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■7月29日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBC世界バンタム級王座決定12回戦
元5階級制覇王者/WBC1位 ノニト・ドネア(比) vs WBC3位 アレクサンドロ・サンティアゴ(メキシコ)





不惑の閃光がバンタム級で3度目の載冠へ。

充分に想定されたこととは言え、リアル・モンスター,井上尚弥との再戦で凄絶なKO負けを喫した後、実戦から遠ざかっていたドネアがリングに戻って来る。

当初は今月15日に米国内で開催の運びとなる予定だったが、幾つかのアンダーカードがまとまらず、開催地が正式に決まる前に日程を変更せざるを得なくなった。

もはやドネアの顔と名前だけでは、興行が成り立たない。アンダーカードにそれなりの面子が揃っていないと、Showtimeもバックアップを躊躇し二の足を踏む。これが王国アメリカの現実なのだ。


やはり、井上とのリマッチで失ったものは大きい。勿論、年齢の問題もある。さいたまスーパー・アリーナで行われた第1戦でリアル・モンスターに大きな爪跡を残し、ナルディーヌ・ウバーリと同胞のレイマート・ガバーリョを立て続けに4ラウンドで殲滅。

健在ぶりを強力にアピールした”フィリピンの閃光”だったが、黄昏時を迎えたキャリアに、いつ釣瓶落としの終幕が訪れても不思議はない。断崖絶壁に立たされている自覚は、他の誰よりもドネア自身が実(痛)感している筈だ。

だとしても、いや、だからこそ、三度び緑のベルトを巻くことには意味がある。WBA王座を獲得して、史上初となる「兄弟4団体統一」を公言した井上拓真とのマッチアップが当面の話題にはなるけれど、来月12日にIBF王座への復活を懸け、ニカラグァのファイター,メルヴィン・ロペスと対峙するエマニュエル・ロドリゲス、5月13日に一足速くWBOの王座に就いたジェイソン・モロニーらとの統一戦が実現に向かう可能性も出て来る。


「モンスターに蹴散らされた連中の統一戦?」

そんな口さがないコメントが飛び出しそうでいささか怖くもあるが、ファンの関心を惹く興行はGO。テーマは何だって構わない。4団体統一がトレンドになっている今だからこそ、やっておく価値がある。

万が一(失礼!)にも、40歳のドネアが118ポンドを総ざらいした場合、不遇を囲い続けたリゴンドウとの”老いらくのリマッチ”が陽の目を見ないとも限らない。何が起こるかわからない、何が起きても結果オーライ。それが興行の常なのだから・・・。


◎CAMP KUMBATI: Nonito Donaire vs Alexandro Santiago | ep.1 | Full Episode



さて、肝心要のオポーネントである。WBC3位にランクされるサンティアゴは、公称159センチ(!)の小兵選手。ボクサーが高齢化した今日、27歳は十二分に若いと言える年齢だが、プロキャリアは既に11年。

14歳で初陣を戦ったカネロ・アルバレスの例を引くまでもなく、コミッションが脆弱なメキシコはライセンスの管理徹底が積年の課題とされていて、中学生の年代でプロになる選手が散見される。

サンティアゴがデビューしたのは2012年の暮れ。生まれ故郷ティファナ(カリフォルニア州と隣接するバハ・カリフォルニア州最大の都市)近郊のロサリトという海岸沿いの街にある小さな会場で、4回戦からスタートした正真正銘の叩き上げ。

3度の敗北と5つの引き分けを含む戦績に、一筋縄ではいかないこれまでの苦労が滲む。16歳のサンティアゴは、108ポンドのL・フライ級で初勝利を挙げると、2戦目で105ポンドのミニマム級に落とした後、3戦目から7戦目までの5試合を112ポンドのフライ級で戦い、17歳になった2013年の秋以降、主戦場と表するべき115ポンドに参戦した。


転級後も2度フライ級でリングに上がっているが、この2試合でプロ初黒星と2度目の敗北を喫している(6回戦/いずれも判定負け)。そこから3連勝(うち2つが8回戦/すべて判定)をマークして、井上尚弥に蹂躙される目前(1年前)、まだ無敗レコードを維持していたアントニオ・ニエヴェスの対戦相手に抜擢され初渡米(2016年8月/N.Y.州ロチェスター)。

自身初となる10回戦でニエヴェスに大善戦。10ラウンズをスプリット・ドローに持ち込み、キャリアを切り拓くきっかけを掴む。

ニエヴェス戦後に7戦して5勝(4KO)2分けの星を残し、ジェルウィン・アンカハス(比)への挑戦が実現(2018年9月/カリフォルニア州オークランド)するのだが、7戦の中にはバンタム級とS・バンタム級での調整が4試合含まれている。


求められれば戦う階級は厭わない。無理を承知で体重を増減させ、生活の糧を得ながら自らの商品価値を少しづつ上げて行く。膨大な数の無名選手たちが、いつお呼びがかかってもいいように準備をして、スクランブル発進の要請を待つ。

限られたチャンスを最大限に活かして、有力なマネージャーやプロモーターの目に止まる。それが出来て初めて、過酷な環境を生き残る資格を得る。

「男はタフでなければ生きて行けない。」

昭和に流れたコマーシャルの中にそんなセリフがあったと記憶するが、確かなディフェンステクニックを身に付け、若手のホープやトシを取った元王者たちに白星を配給しながら、休み無くリングに上がって、1つ1つは小さな金額でも、数をまとめて着実に稼ぎ続ける道もある。


どんなに急で無理を強いるオファーにも文句を言わず、タフで使い減りのしない中堅アンダードッグは、プロモーターとマッチメイカーにとって欠かすことのできない存在と言っていい。

そうした男たちの中から、下降線に入りかけたビッグネームに一泡吹かせて、一攫千金の大舞台に立つ猛者が現れたりする。それもまたボクシングの面白さであり、大きな魅力でもある。

アンカハスと12ラウンズを渡り合ったサンティアゴは、メキシコ国内のローカル・ファイトで7連勝(6KO)。パンデミックの渦中でも1年を越えるブランクを回避しつつ、バンタム級に定住。

元WBCフェザー級王者ゲイリー・ラッセル・Jr.の実弟で、118ポンドのプロスペクトとして注目を集めるゲイリー・アントニオ・ラッセル戦を射止めた(2021年11月)。


この試合でも白熱拮抗した好勝負に持ち込み、結果は僅差の0-2判定負け(95-95,94-96×2)だったが、サンティアゴを支持する声も少なからず聞こえるなど、評価を落とさずに済んでいる。


5ヶ月のスパンを開けてティファナで再起すると、昨年7月ドミニカまで遠征。ミゲル・コットとオスカー・デラ・ホーヤが一枚噛む興行で、日本のファンにもお馴染みのデヴィッド・カルモナと対戦(120ポンド契約)。

大差の3-0判定勝ちを収めてS・バンタム級のメキシコ国内王座を授与されると、10月にはアリゾナまで足を伸ばし、アントニオ・ニエヴェスとの6年越しの再戦(バンタム級契約)に7回終了TKO勝ち。

井上に敗れた後、イリノイの黒人ホープ,ジョシュア・グリーにも判定負けするなど、ニエヴェスもキャリアメイクに苦しむ中で応じたリマッチ。文字通り、双方にとって”負けられない戦い”となり、持ち前の突進力で待機型のニエヴェスを押し切り首尾良く雪辱。

これが直近の試合という訳で、我らが井上尚弥のS・バンタム進出の思わぬ余波(?)が、サンティアゴを再び世界戦の檜舞台へと押し上げる。


◎サンティアゴのインタビュー



拙ブログで繰り返し触れてきた通り、Boxrecの身体データはアテにならないことが多い。誤登録が日常茶飯なのだが、映像や写真で確認できるサンティアゴは、本当に159センチなのかどうかは別にして確かに小さい。

ただし、メキシカンには珍しくない、お腹周りが緩んだ水膨れ(失礼)の増量ではなく、上半身は筋肉質で厚みがあり、逞しく引き締まっている。フィジカルも生まれつき強そうだが、本当に良く鍛えこまれている。

そして、このサイズで118~120ポンドの行き来を可能にする源は、屈強なフィジカルに加えて、素早く鋭い踏み込みと秀逸なハンドスピードを活かした突進力。

頭突き&体当たり上等とばかり、闇雲に突っ掛けるラフ&タフではなく、遠めの距離から一瞬で飛び込む速さと思い切りの良さは、タイミングと間合いを読むセンスと駆け引きに裏付けされている。

真っ向勝負ではあるが、しっかりした攻防の技術とインサイドワークを兼ね備えていて、小気味がいいボクシング。あともう少しだけパンチング・パワーに恵まれていたら、アンカハスを攻略できていたのではないか。

唯一最大の気がかりは、言わずもがなのPED。メキシカンの増量(筋肉質で馬力のある豆タンク型は尚の事)と聞くと、ついつい牛肉を言い訳にしたステロイド使用を疑いたくなってしまう。サンティアゴがクリーンであることを願うのみ。


次は、お約束(?)のオッズ。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
ドネア:-154(約1.65倍)
A・サンティアゴ:+130(2.3倍)

<2>Bet365
ドネア:-165(約1.61倍)
A・サンティアゴ:+125(2.25倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ドネア:8/13(約1.62倍)
A・サンティアゴ:13/10(2.3倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
ドネア:1/2(1.5倍)
A・サンティアゴ:6/4(2.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

身銭を切って賭ける人たちは、やはり良く見ている。接近した数字は、そのまま「サンティアゴ侮るべからず」との警告を、ドネアに対して発していると見ていい。

ウバーリ&ガバーリョ戦と同じく、ドネアがいい意味で三度び裏切ってくれるのではないかと予見しつつ、無名の若者が問答無用の下克上で老雄を介錯する醍醐味も悪くないと、思わずそんな誘惑にもかられる。

これもまた、救いようのない哀れむべきマニアの性。これだから、ボクシング観戦は止められない。


◎ドネア(40歳)/前日計量:117.25ポンド
5階級制覇王者/戦績:47戦42勝(28KO)7敗
現WBCバンタム級王者(V1).元IBFフライ級(V3),元WBA S・フライ級暫定(V1),元WBC・WBO統一バンタム級(V1),元WBO J・フェザー(第1期:V3/第2期:V1),元WBAフェザー級スーパー(V0)王者
戦績:48戦42勝(28KO)6敗
アマ通算:68勝8敗(2000年シドニー五輪代表候補)
2000年全米選手権優勝
1999年インターナショナル・ジュニア・オリンピック(メキシコシティ)金メダル
1999年ナショナル・ゴールデン・グローブス ベスト8
※階級:L・フライ級
身長:170.2センチ,リーチ:174センチ
※第1戦の予備検診データ
右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎サンティアゴ(27歳)/前日計量:117.5ポンド
戦績:35戦27勝(14KO)3敗5分け
身長:159センチ,リーチ:166センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎前日計量



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■リング・オフィシャル:未発表