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■5月4日/エディオンアリーナ大阪/IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs IBF1位 西田凌佑(六島)




ニュース&ネット絶ちで、系列キー局のTBSが2日後に行う録画放送(深夜枠)を楽しみに待つ間、「西田が下馬評をひっくり返せるかどうかはともかく、現状の比嘉では楽に勝たせては貰えない筈・・・」等と勝手にイメージを膨らませていた。

とりわけ気になっていたのがクリンチである。大森の前進と強振を、基本的にはステップワークとジャブで捌いた西田が、小兵ながらも重量感にしつこさを伴う比嘉のプレスを受けて、同じようにクリンチ無しで対応できるのか。

ハードジャブが無くフィジカルの強度に不満が残る今の西田だと、サイドに逃げる間もなく距離を潰されて、上から覆い被さるしかなくなるんじゃないか。西田はアッパーも悪くないけれど、残念ながら比嘉の圧力を弾き返すだけのフィジカル・パワーは無い(今のところ)。


果たして比嘉は、想定された以上にキツい圧力でひたすら前に出る。初回から西田はロープを背負い、大森戦のようにサイドに回り込む余裕が無く、クリンチで逃れるしかなくなった。

しかし、比嘉のパンチは見えている。下から振り上げる左右のフックやアッパーを時折貰うが、不恰好な組み付きでも、重要な攻撃の起点になる比嘉のボディアタックを防ぎ、決定的な被弾は許さない。

そして比嘉の出足の遅さ(追い足・逃げ足両方の鈍化)にも助けられ、ジャブ&ワンツーを刺し込み、左アッパーや打ち下ろしの左、返しの右フック等々、こちらも致命傷には至らないが、精度,命中率で明白に西田が上回る。


「無駄に空回りしたくない。」

地元開催が仇となって余計な力みを生じ、やる気だけが空転する悪循環だけは避けたい。盟友であり戦友でもある野木丈司トレーナーは、試合前、西田について最も警戒する点について問われると、そう答えていた。

西田独特の”捌くボクシング”を、自由にやらせない自信はある。ただ、一気に突き進んで崩し切れずにラウンドが長引くと・・・。


野木トレーナーが恐れた空回りこそしていなかったと思うが、内容と結果は心配された通り。9ラウンド以降、未体験ゾーン突入以後も西田は息切れせず、逆に戦闘意欲の落ちた比嘉をロープに釘付けにして連打を畳み込むなど見せ場を作り、セーフティ・リードを保ってゴールテープを切った。

大森戦に続くアップセット。誰の眼にも勝者は明らかだが、比嘉のバックアップに全振りとなった周囲の状況が、レフェリーの裁定やスコアリング(採点競技)に影響するホーム・アドバンテージは、ボクシングに限らずありとあらゆるスポーツにおける日常茶飯だ。

最終盤まで前に出続けた比嘉のアグレッシブネスを、思いのほかジャッジが取ることも想定の範囲内。「拮った採点ならまだしも・・・」と嫌な予感に襲われつつ、結果を告げるリング・コールに
耳を欹てる。


「ジャッジ岩崎117-111、青コーナー西田。ジャッジ友利118-110、ジャッジ富山117-111西田・・・」

驚くほどフェアなスコアリングにいささか驚くと同時に、比嘉が新興の志成ジム(当時の名称:Ambition)ではなく、具志堅元会長(比嘉の移籍が発表された1ヶ月後の2020年7月末に白井・具志堅ジムを閉鎖)の下で現役を継続していたら、同じ結果になっていただろうかと、せんない妄想が脳裏を過ぎる。

色々言いたいことは多々あれど、とにもかくにも4戦目で元世界王者に完勝したのだから、素直に賞賛されて然るべき。しかも、アマチュア出身のボクサータイプが概して苦手にする、ゴリゴリのパワーファイターを抑え込んだ。

◎試合映像:西田 UD12R 比嘉
https://www.youtube.com/watch?v=7sjrgafmCQM

マッチメイクだけでなく、興行師としてもギャンブラーの枝川会長なら、名城信男(六島ジムが輩出した唯一の世界王者)と向井寛史(むかい・ひろふみ)に続く、3人目の促成栽培に着手するかもしれない。そう確信した。

◎枝川会長が短期勝負に出た先例
■名城信男(奈良工高→近畿大/アマ:57戦38勝19敗/20RSC・KO)
8戦目:マーティン・カスティーリョ(メキシコ)10回TKO勝ち
WBA S・フライ級王座獲得(当時の国内最速奪取タイ記録/1991年9月の辰吉丈一郎に並ぶ)
1)5戦目:本田秀伸(グリーンツダ)に10回3-0判定勝ち
2)6戦目:田中聖二(金沢)に10回TKO勝ち/日本タイトル獲得
3)7戦目:WBA2位プロスパー松浦(国際)に10回3-0判定勝ち(指名挑戦権獲得)

■向井寛史(南京都高→日大/アマ:77戦51勝26敗)
5戦目:ソニー・ボーイ・ハロ(比)に10回3-0判定勝ち(2度の世界挑戦経験有り/後のWBCフライ級王者)
6戦目:ロッキー・フェンテス(比)に10回0-3判定負け(OPBFフライ級王座挑戦)
7戦目:WBC王者ポンサックレック・ウォンジョンカム(タイ)にタイで挑戦/初回テクニカル・ドロー(バッティング)


階級はおそらく118ポンドのまま。日本ボクシング界の常識を遥かに飛び越え、天空高く舞い上がり続ける井上尚弥は、バンタム級の4団体統一に向けてまい進中。その先に、S・バンタム級への進出を見据えている。

その間にアジア・パシフィック王座の防衛戦を何度かこなし、安全確実に世界ランキングを上げ、井上返上後のバンタム級で2人目の世界王者誕生を狙う。

2021年12月、真正ジムの大橋哲朗を中~大差の3-0判定に退けると、無名のフィリピン人(2022年10月)、2度来日経験のあるタイ人(2023年8月/2019年3月岐阜で畑中健人に8回TKO負け)を呼んで、いずれもフルマークの判定勝ち。

◎激アツのバンタム級!WBOAPタイトルマッチ
2021年12月18日/Sportsnavi
https://sports.yahoo.co.jp/video/player/6016144


武漢ウィルスの蔓延が本格化し出した2020年は1試合のみとなったが、アジア・パシフィックのベルトを3度守る間に、日本が誇るリアル・モンスターは公言していた通り、122ポンド最強の呼び声も高いスティーブン・フルトン(米)を一気に呑み込んで圧勝。

すると枝川会長は、8位にランクインしていたWBOではなく、5位に付けるIBFを選択(昨年5月時点)。8月12日に、現王者ロドリゲス(2位)と3位メルヴィン・ロペス(ニカラグァ)による決定戦が予定されており、IBFは5位の西田と6位クリスティアン・メディナ(メキシコ)に挑戦者決定戦を指示。

ロドリゲスとロペスの決定戦がまとまった後、やはりIBF7位に位置する栗原慶太(一力)との決定戦実現の風聞も流れたが、6位のメディナに権利が与えられる。
※4位レイマート・ガバーリョ(比)は玉突きで1位に上がったWBO狙い


ロドリゲス vs ロペス戦と同じ、昨年8月11日(日本時間)。今回と同じエディオン・アリーナ大阪で、若く伸び盛りのメディナ(23歳)と対峙した西田は、体幹がしっかりしてパンチにも切れと力感が増していた。それ相応のフィジカル・トレーニングにも、励んでいたのだと推察する。

3度の地域王座防衛で得た経験が自信にもつながり、冷静に展開を読み、慌てず騒がずポイントメイクに注力するスタイルに撤して、おかしな色気やヤマっ気とは無縁な戦い方に磨きがかかり、いい意味でのふてぶてしさ、プロらしさが漂う。

メディナも年齢に似ずよくまとまっていて、世界を狙うメキシカンに相応しいフィジカルの強さとメンタル・タフネスを併せ持ち、ディフェンスを含めたベーシックな技術も確かな好選手だったが、反面突出した武器が無くスピードは西田に分がある。


指名挑戦権を懸けたこの試合でも、西田は無駄な被弾を防ぎつつ、精度を最優先にした適切な手数を、落ち着きを失わずに適切なタイミングで使う。展開を推し量る計算と読みが、一進一退の拮抗した攻防を僅かに引き寄せ、焦れたメディナが粗雑になりかける隙を突く。

後半~終盤にかけて、ポイントの不利(アウェイのディス・アドバンテージ込み)を自覚したメディナが攻勢を強めると、無理をせずに適時クリンチワークを使って分断。最後まで集中を切らすことなく、丁寧にラウンドをまとめて12ラウンズを乗り切った。

イリノイ州(米/117-111),オーストラリア(118-110),ポーランド(116-112)から派遣されたオフィシャル・ジャッジは、中~大差の3-0で西田を支持(主審:福地勇治)。

◎試合映像:西田 UD12R C・メディナ
https://www.youtube.com/watch?v=A1Ev_HS3vAc

慎重なペースメイクでをやりくりしたスタミナを、疲労と焦りで相手の集中力が途切れがちになる後半~終盤に開放して、ダメを押しつつ明白な勝利を印象付けて逃げ切る。誇大に響くのは止むを得ず、お許しいただくしかないけれど、”和製メイウェザー”の評判を取る所以。

がしかし、井上尚弥によって蹂躙された118ポンドで、中谷潤人を抑えて最強に推す声も多いロドリゲスは、攻防のキメが細かく多彩なコンビネーションで硬軟を使い分ける器用さと、例えば井上戦の第1ラウンドのように、リスクを厭わず果敢に攻め込む大胆さも大きな特徴の1つ。

西田に対しても、まずは強引に突っかけては退き、「無い」と断定されたパンチング・パワーから、長所とされるディフェンス・ラインの質まで、早い時間帯で見極めるに違いない。

対サウスポーにおけるポジショニング、時々のディスタンスに応じて、ショートとロングを的確に打ち分ける右ストレートのカウンター、開いたところを抜け目なく襲う左フック(上下)と左アッパーは、並みのランカーを容易に寄せ付けないレベルにある。

圧力に押されて一方的に後退を強いられ、あっという間に余裕を失う恐れまではないにしても、反撃を急いで上手く引き出され、序盤に右を痛打されて前半戦を持って行かれると、そのままズルズル流れてしまいかねない。


直前のオッズは予想に反して接近しているが、これもまた”モンスター効果”の成せる業か。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ロドリゲス:-190(約1.53倍)
西田:+160(2.6倍)

<2>betway
ロドリゲス:-188(約1.53倍)
西田:+150(2.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ロドリゲス:1/2(1.5倍)
西田:6/4(2.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
ロドリゲス:4/7(約1.57倍)
西田:9/4(3.25倍)
ドロー:18/1(15倍)


「この選手は化けるかもしれない。」

デビュー期に多くのファンに期待を抱かせたにもかかわらず、大成できずに終わるケースは枚挙に暇がなく、将来を嘱望される西田も、ロドリゲスにワンサイドで敗れる事態になればどうなってもおかしくはない。

再起の道筋を見誤れば、拙速なマッチメイクでホープを潰す、嫌というほど見せ付けられた過去の失敗を繰り返すことになるだろう。


「負けて当然」

IBF1位のランキングは分不相応。現在地を他者の目線で俯瞰する冷徹さも、”本物のプロのクレバネス”には必須の要素と理解し、どのような結果になろうとも、その戦い方と同様、慌てず騒がずゆっくり対処して欲しいと願う。


◎ロドリゲス(31歳)/前日計量:117.75ポンド(53.4キロ)
当日計量:126.5ポンド(57.4キロ)
※IBFルール:前日+10ポンドのリバウンド制限をクリア
戦績:25戦22勝(13KO)2敗1NC
アマ通算:171勝11敗(2012年ロンドン五輪代表候補)
2010年世界ユース選手権(バクー/アゼルバイジャン)銀メダル
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル
※階級:フライ級
身長:168センチ,リーチ:169センチ
※以下は計量時の検診
血圧:99/72
脈拍:45/分
体温:36.1℃
右ボクサーファイター


◎西田(27)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
当日計量:127.9ポンド(58キロ)
※IBFルール:前日+10ポンドのリバウンド制限をクリア
戦績:8戦全勝(1KO)
アマ通算:37勝16敗
2014(平成)年度第69回長崎国体フライ級優勝(少年の部)
王寺工高→近畿大
身長:170センチ,リーチ:173センチ
※以下は計量時の検診
血圧:127/81
脈拍:63/分
体温:36.1℃
左ボクサー


ロドリゲスの血圧にびっくりした。上が100を切っていて、眩暈や立ちくらみを起こしても不思議がないレベル。まさか心臓とか肝臓の疾患や、その他の内分泌系臓器に障害を抱えているとは思えないし、元々低血圧なだけかもしれない。計量とフェイス・オフの間、幸いにも危うさを感じさせる兆候は見られなかった。

ウェイト調整の最終段階で、一時的に極端な低血糖状態になっていたのかもしれず、そうであれば、計量を終えた直後にピザを食べていたのも頷ける。

当日の仕上がりにどう影響するのかしないのか。「コンディション?。そんなのリングに上がってみないとわからない」と言う選手も少なくない。この後宿泊先のホテルでゆっくり横になり、+10ポンド(IBF独自のリバウンド制限)の限界ギリギリまで水分を補給してさらに食べ、一晩ぐっすり寝て回復を図る訳だが・・・。


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■オフィシャル

主審:ダンレックス・タプダサン(比)

副審:
カール・ザッピア(豪)
ジル・ゴー(比)
サノング・アウムイム(タイ)

立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC事務局長)


◎前日計量&計量後の



◎LIVE配信:【西田世界戦】LUSHBOMU vol.3 feat.3150FIGHT
ABEMA ボクシング 【公式】
https://www.youtube.com/watch?v=vzJyxCtRjhU