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2023年07月

遂に実現した147ポンド最強決定戦 /男子初の2階級4団体統一は成るか? - スペンス vs クロフォード ショートプレビュー -

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■7月29日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBA・WBC・IBF・WBO世界ウェルター級王座4団体統一12回戦
WBA・WBC・IBF統一王者 エロール・スペンス・Jr.(米) vs WBO王者 テレンス・クロフォード(米)





※ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=At471MTxemE


リアル・モンスター,井上尚弥の快勝に沸き返る我が国では、「史上初の2階級4団体統一」が大きくクローズアップされている。

リングサイドで観戦していた対抗馬のマーロン・タパレス(WBA・IBF2団体統一王者)が試合直後のリング上に姿を現し、4団体統一戦の実現を公言してさらに盛り上がっている訳だが、一足先にラスベガスで偉業を達成しそうな男が居ることを忘れてはいけない。

リング誌P4Pランキングの常連として、カネロ,ロマチェンコ,ウシク,我らが井上らとトップを争うテレンス・クロフォードである。


もっとも、2階級に渡る4団体の完全制覇は、クロフォードにしても井上にしても、実は「史上初」ではない。女子重量級の雄,クラレッサ・シールズが既にこの快挙を成し遂げており、「史上初」の冠には「男子」の2文字を付けなくてはならない。

女子ボクシングが初めて正式競技として行われた2012年ロンドンと、それに続く2016年リオのミドル級を2連覇したクラレッサは、ブラジルから帰国した直後の2016年11月にプロ・デビュー。

僅か3戦目でWBCのS・ミドル級王座に就く(センサク・ムアンスリン,ロマチェンコに続く最短奪取)と、5戦目でIBF王座を吸収(V2)。続く6戦目に階級を1つ下のミドルに落とし、実力者ハナ・ガブエリエル(コスタリカ)からIBFとWBAの統一王座を奪い、7戦目でフェムケ・ハーマンズ(ベルギー)が保持するWBAレギュラーを獲り、8戦目でWBCとWBOの2冠王クリティーナ・ハマー(独)を完封して4つのベルトを確保(2019年4月/アトランティックシティ)。

パンデミックによる休止を挟み、S・ウェルター級まで絞ってまずはWBCとWBOを獲得。転級2戦目(2021年3月地元のミシガン州フリント)で4本のベルトを総ざらいして、4団体から保持を認められたミドル級に舞い戻り、アマ時代からのライバル,サヴァンナ・マーシャル(英)を敵地ロンドンで撃破。

2大会連続のオリンピック金メダルも凄いが、プロでも最短での世界王座奪取と、2階級の完全制覇を含む3階級制覇をやってのけ、無傷の14連勝(2KO)を継続更新中。「無敵の女王」を豪語するだけのことはある。


女子には長らくP4Pキングの称号を誇ったセシリア・ブレークフス(ノルウェイ/出身はコロンビア)が居て、2014年にウェルター級の4団体を統一。2020年8月、伏兵ジェシカ・マカスキル(米)に敗れるまでその座にあった。

そしてご存知アイリッシュの女帝ケイティ・テーラー(ロンドン五輪ライト級金メダル)は、2019年6月にライト級の4団体を制圧。昨年4月には、7階級制覇の”女パッキャオ”ことアマンダ・セラノ(米)とのドリームマッチを実現。

ニューヨークの殿堂MSGのメイン・アリーナで史上初めて女子のタイトルマッチがオオトリを飾り、これもまた女子史上初となる100万ドルマッチを達成。


間のS・ライト級でも、英国イングランドの女傑シャンテル・キャメロンがIBFとWBCの2冠を獲って大活躍。クラレッサに続く2階級の4団体統一を目指し、ウェルター級の4冠王ジェシカが階級を下げ、空位のWBAとWBOから決定戦の承認を取り付けて激突(2022年11月)。

小差の3-0判定をモノにしたシャンテルが見事に4団体を統一すると、今年5月、やはり2階級・4団体統一を目論むケイティの挑戦を受け、完全アウェイのダブリンで僅小差のマジョリティ・ディシジョンを得たのは記憶に新しい。


また、実力女子No.1の呼び声高きアマンダは、地元ニューヨークでケイティをKO寸前まで追い込みながら、惜しい判定に涙を呑んだものの、昨年9月の再起戦でフェザー級の4団体王者となった。

さらに翌10月には、S・フェザー級のWBC王者アリシア・バウムガードナー(米)も、トップランクが強力にバックアップするスター候補,ミカエラ・メイヤー(IBF・WBOの2冠王)を僅差の2-1判定でかわし3団体を統一。今年2月にWBA王座も吸収して、4冠王の栄誉に輝いている。

予期せぬ怪我でケイティとのリマッチを棒に振ったアマンダには、未だケイティとの決着戦への期待が寄せられており、敵地ダブリンへの遠征実現に余地を残す。


クラレッサが去った後のS・ミドル級には、アマ時代の宿敵フランション・クルーズ・デズーン(プロ・デビュー戦でクラレッサに惜敗)が君臨。昨年4月に4本のベルトをまとめたが、1年3ヶ月のブランクを経て先月渡英。

クラレッサに敗れたサヴァンナ・マーシャルの挑戦を受け、0-2のマジョリティ・ディシジョンで統一王座を譲ったばかり。

S・ミドル,ミドル,S・ライト,ライト,S・フェザー,フェザーの6階級に4冠王が鎮座まします女子は、4団体の統一が当たり前と言っていい状況。

パンデミックにより完全に頓挫してしまったけれど、オレクサンドル・ウシクのクルーザー級完全制覇を実現に導き、ジョシュ・テーラーのS・ライト級制圧も強力に後押ししたWBSS(World Boxing Super Series)と、女子を席巻する統一路線の大きな渦は、今しばらくはボクシング界の潮流となって動き続ける。


そして2017年8月、IBFとWBAの2冠を保持するジュリアス・インドンゴ(ナミビア)をショッキングな3回KOに屠り、バーナード・ホプキンス(2004年9月/ミドル級の4団体を統一)以来途絶えていた4冠王となったテレンス・クロフォードこそ、「4団体統一時代」の幕を開けた功労者だと言えなくもない。

4つの王座を得たクロフォードは、昨年末の井上尚弥と同様、ウェルター級への参戦を正式に表明。転級初戦で同じトップランク傘下のジェフ・ホーンを圧倒。ワンサイドの9回TKOに退け、ライト級とS・ライト級に続く3階級制覇に成功した(2017年12月)。

あれから5年近くの歳月が流れて、多くのファンと関係者が実現を望むエロール・スペンスとのウェルター級最強決定戦は、対立関係にあるプロモーション同士の折り合いが付かず、痺れを切らしたクロフォードがとうとうトップランクとの関係を清算(2021年11月)。


ウェルター級のトップクラスを丸抱えするアル・ヘイモン一派への合流なくして、スペンス戦の実現もまた有り得ない。誰もが納得せざるを得ない決断ではあったのが、これで一気に話が進むと思いきや、交渉は相も変わらず遅々として進まず。

「クロフォードのピークアウトを完全に確認できるまで、スペンスはやらないつもりなんだろう。パッキャオ戦を引き伸ばし続けたメイウェザーと同じ・・・」

互いのピーク時に激しくぶつかり合うのが、ライバルの本来あるべき姿に違いない。実際に20世紀のプロボクシングは、再戦どころではなく、第3戦でも決着が着いたとはみなされず、4度・5度・6度と戦いを繰り返す本物のライバルが存在した。

しかし、プロボクサーが年間にこなす試合数の激減に、ネット配信も含めた中継の改革・変貌が加わり、かつては当たり前だったリマッチも限定的。ファン・M・マルケスと4度拳を合わせ、エリック・モラレスとも3度、マルコ・A・バレラと2度戦ったパッキャオは、超攻撃的なファイトスタイルと前代未聞の8階級制覇も含めて、存在そのものが異端なのだと考えるしかない。


在米マニアだけでなく、主要なボクシング・メディアもサジを投げかけていた今年4月、急転直下スペンス vs クロフォード戦の合意が報じられる。

繭にたっぷりとつけた固唾を呑んで、ただただ見守るしかなかった多くのファンも、6月中旬にキック・オフ・カンファレンス(L.A.とN.Y.)が行われるに至り、ようやく安堵の深いため息をつく。

◎L.A.キック・オフ・カンファレンス
2023年6月14日/ビバリーヒルズ・ホテル


◎L.A.キック・オフ・カンファレンス:フル映像(LIVE中継のアーカイブ)
※25分過ぎにスタートする
https://www.youtube.com/watch?v=vRQv0H2T2vM

◎N.Y.キック・オフ・カンファレンス:フル映像
2023年6月15日/タイムズ・スクウェア(Palladium Times Square)
https://www.youtube.com/watch?v=hW0noLv07x8


しっかりと裏の取れた情報ではないが、両雄には8桁の報酬(1千万ドル超)が約束されていると言われており、総額は2,500万ドルづつと記載した記事も出てはいる。
※最低保障:1千万ドル+PPVインセンティブ等々

中継は当然のことながら、ShowtimeのPPV。120万件を売り上げたとされるG・デイヴィス vs R・ガルシア戦には届きそうにないが、80万件超えに期待がかかる(50~60万件が一杯一杯との風聞も)。

いずれにしても、王国アメリカにおける2023年最大注目のマッチアップであることに変わりはない。スポーツブックのオッズは、対戦が公表されて以来、一貫してクロフォードを支持。マージンに大きな開きはないが、3階級で傑出した安定感を維持してきたネブラスカのヒーロー優位に傾く。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
スペンス:+138(2.38倍)
クロフォード:-150(約1.03倍)

<2>betway
スペンス:+130(2.3倍)
クロフォード:-154(約1.65倍)

<3>Bet365
スペンス:+125(2.25倍)
クロフォード:-165(約1.61倍)

<4>ウィリアム・ヒル
スペンス:13/10(2.3倍)
クロフォード:4/6(約1.67倍)
ドロー:14/1(15倍)

<5>Sky Sports
スペンス:5/4(2.25倍)
クロフォード:4/6(約1.67倍)
ドロー:16/1(17倍)


「オレの方が優れている。肉体的にも精神的にも、より完成されたファイターであることは火を見るより明らか。勝つのはオレだ。」

双方が同じ主張をして一切譲らない。それぞれのコーナーを守るチーフも、異口同音に勝利への堅く揺るぎない自信を述べ続ける。

「私の選手が勝つ。互いに優れた才能の持ち主で、経験も技術も申し分がない。難しい局面も訪れるだろうが、結局我々に凱歌が上がる。」

これもまた当然の光景ではあるものの、クロフォード有利とは言え拮抗した賭け率が示すように、明確な差を想定するのが困難な状況であることも確か。


3本のベルトを保有するスペンスは、ここまで28戦して全勝(22KO)。ドローもノーコンテストモ含まないパーフェクト・レコードを誇り、世界戦の数では敵わないものの、7度の世界戦中、世界タイトルを獲得していない相手は、3度目の防衛戦で初回KOに下したカルロス・オカンポ(メキシコ)ただ1人。

フェザー級から上げて来たマイキー・ガルシアに「階級の壁」をこれでもかと思い知らせた他、ショーン・ポーターとの激闘を生き残り、ダニー・ガルシアとヨルデニス・ウガス(キューバ)に明確な差を見せ付けている。


対するクロフォードも、39戦全勝(30KO)。ドローやNCを1つも含まない点も同様だが、スコットランドに渡って地元の人気者リッキー・バーンズを問題にせず、明白な12回3-0判定でライト級王座を奪ったのが2014年3月。

ユリオルキス・ガンボアを残酷なまでのワンサイドで打ち倒し、レイ・ベルトラン,ビクトル・ポストル,上述したインドンゴらを含む実力者たちからベルトを守り、3つ目となるウェルター級でも磐石の巧さに錆付きは見られない。


微妙な差を付けてクロフォードを推すオッズの直接的な要因と動機は、両雄に共通する対戦相手とその結果ではないか。

<1>ケル・ブルック(英)
スペンス:2017年5月27日/英国シェフィールドで11回KO勝ち
クロフォード:2020年11月14日/ラスベガスで4回TKO勝ち

<2>ショーン・ポーター(米)
スペンス:2019年9月28日/ロサンゼルスで12回2-1判定勝ち
クロフォード:2021年11月20日/ラスベガスで10回TKO勝ち

結果だけを見れば、クロフォードの方が強そうに見えてしまう。ただし、対戦した時期はいずれもスペンスの方が早い。

147ポンドのIBF王座を保持(V3に成功)していたブルックは、2016年9月、S・ウェルター級をすっ飛ばして何とゴロフキンに挑戦。こっぴどく打ち据えられて5回TKO負けを喫しただけでは済まず、左眼に眼窩底骨折の重症を負うなど、甚大なダメージを被った。8ヶ月に及ぶブランク明けに迎えたチャレンジャーがスペンスだっという次第。

英国内のローカルファイトで2連勝した後、武漢ウィルス禍による1年超の戦線離脱。2020年8月に復帰戦をやった後、クロフォードのWBO王座にアタックして完敗。再び1年を超える休養を挟み、アミル・カーンとの遅過ぎるライバル対決を6回TKOで制して引退に追い込んでいる。


170センチあるかないかの小兵をものともせず、類稀な馬力とフィジカル(バネ)の強さでウェルター級を賑わせたポーターは、ブルックにIBFのベルトを譲った張本人。

エイドリアン・ブローナーに勝ち、キース・サーマンに惜敗した後、ダニー・ガルシアとの接戦を制してWBC王座を獲得。大いに物議を醸したヨルデニス・ウガスとの初防衛戦(12回2-1判定)を経て、IBF王者だったスペンスとの統一戦に臨み、サーマン戦同様の惜敗。

パンデミックの影響で1年休んだ後再起し、変異株の流行を繰り返す中、また1年休んでクロフォードに敗れて引退を表明した。


優れたアマチュアのバックボーンもまた、スペンスとクロフォードの共通点。スペンスはクロフォードが逃した代表チームの常連となり、世界選手権とオリンピックに出場。メダルを持ち替えることは出来なかったが、実績はクロフォードを上回る。

しかしながら、ファイトスタイルを含めたボクシングの練度、巧さではクロフォードに軍配を上げなくてはならない。

サイズだけでなくスピードにも恵まれたスペンスは、ロング・ディスタンスを得意とするアウトボックスに適性を持つ筈なのだが、決まって打ちつ打たれつの白兵戦に雪崩れ込む。

強打の応酬になると簡単に退かない気の強さが災い(?)して、フィジカル勝負の消耗戦,潰し合いになってしまいがち。余計な被弾が目に付く。トレーナーのデリク・ジェームズも修正を試みたようだが、どうやら途中で諦めた模様(?)。


「久々に見る惚れ惚れするようなジャバー。」

ライト級で頭角を現し始めた頃のクロフォードは、オーソドックスのアップライトからシャープで伸びのいいジャブをビシビシと放つ、それはもう魅力的なジャブの名手だった。

チャンピオンになってからは、ガンボア戦で定着した左右のスイッチを頻繁に用いるようになり、最近はほとんどサウスポーで通している。ノニト・ドネアも器用に左右を使い分けるが、クロフォードは現代最高水準のスイッチヒッターと表していいと思う。

左で戦う時の右リードは、残念ながら右構えで操る左ジャブのキレとしなやかさには及ばない。それでも精度とタイミングは頭1つ抜きん出ているし、堅牢堅実なクロフォードのスタイルを支える重要な基盤と考えて差支えがない。


自分の距離と間合いをしっかり保ちつつ、着実なポイントメイクを第一に、けっして無理な打ち合いはせず、不用意な被弾(ケアレス・ミス)もほとんどなし。

「何も心配することがない。テレンスは全て自分の頭で考えて、自分で処理出来る。しかも判断と対処に誤りがないんだ。これほどのボクサーは、世界中のどこを探してもまずいないだろう。」

長年コンビを組むヘッド・コーチ,ブライアン・マッキンタイアは、「誰が相手でも問題はない。」と事も無げに語るのが常だ。


スペンスがどれだけ早くフィジカル勝負に持ち込むことができるかどうか。勝敗を分ける最大のポイントは、その一点に絞られる。

中間距離を細かく出はいりしながらのボクシング勝負になったら、錚々以上の差を付けてクロフォードの手が挙がりそう。

丁寧にジャブを突いてクロフォードに付け入る隙を与えない。そんなスペンスを見てみたい気もするが、「まあ無理だろうな・・・」とすぐに打ち消す自分がいる。ボクシングの質は、クロフォードの方がかなり上等・・・それが偽らざる実感。

「(男子)史上初の2階級・4団体統一」の快挙は、クロフォードが持って行きそうな気配が漂う。

前半戦の間にゴリゴリの体力勝負に持ち込めたら、スペンスがそのまま押し切る格好で終盤のTKOもあるけれど・・・。


◎スペンス(33歳)/前日計量:147ポンド
IBF(V6),WBC(V4),WBA(V0)統一王者
戦績:28戦全勝(22KO)
世界戦:7戦全勝(4KO)
アマ通算:135勝12敗
2012年ロンドン五輪代表(ベスト8敗退)
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)代表(3回戦敗退)
2009年世界選手権(ミラノ)初戦敗退
2011年ワールドカップ(スルグト/ロシア)
2011年ロンドン五輪米国最終予選優勝
2011年全米選手権優勝
2009年全米選手権優勝
2010年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2009年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2008年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)ベスト8敗退
2008年U-19全米選手権優勝
※階級:ウェルター級
身長:177センチ,リーチ:183センチ
左ボクサーファイター



◎クロフォード(35歳)/前日計量:146.75ポンド
戦績:39戦全勝(30KO)
アマ通算:58勝12敗
2007年全米選手権3位
2006年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝
2006年全米選手権3位
2006年ナショナルPAL優勝
※階級:ライト級

□世界戦通算:17戦全勝(13KO)
<1>WBOライト級王座:V2/2014年3月~11月(返上)
<2>WBO J・ウェルター級王座:V6/2015年4月~2018年*月(返上)
<3>WBC S・ライト級王座:V3/2016年7月~2018年*月(返上)
※2団体統一
<4>WBA・IBF王座:V0/2017年8月~2018年*月(IBF:2017年8月返上/WBO:2017年10月返上)
※4団体統一
<5>WBOウェルター級王座:V7/2018年6月~在位中
身長:173センチ,リーチ:188センチ
左右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎前日計量


※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=KzJOanXdPVk


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■リング・オフィシャル:未発表


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■All Access(Showtime)

<1>Full Episode 1
https://www.youtube.com/watch?v=w4JkMZtv8yA

<2>Full Episode 2
https://www.youtube.com/watch?v=YZraLPTMgoA


ドネアが3度目の載冠へ /小兵のメキシカンは叩き上げの兵(つわもの) - ドネア vs サンティアゴ ショートプレビュー -

カテゴリ:
■7月29日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBC世界バンタム級王座決定12回戦
元5階級制覇王者/WBC1位 ノニト・ドネア(比) vs WBC3位 アレクサンドロ・サンティアゴ(メキシコ)





不惑の閃光がバンタム級で3度目の載冠へ。

充分に想定されたこととは言え、リアル・モンスター,井上尚弥との再戦で凄絶なKO負けを喫した後、実戦から遠ざかっていたドネアがリングに戻って来る。

当初は今月15日に米国内で開催の運びとなる予定だったが、幾つかのアンダーカードがまとまらず、開催地が正式に決まる前に日程を変更せざるを得なくなった。

もはやドネアの顔と名前だけでは、興行が成り立たない。アンダーカードにそれなりの面子が揃っていないと、Showtimeもバックアップを躊躇し二の足を踏む。これが王国アメリカの現実なのだ。


やはり、井上とのリマッチで失ったものは大きい。勿論、年齢の問題もある。さいたまスーパー・アリーナで行われた第1戦でリアル・モンスターに大きな爪跡を残し、ナルディーヌ・ウバーリと同胞のレイマート・ガバーリョを立て続けに4ラウンドで殲滅。

健在ぶりを強力にアピールした”フィリピンの閃光”だったが、黄昏時を迎えたキャリアに、いつ釣瓶落としの終幕が訪れても不思議はない。断崖絶壁に立たされている自覚は、他の誰よりもドネア自身が実(痛)感している筈だ。

だとしても、いや、だからこそ、三度び緑のベルトを巻くことには意味がある。WBA王座を獲得して、史上初となる「兄弟4団体統一」を公言した井上拓真とのマッチアップが当面の話題にはなるけれど、来月12日にIBF王座への復活を懸け、ニカラグァのファイター,メルヴィン・ロペスと対峙するエマニュエル・ロドリゲス、5月13日に一足速くWBOの王座に就いたジェイソン・モロニーらとの統一戦が実現に向かう可能性も出て来る。


「モンスターに蹴散らされた連中の統一戦?」

そんな口さがないコメントが飛び出しそうでいささか怖くもあるが、ファンの関心を惹く興行はGO。テーマは何だって構わない。4団体統一がトレンドになっている今だからこそ、やっておく価値がある。

万が一(失礼!)にも、40歳のドネアが118ポンドを総ざらいした場合、不遇を囲い続けたリゴンドウとの”老いらくのリマッチ”が陽の目を見ないとも限らない。何が起こるかわからない、何が起きても結果オーライ。それが興行の常なのだから・・・。


◎CAMP KUMBATI: Nonito Donaire vs Alexandro Santiago | ep.1 | Full Episode



さて、肝心要のオポーネントである。WBC3位にランクされるサンティアゴは、公称159センチ(!)の小兵選手。ボクサーが高齢化した今日、27歳は十二分に若いと言える年齢だが、プロキャリアは既に11年。

14歳で初陣を戦ったカネロ・アルバレスの例を引くまでもなく、コミッションが脆弱なメキシコはライセンスの管理徹底が積年の課題とされていて、中学生の年代でプロになる選手が散見される。

サンティアゴがデビューしたのは2012年の暮れ。生まれ故郷ティファナ(カリフォルニア州と隣接するバハ・カリフォルニア州最大の都市)近郊のロサリトという海岸沿いの街にある小さな会場で、4回戦からスタートした正真正銘の叩き上げ。

3度の敗北と5つの引き分けを含む戦績に、一筋縄ではいかないこれまでの苦労が滲む。16歳のサンティアゴは、108ポンドのL・フライ級で初勝利を挙げると、2戦目で105ポンドのミニマム級に落とした後、3戦目から7戦目までの5試合を112ポンドのフライ級で戦い、17歳になった2013年の秋以降、主戦場と表するべき115ポンドに参戦した。


転級後も2度フライ級でリングに上がっているが、この2試合でプロ初黒星と2度目の敗北を喫している(6回戦/いずれも判定負け)。そこから3連勝(うち2つが8回戦/すべて判定)をマークして、井上尚弥に蹂躙される目前(1年前)、まだ無敗レコードを維持していたアントニオ・ニエヴェスの対戦相手に抜擢され初渡米(2016年8月/N.Y.州ロチェスター)。

自身初となる10回戦でニエヴェスに大善戦。10ラウンズをスプリット・ドローに持ち込み、キャリアを切り拓くきっかけを掴む。

ニエヴェス戦後に7戦して5勝(4KO)2分けの星を残し、ジェルウィン・アンカハス(比)への挑戦が実現(2018年9月/カリフォルニア州オークランド)するのだが、7戦の中にはバンタム級とS・バンタム級での調整が4試合含まれている。


求められれば戦う階級は厭わない。無理を承知で体重を増減させ、生活の糧を得ながら自らの商品価値を少しづつ上げて行く。膨大な数の無名選手たちが、いつお呼びがかかってもいいように準備をして、スクランブル発進の要請を待つ。

限られたチャンスを最大限に活かして、有力なマネージャーやプロモーターの目に止まる。それが出来て初めて、過酷な環境を生き残る資格を得る。

「男はタフでなければ生きて行けない。」

昭和に流れたコマーシャルの中にそんなセリフがあったと記憶するが、確かなディフェンステクニックを身に付け、若手のホープやトシを取った元王者たちに白星を配給しながら、休み無くリングに上がって、1つ1つは小さな金額でも、数をまとめて着実に稼ぎ続ける道もある。


どんなに急で無理を強いるオファーにも文句を言わず、タフで使い減りのしない中堅アンダードッグは、プロモーターとマッチメイカーにとって欠かすことのできない存在と言っていい。

そうした男たちの中から、下降線に入りかけたビッグネームに一泡吹かせて、一攫千金の大舞台に立つ猛者が現れたりする。それもまたボクシングの面白さであり、大きな魅力でもある。

アンカハスと12ラウンズを渡り合ったサンティアゴは、メキシコ国内のローカル・ファイトで7連勝(6KO)。パンデミックの渦中でも1年を越えるブランクを回避しつつ、バンタム級に定住。

元WBCフェザー級王者ゲイリー・ラッセル・Jr.の実弟で、118ポンドのプロスペクトとして注目を集めるゲイリー・アントニオ・ラッセル戦を射止めた(2021年11月)。


この試合でも白熱拮抗した好勝負に持ち込み、結果は僅差の0-2判定負け(95-95,94-96×2)だったが、サンティアゴを支持する声も少なからず聞こえるなど、評価を落とさずに済んでいる。


5ヶ月のスパンを開けてティファナで再起すると、昨年7月ドミニカまで遠征。ミゲル・コットとオスカー・デラ・ホーヤが一枚噛む興行で、日本のファンにもお馴染みのデヴィッド・カルモナと対戦(120ポンド契約)。

大差の3-0判定勝ちを収めてS・バンタム級のメキシコ国内王座を授与されると、10月にはアリゾナまで足を伸ばし、アントニオ・ニエヴェスとの6年越しの再戦(バンタム級契約)に7回終了TKO勝ち。

井上に敗れた後、イリノイの黒人ホープ,ジョシュア・グリーにも判定負けするなど、ニエヴェスもキャリアメイクに苦しむ中で応じたリマッチ。文字通り、双方にとって”負けられない戦い”となり、持ち前の突進力で待機型のニエヴェスを押し切り首尾良く雪辱。

これが直近の試合という訳で、我らが井上尚弥のS・バンタム進出の思わぬ余波(?)が、サンティアゴを再び世界戦の檜舞台へと押し上げる。


◎サンティアゴのインタビュー



拙ブログで繰り返し触れてきた通り、Boxrecの身体データはアテにならないことが多い。誤登録が日常茶飯なのだが、映像や写真で確認できるサンティアゴは、本当に159センチなのかどうかは別にして確かに小さい。

ただし、メキシカンには珍しくない、お腹周りが緩んだ水膨れ(失礼)の増量ではなく、上半身は筋肉質で厚みがあり、逞しく引き締まっている。フィジカルも生まれつき強そうだが、本当に良く鍛えこまれている。

そして、このサイズで118~120ポンドの行き来を可能にする源は、屈強なフィジカルに加えて、素早く鋭い踏み込みと秀逸なハンドスピードを活かした突進力。

頭突き&体当たり上等とばかり、闇雲に突っ掛けるラフ&タフではなく、遠めの距離から一瞬で飛び込む速さと思い切りの良さは、タイミングと間合いを読むセンスと駆け引きに裏付けされている。

真っ向勝負ではあるが、しっかりした攻防の技術とインサイドワークを兼ね備えていて、小気味がいいボクシング。あともう少しだけパンチング・パワーに恵まれていたら、アンカハスを攻略できていたのではないか。

唯一最大の気がかりは、言わずもがなのPED。メキシカンの増量(筋肉質で馬力のある豆タンク型は尚の事)と聞くと、ついつい牛肉を言い訳にしたステロイド使用を疑いたくなってしまう。サンティアゴがクリーンであることを願うのみ。


次は、お約束(?)のオッズ。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
ドネア:-154(約1.65倍)
A・サンティアゴ:+130(2.3倍)

<2>Bet365
ドネア:-165(約1.61倍)
A・サンティアゴ:+125(2.25倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ドネア:8/13(約1.62倍)
A・サンティアゴ:13/10(2.3倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
ドネア:1/2(1.5倍)
A・サンティアゴ:6/4(2.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

身銭を切って賭ける人たちは、やはり良く見ている。接近した数字は、そのまま「サンティアゴ侮るべからず」との警告を、ドネアに対して発していると見ていい。

ウバーリ&ガバーリョ戦と同じく、ドネアがいい意味で三度び裏切ってくれるのではないかと予見しつつ、無名の若者が問答無用の下克上で老雄を介錯する醍醐味も悪くないと、思わずそんな誘惑にもかられる。

これもまた、救いようのない哀れむべきマニアの性。これだから、ボクシング観戦は止められない。


◎ドネア(40歳)/前日計量:117.25ポンド
5階級制覇王者/戦績:47戦42勝(28KO)7敗
現WBCバンタム級王者(V1).元IBFフライ級(V3),元WBA S・フライ級暫定(V1),元WBC・WBO統一バンタム級(V1),元WBO J・フェザー(第1期:V3/第2期:V1),元WBAフェザー級スーパー(V0)王者
戦績:48戦42勝(28KO)6敗
アマ通算:68勝8敗(2000年シドニー五輪代表候補)
2000年全米選手権優勝
1999年インターナショナル・ジュニア・オリンピック(メキシコシティ)金メダル
1999年ナショナル・ゴールデン・グローブス ベスト8
※階級:L・フライ級
身長:170.2センチ,リーチ:174センチ
※第1戦の予備検診データ
右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎サンティアゴ(27歳)/前日計量:117.5ポンド
戦績:35戦27勝(14KO)3敗5分け
身長:159センチ,リーチ:166センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎前日計量



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■リング・オフィシャル:未発表

カテゴリ:
■7月25日/有明アリーナ/WBC・WBO統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 スティーブン・フルトン(米) vs 前4団体統一バンタム級王者/WBC・WBO1位 井上尚弥(日/大橋)

久しぶりにリング誌の勝敗予想を採り上げてみる。

◎FIGHT PICKS: STEPHEN FULTON VS. NAOYA INOU
2023年7月20日/The Ring
https://www.ringtv.com/656242-fight-picks-stephen-fulton-vs-naoya-inoue/


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■専門記者(リング誌)

<1>ダグ・フィッシャー(現リング誌編集長)
井上のTKO勝ち

両雄ともに完璧なアスリート。己の限界にチャレンジすることを恐れない。だかこそこの試合は実現した。ペースと距離をコントロールした方が優位になる。フルトンのサイズ,経験値,ファイトスタイルは様々な問題を井上に引き起こすだろう。フルトンの判定勝ちも十二分に有り得るが、より確実なシナリオは後半から終盤にかけての井上のTKO勝ち。8ラウンド以降、井上が決定的なパンチを顔面に決めて勝つ。

<2>アンソン・ウェインライト
井上の3-0判定勝ち

リスクを取って対戦に応じた両雄は賞賛に値する。アフロ・アメリカンのエリート・クラスを初めて経験する井上は、素早い手足のスピードに少なからず問題を抱える。おそらくこれまでのキャリアで最大の難関になるだろうが、井上のエリートスキルはより洗練されている。常に井上が1歩先手を取り続け、地の利も活かして判定で勝つ(116-112)。

<3>リー・グローブス
井上の11回KO勝ち

好対照のスタイルを持つライバル同士の素晴らしいマッチアップ。ボクシングが持つ潜在的な魅力と価値を、世の中に知らしめることが出来得る。井上の攻撃力、ボディへのパンチと高度な技術がフルトンを疲弊消耗させ、後半から終盤にTKO勝ちを収める。

<4>ディエゴ・モリーヤ(モリージャ)
井上の判定勝ち

<5>マーティ・マルケーヒー
井上の判定勝ち

<6>ノーム・フラウエンハイム
井上の3-0判定勝ち

<7>ロン・ボルヘス(ボルゲス)
井上のTKO勝ち(後半)

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7名全員が井上を支持(うちKO・TKOが3名)


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■ボクシング関係者

<1>デューク・マッケンジー(英国/元3階級制覇王者)
フルトンの2-0判定勝ち

フルトンはナチュラルな122パウンダーで、非常に良い顎と性能に優れたエンジンを兼ね備えている。極めて優れたオールラウンダーのフルトンを前に、井上は自分の思い通りにならない苦痛を味わい、最終的にアウトボックスされる。

<2>セルヒオ・モーラ(米/元WBC S・ウェルター級王者)
井上のKO勝ち

井上のパワーとスピードはスペシャル。フルトンも健闘するだろうが、12ラウンズをフルに渡り合うだけの力はない。

<3>サム・グッドマン(S・バンタム級現役ランカー)
井上の勝ち

井上にサイズの違いを実感させることができるかどうか。体格差を活かせないと、フルトンにとっては長い夜になる。井上の後半KOか判定勝ち。

<4>トム・グレイ(リング誌元編集委員)
井上の10回TKO勝ち

オッズ(井上有利)以上に接近した試合になる。フルトンは井上がこれまで経験したことのない、本当に優れた完璧に近いボクサータイプであり、ナチュラルなS・バンタム級だが、類稀な攻撃力とポジショニングの上手さを持つ井上がフルトンを疲弊させる。後半~終盤にかけてのレフェリーストップか、さもなくばフルトンのコーナーが棄権を申し出る。

<5>イライジャ・ピアース(S・バンタム級現役選手)
フルトンの2-1判定勝ち

井上は真に優れたアフロ・アメリカンを経験していない。これはパズルの重要なピースになり得る。スプリット・ディシジョンでフルトン。

<6>ジョリーン・ミッツォーネ(マネージャー)
井上の判定勝ち

<7>ジョー・ロトンダ(マッチメイカー/メイン・イベンツ)
井上の3-0判定勝ち

キャリアの絶頂期にある無敗の両雄が相まみえる。この信じられない戦いに相応しい、高い注目と評価が得られることを心から願う。フルトンが勝者として帰国する為には、1つのミスも許されない。パワーの違いがフルトンに問題を引き起こす。見応えのある素晴らしいファイトの末に、井上がユナニマウス・ディシジョンを得る。

<8>マルク・ラムジー(ラムゼイ/トレーナー)
井上の判定勝ち

フルトンにはナチュラルなS・バンタム級としての利点があり、優れたボクサーではあるものの、井上の厳しいプレッシャーを捌き切るだけの力を感じない。それでもなお、KO負けを回避した上で、充分に善戦健闘するだけのスキルを持っている。


<9>アレックス・スティードマン(解説者)
井上の判定勝ち

ファイト・オブ・ファイト。フルトンのスピードとタイミング、シャープなパンチとフットワークは一級品だ。しかし、井上のパンチ力はそれらのすべてを壊滅させ得る。当初はサイズとスピードの利点を評価してフルトンの判定勝ちを支持していたが、井上の能力は他に例を見ない特殊なもので、もはやボクシングの歴史の一部と表して差支えがない。井上もかなりの苦労を強いられるだろうから、KOではなく判定勝ちになると思う。

<10>ルディ・エルナンデス(トレーナー/USA帝拳の重鎮)
井上の勝ち

日本のファンにもお馴染みのルディは、やはり「パワーの違い」がキーになると考えている。

フルトンはスピードがあり、ムーヴィング・センスに優れている。しかし、井上に対抗するだけのパワーがない。井上の抜群のタイミングは彼自身が持つ最大の長所であり、爆発的なパワーは新しい階級でも変わらず威力を発揮すると信じている。慎重にスタートして接近した戦いが続くが、井上がパワーの差を際立たせる。後半のストップか3-0の判定で井上。

<11>ジョン・スカリー(トレーナー)
井上の3-0判定勝ち

井上にとって試練の試合となるだろうが、これまで同様しっかり戦い抜くだろう。ユナニマウス・ディシジョンで井上。

<12>ボブ・サントス(マネージャー兼トレーナー)
フルトンの判定勝ち。

私はフルトンを好む。フルトンは距離を支配し、井上をアウトボックスするつもりに違いない。フルトンのリング・ジェネラルシップとハンドスピードが井上のパワーを凌駕する。

<13>ロベルト・ディアス(マッチメイカー/GBP)
井上の勝ち

まさに”小さな巨人”同士のファイト。ジェフ・チャンドラーとリッチー・サンドバルを彷彿とさせる。フルトンの高いスキルは、井上に過去最高に厳しく難しい戦いを強いるが、井上は特別な存在であり、後半に流れを引き寄せ統一王者となる。ボクシング史上最高の選手の1人だと確信する。(後半~終盤にかけての)TKOか3-0判定で井上。

<14>ラウル・マルケス(元IBF J・ミドル級王者)
井上の判定勝ち

フルトンは高いスキルを持ち、非常に素早いが爆発力に欠ける。フルトンが勝つ為には、ひたすらボクシングあるのみ。井上の勝利に必要なものは、桁外れのパワーと飽くなきプレッシャー。五分五分の拮抗した勝負になるが、ホーム・アドバンテージも込みで井上。

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14名中11名が井上(打ち2名がKO・TKO)
※判定勝ちを予想する9名中4名がKO(TKO)勝ちも有り得るとの見解

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合計:21名中18名が井上。3名がフルトン。


クールボーイはリアル・モンスターを一蹴できるのか? - S・フルトン vs 井上尚弥 直前プレビュー -

カテゴリ:
■7月25日/有明アリーナ/WBC・WBO統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 スティーブン・フルトン(米) vs 前4団体統一バンタム級王者/WBC・WBO1位 井上尚弥(日/大橋)



まるで予期しなかった場外乱闘にいささか驚きもしつつ、フルトンのコーナーを預かるチーフ・トレーナーの軽率極まる振る舞いに半ば呆れもしながら、2023年下半期の開幕を飾る大注目のタイトルマッチが本番当日を迎えようとしている。

ルール・ミーティングでまたひと悶着ありそうだが、フルトンのクリンチ&ホールドと髭について、井上陣営は臆せず突っ込んで欲しい。バンテージの騒動については、後ほど私見を述べようと思う。


まず最初に、スポーツブックのオッズを確認。

◎本日7月24日時点
<1>BetMGM
フルトン:+260(3.6倍)
井上:-350(約1.29倍)

<2>betway
フルトン:+320(4.2倍)
井上:-400(1.25倍)

<3>Bet365
フルトン:+300(4倍)
井上:-400(1.25倍)

<4>ウィリアム・ヒル
フルトン:10/3(約4.3倍)
井上:2/9(約1.2倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
フルトン:11/4(3.75倍)
井上:2/7(約1.29倍)
ドロー:12/1(13倍)


◎7月16日時点
<1>BetMGM
フルトン:+260(3.6倍)
井上:-350(約1.29倍)
※MGMは既に締め切り済み

<2>betway
フルトン:+240(3.4倍)
井上:-300(約1.33倍)

<3>Bet365
フルトン:+255(3.55倍)
井上:-361(約1.28倍)

<4>ウィリアム・ヒル
フルトン:11/4(3.75倍)
井上:2/7(約1.29倍)
ドロー:14/1(15倍)

<5>Sky Sports
フルトン:9/4(3.25倍)
井上:4/11(約1.36倍)
ドロー:16/1(17倍)

米・英ともに、本番が近付くにつれて若干ではあるが差が拡大した。米国内の現役選手とトレーナー,関係者も含めて、前評判は概ね井上有利に傾いている。延期の原因となった拳の故障も、さしたる影響を与えていないようだ。

直近の試合(井上:バトラー戦,フルトン:D・ローマン戦)のパフォーマンス(※後述)も、まるっきり無関係ではないのかも知れないが、これを当然と見るか、意外と捉えるかは人それぞれ。

私はと言うと・・・少し意外。井上有利の場合でも、数字はもっと接近すると思っていたし、僅少差でのフルトン支持も有りかなと。


フルトン自身やフルトンに近い現役ボクサーが揃って口にした「体格差」だが、NHKが製作したドキュメンタリーの中で紹介されたアザト・ホヴァニシアンとのスパーリング映像や、井上のTeitterから拡散したアダム・ロペスとのスパー映像は勿論のこと、大橋ジムの公式SNSに時折りアップされる各種のスパー映像に加えて、ジェネシス・セルバニアと行った2度の公開スパー等を見る限り、122ポンドでも大きな不安材料になることはまず無いだろう。

フライ級をすっ飛ばしていきなりナルバエスにチャレンジした当時や、J・バンタムからバンタムに上げた頃と比較すると、有り難いことに私たちに提示されている情報量が違う。

これまで井上は。普段の体重が62~63キロ前後(136~139ポンド前後:S・ライト級)だと、幾つかのインタビューやTV出演時に語っていたが、フィジカル強化によって64キロ(141ポンド前後:ウェルター級)に増えたと明かしている。
※渡嘉敷勝男&竹原慎二&畑隆則のぶっちゃけチャンネル
 Vol.337【大橋会長と呑みトーク第1章!】大橋会長のご厚意でフルトン戦前の井上尚弥と対面!(6月1日公開)
https://www.youtube.com/watch?v=tDWbQjPG8Dc


バンタム級時代はリミット上限の53.5キロまでおよそ10キロ落としていたのが、55.3キロのS・バンタム級に上げても、9キロ超を絞らなくてはならない。

もっとも、ボクサーの減量で一番キツいのは「最後の数百グラム」と昔から言われてきている。追い込みのキャンプが佳境に入り、心身ともに厳しさを増す同じ時期に、減量も過酷さを増す。

1日の練習で落ちる体重よりも食べる量と補給する水分を少しづつ減らしながら、ハードワークを継続してベストな状態に仕上げて行く。


経験を積んだボクサーは、早朝のロードワークと午後(仕事を持っている場合は夕方~夜)のジムワークでどのくらい体重が落ちて、一晩の睡眠でさらに落ちる体重をグラム単位で把握している。

減量の進捗に伴い、余分な脂肪が絞れて徐々に落ちなくなって行く。最後はせっかく練習で付けた筋肉量を削り落とし、それでもリミットに届かなければ、スパーリングを打ち上げた後の最後の数日(長ければ1週間程度)を、本当に飲まず食わずで耐えなければならない。

汗が出なくなると、ガムを噛んで僅かな量の唾を出して水分を抜くが、それも遅かれ早かれ効果を失う。食べずに可能な限り身体を動かすと言っても、人間である以上どこかで限界に達して動けなくなる。

そこでいよいよサウナの登場となる訳だが、これが昭和~平成のプロボクサーの体重調整と言って間違いない。カロリーではなくグラムで自分の体重を管理する選手が主流だったように思う。

BBBofC(英国のコミッション)が試合直前のサウナを禁止(発覚するとサスペンドの対象となりカシメロのように出場が認められない)したのは、医学的かつ合理的な理由に基づく判断なのだが、JBCはサウナの使用を容認する立場を変えていない。


昨今日本国内でも当たり前になってきた「ドライアウト(計量直前の水抜き)」は、ある程度の体重を維持したまま追い込みのピークを乗り越えられることに加えて、計量後のスムーズなリバウンドを促進するプラスの効果がある反面、目立って増えたウェイト調整失敗の直接的な原因として指摘される場合もある。

過去に放送されたドキュメンタリーやインタビューなどで確認する限り、井上は少しづつ落とす伝統的なやり方を主にしながら、最後の2キロ程度をドライアウトで絞り落とし、計量後の水分補給と食事で5~6キロ程度戻しているようだ。

例えばドネアのように、キャンプにフィジカルの専門家を帯同・常駐させて、対戦相手の特徴に合わせてリバウンドのボリュームを変える(5,6キロ~最大10キロ超!)選手もいるが、井上は階級を上げて年齢を重ねても、戻すウェイトはほとんど変わっていない。


来日して井上の破壊的なパワーに蹂躙された大型のマクドネル(身長175センチ)は、大きなペットボトルを常に携帯してミネラルウォーターを飲み続け、「確信犯の体重超過」を疑われてトレーナーが本気で怒っていた。

計量当日別人のようにゲッソリとやつれて会場入りしたマクドネルは、無事にバンタム級リミットをクリアした後、一晩で12キロも増やしてニュースになっていたが、かなり大胆なドライアウトに頼っていたものと思われる。

たった1キロ。されど1キロ。思うように体重が落ちなくなってからの1キロは、ドライアウトの比重を軽減するかどうかは別にして、井上にとって大きな福音,追い風になると信じたい。

階級を上げたことによって、被弾した際の耐久性まで向上する選手を時々見受けるが、井上の場合も同じ効果が期待できると、勝手にそう考えている(都合が良過ぎる?)。





さて、チャンピオンのフルトンである。フェザー級への進出を公言していただけに、減量に苦労しているのは事実だろう。ブランドン・フィゲロアとの2団体統一戦で、フィゲロアのサイズと体力に押し込まれて苦しんだことについて、「体重調整が上手く行かず、スタミナに問題があった。」と試合後に語っていた。

「だから階級を上げる。」

分かり易い話なのだが、果たしてどこまで素直に信じるべきなのか。

好漢ダニー・ローマンを引退に追いやった直前の防衛戦でも、9ラウンド辺りからスローダウンが目に付いた。終盤11ラウンドを取ってダメを押したのは流石だと感心したが、その為の体力を温存する目的で、意図的に休んでいたとも思えない(それだけの余裕は感じられなかった)。

後半~終盤にかけてのフルトンは、はっきり言って隙が多く、ディフェンスの穴も大きくなって狙い目だ。


そしてフルトンの最も優れた特徴は、反応のスピードと細かいディフェンス・ワークにあると見て間違いない。警戒すべきパンチは、何よりもまず左ジャブ。

スナップを充分に利かせて、腕のしなり(しない)を最大限に活かして放つ。脱力しているのに、めちゃくちゃキレが良くて良く伸びる上、当たった時に威力を感じさせるのはその為だ。

手首と腕のしなり(しない)を利かせて打つという一点において、フルトンはメイウェザーと実に良く似ている。

L字ガード(フィリー・シェル&ショルダー・ロール)とディフェンシブなスタイルではなく、私が一番気になるメイウェザーとフルトンの共通項であり、攻撃面におけるフルトン最大のストロング・ポイント。


フィゲロア戦ではかなり打ち込まれていたが、両方の瞼を腫らした(いつもの事ではあるが)フィゲロアに比べると、フルトンの顔は綺麗なままだった。すなわち、まともに貰っているように見えても、僅かに首や顔の位置を動かし、肩と上体を動かすことで芯を食わない術を身に付けている。

それでも後半~終盤にかけて、自ら足を止めて打ち合いに行く時間が増えるのは、それだけ消耗しているからに他ならない。前半~中盤戦と同じ水準で、相手の攻撃を見切る集中力と反応(フィジカル)を維持できない。

日本国内のプロ関係者の中に、「早いラウンドからボディを攻めておくべき」との声があるけれど、ボディアタックは極めて重要。「厄介なフルトンの足を止める」効果以上の意味を持つ。

ラウンドの数にかかわらず、距離が詰まると敢えて深めのクラウチング・スタイルを採る場面も多いが、顔を打たれることを極端に嫌う、打たせないことを徹底していることの証左である。


ラウンドの早い遅いはともかく、どこかで井上がフルトンを捕まえると思うが、序盤はフルトンの長くて速いジャブにそれなりに苦心するだろう。不用意に接近することなく、距離とタイミングを掌握するまで慎重に行くべきだ。

比嘉大吾との公開スパーリング(エキジビション:2021年2月11日/国立代々木第一)だけでなく、普段のスパーリングや115ポンド時代の防衛戦でも見せていた、ノーガードのまま自在なフットワークで相手をいなす、モハメッド・アリや昨今流行の黒人スピードスタータイプも真っ青になるムーヴで陽動する手は有り。

左右のスイッチを混ぜるのも面白い。在米黒人ボクサーの多くが流行り病のように憑り依かれているタッチボクシングを、ここぞとばかりに全開にしてみてはどうか。


◎Camp Life: Fulton vs Inoue | FULL EPISODE



フルトンがイメージしているのは、ダニー・ローマン戦と同じ展開だと確信する。井上はローマンより速いが、S・バンタムでは小柄な部類に入るローマンよりさらに小さい。

スピード負けの心配がない(?)上に、井上は踏み込みに要する歩数が増える筈だから、充分に対応は可能。どんなに物凄いパワーパンチでも、当たらなければ意味を為さない。要はまともに貰わなければいい。それだけのことだと。

「自分の反応(スピード&シャープネス)、ボクシング・センスとディフェンス・テクニックがあればノー・プロブレム。P4Pトップのモンスターと言えども恐るるに足らず。」

自分より遅い相手が、同じリズムとテンポで正面突破を繰り返す。崩しのパターンに変化を付けるにしても、入り方のバリエーションとコンビネーション・ブローには自ずと限界があり、自然と得意な動きをリピードするだけになる。

フルトンにとって、それこそが最高最良,狙い通りの展開に違いない。そして例え相手が井上尚弥であろうとも必ずそうできると、リングに上がって開始のゴングが鳴るまでその自信が揺らぐことはない。

◎フルトンの略歴に触れた過去記事
クール・ボーイ VS ベイビー・フェイス・アサシン /4団体統一へと進むのはどっち? - フルトン VS D・ローマン 直前プレビュー -
2022年06月05日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/a810653b5539db8bd9adf1ad4f7f99a6


L・フライ~バンタムの井上には、相手の意表を突いたり裏をかく必要がなかった。当たり前に自分のボクシングをするだけで、相手の心身が削られ長くは持たない。焦点になるのは、常に井上自身のコンディションのみ。

115ポンド時代、輝ける未来に暗雲となって垂れ込めた右拳の故障、過度な減量が招いた足の痙攣、1歩間違えれば宿痾となりかねない腰痛等々、解決が困難な課題・難題に次々と襲われた。

そこで出した結論が、”バンテージ職人(名人)”と呼ばれるニック永末氏の招聘と「階級アップ」であり、事実それらの諸課題を抜本的な解決へと導いている。

ところが、脱水による足の痙攣だけは118ポンドのバンタム級でも完全に解消できなかった。4団体統一を果たしたポール・バトラー戦について、試合後の取材で語られた言葉。

「ロープに詰めた後、何で連打を続けないのかと思った人もいたでしょう。3発ぐらいで止めないで、さらに打ち続ければすぐに倒れるだろうと。あれは、(脱水で)足が攣ってしまい、セーブする必要があったんです。」


最初の世界王座を獲得したアドリアン・エルナンデス戦時、第4ラウンド辺りで足が攣り始めた井上は、続く第5ラウンドには足が止まり、ボロボロになりかけていたエルナンデスに反撃を許している。

決着が着いた第6ラウンド、父の真吾トレーナーが「(足が持たないから)行かせますよ」と大橋会長に許可を求めるより早く、井上自身が意を決して勝負に出ていたのは有名な逸話。

”日本のエース”こと長谷川穂積も、バンタム級政権の後半は減量による足の痙攣に毎回悩まされていた。この問題について、122ポンドへのさらなる増量が朗報をもたらす公算は大。


「(フルトンは)井上君の本当の凄さをまだ知らない。映像で見るだけでは、井上君の本当の強さはわからない。大きなことを言っていられるのも今のうち。」

108ポンドの日本タイトルを懸けて若き日の井上と対峙し、10ラウンズをフルに渡り合った田口良一の言葉である。実際に2人の闘いを目の当たりにした私たちには、非常に強い説得力と魅力を持って直截心に響く。

◎「僕は井上くんのパンチのヤバさを味わっている」“井上尚弥を最も苦しめた男”が予想する、井上vsフルトン「正直フルトンのコワさって感じません」
2023年6月16日/Number Web
https://number.bunshun.jp/articles/-/857802?page=1


ただし、「映像で見るだけでわからない」のはフルトンも同じ。井上の突出した破壊力と高い精度,類稀なカウンターの能力に比肩し得る相手は、当たり前だがフルトンのレコードには存在しない。

同様にフルトンのサイズとスピード&シャープネス、スピードスター型の黒人に特有の反応(一瞬の速さ&鋭さ)と柔軟性もまた、井上にとっての未体験ゾーン。

立ち上がりから2~3ラウンズ、フルトンの距離とタイミングに目が慣れるまでの間、井上はこれまで以上に慎重かつ丁寧に様子を見た方がいい。タッチスタイルで裏をかくのは本意ではない筈だが、1つの選択肢として試す価値は十二分にある。


ヒラリヒラリと変幻自在にその身を翻し、左右にスイッチしながらスピードに傾注したジャブ&軽打でガードの隙間を突いては離れ、離れはまた突く。

これをやられたら、さしものフルトンも落ち着き払ってだけはいられない。目に見えて慌てたり焦ることはないだろうが、程度の差はあれ確実に動揺する。

そしてボディ。思い切り踏ん張って全体重を乗せるのは、中盤を過ぎてからでOK。序盤はそれこそタイミングだけでいい。体格差で何とか押さえ込もうと、フルトンの方から積極的に手を出し距離を詰めてきたらしめたものである。

マニー・ロドリゲス戦の再現(決着するラウンドは少し遅くなる)は勿論、ファン・C・パジャーノ(パヤノ)を失神させた芸術的なフィニッシュを見ることができるかもしれない。


という次第で、拙ブログの勝敗予想は井上。小~中差の割れた判定(3-0,2-1,2-0)になる可能性も高いが、中盤以降,後半~終盤にかけてのKO(TKO)も有り。

オフィシャルにアメリカ人ジャッジが選ばれなかったことが、吉と出るか凶と出るか。単純に希望的観測を述べるなら、黒人のアウトボクサーに有利に流れるスコアリングのトレンドに対する不安要素が多少なりとも減る。

もつれた展開のまま判定に雪崩れ込み、スコアリングを巡って紛糾しないことがベストではあるけれども。


◎フルトン(29歳)/前日計量:121.9ポンド(55.3キロ)
戦績:21戦全勝(8KO)
アマ通算:75勝15敗
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝
2013年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2013年全米選手権準優勝
※階級:フライ級
ジュニア:リングサイド・トーナメント優勝
ジュニア・ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
※年度及び階級等詳細不明
身長:169センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター


◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:24戦全勝(21KO)
WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)前4団体統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:19戦全勝(17KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎前日計量


賢明な井上のことだから心配はないと思うが、バンテージ疑惑の一件が引き鉄になっていることに疑いを差し挟む余地はない。下手に熱くなって、ワンパターンの正面突破を強引に繰り返す愚だけは冒さないように。

とにかく冷静に。しっかり時間をかけて、落ち着いて丁寧にフルトンの距離とムーヴに眼を慣らして欲しい。


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■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
リシャール・ブルアン(カナダ)
グィド・カヴァレッリ(伊)
マヌエル・パロモ(スペイン)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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■Lemino 無料公開

<1>WBC・WBO 世界スーパーバンタム級タイトルマッチ スティーブン・フルトン VS 井上尚弥
https://lemino.docomo.ne.jp/home/recommend?utm_source=corp_service&utm_medium=owned&utm_campaign=lemino_202304_servicepage&crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2dyb3VwL2IxMDA4ZWU%3D

配信日時:2023年7月25日(火)開場15:45 / 開演16:00
見逃し配信期間:2023年7/25日(火) 23:00 ~ 2023年8月7日(月) 23:55


<2>【前日計量生配信】WBC・WBO 世界スーパーバンタム級タイトルマッチ スティーブン・フルトン VS 井上尚弥
https://lemino.docomo.ne.jp/home/recommend?utm_source=corp_service&utm_medium=owned&utm_campaign=lemino_202304_servicepage&crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL3ZvZC8wMDAwMDAwMDAwX2wwbGtheTVrNDg%3D

配信日時:2023年7月24日(月)
見逃し配信期間:2023年7月24日(月) 14:30 ~ 2023年8月7日(月) 23:55

<3>【記者会見生配信】WBC・WBO 世界スーパーバンタム級タイトルマッチ スティーブン・フルトン VS 井上尚弥
https://lemino.docomo.ne.jp/home/recommend?utm_source=corp_service&utm_medium=owned&utm_campaign=lemino_202304_servicepage&crid=Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL2dyb3VwL2IxMDBhMGI%3D

配信日時:2023年7月22日(土)
見逃し配信期:2023年7月22日(土) 14:30 ~ 2023年8月4日(金) 23:55

<4>WBC・WBO世界スーパー・バンタム級 フルトンvs井上尚弥 タイトル戦直前特番
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配信期間:2023年7月19日(水) ~ 2023年8月7日(月)まで





37歳の初挑戦 /ロンドンの銅メダリストが遂に迎えたプロの花道 - R・ラミレス vs 清水聡 ショート・プレビュー -

カテゴリ:
■7月25日/有明アリーナ/WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 ロベイシー・ラミレス(キューバ) vs WBO11位 清水聡(日本/大橋)





2大会連続のメダル獲得(及び3大会連続出場)を目標に掲げ、階級もライト級に上げて臨んだリオ五輪の代表選考会で、国内大本命の成松大介(熊本農業→東京農大→自隊校)に敗れた後、大橋ジムからのプロ入りを選択。

リオの本大会終了に合わせるかのように、128ポンド契約(S・フェザー級)契約の6回戦で初陣を飾ったのが2016年9月4日。

座間スカイ・アリーナの特設リングに登場した清水は、井上兄弟+従兄弟(尚弥&拓真+浩樹)の前を固める前座のトリ的な立場を担い、韓国から呼ばれた無名選手に粘られながらも、第5ラウンドに踏み込みざま(出会い頭)の左ボディを射し込み、テンカウントのKO勝ちで胸を撫で下ろした。

規格外のタッパにも関わらず、自ら距離を詰めて密着しつつ、左右のフックを上から振り下ろし、長い腕を折り畳んでボディを叩き、インサイドからショートアッパーを小突き上げる。

長身痩躯の五輪メダリストで、しかもサウスポー。鋭く長いジャブでロング・ディスタンスをキープしながら、手堅いポイントメイクにいそしむ・・・思わずテクニカルな技巧派をイメージしてしまいそうだが、清水のボクシングは流麗さやキメの細かさとは対極のインファイトに本領を発揮。

誰の目にも明らかなスピードの不足と、無駄に低くワイドに広がるガードへの不安を、ゴツンゴツンと鈍い音を立てて着弾する硬い拳で拭い去り、パワーで勝利を引き寄せていく。

デビュー時に三十路に突入していた年齢もさることながら、ほぼノーガードのままノシノシ歩いて、多少の被弾を承知の上で前進を繰り返す武骨な戦い方を間の当たりにして、「とてもじゃないが世界は無理。日本ランクで躓くんじゃないか・・・」とため息をつく熱心なファンが少なくなかった。


そんなファンの心配を他所に、強気を貫く大橋会長。4戦目で韓国人王者を5回KOに退け、首尾良くOPBF王座を獲らせると、それなりの挑戦者を選んで4連続防衛に成功。すべてKOの8連勝で世界への飛躍を煽る。

坂晃典(仲里)や大橋健典(角海老宝石)、渡邉卓也(DANGAN AOKI)に源大輝(ワタナベ)、佐川遼と竹中良の三迫勢など、126ポンドの国内トップ組みとの対戦が陽の目を見ない中、S・フェザーへの増量を試す。

完全な転級ではなく、大目標の世界タイトルに少しでも早く辿り着くべく、「可能性を探る」といったニュアンス。安全確実なマッチメイクを第一にしてきた大橋会長が、生来の勝負度胸を解放。フィリピンのハードパンチャー,ジョー・ノイナイ(この人もサウスポー)を招聘した。

126から130ポンドへと転じた関西の雄,坂に大阪で挑戦。まさかの2回TKOで坂を血祭りに上げ、WBOアジア・パシフィックのベルトを獲得したばかり。重さと切れ味を併せ持つ左右の強打は、清水に取っても十分な脅威になると思われたが、「世界を現実のものとする為には、このレベルは問題なく突破して貰わないと・・・」と、大橋会長は自らの気を引き締めるかのごとく、珍しくも厳しい調子で「本格的なテスト」への抱負を語る。


興行(2019年7月12日)のメインは、ロンドン五輪のステーブル・メイトでもある村田諒太。ラスベガスで見るも無残に打ちまくられ、御大ボブ・アラムの面前でWBAの正規王座を追われた村田が、プロ入り後初めてとなる大阪(準地元)で、文字通り進退を賭して臨む大一番。

2試合続けての大阪府立(エディオン・アリーナ)参戦に加えて、世界に照準を合わせる五輪銅メダリストが相手とあって、高いモチベーションを隠さないノイナイがスタートから攻め込む。

棒立ち状態で足が動かない清水も、「待ってました」と言わんばかりに強打で応戦するが、スピード負けがモロに響く。右ジャブをカウンター気味に貰ってフラつき、警戒していた筈の左ストレートを食らい、あっという間に2度ノックダウン。


クリンチワークも駆使して時間を稼ぎ、ストップ負けを持ち応える。戦況を立て直そうと第3ラウンドには攻勢に転じたが、左ストレートを軸にしたノイナイのパンチをかわせず、被弾が続いて右眼が塞がってしまう。

そして第6ラウンド、鼻血も止まらず右眼の状態を確認すべく主審の福地がドクターチェックを要請。ドクターは継続を容認して再開されたが、間もなく清水が自ら右手を小さく上げ、そのままノイナイに背を向ける。

すかさず飛び込んで右から左を振るうノイナイ。無防備の清水はこのワンツーで横転。背後からの攻撃だったが、主審の福地はノイナイの反則を取ることなく、清水の試合放棄による終了を宣告した。

「(主審もしくは自軍コーナーに)試合を止めて貰おうと思って・・・」

試合後語った通り、背を向けたのはギブアップの意思表示で間違いなし。グウの音も出ない完敗(惨敗)。ショッキングなプロ初黒星に、陣営は色と声を失い沈黙するのみ。

溢れんばかりの気迫と持ち前の強打を取り戻し、ロブ・ブラントを滅多打ちにしてベルトの奪還に成功した村田(2回TKO勝ち)、既にキャリアは下降線に入っていたとは言え、フィリピンの実力者ジョナサン・タコニンを問題にしなかった拳四朗(WBC L・フライ級戦V6/4回TKO勝ち)の横に並ぶことは叶わず。


「身体が重くて、思うように動けなかった。パンチは見えていたが、(反応が遅れて)かわし切れなかった。」

「動きの悪さ」は、130ポンドの調整が直接的な原因。そう取れなくもない敗戦の弁に、ファンの反応は厳しく容赦がない。

「年齢的にも限界。これ以上続けても無駄にダメージを残すだけ。」

試合後の検査で両眼窩底及び眼窩内の骨折も判明して、緊急手術と入院がそうした論調に拍車をかける。33歳を過ぎた清水は、肉体的には完全にピークアウトしており、精神的にも復帰は難しいのではないか。そうした見方が大勢を占める中、深く傷ついた胴メダリストは現役へのこだわりを見せる。

武漢ウィルス禍による興行の自粛も加わり、復帰戦は2020年7月16日。元日本ユース王者の殿本恭平(勝輝)を迎えて、保持を認められたOPBFフェザー級王座のV5戦。

初回に得意の左で2度のダウンを奪い、幸先の良いスタートと思いきや、簡単に試合を諦めない殿本の反撃を緩してしまう。このままズルズルと判定決着・・・。嫌な予感が後楽園ホールを覆い始めた第7ラウンド、懸命に前進を続ける殿本に左ボディからのストレートをヒット。

後退する殿本をコーナーに詰めて連打を浴びせ、レフェリーストップ(この試合を担当したのも福地勇治)を呼び込んだ。

眼窩底骨折が引き起こす眼筋マヒなどの深刻な後遺症もなく、以前と変わらぬ姿を披露できたのは何より。しかし、「以前と変わらぬ」ままでは念願の世界は遠のいて行く。


パンチ力に衰えは感じられないものの、打ち下ろしのフックが粗く雑に見えがちで、スピードと運動量に欠けるマイナスだけが際立つ。そして変異株による流行を繰り返し、容易に先の見えないパンデミックがまたもや行く手を阻む。

世界タイトルへの執着と焦る気持ちを隠さなくなった清水に、大橋会長が用意したテストマッチ第2弾は、中京初のバンタム級王者,薬師寺保栄の期待を一身に背負う若きサウスポー,森武蔵を東都に呼び、森が持つWBOアジア・パシフィック王座も懸けたOPBFとの統一戦(2021年5月21日)。

殿本戦から1年近くが経過し、無傷の12連勝(7KO)を更新中の森を推す声も多い。基本的なガードの位置に余り変化はないが、無駄に開く悪癖に修正が施されて、足もそれなりに動き、距離と間合いへの意識もしっかりしている。

序盤こそ森の接近に上手く対処できず、危ないタイミングで左ストレートを狙われヒヤリとしたが、中盤以降ショートのワンツーも含めた組み立てで距離を保ち、森に自分のボクシングをさせなかった。


プロ転向5年、11戦目にして初めての判定勝ち。12ラウンズの長丁場にもかかわらず、ガス欠もなく、顔は綺麗なまま。手応えを掴んだ陣営は、本格的に世界挑戦を模索するが交渉が思うように進まない。

世界戦が何時決まってもいいように、保持するベルトの防衛戦は眼中になし。いたずらに時間だけが過ぎ、2021年11月にWBOアジア・パシフィック王座を返上すると、翌2022年1月にはOPBF王座のはく奪が発表される。

これ以上の試合枯れは流石にマズイと判断したのだろう。昨年12月13日、尚弥 vs ポール・バトラー戦の前座に出場。負け越しの中堅フィリピン人とチューンナップ(S・フェザー級契約)を行い、難なく2ラウンドでストップ。1年半を超えるブランクに終止符を打つ。


◎「37歳初めての世界挑戦」
Leminoのyoutube公式チャンネルで公開されているドキュメンタリー

※ロンドン五輪代表チームの戦友,須佐勝明と鈴木康弘(母校で起こした不祥事でアマ・プロ問わず現場復帰は困難と思われたが・・・)が合流


まさかの来日が実現した王者ラミレスは、五輪連覇の華々しい戦果が示す通り、現代キューバを代表する才能の1人。

2018年7月、メキシコ国内で行われたナショナルチームの合宿から抜け出し、そのままアメリカに入国。亡命キューバ人の大きなコミュニティがあるフロリダではなく、ラスベガスに活動と生活の拠点を置く。

トップランクと複数年の契約を結び、日本のファンにもお馴染みのイスマエル・サラスのサポートを受け、万全の態勢で船出・・・した筈だった。


亡命から1年を経た2019年8月、プロの初陣は東部の要所フィラデルフィア。エドガー・バーランガとジェイソン・ソーサをメインに据えたローカル興行に組み込まれたデビュー戦を、こともあろうにラミレスはしくじってしまう。

選んだ階級は126ポンドのフェザー級。米英ではけっして珍しいことではないが、6回戦ではなく4回戦でのスタート。結果的にこの判断が裏目に出た。

生贄としてあてがわれたアダン・ゴンサレス(メキシコ系)は、戦績もはっきりしない正真正銘の無名選手(Boxrec上は8戦4勝2敗2分け)。「ナメるな」と言う方が無理な相手で、実際にラミレスはナメてかかっていたと思う。

開始早々突っかけるゴンサレスの右フックをダッキングで回避したまでは良かったが、すかさず返した左フックをよけ損ねて被弾。身体を反転させながら両手をリングに着いた。ダメージは浅かったが、規定のエイト・カウントを聞く。

勢いに乗ったゴンサレスは、小気味のいい連打を続けて簡単に下がらない。積極果敢に攻め続けるゴンサレスを止められず、挽回を急ぐラミレスには流れを変える時間が足りなかった。


4回戦ではなく6回戦だったら、ゴンサレスのインファイトにもっと落ち着いて対処できたに違いなく、逆転の判定勝ちも充分に望めたと確信する。

記念碑的(?)な大失敗を反省したトップランクは、3ヶ月後の仕切り直しを6回戦で組んだ。相手はやはり無名のメキシコ系米国人。ラミレスも冷静にラウンドを運んで最終6ラウンドのストップ勝ち。

さらに3ヶ月を挟んだ3戦目もメキシコ系で、問題なく4回KO勝ち。4ヶ月を置いた4戦目でドミニカ人選手を初回TKOに退けると、デビュー戦で万馬券を当てさせたアダン・ゴンサレスにフルマークの3-0判定でリベンジ。

この後8回戦を2試合やり、6回戦でのチューンナップを経て初の10回戦(2021年10月)。フェザー級契約なのに、NABF(北米)J・フェザー級王座が懸けられる変則タイトルマッチ。ほとんどワンサイドでペースを握り、3-0の大差判定勝ちでベルトを巻く。


昨年2月の10戦目で英国に遠征(スコットランド)。ジョシュ・テーラーの前座でアイリッシュの中堅サウスポーを3回TKOで捌くと、プエルトリコのホープ,アブラハム・ノヴァとの無敗プロスペクト対決に臨み、見事5回TKO勝ち。

何事にも慎重なアラムは、ライト級契約でイサック・クルスとミシェル・リベラに善戦したアルゼンチンの中堅ホセ・マティアスをブッキング。

フェザー~S・フェザー級を主戦場にするマティアスは、求められるままに128ポンド契約を呑み、9ラウンドまで粘り食い下がった。


プロの水にも慣れたという訳で、エマニュエル・ナバレッテ(メキシコ)が返上したWBO王座の決定戦に出場(今年4月)。相手はそのナバレッテに連敗して階級を上げて来たガーナのファイター,アイザック・ドグボェ。

160センチ台前半の小兵にもめげず、126ポンドでの復活を目指すドグボェに対して、珍しく(?)サイズで優位に立つラミレスは、無理を慎み常に一定の距離を維持。くっつかれると煩く厄介なドグボェに打ち合いを許さず、最終12ラウンドにはダメ押しのダウンも追加。

想像を超えるワンサイドの判定で、遅ればせながら(?)も世界タイトルを奪取。冷静沈着に12ラウンズをまとめ切ったラミレスは、待ちかねた終了のゴングが鳴ると、高らかに右手を掲げて勝利を誇示。興奮気味に何事かを叫び、感情を爆発させる。


どちらかと言えばラミレスはカッとなり易く、一度び頭に血が上ると我を忘れて打ち合いにのめり込んでしまう。プロ向きと言っても差し支えのない性格が、キューバ出身のアマ・エリートに特有のプライドの高さと相まって、試合運びという面ではマイナスに働きがち。

熱くたぎる野生への傾倒を理性で抑え込み、着実にポイントを積み重ねる堅実なボクシングの遂行は、絶対に失敗が許されない世界戦の檜舞台で、ただならぬストレスとフラストレーションをラミレスに与えていた。

この人の本質的な美意識は、おそらくは「倒し切って勝つ」ことにある。3分×3ラウンド制のアマチュアでもそれを貫くのは大変なのに、プロの世界戦は12ラウンズなのだ。


身体能力の高さ(スピード&柔軟性)と眼の良さ(優れた反応)、類稀なカウンターのセンスも含めた高度なテクニックとスキルは、プロ・アマの別は元より、国や地域,人種の違いを超えて認めるべき真に天才的なボクサーに必須の条件と表していい。

それらの諸条件をラミレスも当然満たしている。それは疑う余地のないところで、「何時でも好きなように外して、好きなように打てる」という、過剰なまでに圧倒的な自信も含めての話しになる。

シャクール・スティーブンソン(米),ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン),マイケル・コンラン(アイルランド),アンドリュー・セルビー(英),ツグスソグ・ニヤンバヤル(モンゴル)、そして我らが須佐勝明・・・。

アマ時代のラミレスは打ち破った、同時代の各国No.1と目される猛者たち。自信過剰になったとしても、許され然るべき錚々たる顔ぶれ。


「余り良く知らない。」

ファイナル・プレッサーでロンドン五輪当時の清水の印象について問われると、実に素っ気ない回答を即座に返したラミレス。

同じロンドンでメダルの栄誉に輝いた両選手だけに、「メダリスト対決」を煽りたい日本国内のメディアは、絵に描いたような見事な空振りに二の句が告げない。しかしながら、フェザー級で長く戦ってきた清水と、フライ~バンタム級で頂点を極めたラミレスには接点がなく、致し方のないことと諦めるべき。

プロ入り後も「これは!」という大物との対戦がない清水を、ラミレスが視野に入れる可能性もゼロに等しい。


「眼をつむっていても勝てる。」

乾坤一擲の大勝負に燃える清水には本当に申し訳ないが、清水の試合映像を見たラミレスは、十中八九そう思ったのではないか。

もう少し丁寧な表現に言い換えるなら、次のようになる。

「特別なことは何も要らない。普通にやることさえやっていれば、勝手に清水が倒れるか、さもなければレフェリーが止めに入る。」


スポーツブックのオッズも、とんでもない大差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
R・ラミレス:-3333(約1.03倍)
清水:+1400(15倍)

<2>Bet365
R・ラミレス:-2500(1.04倍)
清水:+1200(13倍)

<3>ウィリアム・ヒル
R・ラミレス:1/20(1.05倍)
清水:10/1(11倍)
ドロー:14/1(15倍)


大きな資金を必要とする世界戦を、ハナから負けるつもりで組むプロモーターは稀だ。大橋会長もトレーナーの八重樫東も、それこそ大橋ジム総出で清水をサポート・バックアップするだろうが、「長いボクシング人生に一区切りを着ける」為に用意されたと見られても止むを得ない。

それぐらい両雄のスピードには差があり、攻防のキメにも小さからぬ開きがある。清水がいつものようにゆったりとしたリズムで中間距離に留まり、ラミレスに正対し続けたら、それこそ「デカくてスローモーな標的」と化す。

ただし、上述した通りラミレスは熱し易く、我を忘れて打撃戦に応じてくれる可能性がゼロではない。ラミレスのペースを崩してカっとさせる為には、スティーブン・フルトンを追い詰めたブランドン・フィゲロアが格好のケース・スタディになる。


モタモタせずに、ラウンド開始のゴングが鳴ったら体格差を利して一気に王者をコーナーに押し込み、ボディを中心にガードの上を乱打。クリンチで逃げられても、再開したらまた同じように身体ごと押し込んで行く。

前半3~4ラウンズでスタミナをすべて使い切るぐらいの覚悟で、ラミレスをイラつかせて打ち合いに誘い込むことができれば、リゴンドウを2度引っくり返した天笠尚の奇跡が再現するかもしれない。

無論、勝敗とは別の話しにはなるけれど・・・。


◎ラミレス(29歳)/前日計量:125.7ポンド(57キロ)
戦績:13戦12勝(7KO)1敗
アマ通算:400勝30敗(概ね)
2016年リオ五輪金メダル(バンタム級)
2012年ロンドン五輪金メダル(フライ級)
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)ベスト8(バンタム級)
※本大会で銅メダルを獲得する地元カザフのカイラット・イェラリエフ(リオ五輪代表/2017年世界選手権金メダル)に0-3判定負け
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)3回戦敗退(フライ級)
※ロシア代表ミーシャ・アローヤン(ロンドン五輪銅だメル/世界選手権2連覇)に11-15で惜敗
2011年パン・アメリカン・ゲームズ金メダル(フライ級)
2013年パン・アメリカン選手権金メダル(バンタム級)
2010年ユース世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル(バンタム級)
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル(バンタム級)
キューバ国内選手権優勝5回(2011年・2012年・2014年・2015年・2017年)
身長:168センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター

◎清水(37歳)/前日計量:125.7ポンド(57キロ)
前OPBFフェザー級(V6/返上),元WBOアジア・パシフィック同級(V0/返上)王者
戦績:12戦11勝(10KO)1敗
アマ通算:170戦150勝(70RSC・KO)20敗
2012年ロンドン五輪銅メダル(バンタム級)
2008年北京五輪代表緒戦(R16)敗退(フェザー級)
※銅メダルを獲得したヤクプ・キリク(トルコ)に9-12で惜敗。日本代表チームがAIBAに抗議を検討するなどスコアリングが問題視された。
2005年(綿陽・中国/緒戦敗退),2007年(シカゴ/1回戦敗退),2009年(ミラノ/39度の発熱で棄権),2011年(バクー/2回戦敗退)世界選手権4大会連続出場
2012年アジア選手権(アスタナ/カザフスタン)銅メダル(バンタム級)
2009年アジア選手権(珠海/中国)銅メダル(フェザー級)
全日本選手権優勝2回(フェザー級);2007年(第77回/駒大),2009年(第79回/自隊校)
国体優勝3回(フェザー級):2004年(第59回/埼玉・青森・山形各県),2007年(第62回/秋田県),2009年(第64回/新潟・青森両県)
関西高校→駒澤大学→自衛隊体育学校→ミキハウス
身長:179センチ,リーチ:181センチ
左ボクサーパンチャー


◎前日計量



◎キックオフ・カンファレンス
2023年4月28日
https://www.youtube.com/watch?v=w5rojA1CXs4


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□リング・オフィシャル:未発表


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■注目のアンダーカード

□54キロ契約8回戦
武居由樹(大橋) vs ロニー・バルドナド(比)



キックボクシングから転向後、6戦してすべてKO勝ち。那須川天心(帝拳)との対戦(近い将来)に注目が集まる武居が、フィリピンの曲者を相手に8回戦のチューンナップ。

パンチ力とフィジカルの強さはあるが、身体が硬くてボディワークが使えず、国内及び地域ランカークラスのカウンターをまともに浴びて勝ち残れない。

キックやK-1のチャンピオンから国際式に転じた多くの選手が、例外なく陥った破綻の構図だが、秀逸な柔軟性と敏捷性を併せ持ち、一瞬の隙を逃さず決定機に直結するカウンターにも適性を発揮する武居は、これまで登場してきたキック出身者らとは、明らかに一線を画す異能の持ち主。

パワーよりもタイミングとキレで倒すサウスポーは、年齢(27歳)的にも長い活躍が見込まれており、井上尚弥の動向によって階級を変える(バンタム or フェザー)必要に迫られるというのが大方の見立てだったが、バンタム級でのテスト実施となった。いずれにしても大成が期待される楽しみな存在である。

バルドナド(27歳/16勝9KO4敗1分け)は、フライ~S・フライ級を主戦場にしており、フライ級に進出した田中恒成の調整試合に選ばれ、善戦健闘の末に9回TKO負け。

パンデミックによる休止を挟み、2019年9月から昨年12月の石田匠戦まで3連敗を喫したが、今年1月に久々の白星を挙げてフィリピンの国内王座(バンタム級)を獲得したばかり。

最近の戦績だけでなく、体格的にも武居の優位は揺るがない。体重をしっかり乗せて振るう左右の強打には気が抜けないけれど、手間隙かけずに鮮やかに倒したいところではある。

◎前日計量
武居:117.5ポンド(53.3キロ)
バルドナド:118.8ポンド(53.9キロ)

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