟・承認に踏み切ってから、早くも12年が経った。いい加減「認定団体のルールで・・・」との言い訳は止めにして、「日本版ユニファイド・ルール」を策定すべきだと思う。

「米国統一ルール」をベースに、反則の規定から明確な採点基準まで含めて追加し、ついでにオープンスコア(WBC独自ルール:4及び8ラウンド終了後に途中採点を公開する)もやってしまえばいい。

日本国内で開催される世界戦と地域王座戦は、すべて「日本版ユニファイド・ルール」で運営する。英訳したルールを主要4団体と米本土の主要な州コミッション、BBBofC(英国のコミッション)に送付し、真に国際的規模の統一ルール策定を呼びかけてはどうか。

次章では、第1戦と第2戦を担当したレフェリーにライセンスを認可した、ニューヨーク州アスレチック・コミッション等のルールを確認したい。


※ Part 3 へ


◎タドゥラン(28歳)/前日計量:104.5ポンド(47.4キロ)
※当日計量:114.9ポンド(52.1キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
(4回目でパス/1回目:52.4キロ,30分後2回目:52.3キロ,+100分後3回目:52.25キロ)
元IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:23戦18勝(13KO)4敗1分け
世界戦:7戦3勝(2KO)3敗1分け
アマ通算:約100戦(勝敗を含む詳細不明)
身長:163センチ,リーチ:164センチ
血圧:137/102
脈拍:56/分
体温:36.1℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


◎銀次郎(25歳)/前日計量:104.9ポンド(47.6キロ)
※当日計量:114.2ポンド(51.8キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
現在の世界ランク:IBF4位/WBO10位
戦績:14戦11勝(9KO)2敗1NC
世界戦:6戦3勝(3KO)2敗1NC
アマ通算:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ,リーチ:156センチ
血圧:125/70
脈拍:62/分
体温:36.6℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:チャーリー・フィッチ(米/ニューヨーク州)

副審:2-1で王者タドゥランを支持
ジル・コー(比):115-113
デイヴ・ブラスロウ(米/メリーランド州):113-115
中村勝彦(日/JBC):118-110

立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)


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”見えざる意思”は動いたのか / - P・タドゥラン vs 銀次郎 2 レビュー Part 1 -

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■5月24日/インテックス大阪5号館,大阪市住之江区/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ペドロ・タドゥラン(比) 判定12R(2-1) 前王者/IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)

勝者タドゥランが告げられた瞬間、国家演奏の時のように左胸に手を当てて天を仰ぐ銀次郎

事ここに至っては、何を言っても書いてもせんないこと。我々ファンに出来ることは、取り返しのつかない悲劇に見舞われた重岡銀次郎の命を召さないよう天に祈り、一刻も早い意識の回復を心から願い続ける以外にない。

兄優大が自身のインスタで公表した直近の容態(24時間で自動削除されるストーリー機能を使用)について、メディアは「小康状態」と報じている。自発呼吸が可能となり人工呼吸器が外れたこと、主に脳波と呼吸系、血中の酸素濃度等になると思われるが、重要な数値が少なくとも悪化していないことが確認された。

ただし、冒頭に記した通り意識は回復しておらず、主治医から「1週間がヤマ」との説明も受けているとあり、楽観が許される状況にないことも忘れてはならない。

◎出身地である熊本ローカル局のニュース
重岡銀次朗「自分で呼吸ができる状態に」兄優大がインスタで明かす【熊本】 (25/05/29 17:50)
2025年5月29日/テレビくまもと(TKUofficial)
https://www.tku.co.jp/news/?news_id=20250529-00000012



◎詳細な記事(論スポ)
「自分で呼吸ができるようになった。数値は悪化していない」開頭手術を受け意識不明の重岡銀次朗の容態を兄の優大がSNSで報告…対戦した王者タドゥラン陣営も「早く元気に」とメッセージ
2025年5月29日 22:28/RONSPO
https://news.goo.ne.jp/article/ronspo/sports/ronspo-12455.html


判定結果がコールされた後、コーナーに戻った銀次郎が意識を失い、リングドクターのチェックを受けた上で担架が要請され、コーナーマンとスタッフに担がれるようにしてリングから運び出された。

1年前の第1戦とまったく同じ光景に愕然とする。気になる仕草はあった。勝敗の結果を聞いた直後、呆然と悄然が相半ばする銀次郎に、兄優大が何事かを語りかけている間、銀次郎が両方のこめかみを押さえてうつむく。

判定結果がコールされた後こめかみを押さえる銀次郎(手前は兄優大)

「大丈夫か・・・?」

あらぬ不安が脳裏を過ぎる。だが、序盤からタドゥランの強打に晒され、ダメージを蓄積した末に9回TKOに退いた前戦とは異なり、今回はラウンドを取られては取り返すシーソー・ファイトだった。

終始一貫脚を動かし続ける銀次郎の戦術選択によって、無謀な打ち合いに及んで被弾を繰り返す場面は限定的で、後段に掲載するオフィシャル・スコアご覧いただくまでもなく、公式裁定は2-1と割れている。ジャッジ3名中、1名は銀次郎の勝利を支持する接戦・・・採点の上では、少なくともそういう結論になる。

終盤に突入した後も銀次郎の脚は健在で、インターバル中も含めて、朦朧としたり集中力が途切れる様子も見られない。思わずヒヤリとする被弾は何度かあったけれど、いずれも単発で、前回のようにそこから打たれ続けることもなかった。

ただ1点、前戦の教訓を活かし切れなかった事象を除いては・・・。現代アメリカのレフェリングの問題点として、検証の必要性に言及しておくべきかもしれず、詳しくは後述する。


大阪市内の病院に搬送された後、銀次郎の容態は秘匿された。ワタナベジムの渡辺均会長は、取材に対して「詳しい状況についてはJBCが発表する。それを待って欲しい」と答えるに止める。「情報を一本化する(混乱を避ける)為」との説明があり、SNSによる誤情報の拡散と、それらによってご家族にかかる余計な心理的負担の回避を最優先したのだろう。

この時点で、取材に当たるベテラン記者は勿論、筋金の入ったファンも「事態は深刻」だと悟った筈である。

一部界隈で「情報の隠蔽」と取る者たちもいたように見受けるが、「病院→JBC→ご家族とワタナベジム→報道陣」の情報統制には、JBCの試合運営とコーナーを率いた町田トレーナーを始めとするスタッフ、ひいてはワタナベジムへの直接的な批判を防止する目的も、実際に含まれていたとは思う。

ダブルメインのIBFフェザー級タイトルマッチとともに、興行を所管するJBCの現場監督として臨席した安河内剛事務局長と、臨席した安河内剛JBC事務局長と、渡辺会長との合意に基づく対応だったと推察するが、様々な意味で止むを得ない措置ではあった。

◎報道の経緯
<1>【ボクシング】重岡銀次朗 判定負け直後に担架で運ばれ救急搬送…リベンジ王座奪還1歩届かず
[2025年5月24日20時57分]/ニッカンスポーツ
https://www.nikkansports.com/battle/news/202505240001763.html

<2>【ボクシング】重岡銀次朗、大阪市内の病院に入院中 JBCは27日に状態発表予定 24日の世界戦で判定負け後に救急搬送
2025/05/26 16:55/サンケイスポーツ
https://www.sanspo.com/article/20250526-F24XGMUI3RMMDGUOTIBI45V7JI/?outputType=theme_fight

<3>ボクシング 重岡銀次朗が現役引退へ 試合後に緊急の開頭手術
2025年5月27日 20時46分/NHK News Web
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250527/k10014818241000.html

<4>重岡銀次朗が急性硬膜下血腫で緊急開頭手術 
2025年5月27日 17時13分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112309/

<5>ワタナベジムが重岡銀次朗について報告「小康状態」、兄優大もインスタで発信
2025年5月29日 20時58分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112329/


◎ワタナベジム公式サイト
<1>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.29
https://www.watanabegym.com/news/20072/

<2>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.30
https://www.watanabegym.com/news/20074/

右:判定を聞いてコーナーに戻り椅子に座る銀次郎(朦朧としている様子が伺える)/左:銀次郎の意識を確認するリングドクター

担架で運ばれる銀次郎


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銀次郎が脚で外しにかかるだろうとの予見は、本番に向けて何度か公開された練習の映像や、アマチュア時代の経験を踏まえた戦術の見直しに言及した試合前のインタビューを見れば、ある程度の当たりは付いた。

右回りのフットワークでタドゥランの間合いを外し、外されてもすかされても委細構わす踏み込んで振って来る、重くて硬くて長く、なおかつ最も危険な左には、丁寧かつ素早く小さなダック&ロールで対処する。

上体の動作を必要最小限度に抑えて、歩幅も拡くなり過ぎないよう注意を払い、オフ・バランスを徹底回避。窮屈になり過ぎない程度に肘を内側に絞ったハイ・ガードと、ショートのカウンターを無理なく合わせることができる態勢を常に保持して、引き手の戻りも怠らない。


チーフの町田トレーナーを中心としたチームと銀次郎が、どれほど厳しいトレーニングに自らを駆り立ててリマッチに臨んだのか。その覚悟と意欲が、ディスプレイ越しにひしひしと伝わって来る。

がしかし、それでもなおタドゥランの強靭なフィジカル&パンチング・パワーの壁は分厚く、銀次郎とチームの奮闘は残念ながらあと数歩及ばなかった。

今できることの最善を、ベスト・オブ・ベストを銀次郎は尽くし、コーナーも懸命にそれを支える。これ以上の”Something ELse”は、何をどうしようが出て来ない。勝者がコールされた瞬間、思わず天を仰ぐ銀次郎。

自らの限界を乗り越えて、やれることのすべてをやり尽くし、正真正銘の精一杯のさらにその上を目指し、全身全霊をかけて己を貫き通した者にしか許されない姿がそこにあった。


Part 2 へ


◎タドゥラン(28歳)/前日計量:104.5ポンド(47.4キロ)
※当日計量:114.9ポンド(52.1キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
(4回目でパス/1回目:52.4キロ,30分後2回目:52.3キロ,+100分後3回目:52.25キロ)
元IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:23戦18勝(13KO)4敗1分け
世界戦:7戦3勝(2KO)3敗1分け
アマ通算:約100戦(勝敗を含む詳細不明)
身長:163センチ,リーチ:164センチ
血圧:137/102
脈拍:56/分
体温:36.1℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


◎銀次郎(25歳)/前日計量:104.9ポンド(47.6キロ)
※当日計量:114.2ポンド(51.8キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
現在の世界ランク:IBF4位/WBO10位
戦績:14戦11勝(9KO)2敗1NC
世界戦:6戦3勝(3KO)2敗1NC
アマ通算:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ,リーチ:156センチ
血圧:125/70
脈拍:62/分
体温:36.6℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:チャーリー・フィッチ(米/ニューヨーク州)

副審:2-1で王者タドゥランを支持
ジル・コー(比):115-113
デイヴ・ブラスロウ(米/メリーランド州):113-115
中村勝彦(日/JBC):118-110

立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)

◎オフィシャル・スコアカード
オフィシャル・スコアカード

◎オフィシャル・スコアカード(清書)
オフィシャル・スコアカード(清書)

中立国から主審1名+副審1名を選び、王者の母国と挑戦者の出身国から、それぞれ副審を1名づつ。昨今は珍しくなったけれど、70年代半ば~80年代前半頃までに行われた世界戦では頻繁に採用された審判団の構成。

フィリピンと米国メリーランド州から呼ばれた2名の副審は、勝者として支持する者の名前は違えど、ともに115-113の2ポイント差を付けている。妥当かつ正当なスコアリングであり、異論を唱えるファンと関係者もいない筈。

議論を呼びそうな中村勝彦審判の118-110には、納得し難い違和感を覚える人も多いだろう。開催地の地元コミッションから選出されたジャッジが、敵陣営に大きく利する採点を行う・・・皆無とまでは言わないが、やはりレアなケースになる。


常識的に考えれば、米・比のジャッジより若干拡めのマージンで銀次郎を支持しそうなものだが、ホームの風が吹くことはなかった。フェアと言えば確かにその通りなのだが、「そこまで差が開く・・・?」との疑問も抱く。

前に出続けたタドゥランのアグレッシブネスは正当に評価されるべきだし、脚を止めずに距離のキープに務める銀次郎のパンチは、スピード&精度(タイミング)を優先する為パワーセーブせざるを得ず力感を欠いた。

思い切り踏ん張って打つことができないがゆえに、ボディショットも普段の決定力を発揮し切れず、基本のリードジャブとワンツー、上を狙うカウンターもタドゥランを押し返すまでには至らない。

コンビネーションと手数でタドゥランを上回ることがでれば良かったが、折角奪ったヒットも、重量感に溢れるタドゥランの反撃に都度打ち消される場面も多く、初防衛に向けて突き進む王者の圧力は最後まで衰えず、タドゥランの勢いに押し負けてしまう。

12ラウンズ中10ラウンズを、王者に振ってしまった中村審判の気持ちは分からんでもないが、プロの公式審判員としてまったく問題が無いとも言い切れない。そう指摘せざるを得ない。


◎管理人KEIのスコア
管理人KEIのスコアカード

手前味噌になってしまい恐縮するばかりだが、無理せず一定程度のイーブンを許容した方が、より試合の展開と内容に即したスコアリングを担保できると思う。

※Part 2 へ


休まず振り続ける鉄球(Wrecking Ball)をに挑む破壊王(The Power) - N・ボール vs ドヘニー プレビュー -

カテゴリ:
■3月15日/エコー・アリーナ,リヴァプール/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ニック・ボール(英) vs 元IBF J・フェザー級王者/WBA6位 T・J・ドヘニー(アイルランド)

ドヘニーが0.1ポンド超過した前日計量の模様
写真上:フェイス・オフ中に罵り合いが始まりひと悶着
写真下:全裸で秤に乗るドヘニー


前日計量でドヘニーがウェイトオーバー!?。

どうかご安心を。全裸になって秤に乗った1回目、リミットの126ポンドを0.1ポンド(約45.4グラム)超過したチャレンジャーは、1時間後の再計量でも1オンス(約28.3グラム)上回ったが、王者陣営からOKが出て事無きを得たようである。

これが単なる調整試合だったなら、おそらく1回目ですんなりOKになっていた筈だが、タイトルマッチとなれば話は別。ましてや世界戦。公開練習から会見,そして計量と、今はオンラインでフルに配信されてしまう。


我らがモンスターも、118ポンドの完全制覇が懸かったポール・バトラー戦でリミットを30グラムオーバーしたが、トイレで小用を足してもう一度秤に乗り、50グラムアンダーで無事終了。勿論、パンツは履いたままである。

有名なオーディション番組「BGT(Britain's Got Talent/ブリテンズ・ゴッド・タレント)」に出演して大変な話題になった芸人さんではないが、「Don't worry. I'm wearing(安心してください。履いてますよ)」といったところか。

遠来のWBOチャンプを5分間待たせて最大の難関(?)をクリアしたモンスターだが、ことボクシングに関する限り、自らに課すハードルを常に高く保持し続け、完璧主義を貫く真の統一王者らしからぬハプニングではあった。


「下から階級を上げた選手が計量をミスするのは、ボクシングでは珍しいことではない。」

鬼塚勝也と対戦する以前、フライ級でデビューしてから、J・バンタム~バンタムの間を行き来していたタノムサク・シスボーベー(タイ)が、WBAバンタム級王者だったルイシトに挑戦することになり、計量(当時は当日)を目前に控えて、体重がリミットまで落ちずに苦しんでいたとジョーさんが明かしたことがある。

軽量級では3~4ポンド程度(約1.3~1.8キロ)の差とはいえ、この違いが大きい。僅かな余裕がもたらす心理的な効果、安心感が裏目に出て、体重調整が遅れ気味になってしまう。

エキサイトマッチが始まって間もない頃から、裏話的な逸話の1つとして、ジョーさんが時々話していたことを思い出す。


もっともドヘニーの場合、フェザー級での調整は何度も経験済みで、4年前にはマイケル・コンランとWBAフェザー級の暫定王座を争ったこともあるだけに、今回のケアレスミスはいただけない。

とにもかくにも明日の本番は、WBAの承認を受けた世界タイトルマッチとして挙行される。

直前のオッズは圧倒的に王者を支持。モンスター戦の途中撤退は、敵前逃亡と謗られても反論が難しいものだったし、岩佐亮佑から奪った122ポンドのIBF王座をダニー・ローマンに奪われた2019年4月から昨年9月のモンスター戦まで、10戦して5勝(5KO)5敗。足掛け13年のプロキャリアで記録した5度の黒星を、すべてこの間に喫している。

世界を獲ったのは6年目だから、出世が特別遅かった訳ではない。三十路に突入した後の載冠になったのは、25~26歳の間にプロデビューした為で他に理由は無し。

王座を失った後の5つの白星すべてがKOという点は、”The Power”の異名に恥じず流石の一言。しかし、不惑を間近に控えた年齢を考えれば、完全なるピークアウトと判断されるのは止むを得ない。万馬券扱いは半ば当然・・・。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
ボール:-1600(約1.06倍)
ドヘニー:+810(9.1倍)

<2>betway
ボール:-1205(約1.08倍)
ドヘニー:+700(8倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ボール:1/14(約1.07倍)
ドヘニー:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
ボール:1/12(約1.08倍)
ドヘニー:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)


昨年3月、リヤドのキングダム・アリーナに初登場したボールは、痩身のメキシカン,レイ・バルガスをほうほうの体に追い込みながら、不運と言うには余りに気の毒なスプリット・ドローで緑のベルトを獲り逃がした後、同じ場所で米国期待のレイモンド・フォードを僅少差の2-1判定にかわしてWBA王座に就いた。

そして昨年秋、ホームタウンのリヴァプールに実力者ロニー・リオスを迎えた初防衛戦でも、終始一貫攻め続けて10回TKO勝ち。9回までのスコアも、フルマークに近い大差(90-80,89-80,88-81)を付けての快勝。

公称157センチの超小兵をものともせず、「Wrecking Ball(レッキング・ボール)」のニックネームそのままに、火の玉となってガンガン相手を叩き壊しに行く突貫戦法は、激しさとスタミナという点で、我らが”攻めダルマ”比嘉大吾をも凌駕する。

勿論、代償として負うダメージは大きい。毎試合のように傷を作り顔を腫らす。ドヘニーより10歳若いとは言え、あと2年で三十の大台(今は小台?)。遅かれ早かれやって来る心身の限界を超えた途端、それまでのタフネスがウソのように撃たれ脆くなるファイターを、どれだけの数見てきただろう。

ラファエル・マルケスとの歴史に残る3連戦で疲弊消耗し、右眼の視力を失いキャリアを終焉させたイスラエル・バスケス、同じくブランドン・リオスと壮絶な打撃戦を三度び繰り返して深手を負ったマイク・アルバラード、そのアルバラードとティム・ブラッドリーやルーカス・マティセらとの白兵戦で摩滅してしまい、やっと登り詰めたトップの座から滑り落ちたルスラン・プロヴォドニコフ等々・・・。


この戦い方で、いったいどこまで己の肉体と精神持つのか。それこそが最大の懸念材料ということになるが、S・ライト級まで上げたメキシカン・ピットブルことイサック・クルス(163センチ)にも同じことが言える。

いつどこで誰に追い落とされてもおかしくないリヴァプール生まれの火の玉小僧を、苦労して世界チャンピオンに育て上げたフランク・ウォーレン(イングランドを代表するプロモーター/エディ・ハーンに対抗し得る唯一の存在)が、モンスターとの大一番を急いだとしてもむべなるかな。


モンスターに相対したドヘニーは、”The Power”の愛称が泣く待機策に終始。驚くほど慎重だったモンスターの立ち上がりにも助けられながら、ひたすら守りに徹して時々リターンを狙うパッシブな戦術に閉じこもった。

安全な距離に身を置くことを最優先にしつつ、モンスターが強力なプレスをかけて来るや否や、極端な後傾バランスにシフトしてとにかくよける。逃げる。これが奏功して(?)、中盤まで持ち応えたドヘニー。

前に出て来ない相手はボディから崩す。いつものように腹に的を絞ったモンスターの豪打に晒され、見る間に弱るドヘニー(元々ボディはウィークネス)。「そろそろフィニッシュか」と思われた第7ラウンド、ロープ際とコーナーに詰められたところで、突然腰を押さえてギブアップ。


「1度もノックダウンを奪われずに試合を終えた」

自身初のTKO負けと引き換えに、キャンバスに膝や手を着くことなくリングを降りたドヘニーにとって、最大の目標がこれだったのかもしれない。ダウンカウントを取られることなく試合を終えることが、本当に勲章になるのだとしたら、逆説的になってしまうが、それこそがモンスターの勲章と評して間違いない。


「イノウエよりもドヘニーを圧倒して、イノウエよりも早い回でKOする。」

ボール自ら複数のインタビューで語っていた通り、年末のリヤド開催が内定した(?)モンスターとのタイトルマッチに向けたデモンストレーション。ドヘニーを媒介とした、モンスターとの実力比較だけを目的としたマッチメイク。

先日行われた「那須川天心 vs ジェイソン・モロニー」と同じ、動機と構図は寸分違わない。そして、天心に苦闘を強いたモロニーと同様、ドヘニーがボールに一泡吹かせる恐れは十二分にあると考えている。


まず第一に、ドヘニーは正面から打って来る相手をコントロールするのが意外に上手い。ラミド戦の即決KOのインパクトが強過ぎて、ドヘニーの特徴が正しく理解されていないように思う。

岩佐戦とローマン戦,中嶋戦をご覧いただくと良く分かるが、出はいりを軸にしたアウトボックスをやらせると、ドヘニーはかなり厄介な存在になる。モンスターにも試みていたけれど、先に打たせおいてリターンを効かせるのが得意なパターン。

超弩級のパワーだけでなく、スピード&反応も超一級品のモンスターには通用しなかったが、大概のランカークラスとチャンピオンなら、勝てないまでもいい勝負に持って行ける筈。ディフェンスが甘く、「肉を切らせて骨を絶つ」展開になりがちなボールが、勢いにまかせてワンパターンの突進を繰り返すと、ラミドの二の舞になる確率は想像以上に高いと危惧する。


モンスターはまともに貰ってくれなかったが、ダッキングで相手のワンツーやフックをかわしざま、低い姿勢から右を突きつつサイドへ動き、死角から放つ左がボールには当たりそうだ。

フォード戦を見る限り、サウスポーを特段不得手にしていなさそうなボールも、計量後に10キロ以上リバウンドするドヘニーのフィジカルには苦労させられるだろう。モンスターとやった時も、一晩で11キロ(公式計量55.1キロ→当日再計量66.1キロのウェルター球)戻したことが話題になった。

リミットが122ポンド(55.3キロ)から126ポンド(57.1キロ)に増える分、モンスター戦と同じ66キロまで増やした場合、およそ2キロ減って(それでも)9キロのアップ。ひょっとしたら、70キロに近い60キロ台後半(S・ウェルター球)まで戻して来ることも、想定の範囲内ではある。

ボールもかなり戻していると思うが、「機動力&運動量+しつこい手数」を生命線にするだけに、身体が重くなり過ぎて、踏み込みのスピードと勢いが落ちたら逆効果で意味がない。

ビートルズ(リヴァプール出身)のヒット曲で、1964年に製作された初主演映画のタイトルにもなった「A Hard Day's Night」をちゃっかり拝借して、イベントを盛り上げるフランク・ウォーレン。

その目論見通り「ハードでキツい一夜」になるのはドヘニーだけなのか、はたまたボールに取っても厳しい晩になるのか。大きな差が開いた掛け率ほどスムーズに事は運ばないよと、長年のコーチでもありメンターでもあるポール・スティーブンソンに、余計な一言をかけてやりたい気もする。


モンスターのリヤド・デビューがドヘニーとの再戦では絵にならないから、ボールが負ければターゲットのベルトも変わる。疑う余地は無し。

「5月4日T-モバイル・アリーナ(ラスベガス)で決定」と報じられたモンスターの次戦に、WBO王者ラファエル・”エル・ディヴィーノ”・エスピノサ(メキシコ)のV3戦が組み込まれたのは、ズバリそういう意味である。

ボールとエスピノサのどちらが出て来ても、モンスターの5階級制覇が揺らぐことはなく、126ポンドにおけるモンスターのパフォーマンスは、この階級で大きく躓いたノニト・ドネアとのポテンシャルの違いをも浮き彫りにする。


◎ファイナル・プレッサー


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=FwJVtUFg54k

拙ブログの勝敗予想は・・・5.5-4.5~6-4でボール。ドヘニーが唐突に腰を押さえて足をひきずり、途中棄権することはもう無いと思うので、7~8割方の確率で判定決着だろうか。ポイント・マージンの割れた3-0か、小差の2-1。

早い時間帯でのバッティングによるノーコンテストだけはご勘弁を。160センチに満たないボールと166センチのドヘニーは、構え合った状態でちょうど頭1つ分丈が違う。猪突猛進するボールの頭が、ドヘニーの顔面にめり込む場面は絶対に見たくない。


◎ボール(28歳)/前日計量:125.6ポンド(約56.97キロ)
戦績:22戦21勝(12KO)1分け
世界戦:3戦2勝(1KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:165センチ
右ファイター


◎ドヘニー(38歳)/前日計量(1回目):126.1ポンド(約57.42キロ)
※1時間後に行われた再計量で126ポンド(リミット上限)を1オンス(約28.3グラム)超過も、王者側からOKが出てタイトルマッチとして承認
元IBF J・フェザー級王者(V1)
戦績:31戦26勝(20KO)5敗
世界戦通算:5戦2勝(1KO)3敗
アマ戦績:不明
北京五輪代表候補
身長:166センチ
リーチ:172.5センチ
※岩佐亮佑戦の予備検診データ
左ボクサーファイター

◎前日計量
FURIOUS! Nick Ball vs TJ Doheny ? WEIGH-IN & FACEOFF ? Frank Warren & TNT Sports
Seconds Out
https://www.youtube.com/watch?v=L53bkUmUPfw


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=cf61oUk6kIs


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■リング・オフィシャル:未発表


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◎試合映像

■N・ボール
<1>ボール TKO10R ロニー・リオス(米)
2024年10月5日/M&Sバンク・アリーナ(英/リヴァプール)
オフィシャル・スコア(9回まで):90-80,89-80,88-81
WBAフェザー級王座V1
https://www.dailymotion.com/video/x96u5s6

<2>ボール vs レイモンド・フォード(米)
2024年6月1日/キングダム・アリーナ(リヤド/サウジアラビア)
オフィシャル・スコア:115-113×2,113-115
WBAフェザー級王座獲得(クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5)


<3>ボール 引分12R(1-1-1)vs レイ・バルガス(メキシコ)
2024年3月8日/キングダム・アリーナ(リヤド/サウジアラビア)
オフィシャル・スコア:116-110,112-114.113-113
WBCフェザー級王座挑戦
https://www.dailymotion.com/video/x8u9eio

<4>ボール 判定12R(3-0) アイザック・ドグボェ(ガーナ/英)
2023年11月18日/マンチェスター・アリーナ(英/マンチェスター)
オフィシャル・スコア:119-108,118-109,116-111
WBCシルバーフェザー級王座V4
https://www.dailymotion.com/video/x8prktl

-----------------------------------------
■T・J・ドヘニー
<1>井上尚弥 TKO7R ドヘニー
2024年9月3日/有明アリ-ナ
オフィシャル・スコア(6回まで):59-55×2,58-56
※ドヘニーに2ラウンズを与えたのはネバダ選出のロバート・ホイル/ひたすら後退+当て逃げを評価し過ぎるラスベガス・ディシジョンの典型(悪弊)
4団体統一S・バンタム級王座挑戦
https://www.youtube.com/watch?v=D3x9xqWj2xQ

<2>ドヘニー TKO1R ジャフェスリー・ラミド(米)
2023年10月31日/後楽園ホール
WBOアジア・パシフィックJ・フェザー級王座V1
※中嶋戦に続くショッキングな連続KOで日本国内におけるドヘニー再評価の機運が高まる
ttps://www.dailymotion.com/video/x947fnc

<3>ドヘニー TKO4R 中嶋一輝(大橋)
2023年6月29日/後楽園ホール
WBOアジア・パシフィックJ・フェザー級王座獲得
ttps://www.youtube.com/watch?v=TINgUCvX2js

<3>サム・グッドマン(豪) 判定10R(3-0) ドヘニー
2023年3月12日/クドス・バンク・アリーナ(豪/シドニー)
オフィシャル・スコア:100-89,98-92,97-92
WBOオリエンタルJ・フェザー級王座決定戦


<4>マイケル・コンラン 判定12R(3-0) ドヘニー
2021年8月6日/フォールズ・パーク, ベルファスト(英/アイルランド)
オフィシャル・スコア:116-111×2,119-108
WBAフェザー級暫定王座決定戦
https://www.dailymotion.com/video/x84mgke

<5>イオヌット・バルタ(ルーマニア) 判定8R(3-0) ドヘニー
2020年3月6日/シーザースパレス・ドバイ(UAE)
オフィシャル・スコア:78-74×2,77-74
フェザー級8回戦
https://www.dailymotion.com/video/x7slx4l

<6>ダニエル・ローマン(米) 判定12R(2-0) ドヘニー
2019年4月26日/イングルウッド・フォーラム(カリフォルニア州)
オフィシャル・スコア:116-110×2,113-113
※ドロー裁定のエドワード・ヘルナンデス・Sr.(開催地選出)はジャッジ失格(?)
IBF J・フェザー級王座挑戦


<7>ドヘニー TKO11R 高橋竜平(横浜光)
2019年1月18日/MSGシアター(ニューヨーク)
オフィシャル・スコア(10回まで):100-89×2,97-92
IBF J・フェザー級王座V1
https://www.dailymotion.com/video/x7tthux

<8>ドヘニー 判定12R(3-0) 岩佐亮佑(セレス)
2018年8月16日/後楽園ホール
オフィシャル・スコア:117-112,116-112,115-113
IBF J・フェザー級王座獲得
https://www.dailymotion.com/video/x6t46tv

”ボンバ”に負けた者同士の激突・・・手強い挑戦者を明確に倒せるか - 岩田翔吉 vs レネ・サンティアゴ プレビュー -

カテゴリ:
■3月13日/両国国技館/WBO世界J・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 岩田翔吉(帝拳) vs 元WBO暫定王者/2位 レネ・サンティアゴ(プエルトリコ)



「スーパー高校生」,「95世代」,「黄金世代」

呼び方は様々なれど、アマチュアでしのぎを削り合った田中恒成,井上拓真,ユーリ阿久井政悟,堤聖也,比嘉大吾に、アマ経験の無い山中竜也を加えた1995年生まれのチャンピオンたちと、早生まれの岩田(1996年2月)は同期に当たる。

恵まれたパンチング・パワーを最大限に活かす攻撃的なスタイルは、武居由樹に続いて堤とも壮絶に打ち合った比嘉との共通項だが、いわゆる”攻めダルマ型”ではなく、スピーディな出入りとともにハードヒットを叩き込む。

右ストレート&フックが強いのは当然にしても、それ以上に得意なパンチが左フック(上下)と左右のアッパー。ジャブと崩しを省略していきなり狙うことも多く、ツボに入った時の即決KO、パンチの衝撃音(リアル・モンスター,井上尚弥には1歩譲るが)は、最軽量ゾーンとは思えない迫力。

◎配信を行うU-NEXTのハイライト映像
【3.13U-NEXT BOXING.2】連続KO中の岩田翔吉 激闘ハイライト!初防衛戦に挑む!
2025年3月6日/U-NEXT格闘技公式


108ポンドでは大きな部類に入る163センチ(リーチは短い:162センチ)のサイズも強力な武器になるけれど、「ジャブと崩しの不足」と「迂闊な被弾」が玉に瑕。突出したパワーの持ち主が陥り易い、「一本調子(単調)」の悪弊が顔を覗かせる。


「うっかり被弾」は、頭と肩を振らない現代のボクサーに共通する技術的欠陥で、なおかつ国内外の別を問わないが、特に現代日本のボクサーはボディワークのヴォリュームが減って頭を振らなくなった。

ウィービングとステップを連動させて細かくリズムを刻み、そのリズムに乗せて頭と肩を振るのが20世紀(昭和)のスタンダードであるなら、上半身を直立させたまま、ディフェンスの7~8割方をブロック&カバーに依存するのが現代流。

スタンスを広く取る選手も増えた。スタンスを広げ過ぎれば、スムーズに円を描きながら、四角いリングを丸く使うフットワークは困難になる。動きは前後のステップのみになりがち。運動量は落ちるに決まっているし、相対的に手数も少なくなって行く。「単調になるな」と言う方が間違っている。多彩な変化など求めてはいけない。ごく当たり前の話だ。


3年前の初挑戦では、ジョナサン・”ボンバ”・ゴンサレス(プエルトリコ)のステップ&ディフェンスと、清濁併せ呑むプロの駆け引きに絡め取られてしまい、倒そうと意気込む前のめりの気持ちと姿勢が空回り。老巧サウスポーの術中にまんまとハマり、自慢の強打を封じ込まれて中差の0-3判定負け。

ハイリスクなクロスレンジを潰すクリンチワークにも悩まされたが、4歳の頃から実父ルイスによってボクシングのイロハを仕込まれ、ユースの世界選手権で金メダルを獲得するなど、ボンバの国際試合を含めた豊富なアマ経験+プロ30戦のキャリアは伊達ではなかった。

◎試合映像:ボンバ・ゴンサレス vs 岩田
2022年11月1日/さいたまスーパーアリーナ(メイン:拳四朗 vs 京口)
オフィシャル・スコア:112-116×2,111-117
WBO J・フライ級王座挑戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=Cs8xRiBJ_YE

9歳(小学4年)で山本”KID”徳郁のジムに通い始めて、中学2年からボクシングに専念した岩田も、高校・大学で71戦のアマキャリアを積み、日本国内のスタンダードに照らせば充分過ぎる英才教育型の1人ではあるものの、プロ9戦での挑戦は流石に早過ぎたと言うべきか。


ボンバに苦杯を喫した後、フィリピンの中堅&トップクラスを4人立て続けに倒して復調。とりわけ良かったのが昨年1月のレネ・マーク・クァルト戦で、同胞のペドロ・タドゥランから2勝を挙げ、重岡銀次朗とも拳を交えて、9回終了間際まで粘った105ポンドの元IBF王者から4度のダウンを奪って6回TKOの圧勝。

小兵のクァルト(公称156センチ)は、強気でどんどん前に出ながら振り回す。元王者の積極果敢なファイター・スタイルは、岩田に取っておあつらえ向きの好都合でしかなく、致し方のないことではあるが体格差も目立った。

懸案事項のケアレスミス(うっかり被弾)はこの試合でも散見されたが、形勢を一気に逆転するほどの影響はなく、詰めに持って行く過程における不可抗力だと、陣営はそう判断しているのかもしれない。

◎試合映像:岩田 TKO6R クァルト
2024年1月20日/後楽園ホール
ttps://www.dailymotion.com/video/x8veozm


そうこうしているうちに、ボンバが体重苦を理由にフライ級への増量を表明。1位に付けた岩田に、持ち主を失ったベルトの争奪戦が決まる。時は昨年10月13日、場所は有明アリーナ。

翌14日と合わせた2日間に、中谷潤人,井上拓真(vs 堤聖也),田中恒成,ユーリ阿久井政悟,トニー・オラスクアガの5王者が相次いで登場する前例無き大興行。拓真 vs 堤のWBAバンタム級タイトルマッチをメインに、阿久井のV2戦が華を添える初日に、岩田の決定戦も組み込まれた。

2日目の露を払うWBOフライ級王者オラスクアガの挑戦者が、プロ初黒星を献上した因縁のボンバとくれば、闘志の炎は否が応でも燃え盛る。


対するもう1人のコンテンダーは、ランク2位で元欧州(EBU:WBC傘下)王者のハイロ・ノリエガ(スペイン)。2018年にプロ入りして以来、無傷の14連勝(3KO)を更新中の32歳。KOが少ないのは無理な深追いをしないからで、けっして非力な訳ではない。

2022年5月に獲得したEBUのタイトルは、防衛戦を一度もやらずに返上。そのまま防衛を続けていれば、WBC王者のパンヤ・プラダブスリ(タイ)に挑戦できた筈だが、昨年3月にWBO直轄の下部タイトルを獲り方針転換。

言葉が通じない上にまるで勝手を知らないタイへ行くより、スペイン語圏のプエルトリコで戦うのが賢明な選択ということなのか、タイ陣営に接触してみたが、どうも感触が思わしくなかったのか。

岩田戦の直前にニカラグァまで足を伸ばすと、パナマの中堅選手を大差の判定に退け、WBOのラティーノ王座を獲得。ボンバへと標的を変更する。


ノリエガと彼のチームが行った海外遠征はこの1回のみで、岩田戦が2度目の国外渡航だった。32歳のノリエガは162センチを公称していたが、会見や計量で163センチの岩田と並ぶと肩の位置が明らかに低い。

一晩のリカバリーを経た2人のサイズ(骨格)には、一目で分かるほどの違いがあり、立ち上がりから岩田は圧力を強める。戦前の予想通り、すばしっこいステップと身のこなしで岩田の圧をいなそうとするノリエガだが、時折放つ大きな左右はなかなかのキレとパワーを感じさせる。

岩田もノリエガの動き出しに素早く反応して、丁寧にステップを刻む。ノリエガのショートにはさほどの怖さはなく、第2ラウンドに入ると早くもプレスが効き始めた。するとノリエガが戦術を変える。岩田のジャブをかいくぐりながら、強打を振り回し始めた。

警戒を強める岩田。勢いを強めて乱戦に持ち込もうとするノリエガ。これに強打で応酬せず、岩田はジャブ&ステップの基本を変えない。


「そう、それでいい。パワーファイトに付き合う必要はない。ジャブさえ出していれば、踏み込んで来るノリエガにフックかアッパーをカウンターできる。」

そのジャブで、ノリエガの右目の下が赤くなった。時間の問題だろうと眺めていたら、左のリード右のオーバーハンドを合わせられてヒヤリ。しかしその後、右アッパーのボディが綺麗な角度とグッド・タイミングでノリエガのベルトラインを捉える。これは効いた。

ノリエガの強振は、思い切りがいいと言うより、”捨て身”に近い感覚。スタミナ配分には気を付けながらも、当たればもうけものとばかりに前へ出る。

思わず岩田の「貰い癖」が心配になったが、冷静に前後のステップとジャブで距離と間合いを外す姿に一安心。「これなら問題ないな。まずはジャブ。しっかり突いているだけでいい。ノリエガの方からフックとアッパーの射程に入ってきてくれる」と、画面への集中を増すと、続く第3ラウンド、早くも勝負の時が訪れた。


ノリエガは右のオーバーハンドを狙い続けるが、寸でのところで見切る岩田。目と反射だけでかわすのはリスキーだが、僅かでも頭の位置を変えることが重要。岩田のプレスに追い詰められながらも、断続的に反撃を続けるノリエガ。

岩田の右アッパーとノリエガの右フックが交錯。「危ない!」と声をあげそうになったが、岩田のスピードが優っている為、サイズのディス・アドバンテージと相まって、ノリエガの散発は射程を微妙に外し続ける。

ほぼ距離を掌握した岩田は、左右の強度をシフトアップ。しかし、スリーパンチ・コンビの最後の左フックが当たりそうになり、手応えを感じたノリエガがかさにかかり出す。しかし、岩田もジャンピング・レフト(アッパー or フック)で対抗。かつてのメイウェザーを思わせる飛び道具が出ると、ノリエガがカウンターのリスクを省みず強引に左右を振るって前進。

八~九分程度の力でブンブン振り回す為、まともに当たれば効く。迫力に押されて真っ直ぐコーナーまで下がり、クリンチで分断する岩田。落ち着いて対処できている。そして残り30秒付近だった。

右のショートアッパーで軽くノリエガの顎を跳ね上げると、パワーアップしたいきなりの右アッパーが炸裂。一瞬上体を伸び上がるように反らせたノリエガが、そのまま身体を折り曲げて倒れ込み仰向けになる。

倒れる際に岩田の右が軽くノリエガの後頭部に入っていたのと、上から押し潰すような態勢になっていた為、反則を取られやしないかと不安になったが、レフェリーのライル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)も良く見ていてダウンを宣告。スペイン陣営の抗議も無かった。


このまま終わるかと思ったが、ふらつきながらも立ち上がって再開。駆け出すように接近する岩田。ニュートラルコーナーでの待機中、セコンドから残り時間が少ないことを指示されていたに違いない。

円を描くように、ロープ伝いに逃げるノリエガ。最後は右アッパーから返す恐怖の左フックだった。ラウンド終了のゴングとほぼ同時に、背中からひっくり返るノリエガを見て、左手を振りながら脱兎のごとく駆け寄るラウル・カイズ。凄絶なフィニッシュに暫く声が出なかった。

◎試合映像:岩田 TKO3R ノリエガ
2024年10月13日/有明アリーナ
WBO J・フライ級王座決定戦
ttps://www.dailymotion.com/video/x979v6m

初挑戦の時にこのボクシングが出来ていたら、むざむざボンバの手練手管に篭絡されることも無かったと確信するが、手痛い敗北があったからこその進境と見るのが筋だと思う。


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◎ファイナル・プレッサー
<1>岩田


<2>サンティアゴ



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◎チャレンジャーは元暫定王者

マネージャーのマルガリータ・クルス(Margarita Cruz)、コーナーを預かるジョナサン・ロペス・サンチェス(Jonathan Lopez Sanchez/チーフトレーナー)に、カットマンのヘスス・マヌエル・アヤラ(Jesus Manuel Ayara)、さらにはジェシカ夫人も伴って来日した挑戦者は、32歳になるプエルトリカン。

2023年10月、ニカラグァの首都マナグァに渡り、地元のケヴィン・ヴィヴァスを最終12回KOにノックアウト。WBOの暫定王座を獲得した。

日本のオールド・ファンにとっても忘れ難い、ニカラグァ史上最大のボクシング・ヒーロー,アレクシス・アルゲリョの名前を冠したスポーツ・コンプレックス(大型の複合スポーツ施設)を舞台に、「WBOナイト・オブ・チャンピオンズ(The WBO Night of Champions)」と題された興行。

ボンバの防衛戦もメインで予定されていたが、インフルエンザによる発熱で戦う前に王者がダウン。本番2日前にギブアップしてしまい、タイトルマッチは中止。

セミの「サンティアゴ vs ヴィヴァス(WBOの下部タイトル戦)」をメインにするしかなくなり、WBOが急遽暫定王座戦への格上げを承認したというのが一連の経緯。

◎試合映像:サンティアゴ KO12R ヴィヴァス
2023年10月23日/ポルデボルティーヴォ・アレクシス・アルゲリョ(マナグァ,ニカラグァ)
オフィシャル・スコア(11回まで):108-101,106-103,105-104
WBO J・フライ級暫定王座決定戦
https://www.dailymotion.com/video/x8p8kgj


KO率が高いにも関わらず、サンティアゴもクィックネス重視のテクニカルなスタイルを持ち味にするボクサーファイター。黒人特有の柔軟性にも優れており、負けない為なら何でもやるボンバに比べると、遥かに正攻法で好感が持てる。

5ヶ月後の昨年3月2日、首都サンファンにある1万8千人収容の大会場(プエルトリコ最大の屋内施設)で、正規王者ボンバとのWBO内統一戦に臨み、小~中差の0-3判定負け。クリンチ&ホールド込みの安全策は、ジャッジの好みと主観によってポイントのマージンが揃わないことが多い。

試合を有利に進める為に、持てる技術と経験に知恵や工夫を総動員するのは、プロならずとも当たり前の所作ではあるが、その目的によって観客がが受ける印象は180度異なってしまう。


「負けないこと」を第一にするか、「明確に勝ちに行く」のか。

前者の代表格がバーナード・ホプキンスであり、ウェルター級に上げて以降のフロイド・メイウェザー・Jr.ということになる。

「”プロの裏技”を容赦なく駆使する+ルールの拡大解釈」、すなわち”ラフ&ダーティ”が最大の特徴ということになるが、キレかかった相手がスレスレの際どいパンチや対抗措置を取るや否や、オーバーアクションで派手に痛がり、時には反則勝ちまで拾いに行く。

大袈裟な田舎芝居はB-HOPとマネー・メイのお家芸だった。流石にそこまではやらないけれど、ボンバも彼らの系譜に連なる”やりにくい”タイプの典型。

日本語は実に便利なもので、”試合巧者”や”狡猾”、”巧妙”に”絶妙”から”達者”に至るまで、多種多様な表現があって言い換えが可能なのだが、要するに”ラフ&ダーティ”で事足りる。

サッカー業界でよく使う”マリーシア”に該当するテクニカル・タームが、ボクシングにもあればいいのにといつも思う。

◎試合映像:ボンバ・ゴンサレス 判定12R(3-0) サンティアゴ
2024年3月2日/コリセオ・デ・ホセ・ミゲル・アグレローテ(アグレロト/サンファン)
WBO内統一戦(正規 vs 暫定)
オフィシャル・スコア:117-111,116-112,115-113
WBO J・フライ級タイトルマッチ
※会場の名称:有名なコメディアン兼俳優に由来
https://www.youtube.com/watch?v=Qud0um0eUkk


念願の正規昇格を逃したサンティアゴは、へこたれることなく再起。昨年10月、ペルーの中堅選手を母国に招き、フルマークの3-0判定勝ち。WBOが認定するインターナショナル王座に就いた。

◎試合映像:サンティアゴ 判定10R(3-0) リカルド・アストゥヴィルカ(Ricardo Astuvilca)
2024年10月30日/コリセオ・マルセロ・トゥルヒーヨ(ウマカオ,プエルトリコ)
オフィシャル・スコア:100-90×3
WBOインターナショナル J・フライ級王座戦
※会場の名称:著名な政治家に由来
https://www.dailymotion.com/video/x98ok08


12勝9KO(4敗)の戦績とは裏腹に、1発のパワーには欠ける。勇敢に打ち合うファイトも辞さないけれど、力でねじ伏せるタイプではなく、技とタイミングで効かせてから連打でストップを呼び込む。

相手がタフで相応の技術&経験の持ち主だと、判定決着にならざるを得ない。ボクシングは正直かつクリーンで、マリーシア満載の仕掛けをふんだんに使うボンバのような嫌らしさはない。

ノリエガ戦と同様、岩田がしっかりジャブを突いて距離をキープしていれば、大事に巻き込まれる心配はまずないと考える。


◎サンティアゴの公開練習


直前の掛け率もかなりの差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
岩田:-950(約1.14倍)
サンティアゴ:+500(6倍)

<2>betway
岩田:-901(約1.11倍)
サンティアゴ:+550(6倍)

<3>ウィリアム・ヒル
岩田:1/8(1.125倍)
サンティアゴ:5/1(6倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
岩田:1/8(1.125倍)
サンティアゴ:7/1(8倍)
ドロー:25/1(26倍)


世界ランカーとは言っても、大口のスポンサーを持たない大多数がボクシング1本で食えないのが現実。洋の東西を問わない悲しむべき常識に従って、サンティアゴも安定した定職(大学の清掃員)に就いて家族を養う。

中~重量級に比して、圧倒的に低い報酬に甘んじなくてはならない軽量級でも、世界タイトルを獲れば確実に人生は変わる。防衛できずに負けたとしても、世界チャンピオンの称号は第二の人生をスタートする時に大きな助けになってくれる。

そうした意味において、暫定と正規には小さからぬ開きがあり、サンティアゴは必死になって勝ちに来る筈。ただし普段見せている積極性、リスクテイクを恐れない気の強さは、幾分目減りする可能性がある。

公開練習時のぶら下がりか、もしくは来日直後の会見のどちらだったか、「(破壊力は岩田に譲るが)技術はこちらが上」と発言していた。いつも以上にボックスを心がけて、ノリエガのように無謀な打ち合いに雪崩れ込んで自滅する愚は冒さない。十中八九、そういう意味が込められていると考えるべき。

どちらかと言えば、ボンバのやり方に近づく。あそこまでリスク回避を徹底できないとは思うけれど、誤魔化しの技も適度にまぶしながら、ボンバをもっとクリーンにして、打つべき展開においてはしっかり打つ。そして深追いを慎む。

とは言うものの、生まれ持った性分は容易に変えられるものではなく、岩田のプレスが効き始めた途端、強打を大振りして来る場合も十二分に想定される。逆に言えば、岩田の方からそうなるように仕向けて、アッパーのカウンターで致命傷を与えたい。

とにもかくにも、冷静であり続けることが何よりも大事。岩田にとって勝利への最短距離は、ジャブを突いて動き続けること。


◎岩田(29歳)/前日計量:107.8ポンド(48.9キロ)
戦績:15戦14勝(11KO)1敗
世界戦:2戦1勝(1KO)1敗
アマ通算:71戦59勝(16RSC・KO) 12敗
日出高校(目黒日本大学高校)→早稲田大
2013(平成25)年度インターハイL・フライ級優勝
身長:163センチ,リーチ:162センチ
※軽量後の検診データ
体温:35.6℃
脈拍:90/分
血圧:125/90
右ボクサーファイター


◎サンティアゴ(32歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
元WBO J・フライ級暫定王者(V0)
戦績:16戦12勝(9KO)4敗
世界戦:1勝(1KO)1敗
アマ戦績:不明
身長:160センチ
※軽量後の検診データ
体温:36.8℃
脈拍:72/分
血圧:131/72
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=uUoHSC4RdO4

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■オフィシャル

主審:ベン・ロドリゲス(米/イリノイ州)

副審:
モハマド・アクィル・タマノ(比)
スラット・ソイカラチャン(タイ)
ジョン・バジル(米/ニューヨーク州)

立会人(スーパーバイザー):リチャード・デクィア(米/NABO副会長)



 - タンク vs ローチ プレビュー -

カテゴリ:
■3月1日/バークレイズ・センター,ブルックリン(N.Y.)/WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 ジャーボンティ・ディヴィス(米) vs WBA S・フェザー級王者 ラモント・ローチ・Jr.(米)

小声で何か言い合うディヴィス(左)とローチ(右)

世界チャンピオン同士の対決。二昔前なら大事件である。

異なる階級の下の階級から上の階級のベルトに挑むとなればなおさらで、これでもかと煩悩を刺激されたマニアは血相を変えて勝敗予想に没頭し、試合展開を空想しては悦に入る。

がしかし、認定団体の増加と限界を超えた階級・ランキングの新設拡大に加えて、主に老舗のWBAとWBCによるチャンピオン・シップの乱脈運営が原因で、もはや単なる2~3階級制覇では誰も驚かない。

計画的かつ大幅なリバウンドが定着浸透した前日計量の影響も、よくよく考え直すべき大きな問題の1つ。階級制の意味を根底から覆すとまでは言わないけれど、リングインの時点で、いったい幾つ上の階級まで体重を増やし(戻し)ているのかよくわからず、アンフェアなハンディキャップ・マッチと化す可能性が懸念されるまでになった。

90年代半ば~後半に「主要4団体」と言われ出して以来、実に四半世紀を経て、ようやくトレンドを迎えるに至った「4団体統一」の意義深さを痛感させられる。


135ポンドのWBA王者に、130ポンドのWBA王者がアタックする今回のタイトルマッチも、イベントを主催するPBC(Premier Boxing Champions)とamazon primeの懸命のプロモーションにも関わらず、前評判は天文学的な数値の差でディヴィスに傾く。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
G・ディヴィス:-1040(約1.10倍)
L・ローチ:+2000(21倍)

<2>betway
G・ディヴィス:-2000(1.05倍)
L・ローチ:+900(10倍)

<3>ウィリアム・ヒル
G・ディヴィス:1/20(1.05倍)
L・ローチ:8/1(9倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
G・ディヴィス:1/16(1.0625倍)
L・ローチ:12/1(13倍)
ドロー:30/1(31倍)

1対21は幾らなんでもと思うけれど、1対10はごく当たり前の見立てになってしまう。それほどディヴィスのパフォーマンスは突出していて、135ポンドのランキングを見渡しても、まともに試合になりそうな候補がおいそれと見当たらない。

「シャクールが徹頭徹尾安全策に閉じこもれば、あるいは・・・」

お気持ちは十二分に察するが、判定まで持ち応えることができたら御の字なのでは。


ローチも上手い。それは間違いない。パンチの精度と上下に散らすコンビネーション、内・外をしっかり打ち分けるリードジャブの使い方、カウンターのタイミング等々、すべて一流の域と評して差支えのない上等な水準。

だがしかし、タンクと比較した途端、たちまちそれらは色褪せる。パンチもスピードもテクニックも、何もかもが平均的に見えてしまう。圧倒的な決定力の差は仕方がないにしても、ローチにとって生命線になるクィックネスにおいても、明らかにディヴィスを上回るとまでは言えない。

ディヴィスが本気で脚を使って動き、休まずイン&アウトを繰り返しながら、パワーセーブしたジャブ&ショートでリスクヘッジ&コントロールに徹したら、勝負になるのは全盛のロマチェンコしか思い浮かばない。一番いい頃のリナレスでも、判定決着まで粘れるかどうか。遅かれ早かれ、打たれ脆く回復力に欠ける顎を一撃されて撃沈。

ローチのように裏・表のない正直な正攻法は、トップクラスの選手たちにとって例外なく組し易いものに違いないが、とりわけディヴィスは何1つ脅威に感じていない筈。安全策を採ると攻撃力まで殺がれるシャクールとヘイニーも(ディヴィスにとって)大きな開きはなく、絶好調のタンクを追い落とすのは難儀に過ぎる。


突け入る隙があるとすれば、ディヴィスの余裕が油断にかわる瞬間。そこを狙うしかない。極めて困難かつ確率の低い勝負に賭けるのみ。

S・フェザー級時代のように、ディフェンスそっちのけでねじ伏せる力業に出てくれれば、ローチにも色々やりようはある。とは思うが、S・ライト級まで上げて増量の怖さを知り、無理を慎むクレバネスの効果を実感した今のディヴィスは、いよいよ手が付けられない領域にその足を踏み込んだ。

確か5~6年前ぐらいだと思うが、誰もが慣れ親しんだ”Tank”というあだ名を嫌がり、「ザ・ワン(The One)」を使っていたことがある。結局定着せずに終わり、お気に入りではなかった”Tank”に逆戻りしてしまった。

小柄な体躯をものともせず、疾風怒濤の勢いで接近しつつ豪快な強打で倒し切るスタイルを、在米ファンと記者は”小型タイソン”と呼ぶ。ありがちな話ではあるが、ディヴィス自身はタイソンとの比較がおきに召さなかったらしく、「オレは頭も使えるんだ。突貫ファイトで勝っているのは、今はそれで充分だからさ。その気になれば、何だって出来るんだぜ」と、アイアン・マイクが横にいたら、恐ろしい形相で殴りかかってきそうなことを平然と言い放つ。

「その気になれば何でも・・・」は、見栄っ張りでも嘘でもはったりでもなく、正真正銘の事実だった。

◎直近の試合映像
<1>ローチ
(1)ローチ TKO8R ファーガル・マクローリー
2024年6月29日/エンターテイメント&スポーツ・アリーナ,ワシントンD.C.
WBA S・フェザー級王座V1
https://www.youtube.com/watch?v=zNqIP3af1Qc

(2)ローチ vs エクトル・ガルシア
2023年11月25日/ミケロプ・ウルトラ・アリーナ,ラスベガス(ネバダ州パラダイス)
WBA S・フェザー級王座獲得
https://www.youtube.com/watch?v=JGZ1EY03rqc

<2>ディヴィス
(1)タンク KO8R フランク・マーティン
2024年6月15日/MGMグランド・アリーナ,ラスベガス(ネバダ州パラダイス)
WBAライト級王座V5
https://www.youtube.com/watch?v=stJH6XgImoU

(2)タンク vs ライアン・ガルシア
2023年4月22日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス
WBAライト級王座V4
https://www.youtube.com/watch?v=4dTzktjYIx4


「素速くヒットして、ボビング&ウィービングでかわす(I'm gonna chop, chop, bob and weave.)。(遅くとも)9ラウンドまでには終わらせる。本番のリング上で、互いの顎をテストしなくちゃな。ヤツは俺が倒してきた相手を、みんな打たれ弱い連中ばかりだと思ってるようだから、ちゃんとテストしてやるぜ。」

発表会見から最終会見まで、常に余裕綽々のディヴィス。対するローチは、節度を持った表現に止めて勝利を誓う。

「勝利を確信できなければ、そもそもここに居るべきじゃない。これまで相対した敵を全員痛めつけてきた。今回も同じだ。アンダードッグかどうかなんて(勝敗予想やオッズは)一切気にしない。私が勝つ。それだけだ。」

◎ファイナル・プレッサー

※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=osy6fuXYbW4


メディアを入れた公開トレーニングでは、どちらも好調をアピール。隠すべきところは隠して、ベーシックなミット打ちを披露するローチ。本気の動きでもパンチでもないが、相変わらずキレがいい。

相手が名うてのパワーハウスとあって、普段よりも力をこめて打って入るように見える。動作のチェック・確認を目的にしたルーティンのミットでは、シャープネスに注力したコンビネーションが冴えて、上々の仕上がり具合。

ところが・・・。才気走ったディヴィスのトレーニング映像を見ると、圧巻のスピードとバネ(瞬発力),そして反応の速さに唖然とするのみ。我らがモンスターの練習風景にもまったく同じことが言えるけれど、普通に優れているといったレベルではどうあがいても及ばない、到達できない境地が現実に存在するのだと思い知らされる。

◎公開練習
<1>ローチ

※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=Kf682Zs_piM

<2>ディヴィス(2025年2月上旬)



日々の地道な努力を忘れ怠った天才が、飽きずに懲りずに素直に毎日の練習に打ち込み続けた凡人に足元をすくわれ、栄光の座から滑り落ちる「ウサギとカメ」に類する逸話は、それこそ見にタコで聞き飽きた。

私生活のトラブルが耐えないディヴィスには、かつての鉄人タイソンに通ずる転落の図式が心配される。しかし、ことトレーニングと節制に関する限り抜かりは無い。長年コーナーを率いてきたヘッドコーチ,カルヴィン・フォードとの信頼関係は厚く揺るぎがない。

tディヴィス(左)とカルヴィン・フォード(右)
※初めて世界王座を獲った2017~2017年頃のディヴィスとフォード

1967年8月の生まれだから、間もなく還暦になる。最近の映像や写真を見ると、髭にも白いものが目立つ。

プレスのカメラがあるところでは、常にサングラスを離さず緊張感を漂わせていたが、映画「ミリオンダラー・ベイビー」で老トレーナーを演じたモーガン・フリーマンを思わせる、積み重ねてきた年輪がごく自然に醸し出す味わい深さが滲むようになった。

カルヴィン・フォード(最近の撮影)
※最近撮影されたフォード


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チームの安定感という点では、ローチもけっして引けを取らない。9歳の時に始まった実父ラモント・シニアとの二人三脚は、既に20年を超える。ロイ・ジョーンズ親子やメイウェザー親子のように、近親憎悪とも言うべき対立が表面化して袂を分かつ親子鷹も少なくないが、ローチ親子に破綻の兆候は見られない。

父のシニアと一緒にラモント少年の才能を育み、一流のプロへと導いた従兄弟のバーナード・”ブーガルー”・ローチ(Bernard "Boogaloo" Roach)が、2017年に52歳の若さで突然亡くなる悲劇に見舞われたが、磐石の体制にヒビが入ることなく、念願の世界タイトルに辿り着いた。

生まれはワシントンD.C.だが、育ったのはメリーランド州のアッパーマールボロという人口千人に満たない小さな街で、息子をプロとして成功させる為に、父は近隣のキャピトル・ハイツ(人口4千~5千人規模)にあるノー・エクスキューズと名乗るジム(No “X” Cuse Boxing Club)に通わせた。

このジムはローチ親子の根城となり、シニアが立ち上げたマネージメント会社の看板にもなっている(NoXcuse Boxing)。

ラモント・ジュニア(左)とシニア(右)
※ローチとラモント・シニア(典型的な親子鷹)

従兄弟でトレーナーのバーナード・ローチ(故人)
※2017年に急逝したバーナード・ローチ


王国アメリカのアンチたち(記者とファン)から、「弱いヤツとしかやらない」等々、いわれの無い口撃を受ける我らがモンスターと同様、ローチ戦を選んだディヴィスとフォードにも同様の批判が集まっている。

「どうしてもっとタフな相手とやらないのか?」

今のディヴィスの勢いなら、より大きな稼ぎが見込める大物とやりたいのはヤマヤマだろう。しかし強さが際立つにつれて、マッチメイクは難しさを増して行く。トップランク,ゴールデン・ボーイの2大プロモーションに、後追いのPBCと英国から襲来したマッチルームが加わり、四つ巴の勢力争いを繰り広げる中、サウジ・マネーという脅威的なオポジションも参入して、雲行き(先行きの見通し)は怪しくなるばかり。

「今この時に、ローチと戦う意味がどこにあるのか?」

口さがない記者にツッコまれたフォードは、苦しい胸中を隠して言い返す。

1.2人は優れたアマチュアで拳を交えたこともある旧知の間柄
2.ローチが強く対戦を望んだ
3.色々言われるが「素晴らしい戦い」に違いない
4.話題性のあるイベントはメリーランドのコミュニティにとってもプラスになる
5.眼前の敵。それがローチだ。

◎参考映像:アマ時代の対戦
Did you know Lamont Roach and Tank Davis fought twice in the amateurs
https://www.youtube.com/watch?v=Fa51nXVkSuw


2人はジュニアの時代に2度対戦があるとのことだが、ディヴィスの口から語られたのは、2011年8月に判定で勝ったという1試合のみ。いずれにしても、ディヴィスが16歳でローチは15歳だから、ほとんど参考にならない。

どんなに実力が乖離していると思われても、勝負事である以上番狂わせの可能性はゼロではないが、流石にローチには厳しいと言わざるを得ない。判定決着まで行ければ上出来・・・というのが偽らざる本音ではある。

原始的と呼びたいほどの荒ぶる野生と、最高水準にまで高められた技術的洗練の共存。我らがモンスターに匹敵するディヴィスの快進撃を見ていると、2007年~2010年にかけてのパッキャオを思い出さずにはいられない。

そのディヴィスを持ってしても、マリオ・バリオスを終盤のストップに追い込んだ140ポンドのパフォーマンス(2021年6月/WBA S・ライト級正規王座獲得)を見る限り、ウェルター級(147ポンド上限)へのスムーズな移行は難しそうだ。

身長とリーチ、スピード&クィックネスに決定(爆発)力・・・傍目にはパックマンとさほど変わらないと見えるが、デラ・ホーヤを一方的にボコった後、ハットンを衝撃的な即決KOに屠り、さらにはコットを血祭りに上げ、ナチュラルな147パウンダーのクロッティに続いて、デラ・ホーヤとメイウェザーが避け続けたメキシカン・トルネードことトニー・マルガリートも圧倒。

そしてあのモズリーを、序盤の1発で驚嘆・萎縮させてしまったマッハの踏み込みと左ストレートの突破力には、さしものタンクも1~2歩遅れを取る。今後、これまで以上にハードなフィジカル・トレーニングに打ち込み、肉体強化を図ればわからないけれど、現状を単純に比較するとそういう答えになってしまう。


唐突な引退宣言の裏にあるのは、彼の地のトップボクサーが常套手段にする(サウジ・マネーを見越した)条件闘争単か、それとも単なる気紛れか、有り得ないとは思うけれども冗談抜きの本音だったのか。

渦中の人物トゥルキ氏との関係構築について、御大アラム以上に慎重なアル・ヘイモンの動静を注視しつつ、今後の身の振り方を決める為のアドバルーン(観測気球)。個人的にはそう捉えている。


◎デイヴィス(30歳)/前日計量:133.8ポンド
現WBAライト級正規(V4),元WBA S・ライト級(V0/返上).元WBA S・フェザー級スーパー(第1期:V2/第2期:V0:返上),元IBF J・ライト級(V1/はく奪:体重超過)王者
戦績:30戦全勝(28KO)
世界戦通算:12戦全勝(11KO)
アマ通算:206勝15敗
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
ナショナルPAL優勝2回
ナショナル・シルバー・グローブス3連覇(ジュニア)
ジュニアオリンピック優勝2回
※アマ時代(シニア)のウェイト:バンタム級
身長:166(168)cm/リーチ:171(175)cm
※Boxrecの身体データが修正されている/()内はM・バリオス戦当時の数値
左ボクサーファイター


◎ローチ(29歳)/前日計量:135ポンド
現WBA S・フェザー級王者(V1)
戦績:27戦25勝(10KO)1敗1分け
世界戦:3戦2勝(1KO)1敗
アマ通算:100戦超(詳細不明/125勝15敗説有り)
2013年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2013年全米選手権出場
※階級;ライト級
2011年ナショナルPAL優勝
リングサイド・トーナメント5回優勝
身長:170センチ,リーチ:173センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=1i7ufxTu8hc


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■オフィシャル

主審:スティーブ・ウィリス(米/ニューヨーク州)

副審:
グレン・フェルドマン(米/コネチカット州)
エリック・マリンスキー(米/ニューヨーク州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)

立会人(スーパーバイザー):未発表





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