モンスター改め白虎(びゃっこ)が黒彪を一呑み? - 東京ドーム4大決戦 プレビュー 1-3 -
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■5月6日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)
■ドーピング違反&体重オーバー対策
3月6日に大橋会長が取材陣に方針を語り、その後明らかにした”ネリー対策”を時間軸に沿って示す。
<1>2024年2月20日:JBCがネリーのサスペンド(日本国内の無期限資格停止)解除に着手
<2>2024年2月26日:JBCがネリーのライセンス容認を正式発表
<3>2024年3月6日:発表会見(反省モードのネリー/終始一貫殊勝な態度+取材陣の前で山中に謝罪)
<4>2024年3月6日:WBCによる厳格なウェイトの監視+抜き打ちのドーピングテスト実施を公表
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□予備計量
1)3月4日 試合45日前(上限規定無し):井上61.2キロ/ネリー134ポンド(約60.8キロ)=書類での提出
2)4月6日 30日前(リミット+10%=134.2ポンド/60.8キロ):井上60.5キロ/ネリー130.6ポンド(約59.2キロ)
3)4月19日 14日前(リミット+5%=128.1ポンド/58.2キロ):井上58.1キロ/ネリー127.6ポンド(約57.9キロ)
4)4月29日 7日前(調印式リミット+3%=125.7ポンド/57.0キロ):井上57キロ/ネリー124.8ポンド(56.6キロ)
※急激な体重減少の抑制・監視に努める
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<5>2024年3月21日:メキシコのViva Promotionsがネリーのドーピング検査クリア公表
※ネリー自身もリポスト
<6>2024年4月10日:万が一の事態に備えてT・J・ドヘニー招聘を発表(ノンタイトルマッチを用意した上でリザーバーに指名/4団体とも承認済み)
<7>2024年4月18日:WBCが両者のランダム・テストクリアを公表
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前日計量の前に、合計4回の予備計量を実施。さらに、WBCの全面的な支援により、「VADA(The Voluntary Anti-Doping Association )」が複数回の抜き打ちドーピング検査を行う。
2016年5月、WBCは「クリーン・プログラム」と称する独自のドーピング検査規定を導入した。WBCの世界チャンピオンと全階級のランカーに対して、五輪基準の抜き打ち検査を義務付けし、該当する選手がプログラムへの登録を拒否した場合、ランキングから除外される(王者はベルトはく奪+除外)。
検査を委託されたのは、上述したVADA。ラスベガスに所在する民間検査機関で、対戦を切望するフロイド・メイウェザーからドーピング違反を疑われたマニー・パッキャオの潔白を証明するべく、ボブ・アラム率いるトップランクが五輪基準の抜き打ち検査を依頼したのが、ボクシング業界と関わりを持つ発端となった。
同様に禁止薬物の使用を公然と噂されたノニト・ドネアも、VADAの協力を得てアマチュアと同様の「競技会外検査」を実施。向こう1年間のトレーニングに関する行動予定表(居場所情報)を提出し、検査員(DCO:ドーピングコントロールオフィサー)が予告無しに現れ、血液&尿検査をランダムに実施する。
尚弥自身、昨年3月16日付けの公式Xで「週二は来すぎでしょ。」と、VADAのランダム・テストを受けたことを報告している他、SNSと動画配信による情報発信に積極的な赤穂亮が、youtubeの公式チャンネルで「本当に突然来た」と明かしていた。
VADAの検査員がノーアポで横浜光ジムに現れ、その時間にジムワークを予定していなかった赤穂は、緊急招集を受けて大急ぎでジムに駆けつけたらしい。
WBC&WBOの2冠王スティーブン・フルトンへの挑戦が正式にリリースされたのが、奇しくも1年前の3月6日。それから1週間ほどして、VADAの検査員が立て続けに2度も訪れた。
抜き打ちドーピングテスト
— 井上尚弥 Naoya Inoue (@naoyainoue_410) March 16, 2023
週二は来すぎでしょ。。 pic.twitter.com/8vj6DsSOJy
洋の東西を問わず、プロスポーツの統括団体は五輪基準の厳格なテストに否定的で、世界中を震撼させた「バルコ・スキャンダル(2003年発覚)」を経験した王国アメリカにおいても、基本的な構図は今も変わらない。
ボクシングとMMAを所管する全米の各州アスレチック・コミッション(もしくは統括部局)は、試合前後の尿検査のみを義務付けている。
血液検査を含むランダム・テストをやらないのは、ヒューマン・リソース込みの経済的な理由によるものだが、実態はもっと本質的な経済原則に基づく。人気選手を片っ端からサスペンドしていたら、興行が成り立たない。
パッキャオを激しく非難したメイウェザーは、五輪基準のランダム・テストにいち早く取り組んだボクシング界の先駆者として知られているが、試合の契約を交わす都度、任意の条項として対戦相手に実施を要求し、USADA(U.S. Anti-Doping Agency:米国アンチ・ドーピング機関)に検査を依頼している。
大金を稼ぐ千載一遇のチャンスを棒に振るボクサーが居る訳もなく、メイウェザー戦をオファーされれば、USADAのランダムテストを拒否する変わり者はまずいない。
アラムが「検体のすり替えやデータの改ざん」といった不正のリスクに言及し、USADAではなくVADAを選んだのは、「メイウェザーに利する」ことを嫌った交渉上の駆け引きだが、同時にメイウェザーの試合が行われるラスベガス(MGMグランド)を管轄するネバダ州へのけん制も兼ねていた。
メイウェザー自身にも複数回の陽性反応に関するリークがあり、ネバダ州による隠蔽疑惑の噂が流れたり、5年超の時間を経てようやく実現したパッキャオ戦では、前日計量を終えた後、回復を促進する為「合法の薬品をWADAが禁止する方法(静脈注射:点滴)」で摂取したことが明らかとなっている。
メイウェザーは「ネバダ州のルールには抵触していない」と開き直ったが、自身が立ち上げたプロモーションの支配下選手が相次いでドーピング違反で処分を受けるなど、無傷を主張できる立場にはない。
カネロにレイ・バルガス、フリオ・C・マルティネス,フランシスコ・バルガス・・・。メキシコ産牛肉を言い訳にしたクレンブテロール(ジルパテロール)の悪用は、今やメキシカントップボクサーの常套手段と化した感さえある。
ブラジルの五輪金メダリスト,ロブソン・コンセイソンとの防衛戦(2021年9月/アリゾナ州ツーソン)に際して、WADA(World Anti-Doping Agency:世界アンチ・ドーピング機関)が禁止薬物に指定するフェンテルミン(向精神薬)の陽性反応を示したオスカル・バルデスは、「常飲していたハーブティーが原因」だとのたまい、WBCも「基準値を超えたと言っても、極めて微量だった」と仰天するような言い訳を押し通し、タイトルマッチを容認(開催はあくまでアリゾナ州)。
メキシカン優遇が目に余るWBCを盲信することも憚られるが、井岡一翔との一件(入れ墨問題に続く大麻成分の陽性反応)で、お粗末過ぎて話にならないドーピング検査体制を露呈したJBCに、前歴者ネリーとの試合運営を全面的に委ねることはできない。
各国の有力なプロモーターとズブズブの世界王座認定機関が、本来コミッションの領分である筈のドーピング検査をやるのは筋違いなのだが、適切な検査体制をJBCに期待できない以上、WBCを通じてVADAに頼る以外に現実的な解決策がないことも事実。。ことドーピング検査に関する限り、「JBCよりはマシ」という結論にならざるを得ない。
本来なら、JADA(Japan Anti-Doping Agency:日本アンチ・ドーピング機構)のバックアップを仰ぎたい場面ではあるものの、JBCのJADA加盟は夢物語。日本国内で行われるJBC管轄の公式戦は無論のこと、ライセンスを認めたすべてのプロ選手に対して、定期的な尿検査の義務付すらできないのが現実(コスト負担に耐えられない)。
※五輪基準を満たす必要があるアマチュアを統括する日連(日本ボクシング連盟)はJADA加盟団体
ましてや、血液検査を含むランダム・テスト(抜き打ち検査)など以ての外。誰がその費用を調達・負担するのか・・・。
山中 vs ネリー第1戦と同様、直近の抜き打ち検査の結果が公表されるまで、試合が終わってから、早くとも数週間を要するだろう。
開始前のリングコールに際して、我が国の世界戦では「コミッショナー宣言」が必ず行われる。厳正な予備検診と計量をパスしたから、JBCはこの試合を正式に世界タイトルマッチとして認める云々という例の下りだ。
試合を所管するコミッショナーとして当然なのだが、ならばドーピング違反が発覚した場合、欧米に倣って結果をノーコンテストに改めるべきなのに、嘆かわしくもJBCにはその責任を果たす気が無い。
WBCは山中をチャンピオンとして再承認する意思を日本側に伝えたが、「どういう理由があるにせよ、KO負けしておいてそれはできない」と断っている。潔いのは素晴らしいことだが、王国アメリカやメキシコの関係者と選手たちが聞いたら、口をあんぐりと開いて「日本人はバカなのか?」と呆れる筈だ。
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◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:26戦全勝(23KO)
現WBC・WBO統一S・バンタム級王者
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:21戦全勝(19KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)
◎ネリー(29歳)/前日計量:120.8ポンド(54.8キロ)
現WBC S・バンタム級(V0) ,元WBCバンタム級(V0)王者
戦績:36戦35勝(27KO)1敗
アマ戦績:9戦全勝(5KO・RSC)
身長:165センチ,リーチ:167センチ
※山中第2戦の予備検診データ
左ボクサーファイター
ネリーの500グラムアンダーについて、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。調整の失敗に言及するインフルエンサー(あくまでボクシングの話題限定)も居て、なかなかにかまびすしい。
しかし、ネリーは130ポンド契約でカルモナ戦をやったかと思えば、直近のサルダール戦を119ポンドで仕上げたり、大胆にウェイトを上げ下げしている。本気で追い込めば、今でもバンタム級でやれないこともないのでは?。
自身もピークにあったS・フライ級時代、WBOのベルトを保持する尚弥にアタックして、慢性化した減量苦+右拳の負傷に腰痛まで加わり、満身創痍の割引モンスターだったとは言え、12ラウンズをフルに持ち応えたカルモナに130ポンドを呑ませたのは、前戦から8ヶ月の間隔が開いて完全にオフしていた為だろう。
僅かでもオーバーした瞬間、ボクシング人生最大のビッグ・マネー・ファイトを、リザーバーのT・J・ドヘニーにさらわれてしまう。何があってもリミット以下に落とさなければと、素行不良の問題児なりに取り組んだ結果だと考えるのが妥当。
◎前日計量(トップランク公式チャンネルにアップされたハイライト)
◎Inoue Picks Gloves, Has Final Words for Nery | Undisputed Fight Monday Morning ESPN+
トップランク公式(グローブチェックの様子と囲みのインタビューを収めた別バージョンのハイライト)
◎前日計量フル映像(公式)
Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=wgw-XvtA9ag
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■オフィシャル
主審:マイケル・グリフィン(カナダ)
副審:
ホセ・アルベルト・トーレス(プエルトリコ)
アダム・ハイト(豪)
ベノイ・ルーセル(カナダ)
立会人(スーパーバイザー):
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ドゥウェイン・フォード(米/NABF会長)
IBF:安河内剛(日/JBC事務局長)
WBO:レオン・パノンチィーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)