復活を遂げた”プエルトリコのマニー”に”和製メイウェザー(?)”がアタック - E・ロドリゲス vs 西田凌佑 プレビュー Part 1 -
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■5月4日/エディオンアリーナ大阪/IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs IBF1位 西田凌佑(六島)
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs IBF1位 西田凌佑(六島)
武漢ウィルス禍による最初の緊急事態宣言(2020年4月~5月)以来、実に4年もの歳月を経て、ようやく到来した行動制限の一切無いゴールデン・ウィーク。その真っ只中に、3名のバンタム級世界チャンピオンが揃い踏みする。
<1>IBF:5月4日大阪
<2>WBA・WBO:5月6日/東京ドーム
(1)WBA:井上拓真(大橋) vs 1位 石田匠(井岡)
(2)WBO:ジェイソン・モロニー(豪) vs 10位 武居由樹(大橋)
その先陣を切って大阪府立のリングに登場するのが、”プエルトリコ版マニー”ことエマニュエル・ロドリゲス。
WBSS(World Boxing Super Series)第2シーズンのバンタム級準決勝に進出を果たし、WBA王座を保持していた井上尚弥(大橋)と英国スコットランドで激突。衝撃的な2回KO負けに退いたのが、2019年5月18日のこと。
あれから早くも5年が経ち、井上はバンタム級に続いてS・バンタム級の4団体統一に成功。一足早く2階級の4団体統一をやってのけたテレンス・クロフォード(S・ライト級&ウェルター級)とリング誌P4Pランキングのトップを争い、2024年度のファイター・オブ・ジ・イヤーを総なめにするなど、止まるところを知らない勢い。
世界が武漢ウィルスの猛威に晒される中、1年半のブランクを挟んで渡米したロドリゲスは、コネチカットのインディアン・カジノでWBCが承認した暫定王座決定戦に挑み、フィリピンの俊英レイマート・ガバーリョ(元WBA暫定王者)によもやの1-2判定負け。
割れた採点を巡って紛糾する事態となり、日本国内でもロドリゲスの勝利を支持するファンが大勢を占めたが、井上戦までの積極果敢なファイト・スタイルがウソのような専守防衛に唖然とした。
「どこか故障しているのではないか?」
我らがリアル・モンスターに瞬殺された精神的な痛手が、勇敢な前進を奪い去ってしまっのかと疑ったが、そんな事ではなさそうだ。
グラスゴーの公開練習において、敵情視察に訪れた真吾トレーナーを小突き、「出て行け!」と大声を張り上げた若いチーフ・トレーナー(ウィリアム・クルス)を更迭し、同胞のベテラン,フレディ・トリニダード(英雄ティトの叔父)を迎えて体制を一新した影響かとも考えたが、トレーニング中の怪我や病気、すなわちフィジカル・コンディションに問題を抱えているようにしか見えない。
余りにもパッシブな試合振りに加えて、とても万全には見えない仕上がり具合。ロドリゲスにいったい何が起きたのかといぶかった。
◎試合映像:ガバーリョ SD12R ロドリゲス
フレディ・トリニダードとの関係はこの1試合だけで清算し、”パンダ”の愛称で知られるジェイコブ・ナハール(IBF J・ウェルター級王者スブリエル・マティアスのコーナーを預かり躍進を支える巨漢コーチ)のチーム入り。
ロサンゼルスにニックネームを冠したジム(Panda Boxing Academy)を持つ他、メキシコのクリアカンにあるジム(Aldana Boxing Gym)と行き来しながら教えているらしいが、日本での初防衛戦に備えて、ヒキピルコ(メキシコシティ近郊)という標高3千メートルの高地で、4ヶ月もの長期キャンプを張ったという。
23日に関空に降り立つと、24日に行われた会見にリモートで参加。2月にWBCのベルトを奪取した中谷潤人(M.T.)に、抜け目無く熱いプロモーザルを贈る。4月20日付けで更新されたリング誌P4Pランキングで、悪質極まるウェイト・オーバーのライアン・ガルシアに完敗を喫したデヴィン・ヘイニー(7位)がトップ10圏外へと去っていた。
そして、8位以下の3名(エロール・スペンス,ジャーボンティ・ディヴィス,ジェシー・ロドリゲス)が順送りで1つづつ上がり、空席となった10位に中谷の名前と顔が並ぶ。ロドリゲスのような熟練の試合巧者と言えども、中谷は充分過ぎるほど危険な相手になるが、日本でハイリスクを取る旨味をロドリゲスと彼の陣営はしっかり理解しており、視線は早くも秋以降の再来日(?)を睨む。
◎リング誌最新P4Pランキング(4月20日更新)
https://www.ringtv.com/ratings/
とんでもない高地に4ヶ月も篭り、仮想チャンレンジャーとして選ばれた4~5名のサウスポーと、180ラウンズに及ぶスパーリングを消化したと言う。にわかには信じ難いハードワークである。
この話が本当か否かは別にして、オーバーワークを心配したくなるほどのいれこみ様も、中谷との統一戦が交渉のテーブルに乗っているなら、「なるほど」と合点が行く。
◎参考映像:”パンダ”ことジェイ・ナハールとのキャンプ(A・ラッセル戦)を取材した短い映像
<1>2021年7月17日アップロード/Part 2
<2>2021年7月17日アップロード/Part 1
https://www.youtube.com/watch?v=OwOyl9KCG3I
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■井上戦後の道程
上述した通り、心機一転の船出は2021年8月。捲土重来を期して臨んだゲイリー・アントニオ・ラッセル(元WBCフェザー級王者ゲイリー・ラッセル・Jr.の実弟)との再起戦では、以前の積極性が回復。スタートから前に出て手数を惜しまず攻めるも、ラッセルの頭が衝突して初回ノーコンテスト。不運が続く。
◎試合映像:ロドリゲス NC1R アントニオ・ラッセル第1戦
7ヶ月後の2022年3月、パンダ・ナハールが通うジムがあるクリアカンで、ソノラ州から呼んだ無名の中堅選手を初回2分半足らずで圧殺。KOして当然の相手とは言え、IBF王座を獲得したポール・バトラー戦(2018年5月/敵地ロンドンで大差の3-0判定勝ち)以来の快勝にチームは破顔一笑。
さらに7ヶ月を置いて実現したアントニオ・ラッセルとの再戦(2022年10月/バークレイズ・センター,ブルックリン/N.Y.)でも、ワンサイドの展開を作って10回負傷判定勝ち。
◎試合映像:ロドリゲス UD12R アントニオ・ラッセル第2戦
https://www.youtube.com/watch?v=dBdQQHNwK6o
第9ラウンドにまたもやバッティングが発生し、ドクターストップであと2ラウンズを残して終了となったが、8回にダウンを奪ってオフィシャル・スコアは100-90,99-91,99-93。結末こそすっきりしないものの、内容と結果には文句の付けようがない。
こうして昨年8月、メリーランド州オクソン・ヒルにあるカジノ・ホテル(MGMグループ)に登場。井上尚弥が返上した4本のベルト(バンタム級)のうち、愛着のあるIBF王座決定戦に挑み、ニカラグァの新鋭サウスポー,メルヴィン・ロペス(対戦時:25歳/29勝19KO1敗)にフルマークの判定勝ち。
ロマ・ゴン二世を自認する(?)ロペスは、なかなかの手際でジャブを操りロドリゲスの右眼を腫らしたが、試合運びに長けた熟練のプエルトリカンもさる者で、適時距離を調整しつつプレスをかけ続け、伸び盛りの若芽をロープやコーナーに追い詰め優勢をキープ。
最終12回に強烈な左ボディでダウンを奪うと、立て続けに2度倒してストップかと思われたが、地元選出の主審デイヴ・ブラスロウはロペスが立ちが上がるのを待って継続支持。”ロマ・ゴンの再来”は、どうにかフル・ラウンズを生き延びる。
◎試合映像:ロドリゲス UD12R ロペス
<1>観客が撮影した現地映像
https://www.youtube.com/watch?v=o4g0Dw1_v6s
<2>オフィシャル・ハイライト(PBC)
https://www.youtube.com/watch?v=Famiwm8OMXk
5年ぶりに赤いベルトを巻き、モンスターが去った後の118ポンドで確固たる存在感を示し、意気揚々と帰国。いよいよ本格的な巻き返しかと思いきや、2ヶ月後の10月に公式フェイスブックで唐突な引退宣言。
三十路に突入した年齢、アマ時代を含めた20年近いキャリアに起因する勤続疲労が、王座奪還の達成感と相まって引き起こしたバーンアウト・・・誰もがそんな想像を張り巡らす。
◎IBF bantamweight champion Emmanuel Rodriguez announces retirement
2023年10月17日/Bad Left Hook
https://www.badlefthook.com/2023/10/17/23921605/ibf-bantamweight-champion-emmanuel-rodriguez-announces-retirement-boxing-news-2023
だがしかし、海外のトップボクサーが発する進退に関わるコメントを真に受けてはいけない。それがチャンピオン・クラスなら尚更だ。フロイド・メイウェザーとタイソン・フューリーの近い例を持ち出すまでもなく、「辞める」と言った舌の根も乾かないうちに、「あれは本心じゃない」とのたまい、「すべては条件次第だ」と豪語する。
専属契約を結ぶプロモーター(不当な搾取の代名詞)は言うに及ばず、リアルなビジネス・パートナーである筈のマネージャーでさえ、自らの引退と引き換えに条件闘争を繰り広げる光景は、欧米のボクシング界では日常茶飯。
メイウェザーやフューリーほど下品丸出しではないが、ロドリゲスもやはり金銭が直接的な原因だった模様。前言を翻して、IBFの指名戦指示に従う意図を明らかにするとともに、履行に際する条件に言及する。
「あれ(引退宣言)は、ロペス戦の条件が到底満足の行くものではなかったからだ。日本に行く為には、それに相応しい報酬の用意が欠かせない。25~30万ドル。それが最低条件だ。」
「(井上,ガバーリョの2連敗で)ボクシングに対する情熱を失った訳ではない。今がピークにあるという自信と手応えがある。コンディションも良好で、戦うことについて何の問題もない。」
事を進めたいなら、条件についてしっかり確認して、合意形成を図るべし。そして、約束は必ず守る。
IBFの決定戦は、当初ビンセント・アストロラビオ(比)を相手に行われる予定だったが、フィリピン陣営がWBOを選択。カリフォルニア州ストックトン(サンフランシスコ近郊)でジェイソン・モロニー(豪)と決定戦を行い、0-2のマジョリティ・ディシジョンに退く(2023年5月13日)。
老いらくのギジェルモ・リゴンドウを破って名を上げたアストラビオに比して、国際的な認知=バリューで大きく劣るロペスに代わったことを理由に、報酬も20万ドルから7万5千ドルへと大きく減額。「まずはベルト」だと割り切ったものの、不満が鬱積して我慢の限界に達していたのだろう。
初来日が首尾よく整ったということは、ライヴ配信を担うABEMA(一時流れていたTravel TVへの鞍替えは無し)が、ロドリゲスの主張に応じたという次第で、今年の年明け早々、1月24日に行われた入札で日本陣営(ABEMA&3150FIGHT)が興行権を獲得した(Zoomによるオンライン実施)。
ロドリゲスを直接ハンドルするプエルトリコのフレッシュ・プロダクションズ(Fresh Productions Boxing/スブリエル・マティアスを手掛けて急成長)が提示した25万ドルを、30万ドルで一蹴したと報じられている。
※Emmanuel Rodriguez-Ryosuke Nishida: Kameda Promotions Wins Purse Bid For IBF Title Fight
2024年1月30日/Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/emmanuel-rodriguez-ryosuke-nishida-kameda-promotions-wins-purse-bid-ibf-title-fight--181081
空前絶後の活躍で無人の野を突き進むリアル・モンスターのお陰で、雨後のタケノコのごときネット配信の相次ぐ参入で活気付く日本のボクシング界だが、ご本尊の引退と同時にあっという間にしぼむ”モンスター・バブル”でもある。
ボクシング・マーケットは確実かつ着実に衰退を続けていて、我が国においては、凋落傾向が顕著な王国アメリカ以上に実態は深刻。自前で世界戦を誘致できるジムは限られ、首都圏ではワタナベや三迫、角海老のような老舗・古株ですら、勢いのあるプロモーターが主催する興行に頼らざるを得ない。
名城信男をWBA S・フライ級王座に導いた六島(むとう)ジムも例外では有り得ず、重岡,矢吹兄弟に続いてABEMAの資金力に望みをつないだ。何を血迷ったのか、日本進出に乗り出してしまったマッチルーム(十中八九失敗に終わる)と同様、手を組む相手を決定的に間違えていると言わざるを得ないが、ABEMAのバックアップをみすみす捨てる選択肢は無く、痛し痒しといったところか。
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◎ロドリゲス(31歳)/前日計量:117.75ポンド(53.4キロ)
当日計量:126.5ポンド(57.4キロ)
※IBFルール:前日+10ポンドのリバウンド制限をクリア
戦績:25戦22勝(13KO)2敗1NC
アマ通算:171勝11敗(2012年ロンドン五輪代表候補)
2010年世界ユース選手権(バクー/アゼルバイジャン)銀メダル
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル
※階級:フライ級
身長:168センチ,リーチ:169センチ
※以下は計量時の検診
血圧:99/72
脈拍:45/分
体温:36.1℃
右ボクサーファイター
◎西田(27)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
当日計量:127.9ポンド(58キロ)
※IBFルール:前日+10ポンドのリバウンド制限をクリア
戦績:8戦全勝(1KO)
アマ通算:37勝16敗
2014(平成)年度第69回長崎国体フライ級優勝(少年の部)
王寺工高→近畿大
身長:170センチ,リーチ:173センチ
※以下は計量時の検診
血圧:127/81
脈拍:63/分
体温:36.1℃
左ボクサー
ロドリゲスの血圧にびっくりした。上が100を切っていて、眩暈や立ちくらみを起こしても不思議がないレベル。まさか心臓とか肝臓の疾患や、その他の内分泌系臓器に障害を抱えているとは思えないし、元々低血圧なだけかもしれない。計量とフェイス・オフの間、幸いにも危うさを感じさせる兆候は見られなかった。
ウェイト調整の最終段階で、一時的に極端な低血糖状態になっていたのかもしれず、そうであれば、計量を終えた直後にピザを食べていたのも頷ける。
当日の仕上がりにどう影響するのかしないのか。「コンディション?。そんなのリングに上がってみないとわからない」と言う選手も少なくない。この後宿泊先のホテルでゆっくり横になり、+10ポンド(IBF独自のリバウンド制限)の限界ギリギリまで水分を補給してさらに食べ、一晩ぐっすり寝て回復を図る訳だが・・・。
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■オフィシャル
主審:ダンレックス・タプダサン(比)
副審:
カール・ザッピア(豪)
ジル・ゴー(比)
サノング・アウムイム(タイ)
立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC事務局長)
◎前日計量&計量後の
◎LIVE配信:【西田世界戦】LUSHBOMU vol.3 feat.3150FIGHT
ABEMA ボクシング 【公式】
https://www.youtube.com/watch?v=vzJyxCtRjhU