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■検察は控訴を断念するも・・・ - Chapter 7


※2024年10月10日 /テレビ静岡ニュース
「無罪になった袴田さんを犯人視している」弁護団が怒りあらわ 控訴断念の検事総長談話を猛批判

検察の内向きに過ぎる意識と体制、傲岸不遜なまでに高過ぎるプライド、謝ったら死ぬ病に付ける薬は無い。それが結論。行き着く先ということのようだ。

「持ちつ持たれつ」の関係だった筈の裁判所が、掌を返して検察の痛いところを本気で突いたから、頭に血が上って正気を失った幹部連中が、史上初の女性検事総長に命じて、言わずもがなの余計な一言を喋らせてしまったと、要するにそういう低次元な顛末である。

以下にご紹介するABEMAの番組内で、痴漢冤罪事件を扱った映画「それでもボクはやってない(2007年1月公開)」の取材過程で「袴田事件」を知り、以来20年以上も追って来たという周防正行監督が述べている通り。

◎【謝罪なし】袴田さん無罪確定も…検事総長は異例の談話 「“証拠ねつ造”の言葉が検察官を刺激」“本当は怖い”日本の司法|ABEMA的ニュースショー
2024年10月14日/ABEMAニュース


後追いで出張ってきた警察庁の露木康浩長官と、止せばいいのに、またまたしゃしゃり出てきた牧原法相(元弁護士)も、検察幹部が捻り出した陳腐な言い訳を録音テープのごとくリピートして、三重四重に恥を上塗りする木偶の坊ぶりを発揮する。

「法的地位が不安定な状況に置かれてきたことに思いを致し・・・」

いけしゃあしゃあと、何を寝惚けたことを抜かしているのか?。デッチ上げの証拠で凶悪犯に仕立て上げられた袴田さんは、60年近い年月を殺人犯として生きなければならなかった。1980(昭和55)年12月12日に死刑が確定してから、2014(平成26)年3月27日に(仮)釈放されるまでの33年間は、「今日は俺の番か・・」と、刑の執行に怯えながら朝を迎える毎日だった。

48年近くに及んだ拘置によって重度の拘禁症状を発症した袴田さんは、妄想と現実の狭間を彷徨うところまで追い込まれる。拘禁症状の悪化が確認されてからでも、既に30余年を経過。袴田さんは生きながら殺されたも同然で、警察と検察に裁判所・・・すわなち日本の司法制度によって、一度しかない人生を完全に奪われたのである。


「何が何でも袴田を落とせ!」

特捜本部で捜査に当たった現場の刑事と警官の中には、被害者一家に強い恨みを抱く、外部(従業員ではなく)の複数犯説を主張する人たちもいたとされるが、当時の静岡県警は袴田さん1人に狙いを定めて、他の可能性をすべて自ら否定・封印した。

控訴の取り下げについて、「再審を担当した検察官ら(報道ベース:おそらく地検と高検の誰か)」が専務一家のご遺族と面会し、説明と謝罪をしたと報じられたが、ご遺族から取り下げの理由について問われると、検事総長の談話を読み上げたというから恐れ入る。ご遺族が納得できないのは当たり前で、無念と憤懣もまた察して余りがある。

殺人罪で起訴されなければならないのは、むざむざ真犯人を見逃した警察と検察であり、有罪判決に関わったすべての裁判官も、道義上は同罪と言わねばならない。

◎袴田巌さん無罪確定で検察が遺族と面会し謝罪
2024年10月12日/静岡NEWS WEB(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/20241012/3030025763.html

ここまできたら、ひで子さんは検察と警察の謝罪を受けるべきではないのではないか。まったく心のこもらない、血の通わない上辺だけの空疎な言い訳を並べ立てて、とりあえず頭を下げて終わりにする。

どうせメディアは、検察幹部が頭を下げているところだけを切り取って、ニュースで繰り返し流すのが精一杯。新聞も「検察が袴田さんに謝罪」という見出しを躍らせ、一件落着のムード醸成に一役も二役も買って、検察と警察に貸しを作っておく。所詮はその程度でしかない。

ヘマをやらかしたお前らで何とか始末を着けろという訳で、頭を下げに出てくるのも、東京高検のトップ辺りが関の山だろう。それに、彼奴らが袴田さんの自宅まで来るならまだしも、90歳を過ぎたひで子さんと、足腰が弱って階段の上り下りにも難儀をするようになった袴田さんを、静岡地裁はおろか、平然と東京まで呼びつけかねない連中なのだ。

裁判所が証拠の捏造を認定した判決が確定していることから、日額上限12,500円の刑事補償だけでなく、弁護団は国家賠償請求にも言及している。支援団体との結束を緩めることなく、少なくとも国家賠償が認められるまでは、検察がひで子さんに直接コンタクトを取らないよう、徹底的にガードを固めてくれると良いのだが・・・。


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◎「袴田事件」とボクシング界の主な動き - 波紋を呼んだドキュメンタリー



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<3>静岡県警捜査一課 松本久次郎元警部(取材当時73歳)
落としの松本

県警本部の威信を背負い、主任として「袴田事件」の捜査に当たった松本が、例を見ない大規模な(+杜撰極まりない)捏造を主導した主要人物の1人であることは、議論の余地を許さないところだと確信する。

本事件で松本が果たした役割は、「二俣事件(ふたまたじけん)」や「島田事件」における昭和の拷問王(冤罪王)こと紅林麻雄(県警の元エース)そのものと断じても差支えがなく、そうした意味において「紅林の再来」と呼ぶに相応しい。

しかし同時に、ここまで無茶苦茶な謀(はかりごと)を松本の一存でやり切れるとは到底考えられず、捜査一課単独でも難しいのは勿論、「二俣事件」で紅林の違法な捜査手法を内部告発した山崎兵八元刑事が指摘した通り、静岡県警に染み付いた体質かつ総意だったと理解する以外に無いと思われる。


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◎松本が直接関わったとされる捏造:「共布(ともぬの:「5点の衣類」に含まれるズボンの切れ端)」

1967(昭和42)年8月31日(逮捕から約1年後)に、出荷作業中の従業員が味噌タンクの中で見つけた「5点の衣類」からは、それが袴田さんの持ち物であることを証明する指紋は採取されていない。

昭和30~40年代の犯罪捜査にDNA鑑定は存在せず、指紋こそが犯(個)人を特定する最大の物証だった。従って、いくら血に染まった衣類が都合良く出て来たとは言え、血液型の鑑定は行われるにしても、それだけでは袴田さんを犯人と断定することができない。

袴田さんの実家にある箪笥の中から出て来た、「5点の衣類」に含まれるズボンとまったく同じ材質と色の切れ端(丈詰めの為に裁断された布切れ)が、「5点の衣類」を袴田さんと関連付ける唯一の証拠になる。ズボンと切れ端それぞれの切断面については、縫製・繊維・染色に関する照合が行われて一致することが確認されている。

◎「5点の衣類」
<1>上着(鼠色のスポーツシャツ
<2>緑色のブリーフ(※)
<3>白い半袖のシャツ(下着)
<4>白のステテコ
<5>ズボン(鉄紺色)

5点の衣類

発見時の「5点の衣類」
※味噌タンク内で発見された「5点の衣類」/麻袋(南京袋)に入った状態で見つかる

問題の衣類から検出された血液型は「A型・B型・AB型」の3種類で、肋骨を切断されて肺と心臓を貫き、刺し傷が背骨にまで達していた次女の「O型」は、どうした訳か検出されていない。

白色の半袖シャツの右肩部分と緑色のブリーフ(※)に残された血痕がB型で、袴田さんと同じだった。

◎被害者の血液型
橋本専務(41歳):A型
橋本夫人(39歳):B型
長男(14歳):AB型
次女(17歳):O型
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※袴田さん:B型

橋本さんのご一家は、被害に遭われた4名の血液型が「ABO型」のすべてを網羅する。「5点の衣類」に付着した血痕の血液型から、どの型が検出されても「被害者と一致」してしまう。この偶然が、袴田さんを犯人に仕立て上げる「絶好のチャンス」に成り得ると、特捜本部が捏造へと猛進する動機になったと思えてならない。

Chapter 3で記したように、静岡県下では紅林元警部補らによる冤罪事件が続き、県警は丸潰れになった面子の回復に必死だった。これ以上の不祥事発生は絶対にあってはならず、凶悪事件の真犯人逮捕と速やかな解決も待った無し。身から出た錆以外の何物でもないとは言え、切羽詰まった苦しい状況にあったことは間違いない。

しかしこのままでは、十中八九、袴田さんは証拠不十分で無罪になる。無理を押して高裁へ上訴しても、有罪に持ち込む為には新たな物証が必要不可欠となり、できなければ地裁の判決が支持されてしまう。

無罪判決が出る前に起訴を取り下げる手段もあるが、いずれにしても、自白は一体何だったのかという話にならざるを得ない。20日間に渡って清水署内で袴田さんを締め上げ、トイレにも行かせず強制的に犯行を認めさせた非人道的な取り調べが槍玉に上がる。

清水署はもとより、県警幹部の誰かが首を差し出さしたぐらいでは、マスコミと世間の批判は収まらない公算が大。

誤認逮捕に対するマスコミの轟々たる非難を浴びながら、振り出しに戻って一から捜査をやり直さざるえを得ないが、事件発生から1年以上が経過する中、袴田さん以外の可能性を捜査からすべて排除した結果、他に被疑者はいない。

警察と検察のリークをそのまま報道して、袴田さんへの容赦ない糾弾を続けたマスコミも、一気に掌を返して、紅林元警部補が主導した冤罪事件を蒸し返す。


「後戻りはできない」

ABOの血液型はどれでも良く(血液型だけでは完全に個人を特定できない)、凶器のくり小刀と現場から指紋が見つかっていなかったことが、「血染めの衣類(血液の付着だけでいい)」をでっち上げるには却って好都合だと、特捜本部をいよいよ狂わせる。「文句の付けようがない決定的な証拠の捏造」という狂気へと駆り立て、暴走させてしまったと考えないと辻褄が合わない。

白い半袖シャツ(下着)の右肩付近と、緑色のブリーフ(※)に付いたB型の血液を、「被害者と揉み合う過程で怪我をして出血した」とする警察と検察の主張通り、地裁も袴田さんのものと認定したが、袴田さんの右肩には血痕に合致する場所に傷は無く、血痕の位置に符合する傷の有無は緑色のブリーフ(※)も同様だった。


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◎実家の再捜索と「共布(ともぬの)」の発見

袴田巌さんの再審を求める会」の平野雄三代表が、1993(平成5)年に「共布(ともぬの)」を発見した岩田竹治警部補から、直に捜索の経緯を聞いている。岩田元警部補によると、捜索は「5点の衣類」の発見から10日以上経った9月12日に行われ、岩田を含む2名が袴田さんの実家に向かったという。

岩田らが指示された捜索の目的は、「5点の衣類」のズボンに付けていたであろうベルトと、指紋を隠す為に着用していた手袋(被害者家族の返り血がベットリ付いている筈)の発見であり、岩田らに「共布(ともぬの)」に関する認識はない。

そして袴田さんの実家に2人が到着すると、宅内には先着していた松本がいて、「箪笥の中を調べてみろ」と後着の2人に指示をしたという。

言われた通りに岩田が箪笥の引き出しを開けると、すぐに「共布」が見つかった。そしてそれを見た松本は、「(味噌タンクから見つかった)ズボンの切れ端に間違いない」と”直ちに断定”。

ベテランの腕利き刑事だけが持つ直観力と言うべきか、一瞥しただけで「これだ!」と断定できてしまう、人間離れした松本の眼力にはまったく恐れ入る。繊維や切断面の分析まで、瞬時に肉眼でできるらしい。

箪笥から発見された共布(ともぬの)
※実家の箪笥から発見された「共布(ともぬの)」

捜索に立ち会った袴田さんの母親ともさんに任意提出の許可を取ると、本来の目的であった「ベルトと手袋」の捜索は早々に打ち切り。「5点の衣類」が袴田さんのものであると証明できる、有罪を立証する為には不可欠かつ決定的な追加の物証を特捜本部は入手した。

母親のともさんは、箪笥の引き出しにそんな物が入っているとは夢にも思わない。被害者となった橋本専務一家の葬儀に、逮捕される前の袴田さんも参列しているが、その時着けていた喪章は、「共布」が見つかった同じ箪笥に保管されていたそうで、「共布」は9月12日の捜索時に初めて見た、それまではただの一度も見ていないと、ともさんは法廷で述べている。


問題の味噌タンクと同様、袴田さんの実家も事件発生当初に捜索を終えていて、証拠の類は見つかっていない。味噌タンクを最初に確認した捜査員は、後にメディアの取材を受けて「何も無かった。見落としは考えられない」と明言している。

◎事件直後の現場検証で味噌タンクを調べた捜査員のインタビュー
<1>【袴田事件】元捜査員が証言「衣類なかった」発生時にタンク捜索に参加 1年後発見に驚き「あり得るのか」
2023年3月15日/テレビ静岡ニュース


<2>“袴田事件”元捜査員 自宅ドアを閉ざし何も語らず 静岡地裁は証拠ねつ造を認定し再審無罪
2024年9月27日/テレビ静岡ニュース


<3>【袴田事件】事件から57年元捜査員の証言 当時みそタンクに5点の衣類が「なかったことは間違いない」
2023年7月6日/静岡朝日テレビニース
※テレビ静岡の取材とは異なる捜査員と思われる


<4>“袴田事件”元捜査員 自宅ドアを閉ざし何も語らず 静岡地裁は証拠ねつ造を認定し再審無罪
2024年9月27日/静岡朝日テレビニース



驚くべきは「共布」発見の翌日、9月13日に予定の無かった公判が緊急に開かれたこと。担当検察官が地裁に申し入れたのが、捜索前日の9月11日。12日に「共布」が見つかり、13日の冒頭陳述において、袴田さんが自供した筈の「パジャマ」から、1年以上も経ってから突然見つかった「5点の衣類」へと、犯行時の着衣を正式に変更した。

おかしな点はまだある。「共布」発見の経緯に関する調書の証人として、引き出しを開けて発見した岩田ではなく、松本の名前が記載されていたというのだ。

家宅捜索を指示された岩田ら2名は、そもそも松本の先着も聞かされていない。捜査主任の松本が自分たちより先に家に上がり込んでいるのを見て、岩田はまずそれに驚いている。そして松本から「探せ」と言われた箪笥の中から、すぐに「共布」が見つかり、捜索の前日に検察官が申請していた翌13日の公判で証拠の訂正・・・。手回しが良過ぎて絶句するしかない。

静岡県警と地検が一蓮托生のグルであることに、もはや疑いを差し挟む余地は無いと思われるが、事ここに至っては「地裁も・・・じゃないの?」と、誰もが想像を膨らませずにはいられない筈である。


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