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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Leo

快心の左フックで世界チャンピオンに返り咲き、2つ目の階級で息を吹き返したレオ。クラスNo.1と目され、7月までのリング誌階級別ランキングでも2位(1位はS・フェザー級初戦を待つリー・ウッド)に付けていたロペスに勝ち、8月末の更新で入れ替わりの2位に上昇はしたものの、絶対的な存在では有り得ない。

◎リング誌フェザー級ランキング(9月7日更新:8月31日更新時に同じ)
https://www.ringtv.com/ratings/?weightclass=283
C:空位
1位:リー・ウッド(英/元WBA王者)※
2位:アンジェロ・レオ(米/IBF王者)
3位:レイ・バルガス(メキシコ/WBC王者)
4位:ニック・ボール(英/WBA王者)
5位:ルイス・A・ロペス(メキシコ/前IBF王者)
6位:ラファエル・エスピノサ(メキシコ/WBO王者)
7位:ブランドン・フィゲロア(米/WBC暫定王者)
8位:レイモンド・フォード(米/前WBA王者)※
9位:ロベイシー・ラミレス(キューバ/前WBO王者)
10位:ジョシュ・ウォーリントン(英/元IBF王者)
※130ポンドへの転出を表明済みのウッドとフォードの名前が消えないのは、まだ新たな階級で戦っていない為。S・フェザー級での初陣を終えた時点で、リング誌のランキング・ボードはフェザー級での投票を止める。


チーフ・トレーナーとして今もコーナーを支え続ける実父ミゲル・レオによって、9歳の頃からボクシングを叩き込まれた親子鷹。父ミゲルが愛息アンジェロに託した当初の夢と希望は、サッカー選手としての成功だったという。

「El Chinito(中国系/小さい・幼い・可愛いのニュアンスを含む)」のニックネームは、父方の曽祖父が中国からの移民だったことに由来する。

アンジェロとミゲル:レオ親子

フットボールよりもボクシングに興味を示したアンジェロを、父ミゲルは地域のコミュニティ・センターへ連れて行き、そこで教えていたベテラン・コーチ,ルイス・チャベスにヘルプを依頼し、本格的な指導育成に取り掛かった。

77歳になるチャベスは、レオの一家と同じくメキシコ系の移民で、アルバカーキを代表するボクシング・ヒーロー,ジョニー・タピアと激しいライバル争いを繰り広げ、ホームタウンの人気を二分した”キッド・ダイナマイト”ことダニー・ロメロのチーム・メンバーだった他、キャリア最終盤のタピアを破ったフランキー・アーチュレッタやリー・モントーヤら、同地出身の有望株を鍛えた筋金入りのトレーナー。

レオにとっては、一般的に言われるトレーナー,セコンド(いつでも交代変更が可能なアシスタントやカットマン)ではなく、メンター的存在と表すべきだろう。


「世界チャンピオンになりたい。」

10歳になったばかりのアンジェロ少年に、「オリンピックのメダルとプロのチャンピオンベルト。欲しいのはどっちだい?」と優しく尋ねるチャベス。幼かったチニートは、キラキラと瞳を輝せて答えたという。

「ボクシングのプロとアマはまったく別の競技と考えるべきで、トレーニングの内容も自ずと変わる。だから私は最初に聞くんだ」と、チャベスは地元紙のインタビュー等で語っていた。

レオが実際に憧れていたアイドルは、ロベルト・デュラン,シュガー・レイ・レナード,マイケル・カルバハルにマルコ・アントニオ・バレラだったそうで、それでもレオはこの類の質問に対して、ダニー・ロメロを加えることをけっして忘れない。

team Leo
※チーム・レオ/左から:ルイス・チャベス/アンジェロ・レオ/ミゲル・レオ(実父/チーフ)/ジョナサン・バルゲイム(ベルゲイム,バルガメ,ベルガメ等々カナ表記は様々/アシスタント:MMA選手のコーチとして地元では有名らしい)


プロの世界王者を夢見て・・・とは言え、9~10歳の子供が上がるリングはアマチュアの幼年クラスに限られる。アメリカのアマは年齢(2歳ごと)ごとに細かくクラス分けされていて、それぞれの年齢クラスに合わせて専門の指導者が付くが、チャベスはアンジェロ少年を初めから「プロ仕様」で育てた。

ニューメキシコのローカル・トーナメントでまずまずの成績を残し、中学の卒業を機に父ミゲルの指示で、アルバカーキに比べて格段に軽量級の競技人口が豊富なカリフォルニアに移る。ロサンゼルスの高校に通いながら、シニアに進んでロンドン五輪出場を目指すも、全国規模のトーナメントで思ったように結果を残せず、2012年11月に18歳でプロデビュー。

代表チームに召集されなかったレオに大手プロモーションからのスカウトは無く、レストランでアルバイト(ホールや厨房の手伝い)をしながら、タピアと人生をともにしたテレサ夫人が代表を努めるタピアズ・プロモーションズ(Tapias Promotion)など、ニューメキシコのローカル・プロモーションが手掛ける興行で下積みを開始。

最初に下したチャベスの判断が適切だったのかどうか、この点は賛否色々あると思う。「アマチュアのスタイルで長くやり過ぎると、プロに進んだ後で苦労する」と考えるトレーナーは、王国アメリカでも案外少なくない。

ルールを含むプロとアマの競技実態の乖離が拡大し出すのは、ヘッドギアの着用が義務付けられた1984年のロサンゼルス大会(旧ソ連・共産圏諸国がボイコット:モスクワ五輪の報復措置)だった。

この大会を頂点にして、五輪と世界選手権でアメリカは急速に勝てなくなって行くが、体格と身体能力に恵まれた優秀な黒人の若者が4大スポーツや陸上などのメジャースポーツを目指せるようになり、基本的な人材不足,人材の枯渇が最大にして根源的な原因(特に重量級)ではある。

競技人口に占める優れた素質の現象に加えて、階級に関係なく最終的な目標をプロでの(経済的)成功に置く、米国に特に顕著な背景と風土の影響も無視できない。年を追うごとに苦しくなる状況にあってなお、まだまだ選手層が厚い中量級に比べて、もともと黒人と白人が少ない軽量級は、メキシコとプエルトリコを中心にしたヒスパニック系移民が選手の供給源として定着。

ヘビー級と中量級のスケールに遥か遠く及ばないのはしようがないにしても、アメリカン・ドリームへの欲求は常に高く、アマの国際ルールに特化したスタイルと指導に取り組むコーチと選手は、ロシアとキューバの2トップを頂く旧共産圏と欧州に比べれば、その割合(数)は限定的(少数派)と言わざるを得ない。

長い歴史と伝統を誇るナショナル・ゴールデン・グローブスと全米選手権(旧AAUトーナメント)、ナショナルPALの米国内3大トーナメントでの実績があれば、五輪と世界選手権に出られなくても、大きなプロモーションから好条件のスカウトが望める。

プロの世界王者を目指して練習を続けて、運良く代表チーム入りが叶い、大きな国際大会に派遣されて勝ち上がれなくても仕方がないと割り切れてしまう。


デビュー後に連勝を続けて、有力プロモーションの目に止まる場合も勿論あって、レオにもチャンスが訪れた。2016年の1年間、ルーツのメキシコ国内で3連勝(全KO)を飾った後、1年超のブランク期間中にメイウェザー・プロモーションズと正式に契約。

フロイド・メイウェザーとレオ

ただし、アマチュアで目立った戦果を持たないレオに、中継(配信)の枠に入るカードはそう簡単に用意されない。メイウェザー一家のジムがあるラスベガスに移らず、アルバカーキを拠点にし続けたことも、まったく影響が無かったとは言えないだろう。

2017年11月の6回戦から2019年5月の初10回戦まで、中継に含まれない完全な前座で7試合をこなすと、六島ジムと契約して2012年~18年まで日本で戦ったマーク・ジョン・ヤップ(比/元OPBFバンタム級王者)戦が、ようやくメイウェザー・プロモーションズの公式facebookで配信された(他にも2~3試合を同プロモーションの公式youtube等で不定期に配信)。

一般のローカル・ボクサーや海外から移住してきた無名選手と同じプロセスを経て、ヤップ戦から3ヶ月後の更新でWBOランキング入り(9月度月例:14位)。

続く10月の月例で、スティーブン・フルトンが8位に登場。3~7位の5人をすっ飛ばして、2位に上昇したアーノルド・ケガイ(ウクライナ)とのエリミネーターが用意される運びになった。

参戦8試合目にして、レオはようやくPBC(Premier Boxing Champions)の中継枠に入る。2度の世界挑戦経験を持つセサール・ファレスを11回TKOに下し、NABO(WBO直轄の北米王座)のベルトを獲得。この勝利により、翌2020年1月の月例でWBO1位に大躍進。

近い将来の王者と見込まれるホープに課せられた、正真正銘タフなテストマッチ。本場のリングでは(本来なら日本でもどの国でも)、避けて通る事のできないプロとしての通過儀礼であり、この関所を突破せずして次のステージは有り得ない。

◎試合映像:レオ TKO11R C・ファレス
2019年12月28日/ステート・ファーム・アリーナ(ジョージア州アトランタ)
オフィシャル・スコア:99-89,97-91,96-92
北米(NABO/WBO)J・フェザー級王座決定12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=zGfZbkJSQYo


ところが、1月25日にブルックリンの新名所バークレイズ・センター(N.Y.)でフルトンがケガイに圧勝(大差の3-0判定)。2月の月例更新に合わせて、指名挑戦権を獲得したフルトンが1位になり、レオは2位に後退する。

そしてパンデミックの急拡大に伴い、WBOは2020年3月~7月までランキングの更新を停止。武漢ウィルス禍による最大の被害国となったアメリカは、それでも州の独立性を重んじる国家体制は不変。経済の停滞に対する許容の度合いは、州ごとに対応がバラつく。禁忌とされた音楽とスポーツイベントも、無観客での開催を減速にしながらも、一定数の客を入れた開催を許可する州もあった。

厳しい制限下にあってなお、ボクシング興行にも少しづつ動きが出始め、WBOがフルトンとレオに承認済みの王座決定戦(S・フェザーへの階級アップを理由にエマニュエル・ナバレッテが放棄)が、自粛明けのPBC興行第1弾に組み込まれる。

ところが、本番直前のPCR検査でフルトンがCovid-19の陽性が判明。開催地コネチカット州出身のアマ・エリート,トラメイン・ウィリアムズ(19勝6KO1NC/アマ通算:97勝10敗)が急遽代役に呼ばれることに。


プロ入りに際してトップランクと5年の長期契約を結んだ小柄な黒人サウスポー(公称163センチ)は、2014年1月23日に参戦を予定していたMSG興行の2日前に、武装強盗に加わった疑いで逮捕収監され、無実を訴え続けたが有罪が確定。2年半の実刑に処された。

幼少期から指導を受けたコーチ、ブライアン・クラークら周囲の尽力とウィリアムズ本人の努力により、1年に短縮された刑期を終えて仮釈放されると、Jay-Z(著名なラッパー,音楽プロデューサー/ビヨンセのパートナー)が出資した新興プロモーション,ロック・ネイション・スポーツの傘下に迎えられ、キャリアをリスタート。

カリフォルニアの元プロスペクト.クリストファー・マーティン、大ベテランのメキシカン,へルマン・マレス、L・フライ級の元WBA暫定王者で、井岡一翔やミラン・メリンドと対戦した他、階級を上げてジェルウィン・アンカハスに挑戦したり、アストン・パリクテにも敗れたホセ・ロドリゲス(メキシコ)、ドミニカのローカル・トップ,イェニフェル・ビセンテらを破って復調。千載一遇のチャンスを得た。


ナバレッテの後継王者と目されていたのは無論フルトンで、2位のレオと6位のピンチヒッターへの期待値は正直なところ低かったが、サイズで上回るレオのプレスが利いて、待機型で駆け引き重視のウィリアムズに大差の3-0判定勝ち。宿願だった世界タイトルに辿り着く。

◎試合映像:レオ 判定12R(3-0) T・ウィリアムズ
2020年8月1日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)
オフィシャル・スコア:118-110×2,117-111×1
WBO世界J・フェザー級王座決定12回戦

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=LEsN9diP8l8

ウィリアムズも地元ファンの声援を背に良く頑張ったが、「マイティ・ミゼット(The Mighty Midget)」の二つ名を、この時ほど重く辛く感じたことは無かったのではないか。その後もフェザーに留まっていたが、昨年4月の復帰2戦目で、オクラホマの黒人ホープ,イライジャ・ピアース(27歳/20勝16KO2敗)に10回0-3判定負け。

公称173センチのピアースはやはり大きく、レオ戦よりもさらに体格差が際立つ。ウィリアムズは二回りぐらい小さくて、身体負けが顕著だった。ただ、ピアースにも「おおっ!」と思わず感嘆せずにいられないパンチや手足の速さ,身のこなしなど、強く人目を惹き付ける特徴は見当たらず、地域王座の突破に四苦八苦するローカル・トップが精一杯か(失礼)。

世界に打って出ようというボクサーなら、ローカルレベルにおけるこの程度の体格差は、さほど苦労せずに克服しないと先はどんどん細り厳しくなる一方。日本がベルトを独占(あくまで今のところ)するバンタムに下げても、4強+1(天心)の攻略は極めて難しい。

115ポンドのS・フライ級まで絞ってコンディションの維持が可能なら、かなりの明るさで雲間から光明が射すと思う。それでもなお、黒い雲は完全に胡散無償しないだろう。

ピアース戦以降実戦から遠ざかっていたが、「Team Combat League(TCL:チーム・コンバット・リーグ)」という、全米各州コミッションが未承認(非公認)のボクシング興行に参戦。米本土でDaznの配信リストに載っているだけでなく、日本国内でも物好きなAbemaが食い付いているが、コミッション非公認の草興行であることに変わりはない。

そして、レコードブックに掲載されることのない戦いを選択したウィリアムズの身に、不測の事態が発生してしまった。この一件については、別記事にて後日あらためて触れる予定。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
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◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331