カテゴリ:
■1月6日/ヴァージン・ホテルズ・ラスベガス/S・ウェルター級12回戦
ヴァージル・オルティズ(米) vs フレデリック・ローソン(米)





◎ファイナル・プレス・カンファレンス:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=jQVjTHZvkb0


180センチ近いタッパに優れた手足&身体全体のスピードに恵まれ、左右どちらのパンチも抜群の切れ味と破壊力を併せ持つ。主にジュニアにはなるものの、アマチュアでの大活躍を経てゴールデン・ボーイ・プロモーションズと契約。

総帥デラ・ホーヤが骨の髄から惚れ込み、三顧の礼を持って迎えた逸材に相応しく、2016年7月のデビュー以来、2019年1月までに破竹の12連続KO勝ち。最盛期(1950~70年代)の勢いを失って久しいとは言え、まだまだ選手層の厚い王国アメリカの135~140ポンドにおいても、アベレージのローカル・トップでは勝負にならない。


10戦目の相手は、”あの”ファン・カルロス・サルガド。130ポンドの初防衛戦(2009年10月)に臨むホルへ・リナレスを地獄へ叩き落し、翌2010年1月の再来日で内山高志にその座を譲った後、IBFで復活を遂げて3度の防衛に成功。

V4戦でドミニカのアルヘニス・メンデスに敗れると、ライト級に上げて復帰を目指すも5連敗(粟生隆寛戦を含む:10回判定負け/通算6連敗)。白星配給を生業にするアンダードッグ路線へと突入していた。

体格差もさることながら、若く野心に燃えるオルティズ(二十歳)は荷が重過ぎて、3ラウンドでし止められる。


S・ライト級での載冠にこだわらず、早々とウェルター級への参戦を表明したのは、WBCとWBOの2団体を獲ったホセ・カルロス・ラミレスがステーブル・メイトだった為で、WBAとIBFの2冠王ジョシュ・テーラーを狙う段取りになっていたが、「140に残れば、遅かれ早かれホセとの試合が組まれてしまう。(親しくなり過ぎて)彼との潰し合いだけは御免だ。絶対に無理」だと語った。

147ポンドに照準を合わせると、世界を見据えたテストマッチが口火を切る。一度はWBAのS・ライト級暫定王座に就き、ダニー・ガルシアやホセ・ベナビデス・Jr.、ヘスス・ソト・カラスらと熱戦を繰り広げたマウリシオ・ヘレラと、ラスベガスで激突(2019年5月/カネロ vs D・ジェイコブスのアンダー)。

それなりに手を焼くだろうと注視したが、タフで勇敢なヘレラを圧倒。2度のダウンを奪い、僅か3ラウンドで決着。開花を待つ埋蔵量の桁が違うことを、あらためて実感させてくれる。


ここからの連勝がまた見事だった。3ヶ月後の2019年8月、サンディエゴ在住のメキシカン・ホープ,アントニオ・オロスコを6回に3度倒してストップ(公式記録はKO)。何かと批判の多かったWBAゴールド王座を獲得。ヘレラとオロスコは、この敗北の後リングに上がっていない。

さらに年末の12月には、ジョージア州を拠点に世界を目指す黒人プロスペクト、ブラッド・ソロモンを5ラウンドで撃破。カリフォルニアのインディアン・カジノに集まったメキシコ系のファンを大いに喜ばせた。

そしてニューヨークで爆発的な感染(2020年5月)が国際的に大きなニュースとなり、米大陸でも武漢ウィルスが牙を剥いて猛威を振るい始める2020年7月、コロンビアの下位ランカー,サミュエル・バルガスを7回KOに下して、WBAゴールド王座のV2。


この後パンデミックによる小休止を挟み、2021年3月にはモーリス・フッカー(140ポンドの元WBO王者/J・C・ラミレスとの統一戦に敗れて階級アップ)にも7回KO勝ち。WBOのインターナショナル王座を奪取する。

ABC(Association of Boxing Commissions:全米各州コミッションの上部機関/米国統一ルールを所管)の強硬な抗議を受け、WBAが遂に暫定王座の常設廃止を決定し、併せてゴールド王座の承認も止めることを発表。オルティズのベルトも当然消滅した。

WBAが重過ぎる腰を上げて、嫌々ながらもチャンピオンベルトの集約に動き出した2021年8月、キャリア最大の強敵を迎える。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

リトアニア出身のタフ・ガイ,エギディウス・カヴァリアスカスは、2011年世界選手権の銅メダリストで、2大会連続(北京とロンドン)で五輪出場を成し遂げた欧州のトップ・エリート。トップランクと契約して渡米し、2013年3月にプロデビュー。

12連続KO勝ちで注目を集めた後、2019年12月にテレンス・クロフォードのWBOウェルター級王座にアタックして9回TKO負け。

パンデミックの影響も重なり、2020年9月の再起戦では、カナダから招聘したミカエル・ゼウスキ(アマ138勝29敗/2009年世界選手権代表)を8回TKOに退けたが、流行を繰り返す武漢ウィルスに行く手を阻まれ1年近いレイ・オフ。ようやく陽の目を見た実戦復帰という流れ。


”Mean Machine(ヤバいヤツ)”のニックネーム通り、カヴァリアスカスは歴戦の兵(つわもの)ぶりを発揮。第2ラウンド2分過ぎ、右ショート・アッパーのカウンターを効かせて、オルティズをダウン寸前まで追い込む。

ヨロめきながらもクリンチ&ホールドで凌ぎ、圧力を強めて前に出てくるリトアニア人を押し返そうと、強引に振り回すテキサスの寵児。焦りも手伝って振りが荒くなる。左フックを思い切りスウィングし過ぎて、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

すぐに立ち上がって右の拳を左右に振り、懸命にスリップをアピール。左フックを振るう直前、カヴァリアスカスの右がクロス気味に着弾(クリーンヒットではない)していた為、ダウンカウントを取られても文句を言いづらい場面だったが、主審のローレンス・コールはお構いなし。

この時主審コールはカヴァリアスカスの背後に回り、適切なポジショニングでしっかり見えていた(ヒッティング or オフ・バランス)ということなのだが、カウントを取るか否かは主審の胸先三寸。開催地が地元テキサス(フリスコ:居住するダラスから車で30分程度の距離)で助かったとも言える。


残り時間の少なさにも救われ、過去最大の窮地を逃れたオルティズ。続く第3ラウンド、特徴の1つである高いガードを作り直し、ジャブ&ワンツーのベーシックで建て直しを図る若きテキサン。

ジャブが機能し出すと、リトアニアの戦士も簡単に懐に入ることができない。それならばと無闇に突っかけたりせず、じっくり機を伺う。ラウンドも残り30秒を切った辺り、オルティズの左リードを待って強烈な右のオーバーハンドを合わせるカヴァリアスカス。ニューヒーローはあっという間にロープを背負う。

ベテランの上手さがキラリと光る攻撃。波乱の展開が偶然ではないと悟り、騒然となる場内。しかし、テキサスの寵児がここで底力を見せる。大柄な体躯がウソのようにスムーズなムーヴで、右サイドへスルリと回り込むようにロープから離れると、腰の入ったリトアニア人の追撃の右に強めの左を合わせると同時に小さくステップバック。

追撃の右が左頬をかすめたオルティズは再びロープを背にする格好になったが、相打ちの左クロスを危うく食いそうになったカヴァリアスカスも半歩下がり、両雄の間に十分な距離が出来る。


この機を逃してなるものかと、オルティズが先に前に出た。そしてジャブ。カヴァリアスカスもすかさず右のオーバーハンド。がしかし、二匹目のドジョウはいなかった。

これを読んでいたオルティズは素早いダッキングでかわすと、起き上がりざまに上から右フックを振り下ろす。ボディワークで対応するリトアニアン。オルティズは空振りになると同時にステップバック。そこを左フックで襲うカヴァリアスカス。だが深追いはしない。

再び間合いを取ったと思いきや、すぐに1歩出てショートジャブを放つオルティズ。これに反応して右のパリングで払うカヴァリアスカス。ガードが開く僅かなタイミングを縫うように軽めのジャブを突き、瞬時に右ストレートをつなぐと、さらに得意の左フックを一閃!。


高い技術と経験値に心身のタフネスを誇るリトアニアの戦士も、これだけ速くて強い、完成度の高いコンビネーションはかわせない。右の顎を痛打されて腰からストンと落ちた。効いてはいたが、時間帯も早く決定的なダメージまでは負っていない。

カウント5で立ち上がると、瞳に動揺を露にしながらもなお、自らを落ち着かせるようにエイト・カウントを待つベテラン。主審コールの再開と同時に終了ゴングが鳴った。

絵に描いたような逆転劇に、会場を埋めた地元ファンのボルテージは否が応でも上がる。ヒリヒリするような緊迫と緊張の中、流れるように美しい4連打を決めるオルティズの姿に釘付けとなり、2人のファイターがそれぞれのコーナーに戻ると、こちらもホっと力が抜けて深呼吸。

残り30秒の攻防を凝視している間、息を止めていたことにようやく気付く。


鮮やかなダウンでペースを握り返したオルティズは、ジャブで距離をキープしながらリトアニアのベテランをコントロール。逆襲の隙を与えないよう注意を払い、時折ヒヤリとする攻勢を受けても直ちに流れを絶ち、左と強烈な右で優勢を保持。

そして第8ラウンド、オルティズの方から接近戦を挑み、青コーナーに後退するカヴァリアスカスに身震いするような左ボディをグサリ。がっくりと片膝を着いた後、顔を上げてカウントを聞く。

表情には半ば諦めの色が浮かぶも、立ち上がってリスタート。もはや形勢を盛り返す余力は残っておらず、すぐにロープを背負わされると、今度は左フックを顔面に貰ってまたダウン。


直ちに起き上がって自らニュートラルコーナーに歩き、ゆっくりエイト・カウントを聞き、ギブアップすることなく再開に応じるも、近づいて左右を連射するオルティズ。何発目かの左で当たってガクンと膝から落ちたが、何とか踏ん張って倒れずまたエイト・カウント。

このラウンドだけで3度目のダウン。カヴァリアスカスの瞳は完全に戦意を喪失。止めるかと思ったが、主審コールは継続を指示。残り10秒を知らせる金属的な打音が同時に響き、オルティズは右もろとも駆け足で接近。ロープ伝いに逃げるカヴァリアスカスを追いかけ、赤コーナーのすぐ横に追い込み左右を連射。

たまらず座り込むように4度目のダウン。傍観者のごとく振舞う主審コールも、間髪入れずにストップを宣告した。


◎直近の試合映像
<1>マッキンソン戦/9回TKO勝ち(発症後の再起第1戦)
2022年8月6日/ディッキーズ・アリーナ,テキサス州フォートワース


<2>カヴァリアスカス戦/8回TKO勝ち(発症前の最後の試合)
2021年8月14日/フォードセンター,テキサス州フリスコ
WBOインターナショナルウェルター級TM12回戦


<3>モーリス・フッカー戦/7回KO勝ち
2021年3月20日/ディッキーズ・アリーナ,テキサス州フォートワース
WBOインターナショナルウェルター級TM12回戦(決定戦)



●●●●●●●●●●●●●●●●●●

終わってみれば、5回ものノック・ダウンを数える完勝。7ラウンドまでのオフィシャル・スコアも、文句無しのユナニマウス・ディシジョン( 69-63×2,68-64×1)。

ダウン寸前の大ピンチを切り抜けただけでなく、次のラウンドで勝負の行方を決める決定機を創出した手際は、世界タイトルへの挑戦資格に相応しいものと言えた。がしかし、ヴァージル・シニアは磐石と思われたチームを一新する。

ヘッド格としてシニアとともにチームを支えてきたロベルト・ガルシア(南カリフォルニアのオックスナード在住)を更迭し、チーム・カネロへの合流を模索。何だかんだありながらも、コーチとしてのエディ・レイノソ(カネロを少年時代から指導するチーフ兼カネロ・プロモーションズ代表)は、メキシコ系アメリカ人の有力選手には魅力的に見えるらしい。

何度か交渉のテーブルには着いたようだが、レイノソもプロモーターとの兼業で多忙を極めているらしく、妥結には至らなかった。そこで陣営は、ガルシアと同じカリフォルニア(L.A.近郊)にジムを持つベテラン、マニー・ロブレスの招聘を決定。


幼い頃から手解きを受けた実父ヴァージル・シニアとの親子鷹に、信頼厚い協力者で今もカットマンとしてコーナーに入るエクトル・ベルトランと、2人の兄弟を加えたファミリー・ビジネスは、欧米では良く見られる形態なのだが、プロ入りに際して、ティム・ブラッドリーを長く支えたジョエル・ディアス(南カリフォルニアのコーチェラで活動)を共同チーフに招いている。

ディアスとはプロ9戦目まで一緒に戦ったが、上述したサルガド戦を前に、ロベルト・ガルシアとの体制に変更。関係は円満良好で、解消がリリースされた時にはいささか驚いた。

直接的な理由は、カヴァリアスカス戦のコーナーにガルシアが入らなかったこと。まったく同じ日に、ガルシアが預かるジョシュア・フランコの防衛戦(WBA S・フライ級)があり、アンドリュー・モロニー(豪)との因縁に決着を着ける3戦目だったことから、ガルシアはフランコを優先した。


ガルシアは名代として父のエデュアルドと息子のロバート・ジュニアを送り込んだが、ステージ・パパのヴァージル・シニアはお気に召さなかったという次第。ガルシアだけでなく、例えばフレディ・ローチもそうだが、多くの有力選手を抱える売れっ子トレーナーになると、大事な選手の試合日程が重なるのは珍しいことではない。

当然事前に話し合いが行われ、双方納得づくで陣容が決まる(筈)。ただし、外れた方はすっきりしない思いがどうしても残る。「(稼げる中量級の)俺たちより、(比較すれば稼ぎの良くない)軽量級を選ぶのか・・・」という訳で、ヴァージル親子は別れを告げる為にオックスナードを訪問。

この動きを最も早く察知したマイク・コッピンガーがツィートすると、オルティズは否定のリツィートをアップしたが、すぐにガルシアが事実を公表。こうして1年ぶりの復帰戦を、ガルシアではなくマニー・ロブレスと戦うことになった。


既に述べたように、オルティズの出来そのものは十分なものではあったが、1つ気になったのがガードの位置と構え。右の拳をコメカミ付近まで上げて、左の自由度を増していたが、右の位置が高過ぎてバランスが悪く感じた。

また左を少し楽に構えることで、ジャブの出をスムーズにしたかったのではないかと推察するが、これも指摘済みの通り今1歩冴えを欠く。

おそらくロブレスの指示だと思われるが、陣営も違和感を覚えたのか、はたまたまったく別の理由なのか、真相ははっきりとしないが、マッキンソン戦から1年半を経た今回の試合に備えて、何とガルシアとの復縁を選択。

いずれにしても、メキシコにルーツを持つヴァージル親子にとって、メキシカン・スタイルを肌で理解するコーチとの縁組は必須のようで、これまでと変わらない一貫したポリシーと想像する。


シカゴから呼ばれたアンダードッグのローソンは、2011年デビューの10年選手。2014年に初渡米を実現した後、東の要所に活動拠点を移した。戦績が示す通り好戦的なパンチャーで、右のオーバーハンドはそれなりに怖い。

ただしスピードには結構な差がある。オルティズが正面に留まり続けて、真っ正直に打ち合う愚を冒し続けるとわからないけれど、普通の状態で普通にやればまず問題はないと思う。

オッズもワイド・マージンになっている。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
V・オルティズ:-3000(約1.03倍)
ローソン:+1200(13倍)

<2>betway
V・オルティズ:-3333(約1.03倍)
ローソン:+1100(12倍)

<3>ウィリアム・ヒル
V・オルティズ:1/33(約1.03倍)
ローソン:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
V・オルティズ:1/33(約1.03倍)
ローソン:16/1(17倍)
ドロー:25/1(26倍)


前日計量でオルティズがS・ウェルター級リミットを2ポンド上回ったが、ノーペナルティで試合は行われる模様。もともと156ポンド契約だったのかもしれないが、どうにも釈然としないものが残る。

どれだけのハンディを押し付けられても、ローソンには試合を受ける一択あるのみ。千載一遇のビッグ・チャンスを逃す選択肢は無い。

お腹周りがダブついてやしないかと余計な心配もしたが、杞憂に終わってその点だけは何より。長い休養の間も、出来る限りのトレーニングを継続していたのは間違いない。

果たして、どこまで回復できているのか。計量時点で10ポンド近い増量も、気にならないと言えばウソになる・・・。


◎オルティズ(22歳)/前日計量:156ポンド
元WBAウェルター級ゴールド(V2),元WBOインターナショナルウェルター級(V2),元NABF(北米)S・ライト級(V0)王者
戦績:19戦全勝(19KO)
アマ通算:140勝20敗
2016年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝(L・ウェルター級)
2014年ジュニア(U17)全米選手権2位(119ポンド/54キロ)
2013年ジュニア(U17)全米選手権優勝(110ポンド/50キロ)
※ジュニア・オリンピックを兼ねる
2013年ナショナル・シルバー・グローブス(14~15歳)優勝(106ポンド/48キロ)
2012年ナショナル・シルバー・グローブス(12~13歳)優勝(90ポンド/40.8キロ)
身長,リーチとも178センチ
右ボクサーファイター


◎ローソン(34歳)/前日計量:152.4ポンド
元WBCシルバーウェルター級王者(V0)
戦績:33戦30勝(22KO)3敗
身長:175センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=DeL8sL1lfZ8