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2023年12月

武居と平岡に坂間も合流 /世界に最も近い和製プロスペクト3名が競演 - 井上尚弥 vs M・タパレス アンダーカード・プレビュー II -

カテゴリ:
<2>12月26日/有明アリーナ/54.5キロ(120ポンド)契約8回戦
WBAバンタム級10位 武居由樹(大橋) vs マリオ・ディアス(メキシコ)





先月28日付けで、保持していたOPBF S・バンタム級王座を返上。規定の路線化していたバンタム級への階級ダウンに向けての試運転(第2弾)。リミット上限の53.5キロ+1キロ(120ポンド)契約の8回戦に登場する。

対戦相手のディアスは、いわゆるアベレージのローカルランカー。攻防の基本的な技術に不足はなく、良くまとまってはいるが、1発の怖さや手足のスピードなど特筆すべき特徴も無し。

2017年にWBCの米大陸王座に就いているが、おそらくは階級アップの為、1度も防衛せずに返上した模様(はく奪?)。その後はS・バンタムとフェザーを行き来しながら戦い、2019年5月にはアリゾナ在住の同胞で、122ポンドのプロスペクト,カルロス・カストロ(メキシカン)に大差の10回判定負け。

昨年2月~今年6月までの間に、120~121ポンド契約で4試合をこなして1勝3敗。サイズも小ぶりで、メキシカンらしいフィジカル・タフネスと粘り強さも、手に余るという程の水準にはない。

バッティング&揉み合い上等のラフ・ファイトへの懸念もまずない。テストマッチには打ってつけと言ったら、流石に言葉が過ぎるかもしれないが、仮に倒し切れないとしても、足元をすくわれる心配は無用。

WBA以外の3団体が発表した11月の月例ランキングでは、まだ122ポンドに名前が記載されており、武居のコンディション(仕上がり具合)について、大橋会長も慎重に見極めたいのだろう。


これまで国際式に転向したキックボクサーの大半が、ボディワークの決定的な不足(硬くて棒立ちの上半身+反応の鈍さ)と、直線的な攻撃が仇となってカウンターの格好の餌食となり、国内・地域レベルから上に進むことができないまま、キャリアを終えるケースが目立つ。

その意味において、身体全体と手足のスピードに恵まれ、俊敏な機動力と柔軟性も併せ持ち、天衣無縫と表すべき独特なムーヴィング・センス&高精度のパンチでKOを量産する武居は、近い将来の大成を予感させずにはおかない。

54キロ(119ポンド)契約で臨んだ前戦(7月25日:尚弥 vs フルトンのアンダー)、フィリピンの中堅ロニー・バルドナドを3回KOで一蹴するも、右を浴びてヒヤリとするシーンもあった。

Lemino公式の”煽りV”では大橋会長がボクシングへの迷いに言及したり、武居自身もすっきりしない胸中を語ってはいるが、当事者ではない一ファンのこちらは、ほとんど心配はしていない。


これから対戦相手のレベルが上がるにつれ、圧巻の連続KOもいずれ途絶えるだろうし、苦闘を強いられることもあると思うけれど、井上尚弥との単純比較は百害あって一利なし。

リアル・モンスターのフェザー級進出が早まった場合の出戻り(S・バンタム)を横目で睨みつつ、帝拳からデビューした那須川天心(驚くべきスピードスター=今は倒せなくても全然OK)との出世争いは必見。


◎武居(27歳)/前日軽量:120ポンド(54.5キロ)
前OPBF S・バンタム級王者(V1/返上)
WBC S・バンタム級9位/IBF J・フェザー級10位/WBO J・フェザー級15位
戦績:7戦全勝(7KO)
キックボクシング:25戦23勝(16KO)2敗
K-1 WORLD GP 2019 K-1 S・バンタム級世界最強決定トーナメント優勝
K-1 WORLD GP 第2代S・バンタム級(55キロ上限)王者
※2017年度K-1 MVP(K-1 AWARDS 2017)
Krush 53キロ級初代王者
身長:170センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター

◎M・ディアス(28歳)/前日軽量:119.9ポンド(54.4キロ)
戦績:27戦21勝(9KO)6敗
身長:165センチ
右ボクサーファイター

◎Lemino公式
<1>WBA・WBC・IBF・WBO 世界スーパー・バンタム級王座統一戦 井上 尚弥 vs マーロン・タパレス
12月26日(火)無料LIVE配信(開場15:45/開演16:00)

<2>前日軽量:12月25日(月)ライヴ配信予定(開場12:45/開演13:00)


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<3>64.5キロ(142ポンド)契約8回戦
IBF J・ウェルター級10位 平岡アンディ(大橋) vs セバスティアン・ディアス(メキシコ)



最激戦区に位置づけられる中量級で世界を目指す平岡が、S・ライト級のリミット上限(140ポンド)+2ポンドの契約で、メキシコから呼ばれた中堅選手との8回戦に臨む。

2019年11月、コスモポリタン・ラスベガスで行われたトップランクの興行に参戦。負け越しのメキシカンを問題にせず2回TKO勝ち。実力差が明々白々だったとは言え、期待通りの米国デビューを飾る。

しかし、武漢ウィルス禍で1年のレイオフを余儀なくされ、2020年10月に再渡米。MGMグランド内に設けられた無観客専用の会場(ザ・バブル)で、井上尚弥 vs ジェイソン・モロニーのアンダーに出場すると、テキサス・ベースの黒人ローカル選手を4回TKOで決着。

本格的な米本土進出に弾みがつくと思いきや、王国アメリカを繰り返し襲うパンデミックの猛威は凄まじく、国内でのキャリアメイクに方針転換。2021年10月、国内のファンが固唾を呑んで見守る中、話題のパンチャー,佐々木尽(八王子中屋)を11回TKOに屠り、日本とWBOアジア・パシフィックのダブル載冠を果たす。

プロ10年目を迎えた今年1月、日本王座(V2)のみ返上。WBOの地域タイトルを守りながら(V4)、再々渡米も含めて世界タイトルへのチャンスを伺う。


あくまで推測だが、対戦相手のセバスティアン・ディアスは、武居と戦うマリオ・ディアスの兄だと思われる(出身地と姓がまったく一緒)。

S・フェザー~ウェルターまで、体重を上げ下げしてリングに上がる典型的な白星配給役。6回TKOに退いた直近(8月19日/メキシコ国内)の試合映像を見ると、130ポンドの契約ウェイトがウソのようにお腹周りが膨れ上がっていた。

計量後の食事と水分補給が過ぎたのは間違いないが、いったい一晩で何キロ戻したのか。煽りVでは「世界前哨戦」の言葉も聞かれたが、とてもじゃないがそんな実力の持ち主ではない。

フィジカルは頑丈そうで、打たれながらもコツコツ手数を返してくる。メキシカンのアンダードッグを侮ると、思わぬ反撃を食らって痛い目に遭うのは必定。とは言うものの、いくら何でもこの選手相手にそれはないだろう。


◎平岡(27歳)/前日軽量:142ポンド(64.4キロ)
現WBOアジア・パシフィックJ・ウェルター級(V4),前日本S・ライト級(V2/返上),前日本ユース同級(V1/返上)王者
戦績:22戦全勝(17KO)
2014年度東日本新人王(ライト級)
身長:180センチ,リーチ:188センチ
左ボクサーパンチャー
※平岡の略歴に触れた過去記事(2018年2月28日)
移籍組み,ベテラン,新鋭が勢揃い - ローマン VS 松本 後楽園決戦アンダーカードシhttps://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/369c5a2d986ad30ca3204828004b3e8b

◎S・ディアス(30歳)/前日軽量:141ポンド(63.9キロ)
戦績:25戦18勝(13KO)6敗1分け
身長:身体データ不明
左ボクサーファイター


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拳四朗の後継者現る。

108ポンドで熱い視線を浴び始めた坂間叶夢(さかま・かなむ/ワールド・スポーツ)が、7月25日に続いて井上尚弥のアンダーに召集。




2021年5月のデビュー(C級:4回戦)以来、8連勝(7KO)の快進撃を続ける二十歳の若武者は、都立の淵江高校に通いながら17歳でプロ入り。

幼い頃から空手で鍛え始め、小学2年でキックを習い出した後、小学4年からボクシングに鞍替え。U-15全国大会で優勝と準優勝を2度づつ果たしており、本格的なアマチュアキャリアに進まなかった為、ファンの認知は余り高くはなかった。

2021年度の全日本新人王を獲得して、技能賞に選出されたことでもわかる通り、秀逸なスピード&シャープネスを武器に戦う、小気味のいいテクニカル・パンチャータイプ。

ジャブのタイミングと精度に優れたセンスを感じさせてくれる。さらに手数が良く出る上、ラッシュに見せる連打もけっして大振りにならずコンパクト。自ら専属コーチを務める齊田竜也会長(アトランタ五輪代表候補/国際ジムでプロのトレーナー修行後独立)のみならず、大橋会長が惚れ込むのも無理はない。

フィリピンから招聘されたジョン・ポール・ガブニラスも、23歳の若きホープ。10勝(7KO)2敗の戦績が示す通り、軽量級離れした強打を売りにする。

8月15日に同い年の同胞ミレイ・ファハルド(11勝10KO1敗)とぶつかり、ショッキングな初回TKO負けを喫したばかりで、再起戦が初来日となった。

坂間は無闇に攻め急がないことが大事。


「Winner-Take-All」充実際立つ王者のパワー vs 技の挑戦者 - 井上尚弥 vs M・タパレス アンダーカード・プレビュー I -

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<1>12月26日/有明アリーナ/日本バンタム級タイトルマッチ10回戦/モンスター・トーナメント決勝
王者 堤聖也(ワタナベ→角海老) vs 日本3位 穴口一輝(真正)






国内では破格中の大破格と表すべき、優勝賞金1千万円を争う大橋ジム主宰による「モンスター・トーナメント(井上尚弥4団体統一記念杯)」の決勝戦。

充実著しい強打の王者が、デビュー以来無傷の6連勝(2KO)で勢いに乗る若き技巧派の挑戦を受けて立つ。


OPBF王者(開催発表当時)栗原慶太(一力)、WBOアジア・パシフィック王者西田凌佑(六島)、捲土重来に備える比嘉大吾(志成)、S・フライ級で世界挑戦に失敗した後、階級を上げて再チャレンジを諦めない石田匠(井岡)など、国内バンタム級の頂点を競う実力者の参集に期待が集まったものの、フタを開けてみれば見事に不参加。

前景気を盛大に煽ったまでは良かったが、肝心要のチャンピオンが1人も出ない。「体のいい挑戦者決定トーナメントじゃないか・・・」、「そんなことだろうと思った」と失望の涙にくれる(?)ファンを多少なりとも救ったのが、昨年獲得した日本タイトルを防衛中の堤聖也だった。


「呪われた日本バンタム級(王座)」

2018年1月から2022(昨)年6月まで、およそ4年半に渡って試合を巡るトラブルやアクシデントが相次ぎ、安定したチャンピオンの交代が出来ないで来た国内バンタム級に落ち着きを取り戻し、本来あるべき姿に回帰させた立役者が他ならぬ堤。

熊本出身の王者は、地元の九州学院高校から平成国際大へ進んだアマ経験者で、高校時代は井上拓真(神奈川県/綾瀬西高)、田中恒成(岐阜県/中京高)、阿久井政悟(岡山県/倉敷翠松高)、坪井智也(静岡県/浜松工業高)、岩田翔吉(東京都/日出高=目黒日大高)ら、錚々たるメンツが同じL・フライ級にいた為、タイトルには縁がないまま卒業することになった。

それでも国体で準優勝(大学時代)した他、高校選抜で3位に食い込むなど、U15全国大会で早くから名を馳せた天才キッズ(95年)世代の狭間で充分過ぎる活躍を見せた。


100戦を超える豊富なアマキャリアを持つ堤は、大学を3年で中退。ワタナベジムに入門してB級ライセンスを取得する。多くのトップ・アマ同様、6回戦でプロのスタートを切った。

2018年3月の初陣からタイ,フィリピン,中国人選手らを相手に5連勝(4KO)をマーク。2戦目のタイ遠征に続き、4戦目には北京でも戦った。2019年9月、角海老宝石ジムに移籍。指導を受けていた石原雄太トレーナーが角海老に移り、その後を追ったという。

また、角海老の奥村健太トレーナーは熊本時代のステーブル・メイト(本多フィットネス)だったそうで、旧知の顔がいることも幸いした模様。

◎プロ3戦目:堤聖也 vs 稲元純平 / 2018.9.4 DANGAN【B級トーナメント2018 バンタム級決勝】
2019年11月3日/DANGAN公式
https://www.youtube.com/watch?v=DHn0Pdv90ic&t=195s


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プロ2年目を迎えた堤は、引退したゴッド・レフトこと山中慎介の名前を冠したトーナメント(GOD'S LEFTバンタム級トーナメント:通称山中慎介杯)への出場を決める。

「アマチュア・エリートと言っても、一度も日本一になっていない。U-15の全国大会では阿久井(政悟)にたった45秒でストップされたし、高校でも井上拓真や田中恒成、岩田翔吉がいて、大学時代も含めて結局全国優勝できなかった。」

「当たり前ですけど、ボクサーなら誰だってチャンピオンになりたい。一番になりたいんです。トーナメントの話を聞いて、タイトルに近付くチャンスだと思った。」


様々なアイディアで積極的に興行を仕掛けるDANGANが、バンタム級で将来を嘱望される若手のA級ボクサーを対象として、東京上野クリニックの後援を取り付けて主催。100万円の優勝賞金とスポンサーからの副賞に加えて、「GOD’S LEFT賞」として山中自ら高級時計を贈呈する。

堤以外には、日本8位の荒木哲(斉藤スポーツ)、11位でフライ級の全日本新人王を獲った山下賢哉(JBスポーツ)、同じく14位の相川学己(三迫)、大橋ジムが自信を持って送り出す中嶋一輝(アマ72勝15敗)、セレス小林(元WBA S・フライ級王者)が手塩にかける南出仁(アマ43勝22敗/全日本選手権・国体準優勝)、渡辺健一(ドリーム)の6名が揃った。

※関連記事:山中慎介とボクシング業界の危機感。プロ選手は全盛期の半分まで激減。
2019年6月26日/Number Web:ボクシング拳坤一擲
https://number.bunshun.jp/articles/-/839797


「色々な事情(おそらくはジムの移籍問題)があって、シード枠にして貰ったんですが・・・」

1回戦(2019年7月23日/この時点ではワタナベ所属)を免除された堤は、11月9日にセットされた2回戦(準決勝)からの出場予定だったが、初戦を勝ち上がった対戦相手の山下賢哉が棄権した為、不戦勝扱いでファイナリストとなる。

2020年1月に行われた中嶋一輝(大橋)との決勝戦を、0-1のマジョリティ・ドロー(8回戦)で勝ち切れず、ジャッジ1名が勝利を支持した中嶋が勝者扱いで優勝。

公式記録上は引き分け。負けた訳ではないが、「必ず優勝します。賞金の100万円は、苦労をかけた母親にプレゼントしたい。」と抱負を述べていた堤に取って、黒星に等しい結果だった。

◎[FINAL] 山中慎介presents GOD`S LEFTバンタム級トーナメント決勝
2020年5月11日/DANGAN公式



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その後の武漢ウィルス禍による興行の自粛も痛かったが、同年10月に大一番が決まる。比嘉大吾との10回戦である。

ウェイトオーバーでWBCフライ級王座を失った騒動(2018年4月15日のV3戦/白井具志堅ジム閉鎖の発端)で丸1年のサスペンド(ライセンス停止処分)を受けた比嘉は、およそ1年半の休止後ライセンスの再発行をJBCに認められ(2019年9月)、それからさらに5ヶ月後の2020年2月13日、119ポンド契約の8回戦で再起。

フィリピン人選手から2度のダウンを奪って6回TKO勝ちを収めたものの、いまいち冴えを欠くパフォーマンスに加えて、「燃えるものが無くなった」と引退を示唆する発言もあり、大いにファンをやきもきさせたが、1ヶ月後の3月13日に白井具志堅ジムとの契約を更新しないと公表。

去就に注目が集まる中、6月30日に師匠であり盟友でもある野木丈司トレーナー(責任を取る格好で白井具志堅ジムを辞した)とともに、井岡一翔が立ち上げた志成ジム(当時の名称はAmbition GYM)への移籍をリリース。新しい環境でのリスタートに向け、ランキングこそ13位と低いが、アマ時代に2度の対戦経験があり(堤の2勝)、山中慎介杯で地力を発揮した堤を敢えて選んだという流れ。


互いにパンチのある者同士、丁々発止の白兵戦は一進一退を繰り返し、決定的な場面を作れないまま終了のゴングが鳴り、結果はまたもや0-1のマジョリティ・ドロー。堤は悔しさを隠さなかったが、本調子に戻り切れていないとは言え、遥か格上の比嘉と五分に渡り合い評価を上げる。

「呪われた」バンタム級王座は、幾多の紆余曲折を経ながら、2019年7月のタイトルマッチで齊藤裕太(花形)を3-0判定に退けた鈴木悠介(三迫)に移っていたが、2020年4月の初防衛戦がパンデミックの影響で流れた後、2021年1月後半、網膜はく離を公表した鈴木が返上・引退。

その後もすったもんだが続き、2022年2月5日に改めて決定戦(何度目になるだろう)が組まれ、鈴木に指名挑戦する筈だった1位澤田京介(JB/札幌工高→日大/アマ61勝25敗)が、帝拳期待の2位大嶋剣心(帝拳)に5回負傷判定勝ち。新チャンピオンとなる。


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比嘉と引き分けた後、11位から10位に止まっていた堤は試合から遠ざかった。当然その間もランキングは変遷・推移を続け、試合枯れの堤も玉突きで少しづつランク・アップ。終わりの見えないパンデミックと本番直前の相手都合によるドタキャンに復帰を阻まれ、レイオフが1年を過ぎた2021年暮れに3位に上がると、澤田・大嶋の2トップが相まみえた2月の月例で1位に自動昇格。

決定戦でベルトを巻いた新王者には、ランク1位との指名戦履行が義務付けられる。JBCルールに従い、澤田も初防衛戦で堤の挑戦を受けなければならない。こうして6月23日、後楽園ホールで両者が激突。


第2ラウンドにバッティングが発生して澤田が右の目尻をカット。さらに強烈な左フックを浴びて王者がダウン。深いダメージを負った澤田は、主導権を奪われ劣勢に追い込まれる。

時折り単発のヒットは返すものの、必要に応じて手堅く守りながら、ボディも抜け目なく叩く堤のペースは変わらず、第7ラウンドに連打を畳み掛けた後、第8ラウンドに右で澤田をグラつかせると、一気に詰めてレフェリーストップ。

「ボクシングを始めてから13年、初めての日本一です。この日の為にすべてを懸けてきました。3年以上勝ちが無くて焦りもあった。世界を目指します。」

「待たされたのは確かです。でも、それを言うなら澤田さんです。あの人が一番待ったんじゃないですか。傍目にもキツかったと思います。だからチャンピオンになった時は、他人事じゃなく嬉しかった。初防衛戦の相手が自分になって、そこはタイミングが悪かったとしか言えない。」


日本一の晴れ姿を何としても見せたい。見て貰いたい。故郷から呼び寄せた最愛の母に向かって、「この日があるのは、すべて貴方のお陰です。世界も獲るから、それまで元気でいてください。」とありったけの感謝を述べた堤は、己の拳で王座から引きずり降ろした澤田への配慮も忘れなかった。

敗北から2ヶ月後の8月18日、澤田は自身のSNSで眼筋麻痺を告白した上で引退を表明。

堤は同年10月、6位に留まる大嶋剣心(帝拳)を9回TKOに下して初防衛に成功。今年3月のV2戦でも、1位に進出した南出仁(セレス)に7回TKO勝ち(南出もこの敗戦を機に引退)。

8月30日には、モンスタートーナメントの緒戦(準決勝)を兼ねたV3戦に臨み、増田陸(帝拳)に3-0判定勝ち。プロ4戦目での奪取を狙う名門の”金の卵(古い)”を弾き返し、初黒星を与えた。


◎アマチュアからしのぎを削った95年世代のこと、10.20 vs大嶋剣心との因縁-
-ボクシングビート2022年9月号インタビュー
2022年8月23日/ボクシング・ビート公式


Lemino BOXING PHOENIX BATTLE 103 (フェニックスバトル103)
※8月30日の準決勝を含むライヴ配信アーカイブ(有料:要プレミアム登録)


バンタム級における指名戦を含む連続3度の防衛は、V5を果たした大場浩平(スペースK/2008年2月~2009年12月)以来13年ぶり。ファンが待ち望んだ安定チャンプの登場は、「呪い」が解けたことをリアルに実感させてくれる。

オーソドックスには右構えで対峙し、サウスポーには左構えで立ち向かう。流れの中での自在なスイッチもそれなりにこなせるのだろうが、開始ゴングからスタンスを決めて違和感なく通す独自のスタイルは、アマチュア時代から一貫して変わらない。

デビュー当初はフィジカルの強さを頼りに筋力で強振する場面も目に付いたが、試合を重ねる度に無駄な力が抜けて、相打ち気味に合わせる左右のタイミングにも磨きがかかってきた。

世界ランキングもWBA3位を筆頭に、WBC10位,IBF4位,WBO15位と、4団体すべてでランクイン。井上尚弥のS・バンタム転級により、風雲急を告げる118ポンドで存在感を増しつつある。


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大阪は岸和田出身の挑戦者穴口もまた、アマチュアのUJ(アンダー・ジュニア)全国大会で優勝したキッズ第2~第3世代の1人。中・高・大の一貫したスポーツエリート育成で知られる芦屋学園(兵庫県)に、ボクシングの1期生として入学。

高校で全国優勝を遂げると、関西大学リーグ戦でも主力として活躍を続けたが、3年で中退。2021年7月、真正ジムからのプロデビューが決まり、J.中津ジムの高田篤志を3回TKOに屠る。

◎デビュー前のインタビュー映像(公開日:デビュー戦当日)
ONEDAY with BOXER #9 Kazuki Anaguchi
2021年7月24日/BOXING REAL公式



幸先のいいスタートにもかかわらず、武漢ウィルス禍の真っ只中にぶつかったこともあって、2021年はこの1試合のみ。なかなか試合が組めない状況に苛立ち、収束の気配を見せないパンデミックの猛威を前に、気持ちが切れそうになりかけたとも。


昨年4月に決まった2戦目も3回TKOで終えると、8月,12月と3試合を消化。とりわけ12月4日の4戦目は、世界挑戦経験を持つジョナサン・タコニンに8回3-0の判定勝ち。

本来のL・フライからS・フライまで、お呼びがかかればウェイトの増減を厭わない。最近は負けが込み、すっかりアンダードッグ路線が板に付いたタコニン。不利を承知のバンタム級リミット契約を呑んで、3度目の来日を果たす。

体格差の優位も手伝って穴口は余裕かと思いきや、接近戦を挑むタコニンに押し込まれたり、フィリピン伝統の柔らかいボディワークで右のリードをいなされ、明確なクリーンヒットを決め切れない。

ジャッジ三者がフルマークを付けた採点ほど力量に開きは無く、快心の勝利とまでは行かなかったが、歴戦のタコニンに容易に反撃を許さず、ラウンドをまとめ切った点は評価に値する。タコニンにかつての高いモチベーションが残っていれば、どうなっていたかはわからないけれども。

◎Full Fight / ジョナサン・タコニン vs 穴口一輝
2022年12月10日/BOXING REAL公式



そして今年3月、モンスタートーナメントへの参戦を表明。5月の緒戦で内構拳斗(横浜光)を3-0判定に下し、8月の準決勝でもランカーの梅津奨利(三谷大和S)を完封。

◎Lemino公式(現在は無料で視聴可能/dアカウント+ログイン必須)
<1>DANGAN259 & 井上尚弥4団体統一記念モンスタートーナメント予選前半

<2>DANGAN259 & 井上尚弥4団体統一記念モンスタートーナメント予選後半


Lemino BOXING PHOENIX BATTLE 103 (フェニックスバトル103)
※8月30日の準決勝を含むライヴ配信アーカイブ(有料:要プレミアム登録)


持ち味のインサイド・ワーク、細かいステップとショートジャブ&ワンツーで相手の間合いを外し、自分の距離とタイミングを作りキープする上手さは、昨今の平均的な国内8ラウンダーでは容易に突破できそうにないとの印象。

10月初旬、同門の日本王者(S・フェザー級)原優奈とともにフィリピンでスパーリング合宿を行い、打倒堤に向けてギアを上げる。


◎【いよいよ決勝】穴口一輝バンタム級モンスタートーナメントの裏側-前編-
2023年12月24日/BOXING REAL公式


◎【明日対決】穴口一輝バンタム級モンスタートーナメントの裏側-後編-
2023年12月25日/BOXING REAL公式



典型的な「ファイター vs ボクサー」の展開を想像して、穴口を推す声も少なくないと思う。その気持ちはよく理解できる。ただし、ヘソ曲がりを地で行く(?)拙ブログは、充実した内容で防衛を続ける堤に一票。

パワーだけでなく心身のスタミナでも穴口に優り、順当なら中差程度の判定勝ちと予想。序盤から堤の圧力がまともにかかるようだと、中盤~終盤にかけてのストップも有り。


常に落ち着きを失わない冷静さは、穴口の大きな長所ではあるけれど、”いなし”だけで堤の接近を10ラウンズフルに阻み切れるのかと言えば、それは流石に難しいと見る。

穴口も足とジャブで簡単に捌けるとは考えていないだろうが、ステップスピードの変化(アップ&ダウン)をサボらず、普段より強めのジャブを増やすだけでなく、80%以上の左ストレートもスタートから惜しまず放ち、攻防の緩急に強弱も加えて、状況に応じて堤のプレッシャーを力で押し返す体力&精神力も求められる。


堤にとって怖いのは、好戦的なボクシング(強気)が空回りすること。その気になれば脚も使える上に、無駄に打たせない守りの堅さを堤も併せ持っている。

スタイルが一定の穴口に対して、左右のスイッチに象徴される戦い方の変化、取捨選択が可能な堤。引き出しの多さは、常識的に考えればプラスに働く筈だが、戦う相手との相性やその日(本番)の調子如何で、いたずらにペースを乱す無駄な動きと化し、自滅へとまっしぐらに突き進む恐れが無きにしも非ず。

チャンピオンベルトもさることながら、堤の世界ランキング(WBA3位)は、穴口の眼前にぶら下がった最高・最大のニンジン。

「Winner-Take-All」

究極の夢(世界チャンピオン)を視野に捉え出した堤は、疑う余地のない”追う者”でありつつ、同時に”追われる者”としての現実を、否が応でも実感しているに違いない。


◎堤(27歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
戦績:11戦9勝(7KO)2分け
GOD'S LEFTバンタム級トーナメント(山中慎介杯)準優勝
※2019年7月~2020年1月
アマ通算:101戦84勝(40RSC・KO)17敗
2014(平成26)年第69回長崎国体準優勝(フライ級)
2013(平成25)年第68回東京国体3位(L・フライ級)
2012(平成24)年高校選抜3位(L・フライ級)
九州学院高→平成国際大
身長:166センチ,リーチ:164センチ
左右ボクサーファイター

◎穴口(23歳)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
戦績:6戦全勝(2KO)
アマ通算:76戦68勝8敗
2018(平成30)年第73回福井国体バンタム級優勝(少年)
2017(平成29)年第29回高校選抜フライ級優勝
芦屋学園(高校→大学)
身長:166センチ,リーチ:170センチ
左ボクサー

◎Lemino公式
<1>WBA・WBC・IBF・WBO 世界スーパー・バンタム級王座統一戦 井上 尚弥 vs マーロン・タパレス
12月26日(火)無料LIVE配信(開場15:45/開演16:00)

<2>前日軽量:12月25日(月)ライヴ配信予定(開場12:45/開演13:00)





S・ミドルの明日を担う逸材? /キューバ生まれのスラッガーが地元ミネソタでV6に臨む - D・モレル vs S・アグベコ プレビュー -

カテゴリ:
■12月16日/アーモリー,ミネアポリス/WBA世界S・ミドル級(レギュラー)タイトルマッチ12回戦
正規王者 デヴィッド・モレル・Jr.(キューバ) vs WBA10位 セナ・アグベコ(ガーナ)





本来ならば、ライアン・ガルシア vs ジャーボンティ・ディヴィス(4月22日/ラスベガス)のセミで行われる筈だったモレルのV6戦。

アグベコを見舞った予期せぬ不運(後述)により、代役のヤマグチ・ファルカン(ロンドン五輪L・ヘビー級銅メダル)の挑戦を受け、初回僅か2分余りで瞬殺。高まりつつある評価にさらなる拍車をかけた。

サイズだけならヘビー級でもやれそうな体躯に、最高水準ではないが秀逸なスピードと機動力を併せ持つ。ロング・ディスタンスから放つ左ストレートが最大の武器で、切れ味抜群な上に高い精度を誇る。

ローカル・ランクのトップクラスはもとより、水増し効果によるレベルダウンが顕著な、、現代の平均的なランカー(6位より下)では容易に太刀打ちできない。


ロシア及び旧ソ連エリアの数ヶ国とアマチュア最強を競い続けるキューバで、早くから頭角を現しナショナル・チームにも招聘。2016年にサンクトペテルスブルグで開催されたユース世界選手権に派遣されると、見事金メダルを獲得。

AIBA(現在の呼称:IBA)のルール改正前なら、開催時に18歳だったリオ五輪への出場が叶っていたかもしれない逸材は、2020年(東京大会)を待つことなく、2018年4月に母国からの脱出を敢行した。

シュガー・ラモスやマンテキーヤ・ホセ・ナポレスを初めとして、これまで亡命を試みた多くの先達たちと同様、兄のラファエル・ジュニアとボートでメキシコに渡る。


「亡命者を取り締まる為、警察が沿岸一体を常に監視していた。だから脱出用のボートはビーチから100メートル離れた沖合いに停泊するしかない。」

「私たちはボートに乗る為、僅かな持ち物を背負ったまま、100メートルも泳がなければならなかった。その日はたまたま波が荒くて、目標のボートも何も見えない。本当に恐ろしかった。」

父のラファエル・シニアも一緒に行く筈だったのだが、ようやく辿り着いたボートから海中に転落。モレルは半ば錯乱状態に陥り、再び海に飛び込んで父を助けようとしたが、「心配するな。我々を追跡する警察のボートがすぐに追いつく。必ず助かる。」と諌られ思い止まる。

兄の言葉通り、警察のパトロール隊に救出された父は、20日間拘束された後に釈放され、家族が待つ自宅に戻ることができたという。


17歳当時のモレルの試合映像を入手して、すっかり惚れ込んでいたマネージャーのルイス・デ・カバス(キューバ出身)は、メキシコに当の本人が居ることを知ると、取る物も取り敢えずひとっ飛び。

「デヴィッドが1日も早くデビューしたいと願うのは当然なんだが、それをいいことに良くない連中が取り巻きに加わろうとして、かなり危ない状況だった。」

PBC(Premier Boxing Champions)の主要なプロモーターの1人、レオン・マルグレス(ウォリアーズ・ボクシング:Warriors Boxing Promotions/在フロリダ)と共同歩調を取るデ・カバスは、慌てずに渡米の機会を待つよう説得。

「プロで数試合こなせば、必ずチャンピオンになれる。君にはそれだけの素質と力がある。生活とトレーニング環境は我々がサポートするから、一切心配しなくていい。落ち着いてチャンスを待つんだ。」

「不法入国と滞在は絶対にダメだ。強制退去だけでは済まない。アメリカへの再入国が極めて困難になる。」


「国境の壁」建設が物議を醸していたトランプ政権(当時)は、メキシコからの移民流入に神経を尖らせていた。難民の申請を国境の通関手続き時点に制限するルール改正に着手。2018年11月9日に大統領令を布告する。

これに異議を唱えるサンフランシスコ連邦地裁(カリフォルニア州はメキシコ系移民の人口構成比が最も高い)が、大統領令の差し止めを決定。難民を装う不法入国に頭を悩ませてきた司法省は、トランプ政権に同調。連邦最高裁に大統領令の差し止め解除を求めるなど、事態は深刻化していた。

「移民の脚を撃て!」

ウソか本当かはわからないが、増加する一方の不法移民に苛立つトランプ大統領(当時)が、側近にそう口走ったとも報じられた。


不法移民に対するトランプ大統領の強硬姿勢や、王国ボクシング界の状況についてベテラン・マネージャーから詳しい説明を受けたモレルと兄は、首都メキシコシティに1年ほど滞在して市民権を得ると、全米で最大規模のキューバ人コミュニティがあり、母国を逃れた多くの先輩トップボクサーが拠点を置くフロリダへ移る。

そこでウォリアーズ・ボクシングと正式契約を交わすと、デ・カバス自身が住むミネアポリスへと向かう。

「サークル・オブ・ディシプリン(Circle of Discipline)」と呼ばれるボクシング・ジムを主催するサンカラ・フレイジャーと、プロでも戦った息子アドニスの下で、モレルはプロ・デビューに備えて本格的な練習を開始。

2019年8月に初回KOで初陣(6回戦)を飾ると、11月の2戦目も2回KO勝ち(8回戦)。そして2020年8月、2004年デビューの大ベテラン,レノックス・アレン(ガイアナ)をフルマークに近いワンサイドの判定に下して、WBAのレギュラー王座に就く。


プロ3戦目での世界王座奪取。

”怪物”と称された70年代のセンサク・ムアンスリン(タイ/WBC J・ウェルター級:1975年7月獲得)、”ハイテク”ことワシル・ロマチェンコ(WBOフェザー級:2014年6月獲得)に次ぐ快挙ではあったが、何しろ相手は国際的にはまったく無名の中年ボクサー。

なおかつ168ポンドには、フロイド・メイウェザーからPPVセールス・キングの座を引き継いだカネロ・アルバレスが、WBAとWBCの2団体を保持。WBOのタイトルを持つビリー・ジョー・サンダース(英)との3団体統一戦に向け、交渉を加速させていた。

すなわちモレルの王座は、WBAからスーパー王者に認定されたカネロのオコボレであり、なおかつ著名な相手を倒しての載冠ではなかった為、国際的に大きく報じられることはなく、「評価に耐え得るマッチメイク」の必要性がクローズアップされる。


武漢ウィルス禍の間を縫うように、モレルは年間2試合ペースを継続。2021年の暮れには、テキサス州ヒューストンにジムを持つ著名なトレーナー,ロニー・シールズ(140ポンドの元コンテンダー/我らが浜田剛史のWBC王座にアタックして惜敗)との新体制を発表。

生活の拠点は今もミネアポリスにあり、美しい夫人と3つになる愛息も彼の地に居るらしいが、トレーニングのベースはヒューストンに移動済み。

連続5回の防衛をすべてKOで片付けているが、メリーランドの元プロスペクト,アランテズ・フォックス(2021年12月/V2)以外に名の通ったチャレンジャーがいないことも、モレルの現在地を確認しづらくさせている。


昨年11月5日に本拠地アーモリーで行われたV4戦では、最終12回に強烈なダウンを奪ってストップしたカザフスタンの指名挑戦者アイドス・イェルボスヌイが控え室で倒れ、そのまま救急搬送される緊急事態が勃発。

搬送先の病院でこん睡状態が伝えられるも、2週間後に奇跡的な回復をリリース。開頭手術の有無については明らかにされなかったが、会話だけでなく歩くこともできるようになったとの内容で、モレルと彼のチームも安堵の深いため息をつく。

「我こそが168ポンド最強。向かうところ敵なし」と胸を張る為には、4団体を束ねたカネロ撃破が不可欠であり、カネロとともにS・ミドル級トップ2に位置づけられるデヴィッド・ベナビデスとの対戦も不可避になる。


カネロを弾き返したドミトリー・ビヴォル(WBA L・ヘビー級王者)への挑戦や、将来的にはクルーザー級への進出まで視野に捉えた陣営にとって、早くも消化試合のムードが充満する今回のV6戦。

ガーナからやって来たチャレンジャーについて、簡単に触れておこう。





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特異なギターのチューニング方法にその名を残すカントリー・ミュージックのメッカ、テネシー州ナッシュビルに移住したガーナのパンチャーは、ほんの数ヶ月前、最愛の妻とともに絶望の淵にいた。

王国アメリカに足場を移して早や10年(プロ通算12年目)、武漢ウィルス禍の猛威を乗り越え、遂に実現した世界タイトルマッチに備えたメディカル・チェックで脳動脈瘤が見つかったのである。当然のことながら、試合への出場は認められない。

開催地ラスベガスを所管するネバダ州アスレチック・コミッション(Nevada State Athletic Commission:NSAC)は、アグベコのライセンス申請と診断結果に対する抗議を却下。これはすなわち、プロボクサーとしての終焉をも意味する。


一時は引退を覚悟したアグベコだが、諦めることなく現役の継続を模索。本当に動脈瘤なのかどうか、セカンドオピニオンの選択が認められ、同コミッションが推薦する専門医の下で再検査を実施したことろ、何と今度は異常なし。

最初の検査と診断がどうなっていたのかはともかく、NSACから無事ライセンスを認められたアグベコ。8ヶ月遅れの仕切り直しが整い、世界タイトルマッチのリングに上がる運びとなった。


モレルに引けを取らない長身を中腰に構え、左腕を下げたヒットマン・スタイルから強くて重いハードヒットを繰り出す。パンチに自信があるのは勿論のこと、十二分に好戦的でもあるが、打ち終わりにオフ・バランスになることがほとんどない。

強引かつ粗雑な攻防に陥る場面も少なく、「強振=大振り・ワイルド」の印象を与えず、センシブルとまでは言えないかもしれないけれど、反応も良く動きも滑らか。

ディフェンスは前後のステップ中心になるが、ハイリスクなクロスレンジではブロック&カバーを怠らず、クリーンヒットを決め切れない難しく拮抗した展開が続いても、要所要所で手数をまとめて攻勢を取り、安全圏を確保しつつラウンドをまとめる手際も悪くない。


「スマートに戦う。」

「どんなに強い相手だとしても自分のスタイルは変えないし、その必要もない。」

昨年10月21日にアトランティックシティで行われた、クリーヴランドのプロスペクト,イサイア・スティーン(27歳/16勝12KO2敗/アマ:85勝15敗)との10回戦でも、その本領は十全に発揮されたと表していいだろう。

3-0のユナニマウス・ディシジョン(98-92,97-93,96-94)を聞いた途端、両眼を剥いて「そんなバカな!」と不満を露にしたスティーン(13KOを含む18連勝中で注目を集めるS・ウェルター級のアマ・エリート,チャールズ・コンウェルは異母兄弟)にはいささか気の毒な判定ではあったものの、ジャッジ受けの良さもガーナ人の強味。


結果的にスティーン戦が出世試合となり、WBA正規王座への挑戦が陽の目を見たという流れ。5月初めにネバダ州のライセンスが認められると、程なくしてモレル戦の再交渉がスタートする。

10月14日にアイオワのローカル興行に参戦したアグベコは、アルゼンチンから呼ばれたアンダードッグ,ブルーノ・L・ロメイ(22勝19KO12敗)を2ラウンドでストップ。S・ミドル級のリミットを若干オーバーしていたが、上々の仕上がりで試運転を終えたばかり。


そして初黒星を献上した失意のスティーンは、今年4月10日に組まれた再起戦(ラスベガス)で、中米グァテマラから出現した強打のホープ,レスター・マルティネス(28歳/16連勝14KO)に8回TKO負け。悪夢の連敗を喫してしまう。

隣国メキシコと母国を行き来しながら戦うマルティネスも、パン・アメリカン・ゲームズや中米カリブの競技大会で活躍したアマ出身者。今年7月にはフロリダでブラジルの中堅ルーカス・アブレウを4回KOに屠り、昨年7月の初渡米以降順調に白星を重ねている。

スピードこそイマイチながらも、公称180センチの頑健なフィジカルとパワーショットには相応の魅力があり、大手プロモーションとの契約には漕ぎ着けていないが、ファンの口々に上り始めそうな雰囲気が漂う。


アメリカン・ドリームの野望をたぎらすガーナ人がレギュラーのベルトを巻いて、崖っぷちに立つクリーヴランドの前王者候補の巻き返しも成り、首尾良くリマッチへの機運が高まればと言いたいところではあるがしかし・・・。

直前のオッズは、圧倒的な大差でモレルに傾く。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
モレル:-2000(1.05倍)
アグベコ:+900(10倍)

<2>betway
モレル:-2000(1.05倍)
アグベコ:+900(10倍)

<3>ウィリアム・ヒル
モレル:1/20(1.05倍)
アグベコ:9/1(10倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
モレル:1/20(1.05倍)
アグベコ:10/1(11倍)
ドロー:20/1(21倍)


ここまでの差が両者の間に存在するのかどうか、拙ブログとしては迷うところではある。スピードで若干なりとも優位に立つモレルの踏み込みに対して、アグベコがどこまでスムーズに反応できるのか。

ガーナに初の世界タイトルをもたらしたデヴィッド・コティ(元WBCフェザー級王者/シゲ福山,フリッパー上原の日本人挑戦者を一蹴)、バンタム級で破格の強打を誇った痩躯のナナ・コナドゥ(元WBA王者)、コナドゥとほぼ同時期に活躍したアルフレッド・コティ(元WBOバンタム級王者)、90年代のウェルター級を席巻したアイク・クォーティ、クォーティから”鉄壁のガード”を継承したジョシュア・クロッティ(元IBFウェルター級王者)、ジョセフ・アグベコ(元IBFバンタム級王者)、リチャード・コミー(元IBF J・ウェルター級王者)らを輩出した、ブコムと呼ばれる首都アクラの貧困地域に生を受けたチャレンジャーも、「どちらが本当に強いのか。本番のリング上で証明する。」と負けていない。

拙ブログの予想は・・・。王座を獲得したプロ3戦目以来、モレルが2度目の判定勝ち。3名のジャッジが割れたマージンを示す3-0のユナニマウス・ディシジョンも、アグベコの株もそれなりに上がるのでは・・・?。



◎モレル(25歳)/前日計量:167.6ポンド
戦績:9戦全勝(8KO)
アマ戦績:130勝2敗
2016年ユース世界選手権(サンクトペテルブルグ/ロシア)金メダル
2017年国内選手権優勝
2016年国内選手権2位
2016年ユース国内選手権優勝
※階級:L・ヘビー級(81キロ上限)
2016年ユース国内選手権2位(ミドル級:75キロ上限)
2014年U16国立学校競技大会優勝(ウェルター級:69キロ上限)
2013年U16国立学校競技大会ベスト8(ライト級:60キロ上限)
2012年U14国立学校競技大会ベスト8(フライ級:51キロ上限)
※アマチュアボクシングの年齢カテゴリー:エリート(19歳以上/旧称シニア)/ユース(17~18歳)/ジュニア(15~16歳)
身長:185センチ,リーチ:199センチ
左ボクサーファイター

◎アグベコ(31歳)/前日計量:167ポンド
戦績:30戦28勝(22KO)2敗
アマ戦績:不明
身長:183センチ,リーチ:189センチ
右ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:マーク・ネルソン(米/ミネソタ州)

副審:
パトリック・モーリー(米/イリノイ州)
グレン・フェルドマン(米/コネチカット州)
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)

立会人(スーパーバイザー):未発表





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■キューバ国立学校競技大会(Cuban National School Games)
アマチュアスポーツ(プロは資本主義の堕落の象徴といて全否定)による国威発揚を重要な国家政策に位置付け、オリンピックのメダルに最高の栄誉と価値を認め、多額の年金や住宅,高級車等の支給のみならず、指導者としての将来を約束する。

旧ソ連を始めとする共産圏諸国が築いたステート・アマ体制に倣い、キューバでも未来のメダリストを発見育成する為の組織的な取り組みが行われてきた。

「全国学校競技大会」は、日本の中学生~高校1年にあたる少年少女を対象に、14の五輪正式種目で競わせ、国際レベルの優れた才能を発掘する基盤となっている。

武漢ウィルス禍の影響により、2020年と2021年は開催が見送られたが、2022年6月に再開された(第58回大会)。

1958年の大晦日から1959年元旦にかけて、親米政権の旗頭であったフルヘンシオ・バティスタ大統領が辞任を発表し国外へ逃亡(ドミニカへ亡命)。チェ・ゲバラとともにキューバ革命を成功させたフィデル・カストロが、急速に冷え込む対米関係から旧ソ連に接近。1961年5月の社会主義宣言(革命政府樹立当初は共産主義者との疑惑を完全否定)、翌1962年10月のキューバ危機を経て、1963年に芸術文化,教育,スポーツ施策の基盤とすべく「ナショナル・スクール」体制を発足・整備した。

ドリーム vs 狼男(ルーガルー) /オン・ザ・ロードのチャンプに幸多かれ! - R・プログレイス vs D・ヘイニー ショート・プレビュー -

カテゴリ:
■12月9日/チェイス・センター,サンフランシスコ/WBC世界S・ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 レジス・プログレイス(米) vs 前4団体統一ライト級王者 デヴィン・ヘイニー(米)





※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=Fbhlp-t8oMA


のっけから恐縮だが、私はプログレイスが好きだ。スピードとキレに恵まれパンチもあり、フィジカルもメンタルも非常に強く、何よりも勇敢で男らしい。

ニックネームの”ルーガルー(Rougarou)”は、狼男に類似するフランス発祥のモンスターで、プログレイスが生まれたニューオーリンズ(ルイジアナ州/現在はテキサス州ヒューストン在住)近辺にも、同様の伝承があるのだそう。

アマチュア時代から好戦的で小気味のいいファイトが評判を呼び、キャリアを続ける間に定着したらしい。


2019年に行われたWBSS(World Boxing Super Series)シーズン2に出場したプログレイスは、テリー・フラナガン(英/元WBOライト級王者)に続いてキリル・レリク(ベラルーシ/対戦当時WBA王者)も破り、自身初となる世界タイトル(正規)を獲得。順当に決勝進出を果たす。

同じくWBSSの準決勝でイヴァン・バランチュク(ベラルーシ)を破り、WBCとIBFの2冠王となったジョシュ・テーラー(英)を相手に、敵地ロンドンでモハメッド・アリ・トロフィーを争うことに。

サウスポーのテーラーはプログレイスよりも一回り大きく、地の利も含めて難儀はするだろうけれど、それでも私はプログレイスの勝利を確信しており、テーラーが仕掛ける肉弾戦に巻き込まれて苦闘を強いられ、マージンの割れた0-2判定(114-114,113-115,112-117)を失う結果に我が眼を疑った。


丸々1年を休み、翌2020年10月に再起すると、パンデミックで思うように試合を組むことができず、4月の1試合のみで2021年を終える。武漢で発生した新種ウィルスの猛威がようやく落ち着いた昨年、3月に中東ドバイでアイリッシュの中堅,タイロン・マッケンナを6ラウンドでストップ。

さらに11月には、故郷ニューオーリンズでタフなサウスポー,ホセ・セペダを終盤11ラウンドに倒し、ジョシュ・テーラーが放棄したWBC王座を獲得。


マッチルームUSAと正式契約を結び、DAZNで配信された今年6月の初防衛戦(ニューオーリンズ開催)では、プエルトリコの伏兵ダニエリート・ソリージャの右を食らい、初回終了間際にダウンを奪われる波乱の幕開け。

思い切りのいい左の強振に右クロスを合わされたが、パワーで打ち勝ちソリージャを後退させたと思った途端、身体ごと飛び込むようにソリージャが返す右を貰ってしまう。勢い余ったソリージャに押し倒される格好となり、スリップの裁定に救われたが明白なクリーン・ノックダウン。

第3ラウンドに左強打でダウンを奪い返したものの、ディフェンシブなスタイルに転換したソリージャを詰め切れず、2-1のスプリット・ディシジョン(117-110,118-109,113-114)でV1達成。

挑戦者ソリージャのランキングはWBC21位。圧倒的な優位を伝えられたプログレイスだったが、思わぬ苦戦にバツの悪い表情を隠さず、「しっかりミスを修正して、万全な姿をニューオーリンズのファンに必ず見せたい。より強くなって帰って来る」と決意を述べる。


一方のヘイニーは、ロマチェンコに一泡吹かせたテオフィモ・ロペスを破り、ロマ vs テオフィモを凌駕する超々特大のアップセットで4団体統一王者になってしまったジョージ・カンボソスにアタックするハードラックに恵まれ、再戦にも完勝して完全アウェイの豪州で実力を発揮。

スピード&クィックネスに優れた黒人特有のスタイル故に、デビュー前から「メイウェザーの真の継承者」との呼び声も高かったが、我らがリナレスとの後半~終盤の戦い方を見て幻滅した。

ロマチェンコとの再戦はもとより、ジャーボンティ・ディヴィス,シャクール,イサック・クルスらとの対決を避けるように140ポンドへ上がる姿を見て、今度こそ心の底から失望した。


現在のヘイニーに期待することなど何もない。リング誌が12月3日に更新したラP4Pランキングで、8位のタンクより1つ上の7位に付けていることにも全然納得がいかない。
※RING RATINGS - POUND FOR POUND ALL WEIGHTS(DEC. 02 2023)
https://www.ringtv.com/ratings/

プログレイスに取って幸いなのは、ジョシュ・テーラーと違って、ヘイニーがフィジカルでゴリゴリ押して来るタイプではないこと。ヘイニーのリバウンドにもよるが、体格差への不安も少ない。

プログレイスが距離を詰めると、例によって執拗なクリンチ&ホールドで時間を使うだろうが、いたずらにカッカすることなく、務めて冷静に振舞って欲しいと願う。荒っぽくヘイニーを振り回したり、ラビットパンチやキドニーブローで減点されたら元も子もなくなる。

そして頭に血が上ったまま突進し、サイドへかわさるのと同時にリターンの軽打を許してみすみすポイントを失い、打ち終わりに真正面に留まってカウンターを浴びるのは余りに勿体ない。


直前のオッズを確認。思ったよりも接近している。優位に立つのは、王者ではなく挑戦者。お断りするまでもなく、前評判はやはりヘイニー推し。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ヘイニー:-350(約1.29倍)
プログレイス:+275(3.75倍)

<2>betway
ヘイニー:-400(1.25倍)
プログレイス:+275(3.75倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ヘイニー:2/7(約1.29倍)
プログレイス:5/2(3.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
ヘイニー:1/4(1.25倍)
プログレイス:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)


ラスベガスに生活と練習のベースを置くヘイニーだが、周知の通り生まれはサンフランシスコ。米国内とは言え、プログレイスは完全アウェイの真っ只中に乗り込む。

キックオフから前日計量まで、事あるごとにヒートアップを繰り返してきた2人だけに、本番のリングで予期せぬトラブルの発生も懸念されなくはない。

WBSSがそうであったように、キャリアを左右する大事な試合の度にオン・ザ・ロードを余儀なくされる。プログレイスに多幸を祈るのみ。


◎プログレイス(30歳)/前日計量:139ポンド
WBC S・ライト級(V1),元WBA同級(V0),元WBC暫定同級(V0)王者
元WBCダイヤモンド同級王者(V2)
戦績:30戦29勝(24KO)1敗
世界戦通算:6戦5勝(3KO)1敗
※WBCダイヤモンド王座:4戦3勝(2KO)1敗(世界戦2試合と重複:1勝1敗)
アマ通算:87勝7敗
2012年ロンドン五輪代表候補
2011年全米選手権ベスト4
階級:ウェルター級
身長:175センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター


◎ヘイニー(25歳)/前日計量:140ポンド
WBA(V2),前WBC(V7),IBF(V2),WBO(V2)ライト級王者(4団体統一)
※WBC以外の3団体も返上の意向を表明済み
戦績:30戦全勝(15KO)
世界戦通算:8戦全勝(1KO)
アマ通算:130勝8敗
2013年ジュニア世界選手権(キエフ/ウクライナ)ベスト8(バンタム級)
2015年ユース全米選手権優勝(ライト級)
2014年ジュニア全米選手権優勝(バンタム級)
2013年ジュニア全米選手権準優勝(バンタム級)
身長:173センチ,リーチ:180センチ
右ボクサーファイター


◎前日計量(ハイライト)
<1>Seconds Out


<2>Fight Hub TV


※フル映像:前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=aW_Hhjj9Y4s


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□リング・オフィシャル
主審・副審:未発表
立会人(スーパーバイザー):ドウェイン・フォード(米/ネバダ州/NABF会長)


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□関連映像
<1>ALL ACCESS | HANEY VS PROGRAIS:Regis Prograis Official
(1)EPISODE 1
https://www.youtube.com/watch?v=zmTCCoRTbIE
(2)EPISODE 2
https://www.youtube.com/watch?v=yhC6pQ7xjdQ

<2>INSIDE: HANEY v PROGRAIS | FULL EPISODE:RealDevinHaneyTV
(1)EPISODE 1
https://www.youtube.com/watch?v=sD9gs3vguvg
(2)EPISODE 2
https://www.youtube.com/watch?v=qGGVx5YhpCA
(3)EPISODE 3
https://www.youtube.com/watch?v=hpVo87WWSFA

<3>Inside Look: Devin Haney Vs Regis Prograis
https://www.youtube.com/watch?v=wQbIJLeD_Fo

<4>キック・オフ・カンファレンス
2023年10月18日
https://www.youtube.com/watch?v=kaxlCRVDNT8


2戦連続の巨人退治 - R・ラミレス vs R・エスピノサ ショート・プレビュー -

カテゴリ:
■12月9日/C・F・ドッジシティ・センター,フロリダ州 ペンブロークパインズ/WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ロベイシー・ラミレス(キューバ) vs WBO10位 ラファエル・エスピノサ(メキシコ)





※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=mtmzr78PYa4


井上尚弥 vs スティーブン・フルトン戦のセミとして初来日を果たし、清水聡を5ラウンド途中のストップで引退に追い込んでから5ヶ月。2度目の防衛戦に迎えたチャレンジャーは、185センチのタッパに恵まれた無敗のメキシカン。

大差の3-0判定でWBOのベルトを奪取した4月のアイザック・ドグボェ(ガーナ)戦を含め、2年連続の年間3試合ということになる。


「ラミレスなら(尚弥は)勝てると思う。」

試合後のインタビューでリアル・モンスターの今後について聞かれた大橋会長が、「あれなら問題ない・・・」とのニュアンスを漂わせながら、井上自身が否定的(フルトン戦直後まで)だったフェザー級進出に言及。

そして、解説席に陣取った清水の戦友,村田諒太も、「後半まで粘ればわからない」と繰り返し指摘していたが、清水戦のラミレスはけっして褒められた仕上がり&出来ではなかった。


これも村田が再三言っていたことだが、ラミレスは早々と息が上がり出してしまい、コンディションが万全でないのは一目瞭然。

アマチュア時代から欧州を始めとした海外遠征を数多く経験しており、ほぼ2週間前(7月12日/試合は25日)の羽田到着だったことを考慮しても、時差の影響は考えづらい。

プロ入り当初からコンビを組むイスマエル・サラス(現在はラスベガスに拠点を置く)の下で追い込みのキャンプを敢行。18日(来日して6日目)に大橋ジムで行われた公開練習での動きに特段の問題は感じられず、身体もしっかり絞れていた。


世界チャンピオンでさえ、防衛戦の合間にリミット+1~3ポンド程度の契約ウェイトで頻繁にノンタイトルをこなしていた20世紀のプロボクシングでは、2~3ヶ月のスパンが常識だったし、世界戦(15ラウンド制)の本番1ヶ月前に10回戦を組むこともある。

ドグボェ戦(4月1日/オクラホマ州タルサ)から4ヶ月近く開いていたものの、年間2試合が当たり前になってしまった現在、休養も含めた準備期間が十分ではなかったのかもしれない。

大きくてスピードに欠ける上にディフェンスも甘い清水を映像で確認した時点で、「普通にやっていればOK。何の問題もない」と判断していたとしても不思議はなく、「100%に仕上げるまでもない」と見ていたフシも否定はできないけれども。


公称180センチの清水を5センチも上回る規格外の長身を売りにするエスピノサは、メキシコ国内におけるボクシングの要所の1つで、カネロのホームタウンとしても知られるグァダラハラの出身。

2013年2月デビューの10年選手で、無傷の21連勝(18KO)で台頭中(?)と言う訳だが、レコードに名のある相手は皆無。2018年7月から2020年6月まで2年近いブランクを作っているが、無名故に詳細なインタビューは行われておらず理由はわからない。

メキシカンの手厚いバックアップには定評のあるWBCでもランキングに名前はなく、今年9月に突如WBOのランク入り(11位)を果たすも、明確な根拠となる戦果はなく、ラミレスのキャリアを差配するトップランクの政治力と申し上げるのみ。


従って直前のオッズもご覧の通り。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
R・ラミレス:-1200(約1.08倍)
R・エスピノサ:+650(7.5倍)

<2>betway
R・ラミレス:-1099(約1.09倍)
R・エスピノサ:+600(7倍)

<3>ウィリアム・ヒル
R・ラミレス:1/12(約1.08倍)
R・エスピノサ:11/2(6.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
R・ラミレス:1/20(1.05倍)
R・エスピノサ:6/1(7倍)
ドロー:33/1(34倍)


デビュー戦をしくじった大失態の影響が尾を引いているのだろうか、ボブ・アラムは五輪連覇の輝かしい実績を持つキューバ人のキャリアメイクについて、いささか慎重に過ぎるきらいがある。

ファンマ・ロペス(懐かしい)からオルランド・サリド,マイキー・ガルシアを経てロマチェンコへと渡り、さらにオスカル・バルデス,シャクール・スティーブンソン,エマニュエル・ナバレッテへと引き継がれたWBOのフェザー級は、10年以上の長きに渡ってトップランクの支配下にあった。

ロマチェンコ以降の王者たちは、「階級アップによる返上→決定戦」,すなわちベルトの禅譲を繰り返しており、決定戦の相手は通常勝利が見込めるアンダードッグをあてがう。そしてラミレスも例外では有り得ない。


先輩王者たちも安全確実にベルトを巻き、防衛戦では相応の実力者を迎えているが、J・フェザー級で一度は頂点に立ったドグボェは、バルデス,シャクール,ナバレッテの3人に用意した選手たちよりは危険だった為か、ラミレスには「二桁台の大柄な下位ランカー」を連続で調達。

リスク回避がミエミエのマッチメイクに関して、「時間の浪費」「才能の無駄使い」等々の批判的な意見も散見される。

注目度が上昇中のIBF王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)もトップランクが保有しており、入札になったWBAの次期王座決定戦(S・フェザー級への増量を表明したリー・ウッドが返上)をトップランクが落札。


東海岸の期待を集めるWBA2位のレイモンド・フォード(24歳/14勝7KO1分け)は、エディ・ハーン率いるマッチルームUSA傘下。対する1位オタベク・ホルマトフ(コルマトフ/ウズベキスタン)は、ジュニアとユースで華々しい実績を持つサウスポーのエリート・アマ。

2021年に渡米。フロリダで活動のベースを築きながら、11連勝(10KO)の快進撃であっという間に王者候補の列に並んだプロスペクトの1人。今年3月に渡英してトーマス・パトリック・ウォード(29歳/33勝5KO1分け)を5回で粉砕。WBAの指名挑戦権を得た。

エリミネーターを直接手掛けたのは、フィル・ジェフリーズというイングランドのローカル・プロモーターで、ウォードを保有している。エディ・ハーンだけでなく、在米大手プロモーションとの契約には漕ぎ着けていない模様。


来るべき井上尚弥の5階級制覇(+3階級での4団体統一)を睨むアラムが、ホルマトフをハンドリングする興行会社(Undisputed Boxing Championship/在フロリダ:代表者はおそらくロシア人か旧ソ連邦に出自を持つと思われる)と渡りを付け、フォードとの対戦交渉を不首尾に終らせ入札に持ち込んだと見るのが正解だろう。

PBC(Premier Boxing Champions)と良好な関係を保つWBC王者レイ・バルガス(メキシコ)以外は、すべてトップランクが抑えたという次第。

もっともそのWBCも、先週マイケル・コンラン相手に大番狂わせを引き起こし、指名挑戦者になったばかりの1位ニック・ボール(英)は、アラムがタイソン・フューリーを共同プロモートするフランク・ウォーレンの持ち駒。

また、武漢ウィルス禍の最中にナバレッテと五分の熱闘(2020年10月)を繰り広げた2位のルーベン・ビリャ(ビジャ/米)もアラムの選手で、S・フェザー級で「階級の壁」に弾き返されたバルガスの首を虎視眈々と狙う。

マッチルームのボクシング部門を束ねるエディ・ハーンは、ウッドとの再戦(今年5月)でリベンジを許し、前王者となった3位マウリシオ・ララ(メキシコ)をPBCへ送り込み、井上も含めた統一路線に割り込みたいところ。

いずれにしても、アラムは井上陣営の意向に配慮しつつ、ビジネスの旨味を最大限に引き出すべく、間もなく126ポンドの統一路線が具体化させる筈。


それまでの間、ラミレスには何としてもチャンピオンでいて貰わねば・・・との内部事情はご同慶の至りと申し上げる以外にないけれど、清水よりも8歳若いエスピノサは、「生涯に一度あるかないか。正真正銘のビッグ・チャンス。必ず勝つ!」と野心を燃やす。

長身痩躯のメキシカンと言えば、ナバレッテを筆頭に、ギクシャクとしたおかしなリズムから遅れ気味に届く大きなフックとアッパーを振って、多少の被弾はお構いなしで接近戦を挑むファイターをイメージしがち。

しかし、「El Divino(エル・ディヴィーノ:神,唯一無二の神聖さを表す)」という大それたニックネームを持つ軽量級の巨人は、清水ほどスローでもなくディフェンスもまずまず。

スピーディなワンツーと意外に素早い前後のステップワークを駆使しながら、中間距離で無難に手数をまとめたり、中途半端なスウェイバックに頼って墓穴を掘る長身特有の悪癖が余り目立たない。

ラミレスが清水戦と同程度の仕上がり具合だと、後半まで食い下がられてガス欠に追い込まれ、自滅半ばに万が一の事態に陥る確率がゼロとは言えなくなる。


とは言え、速さと柔軟性ではキューバの天才サウスポーに及ぶ筈もなく、ややもすると左フックに対する反応が遅れる傾向を、アマチュアの最高峰を極めた高精度のコンビネーションで抜け目なく襲う。

上手に押し引きしながら、適時カウンターをまぶしては安全圏を行き来する。丁寧なポイントメイクを徹底されると、もうどうしようもない。

”メヒコ版タワーリング・インフェルノ”よろしく、カウンターを恐れずスタートからガツガツ行くのも一策なれど、自分の距離をキープしながら長いストレートを打ち下ろし、頭を低くして入って来る相手をステップバックでいなしつつ、アッパーで身体を起こしてはまた打ち下ろすのがエスピノサ本来のボクシング。


簡単に倒せるとばかりに、序盤から無闇に強振して息切れした清水戦の愚を、ラミレスが再びやらかすことはないだろう。

エスピノサの打たれ強さによっても状況は変わるが、仮にサイズで脅威を感じさせることができたとしても、その瞬間にラミレスは安全策を採り、無駄を省いて隙を見せなくなる。大差の3-0判定か中盤意向のTKOでV2達成と見るべき。


◎ラミレス(29歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:14戦13勝(8KO)1敗
アマ通算:400勝30敗(概ね)
2016年リオ五輪金メダル(バンタム級)
2012年ロンドン五輪金メダル(フライ級)
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)ベスト8(バンタム級)
※本大会で銅メダルを獲得する地元カザフのカイラット・イェラリエフ(リオ五輪代表/2017年世界選手権金メダル)に0-3判定負け
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)3回戦敗退(フライ級)
※ロシア代表ミーシャ・アローヤン(ロンドン五輪銅だメル/世界選手権2連覇)に11-15で惜敗
2011年パン・アメリカン・ゲームズ金メダル(フライ級)
2013年パン・アメリカン選手権金メダル(バンタム級)
2010年ユース世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル(バンタム級)
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル(バンタム級)
キューバ国内選手権優勝5回(2011年・2012年・2014年・2015年・2017年)
身長:168センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター


◎エスピノサ(29歳)/前日計量:125.3ポンド
戦績:21戦全勝(18KO)
身長:185センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


※フル映像:前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=3uSNo7BtpAo


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■リング・オフィシャル:未発表



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