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2024年07月

ストップの難しさ? /根拠無き竹槍突撃はもうたくさん - 重岡銀次郎 vs P・タドゥラン レビュー 1 -

カテゴリ:
■7月28日/滋賀ダイハツアリーナ,滋賀県大津市/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
IBF1位/元王者 ペドロ・タドゥラン(比) 9回TKO 王者 重岡銀次郎(日/ワタナベ)

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「銀次朗は右眼窩底骨折。ですが元気です。」

試合翌日の午後、ようやく渡辺会長の談話を通じて、銀次郎の無事が報じられた。救急搬送された滋賀県内の病院で精密検査を受け、眼窩底骨折以外に特段の異常は認められず、既に帰京しているという。明日30日には、品川区内の医大病院であらためて検査を行う予定とのことで、「本当に良かった」と胸を撫で下ろす。

◎関連記事
<1>IBFミニマム級王座陥落の重岡銀次朗は右眼窩底骨折
2024年7月29日/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/109313/

<2>【ボクシング】重岡銀次朗が生涯初黒星 試合後はタンカで救急搬送 9回TKOで兄・優大に続き王座陥落
2024年7月28日/スポーツニッポン
https://www.sponichi.co.jp/battle/news/2024/07/28/kiji/20240728s00021000323000c.html


第2ラウンドから腫れ出した右眼の状態(塞がり具合)と戦況、ダメージを勘案すれば、明らかに反応が鈍り、ロープを背負って打たれ出した第6ラウンドか第7ラウンドの終了後に、王者陣営に棄権して欲しかった。と言うより、棄権するべきだった。

記すべきかどうか迷ったが、やはり書かねばならない。23歳の青春をリングに散らした、穴口一輝(故人)の悲劇が、試合終了直後の自軍コーナーで、ガクンガクンと大きく痙攣するように前後に動き続け、自らの意思で制御不能になった穴口の右足が、脳裏に浮かんだまま今も消えてくれない。

想像と想定を遥かに超えるフィジカル・パワーと化け物じみたスタミナ、鋭い切れ味と重さに硬さを併せ持ったタドゥランの休み無い強振を浴びて、為す術無く削られて行く銀次郎を見ているうちに、妙な既視感を覚えて身体がザワっと震えた。

いや、既視感などではない。確かにこれとそっくりの光景を見ている・・・。「あっ!」と思わず声を上げてしまう。荒ぶるメキシカン,ビクトル・ラバナレスのラフ&タフに巻き込まれ、最後は滅多打ちされてストップ負けした辰吉丈一郎(第1戦:1992年9月/大阪城ホール)の姿がオーバーラップする。


最初の眼疾(左眼網膜裂孔)により、丸々1年の休養を経て復帰した辰吉だったが、ラバナレスの猛攻に晒され、宿痾とも言うべき網膜はく離を発症(5ヶ月後の再起戦=2回KO勝ち=を終えた直後に発覚)。

ラバナレスとは1年後に再び相見えて、またもやディフェンスそっちのけの壮絶な乱打戦を繰り広げ、2-1の僅少差判定で何とか雪辱を遂げるも、自らの肉体に抜き差しならない深刻な被害を残す。

複数回の手術を繰り返した辰吉の両眼は、日常生活を大過なく送るという意味において、執刀した主治医が会見で述べた通り、健常者と変わらない水準にまで回復したが、超一流の反応と反射のアビリティは二度と戻ることはなかった。

相手に打たせ(れ)て距離を探り、打ちつ打たれつのブル・ファイトに活路を見出す。それ以外にやりようがなくなった辰吉は、己が肉体の限界を踏み越えてなおも戦い続けようとする、強靭過ぎる精神力によって自らを摩滅させて行く。

逞しく発達した上半身に、スラリと伸びた長い手足。メキシカンを思わせる体型から閃光のような左ジャブを放ち、代名詞として恐れられた左ボディは一撃必倒の威力を発揮。速射砲のように繰り出される多彩なコンビネーションも、芸術の域にまで高められていた。

傑出したスピードに日本人離れした柔軟性と溢れんばかりのボクシング・センス、破壊的な攻撃力まで兼ね備えた不世出の天才が、眼疾によって完全に喪われてしまったのである。


打たれていいことなど、1つも無い。ワールドクラスの高いレベルになればなるほど、ダメージのリスクも増して行くのは自明の理。

王者サイド(ワタナベジム)のコーナーでは、インターバルの都度右眼のチェックを行うのは勿論、意識の明瞭度が低下し始めていることも確認出来ていた筈である。どんなに遅くとも、第7ラウンドを終えたところで決断できなかったことが惜しまれる。

そして、ニューヨークから呼ばれたレフェリーにも、大きな問題,瑕疵を指摘しなくてはならない。陽の東西を問わず、一般的にボクシングのルール上、試合を止める権限を許されているのは、レフェリーとチーフ・セコンド(セカンド/チーフ・トレーナーを指す)だけである。

厳密に言えばマネージャー(プロモーターではない)も含まれるが、海外ではチーフ・トレーナーがマネージャーを兼務する場合が日常的と言えるほど多い。勝敗を決する唯一無二のディシジョン・メイカーでもあるレフェリーと、現場でコーナーの指揮を執るヘッド・コーチにストップの全権を委ねるのが通例だ。

Steve Willis

銀次郎はロープに詰められても、そのまま打たれっ放しになってはいない。タドゥランの打ち終わりにサイドから脱出する判断力と意思+フットワークを残し、戦う姿勢も維持していた。タドゥランを押し返すだけの反撃の効力を失ってはいたが、パンチも打ち返している。ホーム・アドバンテージに対する配慮云々ではなく、確かにレフェリーは止めづらい。

ストップの躊躇に理解を示すことは、辛うじて許容しよう。だが、ドクターチェックが遅過ぎる。何故もっと迅速に要請しないのか。銀次郎の右眼はほとんど塞がり、左眼の瞼と周囲もかなり腫れていた。

それでも、棒立ちで被弾し足下が覚束なくなった第8ラウンドは、レフェリーストップをかけるべきタイミング,状況だったと確信する。ニューヨークから派遣された主審スティーブ・ウィリスが、フラつきながらコーナーに戻る銀次郎に声をかけている。

銀次郎はウンウンと頷いてはいたが、ほとんど条件反射と言ってよく、朦朧としている様子が一目でわかり、危険な領域に差し掛かっていた。そして、ようやくドクターチェックが入る。ストップの進言を期待したが、主審のウィリスがそもそも王者のコーナーに居ない。第9ラウンド開始のゴングが鳴ってしまう。

序盤から試合の展開は一方的で、第8ラウンド終了後のインターバルまでに、少なくとも2回はドクターを要請していて然るべき。早めにチェックを繰り返すことで、選手の命と身体的健康を守るだけでなく、コーナーへの警鐘(速やかな棄権の検討を促す)の意味も含めて、より安全なタイミングでのストップを準備(遅延=重大事故の防止)することにもつながる。


レフェリーたる者、リングドクターの召還を躊躇することなかれ・・・とは言え、ラウンドは進んでしまった。開始間もなく、絶え間なく続く挑戦者の圧力に押されてコーナーに詰められ、上から潰される格好で王者が自ら膝を着く。

すぐに立ち上がれないほど、ダメージは甚大。限界を超えている筈の心身に鞭打ち、何とか立った銀次郎の瞳を暫し見つめ、時間をかけて確認する主審ウィリス。「頼むから止めてくれ!」と念じるも、またも願いは届かず再開。

膝立ちの銀次郎が上体を直ちに起こしたから、ウィリスも止められなかった。もしも頭を垂れて下を向き、数秒間膝を着いたままだったら、流石のウィリスも頭の上で両腕を交差していたと思う。


レフェリーたる者、リングドクターの召還を躊躇することなかれ・・・とは言え、ラウンドは進んでしまった。開始間もなく、絶え間なく続く挑戦者の圧力に押されてコーナーに詰められ、上から潰される格好で王者が自ら膝を着く。

すぐに立ち上がれないほど、ダメージは甚大。限界を超えている筈の心身に鞭打ち、何とか立った銀次郎の瞳を暫し見つめ、時間をかけて確認する主審ウィリス。「頼むから止めてくれ!」と念じるも、またも願いは届かず再開。

膝立ちの銀次郎が上体を直ちに起こしたから、ウィリスも止められなかった。もしも頭を垂れて下を向き、数秒間膝を着いたままだったら、どんなポンコツ・レフェリーでも頭の上で両腕を交差していたと思う。


事ここに至ってもなお、ワタナベジムのコーナーにはタオルを振る(投げ入れる)気配が無い。JBCとJPBAは、総てのレフェリーと日本人トレーナーの再教育をすべきだと信じて疑わない。

世界戦に限らず、地域王座戦でも日本タイトルでもノンタイトルでも、海外から対戦相手を招聘する国際試合の場合は特に、カットや打撲による出血と腫れはもとより、蓄積するダメージを確認する為のドクターチェックについて、レフェリーストップのタイミングとともに、リング・オフィシャルと両陣営に対して、ルール・ミーティングの際にしつこいぐらい注意すべきだ。


地元N.Y.(を中心とした東海岸)での仕事と同様、ウィリスのレフェリングは相変わらず詰めが甘い。そしてこの直後、極めて危険な状況に陥る。

上体を折った低い位置から銀次郎が出そうとした左と、タドゥランが打ち下ろす右が交錯して、そのまま抱え合った状態で固定されると、そのままロープに押し込んだタドゥランは、空いている左の拳を思い切り、連続で6発も銀次郎の顔面に打ち込む。

銀次郎も思い出したように右の拳を上げて防ごうとしたが、もう間に合わない。あろうことか、主審ウィリスはただ見ているだけ。6発殴ったところでようやく間に入った。何というボンクラぶりだろう。

Too much dangerous situation

潰れた右眼にも当たった筈である。背筋が凍るとはまさにこの事だ。「お前はいったい、何をチェックしていたんだ!」と、ウィリスを怒鳴りつけたい衝動にかられる。

日本の良識と心あるボクシング・ファンは、アメリカの審判が総じて優秀だなどと、金輪際考えてはいけない。マーケットの規模が大きい分、審判の人数も増える。玉石混交の割合もアップするのが当然。この際JBCは、「招聘禁止」リストの対象に審判も加えるべきだ。

銀次郎の右眼窩底が、どの時点で骨折したのかはわからない。ただ、腫れ出した第2ラウンドに折れていたとしたら、ここまで戦い方を変えずに持ち応えられるだろうか。この6連打が直接的な原因だと断じるのは早計に過ぎるが、眼窩底骨折は怖い。重篤な眼筋麻痺の後遺症で引退という可能性だってゼロではない。

外傷性の網膜裂孔,もしくははく離(最悪のケース)と、白内障を併発するリスクも十二分にある。今後銀次郎の右眼(左眼も)に何らかの異常が見つかり、辰吉と同様の事態に陥らないと、いったい誰が言い切れるのか。

こんなレフェリーを、二度と呼んではいけない。と言っても、IBFのタイトルマッチは日本国内で今後も開催される。責任回避の事なかれ主義に凝り固まったJBCが、認定団体の人選にあれこれ口を出す筈も無し。ウィリスはまたやって来る。嗚呼・・・。


そしてこの後、幾度か散発のパンチの交換があり、またロープを背負った銀次郎に止めを刺そうとタドゥランが迫ったところで、ボンクラのウィリス(失礼)がやっと止めに入る。コーナーに座らせて応急措置をやってる場合じゃない。さっさと控え室に戻って、リングドクターに診させろとハラハラのし通し。

そうこうしているうちに担架が用意され、コーナーのスタッフに抱きかかえられ、ゆっくりと乗せられる。ほとんど意識を失っているように見えて、気が気ではなかった。


Part 2 へ


◎銀次郎(24歳)/前日計量:104.7ポンド(47.5キロ)
※当日計量:113.3ポンド(51.4キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
戦績:13戦11勝(9KO)1敗1NC
世界戦:5戦3勝(3KO)1敗1NC
アマ通産:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ,リーチ:156センチ
脈拍:58/分
血圧:136/83
体温:36.5℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


◎タドゥラン(27歳)/前日計量:104ポンド(47.2キロ)
※当日計量:114.5ポンド(52.0キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
元IBF M・フライ級王者(V1)
戦績:22戦17勝(KO)4敗1分け
世界戦:5戦1勝(1KO)3敗1分け
アマ通算:約100戦(勝敗を含む詳細不明)
身長:163センチ,リーチ:164センチ
脈拍:48/分
血圧:146/82
体温:36.3℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター

weighin

105ポンドのリミット上限を1ポンドアンダーして、当日朝の再計量(IBFのみ)でも、リミット+10ポンドのリバウンド制限をしっかり守ったタドゥラン。

セカンド・ウェイ・インが終わった後、たっぷり食事を採って水分補給もしっかり行い、リングに上がった上半身はさらに大きくなっていたが、前日計量の時点で両雄の骨格の違いが目に付く。

105ポンドの調整は、加齢とともに加速度的に過酷さを増している筈で、コンディションを考慮した階級アップは意外に早いかもしれない。


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■オフィシャル

主審:スティーブ・ウィリス(米/ニューヨーク州)

副審:第8ラウンドまでのスコア:0-3でタドゥラン
アダム・ハイト((豪):74-78
ジェローム・ラデス(仏):75-77
マッテオ・モンテッラ(伊):74-78

立会人(スーパーバイザー):ベン・ケイティ(豪/IBF Asia担当役員)


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■試合映像
<1>ABEMA公式:第1ラウンドのみ
https://www.youtube.com/watch?v=2qlC-XFO_EA

<2>ファンによる撮影
ttps://www.youtube.com/watch?v=7_YAb6Rl4aE


繰り返される非常識な体重超過・常に主体性が見えないJBC /両国3大世界戦レビュー - 田中恒成の防衛戦は中止  Part 2 -

カテゴリ:
■7月20日/両国国技館/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 田中恒成(日/畑中) vs WBO12位 ジョナサン・ロドリゲス(メキシコ)

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プロボクシングの世界では、単純に勝ち続けてるだけでビッグ・チャンスは巡って来ない。政治力と資金力を併せ持つ大物プロモーターの支配化に入り、主要4団体の下部タイトルを獲得して世界ランキング(二桁台の下位)、何回か防衛戦を消化する。そこで発生する承認料とのバーターで世界ランクを上げて、ランク入りから早くとも3~5年をかけて世界タイトル挑戦に辿り着く。

五輪と世界選手権のメダリストやそれに準ずる成果を得たトップエリートと、アマでの実績は無くても図抜けたパンチ力やスピード、突出したボクシング・センスに恵まれた一握りの天才は別にして、平均的に優れた欧米のボクサーが必要とする出世の道筋である。

例えばアステカTVと深い関係にあるフェルナンド・ベルトラン(プロモシオネス・サンフェル)であったり、カンクンをシマにするオスカー・デラ・ホーヤと近いぺぺ・ゴメス、チワワを仕切るオスワルド・クチュル(父のレジナルドが亡くなった後新たな興行会社を設立/地盤と選手を継承)等々、力のあるプロモーターの傘下に加わらないとなかなかチャンスを得られない。

しかし、コミッションがしっかり機能していないメキシコでは、報酬の未払いや独占的な契約を盾にした飼い殺しに類する根深い問題が解消されず、有力者の支配下選手こなることにも大きなリスクがあり躊躇せざるを得ないと、幾つかのインタビューでマルコ・ロドリゲスは語っている。


例によって、アマチュア経験の有無を含む詳しい経歴は不明。デビューが17~18歳だったことから、仮にアマの選手だったとしてもジュニアに限定されるし、目ぼしい戦果も無かったものと想像できる。

ローカル・トーナメントであったとしても、一定の実績を残して関係者の目を惹いていたら、おそらく有力プロモーターが放っておかない。それなりにバックアップを受けられていたと思う。

スタートから主戦場はS・フライ級で、2年4ヶ月の間に16連勝(11KO)をマーク。12戦目で初の10回戦をこなすと、13戦目で12回戦(ノンタイトル)を経験。順調に修行時代を終えるかと思いきや、テキサスと国境を接するコアウイラ州から呼ばれた中堅選手に1-2の10回判定負け(2018年3月)。

S・フライ~S・バンタムを行き来しながら戦う無名のホセ・マルティン・エストラーダに、伸びかけていた天狗の鼻をへし折られたロドリゲスは、「勝ち続けて調子に乗っていた。練習で手を抜いているつもりは無かったが、気の緩みに気付かされた。慢心していたと思う。」と、初黒星の苦さについて追懐する。


押しも押されもしないメイン・イベンターになるべく、気合を入れ直してトレーニングに打ち込んだとのことらしいが、初黒星から3ヶ月後に組まれた再起戦は、対戦時のレコードが3勝(1KO)17敗のサウスポーを相手に、ウェイト・ハンディ+大幅なリバウンド込み。

珍しくネット上に映像が上がっていたのでご紹介するが、お世辞にもグッドシェイプとは言い難い仕上がり。そして、気になるのが両者の体重。

契約ウェイトが何ポンドなのかはわからず、ロドリゲスがS・フライ級リミット+1.5ポンドの116.5ポンド(52.84キロ)で計量したのに対して、アンダードッグのスニガはS・フライ級リミットを0.5ポンド下回る114.5ポンド(51.94キロ)だった。

戦績が示すように、スニガは白星配給で禄を食む典型的な負け役。求めに応じて、110ポンドアンダーのL・フライ近辺から、112ポンド超のフライ級+αの間で戦っている。バンタム級リミットから1ポンドマイナスの117ポンド、あるいは116.5ポンドの契約だった可能性も当然あるが、いささか無理筋という記がしてならない。

ごく普通に115ポンドのS・フライ級リミット契約で、スニガはそれに合わせて出来得る限りの増量をしたが、初黒星から3ヶ月しか経っておらず、練習不足のロドリゲスが確信犯のオーバーでやり過ごしたのではないか。だったら嫌だなということ。


合衆国制のメキシコは、アメリカと同様各州にコミッションが存在することになっているが、まともに機能していないと聞くことが多い。2000年代の最初の10年間は、タイトルマッチですら計量の誤魔化しが散見された。

規模の小さなローカル・ファイトになればなる程、プロモーターのやりたい放題になっても何ら不思議はない。根拠を明確に示すことができない状況で、ああだこうだと類推を拡げていくのは大間違いだ。百も承知の上で、そうした邪推が脳裏を過る。

一応ロドリゲスの名誉の為に言っておくと、公式計量が記載されていない4試合を除いて、確信犯のオーバーが疑われるのはこの試合のみと考えて良さそう。

直近のイスラエル・ゴンサレス戦も計量結果が未記載だが、幸いにも公式計量の映像が消されずに残っていて、両者ともにジャスト115ポンド。スニガ戦と同じモンテレイでの開催だったけれど、会場は市内でも有数の高級ホテル。

◎参考映像:I・ゴンサレス戦の前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=yWqn12gC78o

メインのプロモーターはマッチルームで、会見や計量も含めてDAZNが配信を行っている。計量に不正があったとは考えられない。

という訳で、映像が残っているスニガ戦を含めて、実力差のある格下を4タテ(3KO)して復調を確認する。

◎試合映像:J・ロドリゲス KO2R エマニュエル・スニガ
2018年6月9日/ヌエボ・レオン州立体育館(Gimnasio Nuevo Leon Unido),モンテレイ
6回戦(契約体重不明)


常識的に考えれば、これぐらい勝ち続けたらローカルタイトルの1つか2つ獲っていてもいいのに、ロドリゲスのレコードにはタイトルマッチの記載が唯の1度も無い。それなのに、WBCが直轄するローカル王座のベルトを両肩にかけている写真がある。

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右腕で支えているのがWBC Facerbox(フェイサーボックス/フェイセルボックス)で、先代のドン・ホセ・スレイマン会長が、メキシコ国内のライセンス管理を徹底する為に設立した筈の組織なのに、いつの間にかローカルタイトルの1つに衣替え。

左の方は、お馴染みのWBCインターナショナル。対戦時点でこれらのタイトルホルダーだった選手は見当たらない。空位の決定戦だったのに、単純に記載漏れしていただけというパターンも有り得るが、念の為これも調べてみた。

ベルトが懸けられてもおかしくないのは、直近のイスラエル・ゴンサレス戦(ドロー)、リング禍に見舞われたフェリペ・オルクタ戦(12回戦)、エデュアルド・ガルシア(名城信男,亀田和毅と対戦したのは同名異人)というローカル・ボクサーとの12回戦(キャリア初/14戦目)、無名選手ジョアン・ゴンサレスとの10回戦(12戦目)といったところになるが、無論のことノンタイトル。

一応、WBC Facerbox、International、International Sliver、Latinoの4タイトルについて、バンタム級とS・フライ級を確認したが、Jonathan Gonzalezの名前は無かった。

本当にこれらのベルトを保持していたら、お膝元のWBCからランキングで冷遇されることも無かった。同じジムで練習するステーブルメイトの中に、ベルトの持ち主(階級を問わず)がいて、撮影の時に拝借しただけかもしれないが。


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◎リング禍を乗り越えて

こうして、22戦目にして初めて名のある選手とぶつかる(2019年6月)。オマール・ナルバエスに2度挑戦して善戦したフェリペ・オルクタが、前(2018)年9月にファン・F・エストラーダに喫した敗北からおよそ9ヶ月ぶりとなる実戦復帰。その相手にロドリゲスが選ばれた。

オルクタは公称170センチの大柄な右ボクサーファイターで、心身のタフネスを武器にしぶとくしつこく駆け引きしながら、ボディアタックを軸に根気良く削って、相手が根負けするまで粘る無骨なアステカ戦士スタイルの典型。

好戦的なロドリゲスとは手が合い、打ちつ打たれつの白兵戦,我慢比べになり、終盤10ラウンドにロドリゲスが連打をまとめてレフェリーストップを呼び込む。いわゆる出世試合になったのだが、終了直後に悲劇が起きる。

リング上で昏倒したオルクタが完全に意識を失い、救急搬送された病院で開頭手術を受け、数日間生死の境を彷徨う。幸いにも意識を回復したオルクタは、6週間の入院加療を経て家族の下に帰還することができた。

ネット上にアップされた試合映像はすべて(おそらく)削除されているが、アクシデントが起きた直後の数分間だけが残っている。
◎ロドリゲス TKO10R オルクタ
2019年6月7日/アズール・イスタパ・ホテル, シワタネホ(ゲレロ州)
S・フライ級12回戦


◎同じ場面を捉えた別映像
<1>Felipe el gallito 0rocuta se conmociona momentos dramaticos
https://www.youtube.com/watch?v=yP8NhCa5Kns

<2>Felipe “Gallito” Orocuta a un ano del incidente en Ixtapa
※ナチョ・ベリスタイン(オルクタのチーフ)のインタビュー有り(スペイン語)
https://www.youtube.com/watch?v=YQqReUG6LS8

米国内なら直ちに担架を要請して、頭部を固定した上で気道を確保しながら速やかに病院に搬送されていた筈だが、何でこんなに時間をかけるのかわからない。ライセンス管理が積年の課題になるほどメキシコはコミッションの機能が脆弱で、そうした事が影響しているのかもしれない。

後遺症となる障害の有無など詳しいことはわからないが、ロドリゲスが一命を取り留めたのは、リング上での応急措置(?)が奏功したと、まったく逆の見方もできないことはないけれども。


※Part 3 へ


◎田中(28歳)/前日計量:114.9ポンド(52.1キロ)
現WBO J・バンタム級王者(V0),元WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:21戦20勝(11KO)1敗
世界戦通算11戦10勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
脈拍;73/分
血圧:112/82
体温;36.3℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター


◎ロドリゲス(28歳)/前日計量:121.3ポンド(55.0キロ)
※2.9キロオーバーで失格。体調不良を理由に再計量を拒否した為、怒り心頭の畑中会長が試合中止を申し入れし了承された。
戦績:28戦25勝(17KO)2敗1分け
身長:165センチ,リーチ:169センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)
<1>田中

<2>ロドリゲス

※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ

◎公開練習(田中恒成)
2024年7月10日/アマプラ公式
https://www.youtube.com/watch?v=dGx6MU6hofM


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◎【無料全編公開】 LIVE BOXING 9 『独占密着 那須川天心第4戦、中谷潤人、田中恒成、加納陸出場トリプル世界戦直前SP』|プライムビデオ
2024年7月6日/アマプラ公式


繰り返される非常識な体重超過・常に主体性が見えないJBC /両国3大世界戦レビュー - 田中恒成の防衛戦は中止 Part 1 -

カテゴリ:
■7月20日/両国国技館/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 田中恒成(日/畑中) vs WBO12位 ジョナサン・ロドリゲス(メキシコ)

Kosei Tanaka

「ジェシー・ロドリゲス,フェルナンド・マルティネスとの統一戦が実現するまで、防衛戦を勝ち続けます!」

挑戦者の有り得ない体重超過(このみっともなくも情けないフレーズをいったい何度繰り返せば良いのか)により、防衛戦を棒に振ることになった田中恒成が、本番のリングに上がって試合中止を謝罪した上で、どんなに不利と見られようとも、115ポンドの統一に向かって突き進むと宣言。

田中の入場を暖かく迎え入れた満員の観客も、当たり前のように大きな歓声でそれに応えたのだが、田中がわざわざロドリゲス本人に会いに行ったと明かしたことに驚いた。中止に至った経緯がはっきりしないまま、国技館で話をする訳にはいかないと考えたようである。

2.9キロオーバー(55キロ/S・バンタム級)が判った時点で、本来四の五の言ってる場合じゃないし、中止は当然の筈・・・なのだが、例の山中 vs ネリーの再戦を筆頭に、何故かそうはならないことも珍しくないのがボクシング界。まず試合をキャンセルせざるを得なかった理由について、田中は報道発表された通りの内容を説明した。

「(ロドリゲスは)体重超過だけでなく、体調不良で試合ができる状態ではなかった。」

「2階級も体重が上の相手と戦わせることはできない、との畑中会長の判断。」

「来日する外国人ボクサーがリミットをオーバーしても、なし崩し的に試合をやってしまう。これ以上舐めらない為にも中止にした。」


1番目と2~3番目の説明には、若干の食い違い,齟齬があるけれど、それには後段で触れる予定。
◎前日計量


◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc


世界タイトルマッチの中止は、とりわけボクシング・マーケットが1970年代半ば以降、つるべ落としのごとく縮小の一途を辿り続けてきた我が国においては、それぐらい難しいという話である。

今回の興行を仕切るのは業界最大手の帝拳であり、世界戦が3つ組まれていた上に、メインは中谷潤人とアストロラビオのバンタム級タイトルマッチ。田中の試合がセミ格だったことが幸いした。

これがもしも、田中の防衛戦をオオトリに据えた畑中会長の手掛ける自主興行で、「名古屋近辺での開催+地元地上波のCBCが全面的にバックアップ」だったとしたら、果たしてどうなっていただろう。ロドリゲスが何キロで計量していようが、キャンセルできなかった可能性が高いと見る。


ハナからリミットを作る気など無かった。大幅なウェイトオーバーを追い風に、あわゆくば4階級制覇王者に勝ったという既成事実を手にできるかもしれない。もともと分が悪過ぎるマッチメイクで、負けて当然のアンダードッグ。結果がどうであれ、悪くない報酬と観光も付いて来る・・・。

こいつら、適当な言い訳を並べてるだけなんじゃないのか。本人の口から直接事情を聞かないと、田中自身到底承服できなかったのも確かだと思う。にしても、田中本人がスペイン語の通訳を連れ立って(いた筈)、ホテルにいるロドリゲスを直撃しての直談判を、本田・畑中両会長がよくぞOKしたものだと感心する。

何だかんだ言いながらも、この点だけは前向きな評価に値するし、旧態依然とした日本のボクシング界も、歩みは遅くごく僅かづつではあるが、じりじりと動いていると実感できたのは救いだった。


そして田中が直に確認したロドリゲスの言い分は・・・。

「4階級制覇の偉大な王者を倒して世界チャンピオンになる。本気でそう考えていた。それがこのような事になって、リングに立つことすらできない。本当に申し訳ない思いで一杯だ。幾ら詫びても詫び切れない。」

「プロとして恥ずべき事態を招いた。3歳になる娘の父(もう1人男の子がいる)として、1人のプロボクサーとして、この試合に関わったすべての人々に顔向けができない。」

あくまで不測の出来事であり、確信犯のウェイトオーバーではなかったのだと、計量後にチームを代表して囲み取材に応じたプロモーターを名乗るパコ・ダミアンなる人物の主張(詳細は後述)の繰り返し。

「パコ・ダミアン?」

どこかで聞いたことがあるぞと、モヤっとした記憶を解きほぐしながら黙考およそ2~3分。「あっ!」と思い当たった。今年2月、今回と同じ国技館で田中と相まみえたクリスティアン・バカセグアに帯同していたじゃないか。

team_Bacasegua
※左から:アルベルト・ベガ(チーフ・トレーナー),バカセグア,パコ・ダミアン

Paco_Damian_scale
※左:N.Y.ヤンキースのキャップを被ったダミアン/右:全裸で秤に乗るロドリゲス(右隣に立ち測定値を確認しているのが畑中会長)

バカセグア戦で帝拳(2月の興行も仕切りは本田会長)との繋がりは出来ていた。仕事に対する一定の評価と信頼もあった筈で、交渉もまずまずスムーズに運んだものと推察する。がしかし、折角の関係にも大きな傷を残すことになってしまった。

田中のyoutubeチャンネルに何かアップされるかもしれないと、記事を書きながら待っていたら、試合当日のやり取りをそのまま録画したものと、事後の感想を聞く2本が公開された。

アポイントの段階で、撮影と公開についてロドリゲス陣営の承諾も得ていたのだろうが、出しても「事後の感想」だけだと思っていたので、少し驚いた。閉鎖的かつ典型的な、村社会型組織と表すべき我が国ボクシング界において、これはエポックな出来事と言っていい。

ロドリゲス陣営も良く引き受けたものだ。非常識な体重超過で試合を中止にした当の本人を含むチーム全員が面会に応じて、多少の編集は入っているのだろうが、動画配信サイトにアップするなんて、情報公開に関する限り、日本が遥かに後塵を拝するアメリカでも見聞きしたことがない。

精神的なダメージと体調不良を理由に断るのが当たり前で、宿泊先のホテル以外のクローズドな環境を確保できる場所(例えば東京ドーム内にあるJBC事務局)を指定し、プロモーターのダミアン氏1人が応じるのが精一杯だと思う。

◎相手陣営との”怒りの”対談(田中の公式チャンネル)


◎対談の”裏の裏側”について話を聞いた
https://www.youtube.com/watch?v=zuA0qQUl-vw


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では、実際にロドリゲスの実力はどんなものなのか。「タイタン(Titan:スペイン語の発音はティタン)」というニックネームは、神話に語り継がれる巨人ではなく大物と訳した方が良さそうだが、ご大層なあだ名が泣き出すに違いない、確信犯の体重オーバーを平気でやらかすチンピラボクサーなのだろうか。

2015年の夏に4回戦でデビューしたプロ9年生。メキシコの丁度真ん中の辺りに位置するサン・ルイス・ポトシという人口70万超の大都市(同名の州の州都/標高1,850メートルの高地)に生まれ育ち、今も生活と活動の拠点にしている。

世界を伺うメキシカンらしく、相手の正面に立って駆け引きしながらプレスをかけて、ジャブ,ワンツー,ボディの連携で崩す正攻法のボクサーファイター。メキシコのトップクラスには昨今比較的珍しくなった、L字に近い構えを好む。

左(上下)を出し易くする意味もあるのだろうが、相手のレベルが上がると確実にディフェンスの隙が拡大する。いきなりの右や、振りの大きい強振を多用する傾向があり、メキシコ伝統のボディ&ステップワークの基本も習得はしているが、筋力に頼った打ち方なので上体が硬くなりがち。必然的に打たれると効き易く、後半~終盤のスタミナにも影響する。

手足&身体のスピードは今1つ。アンカハスに及ばなかったのも、スピード&シャープネスで遅れを取ったことが最大の要因。正対して同じテンポで駆け引きしている間はいいが、アンカハスの瞬間的な踏み込みやステップの切り返しに反応し切れなかった。

一目で遅いという程ではないが、ベストシェイプの田中の比ではなく、無駄に真正面から打ち合う悪弊さえ自制できれば、問題なく大差の判定で防衛成功。

ジャブとカウンターの精度、左ボディのタイミング次第でKO(TKO)も有り得ると思うけれど、バカセグア並みにタフではある為、判定決着の公算が大だったと思う。直前のオッズが圧倒的な差になったのは、低いランキングだけが理由ではない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
田中:-900(約1.11倍)
ロドリゲス(メ):+550(6.5倍)

<2>betway
田中:-1000(1.1倍)
ロドリゲス(メ):+550(6.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
田中:1/10(1.1倍)
ロドリゲス(メ):11/2(6.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
田中:1/9(約1.1倍)
ロドリゲス(メ):6/1(7倍)
ドロー:22/1(23倍)


すっとメキシコ国内のローカル・ファイトで戦い続けてきたが、2020年以降チーフ・トレーナーとしてチームをまとめるマルコ・ロドリゲス(血縁関係は無し)によると、「プロモーターに恵まれなかったことが、キャリアアップを妨げた最大の原因」だという。

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※左から:マルコ・ロドリゲス(トレーナー),ロドリゲス本人,ロベルト・サラスア(ロドリゲスを直接保有するプロモーター:ダミアンとの関係,契約内容や役割分担等不明)

メキシコも日本と同様、ボクシングを中継する地上波TV局(アステカTV・テレビサ等)と直接契約するプロモーターは限られた有力者のみで、TVで売り出す為には、それなりの政治力と資金力を持ったローカル・プロモーターを介して、TV局の窓口となっている有力プロモーターと交渉する必要があるが、そうしたローカル・プロモーターはほとんどいないらしい。

この点も、帝拳グループ以外にアメリカとメキシコを中心とした北米のマーケットと直接交渉できるプロモーターが存在しない我が国と共通する。井上尚弥を直接保有する大橋会長でさえ、ボブ・アラムやオスカー・デラ・ホーヤ,エディ・ハーン,アル・ヘイモンらとの直接交渉は行わず、帝拳の仲立ちでトップランクと共同プロモート契約を結んでいる。

高齢の本田会長(76歳)が浜田剛史代表(63歳)に全権を委譲して完全に隠居するか、もしくは天に召された後、このパワーバランスがどう変化して行くのか。そこは国内のマニアにとって、見逃すことのできない権力闘争になる。


そうした意味において、エディ・ハーン率いるマッチルーム・ボクシングの日本進出宣言と、スペインを代表するスター選手イニエスタをJ1ヴィッセル神戸に仲介したNSN(Never Say Never:スポーツ・マネジメント企業),楽天チケットがパートナーシップを結び、ボクシング界の窓口として亀田興毅が登場したのは、業界のヒエラルキーに楔を打つ驚くべき展開だった(個人的には驚天動地と言いたい)。

天皇と呼ばれた先代本田明会長の御世から、延々と続く帝拳による支配体制もどうかと思う。がしかし、幾ら何でも亀田は無い。どう考えても超特大のミステイクとしか思えなかった。

だから、亀田興毅が手掛ける興行でトラブルが相次ぎ、マッチルームの一時撤退(仕切り直し)が報じられた時には「ああ、そうだろうな」と安心したのも束の間、亀田シンパの姿勢を一貫して変えない渡嘉敷会長が共同主催者となり、7月15日に第1回目の興行が行われている。

渡嘉敷会長と同じく、業界内では亀田擁護派の筆頭格と目されるワタナベジムでマネージャーを務めた後、亀田一家が興した「3150ファイト」に移った深町信治氏が、イベントの総合プロデューサーに収まっていることから、二枚腰・三枚腰の亀田一家らしく、転んでもタダでは起きない。本件については、いずれ記事をアップする予定。

閑話休題。メキシコ国内の話に戻る。


Part 2 へ


◎田中(28歳)/前日計量:114.9ポンド(52.1キロ)
現WBO J・バンタム級王者(V0),元WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:21戦20勝(11KO)1敗
世界戦通算11戦10勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
脈拍;73/分
血圧:112/82
体温;36.3℃
※計量時の測定
右ボクサーファイター


◎ロドリゲス(28歳)/前日計量:121.3ポンド(55.0キロ)
※2.9キロオーバーで失格。体調不良を理由に再計量を拒否した為、怒り心頭の畑中会長が試合中止を申し入れし了承された。
戦績:28戦25勝(17KO)2敗1分け
身長:165センチ,リーチ:169センチ
右ボクサーファイター

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)
<1>田中

<2>ロドリゲス

※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ

◎公開練習(田中恒成)
2024年7月10日/アマプラ公式
https://www.youtube.com/watch?v=dGx6MU6hofM


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◎【無料全編公開】 LIVE BOXING 9 『独占密着 那須川天心第4戦、中谷潤人、田中恒成、加納陸出場トリプル世界戦直前SP』|プライムビデオ
2024年7月6日/アマプラ公式


ルディの秘蔵っ子が初載冠へ /両国3大世界戦 2 - T・オラスクアガ vs 加納陸 ショートプレビュー -

カテゴリ:
■7月20日/両国国技館/WBO世界フライ級王座決定12回戦
WBO3位 トニー・オラスクアガ(米) vs WBO2位 加納陸(大成)


拳四朗との激闘(昨年4月/9回TKO負け)が未だ記憶に新しい、ルディ・エルナンデスの秘蔵っ子トニーが、本来の階級に戻して2度目の世界戦に臨む。

同じルディの指導とサポートを受ける中谷とは、ステーブル・メイトの枠を超える親友として知られており、昨年9月の再起戦に続く2度目の共宴。3戦連続での日本のリングとあって、すっかり馴染んだ様子。

好戦的な本格派のボクサーファイターで、デビュー前から逸材との評判で持ちきり。それでも6戦目での拳四朗挑戦は、無理が有り過ぎると思われた。

当初拳四朗は、当時のWBO王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との3団体統一戦を行う筈だったのだが、WBO王者が急病を理由にドタキャン。大勝負が流れただけでなく、代役として手配した13位のランカーもビザの発給が間に合わず、アンダーで出場予定のオラスクアガが断れば、事実上のメイン・イベント(井上拓真 vs リボリオ・ソリスとのWメイン)が潰れてしまう。

帝拳サイドは、絶頂期を迎えた拳四朗に負けても大きな傷にはならないと判断。ゴンサレスを想定して準備をしてきた拳四朗にとっても、タイプがまったく異なるオラスクアガとの対戦には小さからぬリスクはあったが、オオトリの責任感を優先した。


そして拳四朗はやはり強く、オラスクアガは9ラウンドでストップされたが、プロ6戦目とは思えない完成度の高いボクシングを披露。想像以上の善戦で、陣営の思惑通り評価&認知を大きくアップ。

5ヶ月のスパンを開けて再来日。中谷 vs A・コルテス,拳四朗 vs H・バドラーのセミで、比国のローカル・トップ,ジーメル・マグラモ(中谷とWBOフライ級王座を争い8回KO負け)との復帰戦に、多くの日本のファンが注目する。

ところが・・・。

S・フライ級の契約ウェイトが影響したのか、拳四朗戦のダメージが十分に抜けていなかったのか、オラスクアガの状態は非常に悪く、いかにも重い身体を引きずるようなスローな動きで、パンチにもスピード&キレが皆無。

マグラモは特に変わったところはなく、普段通りの仕上がりなのだが、反応も鈍っているオラスクアガが再三危ない貰い方をする。ヒヤヒヤもので正視していられない。「判定負けがあるかも・・・」と、あらぬ心配をしながら中盤を折り返すと、それまでと同じ流れで一進一退の打ち合いになった第7ラウンド、ロープ際まで後退したマグラモとフックの応酬になり、相打ちの右フックがマグラモの顔面をクリーンヒット。

グラリと左方向に身体を傾けたマグラモを見て、主審の中村がストップを宣告。完全に効いていた為、TKOは妥当な裁定ではあったが、止められたマグラモは「まだやれる」と一瞬戸惑いを見せていた。

◎試合映像
<1>オラスクアガ TKO7R G・マグラモ
2023年9月18日/有明アリーナ(S・フライ級10回戦)
https://www.youtube.com/watch?v=GVHXdG5PQ5g

<2>拳四朗 TKO9R オアラスクアガ
2023年4月8日/有明アリーナ
WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=7eoh6f-wST8

<3>オラスクアガ TKO1R マルコ・サスタイタ(米)
2022年10月14日/セネカ・ナイアガラ・リゾート&カジノ, N.Y.州ナイアガラ・フォールズ
WBAフェデラテンフライ級タイトルマッチ10回戦



不出来の極みと評すべきマグラモ戦から10ヶ月。あらためてのテストマッチをやらずに、いきなり世界戦に雪崩れ込んでも大丈夫なのか。拳四朗戦と同等の仕上がりなら、WBA王者ユーリ阿久井政吾(倉敷守安)を含む邦人フライ級の誰とやっても、むざむざ名をなさしめることは無い筈。

しかし、酷過ぎたマグラモ戦から1年近くが経ち、付いて回るコンディショニングへの不安をどうしても払拭することができない。微妙なマージンに落ち着いたオッズにも、身銭を賭けるマニアたちの揺れる心(?)が見え隠れする。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
オラスクアガ:-300(約1.33倍)
加納:+250(3.5倍)

<2>betway
オラスクアガ:-357(約1.28倍)
加納:+250(3.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
オラスクアガ:3/10(1.3倍)
加納:5/2(3.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

<4>Sky Sports
オラスクアガ:1/3(約1.33倍)
加納:14/5(3.8倍)
ドロー:25/1(26倍)


約3倍のアンダードッグとなった加納陸(かのう・りく)は、今を去ること10年前、2013年の暮れにフィリピンへ渡り、弱冠15歳でのプロ・デビューが話題となった兵庫県出身のサウスポー。同門の同い年だった服部海斗(はっとり・かいと)も行動を共にして、1歳年上のデビュー2戦目の比国人と4ラウンドを0-1で引き分ける。

加納は、負け越しとは言え既に8戦を経験していた地元の無名選手と戦い、無念の4回1-2判定負け。敵地の真っ只中で、同じミニマム級で実戦のリングに登り、いきなりプロの洗礼を浴びることになった。その後タイへ活動の拠点を移し、2014年12月までの2年間に7戦5勝(3KO)1敗1分けの戦績を残して帰国。

一緒に渡航した服部海斗は、突然の病に倒れて緊急入院。骨髄性白血病と診断され、17歳の青春を散らす。TV大阪が2人の軌跡を追うドキュメンタリーを制作するなど、あくまで関西中心ではあったが、ボクシング・ファンの強い関心を惹く。

◎「海と陸・16歳のプロボクサー」
https://www.tv-osaka.co.jp/sp/nameless_hero_another/


17歳の誕生日を待ってJBCライセンスを取得(当時の規定)すると、加納は大成ジムから正式に国内デビュー。以来、「三田(さんだ:兵庫県三田市)から世界へ」をキャッチフレーズに戦い続けてきた。

U-15全国大会での優勝経験を持ち、フィリピンとタイで実戦を経験した加納は、国内5戦目で世界挑戦経験のあるメルリト・サビーリョ(比)を2-1の判定に下して、105ポンドのWBOアジアパシフィック王座を獲得(2016年5月)。

余勢を勝って3ヶ月の2016年8月、国内最軽量で長らく第一人者として君臨する高山勝成(仲里:当時の所属ジム)と、空位のWBO王座を懸けて対戦。加納が勝てば、井岡弘樹が持つ国内最年少奪取記録(18歳9ヶ月10日)を、6日短縮する新記録(18歳9ヶ月4日)となることことから、地元三田市での開催(駒ヶ谷公園体育館)と相まって注目を集めるも、偶然のバッティングで高山が古傷の瞼をカット。

第6ラウンド終了後の負傷判定となり、ベテランの高山が3-0のユナニマウス・ディシジョンを得る。番狂わせの載冠は成らなかった。


この後2018年の夏まで105ポンドに留まったが、小野心(ワタナベ)の日本タイトルに挑戦して8回TKOに退き、同年12月の復帰戦で108ポンドに増量。WBCユース,WBOアジア・パシフィック王座を獲得したが、武漢ウィルス禍による停滞を経て、2022年にフライ級に進出。

同年9月に井上夕雅(真正)を12回3-0判定に下し、WBOアジア・パシフィック王座を2階級制覇。さらに昨年4月、亀山大輝(ワタナベ)の挑戦を受けて激闘を展開。三者三様のドローで辛くもベルトを守っている(6月12日付けで返上)。

12月10日のエディオン・アリーナ興行(第2競技場/メインは石田匠)に出場して、タイ人とのチューンナップを2回TKOで難なく終わらせ、世界タイトルに照準を合わせた。

そして今年4月、エディオン・アリーナ(第2競技場)でのシリーズ興行に参戦が決まるも、ジェシー・ロドリゲスの王座返上により、WBOがオラスクアガとの決定戦を通告。4月の試合をキャンセルして、本格的なトレーニングに専念する。


◎ファイナル・プレス・カンファレンス


※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ


お互い正統派のクリーンなボクシングを身上にしていて、変わったことはやらない。左右の違いはあれど攻防は良くまとまっている。スピード,パワー,テクニックのいずれにおいても、突出したアビリティがある訳ではないが、細かい崩しを厭わず総合力で戦況を切り開く。

そうなると、すべての要素について上回るオラスクアガが優位に立たざるを得ない。問題はトニーのコンディション。万全なら判定まで粘れるかどうか。加納が最終ラウンドまで立っていられたら、上首尾と称されるべき。


◎オラスクアガ(25歳)/前日計量:111.3ポンド(50.5キロ)
戦績:7戦6勝(4KO)1敗
アマ通算:23戦22勝1敗
身長:163(167)センチ,リーチ:175センチ
※Boxrec記載の身長が大きく変わった/164.5センチの拳四朗とどっこいだったから、167はサバを読んでいたのかもしれない
※以下計量時の測定
脈拍:62/分
血圧:128/75
体温:35.7℃
右ボクサーファイター


◎加納(26歳)/前日計量:111.8ポンド(50.7キロ)
元WBOアジア・パシフィックフライ級(V1/返上),元WBOアジア・パシフィックJ・フライ級(V1/返上),元WBC L・フライ級ユース(V0/返上).元OPBFミニマム級暫(V0/返上),元WBAアジアミニマム級(V0/返上)王者
戦績:28戦22勝(11KO)4敗2分け
身長:162センチ,リーチ:167センチ
※以下計量時の測定
脈拍:60/分
血圧:114/85
体温:35.4℃
左ボクサーファイター


◎前日計量


◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc


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■オフィシャル

主審:ホセ・リベラ(プエルトリコ)

副審:
ルイス・ルイス(プエルトリコ)
リシャール・ブルアン(カナダ)
エドワルド・リガス(比)

立会人(スーパーバイザー):レオン・パノンチーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)


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■アマゾン・プライムで無料配信(午後6時~)

2024 那須川天心ボクシング第4戦、中谷潤人・加納陸 世界戦

◎【無料全編公開】 LIVE BOXING 9 『独占密着 那須川天心第4戦、中谷潤人、田中恒成、加納陸出場トリプル世界戦直前SP』|プライムビデオ
2024年7月6日/アマプラ公式




充実期を迎えた三冠王に鋼(はがね)の男が挑戦 /両国3大世界戦 1 - 中谷潤人 vs V・アストロラビオ ショートプレビュー -

カテゴリ:
■7月20日/両国国技館/WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBC1位 ヴィンセント・アストロラビオ(比)



想定を上回る一方的な展開で、ドネアに完勝したメヒコの新たな雄,アレハンドロ・サンティアゴを破壊してから早や5ヶ月。迎えた初防衛戦は、ランク1位との指名戦になった。

4月20日更新(23日発表)のリング誌P4Pランキングで10位に入り、5月と6月に行われた2回づつの更新でも圏外に落ちることなく現状を維持。主要4団体の王座を日本が独占するバンタム級で、こちらも評価を爆上げ中のWBA王者,井上拓真(大橋)を抑えて、クラス最強の呼び声は高まる一方。

敢えて不安要素を探すなら、唯一ウェイト・コントロールしか有り得ない。今回も無事計量をクリアはしたものの、血圧(109/78=前回:106/70)と体温(35.7℃=前回:36.3℃)の数値の低さは、精気を欠いた土気色の顔色ともども、118ポンドに上げてもなお、減量の過酷さがさほど改善されていないことを示唆している。

脈拍(76/分=前回:81/分)については、もともとスポーツ心臓ではないというだけで、余計な心配をする必要はないと思うけれども。


左の決定力に翳り無し。圧巻の破壊力を誇る豪砲は、3つ目の階級でも変わらぬ威力を発揮。西岡利晃のモンスター・レフト、山中慎介のゴッド・レフトに優るとも劣らない。メヒコの小型ラッシャーをし止めた返しの右も切れ味を増して、勢いと安定感もいや増すばかり。

◎試合映像:中谷 TKO6R サンティアゴ(ハイライト/Top Rank公式)
2024年2月24日/両国国技館
WBC世界バンタム級王座決定12回戦


だとしても、直前のオッズは流石に開き過ぎてやしないか。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
中谷:-2500(1.04倍)
アストロラビオ:+1000(11倍)

<2>betway
中谷:-2500(1.04倍)
アストロラビオ:+900(10倍)

<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/25(1.04倍)
アストロラビオ:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
中谷:1/20(105倍)
アストロラビオ:14/1(15倍)
ドロー:33/1(34倍)

ファイナル・プレッサーでは記者の質問に対して井上拓真の名前を挙げ、統一戦への抱負を述べていた。P4Pランク入りを果たしたことで、さらなる階級アップ+モンスターとのマッチアップへの期待に拍車がかかる。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)

※ファイナル・プレス・カンファレンス(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=V6L9QXkR_nQ

今月10日行われた公開練習は、あくまで見せる為の動きに止めていた為、本当のところはわからないけれど、まずまず上首尾の仕上がりではないか。

◎中谷公開練習(デイリースポーツ)



「アセロ(Asero:スペイン語で鋼鉄)」の異名を取るアストロラビオは、ジャブ,ワンツーからセットアップする右構えの正攻法。意表を突くフェイントやムーヴは少なく、同じリズムとテンポで波状攻撃を続ける上、ディフェンスにも相応に穴がある。

ニックネームに違わず、軽量級としては高いKO率(73%超)を誇るが、パワーはともかく、一撃で倒し切れるほど精度は高くない。中谷にとって組し易い相手だと、多少見くびられても致し方のない面はある。

バンタム級としては平均的なサイズに収まり、タイの大ベテラン,ナワポンとのエリミネーターでは、ワンパターンな正面突破の繰り返しが目立ち、大柄でタフなナワポンに力負けして持て余し、ロープに押し込まれて防戦に回らざるを得ず、想定外(?)の苦境に追い込まれている。

モロニー戦から3ヶ月のスパンに無理があったのか、正直イマイチの感が拭えなかったけれど、首都バンコクに乗り込んだ完全アウェイを考慮すれば、拮抗した厳しい戦況の中で何とかスタミナを温存して、11ラウンドに右の相打ちで決定的なダウンを奪い、レフェリーストップを呼び込んだ集中力は賞賛されていい。

ナワポンは昨年大晦日の興行に呼ばれて、比嘉大吾に4回でフィニッシュされたが、アストロラビオ戦に続く連続KO負けは、14年に及ぶ歴戦の疲労が顕在化したとの印象。


中谷が労せずして制空権を握り、早々と左の一撃を効かせて終わらせる。あるいは積極的に距離を潰して、得意のショートアッパーでアストロラビオのガードを割り、たたらを踏ませて止めの左を叩き込む。

楽観的かつ安直に過ぎる見立てではあるが、そんな展開をついつい想像してしまいがち。それほど両者の力の差は大きいと、多くのファンが考えたとしても無理からぬ話ではある。

ただし、好調時のスピード&シャープネスはかなりの高水準。前戦のサンティアゴを易々と凌駕する。老いたりとは言え、あのリゴンドウからダウンを奪って1ポイント差の3-0判定をもぎ取り(出世試合)、ジェイソン・モロニー(豪)とのWBO王座決定戦でも、五分の勝負を繰り広げた。

気合を入れてしっかり準備した時のアストロラビオは侮れない。甘く見ると痛い目に遭う。まさしくリゴンドウがその典型だと、頭から決め付けるつもりは毛頭ないが、ちょっといい線いってるフィリピン人アンダードッグ程度の認識だったと思う。

◎アストロラビオ公開練習(デイリースポーツ)



フィリピン国内のローカル・ファイトを取り仕切り、アストロラビオを鍛え上げてきたマネージャー兼トレーナーのノノイ・ネリは、元々パッキャオのチームで働いていた人物で、フレディ・ローチの隣で名物的存在感を発揮したブボイ・フェルナンデスとともに、8階級制覇の英雄を支えた重要なスタッフの1人。

リゴンドウ戦のアップセットを認められ、パッキャオが興したMPプロモーションズと正式契約を結び、PBC(Premier Boxing Champions)参戦への道が開けた。

海千山千のノノイのことゆえ、中谷の左への警戒は抜け目なくやってくるだろうが、ブロック&カバーとヘッドムーヴの強化に止まるのか、それともステップにさらなる磨きをかけて、距離のコントロール(細かく丁寧な出入り)で対抗して来るのか。

前者だけなら、それほど苦労はしない筈。だが、後者を混ぜて鋭いジャブ,ワンツーを主体に動かれると、思いのほか厄介な状況になるかもしれない。


◎試合映像
<1>アストロラビオ TKO11R ナワポン
2023年8月26日/ スアンルム・ナイトバザール,バンコク(タイ)
WBC世界バンタム級挑戦者決定12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=FA4FkhHVpF0

<2>J・モロニー 判定12R(2-0) アストロラビオ
2023年5月13日/アドヴェンティスト・ヘルス・アリーナ,カリフォルニア州ストックトン
※Top Rank公式ハイライト
https://www.youtube.com/watch?v=mX2PWMTX4d4

※フルファイト
https://www.dailymotion.com/video/x8l6hh5

<3>アストロラビオ 判定10R(3-0) リゴンドウ
2022年2月26日/ドバイ・マリーナ,ドバイ(UAE)
WBCインターナショナルバンタム級王座決定10回戦

※フルファイト(現地撮影映像)
https://www.youtube.com/watch?v=gTVx9EX_32k


勝利が揺らぐようなことはないと信じるが、何しろ油断は禁物。もしもステップをふんだんに使って出入りしてきたら、闇雲に距離を詰めに行かず、スピードを意識したジャブで刺し負けないことが大事になる。

果敢に前に出て強打を振るい、左へのスイッチも込みで奮闘するフランシスコ・ロドリゲス・Jr.とのS・フライ級初戦(ノンタイトルのテストマッチ)では、メキシカン・ファイターの出足を止めるジャブが無く、揉み合い上等の密着を許して苦しんだ。

バッティングによる出血に見舞われたアンドリュー・モロニー(豪)とのタイトルマッチ、ジャブが上手くて煩いモロニー対策の必要性から、目に見えて修正・改善された右リードは、最終ラウンドのドラマティックな幕切れを演出する重要な役割を果たし、タフでしぶといアルヒ・コルテスとの防衛戦でも、距離とペースの掌握に大きな力を発揮した。

身長160センチに満たないサンティアゴには、ロング・ディスタンスのワンツーはとりわけ有効だったが、”効かせるジャブ”ではなく、いわゆるストッピング・ジャブ(そんなもの存在しないとの主張も最近はあるらしいが)、左を決める為の”水先案内”の域を出ないのが惜しまれてならない。


ロドリゲス,コルテスのメキシカン2人(とサンティアゴも)が露にした、中谷最大のウィークネス。強引にくっつかれて強打を振り回されると、必要以上にバタついてしまう。強振に強振で対応してしまい、オフ・バランスを招いて被弾のリスクが増大する。

アストロラビオの本領はラフ&タフにはなく、注意すべきは丁寧な出入りとの認識ではあるが、断崖絶壁まで追い詰められた拍子に、大きな山猫を噛む荒ぶる窮鼠に変身する恐れがゼロとまでは言えない。

”ハードジャブの開眼”に叶わぬ期待を寄せつつ、中盤~後半にかけての綺麗なフィニッシュで怪我無く終えて、是非とも年末にもうひと勝負を。


◎中谷(26歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
現WBCバンタム級王者(V0),前WBO J・バンタム級(V1/返上),前WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:27戦全勝(20KO)
世界戦:6戦全勝(5KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:172センチ,リーチ:170センチ
※以下計量時の測定
脈拍:76/分
血圧:109/78
体温:35.7℃
左ボクサーパンチャー


◎アストロラビオ(27歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
戦績:23戦19勝(14KO)4敗
身長:165センチ,リーチ:166センチ
※以下計量時の測定
脈拍:83/分
血圧:128/84
体温:36.4℃
右ボクサーファイター

◎前日計量(Top Rank公式)


◎前日計量(アマプラ公式:フル)
https://www.youtube.com/watch?v=hWuuj-UUNvc


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■オフィシャル

主審:トーマス・テーラー(米/カリフォルニア州)

副審:
マイケル・テイト(米/フロリダ州)
クリス・ミリオーレ(米/ネバダ州)
ホセ・マンスール(メキシコ)

立会人(スーパーバイザー):マウリシオ・スレイマン(メキシコ/WBC会長)

※スレイマン会長が直々に来日。先代のドン・ホセは、辰吉の試合に何度か臨席(日米両方)して華を添えてくれたが、”ポスト・モンスター”の最右翼と目されるまでになった中谷を、WBCもはっきり次期スターとして認知した。


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