アーカイブ

2026年05月

遂に実現する日本人現役P4P対決 - 井上尚弥 vs 中谷潤人  東京ドーム決戦プレビュー III -

カテゴリ:
■5月2日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者/リング誌P4P2位 井上尚弥(日/大橋) vs 元3階級王者/リング誌P4P6位 中谷潤人(日/M.T)




史上初にして唯一、そして最後かも知れない、日本人同士のリング誌P4P対決が間もなくゴングを迎える。

王国アメリカには、未だに井上尚弥を認めようとしないボクサーや関係者が存在しており、彼らが口を揃えて言うことは1つ。

「確かにレコードは凄い。プロで10年以上戦って一度も負けてない。4階級制覇を達成したし、バンタムとS・バンタムで4団体をまとめたのはグレートだ。でも、ヤツはいったい誰を倒したんだ?」

「クロフォードとヤツを比べること自体がおかしいだろ。クロフォードは最激戦区の140(ポンド)と147で立て続けに4団体を獲ったんだ。しかも147では、P4Pファイターのエロール・スペンスを子供扱いにした。」

「スペンスだけじゃない。ショーン・ポーターやケル・ブルック、アミル・カーンも歯が立たなかったし、S・ウェルターでも2つ獲って、最後はS・ミドルに上げてカネロに勝っちまった。」

「ヤツのレコードを見たけど、俺たち(アメリカで戦うボクサー総てと言いたいらしい)が知ってるのは2人しかいない。ノニト・ドネアとノニト・ドネアだ。ああ、フルトンもいたね。うっかりしてたよ・・・」


本領を回復したモンスターが、額面通り中谷を粉砕しても彼らは言い続けるだろう。

「ヤツが抜群に強いのは、日本でやる時だけだ。アウェイ(海外)では大したパフォーマンスを見せてない。」

何かを絶対に認めたくない、何がどうあっても否定しかしたくない連中に付ける薬はない。議論とはとても呼べない、不毛な言い合いに終始するだけ。時間と労力の無駄である。



「相性は最悪。ボクシングの引き出しは僕の方が多い。でも、持っている引き出しをより多く使わなければいけないのも僕で、それだけサイズの差が(持つ意味は)大きい。」

「長身のサウスポーでパワーがある。これですよ。確かに彼は長い距離で強い。それだけじゃなくて接近戦も上手いし、ラフファイトもできる。でも(自分に取って)一番(のディス・アドバンテージ)はこれ。」


モンスター自らが語っているように、中谷は懐が深くて、普通なら届かない筈の距離から強打が飛んで来る。かと思うと、高い上背を深くかがみ込んで、長い両腕を上手く畳んでショートフックとアッパーを回転させ、揉み合いになっても簡単に押し負けることがない。

S・フライ級までは、突進力のあるしつこいメキシカン・スタイルを苦手にしていて、真っ直ぐ下がって上体が伸び上がり、オフ・バランスを招く悪い癖が直らなかったが、バンタム級に進出して以降、適時スタンスを調整しながら、腰を落とし気味にして左右のスペースを使い、バランスを失わない捌きを身に付けた。

昨年暮れにリヤドで開催された「サムライ・ナイト」は、色々な意味で日本のファンにはホロ苦い一夜となったが、とりわけ中谷の苦闘は誰も予想しておらず、早くも「階級の壁」を持ち出される始末。



ボクシング界を席巻するオイル・マネーの本拠地で、モンスターとの大一番を控えた122ポンドのテストマッチ。注目度も高く、力むなと言う方が無理な状況ではあったけれど、何もああなってしまうまで、真っ正直にエルナンデスに付き合う必要はなかった。

ごく当たり前にロングジャブと左ストレートで突き放し、入って来るところにアッパーやフックを合わせつつ、一流のマタドールよろしく左右に回り込み、得意のクリンチワークも駆使して荒ぶる雄牛をいなせばいい。

横綱相撲で圧倒しようと、受けに回って自滅した格好。拙ブログ管理人のスコアは、2ポイント差でビッグ・バンになっていたが、中谷の判定負けを支持する声も存外に目立ち、「そう言いたい気持ちはわかる」と素直に頷くしかない拙戦。

とにもかくにも、負けなくて良かった。エルナンデスがモンスターのスパーリング・パートナーとして重用されているとの風聞は耳にしていたが、帰国後に受けたインタビューで、大橋会長とモンスターが「(中谷の苦戦は)想定の範囲内」と答えていたのにはいささか驚いた。

◎試合映像:中谷 vs エルナンデス
2025年12月27日/モハメド・アブドゥ・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
S・バンタム級12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=BYe92OUz32U


モンスターの出来も芳しいものとは言えず、ひたすら倒されないことに腐心するピカソを追い詰め切れず、プロキャリア初となる2試合続けての判定勝ち。モンスターでさえ、普段の冷静さを失い、自らを頭上から俯瞰する視野の広さを忘れると、精密さの極地とも言うべき攻防のキメが粗くなり、本来なら倒せる相手も倒せなくなる。

フェザー級に上げてもパフォーマンスの質が落ちないようだと、ピカソのようにやろうとする輩が増えそうな気配がして、思わず身震いしてしまう。

◎試合映像:尚弥 vs ピカソ
2025年12月27日/モハメド・アブドゥ・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
4団体統一S・バンタム級戦
https://www.youtube.com/watch?v=apALYdv0kbs


中谷との体格差(身長:8センチ/リーチ:5センチ)は、オーソドックス同士なら何の問題にもならないだろう。サウスポーで半身に構える中谷だから、スタートの距離が普段よりも十数センチ以上遠くなり、踏み込みのタイミングを誤るのが怖い。

「数センチ、数ミリの狂いが取り返しのつかない事態を招く・・・」

やはりモンスター自身の言葉なのだが、そうした一方で、厳しいプレスに対する耐性が、以前と変わらずウィークネスになり得ることを露呈した中谷に、モンスターが持てるスピード&パワーを全開にしてラッシュを仕掛けたら、果たして中谷は持ち応えることができるのか?。

ルイス・ネリーとラモン・カルデナスに奪われたノックダウンのせいで、「クロスレンジでの左フック」への反応と対応にケチが付いたモンスター。「飛び込んで来てくれた方が有り難い。中谷の左フックがまともに決まれば、そのまま試合が終わってもおかしくない」と、希望的観測に胸を躍らせる中谷支持者も多そうだ。


延期を繰り返した挙句、とうとう消滅してしまったサム・グッドマンのトラブルが招いたモンスターの停滞は、年間4試合の強行軍を無事に貫徹した昨年1年間の苦労を持ってしても、報われたとはとても言えない。

「中谷戦の後、S・バンタムでもう1試合・・・」

最後の階級となるであろう、フェザー級への転級をなおも先送りにしようとするモンスターの狙いは、間もなくバンタムの初陣を迎えるバム・ロドリゲス。誰しも容易に想像が付く。

ボクシング人生の終活を強く意識するモンスターは、中谷戦後に126ポンドに上がり、「バムから逃げた」と言われたくない。なおかつ35歳での引退(一年延長を大橋会長に直訴?)を公言してきた経緯があり、デッドラインまでの残り2年間で、バンタムからS・バンタムを制したバムを、加齢の影響を無視できなくなる頃に迎え撃つのはちょっと・・・との思いもあるのではないか。

年明けの1月に26歳になったばかりのバムは、2年後に28歳になる。ボクサーとして、年齢的にも経験的にも、最も油が乗り切るピークと表していい(現在の中谷がまさに28歳)。


直前のオッズは、思ったよりも接近している。1対6~7ぐらいまで開くと想像していた。カルデナス戦のダウンと、ピカソを詰め切れずに終わったマイナスが、文字通りアフマダリエフを完封した大きなプラスから減点された。ピカソ戦の不出来を、「失速」と感じる海外のファンが少なくないのかもしれない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Caesars
尚弥:-455(1.22倍)
中谷:+355(4.55倍)

<2>BetWay
尚弥:-400(1.25倍)
中谷:+333(4.33倍)

<3>ウィリアム・ヒル
尚弥:1/4(1.25倍)
中谷:3/1(4倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
尚弥:2/7(1.29倍)
中谷:17/5(4.4倍)
ドロー:20/1(21倍)


個人的な希望は、フルトン戦とアフマダリエフ戦の慎重かつ精妙を究めた出はいりを基本に、詰める際の手数を増やすこと。ツーからスリーで終わらせず、4発・5発と続ける。全力の2~3発より、若干パワーセーブして回転の速度をさらに上げた4~5発の方が、確実に倒す確率を上げる筈。

3戦連続の判定勝ちも有りと思う反面、どのラウンドでもいいからKOして欲しいと、欲目を抑え切れない愚かな自分がいる。できるものなら、序盤から先に仕掛けて、身体が温まり切らないうちに1発効かせてしまえと、乱暴な筋書きすら想起してしまう。

勿論、それをやってしまえば逆の目が出るリスクも増すけれど。

例え今回負けても、中谷には輝ける明日を築き直す為に、十分な時間的余裕がまだ残されている。モンスターに負けることは恥でも何でもない。負け方にもよるけれど、中谷のリングキャリアに致命傷を与える心配まではしなくて済む。


◎井上(33歳)/前日計量:121.5ポンド(55.1キロ)
戦績:32戦全勝(27KO)
世界戦通算:28戦全勝(24KO)
---------------------------
■4階級制覇・2階級+4団体統一
(1)WBC L・フライ級:2014年4月6日~2014年11月6日(V1/返上)
(2)WBO J・フライ級:2014年12月30日~2018年3月6日(V7/返上)
(3)WBAバンタム級:2018年5月25日~2023年1月13日(V8/返上)
(3)IBFバンタム級:2019年5月18日~2023年1月13日(V6/返上)
(4)WBCバンタム級:2022年6月7日~2023年1月13日(V1/返上)
(4)WBOバンタム級:2022年12月13日~2023年1月13日(V0/返上)
(5)WBC・WBOバンタム級:2023年7月25日~在位中(V6)
(6)WBA・IBFバンタム級:2023年12月26日~在位中(V6)
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
---------------------------
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
血圧:93/68
脈拍:78/分
体温:36.1℃
※計量時の計測
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎中谷(28歳)/前日計量:121.6ポンド(55.1キロ)
戦績:32戦全勝(24KO)
世界戦通算:10戦全勝(9KO)
※5連続KO更新中
---------------------------
■3階級制覇
(1)WBOフライ級:2020年11月6日~2022年10月27日(V2/返上)
(2)WBO J・バンタム級:2023年5月20日~2023年12月14日(V1/返上)
(3)WBCバンタム級:2024年2月24日~2025年9月18日(V4/返上)
(4)IBFバンタム級:2025年6月8日~9月18日(V0/返上)
※2団体統一
---------------------------
元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
---------------------------
アマ戦績:14勝2敗
身長:173センチ,リーチ:176センチ
血圧:98/61
脈拍:109/分
体温:36.3℃
※計量時の計測
左ボクサーパンチャー

◎前日計量



◎前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=ex2fu5VYo6A&t=791s


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:ロバート・ホイル(米/ネバダ州)

副審:
パトリック・モーリー(米/イリノイ州)
ラウル・カイズ(米/カリフォルニア州)
ファン・カルロス・ペラーヨ(メキシコ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ホセ・オリヴィエ・ゴメス(パナマ/WBAランキング委員)
WBC:ケヴィン・ヌーン(アイルランド/タイ在住)
※WBCランキング委員,WBCチャイナ会長,WBCアジア及びWBCムエタイ事務局長
IBF:ジョージ・マルティネス(カナダチャンピオンシップ・コミッティ委員長)
WBO:グスターヴォ・オリヴィエリ(プエルトリコ)

今度こそ本物? 王者の進境に欲しい安定感 /井岡の目論見を根こそぎ叩き潰す鍵はスピード - 井上拓真 vs 井岡一翔 東京ドーム決戦プレビュー II -

カテゴリ:
■5月2日/東京ドーム/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 井上拓真(大橋) vs 元4階級王者/WBC4位 井岡一翔(志成)



嘘偽りの無い本心、個人的な感情を曝け出して言うと、井岡一翔は負けるべくして負ける。いや、負けなくてはならないとさえ思っている。

昨年5月、フェルナンド・マルティネスとのリマッチに敗れた井岡の表情を見ていて、「またやるんだろうな・・・」と直感した。年齢と試合内容を考慮すれば、現役を諦めても不思議はない。

115ポンドを取り巻く状況にも大きな変化が訪れていた。フライ級からのリトライを決断したバム・ロドリゲスが、ファン・F・エストラーダ(メキシコ)を7回KOに屠ってWBC王者となり、2ヶ月後の(2025年)7月には、大番狂わせで田中恒成(畑中/引退)からWBOのベルトを奪ったプメレレ・カフ(南ア)との2団体統一戦が決定。

4団体統一を目指すバムは、WBAのマルティネス(もしくは井岡)とIBFのウィリバルド・ガルシア(メキシコ)をターゲットにすると公言しており、さらにバンタム級を飛び越えて、我らがモンスターとの激突にも言及するなど、とにかく勢いに乗っていた。


マルティネスに雪辱したらしたで、次はバムから狙われる。マルティネスに喫したキャリア初の連敗は、むしろバンタム級への進出をやり易くする。誰がどう考えても勝ち目の無いバムを回避し、日本ボクシング(男子)史上初の5階級制覇を、モンスターよりも一足早く達成するつもりなのだろう・・・と、そんな予測が頭をかすめたのだ。

八重樫東(大橋/引退)を完封して、ミニマム級の2団体(WBA・WBC)を統一した当時の井岡は、それはもう魅力的だった。体格差のアドバンテージを十二分に活かし、スピードはともかく、パンチと動きにキレがあり、とりわけ至近距離における反応の鋭さ、危険察知能力の高さは尋常ではなく、”レーダー”の呼び名は、伝説のウィルフレド・ベニテスではなく、井岡一翔にこそ相応しいとさえ思ったほど。

ゴールデン・ルーキーの呼び声とは裏腹に、いまいち冴えないパフォーマンスで看板倒れの印象すら漂い始めていたデビュー当初の井岡を一新したのは、タイで大いに名を上げ、その後日本とも深い縁を結んだ名コーチ,イスマエル・サラスとの出会いである。

サラスの指導でを受けて、短期間に目覚しい進境を遂げた井岡だったが、L・フライ級への増量を前に、良好な関係は終了。実父の一法トレーナーと会長(当時)の井岡弘樹(叔父)は、「もう役目は終わった」とばかりにチーフから外す。


L・フライ級のWBAレギュラー王座は、スーパー王者ローマン・ゴンサレスのおこぼれに過ぎないにも関わらず、臆面もなく「フライ級最強」をぶち上げる井岡に、帝拳のプロモートで戦うロマ・ゴンは日本国内の状況も相応に把握しており、不快感を露にしていた。

正規 vs 暫定の団体内統一戦を先送りにするWBAは、再三に渡るロマ・ゴン(すなわち帝拳)の催促に重い腰を上げ、指示通達は出すものの、まとまる気配のない交渉過程を黙認。

108ポンドで井岡に挑んだ4名挑戦者の中で、唯一骨があったのはラスト(V3)のフェリックス・アルバラード(ニカラグァ)のみ。他の3人は世界ランカーとは名ばかりの二線級。転級初戦でIBF王者アムナットに惨敗した後、父と叔父はまたぞろWBAを頼り、安定のレギュラー王者ファン・カルロス・レヴェコ(亜)を招聘してまんまと奪取。

このベルトもまた、WBAとWBOの2団体を制したスーパー王者,全盛のファン・F・エストラーダのお陰であり、銭ゲバWBAを上手に手懐け、エストラーダとの統一戦を回避しつつ、楽な相手ばかりを見繕うマッチメイクを継続した。

L・フライ級とフライ級の2階級は、制覇したとは到底言い難い。井岡の4階級制覇は、大晦日の興行をバックアップし続けたTBSマネーと、承認料ビジネスに血道を上げるWBAの合わせ技なくしては成立し得ず、欺瞞に満ち満ちている。


そんな井岡が、唐突に引退を表明。暫く鳴りを潜めていたが、カムバックを決断すると同時に単身渡米。恩師イスマエル・サラスがラスベガスに開いたジムを拠点に、折から軽量級を熱くしていた「S・フライ級ウォーズ」に割り込むべく、伝統のイングルウッド・フォーラム(カリフォルニア)で、実力者マックウィリアムズ・アローヨ(米/プエルトリコ)と対戦。

不退転の決意を滲ませた井岡は、L・フライ~フライ級で続けていた温くも緩い戦い方とは別人のような鋭さを取り戻し、見事な右ストレートのカウンターで序盤にダウンを奪うと、そのまま12ラウンズを戦い抜き、どこからも文句の出ない3-0判定をモノにする。

◎試合映像:井岡 vs M・アローヨ


この時の井岡には、後のない段階絶壁に立たされた者にしか許されない真の悲壮感が、迫真のリアリティとともに横溢していた。ウィリアムズ戦の井岡に、拙ブログ管理人は心の底から感嘆させられ、同時に惜しみない賞賛を口にせざるを得なかった。

アローヨ戦こそ、井岡一翔のベスト・バウト。時代を超えて通用するマイルストーンと信じて疑わない。

そして同じ年の年末、JBCライセンスを返上したままの井岡は、マカオに飛んでドニー・ニエテスのWBO王座に挑むも、1-2の判定で獲得は成らず。この時点までの井岡は、キャリア最高の輝きを放っていたと言っても過言ではない。


自らジムを立ち上げ、JBCライセンスを再取得。首都東京に拠点を移した井岡は、恩師サラスとのチームを維持。

アストン・パリクテ(比)を倒してニエテスが返上したWBO王座に就き、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ),田中恒成を連破し、判定にケチは着いたものの、フランシスコ・ロドリゲス(メキシコ)の猛追を辛くもかわすと、武漢ウィルス禍の只中、日本・OPBF・WBOアジアパシフィックのベルトをまとめた福永亮次(角海老)にも完勝。

ニエテスとの再戦を挟み、WBA王者ジョシュア・フランコ(米/バム・ロドリゲスの実兄)との統一戦に乗り出す。フランコとの初戦はロドリゲス戦に引けを取らない熱戦となり、ドロー裁定に終わる。


この後、WBOはランク1位に付けた中谷潤人(M.T)との指名戦を指示。フライ級で著しい進境を示した長身サウスポー中谷の挑戦を受けるのか否か。国内のファンは当然実現に期待を寄せたが、井岡の結論はまさかの肩透かし。フランコとの再戦を優先して、WBO王座を返上。108~112ポンド時代への逆戻りに、ファンは失望以上に失笑を浮かべるばかり。

半年後に実現したリマッチでは、別人のように憔悴したフランコが大幅に体重をオーバー(1回目:+3.1キロ/2回目:+2.9キロ)。本番のリングでも精彩を欠き、「退職金目当ての再来日」がこれでもかとクローズアップされた。

こうした経緯を経てのマルティネス戦だっただけに、ファンの中に「井岡は終わった」と感じる人たちが少なくなかったのも仕方がない。115ポンドのチャンピオン・ロードは、108~112ポンドとは一線を画すもので、一定の評価に値すると感じていただけに、中谷戦の回避に端を発したこの終わり方が、ただただ残念でしかなかった。


そして、バンタム級への階級アップと拓真の挑戦表明。武居由樹(大橋)を粉砕したクリスティアン・メディナ(メキシコ)は、これまで不得手にして来たファイタータイプのメキシカンで、眼疾から復帰して生ける伝説ノニト・ドネア(比)との激闘を生き延びた堤聖也(WBA)でもなく、一級品のスピード&技術を誇るが、パワーに恵まれなかった拓真一択。

格闘技会における知名度では郡を抜く那須川天心(帝拳)を退け、過去最高と称されたジェルウィン・アンカハス戦を上回る評価を得た拓真に、ここぞとばかりに狙いを定める。長らく不安定なメンダルを課題とされ、戦術的ディシプリンに徹し切れず、事あるごと、自ら打ち合いに雪崩れ込んで戦況を不利にしてきた拓真を、井岡が「与し易い」と考えるのは半ば当然。

キック時代を通じて無敗を誇ってきた天心に初黒星を着けた勲章もろとも、5階級制覇達成の金看板をせしめる。この計算高さが、とにかく鼻について仕方がない。昨年大晦日に消化したバンタム級の初陣は、WBAが9位の井岡と11位のベネズエラ人にエリミネーターを承認するお手盛りぶりで、幻滅に拍車をかけた。


生贄に選ばれた25歳のベネズエラ人は、15勝(11KO)1敗のレコードがウソのような”借りてきた猫”状態。計量後のリバウンドで上半身が大きく膨れ上がった井岡に立ち上がりから圧倒され、ボディであえなくダウン。4回に再びボディで倒し、そのままTKOとなったが、世界ランカーとは名ばかりのローカルクラス。

マッチメイクも試合内容も、108~112ポンド時代を彷彿とさせるものでしかなく、「このザマで拓真に挑戦するのか・・・」と暗澹たる思いに囚われた。

◎試合映像:井岡 vs マイケル・オルドスゴイティ(ベネズエラ)
2025年12月31日/大田区総合体育館(EBARA WAVE アリーナおおた)
https://www.youtube.com/watch?v=fayULYOwwCE




●●●●●●●●●●●●●●●●●●
S・フライ級に上げて以降の井岡は、基本的に”待ち(受け)のボクシング”でサバイブしてきた。微妙に距離と間合いを調整しながら、相手に攻めさせて右のカウンターをヒット、左ボディを効かせて弱らせ、決定的な場面を作らせないことに専念しつつ、ラウンドをまとめてポイントアウトする。

フライ級に上げて以降、かなり長い間フィジカルの違いに来るしんだ井岡は、115ポンドで戦い続ける過程で、「大幅なリバウンドの効用」に頼る道を選ぶ。

前日計量時から別人のようにお腹周りが膨らみ、たるんでいるようにしか見えないけれど、厚みを増したボディとブロック&カバーで、相手のパンチを吸収する。荒ぶるロドリゲスやマルディネスには、ディフェンス・ラインを突破されて目論みを崩されたが、それ以外の相手は、計算通り神経戦に引きずり込んで白星を掴む。

この方針を選択して以来、井岡は自らの最大の長所であった筈の”反応”を捨てた。高性能な”レーダー”を手放し、被弾のリスクを承知で相手の攻撃をあえて受けて、その上でカウンターを取る。

30代も半ばを過ぎた今、”スピード&反応”への回帰は微塵も考えていない。拓真もまた、同じように手練手管に絡め取れると、井岡はそう値踏みをした。


アンカハス戦の見事な勝利で「もう大丈夫」と思われた拓真は、堤との防衛戦で再びメンダルの課題を露呈。堤に許した番狂わせの苦杯と1年超のブランクを肥やしに、日本キック史上最高の天才に一泡吹かせて王座に復帰したが、「今度こそ大丈夫」と太鼓判を押し切れない複雑な思いを、多くのファンが浮かべているに違いない。

◎試合映像:拓真 vs 天心
2025年11月24日/TOYOTA ARENA TOKYO
ttps://www.dailymotion.com/video/x9uckem


直前の賭け率も、両雄の微妙な力関係を測りかねている様子。妥当な開き方とも言えるし、拓真への過小評価(井岡に対する過大評価ではなく)と思えなくもない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Caesars
拓真:-250(1.4倍)
井岡:+200(3倍)

<2>BetWay
拓真:-295(1.34倍)
井岡:+210(3.1倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拓真:2/5(1.4倍)
井岡:19/10(2.9倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
拓真:2/5(1.4倍)
井岡:23/10(3.3倍)
ドロー:16/1(17倍)




拓真がおかしな色気を出さず、徹頭徹尾ヒット&アウェイを貫き通すことができれば、まったく問題のない中~大差でベテランを一蹴する。いつぞやの田中恒成のように、井岡の誘いに乗って無闇に突っかからないことが肝要。

打っては離れ、離れては打ちを繰り返し、むしろ「出て来いよ」「打って来いよ」と煽る。そこで単純に前に出てくる井岡ではないから、ヒット&アウェイを堅持し続けて、第8ラウンド終了後の公開採点で、5ポイント差以上ビハインドを確保しておく。

残り4ラウンズ、倒す以外に打開策のない状況に井岡を追い込み、後の無くなった井岡が決意の前進を仕掛けて来るのを待ち、ステップワークのスピードを一段引き上げる。モンスターがアフマダリエフを絶望の底に突き落としたように。


その為に求められるのは、常に冷静沈着な頭脳と己を俯瞰し続けるメンタリティ。拓真が有する最大のアドバンテージは、とにもかくにもスピード。脚を動かし続け、手数を惜しまず出し続けて、それでも尽きないどころか、相手が落ちてくる中盤~後半にかけて、テンポとヴォリュームを落とさず継続できる心身のスタミナ。

キャンプで集中的に取り組み、天心戦からさらに一段アップグレードした姿を見せてくれると信じたい。


◎拓真(30歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
WBCバンタム級王者(V1)
戦績:23戦21勝(5KO)2敗
---------------------
前WBAバンタム級王者(V2)
元WBCバンタム級暫定王者(V0)
前日本S・バンタム級王者(V0/返上)
元WBOアジア・パシフィック S・バンタム級王者(V1//返上)
元OPBFバンタム級王者(V0/返上)
元OPBF S・フライ級王者(V2/返上)
---------------------
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)
戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。
”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士。
---------------------
身長:164.2センチ,リーチ:163センチ
※ウバーリ戦の予備検診データ
血圧 : 127/74
脈拍 : 63/分
体温 : 36.3℃
※計量時の計測
右ボクサーファイター


◎井岡(37歳)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
現在の世界ランク:WBA3位・WBC4位
戦績:37戦32勝(17KO)3敗1分け
世界戦通算:27戦22勝(11KO)3敗1分け
---------------------
元WBA S・フライ級王者(V1)
元WBO J・バンタム級王者(V6/返上)
元WBAフライ級王者(V5)
元WBA L・フライ級王者(V3)
元WBA/WBC統一ミニマム級王者(V3)
---------------------
S・フライ級:12戦8勝(3KO)3敗1分け
フライ級:7戦6勝(3KO)1敗
L・フライ級:4戦4勝(3KO)
ミニマム級:4戦4勝(2KO)
---------------------
アマ通算:105戦95勝 (64RSC・KO) 10敗
興国高→東農大(中退)
2008年第78回,及び2007年第77回全日本選手権準優勝
2007年第62回(秋田),及び2008年第63回(大分)国体優勝
2005年第60回(岡山),及び2006年第61回(兵庫)国体優勝
2005年第59回,及び2006年第60回インターハイ優勝
2005年第16回,及び2006年第17回高校選抜優勝
※高校6冠/階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:166センチ
※ドニー・ニエテス第2戦の予備検診データ
血圧:96/70
脈拍:123/分
体温:35.4℃
※計量時の計測
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=ex2fu5VYo6A&t=791s




●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
アレハンドロ・ロチン(米/メキシコ/カリフォルニア州在住)
田中浩ニ(日/JBC)
古田嚴一(日/JBC)

立会人(スーパーバイザー):ケヴィン・ヌーン(アイルランド/バンコク在住)
※WBCランキング委員,WBCチャイナ会長,WBCアジア及びWBCムエタイ事務局長


●●●●●●●●●●●●●●●●●●
◎試合映像:両雄の敗戦
<1>拓真
(1)堤聖也(角海老)戦
2024年10月13日/有明アリーナ
WBAバンタム級王座防衛戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=bTgE__b_tsU

(2)ナルディーヌ・ウバーリ(仏)戦
2019年11月7日/
WBCバンタム級王座挑戦(暫定王者として臨んだWBC内統一戦)


<2>井岡
(1)ドニー・ニエテス(比)第1戦
2018年12月31日/ウィン・パレス(マカオ)
WBO J・バンタム級王座挑戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=l6ow3godQ58

(2)アムナット・ルエンロン戦
2014年5月7日/大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)
IBFフライ級王座挑戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=gvk24KIU0Xo

(3)フェルナンド・マルティネス(亜)第2戦
2025年5月11日/大田区総合体育館(EBARA WAVE アリーナおおた)
WBA S・フライ級王座挑戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=Wvcy7lh2j5s

(4)フェルナンド・マルティネス(亜)第1戦
2024年7月7日/両国国技館
WBA・IBF S・フライ級王座統一戦
ttps://www.youtube.com/watch?v=HuTN4clr2r8

国内屈指のウェルター級パンチャー対決 - 田中空 vs 佐々木尽 東京ドーム決戦プレビュー I -

カテゴリ:
■5月2日/東京ドーム/OPBFウェルター級タイトルマッチ10回戦
王者 田中空(大橋) vs 佐々木尽(八王子中屋)



国内屈指のウェルター級パンチャー対決。135ポンドを超えると、目に見えて選手層が薄くなる国内中量級は、スパーリング・パートナーを探すのも容易ではなく、田中がアマ時代から二人はスパーリングを経験しており、手の内は知っている。看板に偽りの無い打撃戦は必至で、見応えのある強打の応酬が繰り広げられるのは間違いない。

昨年6月19日、大田区総合体育館でWBO王者ブライアン・ノーマン・Jr。(米)に挑戦した佐々木は、黒人特有の素早い反射とスムーズなボディワークで自慢の左フックと左右の強打を容易く捌かれ、力の差を痛感しながらも打ち合い勝負以外に策は無く、第5ラウンド、懸命に右もろとも踏み込んだところへ、かわしざまの鋭い左フックをまともに食って失神KO負け。

国際的に見ても最も選手層が厚く(成人男性の平均体重)、最激戦区に位置づけられる中量級で、日本(東洋)と世界のレベル差をこれでもかと見せ付けられた訳だが、年齢も24歳とまだ若く、世界への夢を諦めることなく今年2月に再起。

31歳のフィリピン人ファイター(18戦13勝4敗1分け/3KO)を、2ラウンド1分過ぎ、必殺の左フック1発で沈めて健在をアピールしたばかり。


一方の田中空(たなか・そら)は、全日本選手権優勝の実績を手土産に、大橋ジムからプロ入りしたトップアマ出身組み。165センチ(!)の小兵は、この階級では異例中の異例。極めて稀な存在だが、分厚い上半身と逞しい二の腕から繰り出すコンパクトなパワーショットを武器に、一昨(2024)年6月のデビュー以来、5連続KO勝ちを収めている。

川崎の出身で、小柄なハードパンチャーという分かり易さから、”ハマのタイソン”の異名で売り出し中。元日本ランカー(田中強士/つよし:ミニマム級2位)の父から、ボクシングのイロハを叩き込まれた。

井上(尚弥・拓真)&田中(恒成・亮明)兄弟を筆頭に、今や欧米に遅れを取らない勢いで、国内ボクシング界を席巻する親子鷹連合(?)の列に並ぶ。なおかつ、田中が遊びながら練習を始めたのは3歳だというから驚く。ボクシングが野球と相撲に肩を並べる国民的スポーツだった1950年代に、フェザー級で活躍した京浜ジム(2年前に閉鎖した京浜川崎ジム)の元日本王者,田中昇は、大叔父(祖父母の兄弟)に当たるという。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●
佐々木が玉砕した同じ日のセミで、小畑武尊(こばた・たける/ダッシュ東保・ひがしほ)との決定戦を4回TKOで制して、世界挑戦に備えて佐々木が返上したOPBF王座に就く。

プロ4戦目でのOPBF獲得は、重篤な眼疾を告白して引退した田中恒成(畑中)、ロンドン五輪で日本史上二人目の金メダルを獲得した村田諒太とともに、銅メダルを持ち帰った清水聡(大橋)に並ぶスピード出世でファンを沸かせる。

ただし、小畑との5ラウンズは、小さからぬ田中の課題も浮き彫りにした。とにかく被弾が目立つ。サウスポーの小畑には田中の圧力を押し返すだけのパワーが無く、立ち上がりからロープを背負い続けることになったのだが、適時ショートの左ストレートを軸に反撃。

左右フックにアッパーを混ぜたベーシックなコンビネーションで、特段目を惹く変化や迫力には欠けたが、ヒヤリとするタイミングでコツコツ打ち返す。おそらく3ラウンドだったと記憶するが(間違っていたらごめんなさい)、相打ち気味の右ショートからの左を効かされ、グラついた上に手と足が止まる場面があった。

全日本(2022年)の準決勝で、日体大の脇田夢叶(わきた・ゆうと)に喫したよもやの初回RSC負けが、デジャヴのように蘇る。アマにも関心がある熱心なファンなら、きっとあの場面が脳裏を過ぎったに違いない。

◎試合映像:田中 vs 脇田(2022年全日本選手権ウェルター級準決勝)
2022年11月26日/墨田区総合体育館
https://www.youtube.com/watch?v=G7I9_vfLLA0


第4ラウンドの1分半過ぎ、またもやロープに詰めて連打をまとめにかかり、レフェリーストップで首尾良く王座を獲得できたものの、「止めるのが早い。小畑のパンチも当たっていたのに」「田中をチャンピオンにしたい事情はわかるけど・・・」と、主審岡庭の裁定に批判的な声が上がる。

元暫定王者の肩書きを持つ小畑が、坂井祥紀(さかい・しょうき/横浜光),小原佳太(おばら・けいた/三迫),2023年末に名古屋の中日ジム(ウガンダ出身のトレーナーがいる)と契約して、日本に主戦場を移した現日本王者セムジュ・デヴィッド(ウガンダ/東京五輪代表)らの国内トップクラスにぶつかり、ことごとく敗れていたことも、論評を辛口へと傾斜させる勢いに拍車をかけた。

帝拳本田会長の跡目を継ぎ、業界の盟主たらんとする大橋会長への忖度だと、要らぬ憶測までが飛び交う。


田中本人も「被弾を減らさないとダメですね・・・」と反省の弁を口にし、何事にも敏感に反応する大橋会長は当然そうした空気を察知していて、昨年10月の初防衛戦では、メキシコ仕込みの逆輸入ボクサー,坂井祥紀を指名する。

坂井は50戦近いキャリアを持ち、小原佳太,豊嶋亮太(帝拳),重田裕紀(しげた・ひろのり/ワタナベ)らとの連戦に耐えて、一度は日本王者となり2度の防衛にも成功したが、2021年の暮れにOPBF王座に挑戦して敗れた豊嶋の挑戦を受け、1-2判定で惜しくも落城(2024年5月)。

虎の子をベルトを失った後、OPBFとWBOアジア・パシフィックの二冠を保持していた佐々木に挑戦。0-3判定に退き連敗(2025年1月)。30代半ばに差し掛かった年齢も含めて、限界説が囁かれ始めてはいたが、安定した試合運びと心身のタフネスには定評があり、175センチのタッパと北米大陸での豊富な経験は、サイズのディス・アドバンテージへの不安を払拭し切れない田中に取って、プロ転向後の試金石には打ってつけ。


結論から申し上げれば、田中のプレス・スタイルは大ベテランの坂井にも通用した。序盤からペースを握り、ヒッティングで坂井の左瞼をカット。この傷が悪化して、第6ラウンドのドクターチェックで試合終了。無事にベルトを守る。

しかしながら、「減らさなければならない被弾」は相変わらず。坂井の上手さも勿論あるが、相手の正面で棒立ちになる悪癖は手付かず。頭と肩をほとんど振らない現代流も相変わらずで、危ない場面をパワーの違いで打開し、坂井ほどの実力者を力で押し切った事自体は評価に値するが、小柄なホープの行く末に暗雲が垂れ込めたのも事実。

「これじゃ世界に行く前に潰れる」

幼い頃から父と鍛え上げたボクシングを、そうそう簡単に変えられないのは致し方の無いことではある。あるけれども・・・。


3連敗でキャリアの剣が峰に立たされた坂井は、再起することなく昨年11月に自身のインスタで引退を表明。19歳で単身メキシコに渡り、名匠ナチョ・ベリスタインの薫陶を受けながら、2010年6月ライト級でプロデビュー。2016年の秋までメキシコ国内で戦い(25戦20勝5敗/12KO)、2017年の春に念願叶って米本土進出を果たす(140ポンドのS・ライトを経て2018年以降ウェルター級にアップ)も、2019年暮れまでのおよそ2年半に7戦して2勝4敗1分け。

4度の黒星は連敗で、アレクシス・ロチャ(米)を相手に10ラウンズをフルに粘った善戦を含むが、王国アメリカの厳しい現実に直面。武漢ウィルスが暴れ始める2020年、日本に戻って横浜光ジムに身を寄せ、ハードコアなマッチメイクに苦しみつつ、日本タイトルに辿り着く。

15年に及ぶプロ生活で48戦を消化。29勝(15KO)をマークし、16回の敗戦と3度のドローを記録したが、KO(TKO)負けはラスト・ファイトとなった田中戦1試合のみ。何処のプロモーターにも重宝され、ジムにおいては扇の要となる中堅タフ・ガイを地で行く、天晴れなボクサー人生だった。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●


いかに3段論法が成立しづらい格闘技とは言え、坂井を間に挟んだ比較は避けて通れない。坂井を中~大差の3-0判定に下した佐々木は、坂井が勝てなかった国内第一人者の小原と豊嶋も序盤でKOしている。一方の田中は、瞼のカットによる出血が原因ではあるが、佐々木が10ラウンズかけて倒せなかった坂井を中盤でストップ。引退に追い込んだ。

◎試合映像
<1>佐々木 vs 坂井(ハイライト)
2025年1月24日/有明アリーナ
https://www.youtube.com/watch?v=DzV3k2Aigp4

<2>田中 vs 坂井(ハイライト)
2025年10月21日/後楽園ホール
https://www.youtube.com/watch?v=ky9Kq0nX4IY


スタイルと持ち味に違いはあれど、両雄には共通する点も多い。

<1>攻撃力に偏重した正面突破型
<2>ジャブ・ワンツーからインパクトのある左ボディをアクセントにフックで畳み掛ける
<3>ディフェンスは二の次で攻防のキメが粗い
<4>打たれ(せ)ながら相手を削る=ラウンドが長引くにつれ我慢比べにならざるを得ない
<5>突破(と崩し)のバリエーション(揺さぶりの手段)が少ない

◎佐々木の優位性
<1>ナチュラル・タイミングの左フック(一撃でし止める威力/持って生まれたカウンターの当て勘)
<2>身体全体のスピードと運動量(遠めの距離からでも素早く距離を潰す)
<3>距離と飛び込みの変化(意外性のある動きができる:現時点では可能性の域を出切らないが)
<4>サイズ(田中と戦う相手は全員同じ)

◎田中の優位性
<1>パンチがコンパクト(コンビネーションも含め無駄な大振りが少ない)
<2>堅実性:戦術的ディシプリン(余計なことはやらない)
<3>命中精度

無論のこと、これらの長所は短所と表裏一体。田中のボクシングは堅実で良くまとまってはいるが、それゆえに変化に乏しく、プレスを捌くスピード(脚)、もしくは高水準のディフェンス技術(ボディワーク)、そしてその両方を持ち合わせた相手にぶつかった時、為す術なく軍門に下る確率がマキシマムに増大する。

ワンパターンの前進を繰り返す悪癖が全開となり、前に出ては接近する前に打たれ、出足と手数が止まるとスリー・パンチ以上のコンビをまとめられ、逡巡している間にポイントを失う、パンチング・パワー頼みのファイターが墓穴を掘る典型例に陥り易い。


時に閃き型への適性も見せる佐々木は、そのセンスが展開を打開する妥当性に直結せず、無駄な動きに終わることが多く、カウンターを浴びるリスクにすらなっている。

崩しのコンビネーションは双子のように良く似ているが、効かせる為に振るうフックは、常にコンパクトな田中に比して大きくなり、打ち終わりの処理も含めて粗雑になりがち。

佐々木の左フックは徹底的に研究・対策されるだろうから、田中のパンチはこれまで以上に小さく鋭く磨かれ、生命線のブロック&カバーの強度アップと堅持、引き手の戻り(位置+速さ)にも高い意識が注がれ、坂井が成功した相打ち狙いの隙を与えない駆け引きにも、当然キャンプで取り組んできたと思う(大いに期待する)。


逆に佐々木は、対策された上で左フックを決め切る為の撒き餌、崩しの変化と、仕掛けた罠に相手を呼び込むインサイドワークに上積みが無いと厳しい。2月の再起戦が典型的だが、これまでのようにブロック&カバーの上を打たせて左を狙うやり方は、一定水準以上の技術と経験を持つローカル・トップ以上には簡単に通用しないだろう。

無駄な動き(隙)が増えて、余計な被弾も増す。佐々木のパンチもそれなりに当たるだろうが、田中の土俵(我慢比べ)に引きずり込まれて、ラウンドをまとめ切ることができず、小差の0-3判定を失いかねない。

あのブライアン・ノーマンが、ライト級から上げて来たデヴィン・ヘイニーにいいところなく敗れる。ヘビー級を中心とした重量級が才能の枯渇に喘ぐ中、裾野の崩壊という最大の危機は、徐々に中量級にも侵食を進めているものの、本場の中量級には様々な化け物が入れ代わり立ち代わり登場する。




●●●●●●●●●●●●●●●●●●
率直に申し上げて、「日本人初の世界ウェルター級王者」を二人に期待するのは酷だ。可能性はゼロではないし、それでも敢えて言うなら、幾ばくかでも目があるとするなら、やはり佐々木にならざるを得ない。

国際的な水準に照らすなら、佐々木も十二分に柔らかいとまでは言えないけれど、国内・東洋レベルでは上等な部類に入る。脱力していてもダメージを与え得るパンチの技術は、ディフェンスの向上にも大きな効果を期待でき、世界への可能性を押し拡げてくれる。

今現在の田中に対する最大の懸念は、パンチはコンパクトなのにも関わらず、常に上体が硬い点。間違いなく、打たれたら効く。至近距離で直立する悪い癖も、致命傷へのリスクを増大させる要因。

佐々木も経験を積んで行けば、色々な意味で我慢(リングの上で)を覚えて、技術や駆け引きも覚えるだろうが、その頃には十分過ぎるほど打たれて消耗・疲弊している。積極的に想像したくはない光景だが、そう考えざるを得ない。

国内S・ライト級で頭1つも2つも抜けた、それこそ日本人離れしたセンシブルかつ柔軟な攻防を見せつけた亀海喜寛が、ウェルター級に上げて渡米した途端、打たれながらひたすら直進・突貫を繰り返す和製ど根性ファイター化していく姿を、どれほどの絶望感とともに見つめ続けたことか。


佐々木と田中が、神々の階級で世界に迫る為には、オールド・スクールの技術を学び直し、身体に染み込ませるしかないと確信する。それは、ウィービングとローリング。頭を低くして、肩と一緒に上下左右に絶えず動かし、自分より大きな相手が放つジャブとワンツー、打ち下ろしのストレートとアッパーのカウンターをかわしながら、マッハのスピードで内懐に飛び込む。

165センチの田中は言うまでもなく、174センチの佐々木も、この階級ではけっして大きな方ではない。”マッハの踏み込み”に些かな期待を抱くことができる佐々木も、その期待を抱くことができない田中も、ウィーブ&ロールの習得だけで大きく化けると信じる。

トレーナーも代替わりが進み、20世紀(昭和)のセオリーを教えることができる指導者は、日本国内にほとんど残っていないのかもしれない。だとするなら、腕達者のコーチが集まる王国アメリカに解決策を求めるべきなのでは・・・。


メインの世界戦2試合と、地域王座戦3試合中の2試合、合計4試合のタイトルマッチが日本人同士の顔合わせ。予定される7試合すべてを、海外の主要ブックメイカーが採り上げた。”世界のナオヤ(P4P2位)”と、その後継者を自他共に認める中谷(リング誌P4Pランクで6位を維持)、中谷と同様、海外でも一定の認知を有する井岡の影響力を加味しても、滅多に見られない光景ではある。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetWay
田中空:-110(1.91倍)
佐々木:+100(2倍)

<2>Unibet
田中空:-127(1.79倍)
佐々木:-105(1.95倍)

<3>ウィリアム・ヒル
田中空:10/11(1.91倍)
佐々木:10/11(1.91倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
田中空:19/20(1.95倍)
佐々木:15/13(2.15倍)
ドロー:16/1(17倍)

ほとんど互角。身銭を切る海外のマニアたちが、ブライアン・ノーマンに打ち倒された試合以外に、どこまで過去に遡って佐々木のファイトを視聴・確認しているのか。プロ入りして間もない田中はそれ以上に心配になるが、国内のファンと同じ認識だというのが良く分かる。

ウェイトオーバーした上で平岡アンディに惨敗し、2021年暮れに行われたチャリティ興行でも、べオグラードの世界選手権を制して史上初の金メダリストとなり、東京五輪にも出場した岡澤セオンに捌かれ、世界戦で無残に散った佐々木と、試合数の少なさも手伝って大きな綻びを見せていない田中。トップ・アマの経験値も評価の基準に入る以上、僅かな差で田中支持に傾くのは半ば当然。

◎試合映像:B・ノーマン vs 佐々木(ハイライト)
2025年6月19日/大田区総合体育館(EBARA WAVE アリーナおおた)
https://www.youtube.com/watch?v=N5RVjtBS63Y

穴の多いディフェンスは共通するウィークネスでも、大振り傾向とキメの粗さがより目立つ佐々木に比べて、単調でもコンパクトにまとまった攻撃を継続可能な田中を推したくなるのは仕方がない。とした上で、拙ブログ管理人は佐々木の左フックに一票を。

田中の大きな武器の1つでもあるフィジカルの強度、とりわけ上半身のパワーは、踏ん張って打つことで破壊力を担保する。それはそのまま身体の硬さを助長して、打たれた際の効き方に甚大な影響を及ぼす。

”倒し切れる一発”の魅力は、やはり捨て難い。近い(危険な)距離でも相手の正面に直立する田中の左右を見切り、必殺の一撃を決め切れたら・・・。佐々木が夢見る近未来への展望は、それ相応の現実味を帯びてくる。

ⅰA12Qん、。
Sora Tanaka vs Jin Sasaki


◎田中空(24歳)/前日計量:146.6ポンド(66.5キロ)
OPBFウェルター級王者(V1)
戦績:5戦5勝(5KO)
アマ戦績:66戦58勝(39RSC・KO)8敗
武相高校→東洋大
2023年度全日本選手権優勝(ウェルター級)
2022年度全日本選手権3位(ウェルター級)
2022年国体優勝(ウェルター級)
2017年(第29回)~018年(第30回2)高校選抜優勝(L・ウェルター級)
2018年度ASBCアジアユース選手権銅メダル(L・ウェルター級)
身長:165センチ,リーチ:166センチ
右ボクサーファイター


◎佐々木(24歳)/前日計量:146.8ポンド(66.6キロ)
戦績:23戦20勝(18KO)2敗1分け
アマ戦績:1勝3敗
八王子拓真高校
2016年度第9回U-15全国大会中学男子66キロ級優勝
身長:174センチ,リーチ:176センチ
好戦的な右ボクサーファイター

◎前日計量


武相高校で本格的な競技生活を始めた当初から、田中はL・ウェルター級で戦っている。生まれ持ったフィジカルの恩恵に加えて、体重調整で苦しむよりは・・・との判断が、階級の選択を左右した可能性は否定できない。

いかに小さい田中とは言え、これだけの筋量を蓄えると、減量のキツさはどうなのだろう?。大きな大会を勝ち上がると、1週間以上リミットを維持しなければならないアマチュアは、減量で無理をしている選手にはそれだけでも大きな負担になる。

140ポンド時代、平岡アンディとの大一番で体重超過の大失態をやらかした佐々木は、JBCの勧告に従い階級を上げた。ナチュラルな147ポンドとの体格差を感じさせたことはなく、ウェイトはけっして楽ではなさそう。

◎前日計量:Lemino公式フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=ex2fu5VYo6A

このページのトップヘ

見出し画像
×