”スペシャル・ワン”に挑む不屈の闘志 /世界タイトル7連戦の幕開けを飾れるか - S・ノンシンガ vs 矢吹正道 プレビュー -
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■10月12日/愛知県国際展示場,愛知県常滑市/IBF世界J・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 シヴェナティ・ノンシンガ(南ア) vs IBF2位 矢吹正道(日/LUSH緑)
王者 シヴェナティ・ノンシンガ(南ア) vs IBF2位 矢吹正道(日/LUSH緑)
「接近(ファイター)」 or 「待機・後退(ボクサー)」
勝敗のカギを握るのは、”スペシャル・ワン(Special One)”の異名を取る王者ノンシンガ(ノンチンガ)の戦術選択。
最軽量ゾーンにおいて、頭1つ2つ抜ける高いKO率を誇る強打者同士とは言え、遠来のチャンプは、退いて守る待機型を得意にする。10回を数えるKO勝ち(13勝)のうち、序盤の決着は4回。
デビュー戦(3回TKO/6回戦)から3戦目(3回KO/4回戦)までの3つと、その後は初回1分30秒足らずでし止めた7戦目になる(2戦目:2回TKO/4回戦)。
IBFのローカル・タイトルを足掛かりにして世界ランクに入り、クリスティアン・アラネタ(比)とのエリミネーター(IBF)以降、王座を獲得したエクトル・フローレス(メキシコ)との決定戦、V1のレジー・スガノブ(比)戦まで判定決着が3試合続いた。
そして、あのショッキングな王座転落。ランク11位の中堅メキシカンが放った”ボラード(右スウィング:オーバーハンド)”を直撃され、僅か2回で撃沈。
大方の前評判は、ノンシンガのKO防衛。想定を超えるタフネ&ラフで粘られ、判定まで行ったとしても中差以上の3-0は間違いないとの評価がもっぱら。舐めていた訳ではないと思うが、余裕を持ち過ぎた感は否めない。
今年2月にアウェイのメキシコで組まれたダイレクト・リマッチで、ノンシンガは自ら前に出て密着。頭をくっつけてインサイドの強打を応酬し合う、プロのインファイトを披露する。
地力の差が明らかだった為、中途半端に距離とタイミングを与えるよりは、この方が安全だと、チームを率いるコリン・ネイサンが考えたのかもしれない。南アフリカの黒人トップクラスは、例外なくディフェンスがしっかりしているが、打たれ強さに不安を抱えるケースが案外多く、「大丈夫なのか?」と心配したが、ノンシンガのフィジカルは思っていた以上に頑丈だった。
ノンシンガは実の父親から教えを受けた親子鷹だが、15歳でネイサンのジムに入門して以来、足掛け10年に渡ってコンビを組み戦ってきた。アマチュアでもそれなりにやっている筈だが、戦績と戦果は公表していない。
108~112ポンドでは大きい部類に入るが、率直に言ってパワーはアベレージ。スピードも驚くほどの水準ではないし、ボクシングは良くまとまっているが、絵に描いたような右構えの正攻法で、1発で持っていかれる怖さや、意表を突く即興的な変化などは心配無用。
矢吹自身が認めている打たれ脆さ、拳四朗との再戦とユーリ阿久井戦の瞬殺敗退を、チーフのネイサンがどう評価するのか。
「シヴェ(ノンシンガの愛称)が108ポンドのNo.1。挑戦者がいなくなったら、112ポンドに上げてケンシローとやるのもいい。」
王者の周囲からは、景気のいい呷り文句が聞こえて来る。
個人的にはくっついてくれた方が無難との印象で、いくらアベレージの決定力でも、長めの中間距離で右ストレートを打たせたくない。矢吹が自分から良く動いて、慎重に出はいりしつつも、シャープなジャブ&ワンツーを主体に先手で手数を出してペースメイクできれば、余り強そうには見えないボディを抉るタイミングも掴んで、「案ずるより産むが易し」になりそうな気もする。
直前の掛け率は、ややノンシンガ。もっと離れると思ったが、身銭を賭ける人たちの眼と嗅覚に、キレっキレのパンチと動きを見せた矢吹の公開スパーが、どの程度影響をしたのかしていないのか・・・。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ノンシンガ:-160(1.625倍)
矢吹:+138(2.38倍)
<2>betway
ノンシンガ:-163(約1.61倍)
矢吹:+138(2.38倍)
<3>ウィリアム・ヒル
ノンシンガ:4/7(約1.57倍)
矢吹:11/8(2.375倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
ノンシンガ:8/11(約1.73倍)
矢吹:6/4(2.5倍)
ドロー:18/1(19倍)
もう1つ気になるのは、敵陣を率いるネイサンの日本慣れ。
南アフリカを代表する名トレーナー,ニック・デュラントがバイク事故で突然この世を去った後、モルティ・ムザラネやヘッキー・バドラーなど、デュラントが見ていたチャンピオンクラスを引き受けたネイサンは、バドラー,ムザラネと2回づつ、田中恒成のS・フライ級3戦目の相手に選ばれたヤンガ・シッキポと、計5回の来日経験を持つ。
シッキポの時は、マス・スパーのパートナーとしてノンシンガも一緒だったらしい。近い将来の載冠を見越して、売り込みも兼ねての帯同だと思うが、ノンシンガに関する限り、ここまでは狙い通りの流れといったところか。
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※追加補筆
田中恒成(畑中)に挑戦するプメレレ・カフ もネイサンの選手で、亀田和毅と2度対戦したレラト・ドラミニ、日本国内ではないが、ニューヨークの殿堂MSG(5千人収容のシアター)で、尾川堅一(帝拳)とIBFの決定戦をやったアジンガ・フジレもネイサンが見ていた。
※亀田一家は原則追跡の対象外(昔に戻らない限り)にしている為、ドラミニは完全に頭の中から消えていた。失礼しました。
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<1>2018年5月20日/バドラー 12回判定(3-0) 田口良一(ワタナベ)
大田区総合体育館
WBA・IBF統一 L・フライ級タイトルマッチ(王座獲得)
オフィシャル・スコア:116-112×2,117-111
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<2>2019年5月19日/ムザラネ 12回判定(3-0) 黒田雅之(川崎新田)
後楽園ホール
IBFフライ級タイトルマッチ(V2)
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<3>2019年12月23日/ムザラネ 9回TKO 八重樫東(大橋)
横浜アリーナ
IBFフライ級タイトルマッチ(V3)
オフィシャル・スコア:77-75,78-74,76-76(2-0でムザラネ)
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<4>2022年12月11日/田中恒成(畑中) 10回判定(3-0) Y・シッキボ
武田テバ・オーシャン・アリーナ(名古屋市)
S・フライ級10回戦
オフィシャル・スコア:97-93×2,98-92
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<5>2023年9月18日/拳四朗 9回TKO バドラー
有明アリーナ
WBC L・フライ級タイトルマッチ(挑戦)
オフィシャル・スコア:79-73×2,80-72
アキレス腱断裂(昨年5月)の重症から立ち上がり、今年3月の復帰戦でWBOの元ランカー,ケヴィン・ヴィヴァス(ニカラグァ)に4回TKO勝ち。1年2ヶ月ぶりの実戦+111ポンドのフライ級契約ということもあり、仕上がりは今2つといった感じで、ちょっと重そうに見える。
右への体重を乗せ方も不充分で、攻守のいずれも(パンチ&動き)キメが粗く大きかったが、このレベルでボクシングが出来ていることにまずは一安心。ホっとした。
取材に訪れた畑山隆則が、目を丸くして驚くほどのキレ味と破壊力を惜しげもなく発揮した公開スパーの矢吹は、ヴィヴァス戦とはまったくの別人。拳四朗を崩した時と比べても遜色がない。
良過ぎる仕上がりが裏目に出るのもありがちなパターンだけに、立ち上がりの不用意な被弾によくよく注意をして欲しい。早い時間帯で潰してしまえと、クリエル第2戦のように密着してきたら、ストッピング・ジャブで間合いを外しながら、ススっと前後左右にステップを踏み、死角からショートのワンツーとアッパーをお見舞いする。
間違いなくノンシンガは退く筈なので、すかさず矢吹の方からくっついて左ボディと左右のアッパーをカチ上げ、速やかに安全圏に戻ってノンシンガを引き出す。そしてまた動いてコンビネーション。
この繰り返しの中で、右の脇腹が開いたら速攻で左ボディ。レバー目掛けてグサリとやる。大きな右は必要無し。拳四朗を攻略した時のような、顔面への左フックを見せておいての右,から下への左も当たるんじゃないかと、獲らぬタヌキの何とやら・・・。
好漢矢吹の復活を願う。
◎公開練習
<1>ノンシンガ
<2>矢吹
◎ノンシンガ(25歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
※当日計量:116.2ポンド(52.7キロ)/+8.8ポンド(+4キロ)
(IBF独自ルール:リミット+10ポンドのリバウンド制限をクリア)
IBF J・フライ級王者(第2期:V0/第1期:V1)
戦績:14戦13勝(10KO)1敗
アマ戦績;不明
身長:165センチ,リーチ:170センチ
血圧:129/61
脈拍:54/分
体温:36.2℃
※前日計量時の計測値
右ボクサーファイター
◎矢吹(32歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
※当日計量:117.3ポンド(53.2キロ)/+9.9ポンド(+4.5キロ)
(IBF独自ルール:リミット+10ポンドのリバウンド制限をクリア)
元WBC L・フライ級王者(V0),元日本L・フライ級王者(V1/返上)
2016年度西日本新人王(フライ級)
戦績:20戦16勝(15KO)4敗
アマ戦績:21戦16勝(9RSC・KO)5敗
三重県立四日市四郷高校→
身長:166.4センチ/リーチ:166センチ
血圧:130/53
脈拍:102/分
体温:35.8℃
※前日計量時の計測値
右ボクサーファイター
◎前日計量
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■オフィシャル
主審:マーク・カロイ(米/州)
副審:
アダム・ハイト(豪)
フィリップ・ホリデー(豪)
村瀬正一(日/JBC)
立会人(スーパーバイザー):ベン・ケイティ(豪/IBF Asia担当役員)
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■試合映像
◎ノンシンガ
<1>シヴェ 10回TKO A・クリエル 第2戦
2024年2月16日/オアハカ州(メキシコ)
IBF王座奪還(ダイレクト・リマッチ)
オフィシャル・スコア:
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=Ml6MO1NvUIM
<2> A・クリエル 2回KO シヴェ 第2戦
2023年11月4日/カジノ・ド・モンテカルロ(モナコ)
IBF王座防衛失敗
<3>シヴェ 判定12R(3-0) R・スガノブ
2023年7月2日/イースト・ロンドンICC(国際会議場/南ア)
IBF王座V1
オフィシャル・スコア:116-111×2,117-110
https://www.youtube.com/watch?v=41S5e3-bHkY
<4>シヴェ 判定12R(2-1) H・フローレス
2022年9月3日/
IBF J・フライ級王座決定戦/獲得
オフィシャル・スコア:116-111,114-113,112-115
https://www.youtube.com/watch?v=5wdF5IqkUWQ
<5>シヴェ 判定12R(3-0) C・アラネタ
2021年4月24日/ボードウォーク・カジノ・ポートエリザベス(南ア)
IBF挑戦者決定戦
オフィシャル・スコア:114-113×2,115-112
https://www.youtube.com/watch?v=Ou5to8yw04w
<6>シヴェ 5回KO イヴァン・ソリアーノ
2020年3月8日/オリエント・シアター(イースト・ロンドン/南ア)
IBFインターナショナル王座V2
オフィシャル・スコア:39-36×2,38-37
https://www.youtube.com/watch?v=x2Cn04jOL9k
I
◎矢吹
<1>矢吹 4回TKO ケヴィン・ヴィヴァス(ニカラグァ)
2024年3月16日/ポート・メッセ名古屋
111ポンド(50.3キロ)契約10回戦
https://www.youtube.com/watch?v=hUu5O7_KvbM
<2>拳四朗 3回KO 矢吹 第2戦
2022年3月19日/京都市体育館
WBC王座初防衛失敗
<3>矢吹 10回TKO 拳四朗 第1戦
2021年9月22日/京都市体育館
WBC L・フライ級王座獲得
オフィシャル・スコア:88-83,86-85,87-84(3-0で矢吹)
<4>矢吹 1回KO 佐藤剛(角海老)
2020年7月26日/あいおいホール(愛知県刈谷市)
日本L・フライ級王座決定戦/獲得(現地映像)
https://www.youtube.com/watch?v=_ZVD9zBla1Q
<5>ユーリ阿久井政悟(倉敷守安) 1回TKO 矢吹
2018年4月6日/サントピア岡山総社(岡山県総社市)
フライ級8回戦(現地映像)