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■7月13日/ウェルス・ファーゴ・センター,フィラデルフィア/IBF世界ウェルター「級タイトルマッチ12回戦
王者 ジャロン・エニス(米) vs IBF13位 ダヴィド・アヴァニシアン(アルメニア)



勝って当然と言うより、倒して当然の状況でV2に臨むエニスは、開催地フィリー出身の黒人スラッガー。サイズ,スピード,パワーの三拍子揃った逸材として、早くから大成を期待されてきた。

重さとキレを併せ持つパンチがとにかく凄い。自在に左右のスタンスを切り替えるスイッチを操る器用さも含めて、我らが井上尚弥をそのままスケールアップして、より豪快に荒っぽくした感じと言えば分かり易いだろうか。破壊力&決定力は、現状の147~154ポンドにおいて頭1つ抜けている。

ボクシング・センスとスキル,カウンターの妙技に関する限り、難病に倒れる以前のヴァージル・オルティズ・Jr.が飛び抜けているとの確信は揺るがないけれど、クロフォードが支配するウェルター級から、よりチャンスの多いS・ウェルター級へと主戦場を移す決断には、日々存在感を増すエニスの影響が皆無とは言い切れない。


自身もプロボクサーだった実父デレク("Bozy:ボジー"の愛称で呼ばれる)の指導を受け、男三人の兄弟全員がプロになったボクシング一家。長男のデレク・ジュニア(17歳年長)は、父と区別する意味もあって、幼い頃から“Pooh(プー)”と呼ばれ、24勝(13KO)5敗1分けの立派な戦績を残して2014年に引退。

次男のファラー(14歳年上)も、長兄デレク・ジュニアとほぼ同じ時期に活動して、1年後の2015年にリングを降りた。戦績は22勝(12KO)2敗。父と兄はペンシルベニアのボクシング殿堂入り(アメリカは主要な州ごとにホール・オブ・フェイムがある)に浴している。ファラーを押す地元の記者と識者も1人ではないとのことだが、未だ選出は叶わず。

そして、2人の兄が果たせなかった世界王者の夢を実現した三男ジャロンは、母が付けた"Boops(ブープス)"というニックネームを、通っていたジムのコーチや仲間たちが聞き間違えて“Boots(ブーツ)”と呼ぶようになり、それがそのまま定着して今日に至る。
Jaron_Boxy_Ennis
※以下左から:次男ファラー,ジャロン・エニス,父でトレーナーのデレク・”ボジー”,長兄のデレク・”プー”
Ennis_family

2016年のリオ五輪出場とメダル獲得を目指していたが、米国最終予選でゲイリー・アントワン・ラッセルに連敗。あと1歩のところで代表の座を逃し、2016年4月に4回戦からスタート。当たるを幸い倒しまくり、プロ11戦目~30戦目まで、バッティングによるノーコンテスト(2020年12月:クリス・ヴァン・ヒーデン戦)を1つ挟み、19連続KO勝ちを記録。

ヒーデン戦から4ヶ月後の2021年4月、カザフ出身の元IBF J・ウェルター級王者セルゲイ・リビネッツを6回KOに屠ると、同年10月、プエルトリコの元プロスペクト,トーマス・デュロルメを初回2分足らずで撃破。

2022年5月には、カナダのオリンピアン(2012年ロンドン五輪ウェルター級ベスト8),カスティオ・クレイトンに2回KO勝ち。エロール・スペンスとクロフォード挑戦への狼煙を上げる。

◎試合映像:エニス 6回KO S・リピネッツ(出世試合)
2021年4月10日/モヒガンサン・カジノ(コネチカット州アンキャンスビル)


◎試合映像:エニス 1回KO T・デュロルメ
2021年10月30日/マンダレイ・ベイ・リゾート&カジノ(ラスベガス)



長らく対戦が待たれていたスペンス vs クロフォードの4団体統一戦が、いよいよ実現に向かって動き出したことから、IBFは指名挑戦権を得ていたウクライナのテクニシャン、カレン・チュハジアン(アマ200戦超)とエニスに暫定王座決定戦を指示承認。

鋭く素早い反応を最大の武器にしつつ、止まらないフットワークを駆使するチュハジアンに対して、いつもの筋力に頼った強振・豪打をセーブ。チュハジアンに負けないスピード&機動力で対抗するエニス。

デイフェンス重視の技巧派をし止めることはできず、6年半ぶりの判定勝ち(フルマーク)で暫定王座に就くと、7月8日にベネズエラの強打者ロイマン・ビリャ(26勝24KO1敗)を10回KOに下して初防衛に成功。同じ月の29日、スペンスを一方的に打ちまくって147ポンドを統一したクロフォードとの一騎打ちを迫っている。


暫定王座を懸けた直近の2試合、荒ぶるハードヒットを抑制しながら、スピード&クィックネスに注力する姿を披露したエニス。ビリャ戦では、時にヒヤリとする被弾も見受けられたが、堅実なブロック&カバーだけでなく、程よく肩の力を抜いたボディワークも併用して、五輪代表候補のアマキャリアが伊達ではないことを証明した。

反面上半身の筋力をセーブすると、これまでのように一撃で致命傷を負わせることができず、決定力も目減りすることが判明。来るべきクロフォード戦に向けて、長短両面が露になったとも言える。

◎試合映像:エニス 12回3-0判定 K・チュハジアン
2023年1月7日/キャピタル・ワン・アリーナ(ワシントンD.C.)
IBF暫定王座決定戦

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=-rkOp8ub2R8

◎試合映像:エニス 10回KO R・ビリャ
2023年7月8日/ボードウォーク・ホール(アトランティックシティ)

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=wBHTtQJEuVM


昨年11月上旬、正規 vs 暫定のIBF内統一戦ではなく、スペンスとのリマッチ(再戦条項有り)を優先する意向を示したクロフォードがベルトをはく奪され、戦わずしてエニスが自動昇格。

ところが今年1月、スペンスが白内障の手術(右眼)を受けたことを公表。2021年8月に左眼の網膜裂孔が発覚して、3週間後に決まっていたパッキャオ戦をフイにした経緯があるだけに、交通事故(2019年10月)の後遺症と併せて引退を取り沙汰される事態になった。

リマッチの速やかな履行が不可能となり、クロフォードはS・ウェルター級への進出を決断。来月3日にロサンゼルスで、WBA王者イスラエル・マドリモフ(ウズベキスタン)にアタックする。

スペンスもS・ウェルター級での再起を希望しており、クロフォードの4階級制覇達成を見越したかのように、「154ポンドでもう一度やろう」と、半ば自らに言い聞かせるように声明を出した。


IBFより8ヶ月遅れ(昨年9月)になったが、ヨルデニス・ウガス(キューバ)を破ったマリオ・バリオスを暫定王者に承認済みのWBCも、5月末にクロフォードを休養王者に横滑りさせると、先月20日、バリオスの正規王者格上げを正式にリリース。

WBAとWBOはクロフォードの王座を認め続けてはいるが、WBAには2年前からレギュラー王者エイマンタス・スタニオニス(リトアニア)がいて、WBOも5月18日に行われた決定戦で、1位ジョバニ・サンティリャン(米)に10回KO勝ちした10位ブライアン・ノーマン・Jr.(米)を暫定王者にしたばかり。

マドリモフ vs クロフォードの結果によっては、さらに混迷の度合いを深めそうな147ポンドだが、今や最も稼げる階級になった激戦区をリードするのは間違いなくエニス。

クロフォードより1ラウンドでも早く倒したいのはヤマヤマだが、立ち上がりから上から目線で強引に振り回すと、アヴァニシアンのカウンターを食らって慌てる恐れも十分。無論、そのまま圧殺する確率も高いけれど、アルメニアの猛者にもそれだけの勇気と技術がある。


◎エニス(27歳)/前日計量:146.4ポンド
IBFウェルター級王者(V1/暫定→正規)
戦績:32戦31勝(28KO)1NC
アマ通算:58勝3敗
■2015年リオ五輪米国最終予選(オリンピック・トライアル)
<1>トライアル・クォリファイ(最終選考予選/メリーランド州ボルティモア)優勝
<2>トライアル・パーティシパント(最終選考/ネバダ州リノ)次点
※決勝でゲイリー・アントワン・ラッセルに2敗(いずれも0-3)
■ナショナル・ゴールデン・グローブス
2015年優勝
2014年準優勝
■2015年ユース全米選手権優勝
※階級:L・ウェルター級(64キロ)
身長:178センチ,リーチ:188センチ
右パンチャー(スイッチヒッター)


◎アヴァニシアン(35歳)/前日計量:147ポンド
元WBAレギュラー王者(V1/暫定→正規),元欧州(EBU)王者(V5)
戦績:35戦30勝(18KO)4敗1分け
アマ戦績:不明
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター(スイッチヒッター)

◎前日計量


◎前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=928HvJvVtYI


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■リング・オフィシャル:未発表

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◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=U8nMHoC4nfo