記録の罠 - モンスターのワールド・レコードについて Part 3 -
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■数字は時に嘘をつく・・・ 世界戦通算勝利「22」

■世界戦の通算KO勝利「22」- 偉大なる”ブラウン・ボンバー”との比較
前章で触れたせんない繰言が、ひょっとして現実になったとしよう。ジョー・ルイスの通算記録「22」の息を少しでも長らえさせるべく、4ラウンズのエキジビションに過ぎないジョニー・デイヴィス戦を、強引に世界タイトルマッチとしてカウントしてしまった。
仮にそうなってしまい、ルイスの通算KO勝利が「23」に増えたところで、次のピカソ戦でモンスターはすぐに追いつく。もしも9月にアフマダリエフが判定まで粘ったとしても、年末のリヤドでニック・ボール(英)と相まみえさえすれば、9割方の確率で5階級制覇と新記録を同時に達成できる。
ピカソ,アフマダリエフ,ボールとの3試合が、万が一にもすべて判定決着に終わったとしても、デッドラインの35歳まであと3年。そのうち2年間×3試合、ラスト・イヤーを2試合とすれば、残りの試合数は8。
大きな故障や病気などのアクシデントさえ無ければ、ブラウン・ボンバーの記録更新は決まったも同然であり、時間の問題ということになる。だがしかし、事はそう簡単に運びそうにない。
モンスターが23度目のKO勝ちを収めて、米英の主要なボクシング・メディアのSNSで報じられるや否や、あれやこれやと注文が付くだろう。どんな文句なのか、その内容もおおよその見当はつく。
では、その見当を羅列する前に、我らがモンスターの世界戦を再確認しておこう。
◎モンスターの世界戦:24戦24勝(22KO)
※通算戦績:29戦29勝(26KO)
*東京ドーム×1
**さいたまスーパーアリーナ×2
***有明アリーナ×5
****横浜アリーナ×2
#米/ラスベガス MGMグランド/ザ・バブル(無観客専用特設会場)
##米/ラスベガス ヴァージン・ホテルズ
###米/カリフォルニア ディグニティ・ヘルス・スポーツパーク
*#英/スコットランド SSEハイドロ
■L・フライ級(108ポンド/48.97キロ上限)/20歳11ヶ月~21歳7ヶ月
※呼称の違い:IBFとWBO=J・フライ級(旧来通り)
(1)2014年4月6日 アドリアン・エルナンデス(メキシコ)6回TKO勝ち
(WBC L・フライ級獲得/WBC4位として挑戦)
(2)2014年9月5日 サマートレック・ゴーキャットジム(タイ/WBC13位)11回TKO勝ち
(WBC L・フライ V1)
※2014年11月6日返上
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■S・フライ級(115ポンド/52.16キロ上限)/21歳8ヶ月~24歳11ヶ月
※呼称の違い:IBFとWBO=J・バンタム級(旧来通り)
(3)2014年12月30日 オマール・ナルバエス(亜)2回TKO勝ち
(WBO J・バンタム級獲得/2階級制覇/WBO8位として挑戦)
(4)2015年12月29日 ワルリト・パレナス(比/WBO1位)2回TKO勝ち
(WBO J・バンタム V1)
(5)2016年5月8日 デヴィッド・カルモナ(メキシコ/WBO1位)12回3-0判定勝ち
(WBO J・バンタム V2)
(6)2016年9月4日 ペッチバンボーン・ゴーキャットジム(タイ/WBO1位)10回KO勝ち
(WBO J・バンタム V3)
(7)2016年12月30日 河野公平(ワタナベ/元WBA王者・WBO10位)6回TKO勝ち
(WBO J・バンタム V4)
(8)2017年5月21日 リカルド・ロドリゲス(米/WBO2位)3回KO勝ち
(WBO J・バンタム V5)
(9)2017年9月9日 アントニオ・ニエベス(米/WBO7位)6回終了TKO勝ち
(WBO J・バンタム V6)###
(10)2017年12月30日 ヨアン・ボワイヨ(仏/WBO6位)3回TKO勝ち
(WBO J・バンタム V7)****
※2018年3月6日返上
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■バンタム級(118ポンド/53.52キロ上限)/25歳1ヶ月~29歳9ヶ月
(11)2018年5月25日 ジェイミー・マクドネル(英)1回TKO勝ち
(WBAバンタム級獲得/3階級制覇/WBA2位として挑戦)
(12)2018年10月7日 ファン・C・パジャーノ(ドミニカ/元WBA SP王者/4位)1回KO勝ち
(WBAバンタム V1/WBSS初戦)****
(13)2019年5月18日 エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ/IBF王者)2回TKO勝ち
(IBFバンタム級獲得・WBAバンタムV2・2団体統一/WBSS準決勝)*#
(14)2019年11月7日 ノニト・ドネア(比/WBA SP王者)12回3-0判定勝ち
(WBA:V3/IBF:V1)**
(15)2020年10月31日 ジェイソン・モロニー(豪/WBO1位)7回KO勝ち
(WBA:V4/IBF:V2)#
(16)2021年6月19日 マイケル・ダスマリナス(比/IBF1位)3回TKO勝ち
(WBA:V5/IBF:V3)##
(17)2021年12月14日 アラン・ディパエン(タイ/IBF5位)8回TKO勝ち
(WBA:V6/IBF:V4)
(18)2022年6月7日 ノニト・ドネア(比/WBC王者)2回TKO勝ち
(WBCバンタム級獲得 WBA:V7/IBF:V5/3団体統一)**
(19)2022年12月13日 ポール・バトラー(英/WBO王者)11回KO勝ち
(WBOバンタム級獲得 WBA:V6/IBF;V4/WBC:V1/4団体統一)***
※2023年1月13日返上
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■S・バンタム級(122ポンド/55.34キロ上限)/30歳3ヶ月~在位中
※呼称の違い:IBFとWBO=J・フェザー級(旧来通り)
(20)2023年7月25日 スティーブン・フルトン(米)8回TKO勝ち
(WBC・WBO S・バンタム級獲得/4階級制覇/WBC・WBO1位として挑戦)***
(21)2023年12月26日 マーロン・タパレス(比)10回KO勝ち
(WBA・IBF S・バンタム級獲得 WBC・WBO:V1/4団体統一)***
(22)2024年5月6日 ルイス・ネリー(メキシコ/WBC1位)6回TKO勝ち
(WBA・IBF:V1/WBC・WBO:V2)*
(23)2024年9月3日 T・J・ドヘニー(アイルランド/WBO2位)7回TKO勝ち
(WBA・IBF:V2/WBC・WBO:V3)***
(24)2025年1月24日 キム・イェジョン(韓/WBO11位)4回KO勝ち
(WBA・IBF:V3/WBC・WBO:V4)***
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(25)2025年6月14日 アラン・ピカソ(メキシコ/WBC1位):米/ラスベガス
(26)2025年9月 ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン/WBA暫定王者):開催地未定
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■フェザー級(126ポンド/57.15キロ上限)?
(27)2025年12月 ニック・ボール(英):リヤド/WBA世界フェザー級タイトル挑戦
※ボール戦が正式決定した場合:S・バンタム級王座を保持したまま挑戦。フェザー級王座は獲得後即返上して、S・バンタムに戻るとの意向を明らかにしている(中谷潤人戦に備えて?)。
壮観。
こうやって振り返ってみると、この二文字以外の言葉が出て来ない。見当たらない。「フーっ」と深いため息をつく。
2014年4月6日にデビュー6戦目でL・フライ級のWBC王座を獲って以来、10年10ヶ月という、スポーツ選手にとっては途方もなく長い年月の間、23試合もの世界タイトルマッチを延々戦い続けている。
これほどのレコードを、井上尚弥以外にどこの誰が達成できると言うのか。前章でジョー・ルイスの27試合を書き出した時、同じように「とんでもないな・・・」と深いため息をついてしまったが、モンスターの凄さもけっして引けを取らない。
日ごろ私たちは、唯一無二と良く言ったり書いたりするけれど、比類のない飛び抜けて優れた価値を表す「唯一」と「無二」を、わざわざ重ねて記す強調語の意味と希少性について、今一度考え直す必要があると、半ば本気で思ったりしてしまう。
◎Monster Milestones: Naoya Inoue | FULL EPISODE
2024年8月26日/Top Rank公式
◎Naoya Inoue's Destructive Knockout Power
2024年4月24日/Top Rank公式
では、今をときめくモンスターに対して、在米記者と識者,年季の入ったマニアたちは、どんな注文(難癖?)を付けてくるのか。想定できる幾つかを記すと・・・。
「認定団体は事実上NBAただ1つ。そして正統8階級しかない時代に、10年以上に渡ってヘビー級を完全に統治した偉大なブラウン・ボンバーと、階級が倍増(3→7)した軽量級のナオヤを同列に語るのは難しい。4つに分裂したベルトをまとめたことは評価に値するが・・・」
「ナオヤは素晴らしいボクサーだ。プロで12年以上戦って未だに無敗であり、異なる4つの階級で王者となり、そのうち2つで4団体を統一した。(男性では)クロフォード,ウシク,ナオヤの3人しかいない。ただ、戦績の中身が違う。」
「ルイスは多くのホール・オブ・フェイマーと激闘を繰り広げて勝ち残り、近代ボクシングの歴史そのものと表すべきヘビー級で、10年以上もベルトを守り続けた。ナオヤのレコードに載る真のビッグネームは、ドネアただ1人。初戦の彼は本当によくやったが、ピークを過ぎて久しく、スピード&反応も落ちていた。」
「王者の乱立と、水増しされたランカーの爆増。ナオヤが倒したチャレンジャーの中に、11位以下の実質ノーランカーは2~3人だけだが、現在のS・バンタムには、かつてのウィルフレド・ゴメス、ジェフ・フェネックにタイのサーマート、エリック・モラレスとマルコ・A・バレラ、イスラエル・バスケスにラファエル・マルケスのような本物がいない。」
「バンタムも同じだ。エデル・ジョフレとマサヒコ・ファイティング・ハラダ(原田)、ルーベン・オリバレスにサラテとサモラのZボーイズ、ルペ・ピントール,ジェフ・チャンドラー,ヒバロ・ペレス,オーランド・カニザレス。彼らに匹敵する実力者は見当たらない。」
「ジョニー・タピアが蘇って118~122で闘ったら、勝敗はともかく、モンスターを無事には済まさないだろう。現代のボクシングの相対的なレベルは、明らかに低下している。だからこそ、モンスターの強さが一層際立つ。彼らとモンスターが真正面からぶつかったら・・・誰だってワクワクせずにはいられないだろう!?」
悔しいけれど、いちいちごもっとも。ただし、4団体の分裂も15位まで居並ぶランカーの数も、現代を生きる選手たちに一切責任はない。だって、モンスターが座間で産声を上げた1993年、ミニマム級とS・ミドル級を除く15の階級は既に世界王座の価値と権威を認められて定着していた。
4つに分かれた認定団体も、新参のIBFが設立から10年目を迎えて認知を確立。5年目のWBOはまだまだ認知が進んでおらず、ナジーム・ハメドとバレラ、デラ・ホーヤらの快進撃がスタートする前夜。世界タイトルとは名ばかりのマイナー団体として、扱われ方は設立当初のIBF以下。ただひたすら、じっと耐えるのみ。
数多の非難と拒絶反応にめげることなく、12~15位への拡大が認知され出した世界ランキングと、それ以上に批判の多かった暫定王座制度も、「常に独断先行するWBC・始めは否定的でも必ず後追いするWBA(とIBF)」の基本的な構図に変わりはない。
経済原則(承認料収入の確保)には抗えず、後発のIBFとWBOが勝手にやり出した実体無き地域王座の乱発(陣取り合戦)にストップをかけるどころか、老舗の2団体まで同じ手口で対抗する始末。有力プロモーターとの呉越同舟にも拍車がかかる。
小さな日本人が中量級と重量級のスターを凌駕することに、大層ご不満で承服できないのはわかるが、鬱憤をぶつける相手が違う。空前絶後のミラクル・フィストを持ってしても、この壁だけはぶち破ることができない。
強力なライバル不在もまた、モンスターが責任を問われる課題ではまったく無く、各国各地域の統括組織と関係者たちが知恵を絞り、競技人口の減少スピードを少しでも緩やかに減速させるしかないと思う。
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◎ホール・オブ・フェイマーとP4P・・・軽量級の選出を阻む開かずの扉
そして、「ホール・オブ・フェイマーとの激闘」云々は、これこそ本当に勘弁して貰いたい。もともと米英は中~重量級中心にマーケットが形成されていて、軽量級の需要が少なく扱いも低かった歴史的経緯がある。
100年の歴史を持つリング誌の「ファイター・オブ・ジ・イヤー」は、「選出=将来の殿堂入り」との印象が強い。1922年から102回の選出(1933年:該当者無し)を毎年行ってきたが、ヘビー級を文字通りの大黒柱として、ウェルター級とミドル級を軸にした中~重量級が大勢を占めている上、そのほとんどが殿堂入りしているからだ。
フェザー級以下の階級から選ばれた精鋭は、以下に列挙した通り僅か7名に過ぎず、投票権を持つ記者が相当数重複するBWAA(Boxing Writers Association of America:1938年から選出開始)はさらに少なく、リング誌と同時受賞のフランプトン,モンスターと、BWAA単独選出となったドネアの3名しかいない。
リング誌とBWAAで判断が分かれた2012年のドネアを含めても、王国アメリカが認めたフェザー級以下の年間MVPは、1世紀に渡る歴史の中で8名ということになる。
◎リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤー:フェザー級以下
<1>1945年:ウィリー・ペップ(フェザー級/1990年殿堂入り)
<2>1977年:カルロス・サラテ(バンタム級/1994年殿堂入り)
<3>1981年:サルバドル・サンチェス(フェザー級/1991年殿堂入り)
<4>1993年:マイケル・カルバハル(J・フライ級/2006年殿堂入り)
<5>1999年:ポーリー・アヤラ(バンタム級)
<6>2016年:カール・フランプトン(S・バンタム~フェザー級)
<7>2023年:井上尚弥(S・バンタム級)
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※ペップ:元王者フィル・テラノヴァとの防衛戦(N.Y.公認/MSG/V2)を含む年間7戦6勝(1KO)1分け
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※サラテ:世界中の注目を集めた「Zボーイズ」の片割れアルフォンソ・サモラ(WBA王者)との無敗対決に4回TKO勝ち(10回戦)=事実上の統一戦=を含む年間4試合(V3)
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※サンチェス:無敵のJ・フェザー級王者ウィルフレド・ゴメスに8回KO勝ち(V6)=を含む年間5試合(全勝/V4)/シュガー・レイ・レナード(ファイト・オブ・ジ・イヤーをW受賞したハーンズとの統一戦に劇的な逆転勝ち)との2人受賞
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※カルバハル:伝説となった「vs チキータ三部作(最軽量ゾーン史上初の100万ドルファイト)」の初戦における7回KO勝ちを含む年間3度の防衛(ファイト・オブ・ジ・イヤーとの同時受賞)
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※アヤラ:WBA王座を獲得したジョニー・タピア戦がファイト・オブ・ジ・イヤーをW受賞
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※フランプトン:レオ・サンタクルスを破ってWBAフェザー級スーパー王座獲得(2階級制覇)
◎BWAAファイター・オブ・ジ・イヤー(シュガー・レイ・ロビンソン賞):フェザー級以下
<1>2012年:ノニト・ドネア(S・バンタム級)
<2>2016年:カール・フランプトン(リング誌とのW受賞)
<3>2023年:井上尚弥(リング誌とのW受賞)
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※2012年のリング誌:ファン・M・マルケス(パッキャオ第4戦で歴史に残るKO勝ち)
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※2017年に両方ともFOYに選ばれたロマチェンコは、130ポンドのWBO王者としてリゴンドウ戦を含む年間3度の防衛に成功。
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※BWAAは1976年度にモントリオール五輪で金メダルを獲得した5名を同時に選出・表彰。レオン(L・ヘビー)とマイケル(ミドル)のスピンクス兄弟,レイ・レナード(L・ウェルター),ハワード・ディヴィス(ライト)とともに、フライ級のレオ・ランドルフも栄誉に浴しているが極めて稀な例外的表彰。
ご覧いただいて分かる通り、最も権威を認められたリング誌とBWAAの年間MVPは、概ねライト級が対象範囲の下限と見ても間違いではなく、フェザー級以下の軽量級からの選出は異例中の異例と表していい。

写真上左から:W・ペップ,C・サラテ,S・サンチェス,M・カルバハル
写真下左から:P・アヤラ,C・フランプトン,N・ドネア(BWAA表彰),井上尚弥
栄えある年間MVPに選出されたにも拘らず、ラストファイトから5年経過(資格条件)した後も、国際ボクシング殿堂から招待状が届いていない選手は、ただ今のところは以下の5名しかいない。
◎有資格・未選出
<1>1947年ガス・レスネヴィッチ(米/世界L・ヘビー級王者)Last:1949年8月
<2>1999年:ポーリー・アヤラ(バンタム級)
<3>2002年ヴァーノン・フォレスト(米/元2階級制覇王者/ウェルター,S・ウェルター)Last:2008年9月
<4>2004年グレン・ジョンソン(ジャマイカ/元IBF L・ヘビー級王者)Last:2015年8月
<5>2013年アドニス・スティーブンソン(カナダ/元WBC L・ヘビー級王者)Last:2018年1月

※左から:レスネヴィッチ,フォレスト,ジョンソン,スティーブンソン

”マラヴィーリャ”・マルティネス
有資格となる2020年に45歳でカムバックしてしまったセルヒオ・マルティネス(亜)は、ポール・ウィリアムズを狙い済ました左の一撃で沈めた2010年の選出。カっと目を見開いたまま失神するウィリアムズの姿を思い出すたび、全身を襲った戦慄が確かな実感を伴って蘇る。
ドネア vs モンティエル,R・ジョーンズ vs A・ターヴァー第1戦,パッキャオ vs ハットン,パッキャオ vs マルケス4,モンスター vs ドネア2,中谷潤人 vs A・モロニー戦等々をも凌駕する、ボクシングの怖さと魅力のすべてが集約・凝縮された瞬間だった。
完全アウェイのオン・ザ・ロードを生き残り、「リング誌FOY+P4P1位(ベスト3)」を達成したマラヴィーリャは、殿堂入り当確と考えるのがセオリー。大人しくしていれば、速攻でキャナストゥータに招かれていた筈。
余計なお世話と怒られるかもしれないが、”ポーリーの再来”になりそうな予感が漂うフランプトン。来(2026)年4月、最後の試合から5年を経過する。2010年年代半ば~後半の122~126ポンドを大いに盛り上げた小柄なアイリッシュに、狭き門の扉は開いてくれるのだろうか?。
2017年のロマチェンコ以降、ウシク(2018年),カネロ(2019年),フューリー(2回目)&テオフィモ(2020年),カネロ(2021年/2回目),ビヴォル(2021年),モンスター(2023年)と続き、昨年度はウシクが2度目の栄冠を射止めた。
ロマ,ウシク,カネロの3名と、年間MVPには縁が無いクロフォードは、現時点で既に殿堂入り当確で間違いなし。余程のスキャンダルに見舞われたとしても、多少の前後はあってもきっと招かれる。
同居の女性(3人目)を2階から投げ落として命を奪ったカルロス・モンソンと、レイプで実刑判決を受けたマイク・タイソンも無事キャナストゥータに召喚の運びとなった。八百長が発覚したり、米国内での第1級殺人で有罪が確定するような事態になれば話は別だが、この人たちに限ってそうした心配は無用だろう。
勿論、我らがモンスターも昨年当確を打った。驚くべき異能・難敵の出現や、モンスター自身増量の限界に達して誰かに名をなさしめることがあっても、キャリアトータルの評価が揺らぐことはおそらくない。
当落線上のラインぎりぎりにいる可能性が高いフューリーは、恒例行事の引退声明を出したばかり(何度目?)。ジュシュア戦の条件闘争と見る向きが大勢で、まともに信じるファンは少数派になる。仮にジョシュア戦が行われて勝ったとしても、A・Jがバリューを大きく落としてしまった後だけに、殿堂入りの決め手になるかどうかは微妙。
今月22日に再びリヤド開催でセットされた、ベテルビエフとのリマッチが迫るビヴォル。まずはリベンジの成功が第一の関門になるが、テオフィモともども、今後どこまで巻き返せるのかにすべてが懸かる。
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モンスターが戦ってきた29名(延べ)の対戦相手の中で、近い将来(最短で)の殿堂入りが確約されているのはドネアだけであり、他に可能性があるとすれば、今のところはオマール・ナルバエスただ1人。
”エル・ウラカン(ザ・ハリケーン)”の異名を欲しいままにした技巧派サウスポーも、寄る年波には勝てない、43歳の誕生日まで3ヶ月と迫った2018年4月、ベルファストで長身痩躯のゾラニ・テテ(南ア/WBOバンタム級)に挑戦して判定負けした後、2019年5月に同胞の無名選手に10回判定勝ちを収めたが、12月21日にやはり無名の中堅選手に10回判定負け(1-2)して以降、実戦のリングに戻っていない。
正式に引退のアナウンスがあったのかどうかは判然としないが、既にアマチュアの指導者(ジュニア・ユース世代)として第二の人生をスタートしたと報じられており、49歳という年齢を考えても復帰はまず無いと思われる。
昨年5月の時点で、最後の敗北から丸5年を経過。殿堂入りの基準を満たしているが、パッキャオ,ビニー・パジエンザ,マイケル・ナンらが選ばれた2025年度インダクティーズのリストに、ナルバエスの名前は無かった。
◎Class of 2025 Announced In Canastota!
2024年12月5日/IBHOF
http://www.ibhof.com/pages/inductionweekend/2025/announce_25.html
2大会連続で五輪出場(1996年アトランタ,2000年シドニー:いずれも2回戦敗退)を果たし、世界選手権でも2大会でメダルを獲得(1997年銅/1999年銀:いずれもフライ級)したトップ・エリートで、プロに転じてWBOのフライ級とJ・バンタム級の2階級を制覇。
フライ級は連続16回の防衛に成功して、70年代のミドル級に君臨したカルロス・モンソンの14回を抜き、アルゼンチンの国内最多記録を樹立(歴史的な評価でモンソンを抜くことはまず無いけれど)。続くJ・バンタム級も連続11回守り、通算の防衛回数は27回に上る。

■生涯戦績:55戦49勝(25KO)4敗2分け(KO率:51%)
◎世界戦通算:31戦29勝(12KO)3敗1分け
※在位期間:通算11年10ヶ月
<1>WBOフライ級:7年3ヶ月/2002年7月~2009年10月
<2>WBO J・バンタム級:4年7ヶ月/2010年5月~2014年12月
◎33歳当時の試合映像:ラヨンタ・ホイットフィールド(米)戦
2009年2月7日/プエルト・マドリン(亜)
10回TKO勝ち(WBOフライ級V15)
五輪代表候補の長身黒人アマ・エリート(公称170センチ)を一蹴。モンソンの記録(V14)を抜く。
※9回までのスコア:90-79×2,88-81)
殿堂入りの資格は十二分に有していると思うけれど、最短での選出は叶わなかった。投票権を持つ記者たちには、何が不足と映ったのだろうか。そこは幾ら詮索してみたところでせんないことではあるが、以下の諸要素がマイナスに響いたように思う。
<1>渡米は1回のみ(2011年10月のドネア戦:WBC・WBO統一バンタム級王座挑戦)
<2>統一戦をやっていない
<3>ビッグネームとの対戦が少ない(ドネアと井上の2名)
<4>世界王者経験者との対戦:8戦5勝3敗(KO勝ちゼロ)
<5>J・バンタムに上げて以降KO勝ちが目にみえて減った
<6>J・バンタム級でのV11中半数の5名が11位以下の実質ノーランカー+1名がバンタム級のローカル王者(正真正銘のノーランカー)
※フライ級:V16中11位以下は4名
<7>唯一の渡米となったドネア戦での守備的かつ消極的な姿勢
◎試合映像:ドネア戦
2011年10月22日/MSGシアター,N.Y.
12回0-3判定負け(120-108×3)
ttps://www.youtube.com/watch?v=04q1ASURchk
何だかんだと言いながら、アメリカのスポーツ界はアメリカに来ることを要求する。そしてアメリカで認められる為には、アメリカで記憶に残る結果を繰り返し残すことが不可欠。
ドネア戦のディフェンス一辺倒は、「勝つ気があるのか?」と謗られても止むを得ないものではあった。モンスターを目の前に、ひたすら延命に撤するだけだったポール・バトラー,アラン・ディパエン,T・J・ドヘニーに匹敵すると言ったら、きっとナルバエスはプライドを傷つけられて気分を害するだろうが、それぐらい打たれないことに専念していた。
ただしバトラーたちと違うのは、得意の脚を使ってドネアの間合いを外しながら、少ないながらも見映えのいいパンチを当てていたこと。正確なジャブ&ショートで、ドネアの顔を腫らすことには成功した。
もしも母国アルゼンチンで開催されていたら、中差程度のマージンでナルバエスの手が挙がっていたかもしれないと、妄想に近い想像を巡らせたことを思い出す。

※当たり前だが21歳のモンスターが細い
160センチに満たないサイズの不利を考慮せずとも、最軽量ゾーンでのKO率5割超えは充分過ぎる数値。フライ級時代には7連続KO防衛も記録していて、数字だけで判断すれば強打者に分類されるが、ナルバエスの場合は技術&タイミングをベースに,手数でストップに追い込む「倒すこともできる技巧派」。
(1)フライ級:7戦5勝(2KO)2敗
(2)J・バンタム級:16戦14勝(4KO)1敗
(2)フライ級:32戦30勝(19KO)2分け
モンスターのP4P1位と年間MVPは、米本土で3回(ラスベガス2回+カリフォルニア1回)戦い、ジェイソン・モロニーとダスマリナスを印象的なKOでフィニッシュしたことに加えて、英国スコットランドに遠征して、IBF王者だったマニー・ロドリゲスを僅か2ラウンドで破壊した、戦慄的なKOが強い追い風になったのは確かだと思う。
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