前評判はリベンジを期すハートブレイカー /クールボーイの巻き返しやいかに - フィゲロア vs フルトン 2 プレビュー Part 2 -
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■2月1日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBC世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ブランドン・フィゲロア(米) vs WBC2位 スティーブン・フルトン(米)
王者 ブランドン・フィゲロア(米) vs WBC2位 スティーブン・フルトン(米)

左から:フィゲロア,プロモーターのトム・ブラウン(TGBプロモーションズ),フルトン
■逆転した掛け率・・・共通する唯一の対戦相手
直前のオッズを比較してみよう。まるで合わせ鏡のように、初戦と今回がの数字が逆転している。
◎第1戦:フルトン有利
フルトン:-330(約1.62倍)
フィゲロア:+260(約2.81倍)
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◎第2戦(今回):フィゲロア有利
<1>BetMGM
フィゲロア:-190(約1.53倍)
フルトン:+160(2.6倍)
<2>betway
フィゲロア:-188(約1.53倍)
フルトン:+150(2.5倍)
<3>ウィリアム・ヒル
フィゲロア:4/9(約1.44倍)
フルトン:17/10(2.7倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
フィゲロア:8/13(約1.62倍)
フルトン:29/16(約2.81倍)
ドロー:16/1(17倍)
評価を逆転させた最大の原因は、モンスターに喫した完敗(プロ初黒星)ではなく、昨年9月に行った再起戦である。
スタートから一方的にペースを握られ、形勢逆転の糸口を掴むことこすらできず、屈辱の8回KO負けに退いてから1年2ヶ月。カネロ vs バーランガ戦(今回と同じT-モバイル・アリーナ)のアンダーカードに組み込まれたフェザー級の初陣(10回戦)で、フルトンは大きなミソを付けてしまった。
126ポンドでの成否を占う大事な復帰戦に選んだ相手は、アリゾナ出身の元プロスペクトで、メキシコにルーツを持つ長身の右ボクサー,カルロス・カストロ。
9歳の頃からボクシングを始めて、アマチュアで立派な戦績を残し2012年に18歳でデビュー。122ポンドと126ポンドを行き来しながら、ローカル・ファイトで地道に腕を磨いてき、ジェネシス・セルバニア(比)を下して得たWBC米大陸フェザー級王座を足掛かりに上昇気流に乗ると、セサール・ファレス(メキシコ),オスカル・エスカンドンを連覇。
2022年2月、ルイス・ネリーのオファーに応じてS・バンタム級まで絞り、10ラウンズをフルに渡り合う。僅少差の1-2判定で金星を獲り逃すも、奮戦を評価されてフィゲロアからお呼びがかかる。
前年11月にフルトンとの統一戦を落とし、無冠に戻ったフィゲロアにとっても負けられない再起戦。ネリー戦から5ヶ月の間隔は、ダメージを抜いて心身を作り直す為に大きな不足は無く、元世界王者との連戦に臨んだ。
公称170センチ(リーチ:178センチ)のカストロも、このクラスでは大きな部類に入るが、さらに一回り大きく当たりの強いフィゲロアに攻め込まれて6回TKO負け。この連敗で勢いを殺がれてしまい、2023年はニカラグァとドミニカの無名選手との2試合に止まる。
◎試合映像
<1>ネリー 判定10R(2-1) カストロ
<2>フィゲロア vs カストロ
そして昨年4月、コロンビアから招聘した36歳のベテラン中堅に10回判定勝ちを収めて、9月のフルトン戦へと進む。
カストロに白羽の矢を立てたのはフィゲロアを意識したからで、それ以外に理由のあろう筈がない。フィゲロアよりも早く、一方的に打ちまくってカタを着ける。その一心だったのだろう。
開始ゴングと同時にフルトンが自分からくっついて、遮二無二パワーパンチを叩きつける。いったい何が起きたのかと我が目を疑った。すっきり倒し切りたいのはわかるが、流石に無茶が過ぎる。
フィゲロアとの初戦に備えて、アマ時代からの師弟だったメンター兼コーチのハムザ・モハメッドを更迭してまで向かえたワヒド・ラヒームとの関係を清算したフルトンは、ステーブル・メイトのジャロン・エニスに、幼い頃からボクシングのイロハを仕込んだ実父デレク・エニス("Bozy:ボジー"の愛称で呼ばれる)と組んで体制を一新。
我らがモンスターのバンテージに根拠の無いイチャモンをつけて恥をかき、自らの手でフルトンの面子まで丸潰しにしたラヒームは、ヘッドの座をデレクに譲った後もチームに残り、新たなスタイル(?)を不安げに見守るしかない。

写真上:新ヘッドのボジー・エニスとフルトン
写真下:フルトンのバンテージを解くラヒーム(アシスタントに降格)

※ボジー(左/髭を生やす前)とジャロンのエニス親子
「みんな私が誰なのかを忘れている。必ずノックアウトで勝つ。一度びリングに上がれば、必要なことは何でもできる。2階級でチャンピオンとなり、私が何者なのかをはっきりさせる。」
意気込みは買う。買うけれども、もともと1発の破壊力に恵まれず、スピード&スキルに真価を発揮する。黒人特有の柔軟性を活かしたボディワークと反応で、堅く守りながら効率的なパンチでポイントを引き寄せ、安全確実にゴールテープを切ることこそフルトンの真骨頂。
フィゲロアの圧力に押されて、半ば止むを得ず接近戦に応じた第1戦では、上述した自身のストロング・ポイントを駆使しつつ、フィゲロアのパワーを散らしながら、散発傾向の恨みは残るものの、的確なリターンとカウンターを決めて印象点を稼いでいる。
あれだけのテクニックとスキルがあるのに、何でわざわざムキになって打ち合うのか。フルトンの攻勢を凌いたカストロが態勢を立て直す。増量でサイズのアドバンテージを失ったフルトンが徐々に押し返されて行く。
戦況が苦しくなっているのに、戦術を変える気配は無し。「まずは距離をキープしてリスタートだろう。ボジーは何をしてるんだ・・・?」といぶかるばかり。
◎試合映像:フルトン 判定10R(2-0) カストロ
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=p2O2SNOXWGU
もともとカストロのスタイルは、ほとんどボクサーに近いボクサーファイター。足を良く動かしてポジションを変えつつ、ジャブ,ワンツーからフック,アッパーへとつなぐ正攻法のボクシング。
ロング・ディスタンスを維持できている間は、年季とともに増した安定感が武器となり、安心して見ていられるようになった。反面ファイタータイプに距離を潰され、ロープを背負う場面では痩身ゆえの脆弱さが顔を除かせ、思わずヒヤリとすることも。
カストロのウィークネスを見越しての作戦でもあったと思われるが、馬力のあるセサール・ファレスを相手に、頭をくっつけたインファイトをやり通した実績もある。リスクヘッジ第一主義に目を奪われると、意外なフィジカル・タフネスを見落とす。
”らしからぬインファイト”にのめり込んだフルトンが、大きな落とし穴にはまる。第5ラウンド、カストロが狙っていた右を浴びてよもやのダウン。その後も一進一退の攻防が続き、微妙な空気が漂う中、何とか2-1の判定に滑り込んで命拾いしたが、株価の下落は免れない。
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
2025年1月31日
※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=XTiSB5CQ9aU
カストロ戦の愚を繰り返すことは無いと信じるが、フィゲロアの圧力をパワーで跳ね返そうと無理を続ければ、第1戦とは逆の目が出る可能性は充分。生命線のスピード&クィックネスを頼りに、安全確実にポイントメイクに撤することこそ勝利への最短距離であり、間違いのない選択肢の筈。
どんなにブーイングが飛ぼうとも、フルトンの勝機はボックス1本。鋼鉄の意志で己のスタイルを貫徹できるか否かに、2階級制覇の成否が懸かる。
一方のフィゲロアは、第1戦と同様ひたすら前進+手数あるのみ。少々打たれても怯まずへこたれず、硬い拳でフルトンのブロック&カバーを叩き壊すしかない。
希望的観測を述べるなら、フルトンの僅差判定勝ち。3-0,2-0,2-1,負傷判定何でもいい。モンスターとのリマッチに望みをつないで貰いたいと本気で思っている。がしかし、包み隠さず本音を明かすと、小差の2-1判定でフィゲロア・・・?。
◎フィゲロア(28歳)/前日計量:125.8ポンド
現WBCフェザー級王者(V1/暫定→正規昇格:昨年10月)
元WBA・WBC統一S・バンタム級王者(WBA:V4・暫定→正規昇格/WBC:V0)
戦績:27戦25勝(19KO)1敗1分け
世界戦通算:8戦6勝(4KO)1敗1分け
アマ戦績:33勝17敗
身長:175センチ,リーチ:183センチ
左ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)
◎フルトン(30歳)/前日計量:126ポンド
前WBC・WBO統一S・バンタム級王者(WBO:V2/WBC:V1)
戦績:23戦22勝(8KO)1敗
世界戦:4戦3勝1敗
アマ通算:75勝15敗
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝
2013年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2013年全米選手権準優勝
※階級:フライ級
ジュニア:リングサイド・トーナメント優勝
ジュニア・ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
※年度及び階級等詳細不明
身長:169センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量(FIGHTMAG)
◎フルストリーム映像(アーカイヴ)
※PBC公式:約1時間3分/21分27秒頃~開始
https://www.youtube.com/watch?v=aG76AsSLa54
◎第1戦と第2戦のフィジカル比較(計量時点)

※写真上:第1戦(S・バンタム級)/写真下:第2戦(フェザー級)
初戦の計量は、フィゲロア,フルトンともに121ポンド3/4(約55.2キロ)。そして今回は以下の通り。
・フィゲロア:125.8ポンド(約57キロ)
・フルトン:126ポンド(約57.15キロ)
たかが2キロ、されど2キロ。鍛え抜かれたトップ・プロの肉体に、+4ポンド(リミット上限)の余裕がもたらす効用の大きさに、思わず目を見張ってしまう。
計量時の呼び出しも担当したジミー・レノン・Jr.が、「スティーブン・”スクーター(Scooter)”・フルトン!」とコールしていた。東京でのモンスター戦も含めて、「クール・ボーイ・ステフ(Cool Boy Steph)」の二つ名で通してきた筈だが、どうやら変更した模様。
「スクーター(Scooter)」と言っても、昭和生まれの日本人なら、おそらく誰も知っている「ラッタッタ」では勿論ない。スラングとして使われる時には、肯定的な意味で「クレイジーなヤツ」を表すらしい。
キレると何をするかわからない「アブナいヤツ」ではなく、「凄い」と同義で使う「ヤバい」に近いニュアンスなのかもしれないが、その一方でフルトンが通っていた「小学校」の出入り口には、金属探知機(!)が備え付けられていたという。
幼いフルトンを「スクーター(Scooter)」と呼んだのは、父のスティーブン・シニアだったそうで、日本人には想像することさえ難しい、命の危険と隣り合わせの非日常が、ごく当たり前の日常として日々繰り返される。
自身も好んで使っていた筈の「クールボーイ」から、このタイミングで「スクーター」に変えたことに、どんな意味が含まれているのかいないのか・・・。
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□オフィシャル
主審:ハーヴィー・ドック(米/ニュージャージー州)
副審:
マックス・デルーカ(米/カリフォルニア州)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州)
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
立会人(スーパーバイザー):未発表