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KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 5 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)



■フルトンに完敗・・・122ポンドでの復活に見切り

そして翌2021年の年明け早々、武漢ウィルスの感染症から回復したフルトンが満を持してレオにアタック。東部の要所フィラデルフィアの伝統を継承する”クール・ボーイ(Cool Boy Steph:フルトンのニックネーム)”は、秀逸なディフェンス・テクニックに加えて、レオの活路となる筈の接近戦でも容易に優位を譲らず、大差のユナニマウス・ディシジョンでゴールテープを切る。

公称されている身長は1センチしか違わない(フルトン:169/レオ:168)のに、計量の時点で明らかにフルトンが大きい。海外のボクサー(マネージャー)は、1インチ程度は平気でサバを読むことが多く、レオもその例に含まれるのかもと推察。そしてフルトンの申告は、案外正確なのかもしれないなと感じた。

当日のリング上で向かい合った両者を見比べると、少なく見積もっても一回りは違う。いかにも黒人らしい、柔らかく上質な筋肉をまとった厚みのある上半身に、スラリと伸びる長く細い下肢。どちらかと言えばズン胴で、東洋人に近い体型のレオが可哀そうになるくらい、フルトンは完璧なアスリートに見える。


レオも頑張って内懐に潜り込み、果敢にコンビネーションを繰り出してはいたが、クール・ボーイの本領とも言うべき、クリンチワーク込みの老獪なディフェンスに絡め取られるだけでなく、フィジカルの違いにも吸収されて、効果の大部分を殺がれてしまう。

まともに貰っているように見えるパンチでも、ほとんど効いていない。素早い見切りと反応が実現する絶妙なスリップ&ウィーブを軸に、上体を僅かに傾けて相手のパンチを流し、必要に応じて使う大きめのダックとボブにステップワークを組み合わせる。

ハイリスクな至近距離では、クリンチ&ホールドによる回避がメインにはなるが、堅実なブロック&カバーもサボらない。一流のプロが操るディフェンス・ワークの妙・・・これは安直にまとめ過ぎで、「言うは易し行うは難し」を象徴する技術&ハイ・センスと言い換えておく。

◎試合映像:フルトン 判定12R(3-0) レオ
2021年1月23日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)
オフィシャル・スコア:109-119×2,110-118×1
WBO世界J・フェザー級タイトルマッチ12回戦

※フルファイト(一部省略・抜粋)
https://www.youtube.com/watch?v=yWW0J8yPxIg

◎フルトン戦の前日計量


フルトンに完封を許し、唯一にして初の敗北を喫したレオは、5ヶ月開けて同じウェイトで再起。ルイス・ネリーといい勝負をやってのけたメキシコの中堅ローカル・トップ,アーロン・アラメダに粘られ、スコアが示す通り苦しい2-0判定勝ち。

◎試合映像:レオ 判定10R(2-0) アーロン・アラメダ(メキシコ)
2021年6月19日/トヨタ・センター(テキサス州ヒューストン)
オフィシャル・スコア:98-92,96-94,95-95
ref: Gregorio Alvarez Jesse Reyes Randy Russell Eva Zaragoza
S・バンタム級10回戦(レオ:122ポンド/アラメダ:123.5ポンド)
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=ZlGcFJR4Nuc

◎アラメダ戦の前日計量


フルトンとアラメダの2試合に共通していたのが、明白なサイズのディス・アドバンテージ。想像以上にフィジカルの違いを実感させられたフルトン戦に続き、公称168センチのレオは、170センチ(Boxrec現在:168)のアラメダと比べても一回り小さく映った。

さらにもう1つ、自分より大きな相手に対して真っ正直に打ち合いを挑み過ぎる。出入り(はいり)のボクシングなど、ハナからほとんど頭に無い。技術戦になったらおよそ勝ち目のないフルトンに対して、速攻突撃するのはまだわかる。

例えば王座統一を懸けてフルトン敗れるダニエル・ローマン(2022年4月)だが、なまじボクシングが出来るがゆえに、駆け引きに応じて中途半端にお見合いの時間を増やし、クール・ボーイの土俵でアリ地獄にハマり込んでしまった。

レオはジャブもフェイントもそこそこに、一気に距離を潰して回転の速さに注力した連打を振るう。放っておいてもフルトンがクリンチするから、ブレイクを待って同じやり方をリピートする。これはこれで、立派な作戦ではあった。

ただし、中に入って密着した後もフルトンに堅く守られ、自信を持っていた強打のコンビネーションもフィジカルの差で中和されてしまい、目論みが完全に外れてしまったのが最大の誤算。


アラメダについては、リミット丁度を計測して秤を降りたレオに対して、123.5ポンドで計量したアラメダとのウェイト・ハンディを考慮する必要はある。計量時点で1.5ポンドだった乖離が、リカバリーを経てどこまで拡がっていたのか。

メキシコの中堅どころは、例外なく攻防の基本をしっかり叩き込まれていて、タフでしぶとく簡単に試合を諦めない。侮ると痛い目に遭う。とは言っても、フルトンほどの上手さがアラメダにある筈もなく、丁寧な出入り(はいり)からの波状攻撃を選択すべきだったと今でも思う。

ステップをまったく踏まない訳ではないが、短い間を置く為に使うのみ。サイドからの揺さぶりは皆無と表して良く、細かくフェイントを入れながらタイミングと角度に変化を付ける工夫も見られない。

結局、正面に立ち続けて打ち合いを仕掛ける以外にやりようがなく、そうなるとレオの守りには小さからぬ綻びが生じる。ディスタンスの長短にかかわらず、アラメダ(サウスポー)の左を貰って右眼をブラック・アイにされるなど、いい場面を作り切れなかった。

Leo_Black_Eye

9歳の時から恩師チャベスと父ミゲルの指導を受け、ジュニア&ユース限定ながらもニューメキシコのローカル・トーナメントで好成績を残したレオは、好戦的でありながらも、相応に脚も使って無駄に打たせ(れ)ない、伝統的なメキシカン・スタイルを基本にする。

本来なら青タンになるほど打たれることはないし、フルトンにもここまで酷くはやられなかった。バランス&柔軟性を優先重視するフルトンは、そもそも踏ん張って打たないのに対して、ある程度の力みは仕方がないと割り切って強振するアラメダとの違いが、レオの顔の腫れになって現れた。

「勝ったんだからいいじゃないか。」

そうしたご指摘もあろうかと思う。しかし、これだけ消耗の激しい戦い方をしていたら、蓄積したダメージの影響で早晩引退に追い込まれかねない。何より心配されるのは眼疾だが、ロペスと同じ悲劇も当然懸念される。

幸運に恵まれ無事に現役を終えてホっと一息ついた後、重大な健康被害に苦しむケースも皆無ではない。

20世紀のトップボクサーたちは、その多くが打たせずに打つ上手いイン・ファイトをこなしていた。数が少なくなる一方の現代のファイターは、例外なくディフェンスが粗くなっている。無駄に打たれ過ぎていい事は1つもない。


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■長いレイ・オフと転級・・・新たな環境で再出発

王座転落後に生じた長い中断は、直接的にはパンデミックによるものだが、イベントを手掛けるプロモーションの対応のバラつきとも無縁ではなかった。

トップランクはラスベガスのMGMグランドの協力を得て、5千名収容のボールルーム内に小さな無観客用の会場(数百名規模)を準備して興行を継続。我らが井上尚弥も、ボブ・アラムが「The Bubble」と命名したボクシング専門の小ホールに馳せ参じて、マイケル・ダスマリナスを強烈なボディブローで一蹴。

1万人超の大観衆を前に晴れのラスベガス・デビューとはならなかったが、ESPNの生配信を81万8千人(ニールセンが公表したアベレージ/瞬間最高値も同じ)が視聴。同じく5月にESPNが配信したジョシュ・テーラー vs ホセ・ラミレスのS・ライト級統一戦が記録した130万人(平均/第1位)に次ぐ堂々の第2位で、同日ヒューストンのトヨタ・センターで行われたジャーモール・チャーロ vs ファン・M・モンティエル戦(有観客)の33万3千(平均/瞬間最高:37万9千)を圧倒した。

マッチルームのボクシング部門を率いるエディ・ハーンも、ロンドン北部ブレントウッド(ウェンブリー・スタジアムとアリーナが有名)にある広大な自宅敷地内に、無観客を前提にした屋外リングを仮設。「HQガーデン」と名付けて、2020年8月に4回、2021年7月~8月にかけて3回の計7回興行を打っている。


メイウェザー一家はと言うと、予定していた興行を原則すべて中止にして、相当数の支配下選手を放逐する現実的な手段を講じた。レオも契約を打ち切られた中の1人だった。

「焦りはあった。この先どうなるのかって不安にもなった。でも、世界中のありとあらゆる人たちが、出口の見えない状況で苦しんでいる。そこはもう割り切るしかない。コンディションの維持に集中するしかなかった。」

天は自ら助くる者を助く。捨てる神あれば拾う神ありで、フロリダで成功した実業家ゲイリー(ギャリー,ガリー)・ジョーンズから声がかかる。

Garry Jones 2021-04
※ゲイリー・ジョーンズ(2021年4月)

フロリダのゲイリー・ジョーンズと言えば、2011年から12年にかけて、アクエンティ・スポーツ(Acquinity Sports)という興行&マネージメント企業のCEOに収まり、ボクシング界に参入した人物である。

自前の配信サービスも視野に入れて、新たなWEBサービスの開発と提供にも熱心に取り組んでいたのだが、アドレスを取得したユーザーに対して、無料のギフトカードを添付した大量のスパムメールを送りつけた上に、架空請求を目的とした詐欺サイトに誘導した嫌疑をかけられ、FTC(Federal Trada Commission/連邦取引委員会:米国の公取)から告発されてしまう。

対象となったのは、アクエンティ・スポーツを含む詐欺行為に関連した3つの企業で、総額1千万ドルの罰金を科せられた。ジョーンズは興行&マネージメント会社を休眠させると、以前から口説いていたマイク・タイソンを遂に担ぎ出し、「アイアン・マイク・プロダクションズ(新しいプロモーション)」を立ち上げる。

会社名義の口座と金庫はスッカラカンになったが、引き継ぐことができた人的資源(実働部隊)を現場で指揮していたのは、2008年頃から同じフロリダを地盤に活動していたヘンリー・リヴァルタというプロモーターで、ジョーンズとリヴァルタは罪に問われずに済んだらしい。

Team Iron_Mike
※左から:マイク・タイソン,ヘンリー・リヴァルタ,ゲイリー・ジョーンズ

悪質極まる犯罪行為に一切関わっていなかったのか、あるいはジョーンズとアクエンティ・スポーツも騙された側だったのか。この辺りは時間の都合で詳しく調べることができず、つまびらかな経緯と正確な結末についてはよくわからない。

プロモーターとボクシング・ビジネスをまったく信用していないタイソンを、よくもまあ引っ張り出せたものだと感心するが、その一方で「どうしてわざわざタイソンと・・・」と間逆の声が多数派だったとも記憶する。

ジョーンズによれば、各地で開催したプレ・イベントでのタイソンは、遅刻やすっぽかしも無くきちんと出席して、サイン会でもファンが最後の1人になるまで丁寧に対応した上、舞台裏で汗を流すスタッフへの気遣いを忘れず、「事前の心配事はすべて杞憂だった。マイクは常識をわきまえた真っ当なビジネスマンだ」と満点の評価を述べていたが、やはりと言うべきか、タイソンとジョーンズはすぐにソリが合わなくなり、程なくして活動停止に追い込まれた。


折りしも米国ボクシング界は、オスカー・デラ・ホーヤの右腕リチャード・シェーファーの造反と主力選手の大量離脱で騒然としていた。中核を担うウェルター級のランカーを始めとする数十名規模を受け入れたのが、メイウェザーのマネージメントで業界に隠然たる影響力を行使するようになり、影の大物と呼ばれていたアル・ヘイモン。

どの選手もゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(以下GBP)との契約満了に合わせて、順次PBCとの複数年契約を結んで行く。法的には何1つ問題はないが、あらかじめこの時を見据えて、母国スイスの一流銀行家だったシェーファーが、用意周到に計画した前代未聞の大規模な引き抜き工作である。

その為シェーファーは、あらかじめ目を付けた主力級を、1人残らずアル・ヘイモンとのマネージメント契約にサインさせていた。

飛ぶ鳥を落とすかのごとく、数年の間に全米最大規模に急成長したGBPは、一気に経営危機まで囁かれるなど窮地に陥る。急拡大したヘイモン一派に対抗する為、トップランクが一肌脱ぐ。パッキャオとドネアの争奪戦を繰り広げるなど、訴訟を繰り返して冷戦と呼ばれるほど対立が激化していたデラ・ホーヤとボブ・アラムが、急転直タッグを組み共闘路線に転換する。

「アラム+デラ・ホーヤ連合軍 vs ヘイモン一派」の抗争勃発は、タイソンとジョーンズの内輪揉めをいとも容易く吹き飛ばし、ジョーンズは完全に蚊帳の外へと追いやられた。


時を同じくして音楽業界から参入して来た50centは、ビジネス・パートナーとして信頼していた”マブダチ”のフロイド・メイウェザーと仲違いし、自らのセックス・スキャンダルが原因で自己破産。具体的に動き出す前に急停止してしまい、音楽ビジネスに精を出す必要に迫られた。

ラッパーとして50cent以上の成功を手にした他、スポーツ・バーのプロデュースやファッション・デザインにも手を伸ばし、ビヨンセのパートナーとなり、NBAとNFLを中心にしたスポーツ・マネージメントでも大きな成果を残したジェイ・Zも、ロック・ネイションの名前を冠したボクシング・プロモーションを立ち上げたが、カネロ vs ミゲル・コット,アンドレ・ウォード vs セルゲイ・コヴァレフ第1戦,ロマチェンコ vs リゴンドウ戦を共催した以外に目ぼしいイベントが無く、2017年以降活動休止状態となり、武漢ウィルス禍を契機にして、2020年にボクシング興行から撤退。

以前から噂が出ては立ち消えを繰り返してはいたものの、2大ケーブル局のHBO(2018年末)とShowtime(2023年末)が遂にボクシング中継から完全に手を引き、カネロとの超大型契約で全世界を驚かせたDAZNも、パンデミックの影響が大きかったとは言え、ボクシングの配信は必ずしも堅調とは言い難い。

アル・ヘイモン率いるPBC(Premier Boxing Champions)は、Showtimeの中継終了に伴い、amazon primeとの複数年契約を発表。トップランク=ESPN,GBP・マッチルーム=DAZNという具合に、一応の棲み分けは出来ている。

時を同じくして、音楽業界から成功した2人のラッパー,50centとジェイ・Zがボクシング興行に手を伸ばしたが、便りにしていた”マブダチ”のメイウェザーと仲違いした上に、自らのセックス・スキャンダルの追い討ちが重なり、本格指導する前に解散。音楽ビジネスの世界に戻って行った。

ジェイ・Zが投資したロックネイション・スポーツは、アンドレ・ウォード,ミゲル・コット,ギジェルモ・リゴンドウらを獲得してそれなりに成果を残すことできたものの、2017年以降事実上の休止状態となり、武漢ウィルス禍の被害が本格的に拡大した2020年に、これ幸い(?)とボクシング界からの完全撤退を決定。

ただしこちらは、スポーツマネージメント参入の最大の動機になったNBAとMLB、NFL,MLS(デヴィッド・ベッカムの加入で遂に全米の認知を得たサッカー)にラグビーを加えた5つのメジャー競技で、総勢100名を超える選手をハンドリング中。スポーツ・バーのプロデュースやファッション・デザインにも才能を発揮するジェイ・Zの眼には、ビジネスとしてのボクシングは将来性と魅力に乏しい、典型的な斜陽産業と映ったらしく、投資の回収は難しいとの結論に至った。

アル・ヘイモンも80年代に音楽プロデューサーとして一家を成した人で、エントランス(入場)のBGMや演出等に関する様々な相談を受けたのが、ボクシング興行に関心を持つきっかけだったらしい。

HBOで長く副社長を務めたケリー・デイヴィスも音楽業界からの転入組みで、芸能界とボクシング界の腐れ縁は、洋の東西と時代の別を問わない。


こうして、どちらかと言えば、先行きについて明るい話題がほとんど聞かれない2019年~2021年にかけて、ヘンリー・リヴァルタとゲイリー・ジョーンズがボクシング界に復帰してきた。

先に行動を開始したのはリヴァルタで、自身の名前を冠した興行会社(Rivalta Boxing)を興し、フロリダ州ACのライセンス認可を受けて、2019年3月から興行を再開。

フロリダ州内にオフィスを置くUSAテレムンド(スペイン語の配信プラットフォーム)や、「TikTok」の対抗馬として発足し、「タイソン vs ロイ・ジョーンズ」の実現に一役買ったトリラーTV(Triller TV)で配信も行ったが、パンデミックの襲来と時期が重なり、昨年までは年1回ペースの開催に止まっている。


片やジョーンズだが、とてつもない初期投資を行い、万全の態勢を敷いてのリスタート。ハリウッドから映像製作のプロフェッショナルをプロダクションごと買い取り、「ProBox TV」と名付けた配信プラットフォームをiOSとスマホ向けのアプリ込みで開発しただけでなく、ニュースサイトとして「Boxing Scene」を買収。

公式サイトと公式SNS、youtubeの公式チャンネルの準備はもとより、配信のメイン解説には、アナリストとして一定の評価を確立したポーリー・マリナッジ(140ポンドの元王者)を配して、2021年5月からライヴ配信(興行)をスタートさせた。

フロリダ出身のロイ・ジョーンズとアントニオ・ターバー(現役時代はライバル)、全米のボクシング興行を支える集客基盤に成長したヒスパニック(メキシコ)系コミュニティの顔としてファン・マヌエル・マルケスを招聘。解説に華を添えつつ、サブスクの登録ユーザー獲得にまい進(月額1.99ドルに価格設定)。



肝心要のライヴ配信プログラムは、「Contenders(コンテンダーズ)」と銘打ったシリーズを柱に、プロスペクトの発掘を目的にした「Future Stars(フューチャー・スターズ)」と題したイベントに、タイトルマッチとビッグ・ファイトを単発で打つ標準的な構成。

パンデミックがようやく落ち着きを見せ始めた2022年以降、ほぼ毎月1回の配信(興行も開催)を続けて、今年の7月以降は月2回ペースに拡大。ライヴ配信済みのイベントはアーカイヴとして残し、youtube公式チャンネルと公式サイトの両方(当然アプリも可)で無料視聴できる。


フロリダとも縁の深いプエルトリコ,ドミニカの選手を手掛けるミゲル・コットのプロモーションと正式に提携した他、ESPN(トップランク)とDAZN(マッチルーム&GBP),amazon prime(PBC)とも積極的に協調を図り、プレス・カンファレンスと計量,興行全体のハイライト限定ではあるが、カネロ vs バーランガ,ジャーボンティ・ディヴィス vs フランク・マーティンなど、わざわざ放映権を買って、上乗せ無しの月額1.99ドルの範囲内で無料公開する大判振る舞い。

ジムでの様子を含む舞台裏を捉えたドキュメンタリーなど、先行するESPN,DAZN,amazon primeに引けを取らないコンテンツ製作にも注力。


※業務提携の発表会見(2022年7月20日)/左から:ミゲル・コット,ファン・M・マルケス,エクトル・ソト(ミゲル・コット・プロモーションズ副社長)


今はとにかくコンテンツの充実に全振りしていて、コットも自ら手掛ける興行の放映権を提供するとの内容だった。従って、現在ProBoxが支配下選手として完全に掌握しているボクサーは、「Future Stars(フューチャー・スターズ)」の中軸になる若手数名のみのようだ。

メイン・コンテンツの「Contenders(コンテンダーズ)」は、月1~2回の定期放送「Wednesday Night Fights」と、不定期の「Live on ProboxTV(単発のタイトルマッチ)」の2本立てになっていて、ニコラス・ウォルタース,ジョセフ・アドルノ,サリヴァン・バレラらのオールドタイマーを起用。

新興のプロモーションには定石とも言うべき手法だが、彼らの全員と直接契約を結んだのかどうかはよくわからない。折角獲得したアンジェロ・レオを、敢えて複数試合契約を交わしてトップランクに任せる現実的な方法を採った。既存プロモーターとの共同保有を基本にしているように見受ける。

ヴェナード・ロペス vs レオのタイトルマッチは、ESPNから権利を買うことができず、「ProBox TV」での配信は出来なかった。レオが安定政権を築く公算は、ただ今のところは希少と言わざるを得ない。今後予定される防衛戦の配信については、今一度トップランクを通じてESPNと話し合うつもりではいるだろうが、望み通りの回答を引き出すのは難しいだろう。

トップランクとの契約満了まで持たず、レオが丸腰になって戻って来ることになっても、それでもジョーンズはマイナスとは考えていない筈だ。

Leminoが配信した井上尚弥の試合映像(日本国内開催/フルファイト)が、トップランク公式チャンネルのアーカイヴに載るまで1年かかっている。そこまで待たされることは無いと思いたいが、ESPNが配信するレオの試合映像もいずれOKが出て、ProBox TVのアーカイヴに載る可能性はあると思う。

ちなみに「Wednesday Night Fights」のネーミングは、ESPNの長寿看板番組だった「Friday Night Fights」に由来するが、大元を辿ると、1948年から1960年までのおよそ12年間、CBSとABCが中継を行ったボクシング番組の名称そのもので、筋金入りのマニアたちの心理をくすぐる効果も狙ったのは明々白々。


サブスクの登録ユーザーが増えて、経営が軌道に乗るまでの間は、若くてバリバリに元気なチャンピオンとランカークラスの獲得(直接保有とプロモート)はお預けといったところか。という訳で、今後も勝ち続ける前提にはなるが、レオのプロモートは引き続きトップランクが仕切る。


※Part 6(Final Chapter)へ


◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
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※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 4 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Leo

快心の左フックで世界チャンピオンに返り咲き、2つ目の階級で息を吹き返したレオ。クラスNo.1と目され、7月までのリング誌階級別ランキングでも2位(1位はS・フェザー級初戦を待つリー・ウッド)に付けていたロペスに勝ち、8月末の更新で入れ替わりの2位に上昇はしたものの、絶対的な存在では有り得ない。

◎リング誌フェザー級ランキング(9月7日更新:8月31日更新時に同じ)
https://www.ringtv.com/ratings/?weightclass=283
C:空位
1位:リー・ウッド(英/元WBA王者)※
2位:アンジェロ・レオ(米/IBF王者)
3位:レイ・バルガス(メキシコ/WBC王者)
4位:ニック・ボール(英/WBA王者)
5位:ルイス・A・ロペス(メキシコ/前IBF王者)
6位:ラファエル・エスピノサ(メキシコ/WBO王者)
7位:ブランドン・フィゲロア(米/WBC暫定王者)
8位:レイモンド・フォード(米/前WBA王者)※
9位:ロベイシー・ラミレス(キューバ/前WBO王者)
10位:ジョシュ・ウォーリントン(英/元IBF王者)
※130ポンドへの転出を表明済みのウッドとフォードの名前が消えないのは、まだ新たな階級で戦っていない為。S・フェザー級での初陣を終えた時点で、リング誌のランキング・ボードはフェザー級での投票を止める。


チーフ・トレーナーとして今もコーナーを支え続ける実父ミゲル・レオによって、9歳の頃からボクシングを叩き込まれた親子鷹。父ミゲルが愛息アンジェロに託した当初の夢と希望は、サッカー選手としての成功だったという。

「El Chinito(中国系/小さい・幼い・可愛いのニュアンスを含む)」のニックネームは、父方の曽祖父が中国からの移民だったことに由来する。

アンジェロとミゲル:レオ親子

フットボールよりもボクシングに興味を示したアンジェロを、父ミゲルは地域のコミュニティ・センターへ連れて行き、そこで教えていたベテラン・コーチ,ルイス・チャベスにヘルプを依頼し、本格的な指導育成に取り掛かった。

77歳になるチャベスは、レオの一家と同じくメキシコ系の移民で、アルバカーキを代表するボクシング・ヒーロー,ジョニー・タピアと激しいライバル争いを繰り広げ、ホームタウンの人気を二分した”キッド・ダイナマイト”ことダニー・ロメロのチーム・メンバーだった他、キャリア最終盤のタピアを破ったフランキー・アーチュレッタやリー・モントーヤら、同地出身の有望株を鍛えた筋金入りのトレーナー。

レオにとっては、一般的に言われるトレーナー,セコンド(いつでも交代変更が可能なアシスタントやカットマン)ではなく、メンター的存在と表すべきだろう。


「世界チャンピオンになりたい。」

10歳になったばかりのアンジェロ少年に、「オリンピックのメダルとプロのチャンピオンベルト。欲しいのはどっちだい?」と優しく尋ねるチャベス。幼かったチニートは、キラキラと瞳を輝せて答えたという。

「ボクシングのプロとアマはまったく別の競技と考えるべきで、トレーニングの内容も自ずと変わる。だから私は最初に聞くんだ」と、チャベスは地元紙のインタビュー等で語っていた。

レオが実際に憧れていたアイドルは、ロベルト・デュラン,シュガー・レイ・レナード,マイケル・カルバハルにマルコ・アントニオ・バレラだったそうで、それでもレオはこの類の質問に対して、ダニー・ロメロを加えることをけっして忘れない。

team Leo
※チーム・レオ/左から:ルイス・チャベス/アンジェロ・レオ/ミゲル・レオ(実父/チーフ)/ジョナサン・バルゲイム(ベルゲイム,バルガメ,ベルガメ等々カナ表記は様々/アシスタント:MMA選手のコーチとして地元では有名らしい)


プロの世界王者を夢見て・・・とは言え、9~10歳の子供が上がるリングはアマチュアの幼年クラスに限られる。アメリカのアマは年齢(2歳ごと)ごとに細かくクラス分けされていて、それぞれの年齢クラスに合わせて専門の指導者が付くが、チャベスはアンジェロ少年を初めから「プロ仕様」で育てた。

ニューメキシコのローカル・トーナメントでまずまずの成績を残し、中学の卒業を機に父ミゲルの指示で、アルバカーキに比べて格段に軽量級の競技人口が豊富なカリフォルニアに移る。ロサンゼルスの高校に通いながら、シニアに進んでロンドン五輪出場を目指すも、全国規模のトーナメントで思ったように結果を残せず、2012年11月に18歳でプロデビュー。

代表チームに召集されなかったレオに大手プロモーションからのスカウトは無く、レストランでアルバイト(ホールや厨房の手伝い)をしながら、タピアと人生をともにしたテレサ夫人が代表を努めるタピアズ・プロモーションズ(Tapias Promotion)など、ニューメキシコのローカル・プロモーションが手掛ける興行で下積みを開始。

最初に下したチャベスの判断が適切だったのかどうか、この点は賛否色々あると思う。「アマチュアのスタイルで長くやり過ぎると、プロに進んだ後で苦労する」と考えるトレーナーは、王国アメリカでも案外少なくない。

ルールを含むプロとアマの競技実態の乖離が拡大し出すのは、ヘッドギアの着用が義務付けられた1984年のロサンゼルス大会(旧ソ連・共産圏諸国がボイコット:モスクワ五輪の報復措置)だった。

この大会を頂点にして、五輪と世界選手権でアメリカは急速に勝てなくなって行くが、体格と身体能力に恵まれた優秀な黒人の若者が4大スポーツや陸上などのメジャースポーツを目指せるようになり、基本的な人材不足,人材の枯渇が最大にして根源的な原因(特に重量級)ではある。

競技人口に占める優れた素質の現象に加えて、階級に関係なく最終的な目標をプロでの(経済的)成功に置く、米国に特に顕著な背景と風土の影響も無視できない。年を追うごとに苦しくなる状況にあってなお、まだまだ選手層が厚い中量級に比べて、もともと黒人と白人が少ない軽量級は、メキシコとプエルトリコを中心にしたヒスパニック系移民が選手の供給源として定着。

ヘビー級と中量級のスケールに遥か遠く及ばないのはしようがないにしても、アメリカン・ドリームへの欲求は常に高く、アマの国際ルールに特化したスタイルと指導に取り組むコーチと選手は、ロシアとキューバの2トップを頂く旧共産圏と欧州に比べれば、その割合(数)は限定的(少数派)と言わざるを得ない。

長い歴史と伝統を誇るナショナル・ゴールデン・グローブスと全米選手権(旧AAUトーナメント)、ナショナルPALの米国内3大トーナメントでの実績があれば、五輪と世界選手権に出られなくても、大きなプロモーションから好条件のスカウトが望める。

プロの世界王者を目指して練習を続けて、運良く代表チーム入りが叶い、大きな国際大会に派遣されて勝ち上がれなくても仕方がないと割り切れてしまう。


デビュー後に連勝を続けて、有力プロモーションの目に止まる場合も勿論あって、レオにもチャンスが訪れた。2016年の1年間、ルーツのメキシコ国内で3連勝(全KO)を飾った後、1年超のブランク期間中にメイウェザー・プロモーションズと正式に契約。

フロイド・メイウェザーとレオ

ただし、アマチュアで目立った戦果を持たないレオに、中継(配信)の枠に入るカードはそう簡単に用意されない。メイウェザー一家のジムがあるラスベガスに移らず、アルバカーキを拠点にし続けたことも、まったく影響が無かったとは言えないだろう。

2017年11月の6回戦から2019年5月の初10回戦まで、中継に含まれない完全な前座で7試合をこなすと、六島ジムと契約して2012年~18年まで日本で戦ったマーク・ジョン・ヤップ(比/元OPBFバンタム級王者)戦が、ようやくメイウェザー・プロモーションズの公式facebookで配信された(他にも2~3試合を同プロモーションの公式youtube等で不定期に配信)。

一般のローカル・ボクサーや海外から移住してきた無名選手と同じプロセスを経て、ヤップ戦から3ヶ月後の更新でWBOランキング入り(9月度月例:14位)。

続く10月の月例で、スティーブン・フルトンが8位に登場。3~7位の5人をすっ飛ばして、2位に上昇したアーノルド・ケガイ(ウクライナ)とのエリミネーターが用意される運びになった。

参戦8試合目にして、レオはようやくPBC(Premier Boxing Champions)の中継枠に入る。2度の世界挑戦経験を持つセサール・ファレスを11回TKOに下し、NABO(WBO直轄の北米王座)のベルトを獲得。この勝利により、翌2020年1月の月例でWBO1位に大躍進。

近い将来の王者と見込まれるホープに課せられた、正真正銘タフなテストマッチ。本場のリングでは(本来なら日本でもどの国でも)、避けて通る事のできないプロとしての通過儀礼であり、この関所を突破せずして次のステージは有り得ない。

◎試合映像:レオ TKO11R C・ファレス
2019年12月28日/ステート・ファーム・アリーナ(ジョージア州アトランタ)
オフィシャル・スコア:99-89,97-91,96-92
北米(NABO/WBO)J・フェザー級王座決定12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=zGfZbkJSQYo


ところが、1月25日にブルックリンの新名所バークレイズ・センター(N.Y.)でフルトンがケガイに圧勝(大差の3-0判定)。2月の月例更新に合わせて、指名挑戦権を獲得したフルトンが1位になり、レオは2位に後退する。

そしてパンデミックの急拡大に伴い、WBOは2020年3月~7月までランキングの更新を停止。武漢ウィルス禍による最大の被害国となったアメリカは、それでも州の独立性を重んじる国家体制は不変。経済の停滞に対する許容の度合いは、州ごとに対応がバラつく。禁忌とされた音楽とスポーツイベントも、無観客での開催を減速にしながらも、一定数の客を入れた開催を許可する州もあった。

厳しい制限下にあってなお、ボクシング興行にも少しづつ動きが出始め、WBOがフルトンとレオに承認済みの王座決定戦(S・フェザーへの階級アップを理由にエマニュエル・ナバレッテが放棄)が、自粛明けのPBC興行第1弾に組み込まれる。

ところが、本番直前のPCR検査でフルトンがCovid-19の陽性が判明。開催地コネチカット州出身のアマ・エリート,トラメイン・ウィリアムズ(19勝6KO1NC/アマ通算:97勝10敗)が急遽代役に呼ばれることに。


プロ入りに際してトップランクと5年の長期契約を結んだ小柄な黒人サウスポー(公称163センチ)は、2014年1月23日に参戦を予定していたMSG興行の2日前に、武装強盗に加わった疑いで逮捕収監され、無実を訴え続けたが有罪が確定。2年半の実刑に処された。

幼少期から指導を受けたコーチ、ブライアン・クラークら周囲の尽力とウィリアムズ本人の努力により、1年に短縮された刑期を終えて仮釈放されると、Jay-Z(著名なラッパー,音楽プロデューサー/ビヨンセのパートナー)が出資した新興プロモーション,ロック・ネイション・スポーツの傘下に迎えられ、キャリアをリスタート。

カリフォルニアの元プロスペクト.クリストファー・マーティン、大ベテランのメキシカン,へルマン・マレス、L・フライ級の元WBA暫定王者で、井岡一翔やミラン・メリンドと対戦した他、階級を上げてジェルウィン・アンカハスに挑戦したり、アストン・パリクテにも敗れたホセ・ロドリゲス(メキシコ)、ドミニカのローカル・トップ,イェニフェル・ビセンテらを破って復調。千載一遇のチャンスを得た。


ナバレッテの後継王者と目されていたのは無論フルトンで、2位のレオと6位のピンチヒッターへの期待値は正直なところ低かったが、サイズで上回るレオのプレスが利いて、待機型で駆け引き重視のウィリアムズに大差の3-0判定勝ち。宿願だった世界タイトルに辿り着く。

◎試合映像:レオ 判定12R(3-0) T・ウィリアムズ
2020年8月1日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)
オフィシャル・スコア:118-110×2,117-111×1
WBO世界J・フェザー級王座決定12回戦

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=LEsN9diP8l8

ウィリアムズも地元ファンの声援を背に良く頑張ったが、「マイティ・ミゼット(The Mighty Midget)」の二つ名を、この時ほど重く辛く感じたことは無かったのではないか。その後もフェザーに留まっていたが、昨年4月の復帰2戦目で、オクラホマの黒人ホープ,イライジャ・ピアース(27歳/20勝16KO2敗)に10回0-3判定負け。

公称173センチのピアースはやはり大きく、レオ戦よりもさらに体格差が際立つ。ウィリアムズは二回りぐらい小さくて、身体負けが顕著だった。ただ、ピアースにも「おおっ!」と思わず感嘆せずにいられないパンチや手足の速さ,身のこなしなど、強く人目を惹き付ける特徴は見当たらず、地域王座の突破に四苦八苦するローカル・トップが精一杯か(失礼)。

世界に打って出ようというボクサーなら、ローカルレベルにおけるこの程度の体格差は、さほど苦労せずに克服しないと先はどんどん細り厳しくなる一方。日本がベルトを独占(あくまで今のところ)するバンタムに下げても、4強+1(天心)の攻略は極めて難しい。

115ポンドのS・フライ級まで絞ってコンディションの維持が可能なら、かなりの明るさで雲間から光明が射すと思う。それでもなお、黒い雲は完全に胡散無償しないだろう。

ピアース戦以降実戦から遠ざかっていたが、「Team Combat League(TCL:チーム・コンバット・リーグ)」という、全米各州コミッションが未承認(非公認)のボクシング興行に参戦。米本土でDaznの配信リストに載っているだけでなく、日本国内でも物好きなAbemaが食い付いているが、コミッション非公認の草興行であることに変わりはない。

そして、レコードブックに掲載されることのない戦いを選択したウィリアムズの身に、不測の事態が発生してしまった。この一件については、別記事にて後日あらためて触れる予定。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 3 -

カテゴリ:
■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Vansdo

ボクサーとして致命的とも思える事実が判明してもなお、早々に復帰宣言済みのロペス。半年後(来年の早春)に予定される再検診の結果(主治医の所見)次第にはなるが、今後の展望はやはり不透明と言わざるを得ない。

最初の章で指摘した通り、ライセンス許可に関わる健康面の問題ではなく(MRIをクリアすればメキシコ国内での再起は既に認められたも同然)、純粋にロペスのマネージメントに起因するもので、2人いる共同マネージャーの1人、エクトル・フェルナンデスが否定的な見解を示している。

「大概のプロモーターは、レコードに大きなキズが付いたボクサーを使いたがらない。仕方のないことだが、(ファンの)誰もが完璧な戦績を求め、完璧なファイターを望む。」

「まずは、半年待ってMRIの再検査を受けること。担当の医師がOKするまで、彼をリングに上げることは無い。どんなオファーが来ても断るつもりだと、彼とチームには伝えてある。」

「経済的な問題は重要だが、命には代えられない。我々(マネージャーとチーフ・トレーナー)は、預かっているボクサーのキャリアを進めるのと同時に、彼らを命の危険から守る義務も負っている。」

「負ける覚悟なら出来ている。毎度のことだ。でも、今度の事は余りに酷過ぎる。本当に受け入れ難い。それが誰だろうと、こんなことがあってはならない。」

venado_manager
※ロペスとエクトル・フェルナンデス・デ・コルドバ(共同マネージャー)


※左から:ロペス/ルイス・ネリー/”キキ”の愛称で呼ばれるルイス・エンリケ・マガーニャ(共同マネージャー)

激しいフィジカルの接触が不可避なコンタクト・スポーツは、たった一度のアクシデントによって、競技人生を根こそぎ奪われるリスクを常に孕んでいる。その危険性と発生の確率等々、科学と医学の進歩に合わせて、終わりのないルールの整備と改訂は続く。

レフェリングやコーチングは勿論のこと、日々のトレーニング・メニューから用具の1つ1つに至るまで、新しい技術や理論も採り入れながら、日夜改善への努力も継続されるけれど、それでも事故を根絶することはできない。

中でも恐ろしいのは、首(頚椎)と腰(脊髄)へのダメージであり、膝や足首などの関節に関わる部分の故障だが、人間の急所(頭部と上半身の前面)を直接殴打し合うボクシングは、脳と眼に取り返しのつかない損傷を負う可能性を前提に戦うという点で突出している。

顕著な障害を伴う重大事故に遭わずに済んでも、引退後に言語障害や眼疾を発症したり、運動機能に支障をきたすなど、現役時代に蓄積したダメージが後になって顕在化する場合も珍しくない。

幸運にも軽い程度で済み、日常生活に支障をきたしていない今だからこそ、現役に見切りを着けるべきとの忠告は傾聴に値するが、「辞めたくても辞められない。それがボクシングの一番の恐ろしさ」だと、2度の世界大戦に見舞われた大昔から、連綿と言われ続けてきた。


古くなって傷んだ各地にあるモスクの修復と、建て替え・新設をライフワークの1つにしていたモハメッド・アリは、資金を得る為に周囲の制止を振り切って無謀な復帰戦を行い、宿痾となったパーキンソン病を悪化させ、四肢と言葉の自由を失ってしまう。

アリは40年近く病魔と闘いながら、事情が許す限り公の場にも姿を見せて、多くの人々に笑顔と安息を与え続けたが、2016年6月3日に入院していたアリゾナ州内の病院で天に召された。

今や世界有数のトレーナーとして知られるフレディ・ローチも、選手としてキャリアの最晩年を迎えたある時期、強固に引退を主張して譲らない恩師エディ・ファッチの下を去る。他のトレーナーと契約して現役を続け、アリほど症状は深刻ではないが、同じ病に悩み苦しむ運命を背負うことに。

「エディの忠告通りすぐに辞めていたら、こうはならずに済んだかもと思うことはある。自分はまだやれると信じていたから、どうしても素直になれなかった。あの時辞めていても、結局は同じ事になったかもしれないが、エディと別れた後にやった4~5試合は、きっと余計だったんだろう。」


開頭手術を受けたことが判明しただけでなく、致命的な敗北を喫したにも拘らず、その後も現役を続けてチャンスを得られ続けたマルコ・アントニオ・バレラのようには行かないかもしれないが、今回のKO負けによって、ロペスの商品価値が完全に消失した訳ではない。

ネバダかカリフォルニア、もしくはテキサスでライセンスが認められれば、トップランクはこれまで通りロペスを興行に呼ぶだろう。そして内容と結果が思わしくないと判断されても、同じか近い階級にいる子飼いのプロスペクトの踏み台としての用途は残る。

そこでドヘニーのように一定の成果を上げれば、一発逆転の目がゼロではないけれど、大体はボロボロにされてジ・エンド。骨の髄までプロモーターにしゃぶり尽くされて、ようやくお払い箱。


カス・ダマトがドン・キングを蛇蝎のごとく忌み嫌い、ボブ・アラムを「北半球で最もダーティな男」と口を極めて罵り、「ワシの目が黒いうちは、大切なマイク(タイソン)をヤツらのいいようには絶対にさせない」と、天下の2大プロモーターを忌避し続けた気持ちもわからなくはない。

だが、政治力と資金力を併せ持つ興行師が、プロボクシングの世界にどうしても必要な存在であることも現実。複数年に渡る独占的な専属契約を結ぶかどうかは、1歩間違えれば飼い殺しにされるリスクを天秤にかけた上で、冷静な観察と熟慮が必須になる。

それでもなお、腕と目が利いて交渉力があり、多くの人たちと協調しながら、目的達成の為にハードワークを厭わないプロモーターのバックアップは、ボクサーが持てる才能に相応しい環境と運を引き寄せる為に、信頼できるチーフ・トレーナー(チーム・リーダー)とともに欠かすことができない。

凄絶なノックアウトで丸腰にされ、脳出血が判明したロペスに対して、「お前はもう用無しだ。五体満足でいられるうちに辞めるのが賢明」なのだと、冷たく三行半を突き付きけたのではなく、プロボクシングの裏も表も総てをひっくるめてた、ベテラン・マネージャーの換言なのだと受け止めておきたい。

Orijinal Team Lopez
※チーム・ロペス/左から:アルマンド・バレンスエラ(共同トレーナー)/ロペス/ラファエル・ロハス・エレラ(フィジカル・コーチ)/ファン・ベタンコート(共同トレーナー)
※今回ヘッドの重責を任されていたのはベタンコートではなくバレンスエラ

ESPN(スペイン語による配信)のインタビューを受けた際、「(予期せぬ結果に)さそがし驚いたのではいか?」と聞かれ、フェルナンデスは次の通り答えたという。

「ボクシングや格闘技のバックボーンを一切持たず、ストリート・ファイトの経験しか無いサッカーに熱中するだけの青年が、二十歳を過ぎてからジムに通い出してプロになり、誰も想像すらしなかった世界チャンピオンになって3度もベルトを防衛した。こちらの方が、私に取っては遥かに大きな驚きだよ。」

「既にヴェナードがやり遂げた成功は、それ自体が奇跡的と称されるべきだ。」

イタリア系の売れない一俳優に過ぎなかったシルヴェスター・スタローンがインスピレーションを受け、大ヒットを飛ばして人生を一変させた映画「ロッキー」のモチーフにした、チャック・ウェプナーとタメを張れるぐらいのサクセス・ストーリー。フェルナンデスが言いたかったのは、多分そうした類の逸話に違いない。

だから「もう充分じゃないか」と、そちらの方向に誘導するつもりでは無いと思うけれど、検査結果を聞いたフェルナンデスが受けた衝撃は、それほど重く厳しいものだった。

そしてマネージャーのフェルナンデスは、アシスタントの1人として自らも必ずコーナーに入る。おそらく毎試合、欠かさしていないと思う。

カウントアウトの直後、ノンビリ歩きながら問診に向かうドクターと役員と思しきスーツ姿の男性2名が、ダメージの深いロペスが誰の力も借りずに1人で立ち上がり(!)、彼らが持参した椅子に自力で座るのを待つ(!!)その脇を疾風のごとく駆け寄って、前のめりに再び倒れそうになったロペスの身体を大急ぎで抱えていたのもフェルナンデスだった。







レフェリーのアーニー・シェリフだけでなく、ニューメキシコの試合運営の酷さとリングドクターの非常識には驚き呆れるばかり。ロペスは是が非でもレオにリベンジしたいだろうが、来春希望通りに再起が叶い、米国内でライセンスを認可されても、二度とニューメキシコ州内で戦うべきではない。

レオ陣営がアウェイでやる訳がない?。どうだろう。ロペスの再起について可否が判明する頃、IBFのチャンピオンが交代している確率は結構高いと思うのだが・・・?。


Kay Koroma
※ケイ・コロマ(シャクール・スティーブンソンのチーフ・トレーナー)とロペス

ロペスのチームは非常に大所帯で、マネージャーとヘッド格のトレーナーがそれぞれ2人づついて、さらに数名のアシスタントが常に帯同してトレーニングを行う。

普段は地元メヒカリにある老舗ジム(Gimnasio Polideportivo/ヒムナシオ・ポリデポルティーヴォ:総合型のスポーツ・センター)で日常的なジムワークを行っているが、2023年5月のマイケル・コンラン戦に備えて、シャクールやジャレット・ハード,ミカエラ・メイヤー(最近離反した)らのコーナーを歴任し、長くアマチュアの米国ナショナル・チームをサポートしてきたケイ・コロマの指導も仰ぐようになった。

ただし、コロマの本拠地があるヴァージニア州アレキサンドリアではなく、米国アマチュア・ボクシング界の重鎮,老匠ケニー・アダムスが今も教えるラスベガスのDLXジム(DLX Boxing)を間借りして、追い込みのトレーニング・キャンプを行う。

何かと話題になることが多いアンヘル・メモ・エレディア(メモ・エルナンデス:バルコ・スキャンダルで大物アスリートの禁止薬物使用を証言したPEDのオーソリティ)のフィジカル・トレーニングも受けたと報じられている。

メモ・エレディア(エルナンデス)は一連のスキャンダルで明らかになったドーピング違反を主導した1人として、張本人のビクター・コンテらとともに逮捕収監されたが、司法取引に応じて刑期を大幅に短縮された。米本土での活動を禁止され、釈放後は母国メキシコに戻り、ボクサーや総合格闘技のプロ選手を対にフィジカル&ストレングスのトレーナーとして成功。

打倒パッキャオに異常な執念を燃やし、ウェルター級に本格参戦したファン・M・マルケスの驚異的な肉体改造を実現した他、カネロのチームとも深い親交を結ぶ。どうやら米国での仕事も可能になっているようだが、ライセンス申請を行った州と時期などは不明。


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■群雄割拠ならぬ本命不在・・・フェザー級戦線の現在(いま)

昨年12月9日、フロリダでロベイシー・ラミレスが、破格のサイズ(185センチ)を誇る痩身の巨人ラファエル・エスピノサに、逆転のダウンを奪われ大番狂わせの判定負け。高齢を押して来日を繰り返している御大アラムだけでなく、「あれなら(問題なく)勝てるよな」と大いに乗り気な様子を見せた大橋会長が、井上尚弥との激突を匂わせていた矢先の出来事に、「126ポンドのラス・ボス敗れる」的な喧伝を、自らのyoutubeチャンネルで行う国内ボクシング関係者もいた。

続いて今年の3月2日、体重苦を理由にベルトを返上したリー・ウッド(英)の後継王者を決めるエリミネーターが、N.Y.州ヴェローナのインディアン・カジノで行われ、デリク・ゲイナー(フレディ・ノーウッドからWBA王座を奪取/ファン・M・マルケスに譲る)を最後に、この階級には絶えて久しい黒人スピードスター候補として注目を集めるレイモンド・フォードが、ウズベク出身の万能型オタベク・ホルマトフとのサウスポー対決に挑み、最終12ラウンド残り10秒のTKO勝ち。

11ラウンドまでのスコアは、2-1(106-103×2,104-105)でホルマトフを支持。複数回のカウンターを効かされたホルマトフが、ノックダウンの大ピンチをフォードに抱きついてしのぎ、振り回されての転倒をスリップ裁定に救われながら、反撃にこだわり過ぎて最後の最後でまたカウンターを浴び、背中を向けて走り出してニュートラルコーナーに詰まり、逃げ場を失ったところでレフェリー・ストップ。

クリンチ&ホールドで時間を使わず、堂々と打ち合って勝とうとしたプライドと心意気は当然買うけれど、あと10秒・・・を考えると、瞬断的に使う数回程度のホールディングなら、問題なく許容されたのではとも思う。

物凄く簡単にまとめてしまえば、スコアリングに対するコーナーの”読み”も含めた「プロの実戦経験不足(13戦目)」に集約されてしまうが、無理に打ち合って墓穴を掘るケアレス・ミスは、フォード(17戦目)にもまったく同じ事が言える。


2016年のユース世界選手権(サンクトペテルブルグ/ロシア)で、フライ級の銅メダルを獲得したホルマトフは、同じ年のアジアユース選手権(パヴロダル/カザフスタン)でもL・フライ級に出場して銀メダルを獲り、ジュニア&ユース限定ながら国内選手権も制したトップ・アマ出身組み。

フォード戦を前にトップランクとの正式契約もリリースされ、ロベイシー・ラミレスとのエリート対決(WBOとWBAの2団体統一戦)が既定の路線となっていた。

ホルマトフを劇的なTKOに下したフォードには、「126ポンドのNo.1」に推す声が上がるなど期待値がさらに上昇するも、本人とチームが「ウェイトの維持が困難」だと、決定戦の前から階級アップに言及。

すぐにでも返上を表明するのかと思いきや、傘下に入っているマッチルームUSAのオファーに応じて、6月1日のリヤド興行に参戦。マッチルーム本体が強力にバックアップするイングランドの小型攻めダルマ,ニック・ボール(英)の突貫アタックに苦しみ、1-2のスプリット・ディシジョン(113-115×2,115-113×1)を失い王座転落。

フォードの勝利を信じるファンの間で、スコアリングに対する不満と批判も聞かれたが、足を止めてボールの土俵で勝負に応じる戦術選択のミスは相変わらず。過度な減量が祟って足が動かず、他にやりようがなかったのかもしれないが、この人が持つ速さの本領は、ゲイナーのようにフットワークも込みのスピードではなく、瞬時に小さく鋭く動く反応(シャープネス&クィックネス)に限定されるようだ。

「勝敗に関係なくこれがフェザー級のラストマッチになる」との意思をあらためて示したフォードは、ウッドの後追いでS・フェザー級への転出を決めた模様。

こうして「クラス最強」のお鉢が回ってきたロペスも、122ポンドでフルトンに完敗したレオに、圧巻のワンパンチ・フィニッシュを許しKO負け。

「フェザー級は違う。強い王者が次から次へと負けて行く。井上は自身が述べている通り、S・バンタムに止まった方がいい・・・」

とまあ、そんな声がチラホラ聞こえてくる。詳しくは章をあらためて述べるが、私はまったくそうは思わない。井上とクロフォード、パンデミックに襲われる以前のGGGように、誰もが納得せざるを得ない絶対的な強さを持つ大本命がいない。日替わりで4番打者が入れ替わる、プロ野球の猫の目打線のような状態だと考えている。

そうした意味において、井上尚弥が本当にフェザー級を目指すのであれば、加齢による衰え(反応と回復力の低下=特に膝と足首など下半身の故障が怖い)を考慮しても、むしろ急いだ方がいいのでは。小さいとは言い難い課題も、見え隠れはするが・・・。

レイ・バルガス(WBC)とディヴィーノ・エスピノサ、ようやく再起戦が決まったフルトンらを含めた詳細は、次章以降にて。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
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※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血 /レフェリングの是非について批判も・・・本人は再起を明言 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 2 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)


”大”の一字を付けて然るべきとまでは言わないが、番狂わせと呼んでいいだろう。フェザー級最強ともっぱらのチャンプに、アンダードッグとして挑んだ地元のチャレンジャーは、実に上手く戦って勝利を引き寄せた。

阿部麗也との前戦(3月2日/N.Y.州ヴェローナ)に触れた際、ロペスに対して「過大評価」だと辛口の見解を述べたし、戦前のオッズほど両者の力量に差はないと思ってはいたけれど、立ち上がりのレオは、想定し得る中でも最高最良の滑り出しだったのではないか。

丁寧に後退のステップを踏んで距離のキープに努め、ラフに攻め続けるロペスのガードの隙を、スピードに注力した軽めのコンビネーションでしっかり叩き、機を見て強めのパンチも入れて行く。

打ち終わりの処理(頭と足の位置)に気を抜かず、パワーも抑え気味にして、いい当たり方をしても深追いはしない。打ち気に逸るロペスが出てきたら下がり、出て来ないと見たらすかさず前に出て先に打つ。


レオも充分に好戦的なタイプだけに、打ち合えると考えていたに違いないロペスは、思惑が外れた格好。少し拍子抜けした様子も伺えたが、レオの出入(はい)りに手を焼き、思うように狙ったパンチが当たらない。そして手数はともかく、命中率はかなりの差を付けられ後手を踏む。

自信を持ったチャレンジャーは、前半の終わり~中盤にかけて、自から接近してインファイトも混ぜ始めたが、一度狂ったロペスの感覚は容易に通常運転モードに戻らず、得意なクロスレンジでも五分に近い展開を許してしまう。

◎主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
L・A・ロペス:-450(約1.22倍)
レオ:+350(4.5倍)

<2>betway
L・A・ロペス:-500(1.2倍)
レオ:+350(4.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
L・A・ロペス:2/9(約1.22倍)
レオ:10/3(約4.33倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
L・A・ロペス:1/4(1.25倍)
レオ:15/4(4.75倍)
ドロー:20/1(21倍)

それでも距離が近づくと、数は限定的でもロペスもパンチを当ててくる。パワーショットの見映えの良さで、ラウンドを取られたら取り返す。レオのステップを速やかに追い切れずとも、しぶとく食い下がって無理やりにでも自分の時間帯を作り、簡単に流れを譲らない。持って行かせない。

「手数&プレッシャーのロペス vs 精度+守りのレオ」

まずは打撃戦を回避して、ロペスに追わせる。もともと粗い攻防のキメが、攻め急ぎで一層雑になり、ルーズガードもよりルーズさを増す。そこを抜け目なく突き、先手で動き続けてロペスのリズムとテンポを乱す。


作戦が図に当たった挑戦者陣営に対して、王者陣営は前進あるのみ。少々打たれても気にせず圧力をかけ続け、強打を振るい続ける。ジャブと崩しの省略もいつも通り。焦りがまったく無い訳ではないが、「そのうち崩れる。問題は無い」との認識&自信を揺るがせにしない。

中盤に入ると、強打の交換が増える。ロペスの時間帯だ。挑戦者陣営はそれも折りこみ済みで、好調なスタートの裏付けとなったステップアウトへの回帰を忘れず、しかし勇気を奮うステップインも繰り返して、力で押し返すリスクと労を惜しまず奮闘する。

両雄ともに疲れが顕在化し出す。拡大する打ち終わりの隙を狙ってパンチを放つ。打ちつ打たれつの鬩ぎ合いは、本来王者の土俵。こうなると、ロペスのしつこさが活きる。拮抗した攻防のそこかしこに、ようやく”らしさ”が出て勢いづくロペス。

レオも引き下がらない。苦しく厳しい状況は覚悟の上とばかりに、強打に強打で対抗もしながら、適時後退のステップを踏んで間合いを外し、態勢を立て直しては攻勢に出る。

第7ラウンドの1分を過ぎる辺り、ロペスがローブローをアピールして、主審シェリフがこれを受けつけずに流す場面があった。インターバルに入ってすぐにスロー再生が流れて、確かにベルトラインの下に着弾していたが、いい時のロペスなら気にしていなかった筈。それだけ王者も苦しい。


中盤で持ち直したロペスだが、第9ラウンドにまたもやレオの逆襲に遭う。2人とも疲労が隠せなくなり、くっついて揉み合う回数が増える。レオも相当にキツくなってきているが、それでもまた動けてはいて、どちらかと言えばロペスの方が鈍ったとの印象。

そうした中、何度目かのブレイク直後、右方向に上体を傾けながら、ロペスが右アッパーを連射。ダックしながらのカバーリングで1発目を防いだレオが、低い態勢から右を振り上げ、そのまま被せるように落とす。

丁度2発目の右アッパーを放ったロペスの顎に、斜め上からドンピシャのタイミングでクロスカウンターになった。そしてこのパンチを食いながらも、ロペスは返しの左フックを打っていて、レオの顔面をかすめるように振り下ろされている。

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これでも倒れないのだから、やはりロペスは打たれ強い。頑丈過ぎるフィジカルは、マルケス兄弟やオスカー・ラリオスらと共通するメキシカン特有のストロング・ポイントなのだが、そうであるが故に「被弾に対する無頓着」というウィークネスと表裏一体。諸刃の剣と理解すべき。


たまたまニュートラル・コーナーに近いところにいたお陰で、そのままコーナーを背負ったロペスが追って来るレオを抱き込んで退避。冷静に危機を脱したと言うより、脚が止まっていたことがプラスに作用した。

この僅かな休息の間に呼吸を整え、回復を図るロペス。再開の合図を待って自分から攻める。余裕が無い中でも、密着しながら手を出して劣勢をやりくりする。プロの第一線は、やはり大したものだと素直にそう思う。

1分半ほど時間が残っていたが、鈍りながらも攻勢を取り続けるロペスを、レオはまた後退のステップでかわす。まだまだロペスのパンチは生きていて、強引に詰めようとはせず、再セットアップを選んだことが吉と出る。


こうして迎えた運命の第10ラウンド。展開は同じ。密着した状態で空いているところをコツコツ打ち合い、ブレイクを挟んでまた繰り返す・・・と言えば聞こえはいいが、ペンシルベニアの主審が何をやっても基本ノーチェックなのをいいことに、レオが確信犯のローブローを数発とラビットパンチを1発見舞う。

ここはロペスも黙って辛抱したが、さらに複数回同様のやり取りがあり、レオが振りを大きくして2発目のラビットパンチ。これはやり過ぎだと、ロペスが視線と声で直接主審に反則をアピールする。

流石に割って入り、レオに一言二言注意を与えていたが、この場面でも「このレフェリー、本当にダメだな・・・」とあらためて呆れた。レオはロペスに視線を向けたまま、レフェリーを見てさえいない。無視しているに等しく、注意などまともに聞いていなかった筈だ。

R10_foulcheck

何なら1発減点でも構わない状況だが、こういう場合、真面目に仕事を遂行するレフェリーなら、タイムキーパーに時計を止めるよう念入りに指示を出し、その上で多少の怒気を含めて厳しく注意をやり直す。「今度やったら減点するぞ。それでも止めないなら失格(反則負け)だ。いいな!」という具合に。


レオとロペスは言うに及ばず、おそらく両陣営のチーフとスタッフからも、このレフェリーは信用されていなかったと確信する。そもそも、世界戦の看板に恥じないプロの仕事をやる気,使命感が感じられない。型通りに”こなす”だけじゃないかと。

だからレオも、平然と無視している。ロペスに意識を集中していたからだと、好意的に捉えればそうも言えるけれども。そしてこのレフェリーは、無視されているとわかっていながらそのまま流す。救いようがない。

チャンピオンの矜持をけっして捨てないロペスだから良かったけれど、これがもしメイウェザーやホプキンスなら大変だ。下腹部や後頭部を押さえて大袈裟に痛がり、まずは減点を貰いに行く。

挙句うずくまって再開に応じず、ゴネにゴネまくって、あわゆくば反則勝ちを拾おうとするだろうし、メイウェザーのコーナーに亡くなったロジャーがいたら、周囲の制止を振り切ってリングに雪崩れ込み、ザブ・ジュダー戦さながらの乱闘騒ぎになりかねない。

フロイド・シニアは流石にそこまで愚かではないから、5分の休憩で再開になった後、メイウェザー自身が同じ行為をやり返す。あるいは、ビクター・オルティズ戦の再現。とにもかくにも、世界最高峰の頂きに立つ男にあるまじき蛮行。荒れ模様は不可避だ。

二度とこのレフェリーを、タイトルマッチのリングに上げてはならない。世界戦だけじゃなく、ローカル王座戦もである。


唐突にして衝撃的な幕切れは、このすぐ後だった。前に出るロペスの間合いを後退で外し、自分からくっついては離れるレオ。速いジャブを連射しながらまたくっつく。そして、レフェリーが分けた次の瞬間、棒立ちのロペスが無造作にジャブを出すのと同時に、狙い済ました左フックが炸裂!。



ESPNの実況が「ロペスは根本的なミスを冒した(fundament mistake)」と解説していたように、最近は滅多に聞かないし言わなくもなったけれど、典型的な「テレフォン・パンチ」である。

真正面からノシノシと歩いてレオに近付きつつ、腰の辺りまで下げていた両拳を一般的なガードの位置に上げながら、左ジャブを準備しているのが丸分かり。「打ちますよ」と教えているようなものだ。

なおかつロペスには、ジャブを出した直後に右のガードが僅かに下がる癖があり、この場面でも、右拳が下がって顔面がガラ開きになるところへ、まるで吸い込まれるかのように、抜群のタイミングと角度でレオの左が着弾している。


仰向けに昏倒したロペスを見て、多くのファンが嫌な予感に襲われたのではないか。「すぐに止めて担架を・・・」と私も思ったが、周知の通りレフェリーはカウントを数え続け、6から7秒の辺りで目覚めたロペスが、身体を起こそうと動き出す。

「だからすぐに止めて、ロペスを安静な態勢に戻すんだ!。そして直ちにドクターと担架を呼んで!」と、半ば怒りを覚えながら配信の映像に釘付けになる。

レフェリーはしっかり10まで数え終わり、両膝を着いて頭を垂れたままのロペスが立とうとして前にのめり、のんびり歩きながら椅子を用意していたインスペクターと思しきスーツ姿の男性2名の横を、コーナーマンの1人が大慌てで走り込みロペスの身体を支えた。

ロペスは何とか椅子に腰掛け、リングドクターの質問を受ける。一通り問診を終えると自立して歩き、スタッフたちが待つコーナーへと戻った。表情は平静を保ち、自分の身に何が起きたのかも理解できている様子で、ひとまず安堵する。

リング上で速やかに意識を回復できた上に、落ち着いた状態で歩いてドレッシング・ルームに戻ったロペスが、前触れもなく突然倒れたり、頭痛や吐き気といった不調を訴えることもなかったことから、主審を務めたアーニー・シェリフは糾弾・断罪されずに済んだ。

◎ポスト・ファイト・インタビュー
※歩いて控え室に向かうロペスの無事な姿を確認できる



ボディではなく顔面への左フックによるワンパンチKOは、強烈なインパクトを残すことが多い。

ちょっと思い出すだけでも、パッキャオ vs ハットン(時間が止まったかのごとき結末)、セルヒオ・マルティネス vs ポール・ウィリアムズの再戦(両眼を見開いたまま失神)、全盛のドネアがモンティエルを屠った戦慄のKO(武道の達人を思わせる”後の先”)、同じく無名だったドネアを一躍軽量級の寵児に押し上げたダルチニアン戦の1発(第1戦/フライ級王座獲得)。

我が国でも、内山高志がホルヘ・ソリスをし止めた美し過ぎるカウンター(WBA S・フェザー級V4)や、小林和優を3回でストップした吉野修一郎の見事なクォリティ・ショット(日本ライト級TM)、令和に突如として出現した和製レフト・フッカー,佐々木尽の数試合がすぐに思い浮かぶ。

古くは、シュガー・レイ・ロビンソンがジーン・フルマーを一瞬で斬り落とした芸術的なカウンター(第2戦)、エザード・チャールズとの因縁に決着を着けたジャージー・ジョー・ウォルコットのショッキングなフィニッシュ(第3戦)、ナイジェリア初の世界王者ホーガン・”キッド”・バッシーが、”スパイダー”の異名を持つ英国フェザー級の雄,ビリー・ケリーを失神させ、世界タイトル挑戦への道筋を着けた畢生の一撃。

”北欧の雷神”インゲマール・ヨハンソンに奪われたヘビー級王座奪還に成功(史上初)した、フロイド・パターソン必殺のガゼル・パンチ(カス・ダマトが鍛えたマイク・タイソンのオリジン)。

プライムのスモーキン・ジョー・フレイジャーと、無敵の現役L・ヘビー級王者ボブ・フォスターによる稀代のレフト・フッカー対決も凄かった。スモーキン・ジョーに2回で粉砕されたフォスターが、175ポンドを獲ったディック・タイガー(ナイジェリア史上2人目の王者/ミドル級を含めた2階級制覇)戦も、思わず背筋が凍りつく終幕。

ウェルター級を統一(WBA・WBC/創設間もないIBFは勝手に認定)した後、勇躍J・ミドルに参戦したドン・カリーを地獄に叩き押したマイク・マッカラムの凄絶なアッパー・フック(下から鋭く振り上げる独特のフック/在米の黒人選手に受け継がれる伝統的なパンチ=レーザー・ラドックの”スマッシュ”が有名)。

ロイ・ジョーンズを1発で沈めたアントニオ・ターバー(リマッチ)、メフダード・タカルー vs ウェイン・アレクサンダー、ディリアン・ホワイト vs デレク・チソラ第2戦、アレクサンダー・ポベトキン vs D・ホワイト、日本でも戦ったサム・ピーター vs ジェレミー・ウィリアムズ等々、本当に枚挙に暇がない。

ノックアウト・オブ・ジ・イヤーの最右翼に挙がっているであろう、レオの劇的なエンディングも、「Most Shocking Left Hook KO in Boxing History(こんなリストが現実にあれば)」の列に間違いなく並ぶ。


◎試合映像:ハイライト(トップランク公式)

<1>フルファイト(英語)
https://www.youtube.com/watch?v=rK6lWMXLWGs

<2>フルファイト(英語)
https://www.dailymotion.com/video/x93ue6i

<3>フルファイト(スペイン語)
https://www.youtube.com/watch?v=9QgKnNTDWQU


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
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※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血 /レフェリングの是非について批判も・・・本人は再起を明言 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 1 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)



先々週の末、メキシコからショッキングなニュースが届いた。8月10日、ジョニー・タピアの故郷アルバカーキで壮絶なKO負けを喫したヴェナード・ロペスに、脳出血が発見されたという。

程度問題はあるにせよ、打たれ(せ)ることを前提に組み立てる攻撃的なスタイルだけに、「早過ぎるツケが回ってきたか・・・」との印象が否めず、言葉は悪いが「遅かれ早かれ」との思いも過ぎる。

幸いにも程度は軽く、既に出血も止まっていて開頭手術も行わずに済み、このまま経過観察を続けて半年後にもう一度検査(MRI・CT)を行い、異常が無ければ御赦免ということらしい。

言語や運動に関する機能障害なども一切無く、ロペス本人は現役を継続する意向で、前々から述べていた通り、130ポンドに主戦場を移すことも視野に入れいている。気になる米国内での状況だが、開催地のアルバカーキを所管するニューメキシコ州が、90日間の出場停止(健康面と安全性を考慮/延長の可能性有り)という暫定的な措置を決めた以外、今のところ目立った反応は無し。
※下に列挙した関連記事の<2>:ジェイク・ドノヴァン記者がリング誌に寄稿した記事参照

ただし、かつてのエドウィン・バレロのように、脳出血の痕跡(2001年にバイク事故を起こし開頭手術を受けていた)を理由に、ニューヨーク州アスレチック・コミッションの「無期限ライセンス停止リスト」に名前が載ってしまい、2004年~2009年までのおよそ5年間、米本土から締め出された事例もある。

窮地のバレロに手を差し伸べ、日本に連れて来てS・フェザー級のWBA王座を獲らせたのが、帝拳グループを率いる本田会長だったという次第。

メキシコ国内でのカムバックに関する限り、特に支障は無いものと思われる。そもそもプロ・ライセンスの管理すらままならないほどメキシコはコミッションの機能が脆弱で、WBCの会長職を二代に渡って世襲・独占するスレイマン親子が、事実上のコミッショナーとしてメキシコ国内を統治せざるを得ない。

開頭手術を受けて復帰した著名選手はメキシコにもいて、マルコ・アントニオ・バレラが良く知られている。新興団体WBOのベルトを巻き、WBCのエリック・モラレスとともに無敵の快進撃を続けていたバレラは、ジュニア・ジョーンズにまさかの2連続KO負けを喫した後、1年近い長期の休養(1997年4月~1998年2月)を取ったが、この時秘密裏に手術を受けていた。

ゴールデン・ボーイ・プロモーションズとの契約(2003年秋)を巡り、ほとんど一方的に関係を絶った前マネージャー,リカルド・マルドナドとの間で泥沼の法廷闘争が勃発し、怒り心頭のマルドナドがメディアにリークして明るみになったのだが、カリフォルニアとネバダでライセンスを更新していたビッグネームのバレラは、米国内のどの州からもサスペンドを受けずに済んでいる。


深刻の度合いを増すスター不在も、ロペスの復帰を後押ししてくれそうだ。バンタム級とS・バンタム級を長らくお家芸にしてきたメキシコも、バレラ&モラレス、マルケス兄弟とイスラエル・バスケス、ジョニー・ゴンサレス,オスカー・ラリオス辺りを最後に、傑出した才能が現れなくなって久しい。

ルイス・ネリー程度のチンピラ・ボクサーが未だに商品価値を認められ、目ぼしい次期スター候補として名前が挙がるのは、アラン・ダヴィド・ピカソがせいぜいといったところ。ピカソは確かに好選手ではあるけれど、上述したメキシカン・レジェンドたちとまともに比較できる段階には無く、ネリー同様の過大評価と言わざるを得ず、井上尚弥の好敵手扱いは節足に過ぎる。

今後の動静についてカギを握るのは、全米に大きな影響力を行使するネバダ,ニューヨーク,カリフォルニア3州の判断。3つのうちどれか1州でもサスペンドに動くと、事情は一変してしまう。

ロペスの現在地はあくまで「注目すべき存在」であり、押しも押されもしないビッグネームではないだけに、トップランクとの契約を含めて、一気に雲行きが怪しくなってもおかしくはない。

◎関連記事
<1>Luis Alberto Lopez Suffers Brain Bleed In Knockout Loss To Angelo Leo
2024年8月17日/Boxing News 24(寄稿:ダン・アンブローズ)
https://www.boxingnews24.com/2024/08/luis-alberto-lopez-suffers-brain-bleed-in-knockout-loss-to-angelo-leo/

<2>REPORT: LUIS ALBERTO LOPEZ SUFFERED SMALL BRAIN BLEED FOLLOWING LOSS TO ANGELO LEO
2024年8月18日/リング誌公式(寄稿:ジェイク・ドノヴァン)
https://www.ringtv.com/711464-report-luis-alberto-lopez-suffered-small-brain-bleed-following-loss-to-angelo-leo/

<3>The unlikely success story of Luis Alberto Lopez
2024年8月18日/Boxing Scene(寄稿:ルーカス・ケトル)
https://www.boxingscene.com/unlikely-success-story-luis-alberto-lopez--185454

<4>Griego-Ortega's right hand in a cast; Lopez was treated for a brain bleed
2024年8月25日/Yahoo! Sports(寄稿:リック・ライト/アルバカーキ・ジャーナル)
https://sports.yahoo.com/griego-ortegas-hand-cast-lopez-190100870.html


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そして今、この試合を裁いた主審アーニー・シェリフのレフェリングについて、非難轟々という程ではないが、妥当性を欠いていたとの批判的な意見がネット上に散見される。

Leo_Ernie Sharif

レオが放った左フックのカウンターを浴びたロペスが、背中から仰向けに倒れた際、キャンバスにバウンドして後頭部を強く3回連続的に打ち付けた。ダウンシーンではけっして珍しくないケースではあるが、問題視されているのはその後の対応。

被弾した瞬間にロペスは意識を失っており、完全に昏倒した状態だったのだが、主審シェリフはご丁寧にテン・カウントを数えたのである。



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気絶してしまった、もしくは立てないことが分かり切っている選手に対するカウントアウトは、20世紀のプロボクシング(1980年代前半以前)においては、ごく当たり前の光景と言って差支えがない。ちゃんと10秒数えることで、試合が決着したことを満天下に知らしめる。必要必須なプロセスと考えられた。

「完全なる決着」こそがプロに求められるスタンダードであり、打ち合いから逃げることはプロにあるまじき振る舞いの最たるもので、それこそ最大の恥辱とされたし、優位に立った者は容赦仮借なく止めを刺しに行く。行かねばファンが許さない。臆病者の烙印を押されて、自身のバリューも急落する。

複数回のノックダウンがあって、さらに決定的なフィニッシュブローが叩き込まれた場合、現代と同じく即座にストップしたり、途中まで数えたカウントを止めて終了を宣告することはあったが、倒れた選手の状態にかかわらず、カウントアウトが原理原則。

がしかし、時代は変わった。


世界戦を任されるほどのレフェリーなら、ロペスが倒れるのと同時にストップを合図し、速やかにリングドクターを要請して応急措置を講じるべきだったとの主張で、反論の余地を許さない正論ではある。

勿論、倒れた勢いで後頭部を3回打ち付けたことが、脳出血の直接的な原因だったとの断定は難しいと思われるし、「肉を切らせて骨を絶つ」ロペスのファイトスタイルそのものが、被弾によるダメージの蓄積を常に考慮・懸念しなければならないことも、外形的な判断を一層困難にする。

リング禍により四肢の自由と視力を失い、24時間体制の要看護となったジェラルド・マクラレンのケース(1995年)でも、開頭手術を行ったドクターとそのチームは、ナイジェル・ベンが続けたラビットパンチとの因果関係について、「否定はできない」と述べるに止めていた。

2017年にリング禍の犠牲となり、全身の麻痺と言語機能の重篤な後遺症に苦しむプリッチャード・コロンも、試合で受けたラビットパンチ原因説が流布され、母親が速やかなストップを主審に進言しなかったリングドクターとプロモーターを相手取り、総額5000万ドルを超える損害賠償を求めて告発したが、審理が開始される目処は立たず、解決へ向けて事態が進展する気配も無いとのこと。


蛇足ついでにもう1つ、、少し上に添付した写真をご覧になって、「あっ!、こいつ・・・」とお気づきの方もおられるのではないか。

「この顔にピンときたら~」ではないが、井上尚弥とノニト・ドネアの第1戦、WBSS(World Boxing Super Series)の決勝を裁いたのもこの人だった。

そう、我らがモンスターのKO必至と思われた第11ラウンド、痛烈な左ボディを食らった途端、苦悶しながら背を向けて走り出したドネア。この機を逃してなるものかと追いかけるモンスターを、巨大なお腹で邪魔をするように突き飛ばし、「幻のノックアウト」を演出してしまったあの人物。

Naoya_Donaire_1

今さら解説も無いだろうが、この時主審シェリフは、背後からの加撃を阻止しようとしたに違いない。それ自体は責められる行為ではないが、緩慢かつ曖昧な動作が原因で、我らがモンスターのKO勝ちを妨害しただけに見えてしまった。

では、彼はどうするべきだったのか。簡単である。リチャード・スティールやミルズ・レーンのように、「(ノック)ダウン!」と大きな声を発して走り出し、タイムキーパーに目で合図をしながら、態勢を考慮すれば左腕を真っ直ぐ伸ばしつつ、我らがモンスターの追走を制止すると同時に、ニュートラルコーナーを指差し待機を命じる。

そして、仮にドネアが立ったままだっとしても、素早くタイムキーパーからカウントを引き継ぐ。

「あれっ、スタンディング・カウントは廃止されたんじゃなかったの?」

確かに仰る通りなのだが、スタンディング・カウントを取るケースがまったく無い訳ではない。主審の裁量の範疇という解釈なのか、それとも個別ローカル・ルールの変更なのか、各国・各州コミッション・ルールをつぶさに調べていないのでわからない。

少なくとも主要4団体の試合ルール上は、おそらく「No-Standing eight count」のまま変わっていない筈なので、日本国内の世界戦における判断は「レフェリー・ストップ」になる。


ルール・ミーティングでの確認が不足していて、JBC(日本国内ローカル)ルールとWBA,IBFルールを思わず頭の中で反芻してしまい、一瞬どうすべきか迷った可能性もあるけれど、敵に背中を見せて逃げ出すこと自体が反則なので、一旦「タイム!」と声がけして井上を押し止め、ドネアが立ったままなら反則の注意を与えれば良かった。

現実にはドネアが腹を押さえて座り込む。主審シェリフは、その時点でタイムキーパーと視線を合わせてカウントを開始する。ボディを効かされたドネアが、背を向けて逃げ出したその時に、ダウンを宣言すれば何も問題は無い。

加えて、この審判は本当に駄目だと思った。カウントの間、井上のポジションを一切気にしていない。お話にならない酷さである。

スティールやレーンは、カウントを数えている間もニュートラルコーナーを二度・三度振り返り、コーナーから離れて(近づいて)いないか確認を怠らなかった。事実井上はコーナーでじっとしていられず、思いっきり近くに寄っていたが、この審判はそのままの位置で再開を合図する有様。本来なら井上を一旦下がらせて充分な距離を取り、それから再開を命じなくてはならない。

アケスケに本音を申せば、世界戦を担当させてはいけないレベル。実際にこの審判は、帰国後4~8回戦のアンダーカードばかりを担当しており、いつぞやのラッセル・モーラ(ネバダ州)のように、何がしかのペナルティを受けて修行のやり直しをさせられていたとも考えられる。

世界戦のリングに立つのは、井上 vs ドネア第1戦以来4年ぶり。生年月日と正確な年齢はわからないけれど、元々アマチュアの競技選手だった人で、Boxrecには1983年に1試合だけプロで戦った記録があり(判定負け)、この当時20代だったとすればとっくに還暦を過ぎている。

WBSS決勝戦の時と比べて、少しお痩せになったようだ。パンデミックの間もそれなりにレフェリー業をこなしていて、Boxrecの記録を追う限り、おそらくご病気はされていないとお見受けする。一念発起してダイエットに取り組まれたのかもしないが、本当に余計なお世話でしかないと百も承知で、真剣に引退を検討されるべきなのでは。

録画映像を繰り返し見て、自身の仕事がプロに相応しい水準を維持できているのか否か、冷静に見つめ直すことをお勧めする。

◎井上尚弥 vs ドネア第1戦/第11ラウンド幻のKOシーン(削除済みの可能性有り)
2019年11月7日/さいたまスーパーアリーナ

※ファンが撮影した現地映像(削除済みの可能性有り)
https://www.youtube.com/watch?v=0ek3nu2agPc


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

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