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2024年01月

倒せないキックの天才児 /狂っているのはどちらの感覚・・・? - L・ロブレス vs 天心 プレビュー -

カテゴリ:
■1月23日/エディオン・アリーナ大阪,大阪市浪速区/121ポンド(54.8キロ)契約8回戦
WBA・WBO14位 ルイス・ロブレス(メキシコ) vs 那須川天心(帝拳)



日本キック史上最高・最大の天才児が、ことボクシングでは倒せない。

「パンチが無い」「詰め切る気迫も連打も全然足りない」等々、物足りなさばかりが喧伝される中、二桁のそれも下の方ではあるものの、一応3戦目でバンタム級の世界ランカーを迎える。


与那覇勇気(真正)とのデビュー戦は、あくまでディフェンスがテーマだった。「いかに打たせ(れ)ず」一方的な展開を作り出すのか。チーフの大役を任された粟生隆寛(エリートアマから帝拳に入りWBCのフェザー級とS・フェザー級を獲った元2階級制覇王者)の狙いは、そこにしか無かったと断じる他ない。

戦前から明らかだったスピードの差を存分に活かし、前後左右に素早く動く見切りの速さと精度の高いジャブ,コンビネーションに唸らされた。

与那覇は勇敢な強打者で、基本的な攻防の技術もしっかりした選手だが、その与那覇に天心は何もさせずに8ラウンドを戦い切っている。ジャッジ1人が、1ポイントを与那覇に振ったことに、「1発も貰ってない。というか、触らせてもいない。フルマークでしょ。」と異を唱える。


そして2戦目は、メキシコから呼び直したアンダードッグ。2022年9月18日にセットされていたが、当初予定のメキシカン,ファン・フローレスが武漢ウィルスに感染してしまい、相手と日程を再調整。

代わりにやって来たルイス・グスマン・トーレスを、初回にいきなり左を決めてダウンさせると、ボディアタックで弱らせた上、第7ラウンドには連打を集めて2度目のダウン(一旦スリップ裁定→ノックダウンに訂正)。

ここでジ・エンドかと思いきや、集中打をまとめられずにまた判定勝ち。流石に今度はフルマークだったものの、「倒せない天才児」への不満をファンが口にし出す。


◎試合前の公開練習
<1>デビュー戦前の公開スパーリング
2023年4月5日/amazon prime公式


まずはディフェンス。守ることに主眼を置いたボクシングで、距離を詰めて来る福井勝也(26歳/4戦全勝3KO)が仕掛ける攻撃のほぼすべてに反応。福井は59勝16敗のアマキャリアを持つエリートで、天心は潜在能力の高さとセンスを存分に発揮した。.

<2>グスマン戦前
2023年9月8日/amazon prime公式


デビュー戦に比べれば、「打ち抜こうとする」意識だけは伺える。ただし、キック時代の思い切りの良さ、迷いの無さは望むべくもなし。とは言え、2戦目でここまでできれば何も言うことはない。素晴らしいの一言。

<3>ロブレス戦直前
2024年1月11日/amazon prime公式


一瞬たりとも止まらない。軽快なステップで動き続けるベーシックはそのままに、しかし打つ時は足を止めて体重を乗せて行く。これもまだ意識と身体のシームレスな連携には今数歩と見受けるが、「倒せない」ことへの批判について、一定の回答を出そうと様々模索はしている。

ただし、勇敢で獰猛なロブレス相手に、正面に位置を取ったまま足を止めて立つのはリスキー。焦ることなど何もないと思うが、期待値が高い分そうも言っていられないということか。

マッハの踏み込みに崩しのフェイントを混ぜ込み、タイミングを外して当て易くする工夫を求めるのは、まだまだ酷との印象も有り。天心ほどのスピードを持ってしても、真っ正直にワンツーもろとも飛び込んでも、それなりに経験を積んだボクサーなら、後方と両サイドへのステップで対応できてしまう。

自分から距離を詰めるにしても、もっと頭を振って全身でフェイントを入れておかないと、カウンターを浴びて慌てることにもなりかねない。ステップとタイミングの細かい変化は極めて重要。


どれだけ批判されても、今はまだ「一瞬も止まらず動き続けるポイントボクシング」に撤するべきなのでは。バンタム級への階級ダウンも込みにはなるけれど、遅かれ早かれちゃんと倒せるようになる。

私もそうだが、井上尚弥の破格過ぎるパワーを見続けているせいで、ファンの感覚が狂い出しているのも事実。天心の左ストレートに、キック時代の「貫く」感覚が蘇えるのもそう遠くは無い筈だと、ひとまずは言っておこう。

85歳になるナチョ・べりスタインの帯同は意外なサプライズだが、本番のリング上でサプライズは不要。無理をせずに、フルマークの判定で良いと思う。


ナチョには申し訳ないが、「まともに触れないままの判定負け」を覚悟していただく。


◎【ダイジェスト版】1.23 LIVE BOXING 6 スペシャルコンテンツ「TENSHIN NASUKAWA ~ボクシングへの挑戦#4~」| プライムビデオ
2024年1月10日


◎フル映像:1.23 LIVE BOXING 6 スペシャルコンテンツ
2024年1月9日/amazon prime
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CJYVVQM8/ref=atv_dp_share_r_em_b7dbb132447b4



◎ロブレス(25歳)/前日軽量:119.5ポンド(54.2キロ)
戦績:18戦15勝(5KO)2敗1分け
身長:164センチ
右ボクサーファイター


◎那須川(25歳)/前日軽量:121ポンド(54.8キロ)
戦績:2戦2勝
キック通算:42戦全勝(28KO)
※各種のキック世界タイトルを総ナメ
身長:165センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーファイター


◎前日軽量




阿久井の右に大きな期待 /岡山に錦を飾る夢は成るか? - A・ダラキアン vs ユーリ阿久井政吾 直前プレビュー -

カテゴリ:
■1月23日/エディオン・アリーナ大阪,大阪市浪速区/WBA世界フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 アルテム・ダラキアン(ウクライナ) vs WBA1位 ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)



2018年2月の載冠(ブライアン・ビロリアに大差の3-0判定勝ち)以来、6連続防衛(3KO)を更新中のダラキアンが、いよいよ本邦初お目見え。

昨年12月14日に決まっていた井上拓真(大橋) vs ジェルウィン・アンカハス(比)戦が延期(拓真が肋骨を骨折)となり、同日開催予定だったダラキアン vs 阿久井も日程の再調整を迫られる。

拓真を見舞ったアクシデントが、減量が佳境を迎える前だったことがは不幸中の救いなれど、概ね1ヶ月のスパンが両者の調整にどう影響したのか、あるいはしなかったのか。


武漢ウィルス禍によるブランクに加えて、母国を襲った悲劇の影響もあり、パフォーマンスに精彩を欠く試合が続いたせいか、直前のオッズは拮抗。日本国内での実績しかなく。しかも地方ジム所属の阿久井だが、突出した右の決定力は海外でもそれなりに知られているらしい。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ダラキアン:-110(約1.91倍)
阿久井:+100(2倍)

<2>betway
ダラキアン:-110(約1.91倍)
阿久井:-110(約1.91倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ダラキアン:4/5(1.8倍)
阿久井:4/5(1.8倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
ダラキアン:1/1(2倍)
阿久井:4/5(1.8倍)
ドロー:16/1(17倍)


2020年2月のV4(ホスベル・ペレスに12回3-0判定勝ち)の後、パンデミックの為に1年9ヶ月のレイオフ。2021年11月の復帰戦では、大ベテランの元王者ルイス・コンセプシオン(パナマ/38歳=一応1位の指名挑戦)に9回TKO勝ち。

さらに、狂気の独裁者プーチンの野望が現実のものとなったウクライナへの武力侵攻により、2022年の1年間、試合どころの状況ではなくなった。

そして昨年1月28日、コスタリカのダビ・ヒメネスを3-0判定に下してV6に成功はしたものの、クリンチ&ホールドの多用が目に付き、後半のガス欠傾向も顕著。ブランクだけでなく年齢的な衰え(30代半ば過ぎ)を指摘する声もある。


2018年6月の初防衛戦で対峙したヨドモンコン(タイ/対戦時:暫定王者=8回TKO勝ち)戦以降、これはという実力者との対戦がなく、阿久井の右が爆発したらひとたまりもないとの見立て・・・?。

それでも、ボクシングの巧さには一日以上の長があり、左右のスイッチにロマチェンコを彷彿とさせるトリッキーなムーヴや速射連打、ノーガードの挑発もお手の物。スピード&シャープネスの低下と、反応の鈍化がどの程度回復しているのかにもよるが、マタドールよろしく阿久井の強打を空転させ続け、ワンサイドの判定をもぎ取っての帰国も想定の範囲内ではある。

阿久井の右はしっかり対策してくる筈で、ディフェンシブかつ慎重な立ち上がりで様子を伺うのでは?。阿久井の間合いとタイミングを掴んでも、単純に前に出たりせず、阿久井を引き込んでカウンターを狙う公算が大。


「日本国内に止まる」と書きはしたものの、矢吹と桑原拓(大橋)をストップした白星が光る。桑原を初回に倒した右は、打ち終わりに棒立ちになる一瞬を狙い済ました、それは見事な一撃。

回復した桑原も必死に奮戦し、最終10ラウンドまで進むも、再び右が炸裂して桑原は昏倒。そのままレフェリーストップとなった。

ここまでの2敗は、中谷潤人(M.T)との日本ユース王座決定戦(2017年8月)で、中谷6回TKOに退いた初黒星と、矢吹戦の直後に8回TKOで敗れたジェイセヴェー・アブシード(比)戦。

◎【ダイジェスト版】1.23 LIVE BOXING 6 スペシャルコンテンツ「BOXER RECORD#1 」
2024月1月10日/amazon prime公式


◎フル映像:無料公開中(amazon prime video)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CJYVVQM8/ref=atv_dp_share_r_em_b7dbb132447b4


中谷とは頭を付けた密着戦が続き、長身にもかかわらず中谷が得意にする左右のアッパーをまとめられ、ワンツーの強打を効かされ、ロープを背に防戦一方になりかけたところでストップされている。

世界ランク入りを狙ったアプシード戦は、初回に生命線の右(肘)を傷めてしまい、満足に右を打てない状況の中、第6ラウンドに右の打ち終わりを左のカウンターで迎撃されダウン。さらにまた左ショートの好打を浴びてダウンを追加。

第7ラウンド、起死回生の1発を狙ってアッパーで攻め込むも、アプシードもさる者で、しっかり粘ってサバイバル。続く第8ラウンド、ロープに押し込まれて連打を見舞われたところでストップ負け。


この敗戦はダラキアンも当然チェックしていると思われ、「省エネ+カウンター」の戦術徹底が容易に想像される。クリンチ&ホールドで阿久井の前進を分断するだろうし、そこでカっとなれば王者の思うツボ。

一旦打ち始めるや否や、ガードそっちのけで強振する悪癖が抜け切らない。好感阿久井の右が決まれば、ダラキアンもただでは済まないだけに、ボクシングが正直な阿久井の崩しのバリエーション、引き出しの多寡が試される、

単純に距離を詰めて右を打ち続けても、歴戦のダラキアンの術中にみすみすハマるだけ。いずれにしろ、阿久井は右にすべてを託すしかない。互いに身体が温まり切らないスタート直後、奇襲を仕掛けるのも一策ではあるが・・・。


◎ダラキアン(36歳)/前日軽量:111.1ポンド(50.4キロ)
WBAフライ級王者(V6/4KO)
戦績:22戦全勝(15KO)
アマ戦績:不明
身長・リーチとも164センチ
※軽量後の検診データ
体温:36.4℃
脈拍:47/分
血圧:184/83
右ボクサーファイター(スイッチヒッター)


◎阿久井(28歳)/前日軽量:112ポンド(50.8キロ)
元日本フライ級王者(V3/返上)
2015年度L・フライ級全日本新人王
戦績:20戦17勝(11KO)2敗1分け
アマ戦績:27戦20勝7敗
倉敷翠松高校→環太平洋大学
身長:センチ/リーチ:センチ
※軽量後の検診データ
体温:36.5℃
脈拍:53/分
血圧:128/89
右ボクサーパンチャー


◎前日軽量



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■オフィシャル

主審ギジェルモ・ペレス・ピネダ:(パナマ)

副審:
ルイス・パボン(プエルトリコ)
ジェレミー・ヘイス(カナダ)
ラウル・カイズ(米/カリフォルニア州)

立会人(スーパーバイザー)::レンツォ・バグナリオル(ニカラグァ/WBA国際コーデイネーター,元審判)


最軽量ゾーンのエースに死角なし(?) - 拳四朗 vs カニサレス 直前プレビュー -

カテゴリ:
■1月23日/エディオンアリーナ,大阪市浪速区/WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B.) vs WBA1位/WBC2位 カルロス・カニサレス(ベネズエラ)





驚くべき即決KOでベルトの奪還に成功した矢吹正道(緑)との再戦を含めて、世界戦5連続KO勝ち(4連続KO防衛中)を続ける拳四朗が、現在の108ポンドを代表する実力者の1人,カニサレスの挑戦を受ける。

直前のオッズは大きく拳四朗を支持。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拳四朗:-700(約1.14倍)
カニサレス:+500(6倍)

<2>betway
拳四朗:-752(約1.91倍)
カニサレス:+500(6倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:1/8(約1.08倍)
カニサレス:5/1(6倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
拳四朗:1/12(約1.08倍)
カニサレス:5/1(6倍)
ドロー:20/1(21倍)


連続KO防衛のインパクトと言ってしまえばミもフタもないが、とりわけ強烈な印象を残したのが、京口紘人(ワタナベ)を左ジャブ1本で減速させ、決死の反撃を断ち切って倒し切った2団体統一戦(2022年11月)。

拳四朗のジャブをまともに食って効かされてしまう京口の姿を、半ば呆然と見つめるしかない。ボディワークが使えなくなってしまった現代日本のボクサーの中にあって、京口はそれでも上体の動きが多い方に入る。

がしかし、拳四朗のジャブにしっかり対応するまでには至らず、予想を超える威力に即応することができないままラウンドを重ねてしまう。

京口推しの私としては、ただただ残念と申し上げるしかないけれど、頭と肩を振り続けることの重要性、打ち始めと打ち終わりの処理が甘くなることの怖さを、あらためて思い知らされた。


そして、よもやのTKO負けでV9に失敗した矢吹との第1戦。偉大なる具志堅用高が、およそ40年前に達成した国内連続防衛記録(13回)更新の夢は破れたものの、真っ向勝負の打撃戦に応じて矢吹をKO寸前まで追い込み、自らのパンチング・パワーとフィジカル・タフネスに手応えも感じたに違いない。

リマッチでファイターに変身した拳四朗は、スタートから前に出てキツい圧力をかけ、フイを突かれた格好の矢吹に態勢を立て直す機を与えることなく、一方的に詰め切ってみせた。

第1戦でも感じたことだが、リマッチで際立っていたのが拳四朗の大きさ。計量後にどの程度リバウンドしているのか、正確な数値は不明ながらも、相当に戻していることが容易に想像できる。


身長で2センチ程度上回る矢吹も、リカバリーに成功してちゃんと大きくなっていたが、拳四朗の気迫とプレッシャーに押されて後退するしかない。第2ラウンドに矢吹のいい右が1発入って一瞬たじろいだが、直ちにガードを作り直して前進を継続。逆に綺麗なワンツーを決めて、矢吹の顔を跳ね上げ返す。

余裕と自信を消失した矢吹の表情がいよいよ強張り、第3ラウンド、一気に勢いを増した拳四朗が、ロープ伝いに逃げる矢吹を力強い左右のボディでスローダウンさせる。ジャブで態勢を崩され、顔面がガラ空きになるその瞬間を拳四朗は見逃さない。素晴らしい右ストレートで打ち抜くと、。

何とか立ち上がった矢吹だが、完全に効いていて足元が定まらず、主審の染谷がそのままストップ。ユーリ阿久井政悟に初回KO負けした際、「自分は打たれ強くない。と言うか、打たれ弱い」と正直に認めていたことを思い出す。

◎【ダイジェスト版】1.23 LIVE BOXING 6 スペシャルコンテンツ「BOXER RECORD#1 」
2024月1月10日/amazon prime公式


◎フル映像:無料公開中(amazon prime video)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CJYVVQM8/ref=atv_dp_share_r_em_b7dbb132447b4

京口との統一戦でも、本番当日の体格差が目についた。京口に対しては、左右のステップを絶やさず押し退きしながらのボクシングだったが、無駄に下がったりはしない。リードジャブで着実に先手を取り、強めのパンチを交換しても常にパワー負けせず、ごく自然に圧力がかかって行く。

「まさかここまでとは・・・」

拳四朗のパワーは京口にとっても脅威だったようで、顔色を失った表情が矢吹のそれと瓜二つ。WBC王者に距離と間合いを握られたまま、正面での対応を続けるしかないWBA王者の顔面を遂にワンツーが捉える。

たまらず倒れ込む京口。第5ラウンド開始30秒過ぎだった。ジャブとボディが効き出していたとは言え、けっして打たれ弱くはない京口がこんな倒れ方をするとは・・・。


エイトカウントを待って再開されると、し止めにかかる拳四朗。しかし、京口も意地を見せる。クロスレンジでの打ち合いなら簡単には負けないとばかり、得意の左フックをきっかけに拳四朗をロープに押し込み、渾身の逆襲で見せ場を作った。

ラウンド終了のゴングと同時に、両通がもつれて京口が下になる状態で倒れてヒヤリとしたが、起き上がる時の表情がまるで違う。ダウンを奪いながら、逆に攻め込まれた拳四朗には充分な余裕があり、口が開いて呼吸が辛そうな京口は、ダメージの影響が否が応でも滲み出る。

続く第6ラウンド、一息置いて距離とペースを作り直す拳四朗。お陰で京口も回復の時間を得られたが、ジャブと左右のコンビネーションを浴びて腫れ出した顔が痛々しい。


フィニッシュの第7ラウンド、再び圧力をかける拳四朗のジャブと左右が効き、京口の足と動きが止まる。完全に鈍った京口は、拳四朗の動き出しに反応できない。「まずいな・・・」と思いつつ、画面に集中し直す。

ガードを完全に解いた拳四朗が、左の拳をグルっと回すパフォーマンスでけん制しながらし止めにかかる。ほぼノーガードで勝負に出ている拳四朗に、京口のジャブと右ストレートが当たり、密着すると左ボディからの上下も当たって場内が沸く。

しかし、京口のパンチに拳四朗を脅かす力は残っておらず、何度目かの交錯の後、またもや拳四朗の右が決まってグラリと揺れる京口。そのまま、たたらを踏むように後退しながら態勢を崩すところへ、文字通り止めの追撃(右)。

ロープ際のキャンバスに背中から倒れると、矢吹第2戦に続いて主審の重責を任された染谷は、左腕で京口を抱きかかえながら大きく右手を振り、カウントを数えることなく試合終了を宣告。

統一王者となった拳四朗は、前評判の高い天才児トニー・オラスクアガ(米)を9回TKOに退けると、南アの元アイドル,へッキー・バドラーのかき回し戦術に手を焼きながらも、同じく9回TKOで締め括り、力の違いを見せ付ける。

◎ファイナル・プレッサー(抜粋)
2024年1月21日/Top Rank公式


◎フル映像:【ノーカット版】LiveBoxing第6弾 試合前記者会見 | プライムビデオ
2024年1月21日/amazon prime公式
https://www.youtube.com/watch?v=UNU9NGgW6dQ&t=23s


勇猛果敢なインファイトでド突き合うかと思えば、健脚を活かした出入りで安全確実にラウンドをまとめにかかる。柔軟に硬軟を使い分けるカニサレスは、今回が3度目の来日。

2016年の大晦日に、田口良一(ワタナベ)が保持していたWBA王座に挑戦して、三者三様のスプリットドローで涙を呑んだ初来日。奪取こそ成らなかったが、驚異的な打たれ強さを発揮する田口に対して、退くべきところは退くクレバネスが奏功していた。

翌2017年は母国で3戦を消化。2018年3月に再来日を果たし、小西伶弥(真正)とのWBA正規王座決定戦に出場。2017年の大晦日に、田口がミラン・メリンド(比)を3-0判定に破りIBF王座を吸収。WBAスーパー王者に昇格した為、正規王座を空位にして行われたお馴染みの措置。


第3ラウンドに右でダウンを奪ったカニサレスは、その後も優位に試合を進めるも、しぶとく食い下がる小西のボディアタックで後半失速気味となり、苦しみながらの3-0判定勝ち。

中国で木村翔(青木→花形)を大差の判定に下した試合を含めて、このベルトを2度防衛して田口との再戦のチャンスを待つも、メキシコに遠征したV3戦でエステバン・ベルムデスに6回TKO負け。虎の子の王座を失う(2021年5月)。

「高地対策が充分ではなかった。もう一度やれば勝てる」と語ったが、再戦のチャンスは無く、WBAスーパー王座は田口→ヘッキー・バドラー→京口と推移し、京口がベルムデスとのWBA統一戦を制している。


2021年~2022年は、ガニガン・ロペス戦(4回KO勝ち)を含めメキシコで3連勝(2KO)。昨年6月、アルゼンチンに飛んでダニエル・メテロンを8回負傷判定で破り、WBAの指名挑戦権を獲得。

スピードに欠けるベルムデスとの打ち合いを選択して、攻防のキメがどんどん粗くなり、自滅半ばに敗れた時もそうだが、小西に粘り負けしそうになるなど、上手いのか下手なのかわからないところがある。

計量後のリバウンドを遠慮なく利用するのも特徴で、安定政権を築きつつあった田口良一と引き分けた初挑戦)時も、長身(167.5センチ)の田口に対して、158センチの小兵とは思えない強打を振るっていた。


鍛え込まれた上半身は、田口と戦った頃よりも厚みを増している。パンチへの自信が裏目に出たベルムデス戦を教訓にするのか、ファイター化した拳四朗に合わせて真正面からシバキ合うのか。

積極的に倒しにかかる拳四朗は、当然のことながら被弾の確率が増している。試合運びの安定感に関して言えば、矢吹戦以前の「フットワーク&ジャブ」の方が良い。スタイルを変えたことについて、「これが自分のボクシング。多少打たれても前に出る方がいい」と、田口や田中恒成と同じ方向性を志向する。

無駄に打たれ(せ)ていいことは何も無い、堅実に距離をキープする拳四朗を、今一度見てみたい気もするけれど・・・。


◎拳四朗(32歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
現WBC(通算V11/連続V8)・WBA(V2)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:23戦22勝(14KO)1敗
世界戦通算:14戦13勝(9KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
※計量後の検診データ
体温:36.1℃
脈拍:44/分
血圧:136/86
右ボクサーファイター


◎カニサレス(30歳)/前日計量:107.6ポンド(48.8キロ)
元WBAレギュラー王者(V2)
戦績:28戦26勝(19KO)1敗1分け
身長:159.5センチ,リーチ:164センチ
※小西伶弥戦(WBAレギュラー王座決定戦)の予備検診データ
※計量後の検診データ
体温:36.1℃
脈拍:40/分
血圧:124/84
右ボクサーファイター


◎前日計量



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■オフィシャル

主審:ルイス・パボン(プエルトリコ)

副審:
ジェレミー・ヘイス(カナダ)
オマール・ミンタン(メキシコ)
リム・ジュンバェ(韓)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:レンツォ・バグナリオル(ニカラグァ/WBA国際コーデイネーター,元審判)
WBC:タナポン・バクディブミ(タイ/ABC=WBCアジアボクシング評議会役員・WBCムエタイ会長)

Naoya The Great - Chapter 1 夢のまた夢・・・リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤーに選出 Part 4 -1 -

カテゴリ:

Ring Magazine Fighter of the year - Multiple Time Winner

”ザ・グレーテスト” と ”ブラウン・ボンバー” は別格

■最多受賞:6回「モハメッド・アリ」
1970-10-09-5thstreetdym-Miami
世界ヘビー級王者(1960年ローマ五輪L・ヘビー級金メダル)
生涯戦績:61戦56勝(37KO)5敗
通算19回防衛
第1期:連続9回/在位:3年3ヶ月(1964年2月~1967年5月・はく奪)
第2期:連続10回/在位:3年4ヶ月(1974年10月~1978年2月)
第3期:防衛無し/在位:1年(1978年9月~1979年9月・返上)
◎受賞年:1963年・1966年(※)・1972年・1974年・1975年・1978年
※1974~75年:2年連続受賞
※1990年国際ボクシング殿堂入り
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<1>1963年:世界ランカー3名を三連破(出生名のカシアス・クレイ時代/21歳)
欧州最強のH・クーパー(英国遠征)と次期王者候補の1人ダグ・ジョーンズを含む
(1)D・ジョーンズ戦(米):ファイト・オブ・ジ・イヤーW受賞
3月13日MSG。N.Y./10回3-0判定勝ち/ヘビー級10回戦


初回にいきなり右を効かされてグラつくアリ。懸命の連打で反撃するも、タフで勇敢なジョーンズは1歩も退かずに応戦。一進一退の打ち合いは後半に入っても変わらず、スタミナが切れかかりながらも渾身の攻勢でアリが僅かに押し切った。
※オフィシャル・スコア:5-4-1×2名(副審),8-1-1×1名(主審)/採点:ラウンドの数を振り分ける方式(N.Y.州を筆頭に多くの州で採用されていた)

(2)H・クーパー第1戦:5回TKO勝ち
6月18日ウェンブリー・スタジアム,ロンドン(英)/ヘビー級10回戦


第4ラウンドに喫したノックダウンは、デビュー時から指摘され続けた左フックとの相性の悪さを露呈したもので、”スモーキン”・ジョー・フレイジャーとの激闘を予感させる。かなり効いていたが、驚異的な心身のタフネスで回復(後に諸刃の剣となって深刻な健康被害をもたらす)。キレまくる左ジャブで挽回すると、あっという間にクーパーの瞼を切り裂き、大流血に追い込んでの逆転TKO勝ち。

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<2>1966年:年間5度の防衛成功(4KO)
<当時は該当者無し=逝去した2016年にあらためて表彰>
※Ali retroactively named Fighter of the Year for 1966
2016年12月8日/リング誌公式
https://www.ringtv.com/476547-ali-retroactively-named-fighter-year-1966/

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(1)ジョージ・シュバロ(WBA6位)第1戦:15回3-0判定勝ち
3月29日/メープルリーフ・ガーデン/トロント(カナダ)
WBC(+NYSAC)世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦(※)/V3
1)フル映像(モノクロ)
https://www.youtube.com/watch?v=tyWDrmViwAk

2)2003年5月に公開されたシュバロ第1戦のドキュメンタリー映画
製作:カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada)
(2004年8月30日にカナダの公共放送CBCが全国放送)
The LAST ROUND - CHUVALO vs ALI
https://www.youtube.com/watch?v=9O_9ANas7NQ

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(2)H・クーパー(WBA9位)第2戦:6回TKO勝ち
5月21日/アーセナル・スタジアム/ハイベリー(英/ロンドン)
WBC(+NYSAC)世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦(※)/V4
1)フル映像(モノクロ)


2)カラー化:約50分(試合前の公開練習・インタビューを含む)
https://www.youtube.com/watch?v=Y1-n9pwcJ_s

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(3)ブライアン・ロンドン戦:3回KO勝ち
8月6日/アールズ・コート・アリーナ,ケンジントン(英/ロンドン)
WBC(+NYSAC)世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦(※)/V5
1)フル映像(モノクロ)
https://www.youtube.com/watch?v=zxBHfuzZaHw

2)B・ロンドン戦/フィニッシュシーン(70万回超再生)


挑戦者ロンドンをコーナーに詰めてし止める凄まじい連打が、海外のファンを中心に、リアルタイムでアリを見ていない世代のファンの間で話題になり、若く充実したアリが発揮した驚嘆すべきスピードとキレ,高い精度について、再認識されるきっかけとなった。

対戦時のロンドンはノーランク(10位外)でなおかつ無冠ではあったが、英国(BBBofC)と英連邦(Commonwealth Boxing Council)のタイトルを保持していた他、フロイド・パターソンへの挑戦経験(1959年5月/11回TKO負け)を持つ。上記2つと欧州(EBU)王座の3つを独占するH・クーパーに善戦(15回判定負け)するなど、英国ヘビー級を代表する実力者の1人として認知され、アリの王座を承認していたWBCとNYSC(※)が挑戦を容認。

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(4)カール・ミルデンバーガー(WBA3位/欧州王者)戦
9月10日/ヴァルトシュタディオン,フランクフルト(独)
WBC(+NYSAC)世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦(※)/V6
1)フル映像(モノクロ)
https://www.youtube.com/watch?v=-lhLfLIOk3g

2)フル映像(カラー)
https://www.youtube.com/watch?v=u0bbw5J4fjU

※ヴァルトシュタディオンは、サッカー・スタジアムを中心に多目的施設を複合したスポーツ・コンプレックスのはしりの1つで、この試合は施設内にある自転車競技場にリングを特設して行われた。

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(5)11月14日:C・ウィリアムズ(WBA4位)戦:3回TKO勝ち
アストロドーム,テキサス州ヒューストン
WBC(+NYSAC)世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦(※)/V7
1)フル映像(モノクロ)
https://www.youtube.com/watch?v=v3ZL9cK-JWo

2)ハイライト(カラー)


開催地のヒューストンをホームタウンにしていたクリーヴランド・ウィリアムズは、ソニー・リストンやゾラ・フォーリーと並ぶ強打者で、2メートル超の長いリーチに恵まれていた。アリは左ジャブとともに代名詞となっていた秀麗なフットワークでウィリアムズを翻弄し、芸術的な右カウンター(必殺のファントム・パンチ)を炸裂させ3回TKO勝ち。現在ではおよそ考えられない、年間5度の防衛を成し遂げた。


1970年代以前のチャンピオンは、怪我や病気,リング内外のアクシデントなどが無ければ、年間3回程度の防衛戦は当たり前で、その合間にノンタイトルをこなすことも珍しいことではなく、ランカーや修行中の前座でさえ年間2~3試合の今日とはまるで様子が異なる。

正統8階級しか認められていなかった1937年から1938年にかけて、8つあるうちの3階級を同時に制覇するという、まさに空前絶後の離れ業をやってのけたヘンリー・アームストロングは、約10ヶ月の間にフェザー,ウェルター,ライトの順番にベルトを奪取した。

160センチ代半ば~後半の小兵をカバーする為、素早く相手の内懐に潜り込んで、自分の頭を胸から顎の付近に密着したまま、上下の連打をひたすら叩きまくる。とにかく相手が根負けして嫌になるまで、無尽蔵のスタミナを武器に白兵戦を仕掛けるファイタースタイルで、14年近く(1931年7月/18歳~1945年2月/32歳)戦い続けた。

Henry Armstrong


181戦151勝(101KO)21敗9分け(国際ボクシング殿堂)という、とてつもない生涯戦績を残しており、キャリア晩年はミドル級のトップレベルとも拳を交えているが、ボクサー特有の言語障害や運動機能障害とは無縁。引退後発症した眼疾(網膜はく離と白内障)に、激闘の影響を感じさせるのみ。
Cyber Boxing Zone:179戦149勝(100KO)21敗9分け/Boxrec:180戦149勝(99KO)21敗10分け

フェザー級を返上した後、135ポンド前後のライト級のまま、6ヶ月(1938年11月~1939年5月)の短期間にウェルター級の王座を7連続防衛。その間にもノンタイトルやエキジビションを消化して稼ぎまくっていた。

ボクシング人気は今とは比較にならないほど盛況で、TVが無かったが故に、人気選手にはエキジビションマッチとノンタイトルの需要が高かったとは言え、常軌を逸した心身のタフネスだけで休み無くリングに上がり続けることはできない。ディフェンスの能力にも長けていたことは明らかで、疑いを差し挟む余地無し。


アームストロングの半年に7回の防衛(年14回/1938年11月~1939年12月)は凄過ぎるけれど、TVやラジオが存在しなかった神代の時代も含めて、動く金額の桁が違うヘビー級は、防衛戦の間隔をやや長めに取る場合があり、ノンタイトルを挟んで休み無くリングに上がり続ける王者はそれなりにいたが、やはり1年に5回の防衛戦は超過密なハードスケジュールには違いない。

今のように駆け引きの応酬のみでフルラウンズを終えるなど有り得ず、プロの一流は決着が着くまで戦い切ることを容赦なく求められた。しかも当日計量で、世界戦は15ラウンズ。カットや拳の怪我が無いことは勿論、ダメージも最小限度に抑えないと、1~2ヶ月のスパンで戦い続けることなど不可能。

どう考えてみても、昔のボクサーの方が基礎体力に優れ、攻防の基本的な技術水準(特にディフェンス)も高いとしか思えない。そう考えないと辻褄が合わない。

プロボクシングの人気が下火になって久しく、長く続く低迷からの脱出が不可能となった今日とは、そもそもファンの数も需要もまるで違う為、単純に比較をしてもせんないことではあるが・・・。


◎Part 4 -2 へ




Naoya The Great - Chapter 1 夢のまた夢・・・リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤーに選出 Part 3 -

カテゴリ:
■2023 Fighter of the year - リング誌が井上尚弥を選出


Naoya-Pac2

井上の受賞に一言いいたいと思うのは、クロフォード本人や在米マニアだけに止まらず、ボクシングに愛情を注ぎ続けてきた、それこそ一家言を持つ者たちの中に、国と地域に関わらず一定の割合居るに違いない。

主にSNSを通じて展開される異論・反論もまた、井上自身には何の責任もないことではあるが、反骨心にも並々ならぬものを持つモンスターだけに、心に期すものが既に溢れているのではないか。

それは、2年連続での受賞。いや、3年連続で受賞し、アジアNo.1のパッキャオに並ぶこと。100年近いリング誌の表彰歴を振り返っても、3年連続での受賞は過去に例がない。パックマンを超える4度の受賞ですら、今現在の井上なら不可能ではないとさえ思えるが、30代に突入した年齢を考えると流石に厳しい。

また、階級も大きなハンディキャップになる。何だかんだ言っても、王国アメリカのボクシング・マーケットを支える揺ぎ無い看板は、ウェルター級から上の中~重量級になる。軽量級のトップ・ファイターが伍していくには、誰もが納得するしかない結果、頭3つも4つも飛び抜けた実績が不可欠。


4つあるフェザー級のどれか1つを獲って5階級制覇を達成しても、それだけではアンチの口を完全に黙らせることはできない。「中量級とは競争の激しさが違う。同列には論じられない」との主張が繰り返される。

これまでと変わらない圧倒的なパフォーマンスを維持したまま、126ポンドでも4本のベルトを集めて、史上唯一となる「3階級+4団体統一」をやってのければ、2度目の年間MVPは確実だ。外す理由がない。

だが、相対的なパワーダウン&体格差をスピード&テクニックで補い切れず、悪戦苦闘が続く中でのギリギリ薄氷の載冠であったり、メイウェザーよろしくタッチ&アウェイの安全策に閉じこもるしかなくなったら、突出した力を発揮する若い才能に道を譲らざるを得ない(それが米国籍の黒人やメキシコ系ならなおさら)。


あくまで試合内容と勝ち方次第にはなるが、フェザーを完全制覇した後、さらにS・フェザーの2団体をまとめて(4つすべては無理にしても)、6階級制覇+王座統一(3つ・4つである必要はない)の離れ業まで行けば、パッキャオに並ぶことも夢ではなくなる。


◎パッキャオの受賞歴:3回

第1回目:2006年:S・フェザー級
一度惜敗したエリック・モラレスと2度対戦して連勝。特に3回KOで圧勝した第3戦は、出世試合となったフェザー級時代のマルコ・A・バレラ第1戦に勝るとも劣らない、大きな衝撃を全世界に与えた。

■ vs モラレス第3戦:3回KO勝ち
<1>2006年11月18日/トーマス&マックセンター,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦


<2> vs モラレス第2戦:10回TKO勝ち
2006年1月21日/トーマス&マックセンター,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=W8RDO7VaJ34

<3> vs モラレス第1戦:12回0-3判定負け
2005年3月19日/MGMグランド,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=Sl4V0e2Odqw

<4> vs マルコ・アントニオ・バレラ第1戦:11回TKO勝ち
2003年11月15日/アラモドーム,テキサス州サンアントニオ
※リング誌フェザー級王座認定(WBCフライ,IBF J・フェザーに続く3階級制覇)
https://www.youtube.com/watch?v=I0rhQX6WFpw

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第2回目:2008年
<1>3月15日:ファン・M・マルケスに2-1判定勝ち
マンダレイ・ベイ・リゾート&カジノ,ラスベガス
WBC S・フェザー級王座獲得(4階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
https://www.youtube.com/watch?v=31WoU-BJMdw

<2>6月28日:デヴィッド・ディアスに9回TKO勝ち
マンダレイ・ベイ・ホテル&カジノ,ラスベガス
WBCライト級王座獲得(5階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
※個人的にはパッキャオのベスト・パフォーマンスだと確信する
https://www.youtube.com/watch?v=WgsHmnnMC34

<3>12月6日:オスカー・デラ・ホーヤに8回終了TKO勝ち
MGMグランド,ラスベガス/ウェルター級契約12回戦


ボクシング界のセオリーを難なく乗り越え、「階級の壁」を根底から覆したパッキャオが、メイウェザーと並ぶスーパースターへと飛翔した歴史的な勝利。

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第3回目:2009年
<1>5月2日:リッキー・ハットンに衝撃的な2回KO勝ち
MGMグランド,ラスベガス
リング誌J・ウェルター級王座認定(6階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
※世界中のファンが支持するに違いないパッキャオのベストKO


<2>11月14日:ミゲル・コットに12回TKO勝ち
MGMグランド,ラスベガス
WBOウェルター級王座獲得(7階級制覇=リング誌J・ウェルター,フェザー級王座を含む)
https://www.youtube.com/watch?v=kUruG4y9mak


マルケス(2008年3月)とディアス(2008年6月)を連破して、3ヶ月のスパンでS・フェザーとライトの2階級を獲り、暮れにデラ・ホーヤを引退に追い込んだ後、さらにハットン,コットと三立ての快進撃。2008年から2009年にかけてのパッキャオは、紛れも無い”東洋の奇跡”だった。

「正気か?。カネに眼が眩むのも程がある。本気でパッキャオを殺す気か?」

デラ・ホーヤの引退試合に担ぎ出され、ウェルター級契約の12回戦と公表されるや否や、、存命だったドン・ホセ・スレイマンWBC会長を皮切りに、世界中の関係者から轟々たる非難が集中。

加齢と歴戦の疲労に、古傷(左肩の腱筋断裂)の再発まで重なり、その上無理なウェイト調整を自らに科したゴールデン・ボーイ。ラスト・ファイトのコーナーを預かったメヒコの名匠ナチョ・べリスタインによると、本番1ヶ月前に147ポンドの契約リミットまで絞っていたらしい。


154ポンドのS・ウェルター級に主戦場を移して7年が経ち、仕上がりに不安があったのだと思う。147でどの程度動けるのか、確かめたかったに違いない。しかしナチョは、「性急に落とし過ぎだ。キャンプのメニュー消化にも悪影響を及ぼす。すぐに150まで体重を戻すべきだ。」と進言。

お付きの栄養士に、ナチョ自身が直接食事の改善を申し入れしたというが、実際にどうなったのかは不明。公式計量と再計量の結果は次の通りだが、体格差に関する辛らつな批判が余程堪えていたかもしれない。

◎デラ・ホーヤ:前日145ポンド⇒当日147ポンド
◎パックマン:前日142ポンド⇒当日148ポンド1/2


わざわざ契約体重を2ポンドアンダーして、空腹のまま眠れる一夜(?)を耐えて、当日午前中の再計量で147のリミット丁度に合わせたのは、「ウェイトのハンディは無い。フェアな勝負だ」との、デラ・ホーヤなりの無言のアピールではなかったか。

内容と結果を振り返って見れば、ナチョの心配がそのまま現実になってしまった。足取りも反応も鈍く重く、満足に動けないまま為す術がない落日のスーパースターを、小柄なパッキャオがスピードと手数で翻弄。思うがままに打ち据え、最後はコーナーに詰めて滅多打ち。

8回終了後のインターバル中、顔面を酷く腫らしたゴールデン・ボーイは、すっくと椅子から立ち上がると、対角線上を真っ直ぐ歩みを進めて、パックマンとローチにギブアップの意思を伝えてジ・エンド。

Naoya-Pac1

フルトンを完封した井上のボクシングも圧巻ではあったが、年間MVPを連続受賞したパックマンと3名のビッグネームが繰り広げた熱いドラマ、現在の井上と同じ30歳前後のパッキャオが発揮したアビリティとパフォーマンスは言語を絶する。

デラ・ホーヤ,ハットン,コットに比肩し得る名前が、現在のS・バンタム~S・フェザーには見あたらない。バレラ&モラレス,イスラエル・バスケスとラファエル・マルケス、以上ベスト4より1~2枚格は落ちるが、レオ・サンタクルス,アブネル・マレス,ジョニー・ゴンサレス,オスカー・ラリオス・・・。

90年代半ば~2000年代の最初の10年の軽量級を、強力に牽引したメキシカン・レジェンドに匹敵するヒスパニック系の後継者がいてくれたら、122~126ポンドの景色はまるで違ったものになっていただろうに・・・。

モンスターと言えども、この男たち(全盛期のバレラ,モラレス,R・マルケス=4強)と戦ったらどうなるかわからない。誰もがそう思える真のライバル不在こそ、リアル・モンスター,井上尚弥にとっての最大の悲劇ではないのか。

ルイス・ネリーごときは、リアルなメキシカン・レジェンド4強の足元にも及ばない。はっきり申し上げて「顔じゃない」のである。


◎Part 4 へ


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■複数回の受賞者一覧/最多はアリの6回(!)

<1>6回:モハメッド・アリ(米)
<2>4回:ジョー・ルイス(米)
<3>3回:
(1)ロッキー・マルシアノ(米)
(2)ジョー・フレイジャー(米)
(3)イヴェンダー・ホリフィールド(米)
(4)マニー・パッキャオ(比)
<4>2回:
(1)トミー・ローラン(米)
(2)バーニー・ロス(米)
(3)エザード・チャールズ(米)
(4)シュガー・レイ・ロビンソン(米)
(5)インゲマール・ヨハンソン(スウェーデン)
(4)フロイド・パターソン(米)
(7)ディック・タイガー(ナイジェリア)
(8)ジョージ・フォアマン(米)
(9)シュガー・レイ・レナード(米)
(10)トーマス・ハーンズ(米)
(11)マーヴィン・ハグラー(米)
(12)マイク・タイソン(米)
(13)ジェームズ・トニー(米)
(14)フロイド・メイウェザー(米)
(15)タイソン・フューリー(米)
(16)カネロ・アルバレス(メキシコ)


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