記録の罠 - モンスターのワールド・レコードについて Part 1 -
- カテゴリ:
- Boxing Scene
■数字は時に嘘をつく

とりあえずここまでは、地震や豪雪による大きな災害のニュースが報じられることもなく、天候にもまずまず恵まれ、穏やかな新年を迎えられたことを天に感謝しつつ、有明の強烈無比な即決KOに胸を撫で下ろす。
幾つか心配な点が散見されたにせよ、昨年春から続いた「グッドマン騒動(延期⇒挑戦者差し替え)」に一応の決着を着けて、再び海外を目指す2025年の幕開けを、リアル・モンスターが怪我無く終えてくれたことが何よりの朗報,吉報に違いない。
そして、順当なスタートを切ったモンスターの「記録」が話題になっている。世界戦の通算勝利数と連勝及び連続KO記録なのだが、言われてみれば、井岡一翔の国内最多勝利数を抜く・抜かないの話がちょっと注目されたぐらいで、モンスターの通算記録がことさら大きく採り上げられたとの印象は薄く、かく言う拙ブログ管理人も、そこはスッポリ抜け落ちていた。
「うっかりしていたな・・・」
ただただ頭をかく次第で、偉そうな口を叩ける義理ではないのだが、言い訳を許していただけるなら、それだけ2階級に渡る4団体統一、4階級制覇が懸かったS・バンタム級での成否がビッグ・イシューと化し、転級初戦の相手がクラス最強の呼び声も高いスティーブン・フルトンだったことも、他の話題が付け入る隙を狭くしたのは確かである。
なおかつ2022年6月、リング誌パウンド・フォー・パウンド・ランキングの1位(6月)に選出。東洋圏のボクサーとして、マニー・パッキャオに次ぐ2人目の快挙を実現したことが、通算記録に関心が向くことをさらに難しくした。
フルトン戦から僅か4日後、史上初となる「2階級+4団体統一」の快挙を一足早く達成したテレンス・クロフォード(モンスターからP4PランクNo.1の座を奪う)、昨年5月に史上初のヘビー級4団体統一を果たし、モンスターとクロフォードを抜いてP4PのNo.1に登りつめたオレクサンドル・ウシクの三つ巴に、ファンとボクシングメディアの熱視線が集中。
「実績で選ぶなら、文句無しにクロフォード。同じP4P上位の常連で、WBOを除く3団体を統一したスペンスをまったく問題にしなかった。S・ウェルターの初戦はイマイチだったが、すぐにアジャストするだろう。」
「4階級制覇と2階級での4団体統一。ボクシング史に残る偉大な記録であることは疑いがない。しかし、より高い価値を持つのはクロフォードだ。」
「ヘビー級とともに近代ボクシングの礎となり、100年以上変わっていない正統8階級(オリジナル8:トラディショナル8とも呼ぶ)のライト級とウェルター級、L・ヘビー級に続くジュニア・クラスとして、J・ライト(S・フェザー)級と並んで2番目に古いJ・ウェルター(S・ライト)級を獲り,4番目に古いJ・ミドル(S・ウェルター)級を獲った。」
「特筆すべきは、最激戦区のウェルター級を統一したこと。トリニダード,ウィテカー,デラ・ホーヤ,モズリー,メイウェザーの5名にもできなかった偉業。この意義は大きい。」
「イノウエが制した4つの階級は、J・フライ(L・フライ)級,J・バンタム(S・フライ)級,バンタム級,そしてJ・フェザー(S・バンタム)級。70年代半ば以降、80年代末までに大増設された軽量級のジュニア・クラスが3つだ。オリジナル8(正統8階級)はバンタム級1つしかない。」
「220ポンドの軽量をものともせず、大型化した現代のヘビー級を完全制覇した。フューリーを連破したのは大きな勲章だ。絶対にウシク。デュボア戦のダウンは確かに下手を打ったが、再戦に応じてケリを着ければいい」
「引退か継続か。ロマチェンコ(腰痛に悩まされているという)の動静がはっきりしない現在、長引く戦禍に苦しむウクライナの人々にとって、ウシクの勝利は今や希望の光だ。心身に背負う重過ぎる負担を、並外れた闘志と使命感で克服し続けている」
「いやいや、まずは純粋にパフォーマンスを評価すべきだ。ナオヤのアビリティとリングIQは圧倒的で誰もかなわない。4つの階級で10年以上に渡って、世界チャンピオンであり続けている。これ以上何を証明しろというのか」
「丸12年を超えるプロキャリアで苦戦したのは、唯一ドネアとの1戦目だけ。それも序盤にドネアが死角から放った左フックで、眼窩底を骨折した右眼の焦点が合わせられなくなり(複視)、左眼だけで戦っていた。普通ならギブアップしても不思議はない。そんな苦境の中でセーフティリードを保ち、レフェリーが邪魔しなければ、あの決定的なボディショットでKO勝ちしていた」
「ドネアとのリマッチを見たか?。フルトンがどうなった?。タパレス以降の相手は、ネリーを除いて全員バトラーと一緒だ。怖気づいて後退堅守に閉じこもる。ワールドクラスの経験豊富なベテランが、こぞってディフェンス一辺倒に凝り固まるんだ。」
「トップボクサーが倒されまいと必死に守るガードを破壊して、ナオヤは倒し続けている。しかもほとんどまともに打たれていない。これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶ?。決まりだよ。」

※最新のリング誌パウンド・フォー・パウンド・ランキング
P4Pの順位を巡る妥当性について、ファンと記者(ライター)だけでなく、選手(現役・退役を問わず),トレーナー,マネージャー,プロモーターたちが喧々諤々意見を主張しぶつけ合う。
さらには、2023年度のリング誌とBWAA(Boxing Writers Association of America)のファイター・オブ・ジ・イヤーに輝き、文字通りのスーパー・ハイライトが続いたことも、通算記録に目が向きにくい状況を助長したと言えなくもない。

※左から:ダグ・フィッシャー(リング誌編集長:当時)/井上尚弥/ジョセフ・サントリクイード (BWAA会長)
※「シュガー・レイ・ロビンソン・アワード(BWAAファイター・オブ・ジ・イヤー)」表彰セレモニー(2023年6月7日/パーク・アベニュー,ニューヨーク)
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
無論、国内のボクシング専門メディアが、まったく何もしていなかった訳でではなく、「Boxing News(専門誌ボクシング・ビートが運営するWEBサイト)」が、2019年11月7日付けで次に挙げる記事を掲載している。
◎井上尚弥記録集 歴代王者の中でも群を抜くKO率
2019年11月7日
https://boxingnews.jp/news/70887/
記事の中では、日本人王者の世界戦試合数と勝利数、KO勝ちした試合数、連続KO勝利数、最短KO勝利の順位が示されており、この時点で、輪島功一,小熊正二,西岡利晃と並ぶ13戦のモンスターは、トータルの試合数では9位(1位は井岡一翔の18戦)に止まっていたものの、KO防衛の数で内山高志の10試合(通算12試合)を抜く13戦中12KO。既に国内トップに立っていた。
さらに翌2023年12月26日(タパレスとの4団体統一戦の当日)にも、同じ「記録特集」のメインタイトルで、”J・C・スーパースター”ことフリオ・セサール・チャベスとの比較を軸にした記事をアップ。
◎井上尚弥の記録特集 世界戦勝利数は伝説の王者 チャベスを追いかける
2023年12月26日
https://boxingnews.jp/news/105128/
同じくタパレス戦の当日、スポーツ報知もモンスターの記録について、丁寧かつ詳細にまとめてくれている。
◎報知の過去記事
<1>井上尚弥 伝説級モンスター記録…26戦無敗、世界戦21連勝、歴代1位のKO率90・4%
2023年12月26日
https://hochi.news/articles/20231226-OHT1T51104.html
<2>◎井上尚弥がパンチ一撃で3つの日本記録を更新「最後のパンチが最初になった」
2018年10月7日/スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20181007-OHT1T50296.html
読売系列と言えば、「ダイナミックグローブ」を永く中継した日テレ=帝拳。大橋ジムがテレ東からフジTVに乗り換える際、村田諒太とモンスターをセットにして、「FUJI BOXING」のタイトルで華々しく売り出した。
プロ入りに際してフジのバックアップを受けた村田は、フジのボクシング中継(ダイヤモンドグローブ)の窓口だった三迫ジムに所属したが、同時にトップランクと共同プロモート契約を結んでいる。
村田とモンスターをボブ・アラムにつないだのは、事実上村田をハンドリングしていた本田会長に他ならず、村田はデビュー1年後にジムを移籍して帝拳の所属選手になったが、モンスターの立場は、在米及びニカラグァの地元プロモーターと本田会長が共同でプロモートするローマン・ゴンサレスと同じ。
大橋ジム(フェニックス・プロモーション)と帝拳プロモーションが共同で保有する支配下選手であり、読売傘下の報知が他のスポーツ紙以上にモンスターの記事に力を入れるのは、ごく自然な流れとも言える。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
昨年9月のT・J・ドヘニー戦に際しては、スポーツ各紙も記録に関する記事を掲載した。
<1>井上尚弥が世界記録に迫る、KO必至のバンタム級日本人対決も 「1995世代」の競演にも注目
2024年8月30日 Sportsnavi
https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/2024082800007-spnavi
<2>井上尚弥 モンスター記録更新 単独最多の世界戦23戦&23連勝 世界戦9連続KO勝利
2024年9月3日/スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20240903-OHT1T51164.html
<3>井上尚弥、記録ずくめの防衛 世界戦通算勝利数で日本人最多&現役最多、連続KO勝利記録も伸ばす
2024年9月4日/ニッカンスポーツ
https://www.nikkansports.com/battle/news/202409030001948.html
そして今回は、以下の5つが目に止まる。FIghtnewsに寄稿したジョーさんの心意気には、危うくホロリとさせられそうになった。
日本に定住しながら、英語の媒体を持つジョーさんの存在は希少にして貴重。ペイTVに対して否定的な論調が大勢を占めていた90年代初頭、WOWOWエキサイトマッチを作った功績も忘れてはならないけれど、高校時代からリング誌に英文の記事を寄稿し始めて、ミスター・ボクシングことナット・フライシャー直々にリング誌日本特派員として認められ、「Ring Japan」の呼称表記を許された。
媒体はリング誌からFightnewsに変わったが、王国アメリカを中心とした海外に向けて、77歳になった今も日本とOPBF圏の情報を発信し続けている。
<1>井上尚弥のKO率は?衝撃の"モンスター"が誇る脅威の数字とは
2025年1月21日/Olympics.com/立野光起
https://www.olympics.com/ja/news/naoya-inoue-ko-rate-2025-01-24
<2>井上尚弥、現役世界最多の世界戦24勝目へ ジョー・ルイスに並ぶ世界最多22KO勝利も…防衛戦、今夜ゴング
2025年1月24日/スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20250124-OHT1T51124.html
<3>井上尚弥、右ストレート1発でKO勝ち 現役単独最多となる世界戦通算24勝
2025年1月24日 20時35分スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20250124-OHT1T51293.html
<4>ボクシング世界戦勝利数&世界戦連続KO勝利ランキング 井上尚弥が記録更新へ前進
2025年1月26日/SPAIA
https://spaia.jp/column/boxing/30462
<5>Monster Inoue’s Place in History
2025年1月30日/Fightnews/ジョー小泉
https://fightnews.com/monster-inoues-place-in-history/168729
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スポーツ各紙面で大きく謳われているのは、ヘビー級王座の25回連続防衛に成功した”偉大なるブラウン・ボンバー”ことジョー・ルイス(米)が、同時に成し遂げた世界戦における最多KO勝利「22」に並ぶタイ記録だが、着目すべき数字は他にもある。
※ Part 2 へ