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■序


ozawa-around1970s

来るべき刻(とき)がやって来た。

2年前(2022年)の暮れ、「ONE EARTH MISSION」と題されたJAXAとの共同プロジェクトで、国際宇宙ステーションに滞在中の若田光一船長(日本人初)に向けて、サイトウ・キネン・オーケストラとともに「エグモント序曲」の生演奏を届ける御年86歳のマエストロは、うずくまるように車椅子に深く沈み込んでいた。

癌との闘いによる疲弊が衰えに拍車をかけ、すっかり小さくなってしまった身体が痛々しく、正視するのが辛くてたまらない。

かすかに持ち上げて拍子を取る両腕はか細く弱々しかったが、しかしだからこそ、「我らがマエストロに恥をかかせてなるものか」との決意がメンバー全員にみなぎり、遅めのテンポと燃えるような奏者たちの熱気ゆえに、後半からコーダにかけてテンポとアインザッツが乱れる場面が散見はされたものの、演奏は実に立派なものだった。

そしてこの配信より4ヶ月前、8月26日に行われた松本のフェスティバルにも、まったく同じいでたちで車椅子を押されながらステージに登場している。この時はマスクで顔を覆ったまま、客演のシャルル・デュトワと旧交を温め、客席に向かって手を振るだけで退場したのだが、ご覧になった多くの方々も、永の別れを予感したのではないか。


キャリアの中心となったボストン交響楽団は、2月9日の定期演奏会(現地時間/シンフォニー・ホール)で、若かりし日の小澤を捉えた素晴らしい遺影を掲げ、2021年にCEOに就任したチャド・スミスが丁重な弔辞を述べた後、バッハのアリアを演奏してかつてのシェフを偲んだ(指揮:カリーナ・カネラキス)。

◎Boston Symphony Orchestra Remembers Seiji Ozawa with Remarks and Bach's Air on the G String
2024年2月10日公開/ボストン響公式チャンネル


◎BSO公式サイト・トップ(現在は通常モードに復帰)
BSO_top
◎追悼ページ:A Tribute to Seiji Ozawa
https://www.bso.org/stories/a-tribute-to-seiji-ozawa


また、ヨーロッパにおける活動拠点とも言うべきベルリン・フィルとウィーン・フィルは、それぞれの公式トップページに小澤の写真を掲載し、丁寧な文章とともに哀悼の意を表している。

◎BPO公式サイト・トップ(現在は通常モードに復帰)
BPO_top_
◎追悼ページ:Trauer um Seiji Ozawa
https://www.berliner-philharmoniker.de/stories/trauer-um-seiji-ozawa/

◎VPO公式サイト・トップ
VPO_top
◎追悼ページ:Die Wiener Philharmoniker trauern um Seiji Ozawa
https://www.wienerphilharmoniker.at/de/magazin/die-wiener-philharmoniker-trauern-um-seiji-ozawa/6210

想像以上に深刻だった健康不安の為、期待された結果を残せないまま離任することになったウィーン国立歌劇場も、弔辞を掲載してくれていた。

◎DIE WIENER STAATSOPER TRAUERT UM SEIJI OZAWA
2024年2月9日/ウィーン国立歌劇場公式サイト
https://www.wiener-staatsoper.at/die-staatsoper/medien/detail/news/die-wiener-staatsoper-trauert-um-seiji-ozawa/

2015年に我らがマエストロに名誉賞を授与したケネディ・センターもまた、動画をアップしてその功績にスポットを当てている。

◎A Kennedy Center Tribute to Seiji Ozawa (1935-2024)
2024年2月10日/ケネディ・センター公式チャンネル


◎ケネディ・センター名誉賞(錚々たる顔ぶれが揃う受賞者)
<1>公式サイト(授賞式)
https://www.kennedy-center.org/whats-on/honors/

<2>公式サイト(デジタル・ステージ)
https://www.kennedy-center.org/digitalstage/kennedy-center-honors/

<3>Wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Kennedy_Center_Honors


NHKを相手に盛大な大喧嘩をやらかし、意を決して再渡米した28歳の小澤を、毎夏のフェスティバルの指揮者に大抜擢(ラヴィニア音楽祭/1964年~68年)。最初の大きなチャンスを与えてくれたシカゴ交響楽団と、さらなる蛮勇を振るって(?)音楽監督に迎えてくれたトロント交響楽団(1965年~1969年)もまた、哀悼の意を表する記事をアップしたのも嬉しい限り。

シカゴの記事を書いたフランク・ヴィレッラは、シカゴ響の合唱団(Chicago Symphony Chorus)で20年以上歌った声楽家で、オーケストラ(1891年創立)の歴史的文献や写真,音源などの貴重な資料をまとめたローゼンタール・アーカイヴス(Rosenthal Archives)の館長を努める人物。

◎Remembering Seiji Ozawa
2024年2月9日/CSO公式サイトExperience CSO
フランク・ヴィレッラ [ 30 min read ]
https://cso.org/experience/article/17180/remembering-seiji-ozawa

トロント響公式サイトトップ
Tronro_SO_top
◎Seiji Ozawa 1935-2024
https://www.tso.ca/home/seiji-ozawa/


1970年から7年間音楽監督の重責を担い、ヨーゼフ・クリップスとの初来日以来、7年ぶりとなる日本公演(1975年6月)を実現したサンフランシスコ交響楽団は、公式インタグラムに記事をアップしただけに止まった。

就任3年目の1973年からボストン響との兼務になり、着任早々東海岸へと足場を移した格好になったことが楽団と地元音楽ファンの感情を多少なりとも害し、好ましからざる印象を残したことは否めない。

オケにとって、桂冠の名誉を贈呈したブロムシュテット(1985年~95年)、マイケル・ティルソン・トーマス(1995年~2020年)ほどの存在ではないとの評価は止むを得ないが、せめて公式サイト上で弔意を示してくれてもよかったのでは。

The SF Symphony is deeply saddened by the news of Seiji Ozawa’s passing earlier this week at the age of 88.
2024年2月10日/サンフランシスコ響公式インスタグラム
https://www.instagram.com/p/C3I9SWKvHVE/?img_index=1

そして、弦楽四重奏を基盤にした室内楽を教えることを目的に、スイスのジュネーヴに作った「スイス国際音楽アカデミー(Seiji Ozawa International Academy Switzerland)」は、2月9日付けで小澤の死を悼むプレスリリースを出し、同時に今夏に予定する第20回の開催中(7月1日~12日)、7月9日に追悼演奏会を行うと発表。

◎Seiji Ozawa 1935 - 2024
2024年2月9日/Seiji Ozawa International Academy Switzerland
https://mailchi.mp/da413d7dfa7e/communiqu-de-presse-9-fvrier-2024-press-release-feb-9-2024?e=0fe5c057df


日本国内では、後半~終盤のキャリアを決定付けた松本のフェスティバル、こだわり続けたオペラの伝承を託す音楽塾、大師匠の斎藤秀雄と並ぶ恩師,吉田秀和から2代目館長を引き継いだ水戸芸術館が哀悼を捧げるページを公開した他、設立に直截携わった新日本フィルは、ボストン響と同様、2月10日に三重文化会館で行われた演奏会の冒頭、バッハのアリアを演奏(指揮:藤岡幸夫)。

◎J.S.バッハの管弦楽組曲第3番より第2曲アリア(小澤征爾氏への献奏として)
2024年2月10日公開/新日フィル公式チャンネル


◎新日フィル公式サイト・トップ
NJP_top
◎【訃報】小澤征爾氏(桂冠名誉指揮者)ご逝去について
2024年2月9日/新日本フィル公式サイト:重要なお知らせ
https://www.njp.or.jp/news/8062/

◎【訃報】小澤征爾(総監督)逝去について
2024年02月10日/セイジ・オザワ 松本フェスティバル公式サイト
https://www.ozawa-festival.com/news/2024/02/10/190000.html

◎【訃報】小澤征爾(音楽塾塾長、音楽監督)逝去について
2024年2月10日/小澤征爾音楽塾公式サイト
https://ozawa-musicacademy.com/news/2136

◎小澤征爾水戸芸術館館長ご逝去のお知らせ
2024年02月10日/水戸芸術館公式サイト
https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_41364.html


ベルリンとウィーン、トロントの各オーケストラが示してくれた敬意には、思わず涙が出そうになった。

そして、記事のタイトルに倣って恥ずかしげも無く申し上げれば、私の脳裏と心の中に生き続ける小澤の姿は、冒頭に掲載した写真のままである。

私の中の小澤征爾について、少しづつ章をあらためながら、演奏会の記憶も掘り起こして書き連ねて行こうと思う。

序章の末尾に、「エグモント序曲」と舞台挨拶の映像を。忍びなく辛いけれど、老いの現実もしっかり見つめねばならない。

◎ONE EARTH MISSION - Unite with Music - Full recorded LIVE Performance
2022年12月1日/小澤征爾 Seiji Ozawa 公式チャンネル


◎世界へ配信!One Earth Mission~小澤征爾氏指揮/サイトウ・キネン・オーケストラのハーモニーと和の心を
2022年12月1日/JAXA公式サイト
https://humans-in-space.jaxa.jp/news/detail/002677.html

◎小澤征爾さん登場で会場総立ち 音楽の祭典OMFでサプライズ 3年ぶりにステージ上に
2022年8月27日/NBS長野放送ニュース