カテゴリ:
■10月14日/有明アリーナ/WBOアジア・パシフィックバンタム級王座決定10回戦
WBO AP1位 那須川天心(帝拳) vs WBO AP2位 ジェルウィン・アシロ(比)



「宇宙系ボクシング、はい。ユニバース・スタイルで・・・やったろうかなと・・」

前戦(7月20日の国技館興行)で、WBA4位のジョナサン・ロドリゲス(米)を3ラウンドで粉砕。他の誰よりも自身が渇望していたに違いない鮮やかなKO勝ちを収めて、「倒せない天才児」の汚名を返上した天心が、「さらに進化を続けている」と現状への手応えに言及した。

10月半ばの3連休に、世界タイトルマッチが7試合並ぶ異例の連戦(帝拳・大橋=amazon prime,3150=ABEMA)は、伊藤雅雪のTreasure Boxing Promotionが仕掛けるカシメロ(またまたお騒がせ)の復帰戦も絡み、まさしく興行合戦の様相を呈している。

「これだけ世界戦が並ぶこともないし、全員強い選手ばかりが集まった中で、しっかり自分の色を見せて、ボクシングの熱気とともに観客に伝えたい。」

最終日の帝拳主催興行で、初のタイトルマッチに臨む意気込みを述べる天心に、記者の1人が「自分の色とは?」と具体的なイメージを問う。

すると天心は、「(前回よりもさらに)進化を続けている」と自信を覗かせた後、「突拍子もない動きだったり、ボクシング(のセオリー)にはない変わった動きだったりとか・・・」と続けて、冒頭の「宇宙系・・(云々)」で笑いを取りケムに巻いた。


確かに「天心ならやりかねない」と、リング上を牛若丸か小天狗(古過ぎ!)のように駆け回る様を容易に想像してしまうし、そう思わせるだけの潜在能力を感じさせてくれるのも事実。

コーナーを預かる粟生隆寛と、逸材のハンドリングを担う浜田代表にしてみれば、いつもスベりがちな天然キャラも含めて、脇の下に冷や汗をかきながらの対応が続き、さぞかし大変な事だろうとご同情を申し上げるしかないが、これもまた天心だから許される(?)大きな魅力の1つ。

華やかさと危うさ。センシブルで美しいムーヴと引き換えに、致命的な被弾のリスクに敢えて己が身を晒す。”浪速のジョー”こと辰吉丈一郎が体現した、究極の「両刃の剣」までを求めたりはしない。そんな気はさらさらない。

言語を絶するボクシング・センスとスピード&強打で、昇竜のごとくスターダムを駆け上がり、百花繚乱の満開を見ることなく崩壊して行った稀代の超天才の盛衰を、これでもかと目の当たりにした浜田代表だからこそ、ハイリスクなアクロバットはけっして望まない筈である。


そうであるにしても、田中恒成と井上拓真(カシメロにディスられていたが尚弥も早い)を凌駕しそうな図抜けた天心のスピード(トップ&アベレージ)と、日本人離れしたムーヴィング・センスならロマチェンコどころか、かつてのキッド・ギャビランやサルバドル・サンチェスに近い領域まで行けるのではないか。

ニコリノ・ローチェとマンテキーヤ・ナポレス、ウィテカー.ベニテスの有り得ない反応と、極限まで動きを小さくして、常に寸でのところでかわそうとするスリリングなディフェンス、あるいはアーチー・ムーア,ジョージ・ベントン,ジェームズ・トニー,マーロン・スターリングらに代表される黒人特有の柔軟なボディワークは無理にしても、ウィリー・ペップの滑るようなフットワークには、ひょっとして天心なら届くのではないか。

日本人に可能な限界ギリギリの”変幻”はともかく、”自在”の方を夢想するのはいいんじゃないのかと、バチは当たるまいと、端から見れば阿呆の極地でも思い描いてしまう。このどうしようもなく救いようのない性こそが、ボクヲタ冥利に尽きる瞬間でもある。


持ち前のスピードを落とすことなく、鋭さの中に重さを加えた強打を打ち抜き、パンチに体重を乗せ切れない課題を4戦目で克己した天心は、バンタム級リミットの118ポンドを無事にクリアして公式計量の秤から降りると、頬が殺げてボクサーらしくなった(?)顔に時折笑みを浮かべながら、初めての経験となる調整について「不安もあった」と率直に述べた。

また、キック時代を含めた10年に及ぶ競技生活を振り返り、26歳にしてさらに階級を下げて戦うことへの感慨も口にする。

井上拓真を見舞った大波乱を除けば、阿久井の苦闘(?)と矢吹の安定感という悲喜交々はあったにせよ、はた迷惑なカシメロの豪快なKO勝ちも込みで、概ね順当な推移と結果だとは思う。


フィリピンの若きホープとの触れ込みで来日したアシロは、2022年デビューの23歳。6歳からボクシングを始めた英才教育型で、キレとタイミングのいいワンツーを主武器に、左ジャブからセットアップする右構えのボクサーファイター。

直近の2試合でWBOの下部タイトルを2つ獲得済みだが、世界ランキングには入っていない(主要4団体ともすべてランク外)。

200戦余りのアマチュア経験を持ち、国内のトーナメントで2度の優勝も有るとの事だが、大会の詳細と階級や年度については不明。有名なPMI(プロジェクト・マネジメント・インスティチュート)のカレッジ(海上輸送や海上工学,海軍科学技術等々主に海運に特化)に通って、税関について学びながら戦う文武両道の優等生らしい。

ボクシングは至って正攻法。変則やラフ&タフとは無縁な、近代ボクシングのベーシックのみで構成する組み立てから、スピードの乗った強打を放つ。公称のタッパは168センチ(リーチ:不明)で、前回のロドリゲスに比べればサイズで見劣りする心配もなく、それなりにいい勝負が期待できそうだ。


とは言ってみたものの、直前のオッズは圧倒的な差が付いている。気を引き締める意味でも、老舗のウィリアム・ヒルが妥当な数値だと言っておこう。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
天心:-1600(約1.06倍)
アシロ:+800(9倍)

<2>betway
天心:-2500(1.04倍)
アシロ:+900(10倍)

<3>ウィリアム・ヒル
天心:1/10(1.1倍)
アシロ:11/2(6.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
天心:1/10(1.1倍)
アシロ:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)

◎ファイナル・プレッサー

※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=glqInkyyakA

◎公開練習(2024年10月2日)



天心がおかしな色気を出さず、デビューから2戦目までのように、出はいりと精度に徹底して注力すれば、放っていおいてもワンサイドの展開になってしまう。もっとも、本気で天心にこれをされたら、4人のバンタム級日本人チャンプでも、しっかり対応するのは難しい。

前戦の流れをそのまま崩さず、「宇宙系」の遊びは程々にして、危なげの無い試合運びで勝ち切ることが何よりも大事で最優先。できれば中盤までにフィニッシュして欲しい相手ではあるが、上り調子の活きの良さには一定の注意が必要。

5戦目での地域王座奪取は、もはや珍しくも何とも無くなってしまったけれど、早い出世であることに変わりはない。「倒せる天才児」よりも、今は「1発もかすらせない天才児」を見たいと思う。


◎那須川(26歳)/前日軽量:118ポンド(53.5キロ)
現在の世界ランキング:WBA・WBC:3位/WBO11位
戦績:4戦全勝(2KO)
キック通算:42戦全勝(28KO)
※各種のキック世界タイトルを総ナメ
身長:165センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーファイター


◎アシロ(23歳)/前日軽量:117.3ポンド(53.2キロ)
戦績:9戦全勝(4KO)
アマ戦績:200戦超(詳細不明)
※国内トーナメントで2度優勝(年度/階級等不明)
身長:168センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎フル映像(Day2)
https://www.youtube.com/watch?v=fUH8QvmidX0


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:染谷路朗(日/JBC)

副審:
エドワルド・リガス(比)
スラット・ソイカラチャン(タイ)
吉田和敏(日/JBC)

立会人(スーパーバイザー):レオン・パノンチーリョ(米・ハワイ州/WBO副会長/タイ在住)