S・フライ級進出も視野に・・・拳四朗が統一王座の初防衛戦 - 横浜BUNTAI トリプル世界戦 プレビュー -
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■7月30日/横浜BUNTAI(旧称:横浜文体/横浜文化体育館)/WBC・WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B) vs WBA4位 リカルド・R・サンドバル(米)
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B) vs WBA4位 リカルド・R・サンドバル(米)
※会見(公式フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=CkEsq4diRfA
リカルド・サンドバル(Richard Sandoval)と聞いて、80年代のバンタム級を賑わせた人気者リッチー(リカルド)・サンドバルを思い出したオールド・ファンも多かったのではないかと(勝手に)想像する。
”和製無冠の帝王”こと村田英次郎(金子)の挑戦を3度び弾き返した安定政権を樹立したジェフ・チャンドラー(米)を破り、短期間だがWBA王座を保持。ジュニアの世界選手権とパン・アメリカン・ゲームズでメダルを獲ったエリート選手でもあったが、丁度1年前の昨年7月22日、63歳の若さで天に召されてしまい、カリフォルニアのボクシング・ファンを悲しませた。
21日にチームとともに来日した挑戦者は、カリフォルニア出身のメキシコ系アメリカ人。大先達リッチーとの血縁関係はなく、正真正銘の同名異人。生まれたのは、ロサンゼルス近郊のモントクレアという人口4万人に満たない小さな街で、現在は同じ郡内にある工業都市サンバナディーノ(人口22万人超)に隣接する、リアルトという中規模都市(人口約10万人)に居住。
米本土でも詳細なインタビューは行われておらず、精確な来歴はわからない。来日直後のインタビューで判明したのは、「ボクシングを始めたのは10歳。以来ずっと続けてきた」、「ボクシングと直接関わりのある家族はいないが、父がファンでテレビの中継を良く見ていて影響を受けた」といった程度。
チームを率いるヘッドは、ホセ・トーレスというローカル・トレーナー。こちらもまた、名匠カス・ダマトが育てた2人目の世界王者(L・ヘビー級)と同姓同名。悪い癖で、ついつい寄り道したくなってしまう。
結果的に愛息をボクシングに誘った父は、フリオ・セサール・チャベスとファン・M・マルケス(好戦的なボクサーファイター)の支持者だったけれど、息子が憧れたのは、リカルド・ロペスとロマチェンコ(脚の速いボクサータイプ)。
成長した今現在は、まとまりの良い正攻法のボクサーファイトを身上にしており、フィニートの系譜を目指した模様。現実問題としてロマチェンコのスタイルを模倣するのは不可能に近く、全盛のフィニートが誇った高過ぎる完成度は別にして、印象的だった高いガードを筆頭に手本にし易いことだけは間違いない。
当然アマチュアでの活動歴もある筈だが、具体的な戦績と戦果を公表しておらず、大手プロモーションのスカウトの網にもかからなかったことから、目ぼしい実績を残すまでには至らなかったと思われる。
プロ入り後に積み上げた戦績は立派なもので、2016年6月にルーツのメキシコでプロデビュー。5戦目(4回戦)に0-2判定で初黒星を喫するも、8戦で4回戦を卒業すると、カリフォルニアに戻ってローカル興行に出場(6回戦)。12戦目で8回戦に上がり、丸3年目となる16戦目で10回戦に進出した。
一定レベル以上ののアマチュア経験者を、短期間で世界タイトルに挑戦させる”促成栽培方式”は日本独自のやり方で、欧米では時間をかけてプロの水に慣らすのが一般的。
1960年ローマ五輪のL・ヘビー級を制したモハメッド・アリは、6回戦でデビューした後、3年以上の月日をかけてプロのヘビー級で通用する身体を作り(10ポンド近い増量)、ソニー・リストンを破って王座に就いたのは20戦目(3年4ヶ月)だった。
そして、伝説の拳豪シュガー・レイ・ロビンソンからアリが継承したバトンを、多くのファンと識者から認められて受け継いだ2代目シュガー・レイ・レナードも、1976年モントリオール五輪のL・ウェルター級で金メダルに輝き、6回戦でプロデビュー。やはり3年9ヶ月をかけて25戦の経験を積み、史上に名高いディフェンス・マスターの1人、ウィルフレド・ベニテスを15回TKOに屠って最初のウェルター級王座を獲得している。
また、1996年アトランタ五輪のフェザー級で悔しい銅メダルに甘んじたフロイド・メイウェザー・Jr.は、130ポンドのJ・ライト級で何と4回戦からのスタート。2年間で17試合を消化すると、名王者ヘナロ・エルナンデスをスピードで圧倒。9回終了TKO勝ちを収めて、18戦目で1つ目のWBC王者となった。
新興のマイナー団体に過ぎなかったWBOを利用して、12戦目でWBO J・ライト級王座を獲らせて貰ったオスカー・デラ・ホーヤ(1992年バルセロナ五輪ライト級金メダル)、同一階級に正規&暫定&スーパーを並立させる、恐るべき拡張政策を断行したWBAの”銭ゲバ体質”に乗じて、7戦目でWBAのS・バンタム級暫定王座に就いたギジェルモ・リゴンドウ(2000年シドニー・2004年アテネ五輪連覇/バンタム級)、15戦目でWBAフェザー級のベルトを巻いたユリオルキス・ガンボア(2004年アテネ五輪フライ級金メダル)らは、例外中の例外と表していい。
アマで目立った活躍が出来なかったらしい(?)サンドバルが、15戦をこなしてから10回戦に上がったのは、欧米における常識的なキャリアメイクと言える。
初陣をS・フライ級で終えたサンドバルは、フライ級からフェザー級(S・バンタム級リミット+1ポンド強)の間を行き来しながら戦っている。大胆に階級を上げ下げしながら、修行中にベストウェイトを探ること自体は、これもまた欧米では良くある手法で特に珍しいものではない。
170センチ近いタッパに恵まれたことも、階級の選択に時間をかける要因の1つになったのだろう。2017年の暮れからフライ級に定住して、やはりメキシコと米国の両方でキャリアを進め、2019年7月にゴールデン・ボーイ・プロモーションズからお呼びがかかり、WBCインターナショナルのユース王座への挑戦機会を得る。
首尾良くユース王座を獲得したサンドバルは、地元カリフォルニアを中心にしたGBPのローカル興行の常連となったが、正式なプロモート契約を結んだのは2024年の年明け早々だったらしい。
契約締結が遅れた最大の理由は、2022年6月のエリミネーター(WBAフライ級/当時の王者:アルテム・ダラキアン)で、コスタリカのデヴィッド・ヒメネスにダウンを奪われ、12回0-2判定を失い、2度目の敗北を献上したこと。
サンドバルの勝利を支持する声も多く、判定に対する批判も小さくなかったとのことだが、ホームのロサンゼルスで勝ち切れなかった。そして、猛威を振るい続けた武漢ウィルス禍による興行の中止と自粛も痛かった。
GBPが用意したマッチメイクは非常に理に叶ったもので、参戦4試合目でフィリピンの元プロスペクト,レイモンド・タプゴンに7回KO勝ち(2020年2月)。ここでパンデミックによる1年4ヶ月の休止を余儀なくされる。
2021年8月の復帰戦で、英国ウェールズのフライ級ホープ,ジェイ・ハリスを8回KOに下し、年末の12月には、京口紘人(ワタナベ/先日引退を表明)への挑戦経験を持つカルロス・ブイトラゴ(ニカラグァ)にも7回TKO勝ち。
こうした辿り着いたエリミネーターだったが、あと1歩のところで世界挑戦を逃す。ちなみにヒメネスは、安定王者ダラキアンに英国の首都ロンドンで挑み明白な12回0-3判定負け。階級を上げて再起し、昨年4月、S・フライ級のWBA暫定王座を奪取。
今月20日には、キルギスタンで健文トーレス(TMK)に11回KO勝ち。井岡一翔(志成)とのリマッチを乗り切り、統一路線をひた走る( or バンタム級進出?)フェルナンド・マルティネス(亜)への指名挑戦権を獲得した。
ヒメネスに敗れたサンドバルは、再びローカルファイトからやり直し。ブイトラゴとの再戦(8回終了TKO勝ち)を含む4連勝(2KO)をマークすると、昨年7月、元WBO J・フライ級王者アンヘル・アコスタ(プエルトリコ)に10回KO勝ち。WBCシルバー王座に就く。
今年2月には、インディアナの中堅選手サレト・ヘンダーソンを10回判定に退けて、WBCシルバー王座の初防衛に成功。今年3月、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)に劇的な最終回逆転TKO勝ちを収めて、A・C2団体を統一(L・フライ級に続く2階級+2団体統一)した拳四朗へのアタックがまとまった。
6割を超える高いKO率(軽量級では十分に高い)を記録しているが、一撃でし止める破壊力は無く、ジャブ&コンビネーションによる崩しとカウンターでチャンスメイクし、連打をまとめてストップを呼び込む。
安定感に優れたボクシングではあるものの、大きなハプニングのリスク,怖さは無い。積極果敢に打ち崩す好戦性も持ち合わせてはいるが、丁寧にラウンドをまとめるバランスの良さに適性を発揮する。
これでは前評判も盛り上がりづらい。リング誌P4Pランク入りを果たし、キャリアの後半~終盤を迎えてなお意気健康な拳四朗の防衛は堅く、本人が会見で述べた通り、「後半にKOできればいいが、勝ち方も問われる」。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Caesars Palace
拳四朗:-500(1.2倍)
サンドバル:+325(4.25倍)
<2>betway
拳四朗:-500(1.2倍)
サンドバル:+350(4.5倍)
<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:1/6(約1.17倍)
サンドバル:4/1(5倍)
ドロー:16/1(17倍)
<4>Sky Sports
拳四朗:2/7(約1.29倍)
サンドバル:17/4(5.25倍)
ドロー:20/1(21倍)
◎公開練習
<1>サンドバル
<2>拳四朗
拙ブログ管理人も、8割方の確率で拳四朗の防衛(3-0判定 or 中盤以降のTKO)と見立ててはいるけれど、打たれ(せ)るようになった拳四朗の疲労と消耗が心配。蓄積したダメージは、何時顕在化するかわからない。30代を超えていれば尚更だ。
好戦的ではあっても、純正なメキシカン・スタイルではなく、粗く雑に振り回すのはフィニッシュを狙う場面に限られ、相手の打ち気を誘ってタイミング良くカウンターを取る術も知っている。
実際に見てみないとはっきりしたことは言えないが、慎重な待機策をベースに、プレスをかけながら前に出てくる拳四朗を迎え撃つ戦術も想定の範囲内。
拳四朗がパワーアップした右ストレートを振り出すのに合わせて、ベーシックなボディワークでかわしざま、得意にする左フック(やや下からアッパー気味にショートで打ち抜く)で迎撃するシーンは容易に想像がつく。
◎拳四朗(33歳)/前日計量:111.6ポンド(50.6キロ)
現WBCフライ級(V2),現WBAフライ級(V0),元WBC(通算V11/連続V8)・WBA(V2)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:26戦25勝(16KO)1敗
世界戦通産:17戦16勝(11KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
※軽量時の検診データ
体温:36.0℃
脈拍:66/分
血圧:127/88mm
右ボクサーファイター
◎サンドバル(26歳)/前日計量:111.8ポンド(50.7キロ)
戦績:28戦26勝(18KO)2敗
アマ戦績:不明
身長:168センチ,リーチ:170センチ
※軽量時の検診データ
体温:35.9℃
脈拍:55/分
血圧:133/82mm
右ボクサーファイター
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■オフィシャル
主審:スティーブ・ジェルマン(カナダ)(カナダ)
副審:
レシェック・ヤンコヴィアク(ポーランド)
ジャッジ :パヴェル・カルディーニ(ポーランド)
ジャッジ :ジョセフ・グゥィルト(英/イングランド)
立会人(スーパーバイザー)
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ケヴィン・ヌーン(アイルランド)
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◎サンドバルの試合映像
<1>2024年3月30日/youtubeシアター,カリフォルニア州イングルウッド
サンドバル 8回終了TKO C・ブイトラゴ第2戦
https://www.youtube.com/watch?v=TL1iPeoWF0Q
<2>2021年12月4日/MGMグランド・アリーナ,ラスベガス
D・ヒメネス 12回2-0判定 サンドバル
WBAバンタム級挑戦者決定12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=y_3sUrqHKPw
<3>2020年2月6日/ファンタジー・スプリングス・カジノ,カリフォルニア州インディオ
サンドバル 7回KO R・タプゴン
https://www.youtube.com/watch?v=U8gqdvDJm5w
残念なことに、アコスタ戦の試合映像はネット上で確認できない。陣営をハンドリングするミゲル・コット(プロモーター)の差配だろうか。
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◎有利の予想が出ている比嘉と高見
トリプル世界戦と銘打たれている通り、3戦連続の挑戦となるバンタム級の比嘉大吾(志成)、プロ10戦目の初挑戦となるL・フライ級の高見亨介(帝拳)についても書きたいことはヤマほどあるが、時間が取れず涙を呑んで見送り。
日本国内の配信はU-NEXTになるが、サンドバルとエリック・ロサ(ドミニカ/WBA L・フライ級王者)を擁するゴールデン・ボーイ・プロモーションズの尽力により、米本土でもDAZNが配信を行う。
眼疾(左眼:詳細は不明)による堤聖也(角海老宝石)の休養を受けて、暫定から正規に昇格したBA王者アントニオ・バルガス(米)に挑む比嘉には、何としてもベルトを巻いて貰い、復帰を待つ堤との再戦実現を願う。






















