ガーロの加齢+1年半のブランクに懸念有り? - J・F・エストラーダ vs J・ロドリゲス プレビュー -
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■6月29日/フットプリント・センター,アリゾナ州フェニックス/WBC世界S・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ファン・F・エストラーダ(メキシコ) vs 前2階級制覇王者/WBC1位 ジェシー・”バム”・ロドリゲス(メキシコ)
王者 ファン・F・エストラーダ(メキシコ) vs 前2階級制覇王者/WBC1位 ジェシー・”バム”・ロドリゲス(メキシコ)
エル・ガーロ(El Gallo/ガーリョ,ガージョ:スペイン語で雄鶏等の意)が、1年半に及ぶ長期休暇を終え、ようやく実戦復帰を果たす。
今を去ること12年前。108ポンドのL・フライ級で縁を結んだロマ・ゴンと、1勝1敗で迎えた決着のリング。互いに武漢ウィルスに感染にしてしまい、2度の延期を繰り返した後、一昨(2022)年の暮れに実現したラバーマッチを2-0の判定で勝ち残った。
2-1のスプリットで9年越しの雪辱を果たしたロマ・ゴンとの再戦(2021年3月)から、予期せぬ苦闘で凋落傾向を印象付けたアルヒ・コルテス戦(2022年9月ノンタイトル12回戦)までの1年半は、主にパンデミックによる休止になる。
2008年夏のデビューだから、プロキャリアは16年の長きに及ぶ。これまで明らかにされた故障は、カルロス・クァドラスとの第1戦(2017年9月)当時の膝の負傷、統一フライ級王座(WBA・WBO)を返上して、S・フライ級への参戦に打って出る前に治療した右拳ぐらい。「無事之名馬」を地で行くタフネスぶりを発揮してきた。
容易に出口が見えない武漢ウィルス禍は、世界中の総てのアスリートに過酷なコンディション調整と維持を強いたが、三十代半ばに差し掛かろうとするエストラーダも例外では有り得ず、年齢との困難な戦いに加えて、コルテス戦から3ヶ月のスパンでラバーマッチというスケジュールも、かなりの負担を強いたことは否めない。
「万全の状態を作り上げる為に、これだけの時間(1年半)が必要だった。ゆっくり休養を取り、家族と過ごしながら少しづつエネルギーを補充して、ハードワークに戻る準備をしなければならなかった。」
メキシカン優遇がお家芸のWBCは、2021年3月にフランチャイズ王座への横滑り(エストラーダ自身の要望と公表)を承認した上で、ロマ・ゴンとのラバーマッチを正規王座決定戦と位置づけ、エストラーダの地位を保全。
パウンド・フォー・パウンドのトップ10からエル・ガーロの名前を消したリング誌も、S・フライ級の王座は継続承認してくれている。
※リング誌ランキング:J・バンタム級(2024年6月22日更新)
https://www.ringtv.com/ratings/?weightclass=286
◎参考映像:ロマ・ゴン vs エストラーダ
<1>第3戦
<2>第2戦
<3>第1戦
ロマ・ゴンとの競った展開は想定の範囲内としても、クァドラス第2戦(2020年10月/11回TKO勝ち)で喫したショッキングなノックダウン、上述したコルテス戦の不出来(目に付く被弾の増加)は、加齢による反応の鈍化は勿論、歴戦の疲労,蓄積したダメージの顕在化を認めざるを得ない。
若い頃とは回復力も違って当然だし、公表していないだけで、メンテナンスを要する怪我もそれなりに抱えていたと思われる。
こうした背景が、直前のオッズにも色濃く反映。10歳年少の”バム(バンビーノ=英語でベイビー=の略称)”の支持に傾くのは自然な流れにしても、大きく開いたマージンをどう捉えるべきか。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
エストラーダ:+450(5倍)
ロドリゲス:-400(約1.22倍)
<2>betway
エストラーダ:+500(4.75倍)
ロドリゲス:-375(1.2倍)
<3>ウィリアム・ヒル
エストラーダ:16/5(4.2倍)
ロドリゲス:2/9(約1.22倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
エストラーダ:4/1(5倍)
ロドリゲス:1/5(1.2倍)
ドロー:16/1(17倍)
両者のレコードには共通した相手が並んでいて、対戦した時期と状況・状態等を考慮する必要はあるにせよ、それらのパフォーマンスが比較され、結果としてオッズに影響すること自体は致し方のないところ。
Carlos Cuadras
◎カルロス・クァドラス(メキシコ)
■エストラーダ(2戦2勝1KO)
<1>2020年10月23日/メキシコシティ
11回TKO勝ち(第2戦)
WBC S・フライ級タイトルマッチ12回戦
<2>2017年9月9日/スタブハブ・センター(米/カリフォルニア州)
12回3-0判定勝ち(第1戦:114-113×3)
S・フライ級契約12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=u89CB7NOzdk
■ロドリゲス
2022年2月5日/フットプリント・センター(米/アリゾナ州)
12回3-0判定勝ち(117-110×2,115-112×1)
WBC S・フライ級王座決定12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=cJX9TIePjyE
◎シーサケット・ソー・ルンヴィサイ(タイ)
■エストラーダ(2戦1勝1敗)
<1>2019年4月26日/イングルウッド・フォーラム(米/カリフォルニア州)
12回3-0判定勝ち(第2戦:115-113×2,115-112×1)
WBC S・フライ級タイトルマッチ12回戦
<2>2018年2月24日/イングルウッド・フォーラム(米/カリフォルニア州)
12回0-2判定負け(第1戦:113-115,111-117,113-113)
WBC S・フライ級タイトルマッチ12回戦
■ロドリゲス
2022年6月25日/テックポート・アリーナ(米/テキサス州)
8回TKO勝ち
WBC S・フライ級タイトルマッチ12回戦
「バムは非常に優れた選手だ。強敵だよ。でも、ファン・フランシスコほど豊かな経験を持ち、賢く戦う完成されたファイターを経験するのは初めてになる。」
15歳のエストラーダ(14歳で両親を亡くしている)を発見し、その時から一緒に戦ってきたアルフレド・カバジェロ(ヘッド・トレーナー)は、アンダードッグの前評判について意に介す様子はない。
「年齢がもたらす課題は確かに様々ある。クァドラスとシーサケットは終わった。だが、ファン・フランシスコは常に若々しく、心身のケアを怠らない。本番のリングを見て貰えばわかるよ。」
若く勢いに乗る2冠王のコーナーを預かるロベルト・ガルシア(フレディ・ローチに肩を並べる超売れっ子トレーナー)も、かけ離れたオッズには慎重な姿勢を示しつつ、「3階級制覇は間違いないし、待ち受けている大きな成功への過程に過ぎない。」と、カバジェロ以上に溢れる自信を述べる。
「ファン・フランシスコはそれほど甘くない。厳しく難しい競り合いになる。けれども、私とバムの関係は特別なんだ。彼が10歳の時から、ずっと一緒にトレーニングしてきた。海千山千のベテランにどう対処すれば良いのか、私たちはすべて理解している。」
「彼のポテンシャルとアビリティは、あなた方(ブックメイカー,取材記者とファン)が考えている以上に特別なもので、このビッグチャンスを必ずモノにする。」
※写真左:アルフレド・カバジェロ&エストラーダ/写真右:ロベルト・ガルシア&バム・ロドリゲス
我らがリアル・モンスター,井上尚弥とのメガマネー・ファイトを夢見るロドリゲスが抱える最大の不安は、ズバリ「階級の壁」。
2017年3月、最軽量の105ポンドでプロ・デビューしたロドリゲスは、翌月の2戦目とそれに続く3戦目を108ポンドで仕上げると、同年11月の4戦目は、なんと126ポンド超のフェザー級で調整。
その後115ポンドまで絞り、さらに108~115ポンドの間を行き来しながら修行を続けて、S・フライ級のWBC王座をクァドラスと争ったのが2022年2月。4ヶ月後の6月には、パンデミックによる1年3ヶ月のブランクが明けた35歳のシーサケットの挑戦を受け、8回TKOに屠って引導を渡し、難敵イスラエル・ゴンサレスから3-0判定で守ったベルトを返上。
S・フライ級王座の放棄について、「意外、残念」との反応が多かったように記憶するが、「やっぱりね・・・」と納得する声も聞かれた。どちらかと言えば、私も”納得派”に入っていた。
フライ級に下げて、直ちに空位のWBO王座を獲得(2023年4月/クリスティアン・ゴンサレスに大差の12回判定勝ち)。「最良・最高のパフォーマンス」と称された、サニー・エドワーズ(英)との統一戦を制してIBF王座を吸収した。
◎参考映像:ロドリゲス vs エドワーズ(ハイライト)
2023年12月16日/デザート・ダイヤモンド・アリーナ(米アリゾナ州)
リングサイドで観戦したエストラーダも、「非常にインパクトのある勝利。素晴らしい内容だった。」と賞賛を惜しまなかったが、「112ポンドがベストなのでは?」と付言。
「S・フライ級でのタイトルマッチ2試合(クァドラス,シーサケット戦)は、今回(エドワーズ戦)ほど良くなかった。」と続けて、具体化するマッチアップに向け、チクリと一刺しするのを忘れない。
大胆に体重を増減しながらベスト・ウェイトを探ってきたのは確かで、フィジカルの強度とパワーに自信があり、小兵のハンディを克服するだけの手応えも掴んでいるのだろうが、エストラーダの率直な見解にも頷かざるを得ない。
身体全体のキレ、パンチも含めたスピード&シャープネスは、はっきりフライ級の方が優れている。前後左右のステップもスムーズで、出入りの見切りとタイミングが良く、研ぎ澄まされていて隙が少ない。
クァドラスからダウンを奪った、オーソドックスの左サイド(死角)に素早く回り込みながら放つ右アッパーは、全盛のロマチェンコを彷彿とさせる見事さだったが、あの1発以外はと言うと、計量後の大幅なリバウンドを武器にするクァドラスのフィジカル・タフネスを持て余し気味で、力負けする場面も散見された。
気の強いメキシカン同士ゆえに、1歩も譲らぬ打撃戦に雪崩れ込むのはしようがないにしても、白兵戦に固執してスピードの違いを活かし切れず、勤続疲労により十分過ぎるほど傷んでいるクァドラスと一緒にスローダウンしてしまう。
イケイケの打ちつ打たれつはなく、「打っては離れ」のクレバネスにこそ、バム・ロドリゲスの本領があると思えて仕方がない。本人が描く複数(多)階級制覇への野望も、モデル・チェンジの前提が必須という気が。無論、ご本尊様は不本意だろうけれども。
気合の入り方が違っていたのも事実だと思うが、エドワーズ戦では不用意な被弾が少なく、弛緩・膠着する展開を気にすることもなかった。
115ポンドの調整そのものに問題はない。既に何度も経験している。ただ、エドワーズ戦と同水準のスピード&シャープネスが実現可能なのかどうか。そしてその切れ味と集中力を、最終盤まで維持できるのかできないのか。
そしてそれはまた、ロドリゲス自身が熱望する井上尚弥戦のリアリティを、否応無く証明してしまうことにもなる。あくまで現時点での勝手な評価にはなるが、バンタム級の突破が大きな障害になりそう。
なかなか考えづらいことではあるが、加齢+ブランクにより想像を超えてエストラーダが錆付き、つるべ落としの黄昏に見舞われる確率はゼロではない。そうなれば、中盤~後半にかけてのストップで新旧交代。判定まで粘れたとしても、ポイントはかなりの差が開く。
反面、期待のバムがクァドラス戦やシーサケット戦並みの状態だと、一進一退の消耗戦を抜け出すことができず、僅差のスプリット・ディシジョンを失ったり、三者三様のドローで3階級制覇を獲り逃がすことになりかねない。
拙ブログの予想は・・・5.25 vs 4.75でエストラーダ。僅差の判定防衛(2-1もしくは2-0)としておこう。
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=ss6sbVXE-xk
◎エストラーダ(34歳)/前日計量:115ポンド
現WBC S・フライ級王者(V0),前WBC S・フライ級(V3),前WBA S・フライ級(V0/返上)王者
元WBA・WBO統一フライ級王者(V5/返上)
戦績:47戦44勝(28KO)3敗
世界戦通算:12戦10勝(6KO)2敗
アマ通算:94勝(50RSC・KO)4敗
ジュニア国内選手権優勝×4度
※戦績も含め自己申告
身長:163センチ,リーチ:168センチ
右ボクサーファイター
◎J・ロドリゲス(24歳)/前日計量:115ポンド
前WBOフライ級(V1/統一王座返上),前IBFフライ級(V0/統一王者返上)元WBC S・フライ級王者(V2/返上)
戦績:19戦全勝(12KO)
世界戦通算:5戦全勝(2KO)
アマ戦績:不明
2015年ジュニア世界選手権(サンクトペテルブルク/ロシア)銀メダル(U17/ピン級)
2015~2016年ジュニア全米選手権2連覇(U17/ピン級)
身長:163センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター
※ロドリゲスの略歴に触れた過去記事
2021年10月16日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/eefdd457c396c442bc8afaa8abf1ac8a
◎前日計量
※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=LEHRtC02-dY