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■7月13日/ウェルス・ファーゴ・センター,フィラデルフィア/IBF世界ウェルター「級タイトルマッチ12回戦
王者 ジャロン・エニス(米) vs IBF13位 ダヴィド・アヴァニシアン(アルメニア)



本来ならば、3位(1・2位不在)のコーディ・クローリー(カナダ)が指名挑戦する筈だった2度目の防衛戦。22連勝中(9KO)のカナダ期待の王者候補が、眼疾による撤退を表明(6月上旬)。

2020年9月から4戦連続でPBCのリングに登り、ウズベクの実力者クァドラティロ・アブドゥカハロフ(2021年12月/10回3-0判定勝ち)、大ベテランの元コンテンダー,ホセシト・ロペス(2022年4月/10回3-0判定勝ち)、同じく世界挑戦経験を持つアベル・ラモス(2023年3月/12回2-0判定勝ち)と、武漢ウィルスが猛威を振るう真っ只中で、長いブランクを挟みながらタフな3戦をこなした。

異変が起きたのは挑戦権を得たラモス戦後で、両眼の手術を受けたという。幸いにも術後の経過は良好で、難航した指名戦の交渉は入札に持ち込まれ、エニスを擁するマッチルームUSAが390万ドルで興行権を落札(今年4月/PBC側のTGBプロモーションズは200万ドル)。

しかし、本格的な追い込みに入ろうかという段になり、右眼に異常が発生する。視界の歪みを訴えて眼の主治医を訪れると、「網膜に水が溜まっている」との診断が下り、キャリア10年の節目に実現した世界戦を諦めざるを得なくなった。

自然治癒の可能性もあるらしく、医療チームは様子を見ながら治療方法を決定するとの方針で、クローリー本人は引退を否定。現役の継続を目指している。


代役として白羽の矢が立ったアヴァニシアンは、名前から分かる通りアルメニアにルーツを持つ。生まれたのはカザフスタンの国境に近いタビンスコエ(ロシア領内/バシコルトスタン共和国)という小さな街だが、英国に移り住んだ今も国籍はアルメニアのままらしい。

テレンス・クロフォードとの対戦経験(2022年暮れに6回KO負け)があり、オレクサンドル・ウシク,井上尚弥との三つ巴でリング誌P4Pのトップを争うクロフォードとの比較を狙った、なかなかに計算高いマッチメイク。本番まで1ヶ月を残していたことが幸いした。

アヴァニシアンは2021年10月以降、フランク・ウォーレン率いるクィーンズベリー・プロモーションズの支配下にあるが、ウォーレンとエディ・ハーンが先月リヤドで共催した「クィーンズベリー vs マッチルーム対抗戦」の副次効果と見るべきか。
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デビューした2009年6月~2014年の秋まで、5年余りをロシア国内で戦った後、イングランド北部のニューアーク(ノッティンガムシャー州)に移住。地元プロモーターの仕切りで2試合やった後、WBAの暫定王座決定戦(2015年11月/モンテカルロ)に抜擢される。相手は9位のベテラン,チャーリー・ナヴァロ(ベネズエラ)で、アヴァニシアンも10位の下位ランクだった。

当時のWBAウェルター級は、スーパー王者フロイド・メイウェザーと正規王者キース・サーマンの2人王者体制だったが、5月にパッキャオとの大一番を終えたPPVセールスキングは、9月にアンドレ・ベルトを完封。試合前からラストファイトを公言してていたご本尊様は、そのまま2度目の引退を表明する。

7月にルイス・コラーゾを7回終了TKOに退け、5度目の防衛に成功したサーマンも、人気者の元IBF王者ショーン・ポーターとの交渉に入り、日程は早くとも年明けの見込み。承認料収入をコンスタントに確保したいWBAは、同年暮れに会長職を世襲するメンドサ親子のお膝元べネスエラのナヴァーロにベルトを与えるべく、暫定王座の承認に動いた。

対戦当時既に30代後半だったナヴァーロに対して、アヴァニシアンは28歳。打ちつ打たれつの攻防を僅かづつ、しかし着実に抑えたアヴァニシアンが、懸命に食い下がるナヴァーロの執念を第9ラウンドに打ち砕き、レフェリーストップを呼び込む

◎試合映像:アヴァニシアン 9回TKO C・ナヴァーロ
2015年11月7日/サレ・デ・エトワール(モンテカルロ/モナコ)


初防衛戦は、半年後の2016年5月。アルメニア移民のコミュニティがあるアリゾナ州グレンデールで、44歳のシェーン・モズリーを僅少差の3-0判定で引退に追い込み、キャリア最大の勝利で米国デビューを飾る。

◎試合映像:アヴァニシアン 12回3-0判定 S・モズリー
2016年5月28日/ヒラ・リヴァー・アリーナ(アリゾナ州グレンデール)
https://www.youtube.com/watch?v=YuC-MORMuqw

メイウェザーの引退でサーマンがスーパー王者に格上げされ、玉突き(タナボタ)で正規に昇格。さらにサーマンが交通事故に遭い、2016年3月に予定していたショーン・ポーター戦を流してしまい、WBAはアヴァニシアンの1人王者体制となったが、翌2017年2月のV2戦でラモント・ピーターソンに0-3判定負け。

同年12月にカメルーンの無名選手(英国在住)を8回判定に破り再起するも、3度目のアメリカでリトアニアの強豪エギディウス・カヴァリアスカスに6回TKO負け(2018年2月)。序盤からリードを許し、痛烈なワンツーのカウンターを浴びてグラつき、ロープに押し込まれて連打をまとめられた。

◎試合映像:L・ピーターソン 12回3-0判定 アヴァニシアン
2017年2月18日/シンタス・センター(オハイオ州シンシナティ)
https://www.youtube.com/watch?v=DleF6txJfRY

◎試合映像:E・カヴァリアスカス 6回TKO アヴァニシアン
2018年2月16日/グランド・シエラ・リゾート & カジノ(ネバダ州リノ)


世界戦線からの後退を余儀なくされたアヴァニシアンは、2019年3月スペインで再起。復帰戦で欧州(EBU)王座に就くと、この年は9月と12月にもスペインで戦い、欧州王座を2度防衛。本格的な巻き返しを・・・というところでパンデミックに見舞われ、1年3ヶ月のレイ・オフ。

2021年2月、ナジーム・ハメドに良く似たスタイルで注目を集めるジョシュ・ケリーに6回TKO勝ち。一回り大きなケリーにプロ初黒星を与えて、トップ戦線にカムバック。10月2日には、ランカシャーのホープ,リアム・テーラーを2回TKOに屠り、フランク・ウォーレンとの契約もまとまって、奇跡的とも居えるV字回復に成功。

そして2022年3月、無敗のフィンランド人オスカリ・メッツを初回2分ジャストで粉砕。欧州王座の防衛を5回に伸ばし、タイソン・フューリーをウォーレンと共同プロモートするボブ・アラムを通じて、クロフォードへの挑戦が決まる。

◎試合映像:アヴァニシアン vs J・ケリー
2021年2月20日/ウェンブリー・アリーナ(ロンドン)


アヴァニシアンの勢いは凄かったが、ジェフ・ホーン,ホセ・ベナビデス,アミル・カーン,カヴァリアスカス,ケル・ブルック,ポーターを立て続けにストップして、S・ライト級時代から続く世界戦9連続KOをマークするクロフォードは巧くて強い。1枚も2枚も上手だった。

いつものようにコンパクトにガードを固めて前進を繰り返し、何とかプレスをかけようとするものの、クロフォードは細かく後退のステップを刻みながら、正確な右リードに続くショートブローで早々とペースを握る。

けっして無理をしない為派手さは無いが、どんな距離でも相手の攻撃を綺麗にかわしつつ、インサイドから放つストレート系のパンチを的確に当てて行く。それらはすべて前後左右のステップと連動して、スムーズかつ抜群のタイミングで着弾する。

「打つパンチが全部カウンターになっている」

夭折した”逆転の貴公子”大場政夫が思わず息を呑み感嘆した、全盛のマンテキーヤ・ホセ・ナポレスもかくやと想起させずにおかない卓越した技巧が冴え渡る。徐々に手数が出なくなり、逆に押され出すアヴァニシアンに、フックとアッパーを組み合わせた上下のコンビネーションを思うがままにヒット。

最後は右フックのクロス・カウンターを一閃。仰向けに倒れたアヴァニシアンは、ピクリとも動かなかった。

◎試合映像:クロフォード 6回KO アヴァニシアン
2022年12月10日/CHIヘルス・センター(ネブラスカ州オマハ)


丸々1年休んだアヴァニシアンは、昨年12月20日、いつぞやのカメルーン人を相手にバーミンガムで実戦復帰。慎重の上にも慎重を期して、ミドル~S・ミドル級の6回戦契約で行われ、4ラウンド終了後の棄権TKOで無事に帰還を果たした。

Avanesyan_Greaves
英国に移って以来、変わらぬ信頼を寄せるトレーナー,カール・グリーブスとのコンビは今もなお健在。圧倒的な不利を示すオッズにも臆することなく、勇躍王者の地元フィラデルフィアへと乗り込む。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
エニス:-2500(104倍)
アヴァニシアン:+1000(11倍)

<2>betway
エニス:-2500(1.04倍)
アヴァニシアン:+1000(11倍)

<3>ウィリアム・ヒル
エニス:1/20(105倍)
アヴァニシアン:9/1(10倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
エニス:1/16(10625倍)
アヴァニシアン:14/1(15倍)
ドロー:33/1(34倍)


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◎エニス(27歳)/前日計量:146.4ポンド
IBFウェルター級王者(V1/暫定→正規)
戦績:32戦31勝(28KO)1NC
アマ通算:58勝3敗
■2015年リオ五輪米国最終予選(オリンピック・トライアル)
<1>トライアル・クォリファイ(最終選考予選/メリーランド州ボルティモア)優勝
<2>トライアル・パーティシパント(最終選考/ネバダ州リノ)次点
※決勝でゲイリー・アントワン・ラッセルに2敗(いずれも0-3)
■ナショナル・ゴールデン・グローブス
2015年優勝
2014年準優勝
■2015年ユース全米選手権優勝
※階級:L・ウェルター級(64キロ)
身長:178センチ,リーチ:188センチ
右パンチャー(スイッチヒッター)


◎アヴァニシアン(35歳)/前日計量:147ポンド
元WBAレギュラー王者(V1/暫定→正規),元欧州(EBU)王者(V5)
戦績:35戦30勝(18KO)4敗1分け
アマ戦績:不明
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター(スイッチヒッター)

◎前日計量


◎前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=928HvJvVtYI


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■リング・オフィシャル:未発表

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◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=U8nMHoC4nfo