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”El Venado(イカれたヤツ)”に挑む”大和のサラリーマン” - L・A・ロペス vs 阿部麗也 プレビュー -

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■3月2日/ターニング・ストーン・リゾート&カジノ,N.Y.州ヴェローナ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ) vs IBF1位 阿部麗也(日/KG大和)



昨年4月、37歳になったキコ・マルティネス(スペイン)を3-0の大差判定に下し、IBFの指名挑戦権をモノにした痩躯のサウスポーが、ようやくタイトルマッチの舞台に辿り着いた。

福島県出身の阿部は、県立会津工業高校でボクシングを始めたアマ経験者。ところが、戦績は15戦7勝8敗の負け越し。将来この競技で身を立てようと、素直に信じられる成績とは言いづらい。

ボクシングに憧れを抱いたのはずっと早く、「プロボクサーになりたい」と初めて思ったのは小学生の頃だったという。

磐梯山や猪苗代湖、五色沼などで知られる風光明媚な耶麻(まや)郡に生まれ育ち、自然環境は抜群だったが、ボクシングジムも無ければ指導してくれる経験者も皆無。漫画「スラムダンク」が大好きで、その影響で中学時代はバスケットボール部に入部。かなり打ち込んだらしい。

しかも、陸上部との掛け持ちで砲丸投げもやっていたというから、それだけの運動神経に恵まれ、顧問の先生や周囲からも認められていたのだろう。そうした阿部にとって、高校でのボクシング生活は、疑いようのない「青春の挫折」であった。


日々の練習は厳しく、インターハイや国体、高校選抜等の大会(予選)に備えた合宿について、「本気で逃げ出そうと思うくらい辛かった」と、数少ないインタビューの中で答えている。

「これだけ必死に練習しているのに、大会になると全然勝てない。」

あらためてお断りするまでもないが、阿部は今をときめく井上尚弥と同世代である。

尚弥&拓真、田中亮明&恒成、藤田和典&健児、堤駿斗(はやと)&麗斗(れいと)等々、幼い頃から父に鍛え込まれた「親子鷹」の数が格段に増えて、U15全国大会(プロ主催/2007年発足)と、それに続くUJ(アンダージュニア)全国大会の開催により、長らく途絶えていた小学~中学生を対象とした育成プログラムが、不十分な形であれ復活した。

目標とする大会の有無、しっかりしたステータスを有する競争と明確な結果がもたらす影響は大きい。例えば重岡優大&銀次郎兄弟のように、空手や他競技からの転向を幾ばくかでも促進したと思われる。それ以外にも、近隣にボクシングジムがある場合、中学入学を待って入門する子供たちも、多少なりとも増加したのではないか。


こうした経歴を持つ、いわば格闘技経験者である16~18歳と、高校に進んでから本格的な練習を始めた同年齢とでは、競技者としての能力に小さからぬ差が開いたとしても止むを得ない。

中学時代にバスケットと投擲をやっていた阿部も、基礎的な体力はともかく、ボクシングの錬度で敵わなかった。例えば中学で毎週1~2回でもジムに通っていた経験は、結構なアドバンテージになり得る。

ボクシング部を持つ高校の数は限られる。生家から通える地域に会津工高があったのは幸運には違いないけれど、指導者の数と質を含めた首都圏・大都市部と地方の格差も、野球やサッカー,陸上,柔道等の人気競技とは比較にならない。

こうして阿部は、卒業と同時に神奈川県大和市に移り、現在も勤務を続ける自動車部品メーカーに就職する訳だが、7勝8敗の負け越しにもかかわらず、大学からスカウトを受けたというから、キラリと光る潜在能力は発揮できていたようだ。


KG大和ジムの門を叩いたのは、社会に出て2年目。プロ志望ではなく、フィットネス会員だったが、2007年にジムを開いた片渕会長によると、「スパーリングをやらせたら、日本ランカーとまあまあやれてしまう。上を目指せるんじゃないかと感じた」とのこと。

片渕会長に薦められるまま、19歳の阿部は週1回のジム通いを週6回に増やし、1年かけてプロテストに合格。デビュー2戦目で早くも初黒星を味わうものの、翌2014年の新人王戦で見事全日本のトップに。

これで勢いに乗るかと思いきや、初の6回戦でまたもや判定負け。プロの船出は順風満帆とは行かなかったが、この後、11連勝をマーク。溜田剛士(ヨネクラ)と細野悟(大橋)を破った金星も含まれる。


そして2019年5月、6年目にして実現した日本タイトル初挑戦は、王者の源大輝(ワタナベ)を追い込むも、無念のスプリット・ドロー。再戦を望むも源は階級アップを表明して返上。

1位になった阿部と、2位佐川遼(三迫)の決定戦が承認され、同年9月に2度目のチャンスを得たが、0-3のユナニマウス・ディシジョンで敗北。僅少差のポイントとは裏腹に、ファンと関係者の評価は阿部の完敗だった。

念願のタイトルマッチを迎えたのに、2試合続けて勝ち切れなかった。ようやくスポンサーが付き、ボクシング1本に専念すべきとの話になる。サラリーマンとの二束の草鞋に限界を感じ、大手ジムへの移籍も考えたというが、「いい話が来たから飛びつくのか?。本当にそれでいいのか?」と、父の叱咤を受け翻意。


正式に申し出ていた退職の意向を撤回し、「サラリーマン・ボクサー」を売りにするようになった阿部は、武漢ウィルス禍の間も1年を超えるブランクを1回だけに抑え、プロ生活8年目にして円熟の時期を迎える。

3連勝で復調すると、2022年5月、3度目のチャンスがやって来た。TV番組でも採り上げられ、話題になった丸田陽七太(森岡)への挑戦が決定。日本タイトルだけでなく、WBOのアジア・パシフィック王座も懸けられ、阿部が不利の予想を覆して載冠。

◎丸田陽七太戦:12回3-0判定勝ち
2022年5月15日/墨田区総合体育館


前後左右に細かく足を刻み、相手の前進を捌きながら、長いワンツーを軸にしたコンビネーションでポイントメイクするスタイルに、安定感と力強さが加わり、国内フェザー級の顔と呼べる存在になった。


井上尚弥、伊藤雅雪の2王者とのスパーリングで、自身の成長に手応えを感じていたとのことだが、昨年4月8日、有明アリーナで行われた拳四朗 vs オラスクアガ,井上拓真 vs リボリオ・ソリス戦のアンダーカードで、キコ・マルティネスと対戦。

愚直に真っ直ぐ前進して来る小柄なマルティネスに、阿部のアウトボクシングが面白いようにハマる。この試合に備えてさらなる磨きをかけた左ストレートだけでなく、ワンツーと左アッパーで変化を付けたコンビネーションも、歴戦の元王者を再三ヒット。

大阪城ホールで長谷川穂積を地獄に落としたのは、既に8年前の出来事で、直後にカール・フランプトンに敗れてベルトを失い、スコット・クィッグのWBA王座にアタックして2回TKO負け。


フェザー級に転じてレオ・サンタ・クルスにも5回TKO負けを喫し、完全に終わったものと思われていたが、ジョシュ・ウォーリントンと繰り広げた白熱の好勝負(判定負け)が評判となり、ゲイリー・ラッセル・Jr.のWBC王座に挑戦するも、左の瞼をカットしてストップ負け。

それでも諦めずに戦い続けたマルティネスは、2021年11月、フェザー級で3度目のチャンスを掴み、もはや第二のホームと呼んでもいい英国でキッド・ギャラハドに6回TKO勝ち。超特大の大番狂わせで2階級制覇に成功した。

この王座も初防衛戦で雪辱を期したウォーリントンに奪われたが、マッチルームが押すジョーダン・ジルを4回TKOに屠り、豪腕健在を示していた。


丸田に切り裂かれた右の瞼を再びカットするなど、阿部も少なからず傷を負うことになったが、歴戦の豪打者を多くのラウンドで空転させ、顔面を破壊しての完勝は、想像を超える戦果と表していい。

◎K・マルティネス戦:12回3-0判定勝ち
2023年4月8日/有明アリーナ
https://www.youtube.com/watch?v=IjcHIlaSoik

マルティネス戦から開いた1年近いブランクは、2試合連続のカットによる右瞼の古傷化を防ぐ為に必要な、長めの休養だったと捉えることもできる。

メイン・イベンターになって以降、現代のボクサーとしてはごく平均的な年間2試合ペースに落ち着いた阿部に、試合勘の鈍化や調整ミスといった懸念は不要と考えたい。


受けて立つ王者ロペスは、アメリカと国境を接するバハ・カリフォルニア州第二の都市メヒカリ出身。年齢は阿部と同じ30歳で、プロデビューは阿部より2年遅い2015年の冬だが、修行時代の4年間は矢継ぎ早に試合をこなしている。

レコードに残る2度の敗戦は、10回戦に進んだ2018年と翌2019年に喫したもので、いずれもローカル・タイトルが懸かっていた。2敗目のルーベン・ビリャは、カリフォルニア出身のトップ・アマで、2020年10月にフェザー級時代のエマニュエル・ナバレッテに挑戦して中差の0-3判定負け。

ロペスは同年2月に続く2度目の米本土参戦だったが、善戦及ばずユナニマウス・ディシジョンを失い、地元のローカル・ファイトでやり直し。2020年7月、トップランクの主催興行に呼ばれて、カリフォルニアの中堅アンディ・ヴェンセスに2-1の10回判定で競り勝つ。

在米ファンの注目を集め出したのは、2021年の秋以降。まずは9月10日のガブリエル・フローレス戦。アリゾナ州ツーソンで行われたトップランクの主催興行で、18連勝(7KO)中のフローレスをフルマークの3-0判定に下すと、12月3日には渡英してイングランド期待のアイザック・ローウェ(対戦当時無敗)に7回TKO勝ち。


この連勝でトップランクとの複数年契約を手にしたロペスは、主戦場をアメリカに移してさらに連勝を重ね、2022年12月、キコ・マルティネスを追い落としたジョシュ・ウォーリントンとの白兵戦をしのぎ、敵地で僅少差の0-2判定勝ちを収め、IBF王座奪取に成功。

昨年5月の初防衛戦も、アイルランドへ飛んでマイケル・コンラン(ロンドン五輪フライ級銅メダル)の挑戦を5回TKOで退けている。

英国を代表する2大プロモーター,エディ・ハーンとフランク・ウォーレンの興行を立て続けに潜り抜けたロペスは、昨年9月にカリフォルニアの元プロスペクト,ジョエト・ゴンサレスに3-0判定勝ち。

ジョエトはシャクール・スティーブンソンとナバレッテに挑戦して敵わず、2022年7月にはアイザック・ドグボェにも敗れてしまい、新人時代の輝きは失われてしまったが、堅いガードでロペスの突破を再三阻み、フルラウンズを粘って世界ランクの地力を証明した。


セオリーに囚われない自由かつトリッキーなムーヴ、距離を取って離れようとする相手に、ジャンプしながら左右のパンチもろとも飛び込む様が、往年の悪魔王子を連想させることから、”メキシコの(ナジーム)ハメド”と呼ばれたりもする。

ロペスの特徴が最も良く発揮されているのは、以下にご紹介するジェイソン・バルデス戦ではないかと思う。

◎J・バルデス戦:2回KO勝ち
2022年8月20日/パチャンガ・アリーナ,サンディエゴ



ルーズガードのまま左右フックを強振する気の強さが災いして、ビッグショットを食ってダウン寸前に陥る隙の多さも含めての評価だが、個人的にはオーバー・レイテッドと言わざるを得ない。

公称163センチの小柄な体躯をものともせず、修行時代には130ポンド超の調整を複数回経験するなど、フィジカルの強度とパンチ力を武器に戦うロペスだが、ご本家最大の持ち味だった柔軟性と卓越した全身のバネは望むべくもなく、世界タイトルを懸けた3試合は、バルデス戦のように自由にやれなかった。

◎ロペスの世界戦3試合
<1>J・ゴンサレス戦:12回3-0判定勝ち
2023年9月15日/アメリカン・バンク・センター,テキサス州コーパスクリスティ
https://www.youtube.com/watch?v=3qkLZPFeLN8

<2>M・コンラン戦:5回TKO勝ち
2023年5月27日/SSE(オデッセイ)アリーナ, ベルファスト(英/アイルランド)
https://www.youtube.com/watch?v=2hUxcEsPAkg

<3>J・ウォーリントン戦:12回2-0判定勝ち
2022年12月10日/ファースト・ダイレクト・アリーナ, リーズ(英/イングランド)
https://www.youtube.com/watch?v=VYInWEwV9P0


王座に就いたウォーリントン戦は、第11ラウンドに食った強烈な左フックが効いて、クリンチ&ホールドも辞さない逃げ切りでKOを免れている。12ラウンド終了のゴングと同時に、ウォーリントンが素早く右手を突き上げ勝利を誇示していたが、地の利を考えれば防衛成功でもおかしくなかったと思う。

ロペスとのリマッチがスムーズに運ばず、ターゲットをリー・ウッド(WBA王者)に移したウォーリントンは、昨年10月シェフィールド・アリーナで今が盛りのウッドと激突。第4ラウンドに王者の右瞼をカットして奮戦するも、第7ラウンドにラビットパンチで減点され、ダウンを喫してKO負け。熱望していた「ロペス2」も胡散無償。


上体を立てたまま、強引に力任せの強打を振り回すロペスは、多くのファンと関係者が指摘する通りディフェンスに穴が多い。相手のスタンス(左右)にかかわらず、右から入って左を返す逆ワンツーをすかされ、左フックを浴びる場面も散見される。

阿部も当然カウンターを狙って行くだろうが、ロペス陣営はフィジカルの弱いコンランの再現を目論んでいるに違いない。

ルーズガードは阿部も同じで、キコ・マルティネスを翻弄したスムーズな3~4連打は、楽に構えたガード(脱力)の効果が大きく、ジョエトのように高い位置に両腕をキープしながら、肘を内側に絞ってガッチリ防御を固めると、不用意な被弾を防ぐことはできるが、手数が減って阿部の良さも消えかねない。

動き出し(立会い)に変化が無く、同じテンポとリズムで真っ直ぐ前に出てくるマルティネスと違って、予測しづらいポジションと角度から、おかしなテンポで飛び出してくるロペスを自由にさせないことが何よりも大事。

とりわけ立ち上がりの2~3ラウンズ、ガードの上からでも左の強打を叩き込み、ロペスを下がらせ、簡単に飛び込めない雰囲気を作ることができるかどうか。先にロペスの強振を貰うと、そのまま一気に終わる可能性も充分。

マルティネス戦の第2ラウンド、歴戦のスパニッシュが放つ左アッパーで顎を痛打され、腰を落としかけた場面を、ロペス陣営は「これだ!」と膝を打ちながら見つめていたのでは・・・。


前評判は大差でロペスを支持。勧進元のトップランクは、事実上のメインイベントになる同じ階級のWBA王座決定戦(オタベク・コルマトフ vs レイモンド・フォード)の勝者と、ロペスとの統一戦を計画中。

ビッグアップセットで阿部の手が挙がれば、統一戦はもとより、その先には井上尚弥との日本人対決も見えて・・・来る?。



◎ロペス(30歳)/前日計量:125.3ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:31戦29勝(16KO)2敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎阿部(30歳)/前日計量:125.8ポンド
前日本フェザー級(V1/返上),元WBOアジア・パシフィック同級(V1/返上)王者
2014年度全日本新人王(フェザー級)
戦績:29戦25勝(10KO)3敗1分けNC
アマ戦績:15戦7勝8敗
福島県立会津工業高
身長:172センチ,リーチ:175センチ
左ボクサー


◎前日計量




両国3大決戦 プレビュー 3  - ”4団体統一を公言・中谷戦をも見据えた拓真の勝算は・・・ -

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■2月24日/両国国技館/WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 井上拓真(日/大橋) vs WBA位/前IBF J・バンタム級王者 ジェルウィン・アンカハス(比)




「兄(尚弥)が返上したバンタム級のベルトを、もう一度自分が集める。」

歴戦の雄,リボリオ・ソリスを3-0の判定に下してWBA王座に就いた拓真は、今後の目標についてはっきり言い切った。

半ば無理やりに自らを鼓舞しているようにも見えたし、本心からそれを望んでいるのかどうか、今1つ釈然としない印象も残ったけれど、他に自分自身を納得させ得るチャレンジが見当たらない。

兄尚弥との実績の差は、もはや埋めようがないほど乖離してしまった。アンカハス戦に向けた会見やインタビューの中で、「目標を見失いかけた」と本音を吐露することも・・・。

尚弥への評価と賞賛が高まる一方で、まばゆい光の傍らに追いやられた影のように、地味で目立たない存在へと追いやられてしまう。それこそが勝負の世界の常,容赦呵責のない現実とは言え、簡単に言葉で表し切れない相克があったに違いない。


桁外れの爆発力で当たるを幸い倒しまくる尚弥に対して、拓真最大のストロング・ポイントは、スピード&タイミング。

「相手に何もさせない。触らせないボクシング」こそ拓真の本領だと、父の真吾トレーナーはこれまで何度もそう繰り返してきたが、愚直なと言いたくなるほど不器用な打ち合いにのめり込み、負わずに済んだ筈の傷とダメージを負う。

WBC暫定王座を獲得した4年前のペッチ・CPフレッシュマート戦でも、打ち終わりに棒立ちになる悪い癖を面白いように突かれ、無用な被弾を続けて苦しんだ。

正規王者ナルディーヌ・ウバーリ(仏)とのWBC内統一戦では、「経験が違う。拓真は良いボクサーだが、私のような万能型とは初めての対戦になる」と、自信満々に語るウバーリの言葉通り、ダウンを奪われ一敗地に塗れている。


その後は、栗原慶太(一力)からOPBF王座を奪うと、122ポンドに上げて和氣慎吾(FLARE山上),古橋岳也(川崎新田)の2人を破るも、尚弥のS・バンタム進出に伴いバンタムに出戻り。

フィリピンの中堅選手を8回TKOに屠り、およそ6年半ぶりとなる手応えに思わず吼えた。そして、4本のベルトを巻いた尚弥が予定通り返上。ソリスとの王座決定戦出場のチャンスをモノにする。

ソリス戦の拓真は、ペッチ戦,ウバーリ戦とは違って、打ち終わりの処理をサボらず頭の位置を変え、ソリスの攻撃を足で外しながら、「打たせずに打つ」スタイルに撤していた。肝心要の「打つ」方は、精度に今一歩の課題を残しはしたものの、綺麗な顔のまま12ラウンズを戦い終えることができたのは大きな収穫と表していい。


直前のオッズは、何とも微妙な数字になった。本来ならば、昨年11月15日に開催される予定だったが、延期の原因となった拓真の負傷(肋骨骨折)も無関係ではないと思う。万全な状態に回復しているというが、アンカハスは当然そこを狙ってくる。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拓真:-225(約1.44倍)
アンカハス:+200(3倍)

<2>betway
拓真:-225(約1.44倍)
アンカハス:+188(2.88倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拓真:4/9(約1.44倍)
アンカハス:7/4(2.75倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
拓真:1/2(1.5倍)
アンカハス:9/4(3.25倍)
ドロー:22/1(23倍)


115ポンドで安定政権を築いたアンカハスは、フェルナンド・マルティネス(亜)に連敗して階級アップを決断。以前からフィジカルの強さを嫌う傾向が顕著で、力で押されることを苦手にする。

技術&神経戦に相性の良さを発揮するだけに、拓真を「持って来いの相手」と見立ている可能性が高く、会見で「勝算は100%」と語る大橋会長に対して、MPプロモーションズの代表を務めるショーン・ギボンズが「110%勝つ」と胸を張ったのは、前景気を煽るリップサービスでもなければ空元気でもない。


アンカハスをアウトボックスするのは、骨の折れる仕事になる。その為に最も重要なピースは、ジャブの精度&タイミング。これが向上していないと、アンカハスのプレスがかかり易くなり、見栄えの良くない時間帯が増えてしまう。

ソリス戦の展開も、見る人によっては「押し負けた」「地の利を得ての逃げ切り勝ち」と言われてしまいかねない。

サウスポー対策にも抜かりはないと信じるが、とにもかくにも足を止めないこと。そして正確かつコンパクトなジャブを絶やさないで。


◎【ダイジェスト版】2.24 LIVE BOXING 7 スペシャルコンテンツ | プライムビデオ
2024/02/10





◎拓真(27歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
現WBAバンタム級王者(V0),元WBCバンタム級暫定王者(V0),前日本S・バンタム級(V0),WBOアジア・パシフィック S・バンタム級(V1),OPBFバンタム級(V0), 元OPBF S・フライ級(V2)王者
戦績:18戦17勝(4KO)1敗
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)
戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。
”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士。
身長:164.2センチ,リーチ:163センチ
※ウバーリ戦の予備検診データ
脈拍:51/分
血圧:142/84
体温:36.0℃
※計量後の検診
右ボクサーファイター


◎アンカハス(32歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
前IBF J・バンタム級王者(V9)
戦績:39戦34勝(23KO)3敗2分け
身長:168センチ,リーチ:169センチ
脈拍:98/min
血圧:100/71 Hgmm
体温:35.9℃
※計量後の検診
左ボクサーファイター

◎前日計量


◎「何もさせない」



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■オフィシャル

主審:マーク・ネルソン(米/ミネソタ州)

副審:
ルイージ・ボスカレッリ(伊)
アレックス・レヴィン(米/フロリダ州)
キム・ビュンム(韓)

立会人(スーパーバイザー):ウォン・キム(韓)




両国3大決戦 プレビュー 2  - ”3階級制覇の先に見えるバンタム級統一路線・・・中谷 vs 拓真の行方やいかに -

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■2月24日/両国国技/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ) vs WBC1位/2階級制覇王者 中谷潤人(日/M.T)




昨年9月のS・フライ級ラスト・マッチから5ヶ月。中谷のバンタム級初陣は、大番狂わせの3-0判定で黄昏のドネアを破り、緑のベルトを手中にしたサンティアゴへのアタック。

アルヒ・コルテス戦のプレビューで触れた減量苦は、118ポンドに上げても劇的な改善には至っていない様子だが、土気色でまるで精気が感じられなかった前回に比べれば、まだ人間らしい顔色をしている。

※過去記事:戦慄の左ストレートは火を噴くか? - 中谷潤人 vs A・コルテス 直前ショート・プレビュー -
2023年9月17日
https://keisbox.online/archives/22847676.html


心配していた通り、中谷の仕上がりは万全とは言えず、実力差が明らかなアルヒ・コルテスにかなり押し込まれていた。公称159センチのサンティアゴは、同じく163センチのコルテスよりさらに小さい。

それでも、老いたりとは言え160センチ台後半のドネアに力負けせず、最後までガス欠することもなく、12ラウンズを動き続けてユナニマウス・ディシジョンをもぎ取っている。

※過去記事:ドネアが3度目の載冠へ /小兵のメキシカンは叩き上げの兵(つわもの) - ドネア vs サンティアゴ ショートプレビュー -
2023年7月30日
https://keisbox.online/archives/22106755.html


そして、13センチに及ぶ身長差を武器に変える術を、サンティアゴはそれなりに身に付けており、低い態勢で懐に潜り込んでくるところを十八番のショートアッパーで迎え撃とうとガードが開いたところへ、下から打ち上げるストレートやフックで狙われると怖い。

中谷のことだから、積極的に自分から距離を潰して、アッパーを軸にしたコンビネーションで崩しにかかりそうだが、ロングの左を効かせてからで充分。

ミドル級に上げた途端、打たれ脆さが露になったトーマス・ハーンズのように、痩身のパンチャーが一旦崩れ出すと手の施しようがなくなる。むしろここは、打ち下ろしのストレートでしっかり捉えたいし、その為には、ロングジャブ&ステップで距離をキープする時間も重要。

密着しないと勝負にならないサンティアゴを突き放して焦らしつつ、長めのアッパーを真ん中から打ち抜くなど、メキシコ陣営の想定にない工夫が必要になるかもしれない。

例え僅かであったとしても、3ポンドがもたらす調整末期の余裕のお陰で、コルテス戦より上向くであろう仕上がり状態が、増量の影響+サンティアゴのしつこさを当たり前に超えていれば、ここまであれこれ考えることもないと思うが・・・。


直前のオッズは、概ね予想通りのマージンで着地。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
サンティアゴ:+500(6倍)
中谷:-700(約1.14倍)

<2>betway
サンティアゴ:+500(6倍)
中谷:-800(1.125倍)

<3>ウィリアム・ヒル
サンティアゴ:9/2(5.5倍)
中谷:1/6(約1.17倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
サンティアゴ:6/1(7倍)
中谷:1/6(約1.17倍)
ドロー:40/1(41倍)


◎【ダイジェスト版】2.24 LIVE BOXING 7 スペシャルコンテンツ | プライムビデオ
2024/02/10


◎「ターニングポイントになる試合」



開始間もない時間帯は、じっくり落ち着いて慎重に。サンティアゴの動きと当たりに気をつけながら、けっして打ち急がず、ジャブから入る基本&細かく丁寧なステップの励行を。


◎サンティアゴ(27歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
戦績:36戦28勝(14KO)3敗5分け
身長:159センチ,リーチ:166センチ
血圧:127/75
脈拍:118/分
体温:36.3℃
※計量時の測定
好戦的な右ボクサーファイター

◎中谷(25歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
前WBO J・バンタム級王者(V1/返上),前WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:26戦全勝(19KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:172センチ,リーチ:170センチ
脈拍:81/分
血圧:106/70
体温:36.4℃
※計量時の測定
左ボクサーパンチャー

◎前日計量


◎Inoue, Nakatani, & the Japan Card Make Weight | FULL WEIGH-IN
Top Rank Boxing



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■オフィシャル

主審:ローレンス・コール(米/テキサス州)

副審:
アラン・クレブス(米/ワシントン州)
フェルナンド・バルボサ(米/フロリダ州)
ジョエル・スコービー(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):ミゲル・パブロ(スペイン/WBC大使)



両国3大決戦 プレビュー 1  - ”マタドール恒成”に大いなる期待・・・をしても大丈夫? -

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■2月24日/両国国技館/WBO世界J・バンタム級王座決定12回戦
WBO1位 田中恒成(日/畑中) vs WBO2位 クリスティアン・バカセグア(メキシコ)




「マタドールみたいになるんじゃないですか。」

2月15日に帝拳ジムで練習を公開したバカセグアの印象と、今回の戦術について問われた畑中会長がそう答えた。

「一度打ち出すと止まらなくなる。手数が出ますね。」

対するバカセグアも負けてはいない。「私の角は鋭い。下からすくい上げる。彼は宙を舞うだろう」と必勝をアピール。


ご存知の通り、メキシコは中米随一ボクシングが盛んな国ではあるが、同時に闘牛の国でもある。畑中会長がそこまで意識したのかどうかは別にして、実にタイムリーな発言だったと感心するばかり。

これは勿論、井岡一翔に完膚無きまでにやられた後、最優先で取り組むべきテーマに掲げ続けてきた「ディフェンスの改善」への期待、大きな意味合いも込められてのこと。

昨年5月に地元で行ったパブロ・カリージョ(コロンビア)との10回戦は、その成果がようやく形となって現れた快勝と評価したい。タフでハートの強いカリージョを的確なジャブで削り、右の強打もフルスウィングではなく、パワーよりも精度とタイミングを優先。

し止め切れずに大差判定かと思われたラスト・ラウンド、マックウィリアムズ・アローヨ倒したを井岡のストレート、あるいはハッサン・エンダム・ヌジカムとの第1戦、第4ラウンドに火を噴いた村田諒太畢生の一撃を彷彿とさせる、それはもう鮮やかな右のカウンターでダウンを奪い、そのままレフェリーストップを呼び込む。


単純な中央突破は影を潜め、カリージョの出足を良く読み、無駄打ちと無駄打たれ(?)の愚を冒さない。試合を終えた田中の顔は綺麗なままで、「もう少し足を使ってくれれば・・・」と欲の深いマニアの性がつい口を突いて出てしまうほど、田中のボクシングは変貌した。

以前の突貫スタイルを支持する人たちの眼には、「慎重過ぎる」「面白みが無くなった」と映る場面もあったと思うけれど、「打ちたい欲」を我慢して戦術的ディシプリンに撤する田中に、「それでいいんだ。間違っていない。」と心の声で声援を贈り続ける。

田中自身は、昨年12月の発表会見で述べた「KO奪取」への意気込みを、記事の最後でご紹介する計量後の囲み取材でも繰り返していた。

発表会見でも、村田大輔トレーナーと一緒に磨いてきた「新たなスタイル(打たせずに打つ)」への手応えとともに、「父親から教わった前に出続けるボクシング」へのこだわりにも触れている。


1歩も退くことなく、ムキになって打ち合いに雪崩れ込む悪癖が再現するのではないかと、要らぬ筈の老婆心が暗雲のように拡がり、不安をかき立ててしまう。田中の正確なバカセグア評が、お節介な懸念を大きくしてしまう。

「プロで20戦していますが、そのうち19戦を世界チャンピオンかランカーと戦ってきた。これまで対戦した選手たちと比べて、(バカセグアは)それほど難しい相手だとは思わない。」

仰る通り。スピード,パワー,テクニックのいずれを取っても、良く言ってローカルランクの上位といった水準で、バカセグアに世界2位の肩書きは重過ぎる。世界ランク入りの根拠は、2021年に獲得したWBOラティーノ王座。ただし、真に名のある相手との対戦は無し。


びっくりするのは、2015年7月のデビュー戦を129ポンドのS・フェザー級で戦っていること。2戦目から一気にS・バンタム級まで絞り、2017年から18年にかけてバンタム級を行き来しながらS・フライ級を試し、2019年にはフライ級リミットでモイセス・カジェロス(山中竜也とWBOの105ポンドを争いTKO負け)に10回判定負け。

これ以降、115ポンドに定住して戦績が安定。日本に比べればまだまだ選手層が厚く、侮れない中堅がひしめくメキシコの軽量級で、ここまでローカル・ファイトを生き残ってきたのは、打たれ強さを含めたフィジカル・タフネスの賜物だが、リアルなローカル王者クラスとやっていないからだとも言える。

井岡と同じく、計量後のリバウンドを最大限に活かし、ガードを固めて圧力をかけ続け、手数だけは出し続けて田中を白兵戦に引きずり込み、守りの意識が薄れるのを待って相打ちの左フックか右アッパー、もしくは右のオーバーハンド(ボラード)でイチかバチかの1発を狙う。


”メキシカン・ロッキー”に勝機があるとすれば、それぐらいしか思い浮かばない。油断さえしなければ、田中の4階級制覇は九分通り達成したも同然であり、それだけに余計な色気を抑えるのが大変。

KOを狙って真正面から攻め急ぐ、悪い虫が騒ぎ出すのがとにかく怖い。そこを耐えて冷静に戦術的規律を保つのは、カリージョ戦以上の困難を田中を強いることになるだろう。

掛け率が存外に接近しているのは、井岡戦の強烈な記憶が未だに尾を引きずっているからで、あれだけ一方的かつ無残なKO負けを払拭する為には、それ相応の相手に同等以上のインパクトを残して勝つ以外に道はない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
田中:-500(1.2倍)
バカセグア:+400(5倍)

<2>betway
田中:-599(約1.17倍)
バカセグア:+400(5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
田中:1/5(1.2倍)
バカセグア:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
田中:2/11(約1.18倍)
バカセグア:21/5(5.2倍)
ドロー:16/1(17倍)


井岡に敗れた直後、リマッチについて問われる度び、「負けた自分がもう一度と、そう簡単には言えない」と否定的な態度を変えなかった。

今一度世界のベルトを巻いて、とにもかくにも4階級制覇を成し遂げる。その上で2団体を統一すれば、井岡が負けない限り自ずと再戦への扉は開いて行く。田中自身の口から、井岡へのリベンジが聞かれるとすれば、おそらくその後になるのではないか。

「目標は4団体統一。S・フライ級の最強を証明する。」

中谷潤人との指名戦回避でまたもや男を下げた井岡は、追い続けるファン・F・エストラーダ戦一択あるのみ。それ以外の対戦相手は眼中に無し。田中とは、3年前の大晦日で決着済みといったところ。

115ポンドのNo.1と目されるエストラーダに明白な差を付けて打ち破れば、すべての批判を吹き飛ばせるだけでなく、P4Pトップ10圏内への定着も夢ではなくなる。


ワンサイドのKO勝ちが喉から出るほど欲しい。そうであればある程、カリージョ戦と同じ辛抱が必須。そう肝に銘じて、「無駄打ち+無駄打たれ」の抑制に撤して欲しい。





◎田中(28歳)/前日計量:114.6ポンド(52キロ)
元WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:20戦19勝(11KO)1敗
世界戦通算10戦9勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
脈拍;73/分
血圧:112/82
体温;36.3℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター


◎バカセグア(26歳)/前日計量:114.6ポンド(52キロ)
戦績:28戦22勝(9KO)4敗2分け
身長:163センチ
脈拍;46/分
血圧:121/78
体温;36.2℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎計量時のインタビューでKO宣言



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■オフィシャル

主審:ベンス・コヴァチ(ハンガリー)

副審:
ドン・トレッラ(米/コネチカット州)
パット・ラッセル(米/カリフォルニア州)
スラット・ソイカラチャン(タイ)

立会人(スーパーバイザー):レオン・パノンチーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)


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■主流派(大橋+帝拳)へようこそ

色々な見方や意見はあるだろうが、三十路を目前にした田中が、中京のローカル・スターから脱却する転機を迎えた。

カリージョ戦の中継は、中京地区の民放5局が共同運営する「Locipo(ロキポ)」というWEB配信サービスで行われている。試合内容が良かっただけに、本当に勿体なく残念に思えてならない。

今回は、ESPN+(トップランク経由)で米本土にも配信される。月額11ドル弱のサブスクは、熱心な在米ボクシング・ファンにとって大きな負担にはならない筈で、尚弥の弟とアンカハス、ドネアに勝ったサンティアゴにノックアウト・オブ・ジ・イヤーの中谷が絡むカードは、一定の訴求力が期待できる。

田中の試合は、世界戦とは言っても相手が相手だけに、完全なセミ扱いにならざるを得ないけれど、視聴者数は少なくても、在米マニアの眼に触れることが第一。

※Takuma Inoue vs. Jerwin Ancajas (Main Card)
ESPN+ ? Top Rank Boxing
https://www.espn.com/espnplus/player/_/id/64de4119-f90b-4f38-af8f-f705b4a9136f/country/us/redirected/true

引退撤回の

カテゴリ:
■2月8日/ミケロブ・ウルトラ・アリーナ,ラスベガス/WBO世界J・ウェルター級タイトルマッチ12回戦
王者 テオフィモ・ロペス(米) vs WBO10位 ジャメイン・オルティズ(米)



唐突な引退を声明したかと思いきや、あっという間の撤回。ジョー・ルイスやモハメッド・アリの昔から、トップボクサーの引退宣言ほどアテにならないものはないとわかり切ってはいたし、26歳という年齢を考えれば、余程の怪我か重篤な疾病でもない限り、普通に考えて有り得ない。

早速ブリーチャー・レポートに「1億ドル超が約束されるなら翻意してもいい」との一報が出て、「やっぱり・・・」と頷く。


<1>TEOFIMO LOPEZ JR. SAYS HE’S RETIRING?AND NO ONE CLOSE TO HIM BELIEVES IT
2023年6月29日/リング誌
https://www.ringtv.com/655098-teofimo-lopez-jr-says-hes-retiring-and-no-one-close-to-him-believes-it/

<2>Teofimo Lopez Says He'd 'Only' Return to Boxing on $100M+ Contract After Retiring
2023年6月13日/Bleacher Report
https://bleacherreport.com/articles/10078979-teofimo-lopez-says-hed-only-return-to-boxing-on-100m-contract-after-retiring

<3><4>Teofimo Lopez Jr. claims to be 'retired' in aftermath of massive win over Josh Taylor
2023年6月11日/CBS Sports
https://www.cbssports.com/boxing/news/teofimo-lopez-jr-claims-to-be-retired-in-aftermath-of-massive-win-over-josh-taylor/

<4>Teofimo Lopez Not Retiring, Won't Vacate WBO Title Despite Previous Claims4202023年7月13日/Bleacher Report
https://bleacherreport.com/articles/10082558-teofimo-lopez-not-retiring-wont-vacate-wbo-title-despite-previous-claims


カネと政治力を併せ持つ有力プロモーターと渡り合う為に、支配下のボクサーが自らの引退を賭して場外戦を繰り広げること自体は、さほど珍しいことではない。

トップランクもご他聞に漏れず、キューバの軽量級を代表する両巨頭,ユリオルキス・ガンボア&ギジェルモ・リゴンドウとの派手な喧嘩別れは未だ記憶に新しく、契約満了まで辛抱することが出来ず、アラムが提示するマッチメイクを片っ端から断り続けたマイキー・ガルシアは、2年半に及ぶレイ・オフを甘んじて受け入れた。

最近では、ウェルター級に上げて以降、躍起になって追い続けたエロール・スペンスとの統一戦が一向に実現に向かわず、メディアを介してトラッシュトークを一度ならず繰り広げたテレンス・クロフォードも、ビッグマネー・ファイトへの渇望とともに、リゴンドウと同様「不当な低評価」への不満を訴えている。


2人が口にした「不当な低評価」は、マッチメイクとギャランティの決定権を握るトップランクとHBO,ESPNに対する抗議であるのと同時に、伸び悩むチケットセールスと視聴者数(ノンPPV)に象徴される、「ファンの見る眼の無さ」への逆批判も含む。

惨憺たる結果(5万件に届かなかったとされる)に終わったショーン・ポーター戦のPPVセールスと、さっぱりなゲートを槍玉に挙げられ、「彼は自身の市場価値をわかっていない。実態以上の評価と条件を我々は与えてきた」とアラムに突っ込まれたクロフォードは、最終的に民事訴訟を仕掛けて居直るしかなかった。

それでも、140ポンドでの4団体統一と3階級制覇のチャンスを得られた点は、ドネア戦とロマチェンコ戦を例外として、15~25万ドルの相場で我慢を強いられた軽量級のリゴンドウに比べれば、王国アメリカのマーケットを支える花形の中量級という大きな違いはあるにせよ、アラムの指摘が事実であることも認めざるを得ない。


トップランクとの契約切れを待つ間、マイキーのようにロマンを追ってケツをまくったりせず、丁々発止の駆け引きをやりつつ、試合のオファーには応じたリアリストのクロフォードは、アラムと別れて5年間待たされ続けたスペンス戦を遂に実現しただけでなく、ワンサイドの勝利をこれでもかと見せつけて、カネロに近いポジションを引き寄せ(?)ご満悦の体。

また、先月末から今月始めにかけて、唐突に引退を発表したシャクール・スティーブンソン(26歳)もアラムの有力な持ち駒だが、こちらは条件闘争ではなく、エドウィン・デ・ロス・サントス戦の塩っぷりを酷評され、感情的になっているだけとの見方が大勢を占めており、「テオフィモの”一時的な引退”以上に早い帰還」を確実視されている。


テオフィモに話を戻すと、ジョシュ・テーラー(英)を番狂わせの3-0判定に下して2階級制覇を達成した直後の表明だったこと、さらにベルトも返上していなかったことから、本気度を疑われたのも致し方がない。

「十中八九、トップランクに対する条件闘争。アラムがそれなりに譲歩して、すぐに翻すだろう。」

年季の入ったボクシング・ファンなら誰もがそう思っていた筈で、待遇が幾らかでも改善したのかどうかは定かではないが、現役の続行については大方の見立て通りになった。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス


※ファイナル・プレッサー(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=4JAlIU3uxRA


直前の掛け率をチェックすると、結構な差が開いていた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
テオフィモ:-650(約1.15倍)
J・オルティズ:+450(5.5倍)

<2>betway
テオフィモ:-599(約1.17倍)
J・オルティズ:+450(5.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
テオフィモ:1/7(約1.14倍)
J・オルティズ:9/2(5.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
テオフィモ:1/6(約1.17倍)
J・オルティズ:6/1(7倍)
ドロー:22/1(23倍)


世界挑戦まで2試合のテストマッチを挟み、ダウンを奪われ2-1判定の辛勝を拾った(?)サンドロ・マルティン(スペイン)との転級第2戦は、仮想テーラー(自分より大きなサウスポー)として呼んだつもりが、打ち合い回避の逃げ足を徹底されたこともあって(事前に分かってはいた筈)、いい場面を作り切れずに終わったことが、本番のテーラー戦で福となった格好。

対するジャメインも、ロマチェンコの復帰戦に抜擢されて力及ばず敗れはしたものの、大いに奮闘して一躍注目を集めた後、1年近く休んで昨年9月にカムバック。138ポンド契約でのリング・リターンを無事に終えている。

世界を獲る前のデヴィン・ヘイニー、ホセ・ペドラサ(セミでキィショーン・ディヴィスと対戦予定)、アーノルト・バルボサ・Jr.らに敗れたメキシコの中堅,アントニオ・モランを大差の3-0判定に下しているが、階級アップのテストはこの1試合のみ。

3試合かけて140ポンドに頭と身体を慣らしたテオフィモに比べると、どうしても線の細さは否めない。5ポンドの差(ライト級のリミット上限:135ポンド)を埋めるのは、簡単なことではないと実感させられる。


勝つことを最優先させたテーラー戦では、「当て逃げ&クリンチ」が目に付いたテオフィモ。あらためて、スピード(素早い反応も含めた)こそが最大の持ち味だと強く認識した。妥当ロマチェンコをやってのけた戦術的ディシプリンを、ここぞという大一番で再び発揮したとも言えるが、それも生来の速さがあってこその2階級制覇。

テーラーの圧力に容易に押し負けないよう、フィジカル強化に努めたことも確かではあるものの、3本のベルトを矢継ぎ早に手放した英国の王者は、テオフィモのスピード&アジリティに対応し切れず、普段通りにプレスできなかったことが最大の敗因。


テオフィモが落ち着いてボクシングに撤した場合、中差以上のユナニマウス・ディシジョンで初防衛に成功すると見るのが、妥当な予想にはなる。

不安要素があるとすれば、テオフィモのムラっ気。開始ゴングと同時に、ジョージ・カンボソスを上から見下すように、後先考えずにブンブン振り回して前進。ディフェンスが完全にお留守になったところへ、絵に描いたような右カウンターを浴びてダウン。

挽回を焦ってさらに熱くなって打ち合い勝負から抜け出せなくなり、まんまと大番狂わせを献上した大失敗を、今回もまた繰り返す恐れがゼロではない。

負けて元々(?)のジャメインは、スタートから急襲を仕掛ける奇策も有り。上手くハマって、カンボソスのようにテオフィモを空転させられたら、”The Takeover(乗っ取り屋:テオフィモのあだ名)”が、強気の”テクニシャン(The Technician:ジャメインの愛称)に”Takeover”される展開が無きにしも非ず。

ジャメインもまた、狡猾な技術&神経戦を想起させる愛称とは裏腹な、年齢相応の好戦性も併せての売りだけに、退くに退けなくなって墓穴を掘る逆効果のリスクも小さくはないけれど、当たり前にやっていたら、冷静かつ戦術的ディシプリンに撤するテオフィモを攻略するのは難しい。どうにかして、頭に血を上らせたいところ・・・。


◎公開練習



◎テオフィモ(26歳)/前日計量:139.6ポンド
現WBO J・ウェルター級王者(V0)、元3団体統一ライト級王者(WBA:V0,IBF:V1,WBO:V0)
戦績:20戦19勝(13KO)1敗
アマ通算:150勝20敗
2016年リオ五輪ライト級出場(初戦敗退)
※ホンジュラス(両親の母国)代表
2016年リオ五輪米大陸予選準優勝
2015年リオ五輪米国最終予選優勝
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2015年ユース全米選手権ベスト8
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2014年ユース全米選手権3位
※階級:ライト級
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター


◎オルティズ(27歳)/前日計量:139.6ポンド
現在のランキング:WBO10位/IBFライト級13位
戦績:19戦17勝(8KO)1敗1分け
アマ通算:100勝14敗
2016年リオ五輪代表候補(L・ウェルター級)
2015年五輪米国最終予選ベスト8
※予選:決勝でジャロン・エニス(25歳/29戦全勝27KO)にポイント負け
※本戦:準々決勝でエイブラハム・ノヴァ(28歳/21勝15KO1敗)にポイント負け
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝(ライト級)
※決勝でテオフィモ・ロペスにポイント負け
2015年全米選手権ベスト4(ライト級)
※準決勝でヘナロ・ガメス(27歳/10勝7KO1敗)にポイント負け
身長:173センチ,リーチ:175センチ
左右ボクサーファイター(スウィッチ・ヒッター)

◎前日計量


※前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=RYSCJTE_3i4

負けん気というか、きかん気にかけては容易に引けを取らない両者だけに、トラッシュトークの応酬になってもおかしくないと考えていたが、プレス・カンファレンスに続いて計量も波風立たずに終了。

静かな分だけフェイス・オフの緊張感が増したようにも感じたけれど、海外ではぎゃあぎゃあ煩く騒ぎ立てる様子を食傷気味に眺める機会が多過ぎて、何もないと拍子抜けしてしまうから困ったものだ。


BLOOD SWEAT & TEARS: Teofimo vs Ortiz | FULL EPISODE



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■リング・オフィシャル:未発表


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■ミケロブ・ウルトラ・アリーナ

聞き慣れない名称を耳にして、「またラスベガスに、新しい屋内施設が出来たのか?」と思いきや、マンダレイ・ベイ・リゾート&カジノホテルに設置された12,000人収容のイベントセンターだった。

近くは「GGG vs カネロ第1戦」が行われ、開場した1999年の秋には、全世界のボクシングファンが熱視線を寄せた「デラ・ホーヤ vs トリニダード戦」を開催した他、「デラ・ホーヤ vs F・バルガス(2002年)」、「マルコ・A・バレラ vs パッキャオ第2戦(2007年)」、「パッキャオ vs J・M・マルケス第2戦(2008年)」等々、20世紀末~21世紀の幕開けを飾るビッグファイトを手掛けた大会場の1つ。

「バドワイザー」で知られるビール・メーカー「アンハイザー・ブッシュ」が、自社の新しいブランド「ミケロプ・ウルトラ」のプロモーションの一貫として、2021年に命名権を取得した。



ネーミング・ライツは、箱物の運営にとってもはや不可欠と表すべきなのだろうが、例えばエディオン・アリーナを名乗る大阪府立体育会館のように、馴染み深い名前が変わることへの一抹の寂しさは残る。

命名権を獲得しつつ、地元の人たちとファンに親しまれた名前をそのまま継承する、太っ腹の経営者が1人くらい現れても良さそうなものだが、雇われ社長では到底叶わない無理難題ということか・・・。


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