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■7月20日/両国国技館/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 田中恒成(日/畑中) vs WBO12位 ジョナサン・ロドリゲス(メキシコ)

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プロボクシングの世界では、単純に勝ち続けてるだけでビッグ・チャンスは巡って来ない。政治力と資金力を併せ持つ大物プロモーターの支配化に入り、主要4団体の下部タイトルを獲得して世界ランキング(二桁台の下位)、何回か防衛戦を消化する。そこで発生する承認料とのバーターで世界ランクを上げて、ランク入りから早くとも3~5年をかけて世界タイトル挑戦に辿り着く。

五輪と世界選手権のメダリストやそれに準ずる成果を得たトップエリートと、アマでの実績は無くても図抜けたパンチ力やスピード、突出したボクシング・センスに恵まれた一握りの天才は別にして、平均的に優れた欧米のボクサーが必要とする出世の道筋である。

例えばアステカTVと深い関係にあるフェルナンド・ベルトラン(プロモシオネス・サンフェル)であったり、カンクンをシマにするオスカー・デラ・ホーヤと近いぺぺ・ゴメス、チワワを仕切るオスワルド・クチュル(父のレジナルドが亡くなった後新たな興行会社を設立/地盤と選手を継承)等々、力のあるプロモーターの傘下に加わらないとなかなかチャンスを得られない。

しかし、コミッションがしっかり機能していないメキシコでは、報酬の未払いや独占的な契約を盾にした飼い殺しに類する根深い問題が解消されず、有力者の支配下選手こなることにも大きなリスクがあり躊躇せざるを得ないと、幾つかのインタビューでマルコ・ロドリゲスは語っている。


例によって、アマチュア経験の有無を含む詳しい経歴は不明。デビューが17~18歳だったことから、仮にアマの選手だったとしてもジュニアに限定されるし、目ぼしい戦果も無かったものと想像できる。

ローカル・トーナメントであったとしても、一定の実績を残して関係者の目を惹いていたら、おそらく有力プロモーターが放っておかない。それなりにバックアップを受けられていたと思う。

スタートから主戦場はS・フライ級で、2年4ヶ月の間に16連勝(11KO)をマーク。12戦目で初の10回戦をこなすと、13戦目で12回戦(ノンタイトル)を経験。順調に修行時代を終えるかと思いきや、テキサスと国境を接するコアウイラ州から呼ばれた中堅選手に1-2の10回判定負け(2018年3月)。

S・フライ~S・バンタムを行き来しながら戦う無名のホセ・マルティン・エストラーダに、伸びかけていた天狗の鼻をへし折られたロドリゲスは、「勝ち続けて調子に乗っていた。練習で手を抜いているつもりは無かったが、気の緩みに気付かされた。慢心していたと思う。」と、初黒星の苦さについて追懐する。


押しも押されもしないメイン・イベンターになるべく、気合を入れ直してトレーニングに打ち込んだとのことらしいが、初黒星から3ヶ月後に組まれた再起戦は、対戦時のレコードが3勝(1KO)17敗のサウスポーを相手に、ウェイト・ハンディ+大幅なリバウンド込み。

珍しくネット上に映像が上がっていたのでご紹介するが、お世辞にもグッドシェイプとは言い難い仕上がり。そして、気になるのが両者の体重。

契約ウェイトが何ポンドなのかはわからず、ロドリゲスがS・フライ級リミット+1.5ポンドの116.5ポンド(52.84キロ)で計量したのに対して、アンダードッグのスニガはS・フライ級リミットを0.5ポンド下回る114.5ポンド(51.94キロ)だった。

戦績が示すように、スニガは白星配給で禄を食む典型的な負け役。求めに応じて、110ポンドアンダーのL・フライ近辺から、112ポンド超のフライ級+αの間で戦っている。バンタム級リミットから1ポンドマイナスの117ポンド、あるいは116.5ポンドの契約だった可能性も当然あるが、いささか無理筋という記がしてならない。

ごく普通に115ポンドのS・フライ級リミット契約で、スニガはそれに合わせて出来得る限りの増量をしたが、初黒星から3ヶ月しか経っておらず、練習不足のロドリゲスが確信犯のオーバーでやり過ごしたのではないか。だったら嫌だなということ。


合衆国制のメキシコは、アメリカと同様各州にコミッションが存在することになっているが、まともに機能していないと聞くことが多い。2000年代の最初の10年間は、タイトルマッチですら計量の誤魔化しが散見された。

規模の小さなローカル・ファイトになればなる程、プロモーターのやりたい放題になっても何ら不思議はない。根拠を明確に示すことができない状況で、ああだこうだと類推を拡げていくのは大間違いだ。百も承知の上で、そうした邪推が脳裏を過る。

一応ロドリゲスの名誉の為に言っておくと、公式計量が記載されていない4試合を除いて、確信犯のオーバーが疑われるのはこの試合のみと考えて良さそう。

直近のイスラエル・ゴンサレス戦も計量結果が未記載だが、幸いにも公式計量の映像が消されずに残っていて、両者ともにジャスト115ポンド。スニガ戦と同じモンテレイでの開催だったけれど、会場は市内でも有数の高級ホテル。

◎参考映像:I・ゴンサレス戦の前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=yWqn12gC78o

メインのプロモーターはマッチルームで、会見や計量も含めてDAZNが配信を行っている。計量に不正があったとは考えられない。

という訳で、映像が残っているスニガ戦を含めて、実力差のある格下を4タテ(3KO)して復調を確認する。

◎試合映像:J・ロドリゲス KO2R エマニュエル・スニガ
2018年6月9日/ヌエボ・レオン州立体育館(Gimnasio Nuevo Leon Unido),モンテレイ
6回戦(契約体重不明)


常識的に考えれば、これぐらい勝ち続けたらローカルタイトルの1つか2つ獲っていてもいいのに、ロドリゲスのレコードにはタイトルマッチの記載が唯の1度も無い。それなのに、WBCが直轄するローカル王座のベルトを両肩にかけている写真がある。

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右腕で支えているのがWBC Facerbox(フェイサーボックス/フェイセルボックス)で、先代のドン・ホセ・スレイマン会長が、メキシコ国内のライセンス管理を徹底する為に設立した筈の組織なのに、いつの間にかローカルタイトルの1つに衣替え。

左の方は、お馴染みのWBCインターナショナル。対戦時点でこれらのタイトルホルダーだった選手は見当たらない。空位の決定戦だったのに、単純に記載漏れしていただけというパターンも有り得るが、念の為これも調べてみた。

ベルトが懸けられてもおかしくないのは、直近のイスラエル・ゴンサレス戦(ドロー)、リング禍に見舞われたフェリペ・オルクタ戦(12回戦)、エデュアルド・ガルシア(名城信男,亀田和毅と対戦したのは同名異人)というローカル・ボクサーとの12回戦(キャリア初/14戦目)、無名選手ジョアン・ゴンサレスとの10回戦(12戦目)といったところになるが、無論のことノンタイトル。

一応、WBC Facerbox、International、International Sliver、Latinoの4タイトルについて、バンタム級とS・フライ級を確認したが、Jonathan Gonzalezの名前は無かった。

本当にこれらのベルトを保持していたら、お膝元のWBCからランキングで冷遇されることも無かった。同じジムで練習するステーブルメイトの中に、ベルトの持ち主(階級を問わず)がいて、撮影の時に拝借しただけかもしれないが。


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◎リング禍を乗り越えて

こうして、22戦目にして初めて名のある選手とぶつかる(2019年6月)。オマール・ナルバエスに2度挑戦して善戦したフェリペ・オルクタが、前(2018)年9月にファン・F・エストラーダに喫した敗北からおよそ9ヶ月ぶりとなる実戦復帰。その相手にロドリゲスが選ばれた。

オルクタは公称170センチの大柄な右ボクサーファイターで、心身のタフネスを武器にしぶとくしつこく駆け引きしながら、ボディアタックを軸に根気良く削って、相手が根負けするまで粘る無骨なアステカ戦士スタイルの典型。

好戦的なロドリゲスとは手が合い、打ちつ打たれつの白兵戦,我慢比べになり、終盤10ラウンドにロドリゲスが連打をまとめてレフェリーストップを呼び込む。いわゆる出世試合になったのだが、終了直後に悲劇が起きる。

リング上で昏倒したオルクタが完全に意識を失い、救急搬送された病院で開頭手術を受け、数日間生死の境を彷徨う。幸いにも意識を回復したオルクタは、6週間の入院加療を経て家族の下に帰還することができた。

ネット上にアップされた試合映像はすべて(おそらく)削除されているが、アクシデントが起きた直後の数分間だけが残っている。
◎ロドリゲス TKO10R オルクタ
2019年6月7日/アズール・イスタパ・ホテル, シワタネホ(ゲレロ州)
S・フライ級12回戦


◎同じ場面を捉えた別映像
<1>Felipe el gallito 0rocuta se conmociona momentos dramaticos
https://www.youtube.com/watch?v=yP8NhCa5Kns

<2>Felipe “Gallito” Orocuta a un ano del incidente en Ixtapa
※ナチョ・ベリスタイン(オルクタのチーフ)のインタビュー有り(スペイン語)
https://www.youtube.com/watch?v=YQqReUG6LS8

米国内なら直ちに担架を要請して、頭部を固定した上で気道を確保しながら速やかに病院に搬送されていた筈だが、何でこんなに時間をかけるのかわからない。ライセンス管理が積年の課題になるほどメキシコはコミッションの機能が脆弱で、そうした事が影響しているのかもしれない。

後遺症となる障害の有無など詳しいことはわからないが、ロドリゲスが一命を取り留めたのは、リング上での応急措置(?)が奏功したと、まったく逆の見方もできないことはないけれども。


※Part 3 へ


◎田中(28歳)/前日計量:114.9ポンド(52.1キロ)
現WBO J・バンタム級王者(V0),元WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:21戦20勝(11KO)1敗
世界戦通算11戦10勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
脈拍;73/分
血圧:112/82
体温;36.3℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター


◎ロドリゲス(28歳)/前日計量:121.3ポンド(55.0キロ)
※2.9キロオーバーで失格。体調不良を理由に再計量を拒否した為、怒り心頭の畑中会長が試合中止を申し入れし了承された。
戦績:28戦25勝(17KO)2敗1分け
身長:165センチ,リーチ:169センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)
<1>田中

<2>ロドリゲス

※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ

◎公開練習(田中恒成)
2024年7月10日/アマプラ公式
https://www.youtube.com/watch?v=dGx6MU6hofM


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2024年7月6日/アマプラ公式