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■6月21日/フォンテンブロウ(フォンテーヌブロー)・ラスベガス/WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ラファエル・エスピノサ(メキシコ) TKO4R WBO2位 セルヒオ・チリノ・サンチェス(メキシコ)
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185センチという桁外れのサイズが話題になっているエスピノサが、2位にランクされる同胞を序盤で粉砕。自身初となるラスベガスのリング(米国内は2度目)で、最高の内容と結果で初防衛に成功した。

また、トップランクとの共同プロモート契約が正式にリリースされており、本格的な米本土進出に向けた準備が整うと同時に、我らがリアル・モンスターの新たなターゲットとしても、にわかに注目を集め出している。

◎Top Rank Signs Featherweight World Champion Rafael Espinoza to Co-Promotional Contract with Zanfer Promotions
2024年6月12日/Top Rank公式
https://www.toprank.com/all-news/top-rank-signs-featherweight-world-champion-rafael-espinoza-to-co-promotional-contract-with-zanfer-promotions/


初回2分を経過しようかという辺り、クライマックスがいきなり訪れる。痩躯の大型メキシカンに似合わない(?)、それはもう見事なショートカウンターが、オアハカからやって来た挑戦者チリノの出鼻を挫いた。

王者のプレスで押される展開も、適時ジャブ,ワンツーで反撃し、ボラード(基本的にガードの外側から振るメキシコ伝統の強い右フック)気味に右を狙う挑戦者がロープ際まで後退。距離を詰めて来るエスピノサに、しっかり踏み込んでオーバーハンドの右を振るう。

しかしエスピノサは、左肩を下げながら同時に顔を右側に小さく捻り、スリッピングアウェイでチリノが振り上げた右スウィングの内側に自身の顔と頭を逃がしつつ、鋭い左ショートアッパーで正確にチリノの顎を打ち抜く。

ノールック・パンチに近い状況だが、ESPNのスロー再生を確認すると、まさにアッパーが当たるその瞬間、エスピノサは右にスリップした顔を左方向に戻して、チリノの顎を目視確認していた。

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規格外のタッパ&リーチに恵まれたエスピノサは、当たり前だが、すべての対戦相手が自分より小さい。フェザー級には160センチ台半ば前後のサイズも少なくないから、5~10センチ程度の差で済まないケースが多くなる。

小さな(相対的に)右構えのボクサーは、自分よりかなり大きな相手を攻め込む際、強めのパンチがオーバーハンドにならざるを得ず、勢い上体も伸び易くなる。真っ直ぐ打ち下ろすストレート系のクロスカウンターが最も効果的かつ一般的な対応になるが、エスピノサは独自の対策を練り上げ、より精細な技術へとブラッシュアップした。

なかなかに芸が細かい。スパーリングで反復練習を繰り返し、身体に覚え込ませたのだろうが、目の付け所がちょっと違う。

うっかりすると見逃してしまうけれど、挑戦者のチリノもかなりの長身である。公称175センチ(身長・リーチとも)だから、ジョニ・ゴン(H:170センチ/R:178センチ),ファン・カルロス・ブルゴス(H:174センチ/R:173.6センチ)よりも大きく、十分に規格外と言っていい。
※カッコ内:いずれも長谷川穂積戦の予備検診データ

外寄りの大きな右フックを振るっても上体が伸び上がることはなく、オーバースウィングによるオフバランスや、足が揃って迎撃のパンチをかわし切れず、ノーダメージの尻餅を着く心配が少ない上に、綺麗な前後左右のステップワークを操り、真っ直ぐ伸びるジャブ,ワンツーも結構な切れ味で侮れないレベルだった。


「大男総身に知恵が・・・」

コンプラが厳しく煩く問われる現在、それこそ「差別だ!」と激しく糾弾されかねず、言葉を用いる人と場合によっては即刻炎上案件になりかねないことわざだが、痩身の長身メキシカン(近いところではエマニュエル・ナバレッテ)に見受けられがちなドタバタとした脚捌き、ギクシャクしたヘンテコなリズムを、エスピノサはほとんど感じさせない。

この点に関しては、対立王者の1人レイ・バルガスも同様だが、より精部にこだわっていてバランスも良いと思う。ただし、精緻とまでは言えない。あくまで現在活躍中の大型選手の中での比較に止まる。


いずれにしても、この一撃が勝敗の行方を決定付けたと表していい。なぜなら、チリノはこの後も右オーバーハンドをトライし続けたが、踏み込みが伴わなくなった。カウンターへの警戒を優先させ、踏み込みを躊躇せざるを得なくなった。

痛烈なノックダウンを喫した挑戦者の動揺は明らか。小さな選手が大きな選手を打ち破る為には、遅かれ早かれ必ず距離を潰す必要に迫られる。突出したスピード or パワー、もしくはその両方(我らがモンスターのように)があればいいが、そんなに都合のいい話は滅多に聞かない。

フィジカルとメンタル両面に痛手を負ったチリノは、挽回の機会を作り出す間もなく追撃を受け、さらに2度のダウンを奪われ帰趨を失わせしめた


第3ラウンド終了間際、王者のプレスに押されるがまま、ニュートラルコーナー付近まで後退するチャレンジャー。ワンツー→囮の右フックからつなぐ左ボディで右脇腹を抉ると、ディレイドアクションで2度目のダウン。すぐに立ってエイト・カウントを聞くが、見るからに呼吸が荒く表情もキツそう。

そして第4ラウンド、早くも心身の限界に達しつつあるオアハカのヒーローを、これもまた大型のメキシカンらしからぬ(?)スムーズな左右のコンビネーションで追い立てると、大きな左フックをかわしざま、初回と同様の左アッパーをヒット。

一瞬間を置き、冷静に挑戦者を観察しながら右アッパーで正確に顎を射抜く。たまらずロープ際まで下がり、そのまま自ら座り込むチリノ。すぐに立ち上がろうとするも、中腰で深く前かがみになったまま、鼻をかむように鼻腔内の出血をキャンバスに落とす。


その間カウントを続けていたカリフォルニアのベテラン・レフェリー,ラウル・カイズ・Jr.が、なかなか顔を上げようとしない様子を戦意喪失と判断。終了を宣告するのと同時に、ようやく上体を起こそうとする挑戦者を速やかに抱きかかえる。

挑戦者は大人しく敗北を受け入れ、陣営からも特段の抗議や反論は無し。リング上でエスピノサが勝利者インタビューを受けている間、早くもリングを降り、悄然とした面持ちで控え室に向かっていた。

終わってみれば、戦前の掛け率通りのワンサイド。あくまで結果論に過ぎないけれど、英国の老舗ウィリアム・ヒルの数値が最も的確と言える。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
エスピノサ:-800(1.125倍)
チリノ:+550(6.5倍)

<2>betway
エスピノサ:-800(1.125倍)
チリノ:+500(6.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
エスピノサ:1/40(1.025倍)
チリノ:12/1(13倍)
ドロー:25/1(26倍)


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◎エスピノサ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:25戦全勝(21KO)
アマ経験:戦績も含めて不明
※ESPNの中継で「アマ11戦」との紹介有り
身長.リーチとも185センチ
右ボクサーファイター

◎チリノ・サンチェス(29歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:25戦23勝(12KO)2敗
アマ戦績:不明
2014年中米カリブ大会(ベラクルス/メキシコ)バンタム級銅メダル
※準決勝でロベイシー・ラミレスに0-3ポイント負け
ナショナル・オリンピック(階級不明)
2008年:銅/2010年:銀/2012年:金/2013~14年:銀
プリメーラ・プエルサ全国選手権(Campeonato Nacional de Primera Fuerza/英訳:First Force Championsip)
2013年:金/2014年:銀/2016年:金(階級不明)
※チリとドミニカで開催された国際大会でも銀メダル獲得(大会の正式名称・年度・階級不明)
WSB(World Series of Boxing):8戦
身長.リーチとも175センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=arM4EXmo1zk


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■オフィシャル

主審:ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)

副審:
ティム・チーザム(米/ネバダ州)
マックス・デルーカ(米/カリフォルニア州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)

立会人(スーパーバイザー):クレイグ・ハッブル(米/カリフォルニア州/WBO法務顧問:Administrative Advisor)