アーカイブ

2023年09月

男子初の4冠王対決 /2階級差のアドバンテージ・・・文句無しの完勝が最低ライン? - カネロ vs ジャーメル 直前プレビュー -

カテゴリ:
■9月30日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBA・WBC・IBF・WBO4団体統一世界S・ミドル級タイトルマッチ12回戦
統一王者 カネロ・アルバレス(メキシコ) vs 4団体統一S・ウェルター級王者 ジャーメル・チャーロ(米)





異なる2つの階級で、4つのベルトを保持するチャンピオン同士の激突。今秋一番の注目カード(?)が、いよいよ本番当日を迎える。

話題の中心は、2階級越えのギャンブルに打って出た挑戦者ジャーメル・チャーロの勝算の有無にならざるを得ず、在米専門サイトやyoutubeチャンネルも勝敗予想に余念がない。

リング誌も恒例の予想記事をアップしているが、7名の専門記者を含む総勢20名のボクシング関係者のうち、19名が受けて立つカネロの勝利を支持しており、KO勝ち~僅差の判定まで展開と結果に関する見解に差異はあれど、「階級の壁(168ポンド vs 154ポンド)」を超えることは難しいとの見立て。

◎FIGHT PICKS: CANELO ALVAREZ VS. JERMELL CHARLO
9月27日/リング誌
https://www.ringtv.com/658758-fight-picks-canelo-alvarez-vs-jermell-charlo/


唯一「チャーロの判定勝ち」としたロン・ボルヘス(ボストン・ヘラルド,スウィート・サイエンス等に寄稿するベテラン記者)は、「カネロの年齢的な衰え(ビヴォル戦の敗北で露になった下降線)」に言及しつつ、ジャーメルのアグレッシブネス&スキル、左フックの決定力を高く評価する。

さらには、154ポンドの4団体を統一したにも関わらず、リング誌P4Pランキング入りを果たし切れていない現状、ギャランティを含めた「過小評価」に対する鬱積した不満、メガ・ファイトを渇望し続けてきたチャーロのハングリネスにも言及。

「ジャーメルの旺盛な攻勢力と圧力を前に、カネロは有効な手立てを結局見い出せないだろう。明白な判定でジャーメル。」


1995年にBWAA(The Boxing Writers Association of America,:全米ボクシング記者協会)から「ナット・フライシャー賞(優れたボクシング・ジャーナリストの業績を讃える年間表彰の1つ)」を贈呈されたボルヘスは、実は両雄が同い年であること、多くのファンと関係者が関心を寄せる「サイズの問題(カネロ:H175センチ/R179センチ,ジャーメル:H183センチ/R185センチ)」には触れておらず、ジャーメルの積極果敢なスタイルは落ち目のカネロ(?)には手に余ると結論。


そうした一方で、リング誌編集長のダグ・フィッシャー(カネロ:7ラウンド以降KO勝ち)、及びシニア・ライターのアンソン・ウェインライト(カネロ:3-0判定勝ち)の見解に同調するマニア,ファンも多いと思われる。

■D・フィッシャー
サイズだけでなく高い身体能力にも恵まれたジャーメルは、154から168へ一気にジャンプしても十二分なパフォーマンスを発揮し、前半はカネロとも五分に渡り合える(打ち合いではなく駆け引き・インサイドワークの応酬)。

「階級の壁」はジャーメルにとって致命的な障害にはならないが、S・ミドル級にしっかりアジャストしたカネロ(リアルなエリート・クラス)のパンチに耐え切れるかどうか。そこには疑問の余地が残る。

ワールド・クラスのS・ミドル~L・ヘビーのパワーを肌で知るカネロと、未知のジャーメル。ジャーメルのタイミング,リズム,スタイル,戦術を読み切った後、カネロは充分な圧力をかけて決定的な場面を作る。

第7ラウンド以降、おそらく強力なボディ・ショットでカネロがストップを呼び込む。


■A・ウェインライト
エリクソン・ルビン,ジェイソン・ロサリオ,ブライアン・カスターノをリマッチでストップしたジャーメルと、ジョン・ジャクソン,トニー・ハリソン,カスターノに苦闘を強いられた初戦のジャーメル。

果たして今回、そのどちらが登場するのか。私が抱く最大の関心と疑問がそれだ。

待望久しいAマッチ(ビッグ・マネー・ファイト)に、ジャーメルは気合十分で臨むだろうが、S・ウェルター級の4団体を統一したカスターノとの第2戦以来、16ヶ月(1年4ヶ月)の長いオフが、(33歳になった)ジャーメルにどんな影響を及ぼすのか(及ぼさないのか)。

コンスタントに戦い続けているカネロにも、その分疲労と消耗の不安がある。(ビヴォル戦以降のパフォーマンスはいまいち冴えを欠き)全盛の勢いを失ったと見ることもできるが、それでもなお他の168パウンダーより優れている。

カネロの仕上がり次第にはなるけれど、メキシカンが慣れ親しむ拮抗したせめぎ合いに持ち込み、3-0の判定でカネロが前進を続けるだろう。


ライヴ中継を実現させたWOWOWエキサイトマッチのスペシャル・ゲストに招かれ、解説席に陣取る我らが村田涼太は、「僕の中ではイーブン。カネロが勝つにしても圧勝はない」と自論を展開。P4Pセールス・キングの落城も有りと述べる。

「(二度)L・ヘビーに上げて、またS・ミドルに戻している。5キロの増減がフィジカルにもたらす影響は小さくない。重いクラスで階級を下げて成功するケースは滅多にない。」

「(ジャーメルにとっても)6キロの体重差は確かに大きい。でも、無理をしてまでS・ミドルに合わせて来ないことも考えられる。身長とリーチのアドバンテージを活かす意味でも、スピードを維持できる状態でリング中央に留まって戦う筈(ロープを背負う時間が長くなればなるほど勝利は遠のく)。」


拙ブログの予想は・・・。フィッシャーとウェインライトの中間ぐらい。

ステロイドの助けを諦めざるを得なくなった(?)カネロに、175ポンドの調整はいかにも負担が大きく、もともと後半~終盤にかけてのスタミナを疑問視されてはいたものの、重い身体を懸命に引きずりながら息切れもかなり早かった。

S・ミドルに出戻ったカネロは、前半の貯金でゴロフキンとの因縁に決着を着けた第3戦に続いて、豪快なKOが期待されたジョン・ライダー(英)にも判定勝ち。

増量の負荷に加えて、歴戦の疲労いよいよ健在化したとの指摘は無視できないながら、168ポンドの調整によって明らかに活力と精気を取り戻している。

スタミナのやりくりに苦労が絶えず、14歳から戦い続けた経年劣化も致し方のない面はあり、キャリアが第4コーナーに差し掛かっていることに疑いを差し挟む余地はなし。がしかし、それでもカネロの優位は動かし難い。


168ポンドのリミットぎりぎりで仕上げたジャーメルの上半身は、思っていた以上に引き締まって無駄な脂肪は無かった。フィジカルの強化に「PED(Performance-Enhancing Drugs:運動能力の強化を目的とした薬物)」が含まれていないことを願いつつ、計量後のリバウンドが気にかかる。

村田の言う通り、170ポンド前後のウェイトを維持したままリングに上がるのか、180ポンド超まで戻すカネロのパワーに対抗する為にと、一定程度のスピード喪失を招致の上で175ポンド辺りまで体重を増やすのか。


ジャブ&ステップでカネロを捌き切ったビヴォルの快勝は、チーム・ジャーメルにとって大きな福音になるだろうが、S・ミドルのカネロはあの時ほど鈍くはないし、身体のキレも違う。

計量の映像を見る限り、「14ポンドの飛び級」に関するダグ・フィッシャーの推察には敬意を表するし、ボストンの論客ボルヘスが確信を抱くアップセットの可能性も当然あるとは思う。

ただし、ボルヘスが積極的に買う「ジャーメルのアグレッシブネス」は、必ずしもプラスにばかり働かないのでは。カネロほどの手練れなら、敢えて手数を控えてジャーメルを引き出し、外寄りのフックやインサイドから突き上げるアッパーのカウンターを効かせられるだろう。

そしてカネロのボディ・アタックは、充実している筈のジャーメルの気力を削り続ける確率が高く、フィッシャーが読む「7ラウンド以降のKO(TKO)決着」に確かな説得力を与える。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=UC5xLTgCbiQ


直前の賭け率はやはりカネロ。意外に接近したマージンは、ボルヘスが推す「ジャーメルのハングリネス」+「サイズのアドバンテージ(考慮せざるを得ない)」への可能性と見るべき・・・?。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
カネロ:-480(約1.21倍)
ジャーメル:+330(4.3倍)

<2>betway
カネロ:-400(1.25倍)
ジャーメル:+333(4.33倍)

<3>ウィリアム・ヒル
カネロ:2/9(約1.22倍)
ジャーメル:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
カネロ:1/4(1.25倍)
ジャーメル:7/2(4.5倍)
ドロー:14/1(15倍)


よって拙ブログは、6-4でカネロを支持。順当なら3-0の小~中差判定勝ち。ジャーメルのコンディションと戦術次第で、中盤以降のストップも有り。


◎カネロ(33歳)/前日計量:167.4ポンド
現WBA(V6),現WBC(V5),現IBF(V3),現WBO(V4)S・ミドル級王者
前WBO L・ヘビー級(V0/返上),前WBCミドル級(第2期:V1/返上),前IBFミドル級(V1/返上),WBAミドル級スーパー(V1/返上),元WBC S・ウェルター級(V6/WBA王座吸収V0),元WBCミドル級(第1期:V1/返上),元WBO J・ミドル級(V0/返上)王者
戦績:63戦59勝(39KO)2敗2分け
世界戦通算:23戦20勝(11KO)2敗1分け
アマ通算:不明
※20戦,44勝2敗など諸説有り
2005年ジュニア国内選手権優勝
2004年ジュニア国内選手権準優勝
※年齢・階級等詳細不明
身長:175センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター


◎チャーロ(33歳)/前日計量:167.4ポンド
現WBA(V2)・WBC(V3/通算V6)・IBF(V2)・WBO(V0)4団体統一S・ウェルター級王者
戦績:37戦35勝(19KO)1敗1分け
世界戦通算:9戦7勝(6KO)1敗1分け
アマ通算:56勝8敗(56勝9敗説有り)
※BoxrecとWiki(英)には「2005年ジュニア・オリンピック銅メダル」の記述があるものの正式な記録は確認できない。
身長:183センチ,リーチ:185センチ
右ボクサーファイター


◎前日計量


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=nriJgsNDrMM

180センチ超のタッパとリーチは伊達じゃない。一切弛緩したところがないジャーメルの上半身を見るにつけ、フィジカルに関する黒人ボクサーのポテンシャルの高さにはため息をつくしかない。

あらためてお断りするまでもなく、PEDに手を染めていない前提にはなるけれど、カネロに一泡吹かせることに成功して、クロフォードに続く「2階級+4団体統一王者」となったあかつきには、念願のリング誌P4Pランク入り&定着(一度入ったがすぐに外された)のみならず、名実ともにビッグネームの仲間入りが遂に実現する。

内容と出来にもよるが、首尾良くカネロ撃破を成し遂げた場合、直ちにS・ミドルの4冠を捨ててミドルに降りるのも一策。

「3階級+4団体統一」は、挑戦を続けるプロセスそのものが最高のビジネス・チャンスになる上、男女を通じて誰も成し得ていない偉業を達成したとなれば、クロフォードを超える評価とカネロに匹敵する巨額の報酬も夢物語ではなくなる。


◎メディア・ワークアウト
<カネロのみ:1時間>
https://www.youtube.com/watch?v=igqZb-16EXM

<ジャーメルのみ:1時間>
https://www.youtube.com/watch?v=XTFN16a3rSg

<アンダーカード・フル:2時間>
https://www.youtube.com/watch?v=rdbngPKX5ck

両陣営とも本気の動きではけっしてないが、カネロ,ジャーメルともに少し重そうに見える。本番2週間前(9月14日)のセットだから、キャンプ(追い込み)の疲労を隠し切れないとしても無理からぬところ。

カネロもきちんと絞れてはいるものの、やや鈍い印象。計画通りのペースなのか、2階級下のジャーメルを軽く見た結果の調整遅れなのか。あるいは、キャンプのスケジュールを狂わせるアクシデントでもあったのか。

GGGとの決着戦(2022年9月17日/T-モバイル・アリーナ)に向けた公開練習を見ると、絞り方の相違にいささかの不安を感じないこともない。単なる老婆心に過ぎないかもしれないが。

◎ゴロフキン第3戦時の公開練習
CANELO ALVAREZ FULL GENNADY GOLOVKIN MEDIA WORKOUT - CANELO BEAST MODE TRAINING TO KO GOLOVKIN
2022年8月30日
https://www.youtube.com/watch?v=2fxB8_iK1kI


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:ハーヴィ・ドック(米/ニュージャージー州)

副審:
マックス・デルーカ(米/カリフォルニア州)
ディヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)

立会人(スーパーバイザー):4団体とも未発表


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■All Access(Showtime)

<1>ALL ACCESS: Canelo vs. Jermell Charlo | Episodio 2
2023年9月22日


<2>ALL ACCESS: Canelo vs. Jermell Charlo | Ep 1 | Full Episode
2023年9月9日
https://www.youtube.com/watch?v=lFIDHPOFsIA

<3>Canelo Alvarez vs. Jermell Charlo: Press Tour Recap
2023年8月21日
https://www.youtube.com/watch?v=FdCiN31NsMk


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■キック・オフ・カンファレンス
<1>ロサンゼルス
2023年8月17日
https://www.youtube.com/watch?v=Crp4_sIBx6U

<2>ニューヨーク
2023年8月16日
https://www.youtube.com/watch?v=L7L28V2_Bg8

充実の拳四朗に歴戦の元王者がアタック - 拳四朗 vs バドラー 直前プレビュー -

カテゴリ:
■9月18日/有明アリーナ/WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 寺地拳四朗(B.M.B) vs 元WBAスーパー王者/WBC1位 ヘッキー・バドラー(南ア)





※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=J-FZ7QUMWII


傷つき疲弊した田口良一(ワタナベ)からベルトを奪い去った2018年5月。自前の興行で世界戦の招致が可能だったワタナベジムが、常打ち小屋にしていた大田区総合体育館で、108ポンドのベルト奪還に成功した南アフリカを代表する軽量級のアイドルは、一目も憚らずに歓喜の涙を流した。

そして同じ年の大晦日。マカオまで遠征して京口紘人(ワタナベ)に11回TKOの完敗。あれからもう5年も経つ。

105ポンド時代の減量苦による消耗に加えて、打ち合いを好むスタイルが災いして、肉体的なダメージが顕著になったバドラーはその後実戦から遠ざかる。同胞のファンの間でも限界説が取り沙汰された。

がしかし、敢然と引退を拒否したバドラーは長い休暇を終えてジムへ戻り、本格的なトレーニングを再開。復帰に向けて動き出したところへ、予期せぬパンデミックが襲来。


同国で発見された変異株(ベータ:N501Y系統)が猛威を振るい、カムバックは大幅な遅れを余儀なくされ、ようやく実戦のリングに登ったのは2021年5月。ヨハネスブルグに無名のフィリピン人を呼び、大差の12回判定勝ち。WBCのシルバー王座を得て、世界ランキングに再び名を連ねる。

海外の元トップスターにありがちな、お約束通りの復帰戦と言ってしまえばそれまでだが、2年半近くに及んだブランクと年齢(33歳)を考慮すれば、108ポンドのL・フライ級リミットを作り(南アの計量には不正が少なくない)、12ラウンズを戦い切っただけでも上首尾と言えた。

しかし、次々と変異を続けるCovid-19の脅威は容易に収束の気配を見せず、さらに丸1年の待機を経て、昨年6月メキシコまで飛んで遅ればせの再起第2戦。

WBOのベルトを巻いて大成を期待されながら、マイキー・ガルシアのアンダーカードでジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)に1-2の判定で敗れたエルウィン・ソトと対戦。

有体に言うなら、復活に賭ける若きスター候補のステップボードとして、遥々南アフリカから呼ばれた元王者。これもまた、世界中で日々繰り返される見慣れた光景ではある。


ところが・・・。ソトのKO勝ちに期待を寄せる地元ファンのブーイングにもめげず、南アの元アイドル,いや古豪がしぶとく食い下がった。

小柄なソトよりもさらに小さな体をコンパクトなガードでまとめ、ステップ&ボディワークを絶やさず、キレのある動きで的を絞らせない。手数を抑えてスタミナをやりくりしながら、とにかく打たれ(せ)ないことに注力。

互いに目立ったヒットもパンチの応酬もなく、駆け引きに終始した前半の5ラウンズ。中継を行うESPN(スペイン語)のアンオフィシャル・スコアは、フルマークでソトを支持していた。


第6ラウンドから圧力を強めるバドラー。全盛期の迫力は望むべくもないが、細かな出はいりをキープしつつ、手数を増やして積極性をアピール。一方のソトは、バドラーのステップを追い切れず、徐々に息が上がり出す。

ベテランの元王者をナメていた訳ではないだろうが、調整不足が垣間見える。ソトのペースダウンが明確になった第7ラウンド、ESPNのアンオフィシャル・ジャッジが初めてバドラーにポイントを与えた。

ラウンドが進むにつれ、顕著なスローダウンへとさらなる下降が続くソト。しかし、バドラーは足を止めることなく、代名詞だった全力のフル・スウィングも封じ込め、慎重な出はいりを堅持。最終ラウンド、疲労と焦りで隙が増えたソトを、バドラーの右カウンターが捉える。

腰から落ちてエイト・カウントのダウン。致命的なダメージこそないが、完全にダメを押した格好となり、ESPNのアンオフィシャル・スコアも、7ラウンド以降はすべてバドラーに振るしかなかった。

3名のオフィシャル・ジャッジが、113-114の1ポイント差ながらも全員一致でアウェイの古豪に軍配を上げる(ESPNのスコアも同じく113-114)。


率直に申し上げて、バドラーのコンディションの良さに驚いた。歴戦のダメージと消耗が目立つベテランが長い休みを取り、一次的にせよ疲れが抜けて鋭気を取り戻すことがある。

「問題なく勝てる」と踏んだソトの油断に助けられたのも事実ではあるが、12ラウンズの長丁場をフルに動き続け、後半勝負の作戦を見事にまとめ切ったバドラーとコリン・ネイサン(チーフ・トレーナー)を賞賛するしかない。


奇跡的なアップセット(?)により世界の第一戦に舞い戻ったバドラーだが、再び丸々1年のレイ・オフ。今年5月にヨハネスブルグでセットされたチューンナップは、109ポンド契約の10回戦で、対戦相手は無名のタイ人。

ソト戦に比して明らかに重く見える足取りに一瞬不安を覚えたものの、開始間もなく放ったボディから上に返す左フックの連射で、タイ人は遭えなく腰から沈没。エイト・カウントで立ち上がった後、レフェリーがそのまま試合を止めた。

力の差が有り過ぎて、調子と状態を正確に測ることが難しい即決KO。ソト戦に続く綺麗なノックアウトのお陰で(?)、思いのほか賭け率は接近している。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拳四朗:-600(約1.17倍)
バドラー:+450(5.5倍)

<2>betway
拳四朗:-1000(1.1倍)
バドラー:+650(7.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:1/10(1.1倍)
バドラー:11/2(6.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
拳四朗:1/12(約1.08倍)
バドラー:8/1(9倍)
ドロー:20/1(21倍)


直近の防衛戦(4月8日/有明アリーナ)で、ルディ・エルナンデスの秘蔵っ子,トニー・オラスクアガ(2戦続けての来日/アンダーカードの8回戦に登場予定)に強いられた苦闘も、オッズに少なからず影響しているのかもしれない。

個人的にはSky Betの1-9を支持したいし、額面通り拳四朗のKO防衛は堅い筈。アウトボクシングに活路を見い出すしかないバドラーに取って、一段と威力を増した拳四朗の左ジャブは、明白なサイズの違いも併せて大きな壁となって立ちはだかるだろう。

唯一最大の不安要素は、矢吹正道(緑)との再戦,京口紘人との統一戦の快勝で、打ち合いに開眼したかのごとく積極性を増したスタイルの変貌。


オラスクアガのポテンシャルと将来性は、間違いなくS級の評価が与えられて然るべき。それでもなお、プロキャリア僅か5戦の24歳に追い詰められた前戦の出来を、遠来のバドラーとネイサンが大きな攻略の糸口と捉えても無理はない。

5月のチューンナップとは別人のバドラーを、完全アウェイのメキシコでソトをコントロールしたバドラーを、拳四朗と寺地会長は想定する必要がある。

スタートから一気に距離を詰めて、強引なプレスでバドラーの足を止めにかかるのか。それとも以前のように、滑らかなフットワークで対抗するのか。


どちらにしても、バドラーは煩く出はいりしながら、低い姿勢とボディワークで拳四朗のジャブを外し、ディフェンスを軸に据えた駆け引きでリズムとテンポを崩しにかかる。ソト戦同様、前半戦のポイントをすべて捨ててでも、拳四朗のペースを乱すことに腐心するに違いない。

正面から打ち合い勝負に出た拳四朗が、バドラーを捉え切れずに空転する可能性を全否定し切れない恐れを、ソト戦のバドラーが感じさせるのも確か。

曲者ガニガン・ロペスを1発でし止めた右のボディ・ストレート(2018年5月のリマッチ)が、生命線のジャブ,レバーを抉る左ボディとともに、大きなカギを握るかも・・・。


◎拳四朗(31歳)/前日計量:107ポンド(48.6キロ)
現WBC(通算V10/連続V8)・WBA(V1)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:22戦21勝(13KO)1敗
世界戦通算:13戦12勝(8KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎バドラー(35歳)/前日計量:107.6ポンド(48.8キロ)
元WBA世界ミニマム級王者(V5)
※V6戦前にスーパー王者昇格,バイロン・ロハス(ニカラグァ)に敗れて王座転落
戦績:39戦35勝(11KO)4敗
身長:159.5センチ,リーチ:166.5センチ
※田口良一戦の予備検診データ
好戦的な右ボクサーファイター





●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:グァダルーペ・ガルシア(メキシコ)

副審:
ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
ホセ・マンスール(メキシコ)
ジョエル・スコービー(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■キック・オフ・カンファレンス



◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=SmFNfNLCS-4


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

国際式2戦目に臨む那須川天心(帝拳)は、対戦相手の変更がどう響くのか。初陣で与那覇勇気(真正)を完封しながら、一部のファンから判定決着に関する不満の声が漏れていた。

「日本キック史上最高」と称される存在故に、期待のハードルが高くなるのは致し方のないところではあるものの、ノックアウトにこだわり過ぎず、自ら信ずるボクシングを追及し続けて欲しい。

拳四朗への大善戦で、敗れたとは言え高い評価に確信を得た”ルディの秘蔵っ子”トニー・オラスクアガ(米)も、フライ級契約の8回戦で連続参戦。

中谷潤人と空位のWBOフライ級王座を争ったジーメル・マグラモ(比)は、前日計量で40グラムのオーバー。全裸になって秤に乗ったが、契約ウェイトをクリアできず。50.9キロでパスしたオラスクアガが、そのまま了承したと思われる。

桑原拓(大橋)とのOPBF王座戦でも、マグラモは900グラムオーバーしていた前科があり、40グラムまでおっつけただけでも良しとすべき・・・?。

戦慄の左ストレートは火を噴くか? - 中谷潤人 vs A・コルテス 直前ショート・プレビュー -

カテゴリ:
■9月18日/有明アリーナ/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBO6位 アルヒ・コルテス(メキシコ)



アンドリュー・モロニー(豪)を完全に気絶させた凄絶な左ストレートで、MGMグランドのメイン・アリーナを震撼させてから4ヶ月。2階級を制した中谷が、115ポンドにおける初防衛戦を迎えた。



※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=J-FZ7QUMWII


チャレンジャーのメキシカン,コルテスは、発表時点(7月19日)で11位だったランキングが大幅にアップ。世界挑戦が決まったランカーのかさ上げはプロボクシングの常なれど、ご祝儀相場にしても程がある・・・?。

デビュー当時から名匠ナチョ・ベリスタイン(2011年殿堂入り)の薫陶を受けていただけあり、攻防の基本的な技術に不足はなく、疲れを知らない前進を繰り返しつつ、上下のコンビネーションを間断の無い手数で少しづつ相手を削って行く。

遠めの距離からやや遅れて届く、フォロースルーの良く利いたメキシカン特有のロング・フックとアッパーは勿論のこと、ナチョの教え子たちに共通する後退のステップも過不足なくこなす。


好戦的でありながら無駄に打たせない防衛ラインを築き、バチバチに打ち合いながらも、大きなカットや腫れはほぼ無し。出世試合と言っていいファン・F・エストラーダへの初挑戦(2022年9月/メキシコ国内)でも、激しく強打を応酬していたが、エル・ガーヨ(雄鶏:エストラーダのニックネーム)ともども、試合後の顔は綺麗だった。

アマチュア経験の有無も含めて情報は少なく、プロデビュー直後に2連敗(3~4戦目)を経験した他、2度の引き分けも6~8回戦の修行時代。初の10回戦が19戦目(2019年9月)だから、”叩き上げ”と称すべきキャリアの典型。

武漢ウィルス禍の間も長い間隔を開けずに戦い続け、初の10回戦から9戦をこなしてエストラーダ戦のチャンスを得ている。


メキシコの国内トップレベルに相応しい、良くまとまった好選手であることは間違いない。持病を抱える心臓が悲鳴を上げ、一度ならず現場復帰を絶望視されたナチョが、高齢を押してコーナーに入り続けているのも理解できる。だが、戦績が示し自らも認めている通り、1発のパワーに欠ける点が珠にキズ。

身長自体はこのクラスとしては標準的だが、映像や写真で確認する限り(正確な数値は不明)リーチは長くは見えない。計量後のリバウンドもどちらかと言えば控え目で、エストラーダとは上半身の厚みが結構違っていた。

最軽量ゾーンでは規格外のサイズと表すべき中谷とは、体格差がより鮮明に際立つだろう。


昨年11月と今年3月にローカル・ファイトを2試合やって、いずれも判定勝ち(10回戦:相手は無名選手)。そして、エストラーダ戦から丁度1年で実現した再挑戦は、自身初となるメキシコ国外への遠征(渡米経験も無い)。

今年の7月で84歳になったナチョの来日は流石に難しかったらしく、エリック・ロペスというトレーナーがヘッドとして帯同。ナチョの顔を描いたTシャツをお揃いで着用し、チームの結束とバリューアップに余念がない。


米本土で2度世界戦のリングに立ち、印象的なKO(TKO)で認知度を上げた中谷。2階級制覇+無敗の実績も加味され、在米マニアと関係者の評価も好感触。対するコルテスは、エストラーダ以外に名のある選手とのマッチアップがなく、スポーツブックのオッズは大差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
中谷:-1200(約1.08倍)
コルテス:+700(8倍)

<2>betway
中谷:-1587(約1.06倍)
コルテス:+1000(11倍)

<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/16(約1.06倍)
コルテス:8/1(9倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
中谷:1/20(1.05倍)
コルテス:10/1(11倍)
ドロー:20/1(21倍)


「(KOへの自信を問われて)丁寧に戦う。」

ファイナル・プレッサーで揺るがぬ自信を見せつつ、慎重な言葉を選んだ中谷、コルテスを軽く見ていない様子が伺える。もう1つ別な心配もあるが、常識的にはKO防衛の予想を立てざるを得ない。

磐石に見える若き2冠王にまったく懸念材料が無い訳ではないし(別な心配=後述)、タフで上手さも併せ持つコルテスに粘られる展開も充分に想定の範囲内ではある。


◎中谷(25歳)/前日計量:114.6ポンド(52.0キロ)
現WBO J・バンタム級王者(V0),前WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:25戦全勝(19KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:172センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーパンチャー


◎コルテス(28歳)/前日計量:114.4ポンド(51.9キロ)
戦績:30戦25勝(10KO)3敗2分け
身長:163センチ
右ボクサーファイター




上にご紹介した最終会見で気になったのが、中谷の消耗ぶり。タッパを考えれば減量がキツいのは当たり前で、げっそり殺げた頬もいつものことではあるのだが、顔色が悪く精気が感じられない。

前日計量でも疲れ切ったかのような表情に変わりはなく、1発クリアに安堵はしたものの、たっぷりの水分補給と食事で一晩ぐっすり眠れたとしても、十全な回復を図れるのかどうか。

よもやの大番狂わせを献上することはないと信じるけれど、いつものスピード&シャープネスが発揮できない場合、コルテスに相当押し込まれる覚悟が必要になる。

興味が半減した(?)井岡一翔との統一戦や、井岡との争奪戦に拍車が掛かるエストラーダとの激突ではなく、さらなる階級アップ(バンタム級進出)を検討した方が良いのでは・・・。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■オフィシャル

主審:スティーブ・ウィリス(米/ニューヨーク州)

副審:
エフレン・レブロン(米/ニュージャージー州)
リン・カーター(米/ペンシルベニア州)
ルイス・ルイス(プエルトリコ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■キック・オフ・カンファレンス



◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=SmFNfNLCS-4

このページのトップヘ

見出し画像
×