カテゴリ:
■2023 Fighter of the year - リング誌が井上尚弥を選出

遂にこの日がやって来た。もしかしたらとかすかな可能性に期待をしてはいたが、まさか現実になるとは・・・。



1928(創刊から6年後)年、引退を表明したジーン・タニー(ジャック・デンプシーを2度破り”戦う海兵”と呼ばれたヒーロー)を表彰して以来、95年の永きに渡って年間MVPを公表し続けてきたリング誌が、2023年度のボクシング界を代表する最も優れた選手に、我らが”リアル・モンスター”こと井上尚弥を選出した。

余りにも辛く過酷な元旦を迎えて、素直に喜びを表していいものかどうか逡巡を覚えつつ、2022年6月~7月にかけて、同誌がパウンド・フォー・パウンド・ランキング1位に抜擢した時以上の特筆大書すべき快挙、歴史に残る壮挙と称すべきだろう。

選定基準が今1つ不明瞭でわかりづらい印象が強く、ややもすると「架空・空想のランキング」だの、「比較不可能なものを無理やり比べるのは無意味」といった批判がつきまとうP4Pに対して、「年間最優秀選手」の表彰は誰の目にも明らかでわかり易い。


これまで東洋圏から選ばれたのはマニー・パッキャオのみで、NHKがスポーツのヘッドライン(TV・ラジオ・ネット)で報じるなど、国内メディアでも大きく採り上げられている。

◎井上尚弥 米ボクシング専門誌で年間最優秀選手に 日本人で初
2024年1月6日(土) /NHK Sports
https://www3.nhk.or.jp/sports/news/k10014311731000/


どれほどの偉業なのかは、過去に選出された名前を確認すれば一目瞭然。
【過去の表彰】

100年に及ぶ歴史を誇るリング誌の「ファイター・オブ・ジ・イヤー(1922年スタート)」において、フェザー級以下の軽量級から選ばれたのは僅か7名に過ぎず、投票権を持つ記者が相当数重複するBWAA(1938年から選出開始)はさらに少なく、ドネア,フランプトン,モンスターの3名だけ(ドネアを含めても8名)。

◎リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤー:フェザー級以下
<1>1945年:ウィリー・ペップ(フェザー級/1990年殿堂入り)
<2>1977年:カルロス・サラテ(バンタム級/1994年殿堂入り)
<3>1981年:サルバドル・サンチェス(フェザー級/1991年殿堂入り)
<4>1993年:マイケル・カルバハル(J・フライ級/2006年殿堂入り)
<5>1999年:ポーリー・アヤラ(バンタム級)
<6>2016年:カール・フランプトン(S・バンタム~フェザー級)
<7>2023年:井上尚弥(S・バンタム級)

◎BWAAファイター・オブ・ジ・イヤー(シュガー・レイ・ロビンソン賞):フェザー級以下
<1>2012年:ノニト・ドネア(S・バンタム級/4階級制覇)
<2>2016年:カール・フランプトン(レオ・サンタクルスを破ってフェザー級王座を獲得)
<3>2023年:井上尚弥
※2017年に両方とも選ばれたロマチェンコは、130ポンドのWBO王者としてリゴンドウ戦を含む年間3度の防衛に成功。
※BWAAは1976年度にモントリオール五輪で金メダルを獲得した5名を同時に選出・表彰。レオン(L・ヘビー)とマイケル(ミドル)のスピンクス兄弟,レイ・レナード(L・ウェルター),ハワード・ディヴィス(ライト)とともに、フライ級のレオ・ランドルフも栄誉に浴しているが、これは特例的な表彰で枠外と考えるべき。

ご覧いただいて分かる通り、最も権威を認められたリング誌とBWAAの年間MVPは、概ねライト級が対象範囲の下限と見ても間違いではなく、フェザー級以下の軽量級から選出されるケースは異例中の異例と表していい。

◎Fighter of the Year?! Terence Crawford, Devin Haney, or Naoya Inoue?
2023年12月29日

※スポーツ・イラストレイテッドの予想動画:スポイラとYahoo! Sportsのシニアライターを務めたクリス・マニックスと、同じくスポイラのシニアライターとして活動するグレッグ・ビショップによる討論


昨年末、ESPNが一足早く井上の年間MVPを決定済みだが、周知の通り、米本土における共同プロモートを担うトップランクの中継を行っているのがESPNで、井上の試合もスポーツ専門チャンネルの「ESPN+」で全米に配信されている。

ウェルター級の中心選手をごっそり抱えるアル・ヘイモン(PBC:Premier Boxing Champions)一派と、デラ・ホーヤ&アラム連合軍の根深い対立が原因で、長らくビッグファイトを待たされ続けたクロフォードは、エロール・スペンスとの統一戦を何としても実現するべく、トップランクとの関係を清算した。

その後勃発した法廷闘争は、王国アメリカでは既定の路線であり日常茶飯事。関係が破綻した興行会社とボクサーの、金にまつわる訴訟沙汰は枚挙に暇がない。「坊主憎けりゃ・・・」の使い古された諺を持ち出すまでもなく、政治的な背景が透けて見えてしまう。


国際的なスケールで波及効果を持つボクシングの年間表彰は、歴史的な評価という観点からもリング誌のそれが決定版と表して良く、1938年から同様の表彰を行っているBWAA(Boxing Writers Association of America)の判断(重複する選考委員が少なくない)にも自ずと影響する。

ノミネートの一覧を公表したBWAAも、同じ結果になる確率が極めて高い。選ばれずにおかんむり(?)のP4Pキング,テレンス・クロフォードに与えてバランスを取る選択肢もあるが、パウンド・フォー・パウンドのトップを奪われてはいないので、それでご納得していただけないものかと率直にそう思う。


◎5 MINUTES AGO: Terence Crawford FIRES BACK At Naoya Inoue
2023年12月30日/Fighters Corner


◎BWAAのノミネート:シュガー・レイ・ロビンソン・アワード(ファイター・オブ・ジ・イヤー)
デヴィッド・ベナビデス
テレンス・クロフォード
ジャーボンティ・ディヴィス
デヴィン・ヘイニー
井上尚弥

◎関連記事
<1>NAOYA INOUE IS THE RING’S 2023 FIGHTER OF THE YEAR
2024年1月5日/THE RING
https://www.ringtv.com/662824-naoya-inoue-is-the-rings-2023-fighter-of-the-year/

<2>Boxing's best of 2023: Fighters of the year, best fights, KO and more
2023年12月29日/Mike Coppinger, ESPN
https://www.espn.com/boxing/story/_/id/39197618/boxing-best-2023-fighters-year-best-fights-ko-more

<3>2023 Fighter of year: Naoya Inoue
Plus the 6 honorable mentions in order; past winners year-by-year
2023年12月28日/Dan Rafael
https://danrafael.substack.com/p/2023-fighter-of-year-naoya-inoue

<4>The BWAA Announces Its 2023 Annual Award Nominees
2024年1月
https://www.bwaa.org/single-post/the-bwaa-announces-its-2023-annual-award-nominees

<5>BWAA 2023 Writing Contest Rules, Categories And Deadline
2024年1月
https://www.bwaa.org/single-post/bwaa-2023-writing-contest-rules-categories-and-deadline


Part 2 へ