引退撤回の"乗っ取り屋"が140ポンドの初防衛戦 /”ハイテク”に善戦した強気のテクニシャンをどう抑えるのか - テオフィモ vs J・オルティズ プレビュー -
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■2月8日/ミケロブ・ウルトラ・アリーナ,ラスベガス/WBO世界J・ウェルター級タイトルマッチ12回戦
王者 テオフィモ・ロペス(米) vs WBO10位 ジャメイン・オルティズ(米)
王者 テオフィモ・ロペス(米) vs WBO10位 ジャメイン・オルティズ(米)
唐突な引退を声明したかと思いきや、あっという間の撤回。ジョー・ルイスやモハメッド・アリの昔から、トップボクサーの引退宣言ほどアテにならないものはないとわかり切ってはいたし、26歳という年齢を考えれば、余程の怪我か重篤な疾病でもない限り、普通に考えて有り得ない。
早速ブリーチャー・レポートに「1億ドル超が約束されるなら翻意してもいい」との一報が出て、「やっぱり・・・」と頷く。
<1>TEOFIMO LOPEZ JR. SAYS HE’S RETIRING?AND NO ONE CLOSE TO HIM BELIEVES IT
2023年6月29日/リング誌
https://www.ringtv.com/655098-teofimo-lopez-jr-says-hes-retiring-and-no-one-close-to-him-believes-it/
<2>Teofimo Lopez Says He'd 'Only' Return to Boxing on $100M+ Contract After Retiring
2023年6月13日/Bleacher Report
https://bleacherreport.com/articles/10078979-teofimo-lopez-says-hed-only-return-to-boxing-on-100m-contract-after-retiring
<3><4>Teofimo Lopez Jr. claims to be 'retired' in aftermath of massive win over Josh Taylor
2023年6月11日/CBS Sports
https://www.cbssports.com/boxing/news/teofimo-lopez-jr-claims-to-be-retired-in-aftermath-of-massive-win-over-josh-taylor/
<4>Teofimo Lopez Not Retiring, Won't Vacate WBO Title Despite Previous Claims4202023年7月13日/Bleacher Report
https://bleacherreport.com/articles/10082558-teofimo-lopez-not-retiring-wont-vacate-wbo-title-despite-previous-claims
カネと政治力を併せ持つ有力プロモーターと渡り合う為に、支配下のボクサーが自らの引退を賭して場外戦を繰り広げること自体は、さほど珍しいことではない。
トップランクもご他聞に漏れず、キューバの軽量級を代表する両巨頭,ユリオルキス・ガンボア&ギジェルモ・リゴンドウとの派手な喧嘩別れは未だ記憶に新しく、契約満了まで辛抱することが出来ず、アラムが提示するマッチメイクを片っ端から断り続けたマイキー・ガルシアは、2年半に及ぶレイ・オフを甘んじて受け入れた。
最近では、ウェルター級に上げて以降、躍起になって追い続けたエロール・スペンスとの統一戦が一向に実現に向かわず、メディアを介してトラッシュトークを一度ならず繰り広げたテレンス・クロフォードも、ビッグマネー・ファイトへの渇望とともに、リゴンドウと同様「不当な低評価」への不満を訴えている。
2人が口にした「不当な低評価」は、マッチメイクとギャランティの決定権を握るトップランクとHBO,ESPNに対する抗議であるのと同時に、伸び悩むチケットセールスと視聴者数(ノンPPV)に象徴される、「ファンの見る眼の無さ」への逆批判も含む。
惨憺たる結果(5万件に届かなかったとされる)に終わったショーン・ポーター戦のPPVセールスと、さっぱりなゲートを槍玉に挙げられ、「彼は自身の市場価値をわかっていない。実態以上の評価と条件を我々は与えてきた」とアラムに突っ込まれたクロフォードは、最終的に民事訴訟を仕掛けて居直るしかなかった。
それでも、140ポンドでの4団体統一と3階級制覇のチャンスを得られた点は、ドネア戦とロマチェンコ戦を例外として、15~25万ドルの相場で我慢を強いられた軽量級のリゴンドウに比べれば、王国アメリカのマーケットを支える花形の中量級という大きな違いはあるにせよ、アラムの指摘が事実であることも認めざるを得ない。
トップランクとの契約切れを待つ間、マイキーのようにロマンを追ってケツをまくったりせず、丁々発止の駆け引きをやりつつ、試合のオファーには応じたリアリストのクロフォードは、アラムと別れて5年間待たされ続けたスペンス戦を遂に実現しただけでなく、ワンサイドの勝利をこれでもかと見せつけて、カネロに近いポジションを引き寄せ(?)ご満悦の体。
また、先月末から今月始めにかけて、唐突に引退を発表したシャクール・スティーブンソン(26歳)もアラムの有力な持ち駒だが、こちらは条件闘争ではなく、エドウィン・デ・ロス・サントス戦の塩っぷりを酷評され、感情的になっているだけとの見方が大勢を占めており、「テオフィモの”一時的な引退”以上に早い帰還」を確実視されている。
テオフィモに話を戻すと、ジョシュ・テーラー(英)を番狂わせの3-0判定に下して2階級制覇を達成した直後の表明だったこと、さらにベルトも返上していなかったことから、本気度を疑われたのも致し方がない。
「十中八九、トップランクに対する条件闘争。アラムがそれなりに譲歩して、すぐに翻すだろう。」
年季の入ったボクシング・ファンなら誰もがそう思っていた筈で、待遇が幾らかでも改善したのかどうかは定かではないが、現役の続行については大方の見立て通りになった。
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
※ファイナル・プレッサー(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=4JAlIU3uxRA
直前の掛け率をチェックすると、結構な差が開いていた。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
テオフィモ:-650(約1.15倍)
J・オルティズ:+450(5.5倍)
<2>betway
テオフィモ:-599(約1.17倍)
J・オルティズ:+450(5.5倍)
<3>ウィリアム・ヒル
テオフィモ:1/7(約1.14倍)
J・オルティズ:9/2(5.5倍)
ドロー:18/1(19倍)
<4>Sky Sports
テオフィモ:1/6(約1.17倍)
J・オルティズ:6/1(7倍)
ドロー:22/1(23倍)
世界挑戦まで2試合のテストマッチを挟み、ダウンを奪われ2-1判定の辛勝を拾った(?)サンドロ・マルティン(スペイン)との転級第2戦は、仮想テーラー(自分より大きなサウスポー)として呼んだつもりが、打ち合い回避の逃げ足を徹底されたこともあって(事前に分かってはいた筈)、いい場面を作り切れずに終わったことが、本番のテーラー戦で福となった格好。
対するジャメインも、ロマチェンコの復帰戦に抜擢されて力及ばず敗れはしたものの、大いに奮闘して一躍注目を集めた後、1年近く休んで昨年9月にカムバック。138ポンド契約でのリング・リターンを無事に終えている。
世界を獲る前のデヴィン・ヘイニー、ホセ・ペドラサ(セミでキィショーン・ディヴィスと対戦予定)、アーノルト・バルボサ・Jr.らに敗れたメキシコの中堅,アントニオ・モランを大差の3-0判定に下しているが、階級アップのテストはこの1試合のみ。
3試合かけて140ポンドに頭と身体を慣らしたテオフィモに比べると、どうしても線の細さは否めない。5ポンドの差(ライト級のリミット上限:135ポンド)を埋めるのは、簡単なことではないと実感させられる。
勝つことを最優先させたテーラー戦では、「当て逃げ&クリンチ」が目に付いたテオフィモ。あらためて、スピード(素早い反応も含めた)こそが最大の持ち味だと強く認識した。妥当ロマチェンコをやってのけた戦術的ディシプリンを、ここぞという大一番で再び発揮したとも言えるが、それも生来の速さがあってこその2階級制覇。
テーラーの圧力に容易に押し負けないよう、フィジカル強化に努めたことも確かではあるものの、3本のベルトを矢継ぎ早に手放した英国の王者は、テオフィモのスピード&アジリティに対応し切れず、普段通りにプレスできなかったことが最大の敗因。
テオフィモが落ち着いてボクシングに撤した場合、中差以上のユナニマウス・ディシジョンで初防衛に成功すると見るのが、妥当な予想にはなる。
不安要素があるとすれば、テオフィモのムラっ気。開始ゴングと同時に、ジョージ・カンボソスを上から見下すように、後先考えずにブンブン振り回して前進。ディフェンスが完全にお留守になったところへ、絵に描いたような右カウンターを浴びてダウン。
挽回を焦ってさらに熱くなって打ち合い勝負から抜け出せなくなり、まんまと大番狂わせを献上した大失敗を、今回もまた繰り返す恐れがゼロではない。
負けて元々(?)のジャメインは、スタートから急襲を仕掛ける奇策も有り。上手くハマって、カンボソスのようにテオフィモを空転させられたら、”The Takeover(乗っ取り屋:テオフィモのあだ名)”が、強気の”テクニシャン(The Technician:ジャメインの愛称)に”Takeover”される展開が無きにしも非ず。
ジャメインもまた、狡猾な技術&神経戦を想起させる愛称とは裏腹な、年齢相応の好戦性も併せての売りだけに、退くに退けなくなって墓穴を掘る逆効果のリスクも小さくはないけれど、当たり前にやっていたら、冷静かつ戦術的ディシプリンに撤するテオフィモを攻略するのは難しい。どうにかして、頭に血を上らせたいところ・・・。
◎公開練習
◎テオフィモ(26歳)/前日計量:139.6ポンド
現WBO J・ウェルター級王者(V0)、元3団体統一ライト級王者(WBA:V0,IBF:V1,WBO:V0)
戦績:20戦19勝(13KO)1敗
アマ通算:150勝20敗
2016年リオ五輪ライト級出場(初戦敗退)
※ホンジュラス(両親の母国)代表
2016年リオ五輪米大陸予選準優勝
2015年リオ五輪米国最終予選優勝
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2015年ユース全米選手権ベスト8
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2014年ユース全米選手権3位
※階級:ライト級
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター
◎オルティズ(27歳)/前日計量:139.6ポンド
現在のランキング:WBO10位/IBFライト級13位
戦績:19戦17勝(8KO)1敗1分け
アマ通算:100勝14敗
2016年リオ五輪代表候補(L・ウェルター級)
2015年五輪米国最終予選ベスト8
※予選:決勝でジャロン・エニス(25歳/29戦全勝27KO)にポイント負け
※本戦:準々決勝でエイブラハム・ノヴァ(28歳/21勝15KO1敗)にポイント負け
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝(ライト級)
※決勝でテオフィモ・ロペスにポイント負け
2015年全米選手権ベスト4(ライト級)
※準決勝でヘナロ・ガメス(27歳/10勝7KO1敗)にポイント負け
身長:173センチ,リーチ:175センチ
左右ボクサーファイター(スウィッチ・ヒッター)
◎前日計量
※前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=RYSCJTE_3i4
負けん気というか、きかん気にかけては容易に引けを取らない両者だけに、トラッシュトークの応酬になってもおかしくないと考えていたが、プレス・カンファレンスに続いて計量も波風立たずに終了。
静かな分だけフェイス・オフの緊張感が増したようにも感じたけれど、海外ではぎゃあぎゃあ煩く騒ぎ立てる様子を食傷気味に眺める機会が多過ぎて、何もないと拍子抜けしてしまうから困ったものだ。
BLOOD SWEAT & TEARS: Teofimo vs Ortiz | FULL EPISODE
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■リング・オフィシャル:未発表
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■ミケロブ・ウルトラ・アリーナ
聞き慣れない名称を耳にして、「またラスベガスに、新しい屋内施設が出来たのか?」と思いきや、マンダレイ・ベイ・リゾート&カジノホテルに設置された12,000人収容のイベントセンターだった。
近くは「GGG vs カネロ第1戦」が行われ、開場した1999年の秋には、全世界のボクシングファンが熱視線を寄せた「デラ・ホーヤ vs トリニダード戦」を開催した他、「デラ・ホーヤ vs F・バルガス(2002年)」、「マルコ・A・バレラ vs パッキャオ第2戦(2007年)」、「パッキャオ vs J・M・マルケス第2戦(2008年)」等々、20世紀末~21世紀の幕開けを飾るビッグファイトを手掛けた大会場の1つ。
「バドワイザー」で知られるビール・メーカー「アンハイザー・ブッシュ」が、自社の新しいブランド「ミケロプ・ウルトラ」のプロモーションの一貫として、2021年に命名権を取得した。
ネーミング・ライツは、箱物の運営にとってもはや不可欠と表すべきなのだろうが、例えばエディオン・アリーナを名乗る大阪府立体育会館のように、馴染み深い名前が変わることへの一抹の寂しさは残る。
命名権を獲得しつつ、地元の人たちとファンに親しまれた名前をそのまま継承する、太っ腹の経営者が1人くらい現れても良さそうなものだが、雇われ社長では到底叶わない無理難題ということか・・・。