アーカイブ

2023年06月

カテゴリ:
■6月24日/大田区総合体育館/WBA世界S・フライ級タイトルマッチ12回戦
前王者 ジョシュア・フランコ(米) vs 前WBO王者/WBA位 井岡一翔(志成)
※フランコは前日計量で大幅な体重超過によりはく奪/井岡が勝った場合のみ王者として認定される



もう、グダグダである。

WBOのベルトを返上して「また逃げた!」と、ボクシング・ファンの信頼を大きく失墜(これで何度目?)した井岡が、再び大麻(マリファナ)騒動に揺れたと思えば、チャンピオンのフランコは3.1キロものウェイト・オーバー。

井岡の大麻問題はともかく、フランコのだらしなさには呆れるばかり。およそ6.83ポンドの超過だから、ほとんど122ポンドのS・バンタム級。2階級も違う。開いた口が塞がらないとは良く言ったもので、たった2時間(再計量までの猶予)で115ポンドまで落とせる訳がない。

山中慎介とのリマッチで2.3キロ(約5ポンド=123ポンド:フェザー級)をオーバーしたルイス・ネリーもお話にならないが、再計量までに1キロを絞った(+2.86ポンド=概ね122ポンドのS・バンタム級/当然ながら計算尽くの1階級差)。

1時間50分経って計量会場に戻ってきたフランコの目方は、なんと55キロ。居直るにしても程がある。2時間近くの間、不埒極まる輩は汗をかく最低限の努力もやっていない。

ツルツルに頭を剃り上げ、ガムを噛みながら(髪の毛を総て切り唾を出して水分を体外へ搾り出す=減量が限界を超えたボクサーの最終的な手段)戻ってきたなら、まだ可愛げがあるというもの。


要するに、始めからリミットを作る気が無かったのである。好意的に考えれば、練習中の怪我か急病で1~2週間まともに動くことができなくなり、キャンプでの調整が大幅に遅れたと想像できなくもない。だが、写真と短い映像で来日したフランコの表情や様子を見る限り、調整に失敗したとの印象は感じられず、ムチャクチャなオーバーに関する適切な説明も皆無。

「」

山中第2戦,マニー・ロドリゲス戦のネリーと寸分違わぬ「確信犯」。これ以外に、筋道の通った納得できる説明があるだろうか。他に辻褄の合う理由を捻り出せる者がいるとしたら、きっと砂浜に落としたコンタクトレンズも探し出して見せるだろう。

いったいどうしてこんなザマになってしまうのか。

要するに、日本のマーケットがナメられているということ。ボクシングの世界戦を組むには大金が要る。野球・相撲と並ぶ国民的人気スポーツだった時代は遠く過ぎ去り、潤沢なスポンサーを見つけるのは難儀な仕事になった。

民放地上波と死なば諸ともを半世紀以上も続けてきた我が国のボクシング界において、一度日程を決めた世界戦を中止・延期するなどもってのほか。この構図は、ネットや有料ケーブルでも根本は変わらない。


それでも海外の世界戦やトップクラス同士のビッグマッチでは、延期・中止はさほど珍しいことではなく、何となれば日常的に発生する。チャンピオンやそれに準ずる人気選手たちは、ちょっと怪我をしたり体調を崩したりすると、予定のキャンセルを躊躇しないようにさえ見える。

翻って我が日本のサムライ・ファイターたちは、前戦でカットした瞼の傷が癒えなくとも、拳を傷めて全力でパンチを打てなくとも、どれだけ減量がキツかろうとも、飲まず食わずで1週間以上を耐えた挙句、38度近い発熱でぐったりしようと、試合を止めるという選択肢は有り得ない。

チケットの払い戻しに応じられる会長さんはまだいい。資金力の乏しいジムは一巻の終わりになりかねず、TV局とスポンサーへのお詫び行脚は想像しただけで眩暈がする。

「一度決まった興行は、槍が降ろうが銃弾が飛んで来ようがやる。」

昭和から平成へと時代が移り変わっても、そうしたメンタリティは日本ボクシング界の不文律として健在だった。唯一無二(?)の例外は、90年代前半~半ばにかけて、フライ級で一時代を築いたユーリ・アルバチャコフ。

旧ソ連崩壊後に来日したペレストロイカ軍団のエース的存在であり、戦慄を覚えるほどの切れ味と威力を誇った右カウンターは、今に至るまで色褪せることのない鮮烈な印象を残す。

そのユーリが、右拳の異常を理由に防衛戦を固辞した。チーフトレーナーのジミンさんも、「鋭い痛みを訴えている。危険だ(今後のボクサー生命を左右しかねない)。」と延期の姿勢を崩さない。


「スポンサーから何から、全部やり直しですよ・・・」

苦虫を噛み潰すというのは、まさにこの事か。そう思わずにはいられない表情と口調で重い口を開き、インタビューに応じていた先代金平会長を思い出す。


WBOから中谷潤人との指名戦を通告された井岡は、迷うことなく(?)ベルトを返上。フランコとのダイレクトリマッチしか眼中にない。おそらくだが、フランコにはかなりの好条件が提示されている。

もしかしたら、フランコはS・フライ級の維持が困難になっていて、井岡戦を最後にバンタム級への増量を考えていたのかもしれない。ところが、良い条件で再戦のオファーが届いた。

最初は真面目にウェイトを作るつもりでいたのだろうが、キャンプで追い込みの時期に入っても容易に体重は落ちない。どこかのタイミングで、フランコは体重調整を放棄した。そしてチーフ・トレーナーのロベルト・ガルシアも、マネージメントをバックアップするファミリーもそれを容認してしまう。

無理に身体を絞らず、良い状態をキープしたままとにかく日本へ行こう。試合が中止になったら、その時はその時。でも、十中八九日本側は試合をやる。

丸腰になった井岡はベルトが欲しくてしようがない。この機会を逃す気は微塵もない筈だし、強気の価格設定を押し通したPPVのLIVE配信もある。ギリギリの土壇場にきて、メイン・イベントを中止にはできないだろう。

最大の障壁は日本のコミッション(JBC)だが、こと世界戦に関する限り、興行を主催するジム(プロモーター)を窮地に追い込むような真似はしない。山中とネリー、比嘉大吾とクリストファー・ロサレスがケース・スタディになる。


世界戦ではないが、ミニマム級のWBA王座を返上した宮崎亮(井岡ジムで一翔のステーブル・メイトだった時)が、L・フライ級への出戻り第一戦で調整に大失敗してしまい、スタッフにおんぶされて計量会場に現れ、無理やり秤に載せて試合を強行したこともあった。

宮崎はほとんどフラフラの気絶状態で、それでもJBCの委託を受けたコミッション・ドクターはゴー・サインを出し、JBCも宮崎の出場を許可している(アンダードッグとして呼んだタイ人選手にKO負け)。ちなみに、この興行のメインを張ったのは、井岡とフェリックス・アルバラードのWBA L・フライ級戦(レギュラー王座)。

流石にフランコのチームが宮崎のケースまで知っていたとは思わないが、「まず中止はない」と踏んでいたのは間違いない。いい度胸である。そしてその読みはズバリ当たった。


例えば下の階級のチャンピオン・クラスが、2階級上の格下選手とチューンナップをやるのは有り。しかし、力が拮抗した同格の選手同士が、115ポンドと122ポンドのウェイト・ハンディキャップマッチをやるなど非常識も甚だしい。

「山中 vs ネリー 2」と同様、フランコの報酬カットは無し。ネリーは減額されたことになっているが、本当かどうかわからない。今回も一部の記事で減額に触れているけれど、明確な金額やパーセンテージは明らかになっておらず、契約した金額を満額受け取ることができるのでは?。ベルトと引き換えに、良好なコンディションと満足の行くマネーを手にしたという次第。

当然のこととして、フランコには当日計量が義務付けられたが、さらに8ポンドの猶予が上乗せされ、59キロ(130ポンド)以内であればOK。しかも、130ポンドをオーバーした場合、またもや2時間の猶予が与えらるという。にわかには信じ難い、寛大過ぎる措置である。

「何が何でも試合はやる」という訳だ。そしてフランコは、ペナルティ(とは口が裂けても言えないが)の当日計量を58キロでクリア。


井岡もそれなりに対策をした上で仕上げて来ているだろうけれど、フランコがすべてを計算の上で非常識な狼藉に及んだのであれば、3-0の判定を持って行く。3キロのギフトは、余りにも影響力が大き過ぎる。

その一方で、前代未聞のウェイト・オーバーをもたらした直接的な原因が、何がしかの重大なアクシデントによる調整不足だったとしたら、井岡が大差を付けてチャンピオンに返り咲く。中盤辺りでのTKOも有り・・・と見るのが筋。

前戦の分析や詳細な予想記事を一生懸命準備していたが、何もかも嫌になった。ちなみに、第1戦はフランコの明白な判定勝ち。ロドリゲス戦に共通する井岡のウィークネスが、またもや露呈した。

物凄く簡単にまとめてしまうと、20世紀中盤~後半にかけて隆盛を極めたアグレッシブなメキシカン・スタイル(敢えて申せばオールド・スクールのボクシング)に、井岡が採る守備的な戦術は徹頭徹尾相性が悪い。

そのウィークネスを、サラスとのハードワークで修正できたのかどうか。私は出来ていないだろうと見ているが、どちらに転ぶのかはフランコの出来1つ。


フランコのボクシングを私は基本的に好むけれど、今後はもう素直に応援する気にはなれない。まさかネリーやファン・グスマンのテツを踏むとは・・・。

井岡の大麻問題については、記事をあらためてアップしたい。井岡の言い分にも一理はあるが、事はそう簡単な話しではない。それにしても、安河内事務局長の間の悪さといったら、誰か本気で諌める者はいないのだろうか。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
フランコ:-110(約1.91倍)
井岡:+100(2倍)

<2>betway
フランコ:-118(約1.85倍)
井岡:+100(2倍)

<3>Bet365
フランコ:-125(1.8倍)
井岡:+105(2.05倍)

<4>ウィリアム・ヒル
フランコ:10/11(約1.91倍)
井岡:10/11(約1.91倍)
ドロー:10/1(11倍)

<5>Sky Sports
フランコ:4/5(1.8倍)
井岡:11/10(2.1倍)
ドロー:12/1(13倍)


◎フランコ(27歳)/前日計量:121.3ポンド(55.0キロ)
※1回目の計量:55.2キロ(3.1キロ=ポンド)ものオーバー
現WBA S・フライ級王者(V3)
戦績:23戦18勝(8KO)1敗3分け1NC
アマ通算:96戦(勝敗詳細不明)
身長:165センチ,リーチ:170センチ
右ボクサーファイター


◎井岡(34歳)/前日計量:114.6ポンド(52.0キロ)
前WBO J・バンタム級(V6/返上),元WBAフライ級(V5),元WBA L・フライ級(V3).元WBA/WBC統一ミニマム級(V3)王者
戦績:32戦29勝(15KO)2敗1分け
世界戦通算:23戦20勝(10KO)2敗1分け
アマ通算:105戦95勝 (64RSC・KO) 10敗
興国高→東農大(中退)
2008年第78回,及び2007年第77回全日本選手権準優勝
2007年第62回(秋田),及び2008年第63回(大分)国体優勝
2005年第60回(岡山),及び2006年第61回(兵庫)国体優勝
2005年第59回,及び2006年第60回インターハイ優勝
2005年第16回,及び2006年第17回高校選抜優勝
※高校6冠/階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:166センチ
※ドニー・ニエテス第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□オフィシャル

主審:ルイス・パボン(プエルトリコ)

副審:
ジュゼッペ・クアルタローネ(伊)
ギジェルモ・ペレス・ピネダ(パナマ)
パヴェル・カルディニ(ポーランド)

立会人(スーパーバイザー):()


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■主なアンダーカード
<1>OPBF S・フェザー級タイトルマッチ12回戦(再戦)
森武蔵(志成) vs 渡邉卓也(DANGAN AOKI)


○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<2>バンタム級10回戦
比嘉大吾(志成) vs シリチャイ・タイイェン(タイ)

○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<3>S・フライ級8回戦
重里侃太朗(志成) vs ウィルベルト・ベロンド(比)

○○○○○○○○○○○○○○○○○○
S・バンタム級契約8回戦でタイ人と相対する木元紳之輔(27歳/きもと・しんのすけ/ワタナベ→角海老/6勝2KO6敗)は、習志野高校で国体5位の実績を持つアマチュア出身(アマ通算:20勝11敗)。

プロでは勝率5割と苦しい戦いが続いているが、ボクシングは良くまとまっている。なかなか勝てない最大の理由はサイズ。そして、相手の懐に飛び込むスピードと工夫の不足(総じて頭を振らなくなった現代の選手に共通する欠点)。

公称164センチのタッパは、「S・バンタムでは低過ぎる」と断定することは憚られるものの、前日計量後のリバウンドを含めた調整が当たり前になった昨今、本番のリング上で160センチ台後半~170センチ前半の選手に対峙すると、骨格の違いが浮き彫りになってしまう。

8回戦(A級)に上がってからの3連敗(2019年12月,2021年2月,2021年11月)も、相手は全員168~169センチ。武漢ウィルス禍の影響で2020年を丸々1年休み、一昨年11月の福永 宇宙(ふくなが・そら/黒潮)戦で初のTKO負け。

この後長期のブランクに入り、1年7ヶ月ぶりの復帰戦になる。小柄なタイ人(160センチ:Boxrecの身体データは当てにならないことが多い)を呼ぶ無難な選択も致し方のない状況と理解するが、Boxrecに記載された3勝3敗のレコードは信用しない方がいい。

本気になるとタフでしぶといムエタイ経験者との前提で、KOを急がず距離を取りながら慎重に立ち上がるのが得策。後楽園ホールではすっかりお馴染みの「早倒れ戦士(失礼)」なら、ボディを何発か入れれば勝手に悶絶してくれるだろう。

S・フライ級まで絞ってコンディションの維持が可能ならば、ランキングを賑わす面白い存在になれると思うけれど・・・。


ハッピーボックスジム(2014年に京浜ジムから改称)所属の岩崎文彬(いわさき・ふみあき/26歳/1戦1勝1KO)は、今年4月のデビュー戦で同じプロ初陣の井上善裕(本多)に2回TKO勝ち。S・バンタム級としては平均的なサイズ(公称168センチ)だが、比較的ガッシリした体躯に恵まれ、開始早々ダウンを奪った右ストレートの威力に注目が集まった。

即決勝負でダメージが残らなかった賜物だが、年間2~3試合が通り相場になってしまった現在、2ヶ月のスパンで2戦目を組む積極性は評価されていい。


対戦相手の為我井廉(ためがい・れん/21歳/DANGAN越谷)も、今回が2戦目の新人サウスポー。今年1月27日に後楽園ホールで行われた「DANGANオール4回戦」興行で初陣に臨み、石神井スポーツの網野翔(あみの・かける)をフルマークの3-0判定に下している。

「技術の伴った本物のファイターがいない。洋の東西を問わず絶滅危惧種」だと、拙ブログで何度か書いてきた。

日本の現状は際立って酷く絶望的だが、アマ以上にタッチゲームが横行して、ラスベガス・ディシジョンに象徴される「ボクサータイプ有利」の傾向が顕著な王国アメリカでも、「巧いファイター」は年々歳々少なくなっている。


だがしかし、絶滅を危惧するべきは「巧いファイター」だけではない。昭和の時代、当たり前のように存在していた「フル・ラウンズ足が止まらない本物のボクサー」も、最近はほとんど見かけなくなった。

例えば全盛期の高山勝成だが、プエルトリコのイヴァン・カルデロンとともに、新世紀に登場した数少ない「フットワーカー」の代表格。昔はフェザー~ライト級辺りでもけっして珍しくなかったのに、今ではフライ級以下の最軽量ゾーンでもなかなかお目にかかれない。

だからこそ、素早い足捌きで前後左右に動くレフティ為我井のボクシングを見て、「いいセンスしてるなあ」と感じたファンもいたのではないか。

私は生観戦ではなく「BOXING RAISE(ボクシング・レイズ)」の配信(有料)で見たけれど、ジャブとスタミナを強化しないとこの先キツくなるというのが率直な感想。手放しで賞賛できる水準にはない。

身体がまだ出来上がっておらず、フィジカルもパンチもパワー(強度)不足。まずはジャブを磨かないといけない(打ち方も余り良くない)が、8回戦に上がるまで(最短で5戦目には可能/もう少し長い目で見るべき)には、クロスレンジでの手数のまとめ方も覚える必要がある。

アマチュア経験の有無などバックボーンは不明ながら、ジムの育成次第で得難いメイン・イベンターに成長する素地はあると思う。


なお、Boxrecのイベント(Event)ページに掲載されている為我井の名前が違っている。

■Boxrec Event
https://boxrec.com/en/event/872263

×:Taiga Tamegai https://boxrec.com/en/box-pro/1123566
◎:Ren Tamegai https://boxrec.com/en/box-pro/1132084

「Taiga Tamegai」となっているが、同じDANGAN越谷に所属する「為我井泰我(2戦1敗1分け)」を誤って登録してしまったのだろう。この選手もサウスポーで二十歳と若い。間違い易いのは確かだから、余計に注意が必要。

以下に示す通り、JBCの大会スケジュール(PDF)には「為我井 廉」と記載されている。幾ら何でも、JBCへの申請・登録を間違えたりはしない筈で、十中八九Boxrec側の登録ミスだと推察する。

ひょっとしたら、2人の為我井は兄弟ボクサー?。

■JBC公式サイト試合予定:2023年6月24日 大田区総合体育館
https://jbc.or.jp/2023%e5%b9%b46%e6%9c%8824%e6%97%a5%e3%80%80%e5%a4%a7%e7%94%b0%e5%8c%ba%e7%b7%8f%e5%90%88%e4%bd%93%e8%82%b2%e9%a4%a8/

□対戦カード一覧(PDF)
https://jbc.or.jp/wp_jbc/wp-content/uploads/2023/06/0624.pdf


DANGAN越谷ジムの公式サイト(https://reason-taiki.com/)には独立した「選手紹介」のページが無く、斎藤友彦トレーナーのブログに「選手紹介」と題した記事がアップされているのみ。為我井泰我と為我井廉の記事もあるにはあるが、来歴や身体データなどが省略されており、なおかつ「選手紹介」をカテゴリーとして設定していない為、わかりづらいことこの上ない。

ライセンスを取得するだけでなく、実際に戦うプロ選手の頭数が少ないとか、戦績が思わしくないとか、様々事情はあるのかもしれないが、これはいかがなものか(トレーナー紹介のコンテンツは流石に用意されている)。


話は変わって、「BOXING RAISE(ボクシング・レイズ)」の配信について。

月額980円でDANGANの定期興行(後楽園ホール)だけでなく、地方で行われる興行も視聴できるのは大変にお徳。ボクシングを愛好する者にとって実に有り難く、欠かせないプラットフォームと表して間違いない。
https://boxingraise.com/


”ルーガルー”のピンチヒッターは世界選手権ベスト8の元トップ・アマ - プログレイス vs ソリージャ ショートプレビュー -

カテゴリ:
■6月17日/スムージー・キング・センター,ニューオーリンズ(ルイジアナ州)/WBC世界S・ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 レジス・プログレイス(米) vs WBC20位 ダニエリート・ソリージャ(プエルトリコ)





※ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=in6PYGXHvq8


アウェイのロンドンに赴き、WBSS(World Boxing Super Series)の決勝でジョシュ・テーラー(英)とぶつかり、0-2のマジョリティ・ディシジョンで惜敗したのが2019年の秋。

スポーツブックのオッズも含めて、プログレイスに傾く前評判を引っくり返されたプロ初黒星のショックは小さからぬものがあり、米国内でのリマッチ開催を強く望んだが、武漢ウィルス禍によって活動そのものを阻まれる。

ベン・ディヴィソン(ビリー・ジョー・サンダース,リー・ウッドらのコーナーを歴任/タイソン・フューリーとデヴィン・ヘイニーもサポートしたトレーナー)とともに戦った修行時代、テーラーは正攻法のボクサーファターだった。

どちらかと言えば、センシブルなイン&アウトの完成形を目指しているように見えたが、プログレイス戦では危険なクロスレンジに留まり、丁々発止の白兵戦で一進一退の拮抗した展開を切り抜けている。


サイズのアドバンテージと耐久力が明暗を分けた格好なのだが、試合が決まった時からデイヴィソンとテーラーが準備・意図していたものなのか、とにかくアグレッシブなプログレイスを捌き切れず、打ち合いに応じるしかなくなり、結果的に吉と出た瓢箪から駒なのか、その点はイマイチ判然としない。

カテラルとのリマッチに向けて昨年10月デイヴィソンと決別し、アマチュアのトップ選手から指導者になったジョー・マックナリー(デヴィッド・ヘイのコーナーでコーチ修行)をチーフに迎えて体制を一新した。

もともと打ち合いを嫌うタイプではなかったけれど、プログレス戦の勝利によってテーラーのファイトスタイルがより好戦的になったのは確かであり、トレーナーが変わっても方向性は同じ。待機型のサウスポー,カテラルとの相性の悪さ、不器用と言っても差支えがないほどの修正力の不足は、ロマチェンコ級のスピード&シャープネスを前面に押し出したテオフィモにも苦杯を喫する要因となった。


捲土重来を期すプログレイスは、ニューヨークにオフィスを置く著名なプロモーター、ルー・ディベラの下で戦ってきたが、復帰に際して関係を解消。WBSSの米国サイドを仕切った(?)リチャード・シェーファーとの契約を公表した。

シェーファーが最初に立ち上げたリングスター・スポーツではなく、新たに興したプロベラム傘下に収まり、ジャーボンティ・ディヴィス vs レオ・サンタクルス戦(2020年10月31日/アラモドーム/テキサス州サンアントニオ)のアンダーカードで無名のメキシカン・アメリカンを3ラウンドで撃破。

まさしく戦友と表すべきトレーナー,ボビー・ベントンとの信頼関係は変わらず、攻撃的なスタイルもそのままに、1年ぶりの復帰戦を飾って健在を示す。


WBSSの優勝者となったテーラーは、同じくパンデミックの影響で実戦から遠ざかるも、プログレイスより1ヶ月早くリングに戻り、近藤明広(一力)をショッキングな5回KOで蹴散らし、指名挑戦権を獲得したタイのドウヌア・サックリーリン(アビヌン・コーンソーン)を初回2分2分41秒の即決KOで退け、評価をさらにアップする。

140ポンドのS・ライト級に限らず、WBSSを完全に無視・黙殺したボブ・アラム(井上尚弥は大橋会長との共同プロモート/米国外では大橋会長が主導権を持つ)が支配下に置き、強力にバックアップするWBC&WBOの2冠王ホセ・カルロス・ラミレス(米)との4団体統一戦が具体化。

翌2021年5月22日、ラスベガスのヴァージン・ホテルズでの開催がまとまり、世界中のファンが注視する中、テーラーが2度のダウンを奪って3-0判定勝ち。テレンス・クロフォード続いて、140ポンド史上2人目の4冠制覇に成功。


ただし、2度のノックダウンにも関わらず、オフィシャル・スコアは3名とも114-112の僅少差を付けていた。ラミレスのホーム・アドバンテージを考慮する必要はあるにせよ、ダウンが1回だけだったなら、逆の結果も充分に有り得た接戦には違いがない。

クロスレンジで不可抗力を装い(?)、肩や肘を使った細かいバッティングを繰り返し、時にはラミレスの足を踏むなど、プロの裏技を躊躇なく使うテーラーの割り切り(居直り)に対する批判もあったけれど、主審を仰せつかったケニー・ベイレスが減点に踏み切れない、ギリギリのラインを行き来する狡賢さが、敵地での判定勝ちを引き寄せたとも言える。


テーラー vs ラミレス決定の一報を黙って聞くしかなかったプログレイスは、ラスベガスで4団体統一戦が挙行される1ヶ月前(2021年4月)、ジョージア州アトランタで組まれたローカル興行に出陣。

勧進元のプロモーターはシェーファーではなく、映画プロデューサーが本業のライアン・カバノーで、マイク・タイソンとロイ・ジョーンズのエキシビジョンで一儲けを企てたトリラー(Triller)のイベントである。

対戦相手のイヴァン・レドカッチは、ウェルター級をホームグラウンドにするカリフォルニア在住のウクライナ人で、契約ウェイトは143ポンドだったが、180センチ近いウクライナ人との体格差を心配する声も聞かれた。


しかし、プログレイスは一回り大きなレドカッチをスタートから攻め立ててペースを握り、第6ラウンドに強烈な右ボディをヒット。たまらず前のめりにうずまくるレドカッチは、ローブローの反則を主張。

ライヴ配信を行うFITE(トリラーが運営するデジタル・プラットフォーム)が、スローで問題のシーンをスクリーンに再生すると、疑う余地のないクリーンヒットと判明。ところがどっこい、開催地ジョージア州から選出された主審ジム・コーブは、レドカッチのアピールを受け入れ5分間の休憩を指示。

完全に戦意を喪失したレドカッチが再開に応じる筈もなく、ウクライナ人のコーナーが担架を要請して、さっさとリングから降りてしまう。本当にダメージから回復できなかったのかもしれないが、「反則勝ちを拾いに行った」と見られても仕方がない。

主審の裁定通りならプログレイスの反則負けになるが、元王者のコーナーも当然抗議を行い紛糾。追い詰められた格好の立会人(アトランタを所管するジョージア州のコミッションから派遣されている筈)は、あろうことかテクニカル・ディシジョンを採択した。


リング上に残っているのはプログレイス1人。一般的なプロボクシングのルールに従うなら、第3ラウンド終了のゴングが鳴った時点で試合は完全に成立。

WBCのように第4ラウンドの開始ゴングを必要と定める場合も有り得るが、この試合に関して言えばそれもクリア。ノーコンテストやノーディシジョンにはできない。なおかつ、地元選出のレフェリーの誤審も認めたくない。

国と地域,人種が違ってもお役人の考えることに大差はなく、どちらの面子も立つようにと、その場しのぎの愚行に及ぶ。


反則パンチ(完全な誤審)で退場を余儀なくされたのに判定負け。まるで意味不明な結末が許されるほど王国アメリカの良心は腐り切っておらず、ジョージア州のコミッションは1週間ほど経ってから負傷判定を取り消し、プログレイスのTKO勝ちに改める。

首尾良く(?)反則勝ちを拾った筈のレドカッチは、思惑が外れた上に半端ないバツの悪さを味あわされ、プログレイス戦を最後にリングに上がっていない。引退してもおかしくない年齢(37歳)ではあるけれど、こういうことを1回でもやってしまうと、プロモーターに敬遠されても文句は言えない。


この後プログレイスは、2度目の長期ブランクに入る。容易に勢いの止まらないパンデミックが最大の要因だが、プロモーターとして影が薄くなるばかりのシェーファーの手腕にチームとして不安を覚えたことも確かだ。

アル・ヘイモン一派のシェーファーと手を結んだのは、PBC勢がひしめくウェルター級進出を睨んでの決断であり、テーラーとの再戦も147ポンドでの交渉になると見込んだからでもある。けれども、カテラルとの再戦にこだわりを見せるテーラーは、なかなか147ポンドに上がろうとしない。

テーラーが140ポンドでグズグズしている間は、ハンドリングするトップランクとの交渉を難しくするだけで、事態の進展を期待するのは時間の無駄。なおかつPBC勢が少ない140ポンドでは、統一戦(ファンの注目度が高いビッグマネー・ファイト)の実現はおろか、世界戦を組むことそのものが簡単ではないと、遅ればせながら気付いたからである。

戦線離脱は11ヶ月に渡り、昨年3月19日に実現した公式戦は中東ドバイへの遠征となった。観光資源の1つとして、潤沢なオイル・マネーでラスベガス・スタイルのカジノ付き大型リゾートを推進する王族は、音楽イベントとともにボクシング興行の誘致にも積極的で、オスカー・デラ・ホーヤの右腕としてゴールデン・ボーイ・プロモーションズの隆盛を支えたシェーファー(スイス出身/エリート銀行家から転身)が、面目を躍如する仕事で逆襲に打って出たという構図。

メイン・イベントは、WBCフライ級王座を保持するサニー・エドワーズ(英)の防衛戦。パキスタンの元トップ・アマ,モハメド・ワシームとのマッチアップを仕組んだのは、オイル・マネーとのタッグを積極果敢に推し進めるエディ・ハーン。

プログレイスの相手に、傘下のアイリッシュ,タイロン・マッケンナをあてがったのもハーンである。主催プロモーターの看板をシェーファーに譲った上で、興行の現場をとりまとめていたのはマッチルームだったという次第。


ベルファストからやって来たベテラン中堅を6回TKOに下して大いに気勢を上げたが、熱望して止まないテーラーとの再戦が実現に向かう気配はなし(当然の成り行き)。

そうこうしているうちに、ウェルター級参戦をぶち上げながらとにかく動きの遅い4冠王者テーラーが、こだわっていた筈のカテラルとのリマッチをグズりながら、次々と3つのベルトを放棄。いずれも指名戦を拒否したことが原因で、WBO1つを手元に残して先週のテオフィモ戦を迎えている。

そして先日、伏兵ジャック・カテラル(英)との防衛戦で付けたミソを拭うことなく、140ポンド最強の評価を自ら手放した挙句、虎の子のWBO王座もテオフィモに奪われてしまった。


UAEから戻ったプログレイスは、シェーファーとの契約切れを待ちつつ、マッチルームUSAに急接近。ドバイ滞在中にハーンと何らかの接触があったのは間違いなく、WBCから指示されたホセ・セペダとの決定戦を7週間後に控えた昨年10月、正式契約の締結が公となった。

新しい体制で臨んだセペダ戦を、目論み通りのKO決着(最終盤の11回でストップ=開催地のカーソンを所管するカリフォルニア州ルールではKO)で締め括り、3年ぶりに世界のベルトを巻いたプログレイスは、衰えることのない王座統一への野望のみならず、テーラーとの再戦が決まるなら、147ポンドのウェルター級契約でも構わないと言い放つ。

WBCは1位セペダと2位プログレイスに決定戦を承認するのと同時に、3位に付けるホセ・カルロス・ラミレスに指名挑戦権を認めている。

決定戦の勝者には、ラミレスとの初防衛戦が漏れなく付いて来るという訳で、メキシカンとメキシコ系の人気選手厚遇が常態化したWBCらしい。しかしながら、WBCが決定戦&指名戦を同時に通告した時、プログレイスのプロモート権はシェーファーにあった。ラミレスを保有するトップランクは、早々に挑戦を辞退。

交渉そのものを拒否されたシェーファーに為す術はなく、プログレイスとマッチルームの逢瀬は自ずと加熱・加速した。


WBCから選択戦を容認されたプログレイスに、マッチルームが用意したチャレンジャーは、23戦全勝(14KO)のレコードを誇るランク3位リアム・パロ(豪)。

そしてそのパロも、アキレス腱の負傷を理由にキャンセルしてしまい、スクランブル発進に応じたのが、バルボサに負けた経験を持つプエルトリコのソリージャ(英語圏ではゾリーヤと発音されることが多い)という流れ。

「アーノルド・バルボサ(米/28戦全勝10KO)と平岡アンディ(大橋)にオファーを出したが、(時間的な制約の為に)上手くまとまらなかった。」


WBC20位のランキング(他の3団体はランク外)が示す通り、ソリージャは国際的にはほとんど無名と言って良く、タイトル歴もWBOのローカル王座のみ。ロートルのガマリエル・ディアス(粟生隆寛から大番狂わせでWBC S・フェザー級を奪取した元王者)と、すっかりベテランになったパブロ・セサール・カノ(メキシコ)戦が最大の戦果。

引退したロッキー・マルティネス(元WBO J・ライト級王者)がコーナーを守り、プロモーターとして活動するミゲル・コットのバックアップを受けている。

スポーツブックの賭け率は10倍を超えており、万馬券扱いも止むを得ない状況だが、世界選手権でベスト8に入ったアマ・エリートで、ボクシングの上手さと安定感は侮れない。バルボサ戦も右ストレートを浴びてグラつく7ラウンドまでは、拮抗した展開を作って善戦していた。

惜しむらくは、フィジカル&パンチのパワー不足。押し込まれると後退するしかなく、アマチュアライクなひ弱さが目立ち、力で押し返す気迫がいかにも物足りない。恵まれたタッパとせっかくの技術を、十二分に活かし切れない恨みが残る。


勘に頼るディフェンス(恒常的なガードの低さ)と、攻撃一辺倒のボクシングが災いして攻防のキメが粗くなり、テーラーのフィジカルの強度と体格差に潰れてしまったプログレイスだが、上でも下でも、とにかくまともに当たれば効いてしまう決定力は一級品。

スタイルの相性を考えると、プログレイスが中盤~終盤にかけてストップを呼び込むと見るのが妥当。ソリージャが判定まで逃げ切ったとしても、安全策でセーフティリードをキープする姿は想像しづらい。



◎プログレイス(34歳)/前日計量:139ポンド
戦績:29戦28勝(24KO)1敗
アマ通算:87勝7敗
2012年ロンドン五輪代表候補
2011年全米選手権ベスト4
階級:ウェルター級
身長:175センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター


◎ソリージャ(29歳)/前日計量:139ポンド
戦績:18戦17勝(13KO)1敗
アマ戦績:192勝16敗
2016年リオ五輪米大陸予選ベスト8
2015年世界選手権(ドーハ/カタール)ベスト8
※ウッティチャイ・マスク(タイ)に1-2で惜敗
2015年パン・アメリカン選手権(バルガス/ベネズエラ)銀メダル
※決勝でキューバのヤスニエル・トレド(ロンドン五輪ライト級銅メダル)に0-3判定負け
2014年中米・カリブ海大会(ベラクルス/メキシコ)銀メダル
※決勝でヤスニエル・トレドに1-2判定負け
2014年国内選手権優勝
以上,L・ウェルター級
2013年パンアメリカン選手権(サンティアゴ/チリ)ライト級銅メダル
身長:175センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター



※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=eeYtaXoFaiA


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■リング・オフィシャル:未発表


テオフィモが2階級制覇へ /受けて立つのはウェルター級進出を延期したテーラー - 4階級同時制覇の両雄がサバイバルマッチで激突 -

カテゴリ:
■6月10日/MSG,ニューヨーク/WBO世界J・ウェルター級タイトルマッチ12回戦
WBO王者/前4団体統一王者 ジョシュ・テーラー(英) vs 元4団体統一ライト級王者/WBO1位 テオフィモ・ロペス(米)





140ポンドに主戦場を移したテオフィモが、転向3戦目にしていよいよ2階級制覇に乗り出す。挑む相手は、4団体統一王者だった現代スコットランドのボクシング・ヒーロー,ジョシュ・テーラー。

「薄氷の2-1防衛」で何とか生き延びた(?)ジャック・カテラル(英/イングランド)との指名戦(昨年2月26日/王者の地元グラスゴー開催)の後、ウェルター級進出への意欲を語ると同時に、「(S・ライト級で)やり残したことが1つだけある」と語り、カテラルとのリマッチに応じることを明言する。

カテラルに異存があろう筈もなく、昨年11月グラスゴー開催で落ち着くかに思われたが、テーラーの足の怪我や中継(Sky SportsとESPN)を巡る交渉が難航して二転三転。2月・3月と延期が繰り返される中、テーラーは相次いで通告されたWBA,WBC,IBFの指名戦をすべて拒否。

経緯と順番は以下に示す通り。猶予の申請を快諾してくれたたWBOのベルトのみを手元に残し、他の3つはすべて放棄した。


<1>WBA:2022年5月15日はく奪/アルベルト・プエリョ(ドミニカ)との指名戦を拒否
(1)決定戦;2022年8月20日 コスモポリタン・ラスベガス
プエジョ 12回判定(2-1) バティル・アフメドフ(ウクライナ)
※プエジョのドーピング違反が発覚してはく奪(今年4月20日~5月9日)
(2)決定戦:2023年5月13日 コスモポリタン・ラスベガス
ローリー・ロメロ(米) TKO9R イスマエル・ボロッソ(コロンビア)

<2>WBC:2022年7月1日返上/ホセ・セペダ(米)との指名戦を拒否
決定戦:2022年11月26日 デグニティ・ヘルス・スポーツ・パーク(カリフォルニア州カーソン)
レジス・プログレイス(米) 11回KO ホセ・セペダ

<3>IBF:2022年8月24日返上/スブリエル・マティアス(プエルトリコ)との指名戦を拒否
決定戦:2023年2月25日 アーモリー(ミネソタ州ミネアポリス)
マティアス 5回終了TKO ヘレミアス・ポンセ(ニカラグァ)


さらに今年1月、テーラーが再び足を負傷したことを理由に、4月4日でフィックスした日程の延期を表明。主治医の診断により回復までに4~6週間を要するとの説明が行われたが、およそ1ヶ月後の2月23日、テオフィモとの対戦をESPNが報じる事態に。

今年3月23日、急転直下マッチルームがカテラルとの正式契約を公表したことが、テーラーとテオフィモを傘下に収めるトップランクの方針に影響したとされる。

カテラルをプロモートしていたのは、ベン・シャロームというマンチェスター出身のローカル・プロモーターで、大学卒業直後に弱冠23歳で自身の興行会社(BOXXER:ボクサー)を立ち上げた。

アマチュア・ボクシングの経験者でもあったシャロームは、ノッティンガム大学で法学を修める傍ら、大学内外で様々なイベントを手掛けていたという。テーラーを追い詰めて一躍注目を集めたカテラルを元手に、業界内でのポジションを固める計画を、エディ・ハーンの引き抜き工作によってものの見事に崩された格好。

Sky SportsとESPNの主導権争いに時間を取られた(らしい)アラムは、「やれやれ、今度はDAZNか・・・」という訳で、テオフィモにお鉢を回したとの見立てがもっぱら。


トップランクの動きを知るや否や、ハーンはカテラルにWBAの下部タイトル戦を誘致。先月27日、マンチェスター・アリーナでアイルランドの中堅ダラー・フォーリーを大差の3-0判定に退けている。

テーラー以外の3団体に照準を移し、年内にイングランド領内に招聘する目論みと推察されたが、先月上旬、ハーンがレジス・プログレイスの獲得を発表。来週17日、生まれ故郷のニューオーリンズで、プエルトリコのホープ,ダニエリート・ソリーヤ(リオ五輪代表候補/ゴールデン・ボーイ・プロモーションズと契約してプロ入り/ゾリーヤ,ソリージャ等カナ表記は様々)との初防衛戦に臨む。

周知の通り、プログレイスはWBSS(World Boxing Super Series)の決勝をテーラーと争う為、2019年秋に渡英した経験を持つ。WBSSを企画立案したドイツのプロモーター,カール・ザウアーラントとともに、O2アリーナ(ロンドン)で行われたこの興行を共催したのがハーンだった。

プログレイスが来週の防衛戦をクリアすることが前提にはなるが、カテラルの挑戦は既に決定事項との見立てがもっぱら。仮にアップセットが起きたとしても、同じDAZNを後ろ盾にするマッチルームとGBPだけに、どちらが勝っても次はカテラルという流れ。


さて、肝心要のテーラー VS テオフィモだが、例によって挑発的な態度を隠さないチャレンジャーに対して、遠来のチャンプはいたくお冠の様子。ファイナル・プレス・カンファレンスで火花を散らす。

「テオフィモ・ロペスは無礼が過ぎる。彼は土曜日に、その高過ぎる代償を支払うことになる。勝利するのは私だ。早い時間帯のKOも有り得るだろう。」

無論、テオフィモも負けていない。

「本当に頑張ったよ。11週間のキャンプだった。大変だったけど、お陰でベスト・バージョンのオレを披露できる。より良くなる為には、練習に打ち込むしかない。」

「前回と同じテツは踏まない(序盤にダウンを喫したサンドロ・マルティンとのテストマッチ)。2つ目の階級を獲る。最高のショーだ。準備は万端、ジョシュ・テーラーのすべてを奪う。その為だけに、ここにやって来たんだ。」




◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=ktrLBqrgKX8


まずは、直前の賭け率を。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>>betway
J・テーラー:-160(1.625倍)
T・ロペス:+145(2.45倍)

<2>ウィリアム・ヒル
J・テーラー:4/7(約1.57倍)
T・ロペス:6/4(2.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

<3>Sky Sports
J・テーラー:1/2(1.5倍)
T・ロペス:15/8(2.875倍)
ドロー:12/1(13倍)


これを僅小差と見るか、それとも明確な乖離と見るかは、テオフィモの前戦(昨年12月10日/MSG)をどう評価するのかによる。

左ジャブから右ストレートをボディへ放つ、ロマチェンコ打倒に大きな役割を果たしたコンビネーション(リナレスのコピー?)を繰り出し、快調な滑り出しと思われた矢先、第2ラウンド開始早々だった。

同じパターンでの踏み込みざま、小さく右サイドへバックステップしたマルティンは、死角に近いポジションから右フックをクロス気味に打ち下ろす。これをテンプルに貰ったテオフィモが、前のめりに青コーナーに突っ伏してしまう。

すぐに立ち上がったテオフィモは、規定のエイト・カウントを数える主審のロッキー・ゴンザレスに「ダウンじゃない」とオフ・バランスを主張するポーズを取ったが、大人しく指示に従った。


フラッシュダウンの直前、青コーナー付近のロープ際まで下がったマルティンは、テオフィモの左リードに右フックを素早く被せており、キャンプで集中的に取り組んでいたことを窺わせる。これはまともに当たってはいなかったけれど、タイミングに感触を掴んだとの印象。

そっくりな場面が第7ラウンド(40秒を経過する辺り)にも発生したが、この時はマルティンの右はヒットしておらず、ステップインからそのまま前傾したテオフィモの後頭部を巻き込んでいた。「良く見ているな」と、ノックダウンを取らなかった主審のゴンザレスに感心した。

これをダウンと裁定されていたとしても、それだけでテオフィモの2-1判定が引っくり返りはしなかったものの、挽回を焦るテオフィモの攻勢がカンボソス戦並みに粗く雑になっていたら、ひたすら打ち終わりを狙うマルティンの軽打の精度がアップして、スコアリングを左右していた可能性は有り得る。

当然のことながら、いくらダメージが無いとは言え、2度のダウンを許した挙句の地元判定勝ちとの批判は勢いを増して、株価の低下傾向に拍車をかけたに違いない。


率直に私見を申し上げると、94-95の1ポイント差でマルティンを支持した副審グィド・カバレッリ(伊)のスコアは、有体に「欧州贔屓」と表して差支えがなく、WBOの下部タイトルを懸けたが故に、スペイン以外の欧州域内から審判を1名招かざるを得なくなった。

打ち合い忌避と逃げ切りに徹するマルティンは、我らがライオン古山の強打から15ラウンズをひたすら後退し続け、執拗なクリンチ&ホールドを辞さない腰抜け戦術で空位のWBC J・ウェルター級王座を強奪したぺリコ・フェルナンデスの伝統を受け継ぐサウスポー。

カテラルとの再戦交渉に手を焼くアラムは、かなり早い段階からテオフィモへの差し替えを考えていたのだろう。テーラーと同じ長身痩躯のレフティを見つけて、テストマッチを組んだ。


中谷正義(先日引退を表明)ほどの違いは無かったが、マルティンは135~140ポンドでは充分に大きく(Boxrecに記載された身長:172センチは明白な誤り)、スピード&反応もまずまず。さらに、12年のプロキャリアで40戦を超える豊富な経験を併せ持つ(40勝13KO3敗)。

2019年7月~2021年4月までの間、欧州(EBU)王座に就いて2度の防衛にも成功(返上)しており、切れ味鋭い右ジャブに加えて、上述した通りテオフィモのリードに右フックを合わせる勘とセンスも悪くない。

それだけのボクサーが徹頭徹尾打ち合いを避け、後退しながら入り際と打ち終わりを狙い続け、ひたすら専守防衛に閉じこもる。テオフィモでなくとも、ディフェンス・ラインをこじ開け崩し切るのは難儀な仕事になる。

これはテオフィモにも言えることだが、安全第一を旨とするマルティンは手数が少なく、リターンのパンチも総じて精度が低かった。マルティンがもっと右ジャブを増やして、返しの命中率が少しでも高かったら、おそらく判定は変わっていたと思う。

堂々とした体格がウソのように脆弱な、スペイン人のスタイルに救われたとの見方も、あながち検討外れとは言い難い。


例えばメイウェザーのように、どれだけ卑怯未練な戦い方に終始したとしても、命中精度が高くムーヴィング・センスにも優れて動きが美しければまだしも、これだけ消極的で精度も低いボクサーを、ジャッジ(ホーム,アウェイの別を問わず)が積極的に評価するのは大変である。

拙ブログは、地元ニューヨーク在住のお馴染みマックス・デルーカ(96-93)と、カナダから呼ばれたパスカル・プロコプ(97-92)の判断を推す。

そしてテオフィモの出来だが、私は悪くなかったと考えている。増量に際する最大の課題(懸念材料)と表していいスピード&シャープネスは、ロマチェンコ戦に匹敵する高水準を維持しており、実力差が明白な三十路の中堅メキシカンを倒しあぐねた転級第1戦に比べて、明らかにコンディションも良かった。

相対的なパワー(フィジカル及びパンチング)の減退も隋所に感じられはしたけれど、大柄なマルティンのサイズ(計量後のリバウンド込み)と、逃げ切りしか頭にない安全策を割り引く必要はある。


問題なのは、崩しの手間を省略し過ぎてワンパターンに陥り易い攻撃の組み立てと、修正への意識と工夫の決定的な不足。上体を直立させたまま、相手に正対し続けるポジショニングは、相手が左だとうと右だろうと、すぐにでも直すべき積年のテーマであった筈。

フェイントは色々やってはいるが、位置取りと距離の不味さが効果を殺ぎ、「ジャブ→右ボディストレート」、「右(ストレート,フック)から入る逆ワンツー」、「左フックを囮にしたステップ・イン」以外、目ぼしい手段が見られない。

中盤以降頭を低くして左右に振るシーンも垣間見られたが、それを続ける戦術的ディシプリンに欠けるのも珠にキズ。プレスをかけ続けながら、どちらとも取れるラウンドを引き寄せる術に今1つ冴えがなく、ロマチェンコに引けを取らないスピード&シャープネスを活かし切れない恨みが残り続ける。


一気に力で押し潰そうと力み返り、自ら墓穴を掘ったカンボソス戦の反省が、まだまだ足りていないのではないか。ボクシングを始めた時からともに戦い続ける実父とのコンビを、真剣に考え直す時かもしれない。

徹底的に退いて構える相手を倒し切るという意味ではなく、危ない場面に自ら陥るケアレス・ミスを防ぎ、着実にポイントメイクしながらセーフティ・リードをキープする為に不可欠なフェイントと捨てパンチの重要性、崩しのコンビネーションから連打をまとめるテクニックを教えられるコーチを、今こそ外部から招くべきなのでは。

テオフィモ・シニアをチーフから外せという短絡的な話しはなく、「左ジャブ→右ボディストレート」で踏み込んだ後の展開を創出するノウハウ、これから連続して対峙するであろう、180センチ近い長身選手の懐に隙無く飛び込む技術、相手の正面に立ち続ける悪癖の修正等々を、この際チームの外に学ぶという意味で・・・。


カテラルへの雪辱を強くアピールしていたテーラーには、評価を落としているテオフィモへの差し替えによるモチベーション低下を心配する声が聞かれた。

スタンスを思いの他広く取り、長身(公称180センチ)を深めに前傾させ、積極的にプレスする戦術で活路を拓くテーラーは、フィジカルの強度を武器にした消耗戦が得意で、プログレイスのように前に出てくる相手には滅法強い。

ところが、相手を呼び込んでカウンターを狙う待機型のカテラル(小柄なサウスポー)には、距離を潰す途端にクリンチ&ホールドで絡め取られ、入り際を少しでも躊躇するといきなりの左ストレート、フリッカー気味の右ジャブで遅れを取る。


イングランド領内の開催だったら、判定がどう転んでいたかはわからず、意外な不器用さを露呈したテーラーもまた、その評価は下落傾向にある。

先だってダブリンで行われたケイティ・テーラー vs シャンテル・キャメロンと同様、ライト級とS・ライト級の4団体統一王者同士の顔合わせだったなら、報酬も期待度も段違いだっただろうに・・・。

フィジカル・パワーと耐久性で押し切るスタイルのテーラーは、テオフィモに取ってやりづらいタイプではけっしてない。ボクシングの質を比較すれば、テオフィモの方が上等なのは間違いないが、これまで通りの戦い方だと惜敗に終る公算が大。

11週間のハードワークで、攻めのバリエーションと工夫がどこまで改善されたのか。勝敗のカギを握るのは、キャンプで取り組んだテーラー対策とテオフィモ・シニアのコーナーワーク。

拙ブログの予想は、性懲りも無く期待値に賭けて、テオフィモの小差判定勝ち。フィジカル自体は、140ポンドでも通用する筈。


◎テーラー(32歳)/前日計量:139.8ポンド
現WBO J・ウェルター級王者(V1),前4団体統一同級王者(WBA:V3/WBC:V1/IBF:V4)
戦績:19戦全勝(13KO)
アマ通算:150戦超(詳細不明)
2012年ロンドン五輪ライト級代表(2回戦敗退)
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)2回戦敗退(L・ウェルター級)
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)初戦敗退(ライト級)
2013年欧州選手権(ミンスク/ベラルーシ)初戦敗退(L・ウェルター級)
2011年欧州選手権(アンカラ/トルコ)2回戦敗退(ライト級)
2014年コモンウェルスゲームズ(グラスゴー/英スコットランド)金メダル(L・ウェルター級)
2010年コモンウェルス・ゲームズ(デリー/インド)銀メダル(ライト級)
身長:178センチ,リーチ:177センチ
左ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎ロペス(25歳)/前日計量:140ポンド
元4団体統一ライト級王者(V0)
戦績:19戦18勝(13KO)1敗
(2016年11月デビュー)
アマ通算:150勝20敗
2016年リオ五輪ライト級初戦敗退
※ホンジュラス(両親の母国)代表
2016年リオ五輪米大陸予選準優勝
2015年リオ五輪米国最終予選優勝
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2015年ユース全米選手権ベスト8
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2014年ユース全米選手権3位
※階級:ライト級
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター



◎前日計量


◎前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=svdYz0CMvKk


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■リング・オフィシャル:未発表


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■主なアンダーカード

17連勝(10KO)中のS・フェザー級プロスペクト,ヘンリー・レブロン(25歳/プエルトリコ/2013年ジュニア世界選手権銅メダリスト)が10回戦のセミ格に出場。

オスカル・バルデスへの初挑戦で完全な勝利を無きものとされ、シャクール・スティーブンソンに完敗を喫した悲運の金メダリスト,ロブソン・コンセイソン(ブラジル)は、ドミニカのベテラン中堅を相手におよそ9ヶ月ぶりの復帰戦に臨む。

NABO(WBO直轄の北米王座)のベルトを巻いて、早くも世界へ名乗りを上げようという弱冠二十歳のウェルター級,サンダー・ザヤス(プエルトリコ/15連勝10KO)は、無名のメキシコ系米国人と8回戦でのチューンナップ。

また、8回戦に登場するオマール・ロサリオ(25歳/プエルトリコ)も、トップアマから転向して10連勝(3KO)をマークする140ポンドのニューカマー。タッパ(公称178センチ)にも恵まれ、稼ぎのいいウェルター級進出を睨みながら育成中。

地元ブルックリンをホームに戦う軽量級の黒人ホープ,ブルース・キャリントン(26歳/7戦全勝4KO)は、エクアドル出身のアンダードッグとの8回戦を予定。

135ポンド契約で再起戦を行う筈だったジャメイン・オルティズ(米)は、ウェイトを間に合わせることが出来ず、計量前日にドタキャン。ロマチェンコへの善戦でアップした評価を下げてしまった。

このページのトップヘ

見出し画像
×