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■5月6日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)


■WBCは信頼に足る組織なのか?

JBCの無期限出場停止(JBCの権限が及ぶ日本国内限定)を支持するとの態度を明らかにしたWBCだが、山中との再戦から7ヶ月後の2018年10月、ネリーはフィリピン人ローカル・ランカーを呼び、地元ティファナであっさり復帰。なおかつ、WBCはバンタム級のシルバー王座を承認した。

2019年3月と7月、いずれもバンタム級契約で、マックジョー・アローヨ(米/元IBF J・バンタム級王者/アンカハスに敗れてバンタム級に進出)とファン・C・パジャーノ(ドミニカ)を連破。

◎試合映像:ネリー RTD4R アローヨ


◎試合映像:ネリー 9回KO パジャーノ



復調をアピールしたネリーは、11月23日にエマヌエル・ロドリゲスとのエリミネーター(WBC)に同意したが、前日計量で1ポンドオーバー。すぐに水分補給を行い、再計量を拒否したネリーに激怒したロドリゲス陣営は、報酬の増額をもちかけられても応じず出場を拒否。大きなトラブルに発展した。

実力者ロドリゲスを前に、性懲りも無く意図的な体重超過をやらかす。勝つ為には手段を選ばない。山中に対する狼藉を反省するどころか、本性がまったく変わっていないことを自ら暴露した。

ロドリゲスとの指名戦を潰したネリーは、S・バンタム級への階級アップを正式に表明。この時点でネリーはWBCのランキングに入っていなかったが、二桁台の下位ランカー,アーロン・アラメダ(メキシコ)とのエリミネーターが承認される(2020年2月)。

3月28日にラスベガスのパーク・シアターで行われる予定だったが、パンデミックの影響でCDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)が150名を超えるイベントの中止を決定。

7月18日にロサンゼルス開催でリ・スケジュールされ、さらに8月1日(コネチカット州アンキャンスビル)、8月29日(開催場所は変わらず)と変遷する。この間WBCは、7月の月例ランキングでネリーをS・バンタム級の1位に据えた後、8月14日はフェザー級への転出が規定の路線になっていたレイ・バルガスから、S・バンタム級の正規王座をはく奪。

パンデミックによる休止に加えて、バルガスは足の怪我を理由に、亀田和毅との防衛戦(2019年7月/V5)以降リングから遠ざかっていた。


再延期を繰り返したネリー vs アラメダ戦は、空位となった王座決定戦に昇格。9月26日にコネチカットのモヒガンサン・カジノでゴングが鳴り、サイズで勝りタフなアラメダを攻めあぐねたが、小~大差の割れた3-0判定勝ち(115-113,116-112,118-110)。WBCの強引な後押しを受けて2階級制覇を達成。

◎試合映像:ネリー UD12R アラメダ



陣営は一気に勝負に出て、WBA王座を保持するテキサスの雄,ブランドン・フィゲロアとの統一戦に臨み、アラメダ戦に続いて自慢のパワーで押し切ることができず、激しい打撃戦の末に左ボディのカウンターで見事にレバーを抉られ、苦痛にうめきながらの7回KO負け。

パジャーノを悶絶させた左のレバーブローをまともに食らい、同じように苦悶するネリーの姿を見て、フィゲロアに声援を贈った多くの日本のファンは大喜び。長身痩躯のフィゲロアは、ベイビーフェイスの二枚目とは裏腹なファイタータイプで、試合の度に丁々発止の白兵戦に雪崩れ込み顔を腫らす。

ネリーが放つ右強打で開始早々グラついたが、強靭なフィジカル・タフネスを頼りに持ち直して、ネリーの顔面にも多くの傷を付けた。

◎試合映像:フィゲロア KO7R ネリー



フィゲロアにプロ初黒星を献上した後、ネリーは4戦をこなして全勝(3KO)。2022年2月の再起戦は、アリゾナ在住で無傷の27連勝(12KO)を更新中のカルロス・カストロに攻勢を許し、小差の2-1判定で何とか勝ち残ったが、同年10月に130ポンド契約(!)で組まれたデヴィッド・カルモナ(115ポンドを主戦場にして不調だったとは言え井上尚弥相手に判定まで粘っている)との調整試合を3回KOで一蹴。

WBCからエリミネーター(いったい何度目?)に指定された昨年2月のホヴァニシアン戦を11回KO(カリフォルニア州ルールでレフェリーストップもKOになる)で生き残る。

カルモナ戦を除く3試合をS・バンタム級リミットの調整を経験して、ようやく122ポンドに身体がフィットしてきた印象を与えたが、昨年7月のチューンナップは、119ポンドでの調整。

フライ級で木村翔のWBO王座に挑み、6回KOに散ってバンタム級にアップしたフロイライン・サルダール(比)を、メキシコシティ近郊のメテペクで2回に粉砕。サルダール(118ポンドで計量)のウェイトに合わせたとも取れるが、バンタム級への出戻りを模索した可能性も否定できない。

◎試合映像:ネリー KO3R カルモナ
Zanfer Promotions


でっぷりと肥えたカルモナに比べると、重そうではあるものの、ネリーの上半身は思いのほかシェイプを保っている。フィジカルのポテンシャルが高いのは疑う余地がなく、IBFルールのリバウンド制限(リミット+10ポンド)&当日計量を義務付けした方が良かったのではないかと、要らぬ老婆心が鎌首をもたげて困ってしまう。

55.2キロ(S・バンタム級のリミットを100グラムアンダー)で仕上げた尚弥も、一晩で61キロ前後(ライト級リミット)まで戻す。増量はおおよそ13ポンドになり、IBFが定める上限をオーバーする。IBFルールを避けたのは、尚弥自身の調整も考えてのこと。

カルモナ戦の映像を見ると、ネリーは余裕で140ポンドのS・ライト級か、142~143ポンドのウェルター級まで増やしてくるかもしれない。


◎試合映像:ネリー TKO2R サルダール


ネリーが存分に本領を発揮できるのは、やはりバンタム級だという気がする。これぐらい絞らないと、山中をあっという間に追い詰めたキレと迫力,一気呵成の勢いが出ない。相手のサイズと耐久性も含めて、S・バンタム級では本来の良さを活かし切れないと感じる。


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■ホヴァニシアン戦の評価

リング誌が2023年度のファイト・オブ・ジ・イヤーに選出したこの試合は、「打たれ強さ&強打」という、互いの持ち味が最大限に発揮されたグッド・ファイト。ダメージも甚大だったと思う。

最後は爆発力に勝るネリーに軍配が上がったけれど、ホヴァニシアンにあと少しの狡猾さがあったら、逆の目が出ていた可能性も高い。文字通りの一進一退であり、命を削るような打撃戦だった。

◎ネリー 11回KO ホヴァニシアン



ホヴァニシアンの頑強さには以前から定評があり、NHKのドキュメンタリーが一瞬だけ捉えていた尚弥とのスパーリングでも、少々打たれても怯まない心身の強さが良く出ている。

ネリーの強打も真正面から受け止めるに違いなく、フィゲロア戦で既に証明されていたことではあるが、パンテーラの打たれ強さがS・バンタムでも頭1つ抜けたものかどうか、アルメニアの破壊神が証明してくれると誰もが思った。

かく言う私は、ダウンの応酬も込みでホヴァニシアンの終盤ストップ勝ちを予想したが、どちらも外れてネリーに凱歌が上がる。敗れたホヴァニシアンは潔くネリーを賞賛。ステロイドの助けを借りずにここまでやれたのなら、S・バンタムにアジャストしたと評していいのではないか。

いくばくかの疑念も残しつつ、そう思った。


S・バンタムに上げて以降、アラメダ戦,フィゲロア戦,カストロ戦と厳しいマッチアップが続き、山中を粉砕した圧倒的な回転力と破壊的な勢いが見られない。再びステロイドに手を出すのではないかと、そんな危うささえ感じてしまう。

山中を2タテしたのは、2017年~2018年。あれから6,7年が経過しており、「増量の影響もあるだろうが、単純にピークアウトしただけ」との意見も聞かれた。

カネロのチームに合流してエディ・レイノソの指導を受けたが、すぐに元サヤ(山中との2試合に帯同したコーチ,イスマエル・ロドリゲス)に戻る。体重オーバーで消滅したが、ロドリゲス戦の時はフレディ・ローチの支援を受けた。

ローチとの関係もこの失敗で破綻。一度も一緒に戦うことなく終了。フィゲロアにKOされた後、タイソン・フューリーとリナレスをサポートしたホルヘ・カペティーリョの招聘が伝えられるも、結局は元サヤを選択している。

今回チーフ格として紹介されたのは、サミール・ロサーノという比較的若いトレーナー。還暦は過ぎているであろうイスマエル・ロドリゲスのアシスタントとして、山中との2試合にも付いてきていたという。


居心地がいいのは確かなのだろうが、山中第1戦の悪夢がどうしても頭から離れない。八重樫東が自身のyoutubeチャンネルで、「(どんな手を使っても)勝てばいいって思う選手なんで」でと述べている通り。

「Going」に映像で出演した山中も、ネリーの怖さについて聞かれと、「どんな大事な試合でも平気で体重オーバーしてくる。凄いメンタル」と、皮肉交じりに苦笑しながら答えていた。

yama


「1ポンドでもオーバーしたら試合はやらない。もしもそうなったら?。ファイトマネーも払いません。ドーピングも同じ・・・」

3月6日の発表会見が終わった後、囲み取材に応じた大橋会長がそう明言して、さらにその後、幾重にも用意した”ネリー対策”が明らかになる。


◎「日本の至宝を全力で守る」決意を述べる大橋会長
2024年3月6日/マイナビニュース



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◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:26戦全勝(23KO)
現WBC・WBO統一S・バンタム級王者
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:21戦全勝(19KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎ネリー(29歳)/前日計量:120.8ポンド(54.8キロ)
現WBC S・バンタム級(V0) ,元WBCバンタム級(V0)王者
戦績:36戦35勝(27KO)1敗
アマ戦績:9戦全勝(5KO・RSC)
身長:165センチ,リーチ:167センチ
※山中第2戦の予備検診データ
左ボクサーファイター

ネリーの500グラムアンダーについて、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。調整の失敗に言及するインフルエンサー(あくまでボクシングの話題限定)も居て、なかなかにかまびすしい。

しかし、ネリーは130ポンド契約でカルモナ戦をやったかと思えば、直近のサルダール戦を119ポンドで仕上げたり、大胆にウェイトを上げ下げしている。本気で追い込めば、今でもバンタム級でやれないこともないのでは?。

自身もピークにあったS・フライ級時代、WBOのベルトを保持する尚弥にアタックして、慢性化した減量苦+右拳の負傷に腰痛まで加わり、満身創痍の割引モンスターだったとは言え、12ラウンズをフルに持ち応えたカルモナに130ポンドを呑ませたのは、前戦から8ヶ月の間隔が開いて完全にオフしていた為だろう。

僅かでもオーバーした瞬間、ボクシング人生最大のビッグ・マネー・ファイトを、リザーバーのT・J・ドヘニーにさらわれてしまう。何があってもリミット以下に落とさなければと、素行不良の問題児なりに取り組んだ結果だと考えるのが妥当。

◎前日計量(トップランク公式チャンネルにアップされたハイライト)


◎Inoue Picks Gloves, Has Final Words for Nery | Undisputed Fight Monday Morning ESPN+
トップランク公式(グローブチェックの様子と囲みのインタビューを収めた別バージョンのハイライト)


◎前日計量フル映像(公式)
Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=wgw-XvtA9ag


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■オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
ホセ・アルベルト・トーレス(プエルトリコ)
アダム・ハイト(豪)
ベノイ・ルーセル(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ドゥウェイン・フォード(米/NABF会長)
IBF:安河内剛(日/JBC事務局長)
WBO:レオン・パノンチィーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)