KO負けのヴェナードが脳出血 /レフェリングの是非について批判も・・・本人は再起を明言 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 2 -
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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)
A CHAMP AGAIN ??
— Top Rank Boxing (@trboxing) August 11, 2024
Angelo Leo delivers a EARTH SHATTERING KO to conquer a belt in his second division. pic.twitter.com/QuXeKfYTZZ
”大”の一字を付けて然るべきとまでは言わないが、番狂わせと呼んでいいだろう。フェザー級最強ともっぱらのチャンプに、アンダードッグとして挑んだ地元のチャレンジャーは、実に上手く戦って勝利を引き寄せた。
阿部麗也との前戦(3月2日/N.Y.州ヴェローナ)に触れた際、ロペスに対して「過大評価」だと辛口の見解を述べたし、戦前のオッズほど両者の力量に差はないと思ってはいたけれど、立ち上がりのレオは、想定し得る中でも最高最良の滑り出しだったのではないか。
丁寧に後退のステップを踏んで距離のキープに努め、ラフに攻め続けるロペスのガードの隙を、スピードに注力した軽めのコンビネーションでしっかり叩き、機を見て強めのパンチも入れて行く。
打ち終わりの処理(頭と足の位置)に気を抜かず、パワーも抑え気味にして、いい当たり方をしても深追いはしない。打ち気に逸るロペスが出てきたら下がり、出て来ないと見たらすかさず前に出て先に打つ。
レオも充分に好戦的なタイプだけに、打ち合えると考えていたに違いないロペスは、思惑が外れた格好。少し拍子抜けした様子も伺えたが、レオの出入(はい)りに手を焼き、思うように狙ったパンチが当たらない。そして手数はともかく、命中率はかなりの差を付けられ後手を踏む。
自信を持ったチャレンジャーは、前半の終わり~中盤にかけて、自から接近してインファイトも混ぜ始めたが、一度狂ったロペスの感覚は容易に通常運転モードに戻らず、得意なクロスレンジでも五分に近い展開を許してしまう。
◎主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
L・A・ロペス:-450(約1.22倍)
レオ:+350(4.5倍)
<2>betway
L・A・ロペス:-500(1.2倍)
レオ:+350(4.5倍)
<3>ウィリアム・ヒル
L・A・ロペス:2/9(約1.22倍)
レオ:10/3(約4.33倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
L・A・ロペス:1/4(1.25倍)
レオ:15/4(4.75倍)
ドロー:20/1(21倍)
それでも距離が近づくと、数は限定的でもロペスもパンチを当ててくる。パワーショットの見映えの良さで、ラウンドを取られたら取り返す。レオのステップを速やかに追い切れずとも、しぶとく食い下がって無理やりにでも自分の時間帯を作り、簡単に流れを譲らない。持って行かせない。
「手数&プレッシャーのロペス vs 精度+守りのレオ」
まずは打撃戦を回避して、ロペスに追わせる。もともと粗い攻防のキメが、攻め急ぎで一層雑になり、ルーズガードもよりルーズさを増す。そこを抜け目なく突き、先手で動き続けてロペスのリズムとテンポを乱す。
作戦が図に当たった挑戦者陣営に対して、王者陣営は前進あるのみ。少々打たれても気にせず圧力をかけ続け、強打を振るい続ける。ジャブと崩しの省略もいつも通り。焦りがまったく無い訳ではないが、「そのうち崩れる。問題は無い」との認識&自信を揺るがせにしない。
中盤に入ると、強打の交換が増える。ロペスの時間帯だ。挑戦者陣営はそれも折りこみ済みで、好調なスタートの裏付けとなったステップアウトへの回帰を忘れず、しかし勇気を奮うステップインも繰り返して、力で押し返すリスクと労を惜しまず奮闘する。
両雄ともに疲れが顕在化し出す。拡大する打ち終わりの隙を狙ってパンチを放つ。打ちつ打たれつの鬩ぎ合いは、本来王者の土俵。こうなると、ロペスのしつこさが活きる。拮抗した攻防のそこかしこに、ようやく”らしさ”が出て勢いづくロペス。
レオも引き下がらない。苦しく厳しい状況は覚悟の上とばかりに、強打に強打で対抗もしながら、適時後退のステップを踏んで間合いを外し、態勢を立て直しては攻勢に出る。
第7ラウンドの1分を過ぎる辺り、ロペスがローブローをアピールして、主審シェリフがこれを受けつけずに流す場面があった。インターバルに入ってすぐにスロー再生が流れて、確かにベルトラインの下に着弾していたが、いい時のロペスなら気にしていなかった筈。それだけ王者も苦しい。
中盤で持ち直したロペスだが、第9ラウンドにまたもやレオの逆襲に遭う。2人とも疲労が隠せなくなり、くっついて揉み合う回数が増える。レオも相当にキツくなってきているが、それでもまた動けてはいて、どちらかと言えばロペスの方が鈍ったとの印象。
そうした中、何度目かのブレイク直後、右方向に上体を傾けながら、ロペスが右アッパーを連射。ダックしながらのカバーリングで1発目を防いだレオが、低い態勢から右を振り上げ、そのまま被せるように落とす。
丁度2発目の右アッパーを放ったロペスの顎に、斜め上からドンピシャのタイミングでクロスカウンターになった。そしてこのパンチを食いながらも、ロペスは返しの左フックを打っていて、レオの顔面をかすめるように振り下ろされている。
これでも倒れないのだから、やはりロペスは打たれ強い。頑丈過ぎるフィジカルは、マルケス兄弟やオスカー・ラリオスらと共通するメキシカン特有のストロング・ポイントなのだが、そうであるが故に「被弾に対する無頓着」というウィークネスと表裏一体。諸刃の剣と理解すべき。
たまたまニュートラル・コーナーに近いところにいたお陰で、そのままコーナーを背負ったロペスが追って来るレオを抱き込んで退避。冷静に危機を脱したと言うより、脚が止まっていたことがプラスに作用した。
この僅かな休息の間に呼吸を整え、回復を図るロペス。再開の合図を待って自分から攻める。余裕が無い中でも、密着しながら手を出して劣勢をやりくりする。プロの第一線は、やはり大したものだと素直にそう思う。
1分半ほど時間が残っていたが、鈍りながらも攻勢を取り続けるロペスを、レオはまた後退のステップでかわす。まだまだロペスのパンチは生きていて、強引に詰めようとはせず、再セットアップを選んだことが吉と出る。
こうして迎えた運命の第10ラウンド。展開は同じ。密着した状態で空いているところをコツコツ打ち合い、ブレイクを挟んでまた繰り返す・・・と言えば聞こえはいいが、ペンシルベニアの主審が何をやっても基本ノーチェックなのをいいことに、レオが確信犯のローブローを数発とラビットパンチを1発見舞う。
ここはロペスも黙って辛抱したが、さらに複数回同様のやり取りがあり、レオが振りを大きくして2発目のラビットパンチ。これはやり過ぎだと、ロペスが視線と声で直接主審に反則をアピールする。
流石に割って入り、レオに一言二言注意を与えていたが、この場面でも「このレフェリー、本当にダメだな・・・」とあらためて呆れた。レオはロペスに視線を向けたまま、レフェリーを見てさえいない。無視しているに等しく、注意などまともに聞いていなかった筈だ。
何なら1発減点でも構わない状況だが、こういう場合、真面目に仕事を遂行するレフェリーなら、タイムキーパーに時計を止めるよう念入りに指示を出し、その上で多少の怒気を含めて厳しく注意をやり直す。「今度やったら減点するぞ。それでも止めないなら失格(反則負け)だ。いいな!」という具合に。
レオとロペスは言うに及ばず、おそらく両陣営のチーフとスタッフからも、このレフェリーは信用されていなかったと確信する。そもそも、世界戦の看板に恥じないプロの仕事をやる気,使命感が感じられない。型通りに”こなす”だけじゃないかと。
だからレオも、平然と無視している。ロペスに意識を集中していたからだと、好意的に捉えればそうも言えるけれども。そしてこのレフェリーは、無視されているとわかっていながらそのまま流す。救いようがない。
チャンピオンの矜持をけっして捨てないロペスだから良かったけれど、これがもしメイウェザーやホプキンスなら大変だ。下腹部や後頭部を押さえて大袈裟に痛がり、まずは減点を貰いに行く。
挙句うずくまって再開に応じず、ゴネにゴネまくって、あわゆくば反則勝ちを拾おうとするだろうし、メイウェザーのコーナーに亡くなったロジャーがいたら、周囲の制止を振り切ってリングに雪崩れ込み、ザブ・ジュダー戦さながらの乱闘騒ぎになりかねない。
フロイド・シニアは流石にそこまで愚かではないから、5分の休憩で再開になった後、メイウェザー自身が同じ行為をやり返す。あるいは、ビクター・オルティズ戦の再現。とにもかくにも、世界最高峰の頂きに立つ男にあるまじき蛮行。荒れ模様は不可避だ。
二度とこのレフェリーを、タイトルマッチのリングに上げてはならない。世界戦だけじゃなく、ローカル王座戦もである。
唐突にして衝撃的な幕切れは、このすぐ後だった。前に出るロペスの間合いを後退で外し、自分からくっついては離れるレオ。速いジャブを連射しながらまたくっつく。そして、レフェリーが分けた次の瞬間、棒立ちのロペスが無造作にジャブを出すのと同時に、狙い済ました左フックが炸裂!。
LOOK AT THIS BRUTAL KO BY ANGELO LEO ONE MORE TIME ?? pic.twitter.com/aPy9PW697g
— Top Rank Boxing (@trboxing) August 11, 2024
ESPNの実況が「ロペスは根本的なミスを冒した(fundament mistake)」と解説していたように、最近は滅多に聞かないし言わなくもなったけれど、典型的な「テレフォン・パンチ」である。
真正面からノシノシと歩いてレオに近付きつつ、腰の辺りまで下げていた両拳を一般的なガードの位置に上げながら、左ジャブを準備しているのが丸分かり。「打ちますよ」と教えているようなものだ。
なおかつロペスには、ジャブを出した直後に右のガードが僅かに下がる癖があり、この場面でも、右拳が下がって顔面がガラ開きになるところへ、まるで吸い込まれるかのように、抜群のタイミングと角度でレオの左が着弾している。
仰向けに昏倒したロペスを見て、多くのファンが嫌な予感に襲われたのではないか。「すぐに止めて担架を・・・」と私も思ったが、周知の通りレフェリーはカウントを数え続け、6から7秒の辺りで目覚めたロペスが、身体を起こそうと動き出す。
「だからすぐに止めて、ロペスを安静な態勢に戻すんだ!。そして直ちにドクターと担架を呼んで!」と、半ば怒りを覚えながら配信の映像に釘付けになる。
レフェリーはしっかり10まで数え終わり、両膝を着いて頭を垂れたままのロペスが立とうとして前にのめり、のんびり歩きながら椅子を用意していたインスペクターと思しきスーツ姿の男性2名の横を、コーナーマンの1人が大慌てで走り込みロペスの身体を支えた。
ロペスは何とか椅子に腰掛け、リングドクターの質問を受ける。一通り問診を終えると自立して歩き、スタッフたちが待つコーナーへと戻った。表情は平静を保ち、自分の身に何が起きたのかも理解できている様子で、ひとまず安堵する。
リング上で速やかに意識を回復できた上に、落ち着いた状態で歩いてドレッシング・ルームに戻ったロペスが、前触れもなく突然倒れたり、頭痛や吐き気といった不調を訴えることもなかったことから、主審を務めたアーニー・シェリフは糾弾・断罪されずに済んだ。
◎ポスト・ファイト・インタビュー
※歩いて控え室に向かうロペスの無事な姿を確認できる
ボディではなく顔面への左フックによるワンパンチKOは、強烈なインパクトを残すことが多い。
ちょっと思い出すだけでも、パッキャオ vs ハットン(時間が止まったかのごとき結末)、セルヒオ・マルティネス vs ポール・ウィリアムズの再戦(両眼を見開いたまま失神)、全盛のドネアがモンティエルを屠った戦慄のKO(武道の達人を思わせる”後の先”)、同じく無名だったドネアを一躍軽量級の寵児に押し上げたダルチニアン戦の1発(第1戦/フライ級王座獲得)。
我が国でも、内山高志がホルヘ・ソリスをし止めた美し過ぎるカウンター(WBA S・フェザー級V4)や、小林和優を3回でストップした吉野修一郎の見事なクォリティ・ショット(日本ライト級TM)、令和に突如として出現した和製レフト・フッカー,佐々木尽の数試合がすぐに思い浮かぶ。
古くは、シュガー・レイ・ロビンソンがジーン・フルマーを一瞬で斬り落とした芸術的なカウンター(第2戦)、エザード・チャールズとの因縁に決着を着けたジャージー・ジョー・ウォルコットのショッキングなフィニッシュ(第3戦)、ナイジェリア初の世界王者ホーガン・”キッド”・バッシーが、”スパイダー”の異名を持つ英国フェザー級の雄,ビリー・ケリーを失神させ、世界タイトル挑戦への道筋を着けた畢生の一撃。
”北欧の雷神”インゲマール・ヨハンソンに奪われたヘビー級王座奪還に成功(史上初)した、フロイド・パターソン必殺のガゼル・パンチ(カス・ダマトが鍛えたマイク・タイソンのオリジン)。
プライムのスモーキン・ジョー・フレイジャーと、無敵の現役L・ヘビー級王者ボブ・フォスターによる稀代のレフト・フッカー対決も凄かった。スモーキン・ジョーに2回で粉砕されたフォスターが、175ポンドを獲ったディック・タイガー(ナイジェリア史上2人目の王者/ミドル級を含めた2階級制覇)戦も、思わず背筋が凍りつく終幕。
ウェルター級を統一(WBA・WBC/創設間もないIBFは勝手に認定)した後、勇躍J・ミドルに参戦したドン・カリーを地獄に叩き押したマイク・マッカラムの凄絶なアッパー・フック(下から鋭く振り上げる独特のフック/在米の黒人選手に受け継がれる伝統的なパンチ=レーザー・ラドックの”スマッシュ”が有名)。
ロイ・ジョーンズを1発で沈めたアントニオ・ターバー(リマッチ)、メフダード・タカルー vs ウェイン・アレクサンダー、ディリアン・ホワイト vs デレク・チソラ第2戦、アレクサンダー・ポベトキン vs D・ホワイト、日本でも戦ったサム・ピーター vs ジェレミー・ウィリアムズ等々、本当に枚挙に暇がない。
ノックアウト・オブ・ジ・イヤーの最右翼に挙がっているであろう、レオの劇的なエンディングも、「Most Shocking Left Hook KO in Boxing History(こんなリストが現実にあれば)」の列に間違いなく並ぶ。
◎試合映像:ハイライト(トップランク公式)
<1>フルファイト(英語)
https://www.youtube.com/watch?v=rK6lWMXLWGs
<2>フルファイト(英語)
https://www.dailymotion.com/video/x93ue6i
<3>フルファイト(スペイン語)
https://www.youtube.com/watch?v=9QgKnNTDWQU
※Part 3 へ
◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター
◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター
◎前日計量
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA
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■オフィシャル
主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)
副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)
立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)
■オフィシャル・スコアカード
※清書
※管理人KEI:85-86でレオ
◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)
■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)
■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)
※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331