KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 3 -
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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)
ボクサーとして致命的とも思える事実が判明してもなお、早々に復帰宣言済みのロペス。半年後(来年の早春)に予定される再検診の結果(主治医の所見)次第にはなるが、今後の展望はやはり不透明と言わざるを得ない。
最初の章で指摘した通り、ライセンス許可に関わる健康面の問題ではなく(MRIをクリアすればメキシコ国内での再起は既に認められたも同然)、純粋にロペスのマネージメントに起因するもので、2人いる共同マネージャーの1人、エクトル・フェルナンデスが否定的な見解を示している。
「大概のプロモーターは、レコードに大きなキズが付いたボクサーを使いたがらない。仕方のないことだが、(ファンの)誰もが完璧な戦績を求め、完璧なファイターを望む。」
「まずは、半年待ってMRIの再検査を受けること。担当の医師がOKするまで、彼をリングに上げることは無い。どんなオファーが来ても断るつもりだと、彼とチームには伝えてある。」
「経済的な問題は重要だが、命には代えられない。我々(マネージャーとチーフ・トレーナー)は、預かっているボクサーのキャリアを進めるのと同時に、彼らを命の危険から守る義務も負っている。」
「負ける覚悟なら出来ている。毎度のことだ。でも、今度の事は余りに酷過ぎる。本当に受け入れ難い。それが誰だろうと、こんなことがあってはならない。」
※ロペスとエクトル・フェルナンデス・デ・コルドバ(共同マネージャー)
※左から:ロペス/ルイス・ネリー/”キキ”の愛称で呼ばれるルイス・エンリケ・マガーニャ(共同マネージャー)
激しいフィジカルの接触が不可避なコンタクト・スポーツは、たった一度のアクシデントによって、競技人生を根こそぎ奪われるリスクを常に孕んでいる。その危険性と発生の確率等々、科学と医学の進歩に合わせて、終わりのないルールの整備と改訂は続く。
レフェリングやコーチングは勿論のこと、日々のトレーニング・メニューから用具の1つ1つに至るまで、新しい技術や理論も採り入れながら、日夜改善への努力も継続されるけれど、それでも事故を根絶することはできない。
中でも恐ろしいのは、首(頚椎)と腰(脊髄)へのダメージであり、膝や足首などの関節に関わる部分の故障だが、人間の急所(頭部と上半身の前面)を直接殴打し合うボクシングは、脳と眼に取り返しのつかない損傷を負う可能性を前提に戦うという点で突出している。
顕著な障害を伴う重大事故に遭わずに済んでも、引退後に言語障害や眼疾を発症したり、運動機能に支障をきたすなど、現役時代に蓄積したダメージが後になって顕在化する場合も珍しくない。
幸運にも軽い程度で済み、日常生活に支障をきたしていない今だからこそ、現役に見切りを着けるべきとの忠告は傾聴に値するが、「辞めたくても辞められない。それがボクシングの一番の恐ろしさ」だと、2度の世界大戦に見舞われた大昔から、連綿と言われ続けてきた。
古くなって傷んだ各地にあるモスクの修復と、建て替え・新設をライフワークの1つにしていたモハメッド・アリは、資金を得る為に周囲の制止を振り切って無謀な復帰戦を行い、宿痾となったパーキンソン病を悪化させ、四肢と言葉の自由を失ってしまう。
アリは40年近く病魔と闘いながら、事情が許す限り公の場にも姿を見せて、多くの人々に笑顔と安息を与え続けたが、2016年6月3日に入院していたアリゾナ州内の病院で天に召された。
今や世界有数のトレーナーとして知られるフレディ・ローチも、選手としてキャリアの最晩年を迎えたある時期、強固に引退を主張して譲らない恩師エディ・ファッチの下を去る。他のトレーナーと契約して現役を続け、アリほど症状は深刻ではないが、同じ病に悩み苦しむ運命を背負うことに。
「エディの忠告通りすぐに辞めていたら、こうはならずに済んだかもと思うことはある。自分はまだやれると信じていたから、どうしても素直になれなかった。あの時辞めていても、結局は同じ事になったかもしれないが、エディと別れた後にやった4~5試合は、きっと余計だったんだろう。」
開頭手術を受けたことが判明しただけでなく、致命的な敗北を喫したにも拘らず、その後も現役を続けてチャンスを得られ続けたマルコ・アントニオ・バレラのようには行かないかもしれないが、今回のKO負けによって、ロペスの商品価値が完全に消失した訳ではない。
ネバダかカリフォルニア、もしくはテキサスでライセンスが認められれば、トップランクはこれまで通りロペスを興行に呼ぶだろう。そして内容と結果が思わしくないと判断されても、同じか近い階級にいる子飼いのプロスペクトの踏み台としての用途は残る。
そこでドヘニーのように一定の成果を上げれば、一発逆転の目がゼロではないけれど、大体はボロボロにされてジ・エンド。骨の髄までプロモーターにしゃぶり尽くされて、ようやくお払い箱。
カス・ダマトがドン・キングを蛇蝎のごとく忌み嫌い、ボブ・アラムを「北半球で最もダーティな男」と口を極めて罵り、「ワシの目が黒いうちは、大切なマイク(タイソン)をヤツらのいいようには絶対にさせない」と、天下の2大プロモーターを忌避し続けた気持ちもわからなくはない。
だが、政治力と資金力を併せ持つ興行師が、プロボクシングの世界にどうしても必要な存在であることも現実。複数年に渡る独占的な専属契約を結ぶかどうかは、1歩間違えれば飼い殺しにされるリスクを天秤にかけた上で、冷静な観察と熟慮が必須になる。
それでもなお、腕と目が利いて交渉力があり、多くの人たちと協調しながら、目的達成の為にハードワークを厭わないプロモーターのバックアップは、ボクサーが持てる才能に相応しい環境と運を引き寄せる為に、信頼できるチーフ・トレーナー(チーム・リーダー)とともに欠かすことができない。
凄絶なノックアウトで丸腰にされ、脳出血が判明したロペスに対して、「お前はもう用無しだ。五体満足でいられるうちに辞めるのが賢明」なのだと、冷たく三行半を突き付きけたのではなく、プロボクシングの裏も表も総てをひっくるめてた、ベテラン・マネージャーの換言なのだと受け止めておきたい。
※チーム・ロペス/左から:アルマンド・バレンスエラ(共同トレーナー)/ロペス/ラファエル・ロハス・エレラ(フィジカル・コーチ)/ファン・ベタンコート(共同トレーナー)
※今回ヘッドの重責を任されていたのはベタンコートではなくバレンスエラ
ESPN(スペイン語による配信)のインタビューを受けた際、「(予期せぬ結果に)さそがし驚いたのではいか?」と聞かれ、フェルナンデスは次の通り答えたという。
「ボクシングや格闘技のバックボーンを一切持たず、ストリート・ファイトの経験しか無いサッカーに熱中するだけの青年が、二十歳を過ぎてからジムに通い出してプロになり、誰も想像すらしなかった世界チャンピオンになって3度もベルトを防衛した。こちらの方が、私に取っては遥かに大きな驚きだよ。」
「既にヴェナードがやり遂げた成功は、それ自体が奇跡的と称されるべきだ。」
イタリア系の売れない一俳優に過ぎなかったシルヴェスター・スタローンがインスピレーションを受け、大ヒットを飛ばして人生を一変させた映画「ロッキー」のモチーフにした、チャック・ウェプナーとタメを張れるぐらいのサクセス・ストーリー。フェルナンデスが言いたかったのは、多分そうした類の逸話に違いない。
だから「もう充分じゃないか」と、そちらの方向に誘導するつもりでは無いと思うけれど、検査結果を聞いたフェルナンデスが受けた衝撃は、それほど重く厳しいものだった。
そしてマネージャーのフェルナンデスは、アシスタントの1人として自らも必ずコーナーに入る。おそらく毎試合、欠かさしていないと思う。
カウントアウトの直後、ノンビリ歩きながら問診に向かうドクターと役員と思しきスーツ姿の男性2名が、ダメージの深いロペスが誰の力も借りずに1人で立ち上がり(!)、彼らが持参した椅子に自力で座るのを待つ(!!)その脇を疾風のごとく駆け寄って、前のめりに再び倒れそうになったロペスの身体を大急ぎで抱えていたのもフェルナンデスだった。
レフェリーのアーニー・シェリフだけでなく、ニューメキシコの試合運営の酷さとリングドクターの非常識には驚き呆れるばかり。ロペスは是が非でもレオにリベンジしたいだろうが、来春希望通りに再起が叶い、米国内でライセンスを認可されても、二度とニューメキシコ州内で戦うべきではない。
レオ陣営がアウェイでやる訳がない?。どうだろう。ロペスの再起について可否が判明する頃、IBFのチャンピオンが交代している確率は結構高いと思うのだが・・・?。
※ケイ・コロマ(シャクール・スティーブンソンのチーフ・トレーナー)とロペス
ロペスのチームは非常に大所帯で、マネージャーとヘッド格のトレーナーがそれぞれ2人づついて、さらに数名のアシスタントが常に帯同してトレーニングを行う。
普段は地元メヒカリにある老舗ジム(Gimnasio Polideportivo/ヒムナシオ・ポリデポルティーヴォ:総合型のスポーツ・センター)で日常的なジムワークを行っているが、2023年5月のマイケル・コンラン戦に備えて、シャクールやジャレット・ハード,ミカエラ・メイヤー(最近離反した)らのコーナーを歴任し、長くアマチュアの米国ナショナル・チームをサポートしてきたケイ・コロマの指導も仰ぐようになった。
ただし、コロマの本拠地があるヴァージニア州アレキサンドリアではなく、米国アマチュア・ボクシング界の重鎮,老匠ケニー・アダムスが今も教えるラスベガスのDLXジム(DLX Boxing)を間借りして、追い込みのトレーニング・キャンプを行う。
何かと話題になることが多いアンヘル・メモ・エレディア(メモ・エルナンデス:バルコ・スキャンダルで大物アスリートの禁止薬物使用を証言したPEDのオーソリティ)のフィジカル・トレーニングも受けたと報じられている。
メモ・エレディア(エルナンデス)は一連のスキャンダルで明らかになったドーピング違反を主導した1人として、張本人のビクター・コンテらとともに逮捕収監されたが、司法取引に応じて刑期を大幅に短縮された。米本土での活動を禁止され、釈放後は母国メキシコに戻り、ボクサーや総合格闘技のプロ選手を対にフィジカル&ストレングスのトレーナーとして成功。
打倒パッキャオに異常な執念を燃やし、ウェルター級に本格参戦したファン・M・マルケスの驚異的な肉体改造を実現した他、カネロのチームとも深い親交を結ぶ。どうやら米国での仕事も可能になっているようだが、ライセンス申請を行った州と時期などは不明。
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■群雄割拠ならぬ本命不在・・・フェザー級戦線の現在(いま)
昨年12月9日、フロリダでロベイシー・ラミレスが、破格のサイズ(185センチ)を誇る痩身の巨人ラファエル・エスピノサに、逆転のダウンを奪われ大番狂わせの判定負け。高齢を押して来日を繰り返している御大アラムだけでなく、「あれなら(問題なく)勝てるよな」と大いに乗り気な様子を見せた大橋会長が、井上尚弥との激突を匂わせていた矢先の出来事に、「126ポンドのラス・ボス敗れる」的な喧伝を、自らのyoutubeチャンネルで行う国内ボクシング関係者もいた。
続いて今年の3月2日、体重苦を理由にベルトを返上したリー・ウッド(英)の後継王者を決めるエリミネーターが、N.Y.州ヴェローナのインディアン・カジノで行われ、デリク・ゲイナー(フレディ・ノーウッドからWBA王座を奪取/ファン・M・マルケスに譲る)を最後に、この階級には絶えて久しい黒人スピードスター候補として注目を集めるレイモンド・フォードが、ウズベク出身の万能型オタベク・ホルマトフとのサウスポー対決に挑み、最終12ラウンド残り10秒のTKO勝ち。
11ラウンドまでのスコアは、2-1(106-103×2,104-105)でホルマトフを支持。複数回のカウンターを効かされたホルマトフが、ノックダウンの大ピンチをフォードに抱きついてしのぎ、振り回されての転倒をスリップ裁定に救われながら、反撃にこだわり過ぎて最後の最後でまたカウンターを浴び、背中を向けて走り出してニュートラルコーナーに詰まり、逃げ場を失ったところでレフェリー・ストップ。
クリンチ&ホールドで時間を使わず、堂々と打ち合って勝とうとしたプライドと心意気は当然買うけれど、あと10秒・・・を考えると、瞬断的に使う数回程度のホールディングなら、問題なく許容されたのではとも思う。
物凄く簡単にまとめてしまえば、スコアリングに対するコーナーの”読み”も含めた「プロの実戦経験不足(13戦目)」に集約されてしまうが、無理に打ち合って墓穴を掘るケアレス・ミスは、フォード(17戦目)にもまったく同じ事が言える。
2016年のユース世界選手権(サンクトペテルブルグ/ロシア)で、フライ級の銅メダルを獲得したホルマトフは、同じ年のアジアユース選手権(パヴロダル/カザフスタン)でもL・フライ級に出場して銀メダルを獲り、ジュニア&ユース限定ながら国内選手権も制したトップ・アマ出身組み。
フォード戦を前にトップランクとの正式契約もリリースされ、ロベイシー・ラミレスとのエリート対決(WBOとWBAの2団体統一戦)が既定の路線となっていた。
ホルマトフを劇的なTKOに下したフォードには、「126ポンドのNo.1」に推す声が上がるなど期待値がさらに上昇するも、本人とチームが「ウェイトの維持が困難」だと、決定戦の前から階級アップに言及。
すぐにでも返上を表明するのかと思いきや、傘下に入っているマッチルームUSAのオファーに応じて、6月1日のリヤド興行に参戦。マッチルーム本体が強力にバックアップするイングランドの小型攻めダルマ,ニック・ボール(英)の突貫アタックに苦しみ、1-2のスプリット・ディシジョン(113-115×2,115-113×1)を失い王座転落。
フォードの勝利を信じるファンの間で、スコアリングに対する不満と批判も聞かれたが、足を止めてボールの土俵で勝負に応じる戦術選択のミスは相変わらず。過度な減量が祟って足が動かず、他にやりようがなかったのかもしれないが、この人が持つ速さの本領は、ゲイナーのようにフットワークも込みのスピードではなく、瞬時に小さく鋭く動く反応(シャープネス&クィックネス)に限定されるようだ。
「勝敗に関係なくこれがフェザー級のラストマッチになる」との意思をあらためて示したフォードは、ウッドの後追いでS・フェザー級への転出を決めた模様。
こうして「クラス最強」のお鉢が回ってきたロペスも、122ポンドでフルトンに完敗したレオに、圧巻のワンパンチ・フィニッシュを許しKO負け。
「フェザー級は違う。強い王者が次から次へと負けて行く。井上は自身が述べている通り、S・バンタムに止まった方がいい・・・」
とまあ、そんな声がチラホラ聞こえてくる。詳しくは章をあらためて述べるが、私はまったくそうは思わない。井上とクロフォード、パンデミックに襲われる以前のGGGように、誰もが納得せざるを得ない絶対的な強さを持つ大本命がいない。日替わりで4番打者が入れ替わる、プロ野球の猫の目打線のような状態だと考えている。
そうした意味において、井上尚弥が本当にフェザー級を目指すのであれば、加齢による衰え(反応と回復力の低下=特に膝と足首など下半身の故障が怖い)を考慮しても、むしろ急いだ方がいいのでは。小さいとは言い難い課題も、見え隠れはするが・・・。
レイ・バルガス(WBC)とディヴィーノ・エスピノサ、ようやく再起戦が決まったフルトンらを含めた詳細は、次章以降にて。
※Part 4へ
◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター
◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター
◎前日計量
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA
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■オフィシャル
主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)
副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)
立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)
■オフィシャル・スコアカード
※清書
※管理人KEI:85-86でレオ
◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)
■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)
■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)
※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331