”見えざる意思”は動いたのか / - P・タドゥラン vs 銀次郎 2 レビュー Part 1 -
- カテゴリ:
- Review
■5月24日/インテックス大阪5号館,大阪市住之江区/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ペドロ・タドゥラン(比) 判定12R(2-1) 前王者/IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)
王者 ペドロ・タドゥラン(比) 判定12R(2-1) 前王者/IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)

事ここに至っては、何を言っても書いてもせんないこと。我々ファンに出来ることは、取り返しのつかない悲劇に見舞われた重岡銀次郎の命を召さないよう天に祈り、一刻も早い意識の回復を心から願い続ける以外にない。
兄優大が自身のインスタで公表した直近の容態(24時間で自動削除されるストーリー機能を使用)について、メディアは「小康状態」と報じている。自発呼吸が可能となり人工呼吸器が外れたこと、主に脳波と呼吸系、血中の酸素濃度等になると思われるが、重要な数値が少なくとも悪化していないことが確認された。
ただし、冒頭に記した通り意識は回復しておらず、主治医から「1週間がヤマ」との説明も受けているとあり、楽観が許される状況にないことも忘れてはならない。
◎出身地である熊本ローカル局のニュース
重岡銀次朗「自分で呼吸ができる状態に」兄優大がインスタで明かす【熊本】 (25/05/29 17:50)
2025年5月29日/テレビくまもと(TKUofficial)
https://www.tku.co.jp/news/?news_id=20250529-00000012
◎詳細な記事(論スポ)
「自分で呼吸ができるようになった。数値は悪化していない」開頭手術を受け意識不明の重岡銀次朗の容態を兄の優大がSNSで報告…対戦した王者タドゥラン陣営も「早く元気に」とメッセージ
2025年5月29日 22:28/RONSPO
https://news.goo.ne.jp/article/ronspo/sports/ronspo-12455.html
判定結果がコールされた後、コーナーに戻った銀次郎が意識を失い、リングドクターのチェックを受けた上で担架が要請され、コーナーマンとスタッフに担がれるようにしてリングから運び出された。
1年前の第1戦とまったく同じ光景に愕然とする。気になる仕草はあった。勝敗の結果を聞いた直後、呆然と悄然が相半ばする銀次郎に、兄優大が何事かを語りかけている間、銀次郎が両方のこめかみを押さえてうつむく。

「大丈夫か・・・?」
あらぬ不安が脳裏を過ぎる。だが、序盤からタドゥランの強打に晒され、ダメージを蓄積した末に9回TKOに退いた前戦とは異なり、今回はラウンドを取られては取り返すシーソー・ファイトだった。
終始一貫脚を動かし続ける銀次郎の戦術選択によって、無謀な打ち合いに及んで被弾を繰り返す場面は限定的で、後段に掲載するオフィシャル・スコアご覧いただくまでもなく、公式裁定は2-1と割れている。ジャッジ3名中、1名は銀次郎の勝利を支持する接戦・・・採点の上では、少なくともそういう結論になる。
終盤に突入した後も銀次郎の脚は健在で、インターバル中も含めて、朦朧としたり集中力が途切れる様子も見られない。思わずヒヤリとする被弾は何度かあったけれど、いずれも単発で、前回のようにそこから打たれ続けることもなかった。
ただ1点、前戦の教訓を活かし切れなかった事象を除いては・・・。現代アメリカのレフェリングの問題点として、検証の必要性に言及しておくべきかもしれず、詳しくは後述する。
大阪市内の病院に搬送された後、銀次郎の容態は秘匿された。ワタナベジムの渡辺均会長は、取材に対して「詳しい状況についてはJBCが発表する。それを待って欲しい」と答えるに止める。「情報を一本化する(混乱を避ける)為」との説明があり、SNSによる誤情報の拡散と、それらによってご家族にかかる余計な心理的負担の回避を最優先したのだろう。
この時点で、取材に当たるベテラン記者は勿論、筋金の入ったファンも「事態は深刻」だと悟った筈である。
一部界隈で「情報の隠蔽」と取る者たちもいたように見受けるが、「病院→JBC→ご家族とワタナベジム→報道陣」の情報統制には、JBCの試合運営とコーナーを率いた町田トレーナーを始めとするスタッフ、ひいてはワタナベジムへの直接的な批判を防止する目的も、実際に含まれていたとは思う。
ダブルメインのIBFフェザー級タイトルマッチとともに、興行を所管するJBCの現場監督として臨席した安河内剛事務局長と、臨席した安河内剛JBC事務局長と、渡辺会長との合意に基づく対応だったと推察するが、様々な意味で止むを得ない措置ではあった。
◎報道の経緯
<1>【ボクシング】重岡銀次朗 判定負け直後に担架で運ばれ救急搬送…リベンジ王座奪還1歩届かず
[2025年5月24日20時57分]/ニッカンスポーツ
https://www.nikkansports.com/battle/news/202505240001763.html
<2>【ボクシング】重岡銀次朗、大阪市内の病院に入院中 JBCは27日に状態発表予定 24日の世界戦で判定負け後に救急搬送
2025/05/26 16:55/サンケイスポーツ
https://www.sanspo.com/article/20250526-F24XGMUI3RMMDGUOTIBI45V7JI/?outputType=theme_fight
<3>ボクシング 重岡銀次朗が現役引退へ 試合後に緊急の開頭手術
2025年5月27日 20時46分/NHK News Web
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250527/k10014818241000.html
<4>重岡銀次朗が急性硬膜下血腫で緊急開頭手術
2025年5月27日 17時13分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112309/
<5>ワタナベジムが重岡銀次朗について報告「小康状態」、兄優大もインスタで発信
2025年5月29日 20時58分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112329/
◎ワタナベジム公式サイト
<1>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.29
https://www.watanabegym.com/news/20072/
<2>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.30
https://www.watanabegym.com/news/20074/


●●●●●●●●●●●●●●●●●●
銀次郎が脚で外しにかかるだろうとの予見は、本番に向けて何度か公開された練習の映像や、アマチュア時代の経験を踏まえた戦術の見直しに言及した試合前のインタビューを見れば、ある程度の当たりは付いた。
右回りのフットワークでタドゥランの間合いを外し、外されてもすかされても委細構わす踏み込んで振って来る、重くて硬くて長く、なおかつ最も危険な左には、丁寧かつ素早く小さなダック&ロールで対処する。
上体の動作を必要最小限度に抑えて、歩幅も拡くなり過ぎないよう注意を払い、オフ・バランスを徹底回避。窮屈になり過ぎない程度に肘を内側に絞ったハイ・ガードと、ショートのカウンターを無理なく合わせることができる態勢を常に保持して、引き手の戻りも怠らない。
チーフの町田トレーナーを中心としたチームと銀次郎が、どれほど厳しいトレーニングに自らを駆り立ててリマッチに臨んだのか。その覚悟と意欲が、ディスプレイ越しにひしひしと伝わって来る。
がしかし、それでもなおタドゥランの強靭なフィジカル&パンチング・パワーの壁は分厚く、銀次郎とチームの奮闘は残念ながらあと数歩及ばなかった。
今できることの最善を、ベスト・オブ・ベストを銀次郎は尽くし、コーナーも懸命にそれを支える。これ以上の”Something ELse”は、何をどうしようが出て来ない。勝者がコールされた瞬間、思わず天を仰ぐ銀次郎。
自らの限界を乗り越えて、やれることのすべてをやり尽くし、正真正銘の精一杯のさらにその上を目指し、全身全霊をかけて己を貫き通した者にしか許されない姿がそこにあった。
※Part 2 へ
◎タドゥラン(28歳)/前日計量:104.5ポンド(47.4キロ)
※当日計量:114.9ポンド(52.1キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
(4回目でパス/1回目:52.4キロ,30分後2回目:52.3キロ,+100分後3回目:52.25キロ)
元IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:23戦18勝(13KO)4敗1分け
世界戦:7戦3勝(2KO)3敗1分け
アマ通算:約100戦(勝敗を含む詳細不明)
身長:163センチ,リーチ:164センチ
血圧:137/102
脈拍:56/分
体温:36.1℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター
◎銀次郎(25歳)/前日計量:104.9ポンド(47.6キロ)
※当日計量:114.2ポンド(51.8キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
現在の世界ランク:IBF4位/WBO10位
戦績:14戦11勝(9KO)2敗1NC
世界戦:6戦3勝(3KO)2敗1NC
アマ通算:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ,リーチ:156センチ
血圧:125/70
脈拍:62/分
体温:36.6℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
■オフィシャル
主審:チャーリー・フィッチ(米/ニューヨーク州)
副審:2-1で王者タドゥランを支持
ジル・コー(比):115-113
デイヴ・ブラスロウ(米/メリーランド州):113-115
中村勝彦(日/JBC):118-110
立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)
◎オフィシャル・スコアカード

◎オフィシャル・スコアカード(清書)

中立国から主審1名+副審1名を選び、王者の母国と挑戦者の出身国から、それぞれ副審を1名づつ。昨今は珍しくなったけれど、70年代半ば~80年代前半頃までに行われた世界戦では頻繁に採用された審判団の構成。
フィリピンと米国メリーランド州から呼ばれた2名の副審は、勝者として支持する者の名前は違えど、ともに115-113の2ポイント差を付けている。妥当かつ正当なスコアリングであり、異論を唱えるファンと関係者もいない筈。
議論を呼びそうな中村勝彦審判の118-110には、納得し難い違和感を覚える人も多いだろう。開催地の地元コミッションから選出されたジャッジが、敵陣営に大きく利する採点を行う・・・皆無とまでは言わないが、やはりレアなケースになる。
常識的に考えれば、米・比のジャッジより若干拡めのマージンで銀次郎を支持しそうなものだが、ホームの風が吹くことはなかった。フェアと言えば確かにその通りなのだが、「そこまで差が開く・・・?」との疑問も抱く。
前に出続けたタドゥランのアグレッシブネスは正当に評価されるべきだし、脚を止めずに距離のキープに務める銀次郎のパンチは、スピード&精度(タイミング)を優先する為パワーセーブせざるを得ず力感を欠いた。
思い切り踏ん張って打つことができないがゆえに、ボディショットも普段の決定力を発揮し切れず、基本のリードジャブとワンツー、上を狙うカウンターもタドゥランを押し返すまでには至らない。
コンビネーションと手数でタドゥランを上回ることがでれば良かったが、折角奪ったヒットも、重量感に溢れるタドゥランの反撃に都度打ち消される場面も多く、初防衛に向けて突き進む王者の圧力は最後まで衰えず、タドゥランの勢いに押し負けてしまう。
12ラウンズ中10ラウンズを、王者に振ってしまった中村審判の気持ちは分からんでもないが、プロの公式審判員としてまったく問題が無いとも言い切れない。そう指摘せざるを得ない。
◎管理人KEIのスコア

手前味噌になってしまい恐縮するばかりだが、無理せず一定程度のイーブンを許容した方が、より試合の展開と内容に即したスコアリングを担保できると思う。
※Part 2 へ

