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2024年09月

KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 3 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)

Team Vansdo

ボクサーとして致命的とも思える事実が判明してもなお、早々に復帰宣言済みのロペス。半年後(来年の早春)に予定される再検診の結果(主治医の所見)次第にはなるが、今後の展望はやはり不透明と言わざるを得ない。

最初の章で指摘した通り、ライセンス許可に関わる健康面の問題ではなく(MRIをクリアすればメキシコ国内での再起は既に認められたも同然)、純粋にロペスのマネージメントに起因するもので、2人いる共同マネージャーの1人、エクトル・フェルナンデスが否定的な見解を示している。

「大概のプロモーターは、レコードに大きなキズが付いたボクサーを使いたがらない。仕方のないことだが、(ファンの)誰もが完璧な戦績を求め、完璧なファイターを望む。」

「まずは、半年待ってMRIの再検査を受けること。担当の医師がOKするまで、彼をリングに上げることは無い。どんなオファーが来ても断るつもりだと、彼とチームには伝えてある。」

「経済的な問題は重要だが、命には代えられない。我々(マネージャーとチーフ・トレーナー)は、預かっているボクサーのキャリアを進めるのと同時に、彼らを命の危険から守る義務も負っている。」

「負ける覚悟なら出来ている。毎度のことだ。でも、今度の事は余りに酷過ぎる。本当に受け入れ難い。それが誰だろうと、こんなことがあってはならない。」

venado_manager
※ロペスとエクトル・フェルナンデス・デ・コルドバ(共同マネージャー)


※左から:ロペス/ルイス・ネリー/”キキ”の愛称で呼ばれるルイス・エンリケ・マガーニャ(共同マネージャー)

激しいフィジカルの接触が不可避なコンタクト・スポーツは、たった一度のアクシデントによって、競技人生を根こそぎ奪われるリスクを常に孕んでいる。その危険性と発生の確率等々、科学と医学の進歩に合わせて、終わりのないルールの整備と改訂は続く。

レフェリングやコーチングは勿論のこと、日々のトレーニング・メニューから用具の1つ1つに至るまで、新しい技術や理論も採り入れながら、日夜改善への努力も継続されるけれど、それでも事故を根絶することはできない。

中でも恐ろしいのは、首(頚椎)と腰(脊髄)へのダメージであり、膝や足首などの関節に関わる部分の故障だが、人間の急所(頭部と上半身の前面)を直接殴打し合うボクシングは、脳と眼に取り返しのつかない損傷を負う可能性を前提に戦うという点で突出している。

顕著な障害を伴う重大事故に遭わずに済んでも、引退後に言語障害や眼疾を発症したり、運動機能に支障をきたすなど、現役時代に蓄積したダメージが後になって顕在化する場合も珍しくない。

幸運にも軽い程度で済み、日常生活に支障をきたしていない今だからこそ、現役に見切りを着けるべきとの忠告は傾聴に値するが、「辞めたくても辞められない。それがボクシングの一番の恐ろしさ」だと、2度の世界大戦に見舞われた大昔から、連綿と言われ続けてきた。


古くなって傷んだ各地にあるモスクの修復と、建て替え・新設をライフワークの1つにしていたモハメッド・アリは、資金を得る為に周囲の制止を振り切って無謀な復帰戦を行い、宿痾となったパーキンソン病を悪化させ、四肢と言葉の自由を失ってしまう。

アリは40年近く病魔と闘いながら、事情が許す限り公の場にも姿を見せて、多くの人々に笑顔と安息を与え続けたが、2016年6月3日に入院していたアリゾナ州内の病院で天に召された。

今や世界有数のトレーナーとして知られるフレディ・ローチも、選手としてキャリアの最晩年を迎えたある時期、強固に引退を主張して譲らない恩師エディ・ファッチの下を去る。他のトレーナーと契約して現役を続け、アリほど症状は深刻ではないが、同じ病に悩み苦しむ運命を背負うことに。

「エディの忠告通りすぐに辞めていたら、こうはならずに済んだかもと思うことはある。自分はまだやれると信じていたから、どうしても素直になれなかった。あの時辞めていても、結局は同じ事になったかもしれないが、エディと別れた後にやった4~5試合は、きっと余計だったんだろう。」


開頭手術を受けたことが判明しただけでなく、致命的な敗北を喫したにも拘らず、その後も現役を続けてチャンスを得られ続けたマルコ・アントニオ・バレラのようには行かないかもしれないが、今回のKO負けによって、ロペスの商品価値が完全に消失した訳ではない。

ネバダかカリフォルニア、もしくはテキサスでライセンスが認められれば、トップランクはこれまで通りロペスを興行に呼ぶだろう。そして内容と結果が思わしくないと判断されても、同じか近い階級にいる子飼いのプロスペクトの踏み台としての用途は残る。

そこでドヘニーのように一定の成果を上げれば、一発逆転の目がゼロではないけれど、大体はボロボロにされてジ・エンド。骨の髄までプロモーターにしゃぶり尽くされて、ようやくお払い箱。


カス・ダマトがドン・キングを蛇蝎のごとく忌み嫌い、ボブ・アラムを「北半球で最もダーティな男」と口を極めて罵り、「ワシの目が黒いうちは、大切なマイク(タイソン)をヤツらのいいようには絶対にさせない」と、天下の2大プロモーターを忌避し続けた気持ちもわからなくはない。

だが、政治力と資金力を併せ持つ興行師が、プロボクシングの世界にどうしても必要な存在であることも現実。複数年に渡る独占的な専属契約を結ぶかどうかは、1歩間違えれば飼い殺しにされるリスクを天秤にかけた上で、冷静な観察と熟慮が必須になる。

それでもなお、腕と目が利いて交渉力があり、多くの人たちと協調しながら、目的達成の為にハードワークを厭わないプロモーターのバックアップは、ボクサーが持てる才能に相応しい環境と運を引き寄せる為に、信頼できるチーフ・トレーナー(チーム・リーダー)とともに欠かすことができない。

凄絶なノックアウトで丸腰にされ、脳出血が判明したロペスに対して、「お前はもう用無しだ。五体満足でいられるうちに辞めるのが賢明」なのだと、冷たく三行半を突き付きけたのではなく、プロボクシングの裏も表も総てをひっくるめてた、ベテラン・マネージャーの換言なのだと受け止めておきたい。

Orijinal Team Lopez
※チーム・ロペス/左から:アルマンド・バレンスエラ(共同トレーナー)/ロペス/ラファエル・ロハス・エレラ(フィジカル・コーチ)/ファン・ベタンコート(共同トレーナー)
※今回ヘッドの重責を任されていたのはベタンコートではなくバレンスエラ

ESPN(スペイン語による配信)のインタビューを受けた際、「(予期せぬ結果に)さそがし驚いたのではいか?」と聞かれ、フェルナンデスは次の通り答えたという。

「ボクシングや格闘技のバックボーンを一切持たず、ストリート・ファイトの経験しか無いサッカーに熱中するだけの青年が、二十歳を過ぎてからジムに通い出してプロになり、誰も想像すらしなかった世界チャンピオンになって3度もベルトを防衛した。こちらの方が、私に取っては遥かに大きな驚きだよ。」

「既にヴェナードがやり遂げた成功は、それ自体が奇跡的と称されるべきだ。」

イタリア系の売れない一俳優に過ぎなかったシルヴェスター・スタローンがインスピレーションを受け、大ヒットを飛ばして人生を一変させた映画「ロッキー」のモチーフにした、チャック・ウェプナーとタメを張れるぐらいのサクセス・ストーリー。フェルナンデスが言いたかったのは、多分そうした類の逸話に違いない。

だから「もう充分じゃないか」と、そちらの方向に誘導するつもりでは無いと思うけれど、検査結果を聞いたフェルナンデスが受けた衝撃は、それほど重く厳しいものだった。

そしてマネージャーのフェルナンデスは、アシスタントの1人として自らも必ずコーナーに入る。おそらく毎試合、欠かさしていないと思う。

カウントアウトの直後、ノンビリ歩きながら問診に向かうドクターと役員と思しきスーツ姿の男性2名が、ダメージの深いロペスが誰の力も借りずに1人で立ち上がり(!)、彼らが持参した椅子に自力で座るのを待つ(!!)その脇を疾風のごとく駆け寄って、前のめりに再び倒れそうになったロペスの身体を大急ぎで抱えていたのもフェルナンデスだった。







レフェリーのアーニー・シェリフだけでなく、ニューメキシコの試合運営の酷さとリングドクターの非常識には驚き呆れるばかり。ロペスは是が非でもレオにリベンジしたいだろうが、来春希望通りに再起が叶い、米国内でライセンスを認可されても、二度とニューメキシコ州内で戦うべきではない。

レオ陣営がアウェイでやる訳がない?。どうだろう。ロペスの再起について可否が判明する頃、IBFのチャンピオンが交代している確率は結構高いと思うのだが・・・?。


Kay Koroma
※ケイ・コロマ(シャクール・スティーブンソンのチーフ・トレーナー)とロペス

ロペスのチームは非常に大所帯で、マネージャーとヘッド格のトレーナーがそれぞれ2人づついて、さらに数名のアシスタントが常に帯同してトレーニングを行う。

普段は地元メヒカリにある老舗ジム(Gimnasio Polideportivo/ヒムナシオ・ポリデポルティーヴォ:総合型のスポーツ・センター)で日常的なジムワークを行っているが、2023年5月のマイケル・コンラン戦に備えて、シャクールやジャレット・ハード,ミカエラ・メイヤー(最近離反した)らのコーナーを歴任し、長くアマチュアの米国ナショナル・チームをサポートしてきたケイ・コロマの指導も仰ぐようになった。

ただし、コロマの本拠地があるヴァージニア州アレキサンドリアではなく、米国アマチュア・ボクシング界の重鎮,老匠ケニー・アダムスが今も教えるラスベガスのDLXジム(DLX Boxing)を間借りして、追い込みのトレーニング・キャンプを行う。

何かと話題になることが多いアンヘル・メモ・エレディア(メモ・エルナンデス:バルコ・スキャンダルで大物アスリートの禁止薬物使用を証言したPEDのオーソリティ)のフィジカル・トレーニングも受けたと報じられている。

メモ・エレディア(エルナンデス)は一連のスキャンダルで明らかになったドーピング違反を主導した1人として、張本人のビクター・コンテらとともに逮捕収監されたが、司法取引に応じて刑期を大幅に短縮された。米本土での活動を禁止され、釈放後は母国メキシコに戻り、ボクサーや総合格闘技のプロ選手を対にフィジカル&ストレングスのトレーナーとして成功。

打倒パッキャオに異常な執念を燃やし、ウェルター級に本格参戦したファン・M・マルケスの驚異的な肉体改造を実現した他、カネロのチームとも深い親交を結ぶ。どうやら米国での仕事も可能になっているようだが、ライセンス申請を行った州と時期などは不明。


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■群雄割拠ならぬ本命不在・・・フェザー級戦線の現在(いま)

昨年12月9日、フロリダでロベイシー・ラミレスが、破格のサイズ(185センチ)を誇る痩身の巨人ラファエル・エスピノサに、逆転のダウンを奪われ大番狂わせの判定負け。高齢を押して来日を繰り返している御大アラムだけでなく、「あれなら(問題なく)勝てるよな」と大いに乗り気な様子を見せた大橋会長が、井上尚弥との激突を匂わせていた矢先の出来事に、「126ポンドのラス・ボス敗れる」的な喧伝を、自らのyoutubeチャンネルで行う国内ボクシング関係者もいた。

続いて今年の3月2日、体重苦を理由にベルトを返上したリー・ウッド(英)の後継王者を決めるエリミネーターが、N.Y.州ヴェローナのインディアン・カジノで行われ、デリク・ゲイナー(フレディ・ノーウッドからWBA王座を奪取/ファン・M・マルケスに譲る)を最後に、この階級には絶えて久しい黒人スピードスター候補として注目を集めるレイモンド・フォードが、ウズベク出身の万能型オタベク・ホルマトフとのサウスポー対決に挑み、最終12ラウンド残り10秒のTKO勝ち。

11ラウンドまでのスコアは、2-1(106-103×2,104-105)でホルマトフを支持。複数回のカウンターを効かされたホルマトフが、ノックダウンの大ピンチをフォードに抱きついてしのぎ、振り回されての転倒をスリップ裁定に救われながら、反撃にこだわり過ぎて最後の最後でまたカウンターを浴び、背中を向けて走り出してニュートラルコーナーに詰まり、逃げ場を失ったところでレフェリー・ストップ。

クリンチ&ホールドで時間を使わず、堂々と打ち合って勝とうとしたプライドと心意気は当然買うけれど、あと10秒・・・を考えると、瞬断的に使う数回程度のホールディングなら、問題なく許容されたのではとも思う。

物凄く簡単にまとめてしまえば、スコアリングに対するコーナーの”読み”も含めた「プロの実戦経験不足(13戦目)」に集約されてしまうが、無理に打ち合って墓穴を掘るケアレス・ミスは、フォード(17戦目)にもまったく同じ事が言える。


2016年のユース世界選手権(サンクトペテルブルグ/ロシア)で、フライ級の銅メダルを獲得したホルマトフは、同じ年のアジアユース選手権(パヴロダル/カザフスタン)でもL・フライ級に出場して銀メダルを獲り、ジュニア&ユース限定ながら国内選手権も制したトップ・アマ出身組み。

フォード戦を前にトップランクとの正式契約もリリースされ、ロベイシー・ラミレスとのエリート対決(WBOとWBAの2団体統一戦)が既定の路線となっていた。

ホルマトフを劇的なTKOに下したフォードには、「126ポンドのNo.1」に推す声が上がるなど期待値がさらに上昇するも、本人とチームが「ウェイトの維持が困難」だと、決定戦の前から階級アップに言及。

すぐにでも返上を表明するのかと思いきや、傘下に入っているマッチルームUSAのオファーに応じて、6月1日のリヤド興行に参戦。マッチルーム本体が強力にバックアップするイングランドの小型攻めダルマ,ニック・ボール(英)の突貫アタックに苦しみ、1-2のスプリット・ディシジョン(113-115×2,115-113×1)を失い王座転落。

フォードの勝利を信じるファンの間で、スコアリングに対する不満と批判も聞かれたが、足を止めてボールの土俵で勝負に応じる戦術選択のミスは相変わらず。過度な減量が祟って足が動かず、他にやりようがなかったのかもしれないが、この人が持つ速さの本領は、ゲイナーのようにフットワークも込みのスピードではなく、瞬時に小さく鋭く動く反応(シャープネス&クィックネス)に限定されるようだ。

「勝敗に関係なくこれがフェザー級のラストマッチになる」との意思をあらためて示したフォードは、ウッドの後追いでS・フェザー級への転出を決めた模様。

こうして「クラス最強」のお鉢が回ってきたロペスも、122ポンドでフルトンに完敗したレオに、圧巻のワンパンチ・フィニッシュを許しKO負け。

「フェザー級は違う。強い王者が次から次へと負けて行く。井上は自身が述べている通り、S・バンタムに止まった方がいい・・・」

とまあ、そんな声がチラホラ聞こえてくる。詳しくは章をあらためて述べるが、私はまったくそうは思わない。井上とクロフォード、パンデミックに襲われる以前のGGGように、誰もが納得せざるを得ない絶対的な強さを持つ大本命がいない。日替わりで4番打者が入れ替わる、プロ野球の猫の目打線のような状態だと考えている。

そうした意味において、井上尚弥が本当にフェザー級を目指すのであれば、加齢による衰え(反応と回復力の低下=特に膝と足首など下半身の故障が怖い)を考慮しても、むしろ急いだ方がいいのでは。小さいとは言い難い課題も、見え隠れはするが・・・。

レイ・バルガス(WBC)とディヴィーノ・エスピノサ、ようやく再起戦が決まったフルトンらを含めた詳細は、次章以降にて。


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

懲りずに飽きずに”ファンタジスタ・ナオヤ”の再現を願う - 有明3大決戦 プレビュー -

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■9月3日/有明アリーナ,京都江東区/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBO2位 T・J・ドヘニー(アイルランド/豪)



流石に間違いは無いだろう。

12キロを超えるリバウンドとパンチング・パワーを武器に、我らがモンスターのスパーリング・パートナーを努めて名を上げたホープ,ジャフェスリー・ラミドを叩き潰した起死回生のKO勝ちで、評価をV字回復させたドヘニーとは言え、褌の紐を締め直した我らがモンスターには歯が立つまい。

ウルトラ・スーパーな天文学的乖離に落ち着いたオッズが示す通り、どこをどう掘り返してみても、37歳のオールド・タイマーに勝機は見当たらず、何ラウンド持つのかという、いつもの話題に戻る堂々巡り。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
井上:-5000(1.02倍)
ドヘニー:+1600(17倍)

<2>betway
井上:-5000(1.02倍)
ドヘニー:+1600(17倍)

<3>ウィリアム・ヒル
井上:1/50(1.02倍)
ドヘニー:14/1(15倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
井上:1/41(約1.02倍)
ドヘニー:20/1(21倍)
ドロー:40/1(41倍)


西岡利晃に次いで、王座防衛に成功した日本ボクシング史上2人目のS・バンタム級王者,岩佐亮佑を番狂わせの3-0判定に下して、IBFのベルトを持ち去ったのが2018年8月。

全米に配信を行ったESPNのアン・オフィシャルジャッジは、116-113の3ポイント差で岩佐を支持していたが、自分の名前が勝者としてコールされた瞬間、誰よりも驚いていたのがドヘニー自身だった。

この時点で、戦績は20戦全勝(14KO)。5ヶ月後の初防衛戦でニューヨークの殿堂MSGに進出すると、横浜光の高橋竜平をまったく問題にせず、一方的に叩きまくって11回TKO勝ち。連勝を21に伸ばして、いよいよこれからという時、メヒコの勇者ダニエル・ローマンの挑戦を受けて0-2の判定負け。プロ初黒星を喫して、虎の子のベルトを失う。


オーストラリアを拠点にするアイリッシュの苦難が、ここからスタートする。ローマンに敗れてから半年後、コロンビアのベテラン中堅を5回終了後にギブアップさせて再起するも、翌2020年3月のドバイ遠征でルーマニアの伏兵イオヌット・バルタに0-3判定負け(8回戦)。

さらに、同じアイルランドでも、北の中心地ベルファストの出身で、ロンドン五輪のフライ級銅メダルとリオ五輪連続出場の戦果を手土産にプロ入りしたマイケル・コンランが、WBAフェザー級の王座決定戦に出場する運びとなり、その相手として白羽の矢が立つ。

コンランのホーム,ベルファストに飛んだドヘニーは、コンランのボディアタックとロングのワンツーを攻略できず0-3判定負け。

階級をS・バンタムに戻して、パンデミックが猛威を振るう最中、メキシコの猛者セサール・ファレスを2回TKOに屠って一息つくも、オーストラリアのホープ,サム・グッドマンに完敗(大差の0-3判定)。


これで命運も尽きたかと思われたが、大橋会長が期待を寄せるサウスポー,中嶋一輝のステップボードに選ばれ、昨年6月に再来日。オボコさの残る中嶋を4ラウンドでストップして、WBOアジア・パシフィック王座を獲得。

そして昨年10月、またもや大橋会長の肝いりで売り出しにかかったラミドの生贄にと、後楽園ホールに連続出場。左1発でラミドを吹っ飛ばして、日本のファンと関係者を唖然とさせる。

大橋ジムと堅い連携を結んだドヘニーは、今年5月の東京ドーム興行にも担ぎ出された。ルイス・ネリーが体重超過した場合に備えて、リザーバー(万が一の時の代役)を仰せつかったのである。

幸いにも(?)、ビッグマネーを逃したくないネリーが真面目に身体を絞り、ドヘニーは当初組まれた通り、8回戦の第1試合に登場。7勝2KOのフィリピン人,ブリル・バヨゴスを3度倒して4回TKO勝ち。

第二の故郷はオーストラリアではなく、日本なのではないかと錯覚しそうになるが、4戦立て続けの首都参上とあいなった。


トシを取って運動量が落ちた為だと推察するが、最近のドヘニーは目一杯のリバウンドを最大限に利用したパワー勝負にすべてを懸ける。左の一撃を効かせたら、回復の間を与えず一気に決着してしまう。

しかし岩佐に勝った6年前は、前後左右に良く動きながら、ジャブとコンビネーションで時間をかけて崩すボクサーファイターだった。格下相手には、崩しのプロセスがそのままKOにつながり、結果的にKO率を押し上げることになってはいたが、判定を前提にした丁寧な組み立てで戦うのが基本。

20代半ば~30代に突入した直後のように、ふんだんに脚は使えない。さらに、サウスポーには滅法強いが、地力と経験のあるオーソドックスにかかると存外に脆い。4度の敗戦のうち、サウスポーはコンラン1人。サイズ&スピード負けが顕著だった。

中嶋に勝った時も、ロープ際に追い込んだところで左フックを1発食らってヨロける場面があり、年齢とは関係なく耐久性に問題を抱えているのではと実感。あれだけ慎重に出入りしていたことも、そう考えると合点が行く。

◎井上尚弥~孤高の王者の行方~【ダイジェスト版】
Lemino公式

※Lemino公式(フル)
https://lemino.docomo.ne.jp/?crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2dyb3VwL2JmMTAwM2U%3D


我らがモンスターの決定力と卓越したスピードに反応があれば、左の餌食になることはまず有り得ない。ネリー戦の失敗を糧に、今回はどんな立ち上がりを見せてくれるのか。

S・フライ級の頃と同じレベルでフットワークを使ってくれとまでは言わないけれど、”パワーハウス・ナオヤ”ではなく、”ファンタジスタ・ナオヤ”の復活を性懲りもなく願う。

動きの遅いパンチャーの正面に正対して圧をかけて行くのではなく、前後左右に自分から動いて、角度とタイミングに変化をつけたジャブとコンビを死角から突く。そうやって、1発頼みの古豪を翻弄する。

バトラーとタパレスをねじ伏せた力のボクシングではなく、ファン・カルロス・パジャーノの息の根を止めた美しいスピード・ボクシング。フルトンを圧倒した駆け引き&プレスに、健脚をプラスできないものか。

来るべき126ポンド対策として、最も効果的で確実な打開策になると信じて疑わない。ネリー戦と同様、「一切触らせない(何もさせない)」と言い切っているが、モンスターなら幾通りかの方法を試せる筈だ。

まったく危なげのないクレバーな進め方で、前半のうちに倒し切って欲しい。


◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル)



◎井上(31歳)/前日計量:122ポンド(55.3キロ)
戦績:27戦全勝(24KO)
現WBA・WBC・IBF・WBO統一S・バンタム級王者(WBC・WBO:V2/WBA・IBF:V1)
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:22戦全勝(20KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
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脈拍:75/分
血圧:107/77
体温:35.6℃
※計量時の計測
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎ドヘニー(37歳)/前日計量:121.5ポンド(55.1キロ)
元IBF J・フェザー級王者(V1)
現在の世界ランク:WBA6位/WBC・IBF7位
戦績:30戦26勝(20KO)4敗
世界戦通算:4戦2勝(1KO)2敗
アマ戦績:不明
北京五輪代表候補
身長:166センチ
リーチ:172.5センチ
※岩佐亮佑戦の予備検診データ
--------------
脈拍:99/分
血圧:115/103
体温:36.7℃
※計量時の計測
左ボクサーファイター


◎前日計量


◎前日計量:Lemino公式
https://lemino.docomo.ne.jp/?crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2dyb3VwL2IxMDI0YTY%3D

◎ファイナル・プレス・カンファレンス:Lemino公式
https://lemino.docomo.ne.jp/?crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2dyb3VwL2IxMDI0YTU%3D

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■心配の種はやはり減量

計量時の血圧と体温を見て、老婆心がムクムクと鎌首をもたげる。ちょっと低過ぎやしないか。計量直前の食事制限の過酷さを、余計なお世話と承知の上で想像せざるを得ない。2~3日ぐらいの間、ほとんど絶食に近い状態だった・・・?。

◎今回
脈拍:75/分
血圧:107/77
体温:35.6℃

◎ネリー戦
血圧:124/82mm/Hg
体温:36.6℃
脈拍:82/分

◎タパレス戦
血圧:117/82mm/Hg
脈拍:77/min
体温:36.1℃

◎フルトン戦
血圧:138/81mm/Hg
脈拍:65/min
体温:36.3℃

◎バトラー戦
血圧:129/80mm/Hg
脈拍:61/min
体温:36.5℃

フィジカルを担当する八重樫東が、「折角S・バンタムに慣れてきたのに、今すぐフェザーに上げたら、慣れない階級でまた同じ苦労をすることになる」と、早い時期のさらなる階級アップに否定的な意見を述べていた。

モンスター自身、「あと2年くらいはこの階級で」と展望を示してはいる。でもどうだろう。無理な減量で身体を苛めない方が、むしろプラスに働くのでは。


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■オフィシャル

主審:ベンス・コヴァックス(ハンガリー)

副審:
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
パヴェル・カルディニ(ポーランド)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ホセ・ゴメス(パナマ/WBAランキング委員)
WBC:ケヴィン・ヌーン(アイルランド/WBCアジア事務局長他要職を兼任)
IBF:ベン・ケイティ(豪/IBF Asia担当役員)
WBO:レオン・パノンチーリョ(米ハワイ州/WBO副会長/タイ在住)

KO負けのヴェナードが脳出血 /レフェリングの是非について批判も・・・本人は再起を明言 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 2 -

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■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)


”大”の一字を付けて然るべきとまでは言わないが、番狂わせと呼んでいいだろう。フェザー級最強ともっぱらのチャンプに、アンダードッグとして挑んだ地元のチャレンジャーは、実に上手く戦って勝利を引き寄せた。

阿部麗也との前戦(3月2日/N.Y.州ヴェローナ)に触れた際、ロペスに対して「過大評価」だと辛口の見解を述べたし、戦前のオッズほど両者の力量に差はないと思ってはいたけれど、立ち上がりのレオは、想定し得る中でも最高最良の滑り出しだったのではないか。

丁寧に後退のステップを踏んで距離のキープに努め、ラフに攻め続けるロペスのガードの隙を、スピードに注力した軽めのコンビネーションでしっかり叩き、機を見て強めのパンチも入れて行く。

打ち終わりの処理(頭と足の位置)に気を抜かず、パワーも抑え気味にして、いい当たり方をしても深追いはしない。打ち気に逸るロペスが出てきたら下がり、出て来ないと見たらすかさず前に出て先に打つ。


レオも充分に好戦的なタイプだけに、打ち合えると考えていたに違いないロペスは、思惑が外れた格好。少し拍子抜けした様子も伺えたが、レオの出入(はい)りに手を焼き、思うように狙ったパンチが当たらない。そして手数はともかく、命中率はかなりの差を付けられ後手を踏む。

自信を持ったチャレンジャーは、前半の終わり~中盤にかけて、自から接近してインファイトも混ぜ始めたが、一度狂ったロペスの感覚は容易に通常運転モードに戻らず、得意なクロスレンジでも五分に近い展開を許してしまう。

◎主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
L・A・ロペス:-450(約1.22倍)
レオ:+350(4.5倍)

<2>betway
L・A・ロペス:-500(1.2倍)
レオ:+350(4.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
L・A・ロペス:2/9(約1.22倍)
レオ:10/3(約4.33倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
L・A・ロペス:1/4(1.25倍)
レオ:15/4(4.75倍)
ドロー:20/1(21倍)

それでも距離が近づくと、数は限定的でもロペスもパンチを当ててくる。パワーショットの見映えの良さで、ラウンドを取られたら取り返す。レオのステップを速やかに追い切れずとも、しぶとく食い下がって無理やりにでも自分の時間帯を作り、簡単に流れを譲らない。持って行かせない。

「手数&プレッシャーのロペス vs 精度+守りのレオ」

まずは打撃戦を回避して、ロペスに追わせる。もともと粗い攻防のキメが、攻め急ぎで一層雑になり、ルーズガードもよりルーズさを増す。そこを抜け目なく突き、先手で動き続けてロペスのリズムとテンポを乱す。


作戦が図に当たった挑戦者陣営に対して、王者陣営は前進あるのみ。少々打たれても気にせず圧力をかけ続け、強打を振るい続ける。ジャブと崩しの省略もいつも通り。焦りがまったく無い訳ではないが、「そのうち崩れる。問題は無い」との認識&自信を揺るがせにしない。

中盤に入ると、強打の交換が増える。ロペスの時間帯だ。挑戦者陣営はそれも折りこみ済みで、好調なスタートの裏付けとなったステップアウトへの回帰を忘れず、しかし勇気を奮うステップインも繰り返して、力で押し返すリスクと労を惜しまず奮闘する。

両雄ともに疲れが顕在化し出す。拡大する打ち終わりの隙を狙ってパンチを放つ。打ちつ打たれつの鬩ぎ合いは、本来王者の土俵。こうなると、ロペスのしつこさが活きる。拮抗した攻防のそこかしこに、ようやく”らしさ”が出て勢いづくロペス。

レオも引き下がらない。苦しく厳しい状況は覚悟の上とばかりに、強打に強打で対抗もしながら、適時後退のステップを踏んで間合いを外し、態勢を立て直しては攻勢に出る。

第7ラウンドの1分を過ぎる辺り、ロペスがローブローをアピールして、主審シェリフがこれを受けつけずに流す場面があった。インターバルに入ってすぐにスロー再生が流れて、確かにベルトラインの下に着弾していたが、いい時のロペスなら気にしていなかった筈。それだけ王者も苦しい。


中盤で持ち直したロペスだが、第9ラウンドにまたもやレオの逆襲に遭う。2人とも疲労が隠せなくなり、くっついて揉み合う回数が増える。レオも相当にキツくなってきているが、それでもまた動けてはいて、どちらかと言えばロペスの方が鈍ったとの印象。

そうした中、何度目かのブレイク直後、右方向に上体を傾けながら、ロペスが右アッパーを連射。ダックしながらのカバーリングで1発目を防いだレオが、低い態勢から右を振り上げ、そのまま被せるように落とす。

丁度2発目の右アッパーを放ったロペスの顎に、斜め上からドンピシャのタイミングでクロスカウンターになった。そしてこのパンチを食いながらも、ロペスは返しの左フックを打っていて、レオの顔面をかすめるように振り下ろされている。

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これでも倒れないのだから、やはりロペスは打たれ強い。頑丈過ぎるフィジカルは、マルケス兄弟やオスカー・ラリオスらと共通するメキシカン特有のストロング・ポイントなのだが、そうであるが故に「被弾に対する無頓着」というウィークネスと表裏一体。諸刃の剣と理解すべき。


たまたまニュートラル・コーナーに近いところにいたお陰で、そのままコーナーを背負ったロペスが追って来るレオを抱き込んで退避。冷静に危機を脱したと言うより、脚が止まっていたことがプラスに作用した。

この僅かな休息の間に呼吸を整え、回復を図るロペス。再開の合図を待って自分から攻める。余裕が無い中でも、密着しながら手を出して劣勢をやりくりする。プロの第一線は、やはり大したものだと素直にそう思う。

1分半ほど時間が残っていたが、鈍りながらも攻勢を取り続けるロペスを、レオはまた後退のステップでかわす。まだまだロペスのパンチは生きていて、強引に詰めようとはせず、再セットアップを選んだことが吉と出る。


こうして迎えた運命の第10ラウンド。展開は同じ。密着した状態で空いているところをコツコツ打ち合い、ブレイクを挟んでまた繰り返す・・・と言えば聞こえはいいが、ペンシルベニアの主審が何をやっても基本ノーチェックなのをいいことに、レオが確信犯のローブローを数発とラビットパンチを1発見舞う。

ここはロペスも黙って辛抱したが、さらに複数回同様のやり取りがあり、レオが振りを大きくして2発目のラビットパンチ。これはやり過ぎだと、ロペスが視線と声で直接主審に反則をアピールする。

流石に割って入り、レオに一言二言注意を与えていたが、この場面でも「このレフェリー、本当にダメだな・・・」とあらためて呆れた。レオはロペスに視線を向けたまま、レフェリーを見てさえいない。無視しているに等しく、注意などまともに聞いていなかった筈だ。

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何なら1発減点でも構わない状況だが、こういう場合、真面目に仕事を遂行するレフェリーなら、タイムキーパーに時計を止めるよう念入りに指示を出し、その上で多少の怒気を含めて厳しく注意をやり直す。「今度やったら減点するぞ。それでも止めないなら失格(反則負け)だ。いいな!」という具合に。


レオとロペスは言うに及ばず、おそらく両陣営のチーフとスタッフからも、このレフェリーは信用されていなかったと確信する。そもそも、世界戦の看板に恥じないプロの仕事をやる気,使命感が感じられない。型通りに”こなす”だけじゃないかと。

だからレオも、平然と無視している。ロペスに意識を集中していたからだと、好意的に捉えればそうも言えるけれども。そしてこのレフェリーは、無視されているとわかっていながらそのまま流す。救いようがない。

チャンピオンの矜持をけっして捨てないロペスだから良かったけれど、これがもしメイウェザーやホプキンスなら大変だ。下腹部や後頭部を押さえて大袈裟に痛がり、まずは減点を貰いに行く。

挙句うずくまって再開に応じず、ゴネにゴネまくって、あわゆくば反則勝ちを拾おうとするだろうし、メイウェザーのコーナーに亡くなったロジャーがいたら、周囲の制止を振り切ってリングに雪崩れ込み、ザブ・ジュダー戦さながらの乱闘騒ぎになりかねない。

フロイド・シニアは流石にそこまで愚かではないから、5分の休憩で再開になった後、メイウェザー自身が同じ行為をやり返す。あるいは、ビクター・オルティズ戦の再現。とにもかくにも、世界最高峰の頂きに立つ男にあるまじき蛮行。荒れ模様は不可避だ。

二度とこのレフェリーを、タイトルマッチのリングに上げてはならない。世界戦だけじゃなく、ローカル王座戦もである。


唐突にして衝撃的な幕切れは、このすぐ後だった。前に出るロペスの間合いを後退で外し、自分からくっついては離れるレオ。速いジャブを連射しながらまたくっつく。そして、レフェリーが分けた次の瞬間、棒立ちのロペスが無造作にジャブを出すのと同時に、狙い済ました左フックが炸裂!。



ESPNの実況が「ロペスは根本的なミスを冒した(fundament mistake)」と解説していたように、最近は滅多に聞かないし言わなくもなったけれど、典型的な「テレフォン・パンチ」である。

真正面からノシノシと歩いてレオに近付きつつ、腰の辺りまで下げていた両拳を一般的なガードの位置に上げながら、左ジャブを準備しているのが丸分かり。「打ちますよ」と教えているようなものだ。

なおかつロペスには、ジャブを出した直後に右のガードが僅かに下がる癖があり、この場面でも、右拳が下がって顔面がガラ開きになるところへ、まるで吸い込まれるかのように、抜群のタイミングと角度でレオの左が着弾している。


仰向けに昏倒したロペスを見て、多くのファンが嫌な予感に襲われたのではないか。「すぐに止めて担架を・・・」と私も思ったが、周知の通りレフェリーはカウントを数え続け、6から7秒の辺りで目覚めたロペスが、身体を起こそうと動き出す。

「だからすぐに止めて、ロペスを安静な態勢に戻すんだ!。そして直ちにドクターと担架を呼んで!」と、半ば怒りを覚えながら配信の映像に釘付けになる。

レフェリーはしっかり10まで数え終わり、両膝を着いて頭を垂れたままのロペスが立とうとして前にのめり、のんびり歩きながら椅子を用意していたインスペクターと思しきスーツ姿の男性2名の横を、コーナーマンの1人が大慌てで走り込みロペスの身体を支えた。

ロペスは何とか椅子に腰掛け、リングドクターの質問を受ける。一通り問診を終えると自立して歩き、スタッフたちが待つコーナーへと戻った。表情は平静を保ち、自分の身に何が起きたのかも理解できている様子で、ひとまず安堵する。

リング上で速やかに意識を回復できた上に、落ち着いた状態で歩いてドレッシング・ルームに戻ったロペスが、前触れもなく突然倒れたり、頭痛や吐き気といった不調を訴えることもなかったことから、主審を務めたアーニー・シェリフは糾弾・断罪されずに済んだ。

◎ポスト・ファイト・インタビュー
※歩いて控え室に向かうロペスの無事な姿を確認できる



ボディではなく顔面への左フックによるワンパンチKOは、強烈なインパクトを残すことが多い。

ちょっと思い出すだけでも、パッキャオ vs ハットン(時間が止まったかのごとき結末)、セルヒオ・マルティネス vs ポール・ウィリアムズの再戦(両眼を見開いたまま失神)、全盛のドネアがモンティエルを屠った戦慄のKO(武道の達人を思わせる”後の先”)、同じく無名だったドネアを一躍軽量級の寵児に押し上げたダルチニアン戦の1発(第1戦/フライ級王座獲得)。

我が国でも、内山高志がホルヘ・ソリスをし止めた美し過ぎるカウンター(WBA S・フェザー級V4)や、小林和優を3回でストップした吉野修一郎の見事なクォリティ・ショット(日本ライト級TM)、令和に突如として出現した和製レフト・フッカー,佐々木尽の数試合がすぐに思い浮かぶ。

古くは、シュガー・レイ・ロビンソンがジーン・フルマーを一瞬で斬り落とした芸術的なカウンター(第2戦)、エザード・チャールズとの因縁に決着を着けたジャージー・ジョー・ウォルコットのショッキングなフィニッシュ(第3戦)、ナイジェリア初の世界王者ホーガン・”キッド”・バッシーが、”スパイダー”の異名を持つ英国フェザー級の雄,ビリー・ケリーを失神させ、世界タイトル挑戦への道筋を着けた畢生の一撃。

”北欧の雷神”インゲマール・ヨハンソンに奪われたヘビー級王座奪還に成功(史上初)した、フロイド・パターソン必殺のガゼル・パンチ(カス・ダマトが鍛えたマイク・タイソンのオリジン)。

プライムのスモーキン・ジョー・フレイジャーと、無敵の現役L・ヘビー級王者ボブ・フォスターによる稀代のレフト・フッカー対決も凄かった。スモーキン・ジョーに2回で粉砕されたフォスターが、175ポンドを獲ったディック・タイガー(ナイジェリア史上2人目の王者/ミドル級を含めた2階級制覇)戦も、思わず背筋が凍りつく終幕。

ウェルター級を統一(WBA・WBC/創設間もないIBFは勝手に認定)した後、勇躍J・ミドルに参戦したドン・カリーを地獄に叩き押したマイク・マッカラムの凄絶なアッパー・フック(下から鋭く振り上げる独特のフック/在米の黒人選手に受け継がれる伝統的なパンチ=レーザー・ラドックの”スマッシュ”が有名)。

ロイ・ジョーンズを1発で沈めたアントニオ・ターバー(リマッチ)、メフダード・タカルー vs ウェイン・アレクサンダー、ディリアン・ホワイト vs デレク・チソラ第2戦、アレクサンダー・ポベトキン vs D・ホワイト、日本でも戦ったサム・ピーター vs ジェレミー・ウィリアムズ等々、本当に枚挙に暇がない。

ノックアウト・オブ・ジ・イヤーの最右翼に挙がっているであろう、レオの劇的なエンディングも、「Most Shocking Left Hook KO in Boxing History(こんなリストが現実にあれば)」の列に間違いなく並ぶ。


◎試合映像:ハイライト(トップランク公式)

<1>フルファイト(英語)
https://www.youtube.com/watch?v=rK6lWMXLWGs

<2>フルファイト(英語)
https://www.dailymotion.com/video/x93ue6i

<3>フルファイト(スペイン語)
https://www.youtube.com/watch?v=9QgKnNTDWQU


Part 3 へ


◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
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※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

KO負けのヴェナードが脳出血 /レフェリングの是非について批判も・・・本人は再起を明言 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 1 -

カテゴリ:
■8月10日/ティングリー・コロシアム,ニューメキシコ州アルバカーキ/IBF世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
IBF11位/元WBO J・フェザー級王者 アンジェロ・レオ(米) KO10R 王者 ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)



先々週の末、メキシコからショッキングなニュースが届いた。8月10日、ジョニー・タピアの故郷アルバカーキで壮絶なKO負けを喫したヴェナード・ロペスに、脳出血が発見されたという。

程度問題はあるにせよ、打たれ(せ)ることを前提に組み立てる攻撃的なスタイルだけに、「早過ぎるツケが回ってきたか・・・」との印象が否めず、言葉は悪いが「遅かれ早かれ」との思いも過ぎる。

幸いにも程度は軽く、既に出血も止まっていて開頭手術も行わずに済み、このまま経過観察を続けて半年後にもう一度検査(MRI・CT)を行い、異常が無ければ御赦免ということらしい。

言語や運動に関する機能障害なども一切無く、ロペス本人は現役を継続する意向で、前々から述べていた通り、130ポンドに主戦場を移すことも視野に入れいている。気になる米国内での状況だが、開催地のアルバカーキを所管するニューメキシコ州が、90日間の出場停止(健康面と安全性を考慮/延長の可能性有り)という暫定的な措置を決めた以外、今のところ目立った反応は無し。
※下に列挙した関連記事の<2>:ジェイク・ドノヴァン記者がリング誌に寄稿した記事参照

ただし、かつてのエドウィン・バレロのように、脳出血の痕跡(2001年にバイク事故を起こし開頭手術を受けていた)を理由に、ニューヨーク州アスレチック・コミッションの「無期限ライセンス停止リスト」に名前が載ってしまい、2004年~2009年までのおよそ5年間、米本土から締め出された事例もある。

窮地のバレロに手を差し伸べ、日本に連れて来てS・フェザー級のWBA王座を獲らせたのが、帝拳グループを率いる本田会長だったという次第。

メキシコ国内でのカムバックに関する限り、特に支障は無いものと思われる。そもそもプロ・ライセンスの管理すらままならないほどメキシコはコミッションの機能が脆弱で、WBCの会長職を二代に渡って世襲・独占するスレイマン親子が、事実上のコミッショナーとしてメキシコ国内を統治せざるを得ない。

開頭手術を受けて復帰した著名選手はメキシコにもいて、マルコ・アントニオ・バレラが良く知られている。新興団体WBOのベルトを巻き、WBCのエリック・モラレスとともに無敵の快進撃を続けていたバレラは、ジュニア・ジョーンズにまさかの2連続KO負けを喫した後、1年近い長期の休養(1997年4月~1998年2月)を取ったが、この時秘密裏に手術を受けていた。

ゴールデン・ボーイ・プロモーションズとの契約(2003年秋)を巡り、ほとんど一方的に関係を絶った前マネージャー,リカルド・マルドナドとの間で泥沼の法廷闘争が勃発し、怒り心頭のマルドナドがメディアにリークして明るみになったのだが、カリフォルニアとネバダでライセンスを更新していたビッグネームのバレラは、米国内のどの州からもサスペンドを受けずに済んでいる。


深刻の度合いを増すスター不在も、ロペスの復帰を後押ししてくれそうだ。バンタム級とS・バンタム級を長らくお家芸にしてきたメキシコも、バレラ&モラレス、マルケス兄弟とイスラエル・バスケス、ジョニー・ゴンサレス,オスカー・ラリオス辺りを最後に、傑出した才能が現れなくなって久しい。

ルイス・ネリー程度のチンピラ・ボクサーが未だに商品価値を認められ、目ぼしい次期スター候補として名前が挙がるのは、アラン・ダヴィド・ピカソがせいぜいといったところ。ピカソは確かに好選手ではあるけれど、上述したメキシカン・レジェンドたちとまともに比較できる段階には無く、ネリー同様の過大評価と言わざるを得ず、井上尚弥の好敵手扱いは節足に過ぎる。

今後の動静についてカギを握るのは、全米に大きな影響力を行使するネバダ,ニューヨーク,カリフォルニア3州の判断。3つのうちどれか1州でもサスペンドに動くと、事情は一変してしまう。

ロペスの現在地はあくまで「注目すべき存在」であり、押しも押されもしないビッグネームではないだけに、トップランクとの契約を含めて、一気に雲行きが怪しくなってもおかしくはない。

◎関連記事
<1>Luis Alberto Lopez Suffers Brain Bleed In Knockout Loss To Angelo Leo
2024年8月17日/Boxing News 24(寄稿:ダン・アンブローズ)
https://www.boxingnews24.com/2024/08/luis-alberto-lopez-suffers-brain-bleed-in-knockout-loss-to-angelo-leo/

<2>REPORT: LUIS ALBERTO LOPEZ SUFFERED SMALL BRAIN BLEED FOLLOWING LOSS TO ANGELO LEO
2024年8月18日/リング誌公式(寄稿:ジェイク・ドノヴァン)
https://www.ringtv.com/711464-report-luis-alberto-lopez-suffered-small-brain-bleed-following-loss-to-angelo-leo/

<3>The unlikely success story of Luis Alberto Lopez
2024年8月18日/Boxing Scene(寄稿:ルーカス・ケトル)
https://www.boxingscene.com/unlikely-success-story-luis-alberto-lopez--185454

<4>Griego-Ortega's right hand in a cast; Lopez was treated for a brain bleed
2024年8月25日/Yahoo! Sports(寄稿:リック・ライト/アルバカーキ・ジャーナル)
https://sports.yahoo.com/griego-ortegas-hand-cast-lopez-190100870.html


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そして今、この試合を裁いた主審アーニー・シェリフのレフェリングについて、非難轟々という程ではないが、妥当性を欠いていたとの批判的な意見がネット上に散見される。

Leo_Ernie Sharif

レオが放った左フックのカウンターを浴びたロペスが、背中から仰向けに倒れた際、キャンバスにバウンドして後頭部を強く3回連続的に打ち付けた。ダウンシーンではけっして珍しくないケースではあるが、問題視されているのはその後の対応。

被弾した瞬間にロペスは意識を失っており、完全に昏倒した状態だったのだが、主審シェリフはご丁寧にテン・カウントを数えたのである。



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気絶してしまった、もしくは立てないことが分かり切っている選手に対するカウントアウトは、20世紀のプロボクシング(1980年代前半以前)においては、ごく当たり前の光景と言って差支えがない。ちゃんと10秒数えることで、試合が決着したことを満天下に知らしめる。必要必須なプロセスと考えられた。

「完全なる決着」こそがプロに求められるスタンダードであり、打ち合いから逃げることはプロにあるまじき振る舞いの最たるもので、それこそ最大の恥辱とされたし、優位に立った者は容赦仮借なく止めを刺しに行く。行かねばファンが許さない。臆病者の烙印を押されて、自身のバリューも急落する。

複数回のノックダウンがあって、さらに決定的なフィニッシュブローが叩き込まれた場合、現代と同じく即座にストップしたり、途中まで数えたカウントを止めて終了を宣告することはあったが、倒れた選手の状態にかかわらず、カウントアウトが原理原則。

がしかし、時代は変わった。


世界戦を任されるほどのレフェリーなら、ロペスが倒れるのと同時にストップを合図し、速やかにリングドクターを要請して応急措置を講じるべきだったとの主張で、反論の余地を許さない正論ではある。

勿論、倒れた勢いで後頭部を3回打ち付けたことが、脳出血の直接的な原因だったとの断定は難しいと思われるし、「肉を切らせて骨を絶つ」ロペスのファイトスタイルそのものが、被弾によるダメージの蓄積を常に考慮・懸念しなければならないことも、外形的な判断を一層困難にする。

リング禍により四肢の自由と視力を失い、24時間体制の要看護となったジェラルド・マクラレンのケース(1995年)でも、開頭手術を行ったドクターとそのチームは、ナイジェル・ベンが続けたラビットパンチとの因果関係について、「否定はできない」と述べるに止めていた。

2017年にリング禍の犠牲となり、全身の麻痺と言語機能の重篤な後遺症に苦しむプリッチャード・コロンも、試合で受けたラビットパンチ原因説が流布され、母親が速やかなストップを主審に進言しなかったリングドクターとプロモーターを相手取り、総額5000万ドルを超える損害賠償を求めて告発したが、審理が開始される目処は立たず、解決へ向けて事態が進展する気配も無いとのこと。


蛇足ついでにもう1つ、、少し上に添付した写真をご覧になって、「あっ!、こいつ・・・」とお気づきの方もおられるのではないか。

「この顔にピンときたら~」ではないが、井上尚弥とノニト・ドネアの第1戦、WBSS(World Boxing Super Series)の決勝を裁いたのもこの人だった。

そう、我らがモンスターのKO必至と思われた第11ラウンド、痛烈な左ボディを食らった途端、苦悶しながら背を向けて走り出したドネア。この機を逃してなるものかと追いかけるモンスターを、巨大なお腹で邪魔をするように突き飛ばし、「幻のノックアウト」を演出してしまったあの人物。

Naoya_Donaire_1

今さら解説も無いだろうが、この時主審シェリフは、背後からの加撃を阻止しようとしたに違いない。それ自体は責められる行為ではないが、緩慢かつ曖昧な動作が原因で、我らがモンスターのKO勝ちを妨害しただけに見えてしまった。

では、彼はどうするべきだったのか。簡単である。リチャード・スティールやミルズ・レーンのように、「(ノック)ダウン!」と大きな声を発して走り出し、タイムキーパーに目で合図をしながら、態勢を考慮すれば左腕を真っ直ぐ伸ばしつつ、我らがモンスターの追走を制止すると同時に、ニュートラルコーナーを指差し待機を命じる。

そして、仮にドネアが立ったままだっとしても、素早くタイムキーパーからカウントを引き継ぐ。

「あれっ、スタンディング・カウントは廃止されたんじゃなかったの?」

確かに仰る通りなのだが、スタンディング・カウントを取るケースがまったく無い訳ではない。主審の裁量の範疇という解釈なのか、それとも個別ローカル・ルールの変更なのか、各国・各州コミッション・ルールをつぶさに調べていないのでわからない。

少なくとも主要4団体の試合ルール上は、おそらく「No-Standing eight count」のまま変わっていない筈なので、日本国内の世界戦における判断は「レフェリー・ストップ」になる。


ルール・ミーティングでの確認が不足していて、JBC(日本国内ローカル)ルールとWBA,IBFルールを思わず頭の中で反芻してしまい、一瞬どうすべきか迷った可能性もあるけれど、敵に背中を見せて逃げ出すこと自体が反則なので、一旦「タイム!」と声がけして井上を押し止め、ドネアが立ったままなら反則の注意を与えれば良かった。

現実にはドネアが腹を押さえて座り込む。主審シェリフは、その時点でタイムキーパーと視線を合わせてカウントを開始する。ボディを効かされたドネアが、背を向けて逃げ出したその時に、ダウンを宣言すれば何も問題は無い。

加えて、この審判は本当に駄目だと思った。カウントの間、井上のポジションを一切気にしていない。お話にならない酷さである。

スティールやレーンは、カウントを数えている間もニュートラルコーナーを二度・三度振り返り、コーナーから離れて(近づいて)いないか確認を怠らなかった。事実井上はコーナーでじっとしていられず、思いっきり近くに寄っていたが、この審判はそのままの位置で再開を合図する有様。本来なら井上を一旦下がらせて充分な距離を取り、それから再開を命じなくてはならない。

アケスケに本音を申せば、世界戦を担当させてはいけないレベル。実際にこの審判は、帰国後4~8回戦のアンダーカードばかりを担当しており、いつぞやのラッセル・モーラ(ネバダ州)のように、何がしかのペナルティを受けて修行のやり直しをさせられていたとも考えられる。

世界戦のリングに立つのは、井上 vs ドネア第1戦以来4年ぶり。生年月日と正確な年齢はわからないけれど、元々アマチュアの競技選手だった人で、Boxrecには1983年に1試合だけプロで戦った記録があり(判定負け)、この当時20代だったとすればとっくに還暦を過ぎている。

WBSS決勝戦の時と比べて、少しお痩せになったようだ。パンデミックの間もそれなりにレフェリー業をこなしていて、Boxrecの記録を追う限り、おそらくご病気はされていないとお見受けする。一念発起してダイエットに取り組まれたのかもしないが、本当に余計なお世話でしかないと百も承知で、真剣に引退を検討されるべきなのでは。

録画映像を繰り返し見て、自身の仕事がプロに相応しい水準を維持できているのか否か、冷静に見つめ直すことをお勧めする。

◎井上尚弥 vs ドネア第1戦/第11ラウンド幻のKOシーン(削除済みの可能性有り)
2019年11月7日/さいたまスーパーアリーナ

※ファンが撮影した現地映像(削除済みの可能性有り)
https://www.youtube.com/watch?v=0ek3nu2agPc


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◎ロペス(30歳)/前日計量:125.6ポンド
IBFフェザー級王者(V2)
戦績:33戦30勝(17KO)3敗
アマ戦績:6勝4敗
身長:163センチ,リーチ:169センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎レオ(30歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:26戦25勝(12KO)1敗
アマ通算:65勝10敗
ニューメキシコ州ジュニア・ゴールデン・グローブス,シルバー・グローブス優勝
※複数回のチャンピオンとのことだが階級と年度は不明
身長:168センチ,リーチ:174(175)センチ
※Boxrec記載の身体データ修正(リーチ/カッコ内:以前の数値)
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
Venado Lopez vs Angelo Leo | WEIGH-IN(フル映像)
2024年8月9日/Top Rank公式
https://www.youtube.com/watch?v=QA_KuTtxHcA


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■オフィシャル

主審:アーニー・シェリフ(米/ペンシルベニア州)

副審:1-2でレオを支持(第9ラウンドまでの採点)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州):85-86(レオ)
フェルナンド・ビラレアル(米/カリフォルニア州):85-86(レオ)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州):86-85(ロペス)

立会人(スーパーバイザー):レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州/IBF執行役員)

■オフィシャル・スコアカード
offc_scorecard-S

※清書
offc_scorecard-CRN

※管理人KEI:85-86でレオ
keis_scorecard

◎パンチング・ステータス
■ヒット数(ボディ)/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:142(28)/586(24.2%)
レオ:203(66)/487(41.7%)

■ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:26(3)/162(16%)
レオ:53(6)/137(38.7%)

■強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロペス:116(25)/424(27.4%)
レオ:150(60)/350(42.9%)

※compubox - Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/compubox-punch-stats-angelo-leo-luis-alberto-lopez--185331

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