復活を遂げた”プエルトリコのマニー”に”和製メイウェザー(?)”がアタック - E・ロドリゲス vs 西田凌佑 プレビュー Part 2 -
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■5月4日/エディオンアリーナ大阪/IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs IBF1位 西田凌佑(六島)
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs IBF1位 西田凌佑(六島)
「いいボクサーだなあ・・・」
この選手を初めて観た時、率直にそう思った。関西発の”和製メイウェザー”は言い過ぎにしても、ポテンシャルの高さに疑いを差し挟む余地はない。
かつての大場浩平や亀海喜寛のようなL字ガードの使い手ではなく、なおかつサウスポー。良くも悪くもボクシング史にその名を刻んだPPVセールスキングとの共通項は、ボクサータイプであってもフットワーカーではなく、ディフェンス重視の戦い方とKOの少なさ(8連勝/1KO)。
それでもなお、関西圏に住む眼の肥えた筋金入りのマニアたちの中から、「次はこいつ。世界王者候補の筆頭格だ」との声が上がり、長身故にウェイト維持への懸念もありつつ、無事に王座奪取が成ったあかつきには、長谷川穂積,山中慎介に続く長期安定政権への期待も膨らむ。
右のリードと細かなステップワークで自分の距離を堅持しつつ、タイミングのいい左を適時当てながら、拮抗したラウンドを引き寄せる技とセンスの冴え。ただ堅実なだけではなく、必要に応じて手数をまとめる勝負勘と相応の度胸も見せてくれる。
好戦的なファイターよりも、守備的なボクサーに有利に傾く現代のスコアリングとの相性の良さは勿論、限度を超えたクリンチワークを許容するレフェリングのトレンド(堕落)は、ワールドクラスに打って出る際に強力な追い風となってくれるに違いない。
イマイチの感が拭えないシャープネスも含め、日本人離れしたクレバネスには、デビュー当時の渡辺二郎を彷彿とさせる瞬間も確かにあって、長谷川,山中の名前まで並べて語ることにいささかの躊躇を覚えないこともないが、西田凌佑(にしだ・りょうすけ)という27歳のボクサーは、どこか眼の離せない魅力を放つ。
奈良の王寺工業高校から、”落ちた名門”こと近畿大学のボクシング部に進んだアマチュア経験者。地元の中学では、陸上部で長距離の選手だったというから、下半身を中心にした基礎体力はかなり出来上がっていたと思われる。
しかし、ジュニア(高校)時代の国体優勝以外に獲得したタイトルは無し。37勝16敗のレコードが示す通り、全国区レベルで頭1つ2つ抜けたリアルなエリートではけしてない。
卒業を機に競技生活に見切りを着け、在阪の大手パンメーカーに就職。近大のステーブルメイトで、全日本選手権を3連覇した女子フライ級の第一人者,河野沙捺(かわの・さな)とパートナーシップを携えたが、2019年に六島(むとう)ジムからプロ入り。
六島を選んだのは、同じ奈良出身で近大のコーチを務めた同ジムOBで、これまで唯一の世界タイトル(WBA S・フライ級)をもたらした功労者,名城信男との縁がきっかけと思われるが、一女をもうけて昨年入籍した河野(銅メダルを獲得した並木月海と東京五輪の代表を争った)は、西田のプロ入りに反対だったらしい。
WBA王座を失った後、タイで2度奪還を目指した名城だけでなく、所属する有力選手を連れ立って何度も渡タイした枝川孝会長らしく、同年10月のデビュー戦は首都バンコクでの6回戦。
戦績のはっきりしない(Boxrecでは11戦全敗)無名選手を初回2分余りで倒すと、2ヶ月後の12月には常打ち小屋と言ってもいい住吉区民センターで、大きく負け越している無名のフィリピン人選手に6回判定勝ち。
明けて2020年、武漢ウィルス禍によるJBCの興行自粛を受け戦線離脱。暮れにようやく実現した3戦目に迎えたのが、バンタム級時代のマーロン・タパレスに2回挑んだ大森将平(WOZ)。西田と同じく、170センチ超のタッパに恵まれた大型サウスポーながら、決定力のある左を武器にKOを量産した強打者で、持ち味とスタイルは好対照。
タパレスとの再戦(2017年4月)に敗れた大森は、122ポンドに階級を上げて再起。フィリピン人アンダードッグと、ベテランの山本隆寛(井岡/元OPBFバンタム級王者)を序盤のKOに屠ったものの、勅使河原弘晶(輪島)のOPBF王座に挑戦して最終12回KO負け。
パンデミックによる興行自粛が表明される直前、2020年1月にフィリピン人選手を呼んで5回KO勝ちを収め、年齢も27歳。老け込む歳ではないが、一番良かった頃の勢いは失せている。
ほぼ同じサイズながらも、肩幅があり上半身の厚みで優る大森が開始ゴングと同時に突っかけ強打を振り回すと、西田は素早いフットワークと丁寧なボディワークで強振をかわし、サイドからスルリと身を翻してロープ際やコーナーから抜け出す。
慌てず騒がず、大森が望む密着&乱打戦を避ける。冷静さを保ち、決して無理はせず、しかしジャブの刺し手争いで先手を取り、機を見てワンツー,左ストレートを刺し込み、右の返しも決めて見せた。
◎試合映像:西田 UD8R 大森
ワールドクラスにあと数歩通用しなかった大森のまとまりの悪さ、大味な攻防の粗を的確に突いて行く。細かなステップを怠らず、常に間合いに気を配る。適時前に出てプレスをかけると見せては退き、また大きく踏み込んでけん制&威嚇半ばのフックを振るったりもするが、深追いは絶対にしない。
トップスピード&手数を無駄使いすることなく、脱力した状態をキープ。集中を切らさず正面に立ち続けない。足で外すディフェンスをベースに据え、嘆かわしくも常態化して久しい安易かつ姑息なクリンチワークに頼らず、ヘッドムーヴとボディワークを兼用する。
当然の帰結として、不用意な被弾のリスクが自ずと軽減され、安定感が増してポイントメイクを優位に導く。1発の破壊力に欠けるマイナスをプラスに変える工夫の中に、己が信ずるに足る定石を見出す。その姿,立ち居振る舞いは、とてもプロ3戦目とは思えない。
ランクの上昇に伴い、フィジカルの強度(揉み合っても当たり負けしない強さ)を上げる必要性に迫られるだろうし、往年の具志堅用高と渡辺二郎がそうだったように、試合数の増加とともに、遅かれ早かれ身体全体&パンチの切れ味と力感も増す。ここまで出来れば今は充分。
上体を突っ立てたまま、頭の位置を変えることもなく、堅牢とは言えないブロック&カバー頼みで正面突破を繰り返し、無駄打ちでいたずらに消耗しつつ、無駄に打たれて必然的にクリンチ&ホールドが増え、攻防がブツ切れになって膠着した展開を自ら招き、いたずらに勝機を手放す。
不器用で危なっかしく、拙い戦い方ばかりが目立つ昨今、昭和の匂いを多少なりとも感じさせてくれる”柔のボクシング”に好感を持った。安全策であって消極策ではなく、いわゆる”塩試合”にはならない。しない。
「ひょっとしたら、”本物のプロのクレバネス”に到達できるのではないか・・・」
「パワー不足」は欠点に非ず。意次元の高みに達した兄との比較を余儀なくされ、理想と現実の狭間で苦しむ井上拓真に薦めたくなってしまうほど、西田の徹底した割り切り,リアリストぶりに好感触を得てしまった。
再起に懸ける大森に序盤は押し込まれたが、決定的なチャンスを与えることなく流れを引き寄せ、クリンチに頼ることなくペースメイク。後半~終盤にかけて、自ら前に出て集中打を放ち、8ラウンズをまとめ切ってしまう。
中差以上の3-0判定(78-74×2,79-73)で大森を引退へと追い込み、スタミナへの懸念も払拭して初の8回戦を終えた西田に、枝川会長は確かな手応えを得たのだろう。続く4戦目で勝負に出る。
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■文字通りの出世試合
デビューから大森戦までの3試合をS・バンタム級で戦った西田は、バンタム級にウェイトを下げて、比嘉大吾(白井具志堅→志成/元WBCフライ級王者)が保持する、WBOアジア・パシフィック王座への挑戦(2021年4月)がまとまった。
比嘉の故郷、沖縄での開催。会場の沖縄コンベンション・センターは、比嘉が生を受けた浦添市に隣接する宜野湾市にある。
屈辱の体重オーバー+KO負けでWBCフライ級王座を失った後、2年近いブランク(1年間のサスペンド+ジム移籍騒動)を経てバンタム級で再起した比嘉は、フィリピン人アンダードッグとの初戦(2020年2月)を6回TKOで収めるも、想像以上に手こずる印象を残し、続く2戦目(2020年12月)は、角海老期待のホープ,堤聖也に分の悪いドロー。
堤戦から僅か2ヶ月後の同年12月、六島ジムのベテラン,ストロング小林佑樹を5回KOで破り、WBOアジア・パシフィック王座を獲得してはいたが、相対的なパワーダウンと出足(機動力)の鈍化を克服し切れず、冴えを欠くパフォーマンスへの不安ばかりが目立ち、身長161センチのサイズも含めて「階級の壁」に捕まった感が拭えずにいた。
那覇の県立武道館で行われたモイセス・フェンテスとのV2戦(2018年2月:初回TKO勝ち/WBCフライ級王座)以来、3年ぶりとなる沖縄開催を復活への起爆剤とすべく、生中継を行うRBC琉球放送(主要株主:沖縄タイムス/琉球銀行)を筆頭に、悪名高い?(失礼)”オール沖縄”ならぬ、”オール比嘉”とも呼ぶべきバックアップ体制が整う。
ピークアウトして久しいフェンテスとは言え、相打ち気味の右でグラつかせた後、強烈な右ボディ(みぞおち付近へのストレート)を打ち込み、2分30秒余りで決着する快心の出来で、所属ジム(当時)の具志堅用高会長とともに、郷里の大先輩,浜田剛史が作った15連続KOに並ぶ。
ゲン担ぎの必要性を無視できないほど、比嘉の動きとパンチはフライ級時代のキレとスピードを失い、身体ごと預けるように密着しないと、相手の動きを止められなくなっていた。
112ポンドで圧倒的な存在感を発揮した比嘉のプレッシャーは、想像以上に豊富な運動量と、それを支える下半身のバネ,脚力に負うところが大きい。118ポンドへの増量は、最大の拠り所を比嘉から奪い去ったように見える。
1発の威力も目減りした。確固たるストロング・ポイントへの信頼が揺らぐ。思うような展開に持ち込むことができないまま、ラウンドを重ねるしかなくなり、迷いというよりは、はっきり自信の喪失が表情に表れてしまう。
◎比嘉大吾 沖縄で凱旋試合 発表会見!
2021年3月26日/LIFETIME BOXING CHANNEL
だとしてもなお、大森戦の番狂わせで注目度がアップしていたとは言え、アマチュアでの大きな戦果に乏しく、プロ4戦目の西田には流石に比嘉は荷が重い。時期尚早の声が当然のように聞こえてくる。
キャリアに似合わない上手さを認められつつも、手首の返しを抑制して押し込むように打つジャブ&ワンツーは、一定の経験を積んだ中堅クラス以上を一方的にコントロールできるほどの威力を感じさせない。
アケスケに申せば、手打ち傾向が顕著ということなのだが、効果としてのスピードアップへの貢献度にも「?」マークを付けたくなる水準で、大森との8ラウンズで明らかにされなかった耐久性への不安を考慮すれば、プロとしての地金を「初めて試される」との位置づけに間違いはない。
10回戦を飛び越えて、いきなりの12回戦。経験不足に加えて、階級ダウン(減量)によるコンディショニングに与える影響への心配もあり、比嘉の勝利は堅いというのが大方の見立て。
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◎LIVE配信:【西田世界戦】LUSHBOMU vol.3 feat.3150FIGHT
ABEMA ボクシング 【公式】
https://www.youtube.com/watch?v=vzJyxCtRjhU