充実期を迎えた三冠王に鋼(はがね)の男が挑戦 /両国3大世界戦 1 - 中谷潤人 vs V・アストラビオ ショートプレビュー -
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■7月20日/両国国技館/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC1位 ヴィンセント・アストロラビオ(比)
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC1位 ヴィンセント・アストロラビオ(比)
想定を上回る一方的な展開で、ドネアに完勝したメヒコの新たな雄,アレハンドロ・サンティアゴを破壊してから早や5ヶ月。迎えた初防衛戦は、ランク1位との指名戦になった。
4月20日更新(23日発表)のリング誌P4Pランキングで10位に入り、5月と6月に行われた2回づつの更新でも圏外に落ちることなく現状を維持。主要4団体の王座を日本が独占するバンタム級で、こちらも評価を爆上げ中のWBA王者,井上拓真(大橋)を抑えて、クラス最強の呼び声は高まる一方。
敢えて不安要素を探すなら、唯一ウェイト・コントロールしか有り得ない。今回も無事計量をクリアはしたものの、血圧(109/78=前回:106/70)と体温(35.7℃=前回:36.3℃)の数値の低さは、精気を欠いた土気色の顔色ともども、118ポンドに上げてもなお、減量の過酷さがさほど改善されていないことを示唆している。
脈拍(76/分=前回:81/分)については、もともとスポーツ心臓ではないというだけで、余計な心配をする必要はないと思うけれども。
左の決定力に翳り無し。圧巻の破壊力を誇る豪砲は、3つ目の階級でも変わらぬ威力を発揮。西岡利晃のモンスター・レフト、山中慎介のゴッド・レフトに優るとも劣らない。メヒコの小型ラッシャーをし止めた返しの右も切れ味を増して、勢いと安定感もいや増すばかり。
◎試合映像:中谷 TKO6R サンティアゴ(ハイライト/Top Rank公式)
2024年2月24日/両国国技館
WBC世界バンタム級王座決定12回戦
だとしても、直前のオッズは流石に開き過ぎてやしないか。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
中谷:-2500(1.04倍)
アストロラビオ:+1000(11倍)
<2>betway
中谷:-2500(1.04倍)
アストロラビオ:+900(10倍)
<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/25(1.04倍)
アストロラビオ:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)
<4>Sky Sports
中谷:1/20(105倍)
アストロラビオ:14/1(15倍)
ドロー:33/1(34倍)
ファイナル・プレッサーでは記者の質問に対して井上拓真の名前を挙げ、統一戦への抱負を述べていた。P4Pランク入りを果たしたことで、さらなる階級アップ+モンスターとのマッチアップへの期待に拍車がかかる。
◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)
※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ
今月10日行われた公開練習は、あくまで見せる為の動きに止めていた為、本当のところはわからないけれど、まずまず上首尾の仕上がりではないか。
◎中谷公開練習(デイリースポーツ)
「アセロ(Asero:スペイン語で鋼鉄)」の異名を取るアストロラビオは、ジャブ,ワンツーからセットアップする右構えの正攻法。意表を突くフェイントやムーヴは少なく、同じリズムとテンポで波状攻撃を続ける上、ディフェンスにも相応に穴がある。
ニックネームに違わず、軽量級としては高いKO率(73%超)を誇るが、パワーはともかく、一撃で倒し切れるほど精度は高くない。中谷にとって組し易い相手だと、多少見くびられても致し方のない面はある。
バンタム級としては平均的なサイズに収まり、タイの大ベテラン,ナワポンとのエリミネーターでは、ワンパターンな正面突破の繰り返しが目立ち、大柄でタフなナワポンに力負けして持て余し、ロープに押し込まれて防戦に回らざるを得ず、想定外(?)の苦境に追い込まれている。
モロニー戦から3ヶ月のスパンに無理があったのか、正直イマイチの感が拭えなかったけれど、首都バンコクに乗り込んだ完全アウェイを考慮すれば、拮抗した厳しい戦況の中で何とかスタミナを温存して、11ラウンドに右の相打ちで決定的なダウンを奪い、レフェリーストップを呼び込んだ集中力は賞賛されていい。
ナワポンは昨年大晦日の興行に呼ばれて、比嘉大吾に4回でフィニッシュされたが、アストロラビオ戦に続く連続KO負けは、14年に及ぶ歴戦の疲労が顕在化したとの印象。
中谷が労せずして制空権を握り、早々と左の一撃を効かせて終わらせる。あるいは積極的に距離を潰して、得意のショートアッパーでアストロラビオのガードを割り、たたらを踏ませて止めの左を叩き込む。
楽観的かつ安直に過ぎる見立てではあるが、そんな展開をついつい想像してしまいがち。それほど両者の力の差は大きいと、多くのファンが考えたとしても無理からぬ話ではある。
ただし、好調時のスピード&シャープネスはかなりの高水準。前戦のサンティアゴを易々と凌駕する。老いたりとは言え、あのリゴンドウからダウンを奪って1ポイント差の3-0判定をもぎ取り(出世試合)、ジェイソン・モロニー(豪)とのWBO王座決定戦でも、五分の勝負を繰り広げた。
気合を入れてしっかり準備した時のアストロラビオは侮れない。甘く見ると痛い目に遭う。まさしくリゴンドウがその典型だと、頭から決め付けるつもりは毛頭ないが、ちょっといい線いってるフィリピン人アンダードッグ程度の認識だったと思う。
◎アストロラビオ公開練習(デイリースポーツ)
フィリピン国内のローカル・ファイトを取り仕切り、アストロラビオを鍛え上げてきたマネージャー兼トレーナーのノノイ・ネリは、元々パッキャオのチームで働いていた人物で、フレディ・ローチの隣で名物的存在感を発揮したブボイ・フェルナンデスとともに、8階級制覇の英雄を支えた重要なスタッフの1人。
リゴンドウ戦のアップセットを認められ、パッキャオが興したMPプロモーションズと正式契約を結び、PBC(Premier Boxing Champions)参戦への道が開けた。
海千山千のノノイのことゆえ、中谷の左への警戒は抜け目なくやってくるだろうが、ブロック&カバーとヘッドムーヴの強化に止まるのか、それともステップにさらなる磨きをかけて、距離のコントロール(細かく丁寧な出入り)で対抗して来るのか。
前者だけなら、それほど苦労はしない筈。だが、後者を混ぜて鋭いジャブ,ワンツーを主体に動かれると、思いのほか厄介な状況になるかもしれない。
◎試合映像
<1>アストロラビオ TKO11R ナワポン
2023年8月26日/ スアンルム・ナイトバザール,バンコク(タイ)
WBC世界バンタム級挑戦者決定12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=FA4FkhHVpF0
<2>J・モロニー 判定12R(2-0) アストロラビオ
2023年5月13日/アドヴェンティスト・ヘルス・アリーナ,カリフォルニア州ストックトン
※Top Rank公式ハイライト
https://www.youtube.com/watch?v=mX2PWMTX4d4
※フルファイト
https://www.dailymotion.com/video/x8l6hh5
<3>アストロラビオ 判定10R(3-0) リゴンドウ
2022年2月26日/ドバイ・マリーナ,ドバイ(UAE)
WBCインターナショナルバンタム級王座決定10回戦
※フルファイト(現地撮影映像)
https://www.youtube.com/watch?v=gTVx9EX_32k
勝利が揺らぐようなことはないと信じるが、何しろ油断は禁物。もしもステップをふんだんに使って出入りしてきたら、闇雲に距離を詰めに行かず、スピードを意識したジャブで刺し負けないことが大事になる。
果敢に前に出て強打を振るい、左へのスイッチも込みで奮闘するフランシスコ・ロドリゲス・Jr.とのS・フライ級初戦(ノンタイトルのテストマッチ)では、メキシカン・ファイターの出足を止めるジャブが無く、揉み合い上等の密着を許して苦しんだ。
バッティングによる出血に見舞われたアンドリュー・モロニー(豪)とのタイトルマッチ、ジャブが上手くて煩いモロニー対策の必要性から、目に見えて修正・改善された右リードは、最終ラウンドのドラマティックな幕切れを演出する重要な役割を果たし、タフでしぶといアルヒ・コルテスとの防衛戦でも、距離とペースの掌握に大きな力を発揮した。
身長160センチに満たないサンティアゴには、ロング・ディスタンスのワンツーはとりわけ有効だったが、”効かせるジャブ”ではなく、いわゆるストッピング・ジャブ(そんなもの存在しないとの主張も最近はあるらしいが)、左を決める為の”水先案内”の域を出ないのが惜しまれてならない。
ロドリゲス,コルテスのメキシカン2人(とサンティアゴも)が露にした、中谷最大のウィークネス。強引にくっつかれて強打を振り回されると、必要以上にバタついてしまう。強振に強振で対応してしまい、オフ・バランスを招いて被弾のリスクが増大する。
アストロラビオの本領はラフ&タフにはなく、注意すべきは丁寧な出入りとの認識ではあるが、断崖絶壁まで追い詰められた拍子に、大きな山猫を噛む荒ぶる窮鼠に変身する恐れがゼロとまでは言えない。
”ハードジャブの開眼”に叶わぬ期待を寄せつつ、中盤~後半にかけての綺麗なフィニッシュで怪我無く終えて、是非とも年末にもうひと勝負を。
◎中谷(26歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
現WBCバンタム級王者(V0),前WBO J・バンタム級(V1/返上),前WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:27戦全勝(20KO)
世界戦:6戦全勝(5KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:172センチ,リーチ:170センチ
※以下計量時の測定
脈拍:76/分
血圧:109/78
体温:35.7℃
左ボクサーパンチャー
◎アストロラビオ(27歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
戦績:23戦19勝(14KO)4敗
身長:165センチ,リーチ:166センチ
※以下計量時の測定
脈拍:83/分
血圧:128/84
体温:36.4℃
右ボクサーファイター
◎前日計量(Top Rank公式)
◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc
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■オフィシャル
主審:トーマス・テーラー(米/カリフォルニア州)
副審:
マイケル・テイト(米/フロリダ州)
クリス・ミリオーレ(米/ネバダ州)
ホセ・マンスール(メキシコ)
立会人(スーパーバイザー):マウリシオ・スレイマン(メキシコ/WBC会長)
※スレイマン会長が直々に来日。先代のドン・ホセは、辰吉の試合に何度か臨席(日米両方)して華を添えてくれたが、”ポスト・モンスター”の最右翼と目されるまでになった中谷を、WBCもはっきり次期スターとして認知した。
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◎2024 那須川天心ボクシング第4戦、中谷潤人・加納陸 世界戦
◎【無料全編公開】 LIVE BOXING 9 『独占密着 那須川天心第4戦、中谷潤人、田中恒成、加納陸出場トリプル世界戦直前SP』|プライムビデオ
2024年7月6日/アマプラ公式