カテゴリ:
■3月15日/エコー・アリーナ,リヴァプール/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ニック・ボール(英) vs 元IBF J・フェザー級王者/WBA6位 T・J・ドヘニー(アイルランド)

ドヘニーが0.1ポンド超過した前日計量の模様
写真上:フェイス・オフ中に罵り合いが始まりひと悶着
写真下:全裸で秤に乗るドヘニー


前日計量でドヘニーがウェイトオーバー!?。

どうかご安心を。全裸になって秤に乗った1回目、リミットの126ポンドを0.1ポンド(約45.4グラム)超過したチャレンジャーは、1時間後の再計量でも1オンス(約28.3グラム)上回ったが、王者陣営からOKが出て事無きを得たようである。

これが単なる調整試合だったなら、おそらく1回目ですんなりOKになっていた筈だが、タイトルマッチとなれば話は別。ましてや世界戦。公開練習から会見,そして計量と、今はオンラインでフルに配信されてしまう。


我らがモンスターも、118ポンドの完全制覇が懸かったポール・バトラー戦でリミットを30グラムオーバーしたが、トイレで小用を足してもう一度秤に乗り、50グラムアンダーで無事終了。勿論、パンツは履いたままである。

有名なオーディション番組「BGT(Britain's Got Talent/ブリテンズ・ゴッド・タレント)」に出演して大変な話題になった芸人さんではないが、「Don't worry. I'm wearing(安心してください。履いてますよ)」といったところか。

遠来のWBOチャンプを5分間待たせて最大の難関(?)をクリアしたモンスターだが、ことボクシングに関する限り、自らに課すハードルを常に高く保持し続け、完璧主義を貫く真の統一王者らしからぬハプニングではあった。


「下から階級を上げた選手が計量をミスするのは、ボクシングでは珍しいことではない。」

鬼塚勝也と対戦する以前、フライ級でデビューしてから、J・バンタム~バンタムの間を行き来していたタノムサク・シスボーベー(タイ)が、WBAバンタム級王者だったルイシトに挑戦することになり、計量(当時は当日)を目前に控えて、体重がリミットまで落ちずに苦しんでいたとジョーさんが明かしたことがある。

軽量級では3~4ポンド程度(約1.3~1.8キロ)の差とはいえ、この違いが大きい。僅かな余裕がもたらす心理的な効果、安心感が裏目に出て、体重調整が遅れ気味になってしまう。

エキサイトマッチが始まって間もない頃から、裏話的な逸話の1つとして、ジョーさんが時々話していたことを思い出す。


もっともドヘニーの場合、フェザー級での調整は何度も経験済みで、4年前にはマイケル・コンランとWBAフェザー級の暫定王座を争ったこともあるだけに、今回のケアレスミスはいただけない。

とにもかくにも明日の本番は、WBAの承認を受けた世界タイトルマッチとして挙行される。

直前のオッズは圧倒的に王者を支持。モンスター戦の途中撤退は、敵前逃亡と謗られても反論が難しいものだったし、岩佐亮佑から奪った122ポンドのIBF王座をダニー・ローマンに奪われた2019年4月から昨年9月のモンスター戦まで、10戦して5勝(5KO)5敗。足掛け13年のプロキャリアで記録した5度の黒星を、すべてこの間に喫している。

世界を獲ったのは6年目だから、出世が特別遅かった訳ではない。三十路に突入した後の載冠になったのは、25~26歳の間にプロデビューした為で他に理由は無し。

王座を失った後の5つの白星すべてがKOという点は、”The Power”の異名に恥じず流石の一言。しかし、不惑を間近に控えた年齢を考えれば、完全なるピークアウトと判断されるのは止むを得ない。万馬券扱いは半ば当然・・・。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
ボール:-1600(約1.06倍)
ドヘニー:+810(9.1倍)

<2>betway
ボール:-1205(約1.08倍)
ドヘニー:+700(8倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ボール:1/14(約1.07倍)
ドヘニー:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
ボール:1/12(約1.08倍)
ドヘニー:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)


昨年3月、リヤドのキングダム・アリーナに初登場したボールは、痩身のメキシカン,レイ・バルガスをほうほうの体に追い込みながら、不運と言うには余りに気の毒なスプリット・ドローで緑のベルトを獲り逃がした後、同じ場所で米国期待のレイモンド・フォードを僅少差の2-1判定にかわしてWBA王座に就いた。

そして昨年秋、ホームタウンのリヴァプールに実力者ロニー・リオスを迎えた初防衛戦でも、終始一貫攻め続けて10回TKO勝ち。9回までのスコアも、フルマークに近い大差(90-80,89-80,88-81)を付けての快勝。

公称157センチの超小兵をものともせず、「Wrecking Ball(レッキング・ボール)」のニックネームそのままに、火の玉となってガンガン相手を叩き壊しに行く突貫戦法は、激しさとスタミナという点で、我らが”攻めダルマ”比嘉大吾をも凌駕する。

勿論、代償として負うダメージは大きい。毎試合のように傷を作り顔を腫らす。ドヘニーより10歳若いとは言え、あと2年で三十の大台(今は小台?)。遅かれ早かれやって来る心身の限界を超えた途端、それまでのタフネスがウソのように撃たれ脆くなるファイターを、どれだけの数見てきただろう。

ラファエル・マルケスとの歴史に残る3連戦で疲弊消耗し、右眼の視力を失いキャリアを終焉させたイスラエル・バスケス、同じくブランドン・リオスと壮絶な打撃戦を三度び繰り返して深手を負ったマイク・アルバラード、そのアルバラードとティム・ブラッドリーやルーカス・マティセらとの白兵戦で摩滅してしまい、やっと登り詰めたトップの座から滑り落ちたルスラン・プロヴォドニコフ等々・・・。


この戦い方で、いったいどこまで己の肉体と精神持つのか。それこそが最大の懸念材料ということになるが、S・ライト級まで上げたメキシカン・ピットブルことイサック・クルス(163センチ)にも同じことが言える。

いつどこで誰に追い落とされてもおかしくないリヴァプール生まれの火の玉小僧を、苦労して世界チャンピオンに育て上げたフランク・ウォーレン(イングランドを代表するプロモーター/エディ・ハーンに対抗し得る唯一の存在)が、モンスターとの大一番を急いだとしてもむべなるかな。


モンスターに相対したドヘニーは、”The Power”の愛称が泣く待機策に終始。驚くほど慎重だったモンスターの立ち上がりにも助けられながら、ひたすら守りに徹して時々リターンを狙うパッシブな戦術に閉じこもった。

安全な距離に身を置くことを最優先にしつつ、モンスターが強力なプレスをかけて来るや否や、極端な後傾バランスにシフトしてとにかくよける。逃げる。これが奏功して(?)、中盤まで持ち応えたドヘニー。

前に出て来ない相手はボディから崩す。いつものように腹に的を絞ったモンスターの豪打に晒され、見る間に弱るドヘニー(元々ボディはウィークネス)。「そろそろフィニッシュか」と思われた第7ラウンド、ロープ際とコーナーに詰められたところで、突然腰を押さえてギブアップ。


「1度もノックダウンを奪われずに試合を終えた」

自身初のTKO負けと引き換えに、キャンバスに膝や手を着くことなくリングを降りたドヘニーにとって、最大の目標がこれだったのかもしれない。ダウンカウントを取られることなく試合を終えることが、本当に勲章になるのだとしたら、逆説的になってしまうが、それこそがモンスターの勲章と評して間違いない。


「イノウエよりもドヘニーを圧倒して、イノウエよりも早い回でKOする。」

ボール自ら複数のインタビューで語っていた通り、年末のリヤド開催が内定した(?)モンスターとのタイトルマッチに向けたデモンストレーション。ドヘニーを媒介とした、モンスターとの実力比較だけを目的としたマッチメイク。

先日行われた「那須川天心 vs ジェイソン・モロニー」と同じ、動機と構図は寸分違わない。そして、天心に苦闘を強いたモロニーと同様、ドヘニーがボールに一泡吹かせる恐れは十二分にあると考えている。


まず第一に、ドヘニーは正面から打って来る相手をコントロールするのが意外に上手い。ラミド戦の即決KOのインパクトが強過ぎて、ドヘニーの特徴が正しく理解されていないように思う。

岩佐戦とローマン戦,中嶋戦をご覧いただくと良く分かるが、出はいりを軸にしたアウトボックスをやらせると、ドヘニーはかなり厄介な存在になる。モンスターにも試みていたけれど、先に打たせおいてリターンを効かせるのが得意なパターン。

超弩級のパワーだけでなく、スピード&反応も超一級品のモンスターには通用しなかったが、大概のランカークラスとチャンピオンなら、勝てないまでもいい勝負に持って行ける筈。ディフェンスが甘く、「肉を切らせて骨を絶つ」展開になりがちなボールが、勢いにまかせてワンパターンの突進を繰り返すと、ラミドの二の舞になる確率は想像以上に高いと危惧する。


モンスターはまともに貰ってくれなかったが、ダッキングで相手のワンツーやフックをかわしざま、低い姿勢から右を突きつつサイドへ動き、死角から放つ左がボールには当たりそうだ。

フォード戦を見る限り、サウスポーを特段不得手にしていなさそうなボールも、計量後に10キロ以上リバウンドするドヘニーのフィジカルには苦労させられるだろう。モンスターとやった時も、一晩で11キロ(公式計量55.1キロ→当日再計量66.1キロのウェルター球)戻したことが話題になった。

リミットが122ポンド(55.3キロ)から126ポンド(57.1キロ)に増える分、モンスター戦と同じ66キロまで増やした場合、およそ2キロ減って(それでも)9キロのアップ。ひょっとしたら、70キロに近い60キロ台後半(S・ウェルター球)まで戻して来ることも、想定の範囲内ではある。

ボールもかなり戻していると思うが、「機動力&運動量+しつこい手数」を生命線にするだけに、身体が重くなり過ぎて、踏み込みのスピードと勢いが落ちたら逆効果で意味がない。

ビートルズ(リヴァプール出身)のヒット曲で、1964年に製作された初主演映画のタイトルにもなった「A Hard Day's Night」をちゃっかり拝借して、イベントを盛り上げるフランク・ウォーレン。

その目論見通り「ハードでキツい一夜」になるのはドヘニーだけなのか、はたまたボールに取っても厳しい晩になるのか。大きな差が開いた掛け率ほどスムーズに事は運ばないよと、長年のコーチでもありメンターでもあるポール・スティーブンソンに、余計な一言をかけてやりたい気もする。


モンスターのリヤド・デビューがドヘニーとの再戦では絵にならないから、ボールが負ければターゲットのベルトも変わる。疑う余地は無し。

「5月4日T-モバイル・アリーナ(ラスベガス)で決定」と報じられたモンスターの次戦に、WBO王者ラファエル・”エル・ディヴィーノ”・エスピノサ(メキシコ)のV3戦が組み込まれたのは、ズバリそういう意味である。

ボールとエスピノサのどちらが出て来ても、モンスターの5階級制覇が揺らぐことはなく、126ポンドにおけるモンスターのパフォーマンスは、この階級で大きく躓いたノニト・ドネアとのポテンシャルの違いをも浮き彫りにする。


◎ファイナル・プレッサー


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=FwJVtUFg54k

拙ブログの勝敗予想は・・・5.5-4.5~6-4でボール。ドヘニーが唐突に腰を押さえて足をひきずり、途中棄権することはもう無いと思うので、7~8割方の確率で判定決着だろうか。ポイント・マージンの割れた3-0か、小差の2-1。

早い時間帯でのバッティングによるノーコンテストだけはご勘弁を。160センチに満たないボールと166センチのドヘニーは、構え合った状態でちょうど頭1つ分丈が違う。猪突猛進するボールの頭が、ドヘニーの顔面にめり込む場面は絶対に見たくない。


◎ボール(28歳)/前日計量:125.6ポンド(約56.97キロ)
戦績:22戦21勝(12KO)1分け
世界戦:3戦2勝(1KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:165センチ
右ファイター


◎ドヘニー(38歳)/前日計量(1回目):126.1ポンド(約57.42キロ)
※1時間後に行われた再計量で126ポンド(リミット上限)を1オンス(約28.3グラム)超過も、王者側からOKが出てタイトルマッチとして承認
元IBF J・フェザー級王者(V1)
戦績:31戦26勝(20KO)5敗
世界戦通算:5戦2勝(1KO)3敗
アマ戦績:不明
北京五輪代表候補
身長:166センチ
リーチ:172.5センチ
※岩佐亮佑戦の予備検診データ
左ボクサーファイター

◎前日計量
FURIOUS! Nick Ball vs TJ Doheny ? WEIGH-IN & FACEOFF ? Frank Warren & TNT Sports
Seconds Out
https://www.youtube.com/watch?v=L53bkUmUPfw


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=cf61oUk6kIs


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■リング・オフィシャル:未発表


●●●●●●●●●●●●●●●●●●
◎試合映像

■N・ボール
<1>ボール TKO10R ロニー・リオス(米)
2024年10月5日/M&Sバンク・アリーナ(英/リヴァプール)
オフィシャル・スコア(9回まで):90-80,89-80,88-81
WBAフェザー級王座V1
https://www.dailymotion.com/video/x96u5s6

<2>ボール vs レイモンド・フォード(米)
2024年6月1日/キングダム・アリーナ(リヤド/サウジアラビア)
オフィシャル・スコア:115-113×2,113-115
WBAフェザー級王座獲得(クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5)


<3>ボール 引分12R(1-1-1)vs レイ・バルガス(メキシコ)
2024年3月8日/キングダム・アリーナ(リヤド/サウジアラビア)
オフィシャル・スコア:116-110,112-114.113-113
WBCフェザー級王座挑戦
https://www.dailymotion.com/video/x8u9eio

<4>ボール 判定12R(3-0) アイザック・ドグボェ(ガーナ/英)
2023年11月18日/マンチェスター・アリーナ(英/マンチェスター)
オフィシャル・スコア:119-108,118-109,116-111
WBCシルバーフェザー級王座V4
https://www.dailymotion.com/video/x8prktl

-----------------------------------------
■T・J・ドヘニー
<1>井上尚弥 TKO7R ドヘニー
2024年9月3日/有明アリ-ナ
オフィシャル・スコア(6回まで):59-55×2,58-56
※ドヘニーに2ラウンズを与えたのはネバダ選出のロバート・ホイル/ひたすら後退+当て逃げを評価し過ぎるラスベガス・ディシジョンの典型(悪弊)
4団体統一S・バンタム級王座挑戦
https://www.youtube.com/watch?v=D3x9xqWj2xQ

<2>ドヘニー TKO1R ジャフェスリー・ラミド(米)
2023年10月31日/後楽園ホール
WBOアジア・パシフィックJ・フェザー級王座V1
※中嶋戦に続くショッキングな連続KOで日本国内におけるドヘニー再評価の機運が高まる
ttps://www.dailymotion.com/video/x947fnc

<3>ドヘニー TKO4R 中嶋一輝(大橋)
2023年6月29日/後楽園ホール
WBOアジア・パシフィックJ・フェザー級王座獲得
ttps://www.youtube.com/watch?v=TINgUCvX2js

<3>サム・グッドマン(豪) 判定10R(3-0) ドヘニー
2023年3月12日/クドス・バンク・アリーナ(豪/シドニー)
オフィシャル・スコア:100-89,98-92,97-92
WBOオリエンタルJ・フェザー級王座決定戦


<4>マイケル・コンラン 判定12R(3-0) ドヘニー
2021年8月6日/フォールズ・パーク, ベルファスト(英/アイルランド)
オフィシャル・スコア:116-111×2,119-108
WBAフェザー級暫定王座決定戦
https://www.dailymotion.com/video/x84mgke

<5>イオヌット・バルタ(ルーマニア) 判定8R(3-0) ドヘニー
2020年3月6日/シーザースパレス・ドバイ(UAE)
オフィシャル・スコア:78-74×2,77-74
フェザー級8回戦
https://www.dailymotion.com/video/x7slx4l

<6>ダニエル・ローマン(米) 判定12R(2-0) ドヘニー
2019年4月26日/イングルウッド・フォーラム(カリフォルニア州)
オフィシャル・スコア:116-110×2,113-113
※ドロー裁定のエドワード・ヘルナンデス・Sr.(開催地選出)はジャッジ失格(?)
IBF J・フェザー級王座挑戦


<7>ドヘニー TKO11R 高橋竜平(横浜光)
2019年1月18日/MSGシアター(ニューヨーク)
オフィシャル・スコア(10回まで):100-89×2,97-92
IBF J・フェザー級王座V1
https://www.dailymotion.com/video/x7tthux

<8>ドヘニー 判定12R(3-0) 岩佐亮佑(セレス)
2018年8月16日/後楽園ホール
オフィシャル・スコア:117-112,116-112,115-113
IBF J・フェザー級王座獲得
https://www.dailymotion.com/video/x6t46tv