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■2月24日/両国国技館/WBO世界J・バンタム級王座決定12回戦
WBO1位 田中恒成(日/畑中) vs WBO2位 クリスティアン・バカセグア(メキシコ)




「マタドールみたいになるんじゃないですか。」

2月15日に帝拳ジムで練習を公開したバカセグアの印象と、今回の戦術について問われた畑中会長がそう答えた。

「一度打ち出すと止まらなくなる。手数が出ますね。」

対するバカセグアも負けてはいない。「私の角は鋭い。下からすくい上げる。彼は宙を舞うだろう」と必勝をアピール。


ご存知の通り、メキシコは中米随一ボクシングが盛んな国ではあるが、同時に闘牛の国でもある。畑中会長がそこまで意識したのかどうかは別にして、実にタイムリーな発言だったと感心するばかり。

これは勿論、井岡一翔に完膚無きまでにやられた後、最優先で取り組むべきテーマに掲げ続けてきた「ディフェンスの改善」への期待、大きな意味合いも込められてのこと。

昨年5月に地元で行ったパブロ・カリージョ(コロンビア)との10回戦は、その成果がようやく形となって現れた快勝と評価したい。タフでハートの強いカリージョを的確なジャブで削り、右の強打もフルスウィングではなく、パワーよりも精度とタイミングを優先。

し止め切れずに大差判定かと思われたラスト・ラウンド、マックウィリアムズ・アローヨ倒したを井岡のストレート、あるいはハッサン・エンダム・ヌジカムとの第1戦、第4ラウンドに火を噴いた村田諒太畢生の一撃を彷彿とさせる、それはもう鮮やかな右のカウンターでダウンを奪い、そのままレフェリーストップを呼び込む。


単純な中央突破は影を潜め、カリージョの出足を良く読み、無駄打ちと無駄打たれ(?)の愚を冒さない。試合を終えた田中の顔は綺麗なままで、「もう少し足を使ってくれれば・・・」と欲の深いマニアの性がつい口を突いて出てしまうほど、田中のボクシングは変貌した。

以前の突貫スタイルを支持する人たちの眼には、「慎重過ぎる」「面白みが無くなった」と映る場面もあったと思うけれど、「打ちたい欲」を我慢して戦術的ディシプリンに撤する田中に、「それでいいんだ。間違っていない。」と心の声で声援を贈り続ける。

田中自身は、昨年12月の発表会見で述べた「KO奪取」への意気込みを、記事の最後でご紹介する計量後の囲み取材でも繰り返していた。

発表会見でも、村田大輔トレーナーと一緒に磨いてきた「新たなスタイル(打たせずに打つ)」への手応えとともに、「父親から教わった前に出続けるボクシング」へのこだわりにも触れている。


1歩も退くことなく、ムキになって打ち合いに雪崩れ込む悪癖が再現するのではないかと、要らぬ筈の老婆心が暗雲のように拡がり、不安をかき立ててしまう。田中の正確なバカセグア評が、お節介な懸念を大きくしてしまう。

「プロで20戦していますが、そのうち19戦を世界チャンピオンかランカーと戦ってきた。これまで対戦した選手たちと比べて、(バカセグアは)それほど難しい相手だとは思わない。」

仰る通り。スピード,パワー,テクニックのいずれを取っても、良く言ってローカルランクの上位といった水準で、バカセグアに世界2位の肩書きは重過ぎる。世界ランク入りの根拠は、2021年に獲得したWBOラティーノ王座。ただし、真に名のある相手との対戦は無し。


びっくりするのは、2015年7月のデビュー戦を129ポンドのS・フェザー級で戦っていること。2戦目から一気にS・バンタム級まで絞り、2017年から18年にかけてバンタム級を行き来しながらS・フライ級を試し、2019年にはフライ級リミットでモイセス・カジェロス(山中竜也とWBOの105ポンドを争いTKO負け)に10回判定負け。

これ以降、115ポンドに定住して戦績が安定。日本に比べればまだまだ選手層が厚く、侮れない中堅がひしめくメキシコの軽量級で、ここまでローカル・ファイトを生き残ってきたのは、打たれ強さを含めたフィジカル・タフネスの賜物だが、リアルなローカル王者クラスとやっていないからだとも言える。

井岡と同じく、計量後のリバウンドを最大限に活かし、ガードを固めて圧力をかけ続け、手数だけは出し続けて田中を白兵戦に引きずり込み、守りの意識が薄れるのを待って相打ちの左フックか右アッパー、もしくは右のオーバーハンド(ボラード)でイチかバチかの1発を狙う。


”メキシカン・ロッキー”に勝機があるとすれば、それぐらいしか思い浮かばない。油断さえしなければ、田中の4階級制覇は九分通り達成したも同然であり、それだけに余計な色気を抑えるのが大変。

KOを狙って真正面から攻め急ぐ、悪い虫が騒ぎ出すのがとにかく怖い。そこを耐えて冷静に戦術的規律を保つのは、カリージョ戦以上の困難を田中を強いることになるだろう。

掛け率が存外に接近しているのは、井岡戦の強烈な記憶が未だに尾を引きずっているからで、あれだけ一方的かつ無残なKO負けを払拭する為には、それ相応の相手に同等以上のインパクトを残して勝つ以外に道はない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
田中:-500(1.2倍)
バカセグア:+400(5倍)

<2>betway
田中:-599(約1.17倍)
バカセグア:+400(5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
田中:1/5(1.2倍)
バカセグア:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
田中:2/11(約1.18倍)
バカセグア:21/5(5.2倍)
ドロー:16/1(17倍)


井岡に敗れた直後、リマッチについて問われる度び、「負けた自分がもう一度と、そう簡単には言えない」と否定的な態度を変えなかった。

今一度世界のベルトを巻いて、とにもかくにも4階級制覇を成し遂げる。その上で2団体を統一すれば、井岡が負けない限り自ずと再戦への扉は開いて行く。田中自身の口から、井岡へのリベンジが聞かれるとすれば、おそらくその後になるのではないか。

「目標は4団体統一。S・フライ級の最強を証明する。」

中谷潤人との指名戦回避でまたもや男を下げた井岡は、追い続けるファン・F・エストラーダ戦一択あるのみ。それ以外の対戦相手は眼中に無し。田中とは、3年前の大晦日で決着済みといったところ。

115ポンドのNo.1と目されるエストラーダに明白な差を付けて打ち破れば、すべての批判を吹き飛ばせるだけでなく、P4Pトップ10圏内への定着も夢ではなくなる。


ワンサイドのKO勝ちが喉から出るほど欲しい。そうであればある程、カリージョ戦と同じ辛抱が必須。そう肝に銘じて、「無駄打ち+無駄打たれ」の抑制に撤して欲しい。





◎田中(28歳)/前日計量:114.6ポンド(52キロ)
元WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:20戦19勝(11KO)1敗
世界戦通算10戦9勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
脈拍;73/分
血圧:112/82
体温;36.3℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター


◎バカセグア(26歳)/前日計量:114.6ポンド(52キロ)
戦績:28戦22勝(9KO)4敗2分け
身長:163センチ
脈拍;46/分
血圧:121/78
体温;36.2℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎計量時のインタビューでKO宣言



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■オフィシャル

主審:ベンス・コヴァチ(ハンガリー)

副審:
ドン・トレッラ(米/コネチカット州)
パット・ラッセル(米/カリフォルニア州)
スラット・ソイカラチャン(タイ)

立会人(スーパーバイザー):レオン・パノンチーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)


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■主流派(大橋+帝拳)へようこそ

色々な見方や意見はあるだろうが、三十路を目前にした田中が、中京のローカル・スターから脱却する転機を迎えた。

カリージョ戦の中継は、中京地区の民放5局が共同運営する「Locipo(ロキポ)」というWEB配信サービスで行われている。試合内容が良かっただけに、本当に勿体なく残念に思えてならない。

今回は、ESPN+(トップランク経由)で米本土にも配信される。月額11ドル弱のサブスクは、熱心な在米ボクシング・ファンにとって大きな負担にはならない筈で、尚弥の弟とアンカハス、ドネアに勝ったサンティアゴにノックアウト・オブ・ジ・イヤーの中谷が絡むカードは、一定の訴求力が期待できる。

田中の試合は、世界戦とは言っても相手が相手だけに、完全なセミ扱いにならざるを得ないけれど、視聴者数は少なくても、在米マニアの眼に触れることが第一。

※Takuma Inoue vs. Jerwin Ancajas (Main Card)
ESPN+ ? Top Rank Boxing
https://www.espn.com/espnplus/player/_/id/64de4119-f90b-4f38-af8f-f705b4a9136f/country/us/redirected/true