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■8月24日/大和アリーナ,大阪府吹田市/48.6キロ(107ポンド)契約10回戦
前WBCストロー級王者/同2位 重岡優大(ワタナベ) vs WBO12位 サミュエル・サルヴァ(比)

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元WBO王者メルヴィン・ジェルサレム(比)の挑戦を受け、2度のダウンを奪われ完敗してから5ヶ月。虎の子のベルトを奪われた重岡優大が、王座奪還を目指して再起戦を迎える。

ジェルサレムと同じフィリピンの招聘されたサルヴァは、肩書きこそWBC12位ながら、上位ランクに匹敵する自力の持ち主で、良くまとまった攻防と精巧なカウンターの技術は侮れない。

戦績=20勝(13KO)1敗=が示す通り、最軽量級としては高いKO率を誇るが、一撃必倒のハードパンチャーではなく、技術(上述したカウンター+堅実な崩し)で倒すタイプ。

唯一の黒星は、先月28日に実弟銀次郎をストップしてIBF王座を奪ったペドロ・タドゥラン(比)に喫したもので、丁度5年前の2019年9月、当時IBF1位だったサルヴァと3位タドゥランが空位の王座を争い、4ラウンド終了後に棄権を申し出たもので、銀次郎と同様、タドゥランの圧倒的なフィジカル&パンチング・パワーに押し捲られた。

銀次郎との大きな違いは、致命的なダメージを負う前に早々と白旗を掲げた点で、専制のノックダウンを奪った後の逆転だったことも含めて、余力を残した状態での試合放棄には、ファン関係者の賛否が当然あったと思われるが、心身の限界を超えて戦い続けた銀次郎とコーナーの判断も、妥当性を巡る議論があって然るべきとは思う。


タドゥランに敗れたサルヴァは、この5年の間に3試合をこなしただけ(2023年10月・2022年4月・2020年1月)。格下のアンダードッグをすべてKOで片付けているが、武漢ウィルス禍による休止を考慮しても少な過ぎる。挑戦権を有する15位以内(WBOのみ)に名前があること自体、むしろ不思議と言ってもいいくらい。

◎サルヴァのカムバックロードを程よくまとめた映像(タガログ語)
https://www.youtube.com/watch?v=XVes6oSJTqY


ジェルウィン・アンカハスを長く支えてきたジョーヴェン・ヒメネスが、マネージャー兼トレーナーとして付いている。体制変更のニュースは見聞きしておらず、おそらく今回も帯同している筈だが、スポーツ各紙のWEB版だけでなく、ボクシングと格闘技の専門サイトにも来日を伝える記事と写真が見当たらず、「取材の対象外なんだな・・・」と落胆・納得あい半ばの感情を覚える。

ジョーヴェン・ヒメネス(トレーナー兼マネージャー),アンカハス,パッキャオ,ギボンズ
※左から:ジョーヴェン・ヒメネス(トレーナー兼マネージャー),アンカハス,パッキャオ,ギボンズ

試合を中継するABEMAがフルの会見映像を出してくれたので、サルヴァの横にヒメネスらしき人物がいることは確認済み。クローズアップが無い為いまいちわかりづらく、確証を持ってヒメネスだと断定し切れないのはどうかご容赦を。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)
https://www.youtube.com/watch?v=vJg2KPskyVY


◎前日計量+ファイナル・プレッサー(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=7y1NgPgUiEE


タドゥラン vs サルヴァ戦について、以下の過去記事で触れているのでご興味のある方はご一読を。
◎過去記事:ストップの難しさ? /狂った読みと計算 - 重岡銀次郎 vs P・タドゥラン レビュー 3 -
2024年8月5日
https://keisbox.online/archives/26359637.html?ref=category365357_article_footer2_slider&id=8545867


一応ブックメイカー各社のオッズも出ているが、かなりの差が開いている。PhilBoxing,comやAsian Boxingでさえ、熱心に追ってくれていなかった。サルヴァの不活発な状況は、引退同然と見られても止むを得ない感があっただけに、専門メディアの興味と関心がそれだけ低下していると理解する他ない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
優大:-599(約1.17倍)
サルヴァ:+400(5倍)

<2>FanDuel
優大:-650(約1.15倍)
サルヴァ:+430(5.3倍)

<3>ウィリアム・ヒル
優大:1/5(1.2倍)
サルヴァ:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
優大:1/5(1.2倍)
サルヴァ:9/2(5.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

□PhilBoxing,com
<1>公式サイト - News
https://philboxing.com/news/index.php?show=4

<2>公式X
https://x.com/philboxingtv

□Asian Boxing
<1>公式サイト
https://www.asianboxing.info/

<2>公式X
https://x.com/asianboxing


優大が丸腰になった最大の原因は、慢心と油断。これ以外に無い。昨年1月、大阪府立(エディオン・アリーナ)で、同門の先輩王者,谷口将隆(L・フライ級に上げて再起の途上)を2ラウンドで瞬殺してWBO王座を持ち去ったジェルサレムを、とにかく甘く見過ぎていた。

切れ味抜群の右と踏み込みの鋭さをナメ切っていたから、「好きなようにカウンターしろよ」と言わんばかりに、ノーガードで真正面から歩いて前進する愚を冒せたのである。

昨年5月の初防衛戦で渡米し(指名戦の入札で)、GBPとミゲル・コットがバックアップするオスカー・コラーゾ(米/プエルトリコ:小柄なサウスポー)に力負けしてしまい、ボディアタックで疲弊消耗。

8ラウンド開始のゴングに応じることができず、試合放棄によるTKOであっさり王座を失った負け方も、優大とワタナベ陣営に「組みし易し」との誤解を与えてしまったのではないか。実際に拳を交えた谷口がいながら、その経験を活かせなかった。

チーフとしてコーナーをまとめる町田主計(まちだ・ちから)トレーナーを筆頭に、陣営の痛過ぎるボーンヘッドとの指摘は免れない。


ジャブを省略していきなり強振する悪癖と、不要なルーズガードの修正が第一にはなるが、丁寧な出はいりと崩しの手間を惜しまない、セオリーに立ち戻る意識の改善が重要になる。重岡兄弟のポテンシャルに疑いを持つ者はいないとは思うが、同時に彼らは、”リアル・モンスター”井上尚弥では無い。

「油断と粗雑なボクシング」を洗い直したとの言及はあったが、骨身に染みているのかどうかまでは判然とせず、同じ過ちを繰り返す懸念が見え隠れする。銀次郎の惨敗が余計な力みとなって、悪い方向に影響しなければいいが・・・。


◎優大(27歳)/前日計量:106.7ポンド(48.4キロ)
前WBCストロー級王者(V1),前日本ミニマム級(V0),元WBOアジア・パシフィックM・フライ級(V1),元日本ユースミニマム級(V0)王者
戦績:9戦8勝(4KO)1敗
アマ通算:91戦81勝(21RSC・KO)10敗
2018年度全日本選手権優勝(L・フライ級)
2015年度高校選抜優勝
2015年度インターハイ優勝
2015年度第70回回国体少年の部優勝
2014年度インターハイ優勝
階級:ピン級
熊本開新高校→拓殖大学
身長:160.8センチ,リーチ:158.7センチ
※ウィルフレド・メンデス戦の予備検診データ
左ボクサーファイター


◎サルヴァ(27歳)/前日計量:106.3ポンド(48.2キロ)
戦績:21戦20勝(13KO)1敗
アマ戦績:不明
※フィリピン国内限定ながらジュニアとユースの大会で複数回の優勝経験有り
身長:155センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=xbogzM06WKw


◎前日計量+ファイナル・プレッサー(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=7y1NgPgUiEE

L・フライ級リミットの108ポンドからマイナス1ポンドの契約だが、階級を上げるつもりは無いとのこと。ジェルサレムへの雪辱が最優先ということなのだろうが、眼前の敵に集中して欲しい。


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■主なアンダーカード

今年5月10日、アウェイのフィリピンで元WBCバンタム級暫定王者レイマート・ガバーリョと対戦。衝撃的な初回TKO勝ちを収めた36歳の健文トーレス(19戦14勝10KO5敗)が、2016年12月以来7年8ヶ月ぶりとなる日本国内復帰戦。

亀田和毅が実質オーナーを勤めるTMKジムの契約選手となり、115ポンドのWBO1位,KJ(ケヴィン・ジェイク)・カタラハ(比/29歳/17戦全勝13KO)を相手に、バンタム級契約の10回戦を行う。

キャリアの後半を日本で戦い、引退後もグリーンツダやオール,大鵬ジムでトレーナーを勤めた元WBC L・フライ級王者へルマン・トーレス(メキシコ)を父に持ち、アマチュアの社会人選手権を経て、2004年の暮れに国内デビュー(2003年12月にメキシコでいきなり10回戦デビューを行い4回TKO負け)。

将来を嘱望されていたが、タクシー強盗などで2度逮捕収監されてしまう。服役は合計で11年にも及び、昨年6月メキシコで再起するも2回KO負け。ベトナムで2試合を行い、1勝1敗(KO負け)と過酷な復帰ロードとなったが、ガバーリョ戦の大金星で一躍注目を集めた。

カムバック後の戦績は、4戦2勝(1KO)2敗。負けはいずれもKOで、褒められた戦果ではない。相打ちの左フックでガバーリョをグラつかせた後、立て続けに3度倒してフィニッシュ。チャンスに詰め切る集中力と最後の連打はお見事。攻撃に関する限り、父から良いDNAを受け継いでいる。

◎試合映像:健文トーレス vs R・ガバーリョ
2024年5月10日/南コタバト州ポロモロク(ミンダナオ島/比)
契約ウェイト不明(120ポンド?)10回戦


ガバーリョ戦の勝利はけっしてフロックでないけれど、元暫定王者の”上から目線”に助けられたことも事実。1階級下とは言え、カタラハは左右どちらもパンチがあり、スピード&シャープネスでも高齢のトーレスを上回る。怖いのは、一瞬の気の緩み。集中力の瞬断だけ。

老舗のウィリアム・ヒルだけだが、オッズも出ていた。ガバーリョ戦の効果と階級を考慮した冷静な数値だが、これでもまたトーレスに甘い。

トーレス:12/5(3.4倍)
カタラハ:1/3(約1.33倍)
ドロー:14/1(15倍)

ガバーリョのように油断しなければ、中盤までにはし止められると思う。フィリピンのファイターらしく思い切りはいいが、ベースにする手堅いボクシングで順調にラウンドをまとめて行けば、熱望する田中恒成(畑中)への挑戦を一気に引き寄せるだろう。

本来なら負けて当然のトーレスだが、ガバーリョを倒した印象が強過ぎて、逆にリアルな現在地が見えづらい。過大な期待は、この際避けておくのが吉。


フライ級の日本ユース王座を保持する野上翔(のがみ・しょう/24歳/)は、S・フライ級のコンテンダーだった柳光和博が設立したRK蒲田ジム期待のサウスポー。杵島商高から拓殖大へ進み、40勝23敗のアマ・レコードを残している。

昨年7月にデビューしてから、3連勝(2KO)をマーク。今年3月には、リブート(RE:BOOT)ジムのホープ,富岡浩介とのレフティ対決に2-1の判定勝ち。ユース王座に就いたばかり。25歳のフィリピン人ファイターとの8回戦(S・フライ級契約)に臨む。

相手のダンリック・スマボンは、115ポンドのOPBF15位で、右ストレート以外にこれと言って目ぼしい武器は無い。こちらも怖いのは油断ということになるが、プロ18戦(13勝9KO4敗1分け)の経験値にモノを言わせない為にも、早めに左(ストレートだけでなく鋭角的なアッパーがいい)を効かせておきたいところ。

ただし、攻め急いでパンチが粗く大きくなると、合わせ技の右1発で1本の恐れも。くれぐれも気を付けて欲しい。170センチ近いタッパがある為、今回の内容と結果次第で階級アップも有り得るか。

◎試合映像:野上 vs 富岡(ハイライト)
2024年3月18日/後楽園ホール
日本ユースフライ級王座決定8回戦


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うっかりしていた。ドラミニと和毅の再戦にも触れておこう。昨年10月の初戦、和毅は折角の地の利をまったく活かすことができず、前後左右に動きながら先手で仕掛け続けたドラミニが、1-2のスプリット・ディシジョンを”易々”と持ち帰った。

カリフォルニアとウィスコンシンから呼ばれた2人の米国人ジャッジは、112-116の4ポイント差でドラミニ。残った1人、JBCの染谷路明副審が115-113で和毅。実に分かり易いスコアリングだった。

ちなみにレフェリーを努めたのは、JBCの田中浩二審判。和毅が頭突きや体当たり、ローブローを慎み、試合が荒れなかったお陰で、おかしな疑念を持たれずに済んだのは何より。

確か10ラウンドだったと思うが、青コーナーで脚を滑らせたドラミニが前のめりに倒れ込んだ場面、和毅は一応ボディブローを出していて、すかさず右腕を上げてノックダウンをアピールしていたが、主審田中は何の迷いも無くスリップの合図を出していて、一安心したことを思い出す。


有体に言って、第8ラウンドまでは完全なるマス・スパー。ちょこちょこ手を出すだけの、退屈極まりない駆け引きの応酬。第9ラウンド以降、ようやく和毅が距離を詰め始めて本気度はアップしたが、マスからライト・スパーに変わった程度でしかない。

「失点しないボクシング」に撤するドラミニに対して、和毅はほとんど何も出来なかった。理由は簡単。サイズとスピードで優位に立てず、反応でも遅れを取ったからである。

南アフリカでやっていれば、フルマークでドラミニの勝ちになるだろうし、米国内での開催だったとしても、明確に和毅に振っていいラウンドは第9・第12の2つのみ。11ラウンドは、ジャッジの判断が割れる確率が高いと思う。

いずれにしても、昭和のスタンダードで見れば、五十歩百歩のイーブンが延々と続くだけ。一目で分かるダメージを伴うクリーンヒットは、お互い1発も無し。日本人審判がレフェリーをやっていたら、いったい何度「ファイト!」の掛け声が飛んだことか。


今年3月末の再起戦に合わせて、よせばいいのに親父さんがチーフに復活。ぐいぐい前に出るプレッシャースタイルで押し捲り、中堅のフィリピン人を5回終了TKOに下して評価を持ち直したようだが、ここは1つ冷静になろう。

相手のケヴィン・ビリャヌエバは、S・バンタム級を主戦場にするアベレージのローカル・ランカーで、和毅より大分身長が低い上に、パワーもスピードもはっきり下回る。要するに、体格差のアドバンテージが利く時以外、和毅が安心してパワー勝負に出ることは無い。

親父さんのコーナー復帰とともに、(かつての)亀田家の掟,テッパンのマッチメイクも復活した。それだけのことである。自分より小さい格下相手なら、和毅でなくても好きなようにやれる筈だ。


前回の後半~終盤にかけて、クリーンヒットは無くても「押し込めた」という実感、手応えだけはあったと思う。ただし、常に先手で試合を作り、セーフティ・リードを確信したドラミニは、10ラウンド以降完全な逃げ切り態勢に入っていた。

前半から無理と深追いは一切せず、手数と着弾で上回りつつ、被弾の回避に撤していたドラミニは、ステップ&クリンチを多用してひたすらリスクヘッジに腐心。最終12回は逃げ腰が酷過ぎたが、和毅が無策だったことも事実。3月のビリャヌエバ戦と同じことを、体格&スピードで上回ることができないドラミニにやれるのかと言えば、そこは大きな疑問符を付けざるを得ない。

和毅と親父さんに残された道は、巷では大善戦と評判のレイ・バルガス戦の再現あるのみ。すなわち、頭突きと体当たりを主武器にした、やりたい放題時代の「亀田スタイル」一択。

気になる今回のオフィシャルだが、ジャッジ3名は全員外国人(米ネバダ州・独・英)。けれども、レフェリーはJBCの中村勝彦審判が仰せつかった。コーナーには、あの親父さんが鎮座ましましている。

何が何でも負けられない和毅が、反則ありきのゴリゴリのラフに出た場合、主審中村がどんなレフェリングで応えるのか、はたまた一切応えず真面目に仕事に集中するのか。そこだけは、しっかり注目しておいた方がよさそうだ。

◎リング・オフィシャル
オフィシャル

主審:中村勝彦(日/JBC)

副審:
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
ダイアナ・ドリュース・ミラニ(独)
ボブ・ウィリアムズ(英国)

立会人(スーパーバイザー):ベン・ケイティ(豪//IBF Asia担当役員)

◎主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
ドラミニ:+200(3倍)
和毅:-163(約1.61倍)

<2>FanDuel
ドラミニ:+164(2.64倍)
和毅:-205(約1.49倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ドラミニ:8/5(2.6倍)
和毅:1/2(1.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
ドラミニ:13/8(2.625倍)
和毅:8/13(約1.62倍)
ドロー:18/1(19倍)

意外にも(?)、和毅が若干優勢。ビリャヌエバ戦の賜物に違いない。やはり、KO勝ちはしておくにこしたことはない。

拙ブログは、ジャッジ3名がまともに仕事をする前提にはなるが、前回同様ドラミニの判定勝ち。和毅がラフ・ファイトに及んだら、当然その時は、中村主審の匙加減次第になる。厳しくチェックするのか、かつてのように盛大に忖度してしまうのか。

それはつまり、亀田家と一蓮托生の安河内剛JBC事務局長はもとより、日本でもお馴染みになったオーストラリアの立会人もグルで、和毅の反則に目をつむる・・・ジャッジの抱き込みもひっくるめて、最大の懸念材料と言わねばならない。