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■12月9日/C・F・ドッジシティ・センター,フロリダ州 ペンブロークパインズ/WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ロベイシー・ラミレス(キューバ) vs WBO10位 ラファエル・エスピノサ(メキシコ)





※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=mtmzr78PYa4


井上尚弥 vs スティーブン・フルトン戦のセミとして初来日を果たし、清水聡を5ラウンド途中のストップで引退に追い込んでから5ヶ月。2度目の防衛戦に迎えたチャレンジャーは、185センチのタッパに恵まれた無敗のメキシカン。

大差の3-0判定でWBOのベルトを奪取した4月のアイザック・ドグボェ(ガーナ)戦を含め、2年連続の年間3試合ということになる。


「ラミレスなら(尚弥は)勝てると思う。」

試合後のインタビューでリアル・モンスターの今後について聞かれた大橋会長が、「あれなら問題ない・・・」とのニュアンスを漂わせながら、井上自身が否定的(フルトン戦直後まで)だったフェザー級進出に言及。

そして、解説席に陣取った清水の戦友,村田諒太も、「後半まで粘ればわからない」と繰り返し指摘していたが、清水戦のラミレスはけっして褒められた仕上がり&出来ではなかった。


これも村田が再三言っていたことだが、ラミレスは早々と息が上がり出してしまい、コンディションが万全でないのは一目瞭然。

アマチュア時代から欧州を始めとした海外遠征を数多く経験しており、ほぼ2週間前(7月12日/試合は25日)の羽田到着だったことを考慮しても、時差の影響は考えづらい。

プロ入り当初からコンビを組むイスマエル・サラス(現在はラスベガスに拠点を置く)の下で追い込みのキャンプを敢行。18日(来日して6日目)に大橋ジムで行われた公開練習での動きに特段の問題は感じられず、身体もしっかり絞れていた。


世界チャンピオンでさえ、防衛戦の合間にリミット+1~3ポンド程度の契約ウェイトで頻繁にノンタイトルをこなしていた20世紀のプロボクシングでは、2~3ヶ月のスパンが常識だったし、世界戦(15ラウンド制)の本番1ヶ月前に10回戦を組むこともある。

ドグボェ戦(4月1日/オクラホマ州タルサ)から4ヶ月近く開いていたものの、年間2試合が当たり前になってしまった現在、休養も含めた準備期間が十分ではなかったのかもしれない。

大きくてスピードに欠ける上にディフェンスも甘い清水を映像で確認した時点で、「普通にやっていればOK。何の問題もない」と判断していたとしても不思議はなく、「100%に仕上げるまでもない」と見ていたフシも否定はできないけれども。


公称180センチの清水を5センチも上回る規格外の長身を売りにするエスピノサは、メキシコ国内におけるボクシングの要所の1つで、カネロのホームタウンとしても知られるグァダラハラの出身。

2013年2月デビューの10年選手で、無傷の21連勝(18KO)で台頭中(?)と言う訳だが、レコードに名のある相手は皆無。2018年7月から2020年6月まで2年近いブランクを作っているが、無名故に詳細なインタビューは行われておらず理由はわからない。

メキシカンの手厚いバックアップには定評のあるWBCでもランキングに名前はなく、今年9月に突如WBOのランク入り(11位)を果たすも、明確な根拠となる戦果はなく、ラミレスのキャリアを差配するトップランクの政治力と申し上げるのみ。


従って直前のオッズもご覧の通り。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
R・ラミレス:-1200(約1.08倍)
R・エスピノサ:+650(7.5倍)

<2>betway
R・ラミレス:-1099(約1.09倍)
R・エスピノサ:+600(7倍)

<3>ウィリアム・ヒル
R・ラミレス:1/12(約1.08倍)
R・エスピノサ:11/2(6.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
R・ラミレス:1/20(1.05倍)
R・エスピノサ:6/1(7倍)
ドロー:33/1(34倍)


デビュー戦をしくじった大失態の影響が尾を引いているのだろうか、ボブ・アラムは五輪連覇の輝かしい実績を持つキューバ人のキャリアメイクについて、いささか慎重に過ぎるきらいがある。

ファンマ・ロペス(懐かしい)からオルランド・サリド,マイキー・ガルシアを経てロマチェンコへと渡り、さらにオスカル・バルデス,シャクール・スティーブンソン,エマニュエル・ナバレッテへと引き継がれたWBOのフェザー級は、10年以上の長きに渡ってトップランクの支配下にあった。

ロマチェンコ以降の王者たちは、「階級アップによる返上→決定戦」,すなわちベルトの禅譲を繰り返しており、決定戦の相手は通常勝利が見込めるアンダードッグをあてがう。そしてラミレスも例外では有り得ない。


先輩王者たちも安全確実にベルトを巻き、防衛戦では相応の実力者を迎えているが、J・フェザー級で一度は頂点に立ったドグボェは、バルデス,シャクール,ナバレッテの3人に用意した選手たちよりは危険だった為か、ラミレスには「二桁台の大柄な下位ランカー」を連続で調達。

リスク回避がミエミエのマッチメイクに関して、「時間の浪費」「才能の無駄使い」等々の批判的な意見も散見される。

注目度が上昇中のIBF王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)もトップランクが保有しており、入札になったWBAの次期王座決定戦(S・フェザー級への増量を表明したリー・ウッドが返上)をトップランクが落札。


東海岸の期待を集めるWBA2位のレイモンド・フォード(24歳/14勝7KO1分け)は、エディ・ハーン率いるマッチルームUSA傘下。対する1位オタベク・ホルマトフ(コルマトフ/ウズベキスタン)は、ジュニアとユースで華々しい実績を持つサウスポーのエリート・アマ。

2021年に渡米。フロリダで活動のベースを築きながら、11連勝(10KO)の快進撃であっという間に王者候補の列に並んだプロスペクトの1人。今年3月に渡英してトーマス・パトリック・ウォード(29歳/33勝5KO1分け)を5回で粉砕。WBAの指名挑戦権を得た。

エリミネーターを直接手掛けたのは、フィル・ジェフリーズというイングランドのローカル・プロモーターで、ウォードを保有している。エディ・ハーンだけでなく、在米大手プロモーションとの契約には漕ぎ着けていない模様。


来るべき井上尚弥の5階級制覇(+3階級での4団体統一)を睨むアラムが、ホルマトフをハンドリングする興行会社(Undisputed Boxing Championship/在フロリダ:代表者はおそらくロシア人か旧ソ連邦に出自を持つと思われる)と渡りを付け、フォードとの対戦交渉を不首尾に終らせ入札に持ち込んだと見るのが正解だろう。

PBC(Premier Boxing Champions)と良好な関係を保つWBC王者レイ・バルガス(メキシコ)以外は、すべてトップランクが抑えたという次第。

もっともそのWBCも、先週マイケル・コンラン相手に大番狂わせを引き起こし、指名挑戦者になったばかりの1位ニック・ボール(英)は、アラムがタイソン・フューリーを共同プロモートするフランク・ウォーレンの持ち駒。

また、武漢ウィルス禍の最中にナバレッテと五分の熱闘(2020年10月)を繰り広げた2位のルーベン・ビリャ(ビジャ/米)もアラムの選手で、S・フェザー級で「階級の壁」に弾き返されたバルガスの首を虎視眈々と狙う。

マッチルームのボクシング部門を束ねるエディ・ハーンは、ウッドとの再戦(今年5月)でリベンジを許し、前王者となった3位マウリシオ・ララ(メキシコ)をPBCへ送り込み、井上も含めた統一路線に割り込みたいところ。

いずれにしても、アラムは井上陣営の意向に配慮しつつ、ビジネスの旨味を最大限に引き出すべく、間もなく126ポンドの統一路線が具体化させる筈。


それまでの間、ラミレスには何としてもチャンピオンでいて貰わねば・・・との内部事情はご同慶の至りと申し上げる以外にないけれど、清水よりも8歳若いエスピノサは、「生涯に一度あるかないか。正真正銘のビッグ・チャンス。必ず勝つ!」と野心を燃やす。

長身痩躯のメキシカンと言えば、ナバレッテを筆頭に、ギクシャクとしたおかしなリズムから遅れ気味に届く大きなフックとアッパーを振って、多少の被弾はお構いなしで接近戦を挑むファイターをイメージしがち。

しかし、「El Divino(エル・ディヴィーノ:神,唯一無二の神聖さを表す)」という大それたニックネームを持つ軽量級の巨人は、清水ほどスローでもなくディフェンスもまずまず。

スピーディなワンツーと意外に素早い前後のステップワークを駆使しながら、中間距離で無難に手数をまとめたり、中途半端なスウェイバックに頼って墓穴を掘る長身特有の悪癖が余り目立たない。

ラミレスが清水戦と同程度の仕上がり具合だと、後半まで食い下がられてガス欠に追い込まれ、自滅半ばに万が一の事態に陥る確率がゼロとは言えなくなる。


とは言え、速さと柔軟性ではキューバの天才サウスポーに及ぶ筈もなく、ややもすると左フックに対する反応が遅れる傾向を、アマチュアの最高峰を極めた高精度のコンビネーションで抜け目なく襲う。

上手に押し引きしながら、適時カウンターをまぶしては安全圏を行き来する。丁寧なポイントメイクを徹底されると、もうどうしようもない。

”メヒコ版タワーリング・インフェルノ”よろしく、カウンターを恐れずスタートからガツガツ行くのも一策なれど、自分の距離をキープしながら長いストレートを打ち下ろし、頭を低くして入って来る相手をステップバックでいなしつつ、アッパーで身体を起こしてはまた打ち下ろすのがエスピノサ本来のボクシング。


簡単に倒せるとばかりに、序盤から無闇に強振して息切れした清水戦の愚を、ラミレスが再びやらかすことはないだろう。

エスピノサの打たれ強さによっても状況は変わるが、仮にサイズで脅威を感じさせることができたとしても、その瞬間にラミレスは安全策を採り、無駄を省いて隙を見せなくなる。大差の3-0判定か中盤意向のTKOでV2達成と見るべき。


◎ラミレス(29歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:14戦13勝(8KO)1敗
アマ通算:400勝30敗(概ね)
2016年リオ五輪金メダル(バンタム級)
2012年ロンドン五輪金メダル(フライ級)
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)ベスト8(バンタム級)
※本大会で銅メダルを獲得する地元カザフのカイラット・イェラリエフ(リオ五輪代表/2017年世界選手権金メダル)に0-3判定負け
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)3回戦敗退(フライ級)
※ロシア代表ミーシャ・アローヤン(ロンドン五輪銅だメル/世界選手権2連覇)に11-15で惜敗
2011年パン・アメリカン・ゲームズ金メダル(フライ級)
2013年パン・アメリカン選手権金メダル(バンタム級)
2010年ユース世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル(バンタム級)
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル(バンタム級)
キューバ国内選手権優勝5回(2011年・2012年・2014年・2015年・2017年)
身長:168センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター


◎エスピノサ(29歳)/前日計量:125.3ポンド
戦績:21戦全勝(18KO)
身長:185センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


※フル映像:前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=3uSNo7BtpAo


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■リング・オフィシャル:未発表