”愛の拳士”あらため”ビッグ・バン(Big Bang)” 3度目の有明登場 - 中谷潤人 vs D・クェジャル 直前プレビュー 有明バンタム級フェス Part1 -
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■2月24日/有明アリーナ/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC6位 ダヴィド・クェジャル(メキシコ)
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC6位 ダヴィド・クェジャル(メキシコ)

■充実進境著しい中谷に死角無し・・・?
118ポンドで持てる潜在能力を開花進行中の中谷が、早くも3度目の防衛線を迎える。
栄えある3階級制覇の仲間入りを果たしたのが、丁度1年目の同じ日。会場は有明アリーナではなく両国の国技館だったが、モンスター返上後のWBC王座をノニト・ドネア(比)と争って、明白な3-0判定で新チャンピオンになったアレッサンドロ・サンティアゴ(メキシコ)に6回TKO勝ち。
第2ラウンドに左フックを貰ってヒヤリとしたが、出足のタイミングと間合いを掴んだ3ランド以降は、長いワンツーに得意のアッパーを混ぜて距離を制圧。公称159センチの勇敢なメキシカンに付け入る隙を与えず、第6ラウンドに強烈な左ストレートを決めてダウンを奪うと、ダメージが明らかなサンティアゴをロープに詰めて右フックを一閃。
サイズの違いが大きな追い風になったことも確かだが、無駄に打たせてくっつかれると煩いサンティアゴを着実にコントロールして、試合全般を通じて安定感が増した。
昨年7月の初防衛戦は、落日のリゴンドウを明白な3-0判定で下した後、やはりモンスター返上後のWBO王座決定戦に進み、ジェイソン・モロニー(豪)を相手に、0-2のマジョリティ・ディシジョンまで粘ったビンセント・アストロラビオ(比)との指名戦。
サンティアゴ以上に計量後のリバウンドを上手く利用するフィリピン人は、165センチの公称よりもずっと大きく見える。おそらくだが、15ポンド(6~7キロ)前後レベルを戻しているのではないか。
修行時代にマレーシアで組まれた8回戦で、六島ジムのストロング小林佑樹に2度のダウンを奪われ4回TKOに退いた頃は、幾ら加齢とブランクで錆付いていたとは言え、リゴンドウから大金星を挙げて、世界タイトル挑戦まで辿り着くなんて想像もできなかった。
一廉(ひとかど) のメイン・イベンターに成長したアストロラビオは、鍛え込んだ頑健なフィジカルを武器に、粘り強くしぶとくラウンドを持ち応えながら、重い左右で上下に揺さぶりをかけながら、手堅く流れを呼び込むタフなボクサーファイターへと変貌。
スタンスを適時拡縮させつつ、左の上下を軸に崩しと突破を仕掛けるアストロラビオは、右の拳をしっかり右頬に密着させ、中谷の左対策も万全。それでいて、全盛のドネアの左フックを警戒する余り、ほとんど右を出せなくなってしまった西岡利晃のような不自由さは感じさせない。
深めの半身とやや遠目のミドルレンジを堅持して、踏み込む時は思い切り良く、右ストレートを中谷のボディへ持って行く。右拳を元の位置に戻す引き手も素早く、無理に顔面を狙わない。
功を焦って深追いすれば、顎が上がりオフ・バランスを招く。中谷に対するこのミステイクは致命的で、そこで試合が終わりかねず、リスク回避への配慮を怠らない、しっかり練られた戦術と、キャンプで取り組んだ具体的な中谷対策を、本番のリングでちゃんと再現できるアストロラビオの戦術的ディシプリンに思わず感心する。
隙あらばいつでも,との緊張感がむしろ心地いい。中谷も強めにギアを上げた左で、わざと挑戦者が頬に密着させた右拳の上を繰り返し叩く。しかし、挑戦者もけっして怯まず、立ち向かう姿勢を見せ続ける。
ドネアをリスペクトし過ぎたことが、西岡が冒した最大の失敗だったけれど、アストロラビオにそうした心配は無用のようだ。
「世界戦はこうでなくちゃ。でも、長い勝負になるかもしれないな・・・」
なんて勝手な予想を思い浮かべた途端である。上に意識が傾き、ガラ空きになったアストロラビオのミゾオチ目掛けて、軽量級離れした重量感溢れる左ストレートを貫く。速い右のショートジャブでハイガードの上を1回タッチして、僅かながらでも重心を持ち上げさせ、ボディに開いた穴を閉じさせることなく、つなぎのスピードも十分な、教科書のような上→下のコンビネーション。
アストロラビオも気が付いて、お腹を引っ込め肘を内側に絞りながら、1歩半のステップバックで反応したが間に合わない。
後ろに下がりながらも保持していた半身&ハイガードの態勢が、一瞬遅れて腰から崩れ落ちる。典型的なディレイド・アクション。尻餅を着くように倒れたアストロラビオは、そのまま身体を反転させて両膝と両肘をキャンバスに着き、時折腹部を左右の片手で交互にさすりながら苦悶。
カウント9で何とか立ち上がったが、痛みに耐え切れずまたすぐに倒れて万事窮す。圧巻の初回KOで、モンスターが去った後のバンタム級最強をアピールした。
◎試合映像:中谷 KO1R アストロラビオ
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さらに10月14日、2度目の有明アリーナ登場は、前日の13日と合わせて、2日間で世界戦を7試合開催する日本ボクシング史上初の試み。
13日には、WBA3位堤駿聖也(角海老)の挑戦を受ける同王者の井上拓真(大橋)、WBCフライ級の王座決定戦に臨む寺地拳四朗(B.M.B.)、そしてそのフライ級で安定政権を築いたアルテム・ダラキアン(ウクライナ)を破り、WBAのベルトを巻いた”地方ジムの星”ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)、108ポンドのWBO王座決定戦に己のすべてを懸ける岩田翔吉(帝拳)の4名が並ぶ。
そして中谷がオオトリを務める2日目は、井岡一翔(志成),モンスター井上尚弥(大橋)に続く国内3人目の4冠王,田中恒成(畑中)、中谷のステーブルメイトで、日本のファンにもすっかりお馴染みとなったアンソニー・オラスクアガ(米)が、昨年7月に獲得したWBOフライ級王座のV3戦。
なおかつ、倒しても倒せなくても話題になる那須川天心(帝拳)も、プロ5戦目で初のタイトルマッチにアタック。フィリピンの曲者ジェルウィン・アシロを相手に、WBOアジアパシフィック王座の決定戦が用意された。
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前日のメインを託された拓真が、堤が仕掛ける嵐のようなインファイトに巻き込まれて、0-3の明白な判定で陥落する大波乱にボクシング界隈は騒然となったが、他の5王者と那須川は無事白星をマーク。
※3月3日訂正
修正前の原稿を誤ってアップしてしまいました。
以下の通り訂正いたします。ごめんなさい。
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前日のメインを託された拓真が、堤が仕掛ける嵐のようなインファイトに巻き込まれて、0-3の明白な判定で陥落する大波乱に続き、14日の第3試合(那須川 vs アシロにセミを譲った)でも、勝利を確実視されていた田中恒成が南アフリカの伏兵プメレレ・カフにダウンを奪われ、拮抗した勝負を引き寄せ損ねて落城。
恒成ほどのポテンシャルと実力を持ってしても、4つ目の階級ではこれまで通りには行かない。井岡一翔に喫した初黒星は、左フックのカウンターで待ち構える井岡に対して、何の工夫も変化もなく同じタイミングで真正面から突っ込んでしまう、コーナーワークも含めた無策による自滅と表するしかない。
しかし、カフ戦では細かいステップにボディワークを連動させ、適時出入いりとポジション・チェンジを繰り返しながらの切り崩しが出来ていたにもかかわらず、第5ラウンド、右アッパーをカチ上げたところに、左ではなく右フックを合わされ痛恨のダウン。

深刻なダメージでこのままストップされるかと思ったが、井岡戦同様、驚異的なタフネスと回復力で持ち直した。オフィシャル・スコアは、三者全員が1ポイント差の1-2スプリット(113-114×2,114-113)。まさしく、5ラウンドのノックダウンが勝敗を分けた格好。
ミニマム級~フライ級までは、圧倒的なスピード&クィックネスのアドバンテージに加えて、体格差を利したフィジカルの強度で勝ち続けてきた恒成も、スピードを捨てて大幅なリバウンドを武器にした井岡に叩きのめされ、カフには黒人特有のナチュラルな身体能力(パワー&バネ,柔軟性)に遅れを取った。
あらためて打たれ強さを証明した恒成だが、115ポンドで2度目の復活を成功させ、さらに防衛ロードをサバイバルする為には、「倒して勝つ」ことへの徹底した割り切りが必要になる。
アマ時代に”スーパー高校生”と呼ばれて、熾烈なライバル争いを繰り広げた拓真と恒成の敗戦に、ボクシング界隈は騒然となったが、他の4王者と那須川は無事白星をマーク。
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モンスター vs ネリーの東京ドーム興行とは意味合が異なるけれど、ビッグイベントの〆を飾るべく、満を持してリングに上がった中谷のチャレンジャーは、タイの実力者ペッチ・CP・フレッシュマート。
ランキングはWBC1位で、2試合続けての指名戦。初回で沈んだアストロラビオに替わり、トップ・コンテンダーに浮上した。2019年6月のフィリピン人選手(19戦目:初回KO勝ち)以来、およそ5年半ぶりのサウスポー対決となった。
ムエタイから転向した1993年生まれの30歳は、二昔前ならロートルの扱いを受ける年齢。2011年3月から積み上げた国際式のレコードは、77戦76勝1敗。プロの試合数が激減した現在のトレンドに照らせば、途方もない戦績と言わねばならず、53ものノックアウトを量産している(KO率:68.8%)。
負ける心配がまずない無名の格下を選び、休み無くリングに上がり続けながら、タイに本部を置くABC(WBCが直轄するアジア地域タイトル)のベルトを利用してランキングを上げて行く。
パンチのあるムエタイ出身者を国際式で育成するタイならではの流儀であり、しかし同時に、修行時代の休み無い連戦(”無名ばかりをあてがう”点を除いて)は、20世紀のプロボクシングにおけるセオリーだった。
心身のタフネスが前提にはなるが、ディフェンスのベーシックをきちんと身に着けていないと、とてもこんな真似はできない。昭和の日本人ボクサーが、ディフェンスのできないサンドバッグのように思う若いファンを時々お見受けするが、それは大いなる誤解に基づく無理解である。
パンデミックの間もコンスタントに試合をこなし、13年を超える国際式のキャリアで唯一喫した黒星は、2018年12月30日の大田区総合体育館。ここまで記せば、ピンとくる方も多い筈。そう、井上拓真とのWBC暫定王座決定戦で、0-3の判定を失い無念の帰国を余儀なくされた。
序盤から拓真の出入りに苦しみ、あと数歩を追い詰め切れないままポイントを逃し続け、終盤にはボディを効かされて足が止まりかけたが、旺盛な回復力とメンタルの強さで12ラウンズを耐え切っている。
打たれても簡単に怯まず退くことを知らない気の強さと、ひたすら前進を繰り返すしつこさは、「ひょっとしたら化けるかも・・・?」と思わせるポテンシャルを垣間見せはしたけれど、この当時はまだまだ線が細く、どの距離でもパンチにウェイトが乗り切らない、未成熟な印象が優っていた。
今の中谷ならまあ大丈夫。早めのラウンドで倒すに違いないと、楽勝に近い雰囲気が充満しそうになる中、拓真戦後の6年近くで28戦(全勝20KO)を消化したペッチは、身体も大きくなって力強さを増す。計量後のリカバリーを含めた調整方法も確立したと思われ、気持ちの強さにしっかり身体が付いてくるようになり、パンチのキレと重さが格段にアップ。
かつて渡辺二郎と激闘を交わしたパヤオ・プーンタラトを、一~二回り大きくしたような当たりの強さ、身体全体のパワーが拓真戦の頃とはまるで違う。
ガンガン前に出て圧力をかけ続け、積極的に左右の強打を飛ばす。中谷の打ち終わりに合わせて、クロス気味に速いストレートを放ち、密着するとガードの上からボディ→上を重いパンチで連射。
アストロラビオに引けを取らないテンションの高さ。がしかし、ヒリヒリ感は過去8回の世界戦でおそらくNo.1。拓真との比較の上でも、下手な試合はできない。明確な差を付けた上で、倒し切って勝ちたいのは当然の成り行き。
めまぐるしい攻防の中でも、ペッチの動きとパンチの振り出しを非常に良く見て、反応の遅れや隙がほとんど無く、危険なクロスレンジでは、小さく頭と上体を動かすディフェンスを忘れない。
前半4ラウンズを終えて発表された最初のオープンスコアは、3-0(39-37,40-36,40-36)で中谷。ただし、はっきりペースを引き寄せ切った訳ではなく、ペッチの勢いもそう簡単にシフトダウンする気配は無し。被弾しても顔色1つ変えないペッチもまた、ディフェンスラインは相当頑丈。
どうなることかとハラハラしながら観ていたら、徐々に中谷の右が当たる確率を増し、それに比して左の精度も上がって来る。完全にペッチの間合いを把握したようだ。流石のペッチにも、バタつくシーンが見られ出す。
中谷の脚捌きがいよいよスムーズになり、意外に早く倒す時間帯に入ったなと驚いていると、第6ラウンドの1分半を過ぎたところで、ワンツーの連射にアッパーを混ぜた得意のコンビネーションが火を噴き見事なノックダウン。
ダメージは深刻で、スロー再生のように鈍い動きで立ち上がるペッチ。主審のローレンス・コール(米/テキサス州)が厳しい表情でペッチの表情を見つめ、中谷を見て臨戦態勢に戻ろうとするペッチを立ち止まらせ、自分の方へ歩けと指示。意識の状態を2度も確認する。
反応は明らかに鈍っていて、このまま止めるかと思ったが、ここまでのペッチの奮闘に配慮したのだろう。ワンチャンスを与えた。
ここでフィニッシュを急がないのが、中谷の余裕と上手さ。グラグラとヨロけながらも、まだパンチには相応のパワーを残している。右のリードからセットアップし直し、距離を詰めてボディを打ち直す。
アップアップのペッチが、強引に左をスウィングしてロープから飛び出しそうになる。下半身の支えも限界に近づいている。前に出た右腕を下げたヒットマン・スタイル、崩壊寸前の身体を意思の力だけで保つペッチに、また強烈なワンツー。そして間髪を入れずに左アッパー→右フック→左アッパーの連打がヒット。
ペッチはダッキング&ローリングで何とか対応しようとするが、もはやボビングと表した方がいいぐらい遅く大きい。ラウンドの残り時間が僅かとなり、「1分の休憩をあげたくないな。ここでし止めたい・・・」と余計な老婆心が頭をかすめたのは、きっと私だけではない。
そんなファン心理を見透かすかのごとく、止めのワンツーを炸裂させる中谷。前のめりに倒れ込み、そのまま仰向けになるペッチ。今度はコールも迷い無くストップの合図を出す。ただただ見惚れるしかない、完璧なノックアウト。
◎試合映像:中谷 6回TKO ペッチ
2024年10月14日/有明アリーナ
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近いところでは、山中慎介のゴッド・レフトと西岡のモンスター・レフト(この人がモンスターと呼ばれた日本人第1号)、そして昭和を代表する名選手,海老原博幸のカミソリ・パンチ&青木勝利のメガトン・パンチに、15連続KOの日本記録を塗り替えて、J・ウェルター級を撮った浜田剛史の豪腕・・・。
日本ボクシング史にその名を刻む、錚々たる左の豪打者たちの列に並ぶのは勿論、中谷の左(ワンツー)はその序列をグンと上げたように思う。
若き日の海老原&青木のレフティ2人は、ファイティング原田を加えて「三羽烏」と謡われ、世界チャンピオン候補として大いに持て囃されたが、練習嫌いと飲酒癖が直らなかった青木は、”黄金のバンタム”エデル・ジョフレに挑戦が叶うも3ラウンドで沈められ、原田とのライバル対決にも3回KO負け。1人だけ夢を掴み損ねて姿を消す。
もはや忘れ去られてしまったと評して間違いないけれど、青木の左は本当に凄かった。現代のトップボクサーは、すっかりアスリートになったと言っていいと思う。
そういえば、浜田代表に追い抜かれた前記録保持者(12連続KO)のムサシ中野も左だった。世界水準では最激戦区となるウェルター級で東洋王者となり、世界ランキングも3位まで上げたが、1967(昭和42)年8月8日、時の王者カーチス・コークスへの挑戦権を懸け、西海岸の人気者アーニー・”インディアン・レッド”・ロペス(米)と愛知県体育館で対戦。
あえなく3回KOに退き、中量級の分厚く高い壁を思い知らされることになったが、アーリー・アメリカンの血を引くスターボクサーを、名古屋に呼ぶことができたんだと思うと感慨深い。
閑話休題。話を元に戻そう。
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◎カネロ・ファミリー門下のチャレンジャー
28連勝(18KO)中の挑戦者は、中谷より5歳若い23歳。中身をよくよく吟味する必要はあるにせよ、勇ましくも立派な「El General(The General:将軍)」のニックネームに相応しい、立派なレコードではある。
アマ経験の有無を含めた詳しい経歴は不明。カネロ・アルバレスを生んだグァダラハラから、内陸に向けて400キロ程離れたクェレタロ(Queretaro)という、人口70万人規模の大きな地方都市の出身で、いつ頃カネロのチームに合流したのかも判然としない。
ちょうど中間地点に、メヒコ最大のアイドル,ルーベン・オリバレスのライバルとして名を馳せたチューチョ・カスティーヨ(元世界バンタム級王者)の故郷グァナファトもあるが、ボクシングでの成功を夢見るクェレタロの有望な若者なら、迷わずグァダラハラを目指すだろう。
公称174センチのタッパは、中谷を1センチ上回る超大型のバンタム。リーチは171センチで、安定感を増すばかりの王者より5センチ短いが、リアルなトップレベルであればことさら問題にはならない。
カネロのヘッドとして売れっ子になったエディ・レイノソではなく、少年カネロの才能を見出し、手塩にかけて育て上げたホセ・レイノソ(エディの実父)が、老体に鞭打って直接指導をしたという。

”チェポ”の愛称で親しまれる老匠を、再び第一線へと押し戻すだけの素質の持ち主・・・ということになるのかどうか。実際にコーナーで実務をリードするのは、ジョナタン・レイジェスというチェポが信頼するコーチで、総勢20名に及ぶ大軍での来日は、”カネロのメンター”に対する最大の配慮と言うべきで、5~6名体制でやって来るのが平常運転だ。
並みのプロモーターでは容易に呑めない痛い出費も、本田会長と浜田代表にとっては必要経費。きっとそういう判断なのに違いない。
サイズのアドバンテージを頼りに、身体ごと押し込んでくるタフ・ファイター。適時ボクシングもこなすけれど、耐久力勝負の打ち合いに持ち込んで、相手をすり潰すのが本来の持ち味になる。
いわゆる出世試合に当たるのが、2023年10月のルイス・コンセプシオン戦。近年のパナマが輩出した数少ない人気王者コンセプシオン(フライ級&S・フライ級の2冠王)も、40歳(しじゅう)の不惑を目前にして、往時の面影はなし。
タイソン・マルケスに喫した2度のKO負け(2011年)による被害は甚大で、”肉を切らせて骨を絶つ”スタイルの代償が目に見えて顕在化。その後ウェイトをS・フライ級に上げて、中堅クラスを相手に連勝を続けると、2015年5月、カルロス・クァドラスに挑戦して12回判定負け。
昇り調子だったカル・ヤファイ(英)やアンドリュー・モロニー(豪)にも敗れて、流石にこれまでかと思われたが、2020年2月にWBAのフライ級暫定王座に返り咲いたと聞いた時は、「まだ戦っていたのか?」と本当に驚いた。
戦った相手はコロンビアのベテラン中堅ロベール・バレラで、それでも11回にTKOしたというから、パンチング・パワーと強靭なメンタルは健在なのかと感心。パンデミックによる休止を挟み、翌2021年12月に行われた正規×暫定の統一戦で、アルテム・ダラキアンにほとんどいいところはなく9回TKO負け。
今度こそキャリアを終えるものと思いきや、2022年に復帰して無名選手に勝った後、因縁のタイソン・マルケスと3度目の対決。2人合わせて70歳超えロートル対決(失礼)は、メキシコ国内の開催ということもあり、マルケスに2-1判定が与えられて、10年越しの雪辱はならなかった。
マルケスとの第3戦からジャスト1年経った2023年10月、慣れ親しんだメキシコからまたお呼びがかかり、若くて活きのいいクェジャルの踏み台にされたという次第。
。
そして昨年5月、何かとお騒がせのムロジョン・アフマダリエフに挑戦(2021年11月)して判定まで粘り、2023年9月には岡山で和氣慎吾と8ラウンズをフルに渡り合った小兵のベテラン,ホセ・ベラスケス(チリ)に大差の10回判定勝ち。
◎試合映像
<1>クェジャル 8回TKO コンセプシオン
2023年10月13日/カンクン
<2>クェジャル 10回3-0判定 J・ベラスケス
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また、クェジャルのキャリアでもう1つ印象深い試合が、2021年10月16日にカンクンで行われたモイセス・フェンテスとの10回戦。ここでも打ちつ打たれつの白兵戦になったが、若さと体力にモノを言わせたクェジャルが6回TKOで勝ち名乗りを受ける。
フェンテスを悲劇が襲ったのはこの直後で、意識を失い救急搬送されて開頭手術を受けたが、ご家族の献身的な介護にもかかわらず、1年後の2022年11月24日に回復しないまま息を引き取った。
105ポンドと108ポンド(暫定)でWBOの王者となり、田中恒成(畑中)との決定戦を得て2016年の大晦日に初来日した時には、歴戦のダメージによる消耗疲弊が顕著で、勢いに乗っていた恒成の敵ではなく、5回TKOで役割を終え帰国。
王座復帰を諦めずに戦い続けたフェンテスは、WBCフライ級王者となった比嘉大吾(白井・具志堅:当時)の挑戦者に選ばれ、2018年2月に再来日。初回2分30秒余りで比嘉の強打に捕まり、呆気ない結末となったが、下手に長引いて打たれ続けるよりは良かったと本気でそう思う。
さらに7ヶ月後の同年9月、シーサケットに連敗して急降下したローマン・ゴンサレスの復帰戦に呼ばれたフェンテスは、ラスベガスのT-モバイル・アリーナで5回KO負け。長い休養にパンデミックが加わり、風光明媚なビーチで知られるカンクンを訪れ、クェジャルに打ちのめされた10回戦は、実に3年ぶりのリング復帰だった。
「ボクシングを辞めるのは難しい。こっぴどく負けてもう駄目だと思い知らされた筈なのに、少し時間が経ってダメージが抜けると、まだやれると考えてしまうんだ。」
「もう戦うべきじゃないとエディ(ファッチ:ローチの面倒も見ていた)に忠告された時、素直に辞めていたらと思うことはある。こんなに苦しむことにならずに済んでいたかもしれない。でもそれもこれもひっくるめて、自分自身で選択した私の人生だからね。受け入れているよ。」
現役時代最終盤に喫した敗戦の影響(ご本人が明言)で、外傷性のパーキンソン病を発症したフレディ・ローチが、パッキャオの引退について問われた時、自らの経験を踏まえてそう述べていた。
田中に負けた後すぐに辞めていればと、今になって言うのは簡単なのだが・・・。
◎試合映像:クェジャル 6回KO フェンテス
2021年10月16日/カンクン
https://www.youtube.com/watch?v=GFjt61iPDM4
またまた、閑話休題。
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そんな挑戦者の実力はいかほどのものなのか。直前のオッズを見てみると、思いの外接近している。クェジャルの戦績がいいからだと考える他ないが、オーバー・レイテッドの気配が濃厚に漂う。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
中谷:-950(約1.11倍)
クェジャル:+540(6.4倍)
<2>betway
中谷:-1000(1.1倍)
クェジャル:+600(7倍)
<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/7(約1.14倍)
クェジャル:9/2(5.5倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
中谷:3/19(約1.16倍)
クェジャル:13/2(5.5倍)
ドロー:25/1(26倍)
個人的な思いとしては、1-8ぐらいが妥当なセンではないかと。クジャルの武器で怖いのは、唯一左フックのみ。中途半端な間合いに留まって、打つかどうかの判断を躊躇する僅かな隙を突かれる恐れはある。
軽めの右のリードを待たれて、引き手の戻りに合わせた左をカウンターで食う可能性も皆無ではない。左ほどではないけれど、一定の距離が取れた時の右は、それなりのタイミングと切れ味が伴っていて侮れない。ないけれども、9割方王者の防衛は堅いと見るのが常道。
率直に申し上げて、ランク6位の現在地はメキシカン優遇のお家芸、「WBCあるある」の典型例にしか見えない。
総勢20名の大名行列(?)は、載冠への確信と手応えの現れだと、そう捉えても不思議はないけれど、チェポ・レイノソほどの海千山千が愛弟子の力量を見誤るとも思えず、「負けても失うものはない。無敗のレコードが途切れても、P4Pトップ10相手なら大きな傷にはならないし、善戦できればそれだけでも大成功」と
クェジャルはフィジカルの強度に恵まれているし、ハートの強さにも目立った不足はなく、経験もまずまず。ただし、頭と上体を振らない現代のボクサーに特有の傾向が明白で、打たれ(せ)ながら打つ耐久・消耗戦になりがち。
想定を超える苦闘を強いられた2人のメキシカン、フランシスコ・ロドリゲス・Jr.とアルヒ・コルテスの成功(?)は、チェポとクェジャルにとって大いに参考になっている筈。ガシャガシャの混戦に持ち込めたら、今をときめく中谷も無敵ではなくなると、陣営なりに突破口が見えたと考えているに違いない。
それこそが、逆に中谷にとって攻め込む糸口になると、確信に近い勝機を感じさせてくれる。注意して欲しいのは、アストロラビオ戦のように距離をはっきりさせること。
切った張ったのカウンター合戦になっても、ペッチに比べればリスクは低く、距離&間合いに関する判断(ケアレス)ミスと油断さえ無ければ、中盤までには倒し切れるし、倒し切って貰わないとトゥルキ長官と御大アラムが困ってしまう(?)。
◎中谷(27歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
WBCバンタム級(V2),WBO J・バンタム級(V1/返上).WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:29戦全勝(22KO)
世界戦通算:8戦全勝(7KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:173センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーパンチャー
◎クェジャル(23歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
戦績:28戦全勝(18KO)
アマ経歴:不明
身長:174センチ,リーチ:171センチ
右ボクサーファイター

※公開計量を1発クリアしてポージングする両雄/左端は中谷を今日に導いた功労者でチーフとして支えるルディ・エルナンデス
◎前日軽量
体温の低さと脈拍が多少気になるぐらいで、調子は悪くなさそう。クェジャルは中谷以上に減量がキツそうで、ここから何キロ戻す予定なのか・・・。
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■オフィシャル
主審:マイケル・グリフィン(カナダ)
副審:
スティーブ・モロウ(米/カリフォルニア州州)
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
リー・エブリィ(英/イングランド)
立会人(スーパーバイザー):ドゥウェイン・フォード(米/ネバダ州/NABF会長)

