2団体統一 or 引退 /相性は過去最悪(?) - 井岡 vs F・マルティネス プレビュー I -
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■7月7日/両国国技館/WBA S・フライ級,IBF J・バンタム級世界王座統一12回戦
WBA王者 井岡一翔(志成) vs IBF王者 フェルナンド・マルティネス(亜)
WBA王者 井岡一翔(志成) vs IBF王者 フェルナンド・マルティネス(亜)
「最後になるかもしれない。」
”もしかしたら”の前置きはあるものの、昨日行われた調印式(及びグローブチェック)の席上、前評判では僅かながらも有利と出ている井岡が、敗北の可能性について言及した。
いつぞや、「いつまで続けられるかわからないが・・・」と、敗北=引退と隣り合わせの現実に自ら踏み込んで話していたことを思い出したが、年齢的(35歳)に難しい時期に差し掛かっていることにも、併せて触れている。
Kazuto Ioka vs Fernando Daniel Martinez
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
井岡:-140(約1.71倍)
マルティネス:+125(2.25倍)
<2>betway
井岡:-163(約1.61倍)
マルティネス:+183(2.83倍)
<3>ウィリアム・ヒル
井岡:4/6(約167倍)
マルティネス:6/5(2.2倍)
ドロー:14/1(15倍)
<4>Sky Sports
井岡:8/11(約1.73倍)
マルティネス:11/8(2.375倍)
ドロー:16/1(17倍)
もっとも公式計量後の会見では、「圧倒的な強さを見せて統一する。それだけです。」と力のこもった声で勝利宣言も行っているし、「豊富な経験」が最大の強味だとした上で、これまでの実績が過去のものであり、「次(明日=近い将来)へ向かって進むことが何より大事」だとの主旨も語っている。
あらためて申し上げるまでもなく、「次」とはさらなる統一戦を指す。公開練習時(7月1日)の会見で述べていた、新WBC王者ジェシー・ロドリゲスとの115ポンド頂上決戦。敗戦を想定せざるを得ない状況を自覚しつつ、チャンピオンとして前を見続ける。
◎J・ロドリゲス戦とエストラーダへの思いを語る
井岡一翔、エストラーダを破り王座についた“バム”ロドリゲスとの3団体統一戦へ意欲『LIFETIME BOXING FIGHTS 22』公開練習
7月1日/マイナビニュース
https://www.youtube.com/watch?v=GComsckO2xI
獲らぬタヌキの何とやら・・・はともかく、井岡は「マルティネスの得意な距離で戦う」とも発言していて、「ラスベガスでその為の実戦練習を積んできた」と自信を覗かせているが、果たして「プミータ(※)対策)」は本当に万全なのか。
※Pumita:小さなプーマ(クーガ)/マルティネスのニックネーム
7月1日に練習を公開したが、例によって報道陣に見せる為の動き。状態は良さそうだが、それ以外はまあ何もわからない。
◎公開練習(7月1日);井岡
◎公開練習前会見/ABEMA公式
マルティネスは公称157センチの極端な小兵で、サイズだけなら最軽量のミニマム級である。直近の記事で、ニック・ボールやイサック・クルスなどについて書い通り、常に自分より大きな相手と対峙しなければならない小さなボクサーは、内懐に飛び込んで接近戦に持ち込まないと勝負にならない。
サイズに見合った階級よりずっと上の階級で戦う場合、一定程度のパンチ力は勿論、並外れたフィジカルの強さ,身体的なパワーが求められる。
イヴァン・カルデロンや高山勝成のように、独楽鼠のごとく動き回って相手を翻弄するやり方もあるけれど、このスタイルはスピード&クィックネスの維持が生命線だけに、加齢と増量による破綻を避け難い。
ブラジルと並ぶサッカー大国であり、かつボクシング強国としての長い伝統も有するアルゼンチンには、フィジカル・タフネスを武器に接近戦を挑むファイターと、流麗なアウトボクシングに本領を発揮するテクニシャン両派の長い歴史を持つ。
”プミータ”・マルティネスは明らかに前者であり、類まれなフィジカルの強度と重く鋭い強打で活路を切り開く、勇敢で好戦的なファイター(左右両刀使い)。少々打たれても怯まず前に出続け、圧力を掛け続ける。
受けて立つ井岡一翔だが、一見するとどこが凄いのかわかりづらい。一撃必倒のパワーに恵まれず、流麗なフットワークがある訳でもなく、目を見張るような柔軟性やボディムーヴを操る訳でもない。
本人の言う通り、国内最多となる25回の世界戦をくぐり抜けてきた経験は、ベルトの数とランカーが水増しされた現在においても大変な記録と言わざるを得ず、得難いものではある。
デビュー当時の井岡は、粟生隆寛に続く高校6冠に加えて、ミニマムとL・フライの2階級を制した井岡弘樹を叔父に持つ出自が大きな話題となり、ボクシング界のサラブレッドとして大いに期待されたが、インドネシアのアンダードッグにダウンを奪われるなど、試合の出来映えはパっとしなかった。
がに股のすり足ステップに直立した上半身。不用意な被弾が目立ち、危なっかしいことこの上ない。「これで本当にやっていけるのか・・・」と多くのファンが不安を感じたが、6戦目に迎えた日本タイトルマッチでボクシングが激変する。
がに股だった下肢がスタンダードなスタンスに修正され、真正面を向いていた上体をハスに構えで懐がグっと深くなり、無駄に下がって開くガードも高い位置に修正された。顎をしっかり引いて、ガードの中に頭を埋めて肘を内側に絞る。隙がない綺麗な構え。
160センチ未満の小柄な選手が多いミニマム~L・フライ級において、165センチのタッパは十分な長身。サイズのアドバンテージが活きるようになって、主武器の右ストレートも切れ味が増す。アマ時代から特徴として認識されていた、左ボディのタイミングと破壊力も一段とアップ。すぐにサンデーパンチとして定着した。
それより何より驚かされたのが、危険なクロスレンジでのディフェンス。とにかくパンチを食わないのだ。的確なブロック&カバーを怠らず、スピーディなヘッドムーブでスルリとかわす。細かく刻むステップを連動させて、同じ位置に頭を置き続けない。
素早く正確な反応は、まるで超高性能なレーダーのよう。このまま磨き上げていったら、そう遠くない将来に人間業を超えるのではないか。川島郭志を凌駕する和製ディフェンス・マスターの完成形・・・そんな妄想にふけりたくなるほど、井岡の危険察知&回避能力は飛び抜けて見えた。
驚嘆すべき変貌を実現した影の功労者が、キューバ出身の名コーチ,イスマエル・サラスだった。日本王者瀬川正義 (横浜光)への挑戦が決まり、叔父の弘樹(所属ジムの会長)と実父の一法トレーナー(いずれも当時)は、フロリダに拠点を置くサラス(現在はラスベガスに自分のジムを持つ)の下へ一翔を送り出す。
フライ~S・フライ級で3階級制覇を狙い続けた叔父の弘樹は、飯田覚士のWBA王座挑戦に備えてサラスを臨時コーチに招いた経緯があり、その厚い信頼に最高の結果で応えた格好。
7戦目でタイのベテラン王者オーレイドンを鮮やかな左ボディのカウンターで倒し、WBC王座に就いた井岡は、デビュー前から標榜していた国内最速奪取記録(当時)を達成すると、2度の防衛に成功。
減量苦を理由にL・フライ級への転級を表明済みだったが、完全アウェイを丸呑みした大橋会長の英断(大阪開催+TBSでの中継)により、WBA王者八重樫東との2団体統一戦が陽の目を見た。
日本ボクシング史上初の世界王座統一戦。しかも日本人対決。この大一番で、井岡は超高性能レーダーの威力を如何なく発揮する。
和製カルデロンと呼びたいほどのフットワーカーだった八重樫は、王座を獲得したポンサワン戦で壮絶な打撃戦を繰り広げ、ファイトスタイルを180度転換。井岡戦でも果敢にインファイトを挑み続け、パンパンに顔面を腫らして判定負け(僅差3-0)。以来「平成の激闘王」の呼称が、ボコボコに腫れ上がった顔とともに代名詞となった。
◎井岡のベスト・パフォーマンス
井岡一翔 判定12R(3-0) 八重樫東
2012年6月20日/大阪府立体育会館(エディオン・アリーナ大阪)
https://www.youtube.com/watch?v=LDfgt-QZn4Q
ミニマム級のV2戦と統一戦のコーナーにサラスの姿はなく、L・フライ級に上げて以降、師弟関係は途絶えてしまう。そして、WBAスーパー王者ローマン・ゴンサレスのおこぼれで正規王座を獲得すると、世界ランカーとは名ばかりの二線級(実質ローカル・クラス)との防衛戦が続く。
倒して当然の相手をちゃんとし止めた点以外、ほとんど評価に値しない。世界ランキングの肩書きに恥じない挑戦者は、108ポンドのラスト・マッチとなったフェリックス・アルバラード(後のIBF王者)のみ。
一法トレーナーとのコンビで楽な防衛戦(失礼)を消化する。緊張感と集中力を失い、がに股ステップと前を向いた直立気味の上半身、無駄にバラけるガードに戻ってしまい、超高性能レーダーの精度を徐々に鈍らせ、無駄に錆付かせて行った。
◎L・フライ級レギュラー王座の防衛戦
<1>ウィサヌ・ゴーキャットジム(タイ)
2013年5月8日/大阪府立体育会館(ボディメーカーコロシアム)
※9回TKO勝ち(V1)
https://www.youtube.com/watch?v=G-KRQ2Q3D3I
<2>フェリックス・アルバラード(ニカラグァ)
2013年12月31日//大阪府立体育会館(ボディメーカーコロシアム)
※12回3-0判定勝ち(V3)
https://www.youtube.com/watch?v=EEMCIdjnoX8
最終的に、チョコラティートとのWBA内統一戦を回避したままフライ級に進出。これが熱心なファンの反感を買う。さらに「問題なく3階級制覇する」と豪語した初陣で、IBF王者アムナットに完(惨)敗。「階級の壁」にぶつかった井岡は、テストマッチを2試合こなしてWBAレギュラー王座を奪取する。
L・フライ級時代に比べれば、挑戦者の質は幾らかマシになったとは言え、クラス最強と目されるスーパー王者ファン・F・エストラーダを存在しないものとするTBSの尻馬に乗り、冴えないパフォーマンスとは裏腹な「我こそは最強」宣言。108ポンドに続く最強王者無視の姿勢が災いして、井岡はファンの支持を失った。
◎フライ級時代の井岡
<1>アムナット・ルエンロン(タイ)
2014年5月7日/大阪府立体育会館(ボディメーカーコロシアム)
※12回1-2判定負け
https://www.dailymotion.com/video/x1tkcyf
<2>ファン・カルロス・レヴェコ(亜)
2015年4月22日/大阪府立体育会館(ボディメーカーコロシアム)
※12回2-0判定勝ち(王座獲得)
https://www.dailymotion.com/video/x2nktf5
<3>キービン・ララ(ニカラグァ)
2016年7月20日/大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)
※11回KO勝ち(V3)
https://www.youtube.com/watch?v=fOCZ5YsLw2M
<4>スタンプ・キャットニワット(タイ)
2016年12月31日/
※7回TKO勝ち(V4)/キャリア2度目のダウンを奪われる
https://www.youtube.com/watch?v=obJS4gGhKO4
5度の防衛に成功した後、アルテム・ダラキアン(ウクライナ)との指名戦に向け、会長に昇格した一法トレーナーとの不仲が伝えられ、唐突な引退発表と単身渡米はまったく想定外だったが、国内ライセンスを返上して退路を断ち、生涯の師と仰ぐサラスと再会を果たしアメリカで再起。
敵地タイで露骨な地元判定に遭い、アムナットからフライ級王座を獲り逃してS・フライ級に上げたマックウィリアムズ・アローヨと対戦。文字通り、負ければ後が無い背水の陣である。
第3ラウンド終了間際、素晴らしい右のカウンターでダウンを奪って流れを引き寄せ、一進一退の攻防を実力で制して「SuperFlyシリーズ」への参戦を勝ち取った復帰戦は、恩師サラスとのトレーニングで回復した鋭さ(緊張感&集中力)と、「何が何でも勝つ」という勝利への執念が実を結んだ畢生のベスト・バウト。
◎井岡のベスト・バウト
井岡 判定12R(3-0) マックウィリアムズ・アローヨ(米)
2018年9月8日/イングルウッド・フォーラム(米/カリフォルニア)
S・フライ級12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=z_ZJYuw_LOc
2018年の暮れにマカオに飛び、フィリピンの老練ドニー・ニエテスに敗れて4階級制覇を逃したが、その後帰国してジムを開き、国内ライセンスを再取得。もう少しアメリカでやって欲しかったが、アストン・パリクテ(比)をストップしてニエテスが放棄したWBO王座を奪取。
4階級制覇の大望を果たすと、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)、田中恒成(畑中)、フランシスコ・ロドリゲス(メキシコ)らの実力者からベルトを守り、ニエテスにも雪辱。
地元判定の批判を余儀なくされたロドリゲス戦に続き、やっと実現に漕ぎ着けたWBA王者ジョシュア・フランコ(米/メキシコ系)との統一戦は、0-1のマジョリティ・ドロー。タフでアグレッシブなメキシカンを苦手にする傾向が露になった。
計量後の大幅なリバウンド(正確な数値は不明だが)を利用して、ある程度の被弾を覚悟して相手を引き出し、カウンター(右ストレート or 左ボディ)を効かせてペースを握り、我慢比べを続けて判定をもぎ取る。
幾多の曲折を経て出来上がった、今現在の井岡のスタイル。勝負強く試合運びの巧さも感じさせるけれど、打たれ(せ)るようになったこともあって、良さが伝わりづらくわかりづらい。
<1>距離をキープする為のハードジャブ(左リード)が無い
<2>フットワークが無い
<3>1発の決定力が無い(強引かつ前がかりに攻めても決め切れない=パワー不足)
<4>加齢とともにスピード(身体全体・ハンド)が鈍化
<5>接近戦でのパンチの回転力も落ちている
丁寧なジャブとコンビネーションを続けて、ハイリスクな接近戦・白兵戦をしぶとくやりくりしながら、徹底的にタイミングをブラッシュアップした入り際のカウンター(田中恒成戦で顔面への左フックが加わった)を狙う。
ミもフタもない言い方をすれば、他にやりようがない(失礼)。だから田中恒成のように、馬鹿正直なまでに無策な正面突破(失礼)を繰り返してくれると、これはもう願ったり叶ったり。
しかしその反面、必要なボディ&フットワークと駆け引き、横への揺さぶりもを駆使しつつ、ハードな消耗戦を耐え抜くタフなメキシカンとは徹底的に相性が悪い。
マルティネスはメキシコ人ではないが、容易に退くことを知らず、しつこくプレッシャーをかけ続けて打ち合いに引きずり込む。フィリピンの長期安定王者ジェルウィン・アンカハスを連破して、一気に国際的な認知と評価を得た。若く見えるが、年齢は既に32歳。
攻撃的であるがゆえにディフェンスに隙が出来易く、自らも打たれて再三ヒヤリとさせるが、生来の打たれ強さと気性の激しさで、今のところはカバーできている。
※Part 2 へ
◎井岡(35歳)/前日計量:114.6ポンド(52キロ)
現WBA S・フライ級(V1),前WBO J・バンタム級(V6/返上),元WBAフライ級(V5),元WBA L・フライ級(V3).元WBA/WBC統一ミニマム級(V3)王者
戦績:34戦31勝(16KO)2敗1分け
世界戦通算:25戦22勝(11KO)2敗1分け
アマ通算:105戦95勝 (64RSC・KO) 10敗
興国高→東農大(中退)
2008年第78回,及び2007年第77回全日本選手権準優勝
2007年第62回(秋田),及び2008年第63回(大分)国体優勝
2005年第60回(岡山),及び2006年第61回(兵庫)国体優勝
2005年第59回,及び2006年第60回インターハイ優勝
2005年第16回,及び2006年第17回高校選抜優勝
※高校6冠/階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:166センチ
※ドニー・ニエテス第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター
◎マルティネス(32歳)/前日計量:115ポンド(52.1キロ)
戦績:16戦全勝(9KO)
アマ通算:148勝2敗
2016年リオ五輪フライ級代表(1回戦:R32敗退)
2010年サウス・アメリカン・ゲームズ(南米大会/メデジン・コロンビア)銅メダル
※階級:フライ級
身長:157センチ,リーチ:163センチ
好戦的な右ボクサーファイター(スイッチもこなす)
◎前日計量/ABEMA公式
※前日計量・会見(フル映像)
ABEMA公式
https://www.youtube.com/watch?v=vKBzFEj6r6E
【発表会見】井岡一翔 vs フェルナンド・マルティネス WBA ・IBF 世界スーパーフライ級王座統一戦決定
2024年4月21日/ABEMA公式
https://abema.tv/video/episode/608-2_s100_p210
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■オフィシャル
主審:ルイス・パボン(プエルトリコ)
副審:
スタンリー・クリストドロー(南ア)
エドワード・ヘルナンデス・Sr.(米/カリフォルニア州)
ジャン・ピエール・ヴァン・イムシュート(ベルギー)
立会人(スーパーバイザー):
WBA:マリアナ・ボリソヴァ(ベラルーシ/WBAインターナショナル・コーディネイター)
IBF:ベン・ケィルティ(豪/IBF Asia担当役員)
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