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■11月16日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBC世界ライト級王座決定12回戦
前統一S・フェザー級王者/WBC1位 シャクール・スティーブンソン(米) vs WBC6位 エドウィン・デ・ロス・サントス(ドミニカ)



※OFFICIAL TRAILER


国内ライト級の雄,吉野修一郎(三迫)から2度のダウンを奪い、一方的な展開で支配し続け、6ラウンドでストップに追い込んだシャクールのパフォーマンスは、「五輪銀メダル+無敗でプロ2階級制覇」の実績に恥じない立派なものだった。

130ポンドの卒業ファイトとなったジャーメル・ヘリング戦以降、WBCのベルトを吸収したオスカル・バルデス(メキシコ)、統一王者としてリオのライト級を制したロブソン・コンセイソン(ブラジル)、そして吉野を加えた直近4試合について、積極性を増したモデル・チェンジが高い評価を受けており、P4Pランク入りを後押しする声も上がる勢い。

135ポンドの頂点を争うジャーボンティ・ディヴィスとデヴィン・ヘイニーの強力な対抗馬として、揺るぎないポジションを確立。140ポンドへの進出を明らかにしたヘイニー(来月9日レジス・プログレイスに挑戦)に「ダックしやがった!(ディヴィスとシャクールから逃げた)」と逆風が吹き、株価急落(?)もむべなるかな。


バンタム級世界2位の実績とともに意気揚々とブラジルから帰国した翌年、2017年4月に6回戦でプロの初陣を飾った後、シャクールは無傷の13連勝(7KO)をマーク。上述したオスカル・バルデスがようやく放棄したフェザー級のWBO王座に就く。

スピード&アジリティに特化したディフェンシブなスタイルは、現代アメリカの黒人トップボクサーたちのトレンドを超えて、もはや金科玉条と呼ぶべき主流、基本中の基本と化した感が否めない。

あらためてお断りするまでもなく、プロの概念を一変させる「超安全運転」を流行らせはびこらせた張本人はフロイド・メイウェザーその人であり、「何はなくともリスク回避」の系譜に続々と連なる”マネー・クローン”たちの中にあって、とりわけシャクールはアマチュアライクなタッチ&アウェイが目立った。


「確かに速いし上手い。でも退屈。つまらない。」

「力の差がはっきりしている相手遥か格下のアンダードッグも倒そうとしない。」

「安くないカネを払ってスパーリングを見せられるファンはたまったもんじゃない。」

「本物のエリート・クラスだと胸を張るなら、それに相応しいボクシングを見せてくれ。話はそれからだ。」


WBC暫定王座を懸けた決定戦で、ジェレマイア・ナカティラ(ナミビア)を完封(フルマークの3-0判定)したシャクールは、多くのファンから痛烈な反発を受け批判を浴びる。

ご本尊のマネー・メイウェザー様だって、始めから専守防衛の塩漬けスタイルだった訳ではない。アトランタ五輪(1996年)のフェザー級で銅メダルに終ったメイウェザーは、130ポンドのJ・ライト級でプロのキャリアをスタート。

この階級で最初の世界王座(WBC)に就き、破竹の快進撃で連続8回の防衛に成功したが、そのうち6度をKO(TKO)で締め括った。ベルトを獲得したヘナロ・エルナンデス戦を含めれば、J・ライト級時代の世界戦は9戦9勝(7KO)であり、KO率はなんと88%。



この後ライト級に上げて事実上の黒星とされるホセ・ルイス・カスティーリョ第1戦、リマッチ(文字通りの辛勝)を含むV3を果たし、3つ目の140ポンドへとさらなる増量。

サウスポーの黒人パンチャー,デマーカス・コーリーに倒されかけながらもワンサイドの3-0判定を勝ち獲ったV3戦、スピードの違いにモノを言わせてアルトゥロ・ガッティを思うがままに嬲ったV4戦を経て、終の棲家とも言うべきウェルター級へと上がる。

135ポンドでカスティーリョに煮え湯を呑まされてもなお、”プリティ・ボーイ”と呼ばれた若き日のメイウェザーは十分に攻撃的で、自信満々の裏返しでもあるのだが、危うい姿を幾度となく晒す破目に陥った。

トップクラスの147パウンダーたちを前に、遂に本格的な体格差に直面したご本尊様は、チーフとしてコーナーを任せる叔父ロジャー(元2階級制覇王者)とともに、”超守備的なタッチ&アウェイ”へと方針転換を図る(130ポンドの終盤に実父フロイド・シニアともう1人の叔父ジェフを追放=後に和解)。


翻ってシャクールは・・・。

開花を待つ埋蔵量と素質は紛うことなき一級品。そうであるからこそ、血気に逸って然るべき20代前半から、増量を繰り返しつつ三十路に突入した老雄よろしく、リスクの徹底回避に閉じこもってどうする、いったい全体どういう了見なのかという次第。

「完全に決着するまで闘う」

20世紀におけるプロボクシングのセオリー、容赦呵責なくプロボクサーに求められたかつてのスタンダードは、今や死語と表して間違いない。

2012年のロンドン五輪に合わせて大きくルールを変更し、露骨な先行逃げ切りとタッチスタイルからの脱却を図ったアマチュアに対して、現在のプロは駆け引きとジャブの応酬が幅を利かせ過ぎだろう。

いわゆる「ラスベガス・ディシジョン」に象徴される、相手のパンチをとにかくかわし続けることを第一に、ジャブや軽めのリターンを数発当てるだけでポイントが転がり込むスコアリングに加えて、クリンチ&ホールドに頼る時間稼ぎに甘く緩くなった王国アメリカのレフェリングの堕落が拍車をかけてきた。


もっとも、あられもない抱きつき戦術に逃げ込むヘイニーに比べれば、シャクールはまだマシとの見方も成り立つのだが、ナカティラ戦の余りの評判の悪さに顔をしかめつつ、「流石にマズい」と考えたチームは、ファンの支持を得る為に戦術の転換を実行した。

それでもなお、130ポンド時代のジャーボンティ・ディヴィスやイサック・クルスのような、打ちつ打たれつの荒ぶるインファイトは有り得ない。乗るか反るかのリスクテイクなど、チーム・シャクールが追求する理想郷には存在し得ないのである。

積極性を増したとは言っても、相手の出方を良く見て慌てることなくプレスをかけ、適切な距離と間合いを見誤ることなく、無駄打ちと無駄な被弾に気を付けながら、どこまでも抑制的かつ効率的に自分の展開に持ち込む。

シャクールもまた、遅かれ早かれS・ライト~ウェルターへの階級アップを目指すに違いない。そこでどんな戦いを見せてくれるのかは、また別のお話ということになる。


◎ファイナル・プレス・カンファレンス


※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=oSH6FlTPfaM


近未来のスーパースターに3階級制覇をアシストすべく、ドミニカから呼ばれたロス・サントスは、9割近いKO率を誇る24歳の若きサウスポー。WBCとWBAが直轄する中米のローカル・タイトル(S・フェザーとライト級)に続いて、WBCの米大陸ライト級王座(有象無象の地域王座の中では長い歴史を持つ)を足がかりにランキングを上げて来た。

「グレネード(Grenade:手榴弾と言うよりランチャーのイメージ?)」のニックネームが示す通り、「危険極まりないハードヒッター」との触れ込みだが、秀逸なスピード&シャープネスに抜群のタイミングを兼ね備えたボクサーパンチャータイプ。

タンク・ディヴィスの爆発力やイサック・クルスの突進力とは一線を画し、前後のステップを軸に距離を調節しながら、鋭い踏み込みもろとも繰り出す長い左ストレート(ワンツー)が怖い。

ディフェンス無視の突貫ファイトでは当然なく、スキル&センスを感じさせるボクシング。誤解を恐れずに言えば、むしろシャクールに近いとの印象。


ハビエル・フォルトナ,ジェイソン・ロサリオ,ジョナサン・グスマン,ミシェル・リベラ等々、ドミニカの優れた才能をアメリカに送り出してきた敏腕マネージャーでプロモーターでもあるサンプソン・ルコヴィッツと、2021年4月に契約。

フェザー級で大成を期待されるルイス・レイナルド・ヌネス(24歳/19連勝13KO/アマ:85勝5敗)も同時に獲得したルコヴィッツは、ドミニカの有望株2人をPBC(Premier Boxing Champion)に売り込んだ。

そして昨年1月、Showtimeが中継する待望の全米デビュー戦で、ロス・サントスは手痛いプロ初黒星を喫する。

コネチカットを拠点に活動するS・フェザー級プロスペクト,ウィリアム・フォスター三世(30歳/16勝10KO1敗/対戦時点では無敗同士)との8回戦で、小差のスプリット・ディシジョン(74-77×2名,77-74×1名)を失う。


第4ラウンドにホールディングで減点を食らい、左瞼のカット(バッティング)にも苦しみながらフルラウンズを戦い抜き、「アンフェアなレフェリングだ」と減点に抗議するも時既に遅し。

何だかんだ言ってもアメリカ人のフォスターがホームであり、アウェイの逆風を受けるのはドミニカからやって来たジャーニーマン。オン・ザ・ロードの厳しさは覚悟の上。がしかし、どうにかこうにか冷静さ保ちつつも、抑え切れない憤懣をインタビュアーにぶつけるしかなかった。

文字通りの惜敗から僅か3ヶ月、瞼の傷が癒えるのを確認すると、テキサス出身のメキシコ系を2ラウンドで瞬殺。王国で初白星を挙げたロス・サントスは、さらに9月、フランシスコ・バルガス(元WBC S・フェザー級王者)を衝撃的な初回KOに屠ったホセ・バレンズエラと激突。

序盤からダウンを応酬し合う打ち合いとなったが、第3ラウンドでし止めることに成功。WBC米大陸のベルトを巻き、無視すべからざる存在感を示す。


そして今年7月、同じルコヴィッツ傘下の同胞エルヴィス・ロドリゲスとのホープ対決に敗れ、140ポンドからの階級ダウンを決行したフィラデルフィア期待のホープ,ジョセフ・アドルノ(24歳/18勝15KO3敗2分け)に大差を付けアウトポイント。

高い評価を受けるアドルノへの警戒感からだろうが、両サイドへの細かいポジション・チェンジを怠らず、アマ仕込みのディフェンス・ワークを駆使した丁寧な組み立てでラウンドをまとめ続け、スキルフルなボクシングへの適性を披露する。

センセーショナルなKOで話題を振りまいたバレンズエラに打ち勝ち、フィリーのスター候補にも完勝。ランキング(WBC6位)と実績に関する妥当性はともかく、シャクールを相手にしても相応の勝負ができるのではないか・・・という流れになった。


とは言え、直前の賭け率は圧倒的にシャクール。磐石に近い安定感と隙の無い緻密さは、ヘイニーが逃げ出すのも止む無し(?)。サントスのポテンシャルは注目に値するが、せめてもうあと1年、それなりに名のあるベテランや中堅と2~3試合やってからでも遅くはないとの見立て。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
シャクール:-1400(約1.07倍)
ロス・サントス:+700(8倍)

<2>betway
シャクール:-1299(約1.08倍)
ロス・サントス:+700(8倍)

<3>ウィリアム・ヒル
シャクール:1/12(約1.08倍)
ロス・サントス:13/2(7.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<4>Sky Sports
シャクール:1/10(1.1倍)
ロス・サントス:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)


「シャクールが最近の4試合と同じ戦術を採るようなら、エドにも十分勝ち目はある。」

「エドのスピード&パワーを恐れて、シャクールがパッシブな安全策に戻る可能性は低くない。そうなったら厄介。崩すのは容易じゃない。」

アウェイのドミニカンを推す少数派は、専守防衛に閉じこもるシャクールを想定しつつも、速さとキレでも五分に渡り合える筈だと、ロス・サントスの覚醒に望みを託す。


拙ブログの予想は・・・大差の3-0判定でシャクールの3冠達成と見るのが筋ではあるが、賭け率ほどの開きは無いというのが素直な感想。どちらとも取れる接近した内容のラウンドを手際良く引き寄せて、小~中差の逃げ切り3冠達成・・・?。

前評判通りにシャクールがロス・サントスをコントロールしてしまうようだと、打倒ディヴィスへの期待がいよいよ盛り上がる。

PBCがスティーブン・フルトンを日本へ送り出し、対立するアラムが強力にバックアップする井上尚弥と対峙させたのは、あくまで「勝ってくれる筈」との目論みであり、今回のロス・サントスは「負けてもとと。善戦してくれたらめっけもの」。

ライアン・ガルシアを粉砕して、事実上のライト級No.1と目されるディヴィスとのビッグ・マネー・ファイトを睨みながら、丁々発止の共闘という運び。


◎オフィシャル・プレビュー(トップランク公式)
2023年11月9日



◎Blood Sweat & Tears | Shakur Stevenson vs Edwin De Los Santos | FULL EPISODE
2023年11月13日



◎スティーブンソン(26歳)/前日計量:ポンド
WBO J・ライト級(V2/はく奪:体重超過による失格),WBC S・フェザー級(V0),元WBOフェザー級(V0)王者
戦績:20戦全勝(10KO)
世界戦:4戦全勝(1KO)
現在の世界ランク:IBF1位(9月度/10月未発表)/リング誌:ライト級5位(P4Pランク外)
※WBAとWBO:10月月例にてランク外(WBCの決定戦出場が決定した為)
アマ戦績:詳細不明
2016年リオ五輪バンタム級銀メダル
2015年ユース全米選手権(18歳以下対象)バンタム級優勝
2014年ユース世界選手権(ソフィア/ブルガリア)フライ級金メダル
2014年ジュニアオリンピック(ネバダ州リノ)フライ級優勝
2014年ユースオリンピック(南京/中国)フライ級金メダル
2013年ジュニア世界選手権(キエフ/ウクライナ)フライ級金メダル
2013年ジュニア全米選手権フライ級優勝
身長:173(170)センチ,リーチ:173センチ
ディフェンシブな左ボクサーファイター


◎サントス(24歳)/前日計量:ポンド
戦績:17戦16勝(14KO)1敗
アマ戦績:100戦超(12敗)
※ジュニア~ユースで国際大会出場経験有り(タイトル歴含め詳細不明)
身長:173センチ,リーチ:178センチ
好戦的な左ボクサーファイター


◎前日計量


※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=mEKIQ0bW_0k


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■リング・オフィシャル:未発表