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2023年04月

有明4大決戦+α プレビュー2 /代理挑戦者はルディの愛弟子 - 拳四朗 vs A・オラスクアガ -

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■4月8日/有明アリーナ/WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B) VS WBA4位 アンソニー・オラスクアガ(米)






「4団体を絶対に獲る!」

帝拳期待のホープ,岩田翔吉にキャリアの違いを嫌と言うほど味合わせ、WBOのベルトを守ったジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との3団体統一戦の正式発表に際して、京口紘人(ワタナベ)を想定外のワンサイドで打ち砕き、108ポンド国内最強を証明した拳四朗はそう言い放つ。

8連続防衛の真っ最中だった2021年当時、拳四朗と寺地永会長(実父/元OPBF L・ヘビー級王者)は、具志堅用高が打ち立てた連続防衛記録(13回)の更新にこだわっていた。

ところが、中京から現れた伏兵,矢吹正道(緑)によってその夢を絶たれてしまう。矢吹とのリマッチで、スタート直後から打ち合いに出た拳四朗は、圧倒的なフィジカル&パンチング・パワーを発揮。

僅か3ラウンドで矢吹を粉砕した拳四朗の姿に、「覚醒」の二文字を思い浮かべたファンは多かったに違いない。


連続13回の記録更新が不可能となり、陣営は統一路線へと舵を切る。井上尚弥の快進撃だけでなく、テレンス・クロフォード,オレクサンドル・ウシク,ジャーメル・チャーロ,ジョシュ・テイラー,カネロ・アルバレスらが4団体を完全制覇。

さらに女子は、2階級で4つのベルトを揃えたクラレッサ・シールズ、ライト級に君臨するアイリッシュ・クィーン,ケイティ・テーラー、真の女王の座を巡りケイティと激しく争うアマンダ・セラノ(フェザー級)、S・ライト級のジェシカ・マカスキルとマカスキルを破ったシャンテル・キャメロン、S・フェザー級のアリシア・バウムガードナーら、4冠王が軒を並べる事態へ。


世はまさに「4団体統一」。拳四朗と寺地会長も、どちらかと言えば消極的と見られていた京口との激突を選択。

「(態度を一変?させたのは)矢吹に負けたからでしょう。それまでは、いくらこっちからアプローチしても見向きもされなかった。」

統一戦の発表会見で、京口は拳四朗陣営の掌返しをチクリとやったが、実際矢吹に勝っていたら、14連続防衛めがけてまっしぐらに突き進んでいたと誰もが思う。

だがしかし、そのお陰で京口とのドリームマッチが実現したのだから、この際結果オーライとしよう。


あらためて断るまでもなく、載冠当初の拳四朗はフットワークと左ジャブで活路を切り拓く、典型的なアウトボクサーだった。細身で頼りなく見えた若き王者が、防衛を重ねる中で安定感を増し、不断のトレーニングと加齢に応じて身体が大きくなること自体は珍しいことではない。

しかし、矢吹との2試合でも感じたことだが、計量後のリバウンド込みでリカバリーした拳四朗の上半身はグンと厚みを増して、本当に大きく見えた。京口との統一戦では、体格差のアドバンテージがさらに際立つ。

「拳四朗がデカ過ぎる・・・」

予期せぬ呼吸器の感染症に見舞われ、ビッグ・チャンスをフイにして療養中のジョナサン・ゴンサレスには申し訳ないが、予定通り無事に来日していたとしても、打倒拳四朗は叶わなかったと確信する。


◎最終会見



どこにも付け入る隙が無さそうに見える拳四朗だが、ピンチヒッターとして呼ばれた挑戦者の評判がすこぶるいい。

プロ僅か5戦(全勝3KO)。一定の戦果を残したとされるアマチュア・レコードも23戦に過ぎず、対戦レコードに顔と名前を良く知られた元王者やビッグネームは皆無。ランキング入りの根拠は、デビュー3戦目に獲得したWBA直轄のローカル・タイトルのみ。

「本当に大丈夫?。1ラウンドか2ラウンドで終るんじゃないの?。」

思わず余計な心配をしたくなってしまうが、”トニー”の愛称で呼ばれるチャレンジャーは、USA帝拳の重鎮,ルディ・エルナンデスによって発見育成された「未来のスーパースター」ということらしい。


ある日、ルディの愛息マイケルが1人の少年をジムに連れてきた。「好きなスポーツはバスケット(ボール)」と言って笑う12歳の少年は、見よう見真似の練習を数日間やっただけで、周囲が驚くほどの成長を見せたという。

「1週間続けられたら、お小遣いを上げるよ。」

ルディがぶら下げたニンジン(10ドル)につられて、12歳の少年は毎日ジムにやって来たが、約束の小遣いを貰うと姿を消す。

「毎日同じ事の繰り返し。シャドーとヘビーバッグばかりで飽きちゃったんだ。」


トニー少年の生家はご他聞に漏れず貧しく、気性の荒い父は、母と6人いた兄弟にいつも暴力を振るっていたという。将来を案じたルディと彼の家族は、トニー少年を引き取って育てることにした。

ルディの下を訪れる多くの著名ボクサーとも親しくなって行くが、中谷潤人もその1人。恵まれた運動神経と身体能力に加えて、強烈な1発も併せ持つトニー少年は、ジムでちやほやされ出していささか調子に乗っていた。

ルディは中谷との実戦スパーを計画すると、「ボディで倒してくれ。」とこっそり中谷に依頼。実戦経験を持つ中谷はルディの要求通りにスパーを終え、天狗の鼻をへし折られて半べそのトニー少年は、「やられっ放しで引き下がってたまるか」と雪辱に燃える。

ルディが見込んだだけあり、本気でボクシングに打ち込むようになったトニー少年は、溢れるポテンシャルを開花させて行く・・・というのがここまでのストーリー。

2017年には、渡米した拳四朗ともスパーで手合わせを済ませている。寺地会長が思わず「本物の天才」と口走ってしまうほど、トニー少年の身のこなしとセンスは抜きん出ていた。


直近の試合映像(昨年10月/マルコ・ススタイタ戦/初回KO勝ち)を見ると、確かに反応が鋭く、ステップもパンチも実にスムーズ。ごく自然に圧力をかけて距離を詰めると、アッパーを交えた左右のコンビネーションを回転させる。

自らロープを背負いわざと打たせてカウンターの隙を狙ったり、板に付いているとまでは言えないけれど、瞬間的にサウスポーにスイッチしたりと、器用さも如何なく発揮。

右が強いのは間違いないし、前に出た左も実に良くキレる。確かにパンチはあるが、今のところは重さよりもシャープネスで勝負するタイプ。打ち合いになるとまだまだ硬さと粗さが覗くし、見切りと勘に頼ることが多いディフェンスにも不安は残るが、攻防の技術とラウンドをまとめる手際は、プロで5戦しかやっていないグリーンボーイの域を遥かに越えている。


◎試合映像:マルコ・ススタイタ(Marco Sustaita)戦/初回KO勝ち
2022年10月14日/セネカ・ナイアガラ・リゾート&カジノ/N.Y.州ナイアガラ・フォールズ


◎試合映像:グスタボ・ペレス戦/6回終了TKO勝ち
2022年5月13日/セネカ・ナイアガラ・リゾート&カジノ/N.Y.州ナイアガラ・フォールズ



あのルディが早い時期の世界タイトル挑戦を標榜するだけあって、秀でた素質と将来性に疑問を差し挟む余地はない。でも・・・。このタイミングでの拳四朗戦は、長くボクシングを見続けてきたオールド・ファンの目にはギャンブルと映る。

スポーツブックの賭け率は驚く程接近していて、先物買いの気持ちは理解できるが、「ちょっとどうなの(?)」と思ってしまう。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拳四朗:-450(約1.22倍)
オラスクアガ:+350(4.5倍)

<2>betway
拳四朗:-500(1.2倍)
オラスクアガ:+333(4.33倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:2/9(約1.22倍)
オラスクアガ:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
拳四朗:1/7(約1.14倍)
オラスクアガ:4/1(5倍)


勝算が無ければ挑戦はしないだろうし、実際にノー・チャンスではないとも思うけれど、拳四朗へのアタックは流石に時期尚早なのでは・・・。

安定チャンピオンにとっての最大のリスクは、精神的なゆとりがもたらす油断のみ。3団体統一戦が吹っ飛び、代役に引っ張り出されたのがプロ5戦の若いボクサー。どれだけ有望なホープであったとしても、格下もいいところ。

まあ、確かに足下をすくわれる典型的な状況ではある・・が・・・。拳四朗は既に矢吹正道との防衛戦で、大番狂わせの落城を経験済み。2度目の大失敗は無いと思う。


◎拳四朗(31歳)/前日計量:107ポンド(48.6キロ)
現WBC(通算V9/連続V8)・WBA(V0)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:21戦20勝(11KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎オラスクアガ(24歳)/前日計量:107ポンド(48.5キロ)
戦績:5戦全勝(3KO)
アマ通算:23戦22勝1敗
身長:167センチ
右ボクサーファイター


◎参考映像:前日計量



公称167センチのオラスクアガは、110ポンドのフライ級でプロデビュー(2020年9月)を済ませると、パンデミックの影響で丸1年開いた2戦目(2021年8月)と3戦目(昨年3月)を109ポンド台の調整で戦い、4戦目(昨年5月/G・ペレス)と5戦目(昨年10月/M・ススタイタ)をフライ級で仕上げている。

すなわち、オラスクアガの主戦場は112ポンド上限のフライ級。前日計量の映像を見ると、165センチ弱の拳四朗の方が明らかに大きい。米本土では1~1.5インチ程度のサバ読みは珍しくないので、おそらくオラスクアガも同じ手を使っている筈だ。

デビューからフライ級のリミット内で戦ってきたオラスクアガにとって、108ポンド上限のL・フライ級まで絞るのは簡単ではないと思う。4ポンドの違いがもたらす消耗が、どこまで挑戦者のコンディションを削るのか。小さからぬ懸念材料と見ていい。

直近2試合の映像で確認する限り、計量をクリアした後の食事と水分補給で、拳四朗に引けを取らないリバウンドで大きくなるだろうから、矢吹と京口を圧倒したサイズのアドバンテージが目減りするのも確かだけれども・・・。


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■オフィシャル

主審:マーク・ネルソン(米/ミネソタ州)

副審:
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
宮崎久利(日/JBC)
池原信遂(日/JBC)

立会人(スーパーバイザー):未発表


◎発表会見フル映像





有明4大決戦+α プレビュー 1 /兄弟4団体統一への第1歩 - 井上拓真 vs リボリオ・ソリス -

カテゴリ:
■4月8日/有明アリーナ/WBA世界バンタム級王座決定12回戦
元WBC暫定王者/WBA1位 井上拓真(大橋) VS 元WBA S・フライ級王者/WBA2位 リボリオ・ソリス(ベネズエラ)






「やっと(尚弥が)返上してくれた。」

2万人超の大観衆で埋め尽くされたさいたまスーパー・アリーナで、正規王者ナルディーヌ・ウバーリ(仏)とのWBC内統一戦に完敗してから3年半余り。待ちに待った世界戦正式決定の一報を受け、拓真は万感の思いを込めてそう言った。


尚弥よりも7ヶ月早く、2017年夏から主戦場をバンタム級に移していた拓真は、転級初戦で大ベテランの久高寛之(仲里)を10回判定に退けると、続いて元日本王者の益田健太郎(新日本木村)にも10回3-0判定勝ち。

ピークを過ぎていたベテランとの連戦で予想外(?)の苦闘を強いられ、先行きに一抹の不安を抱える中、アンダードッグのワルド・サブ(インドネシア)を呼び、左ボディの一撃で快心の初回KO勝ち。

倒して当然の相手とは言え、プロ入り3度目のKOをモノにした拓真は、実力者マーク・ジョン・ヤップ(比/六島ジムと契約して日本で活動)を中~小差の12回3-0判定に下す。OPBFのベルトを持ち、WBC3位だったヤップに堂々の勝利を収めて、WBC王座への指名挑戦権を獲得。


実際にはこの前(2016)年、S・フライ級で戦っていた拓真は、当時WBOバンタム級の王座を保持していたマーロン・タパレス(比)への挑戦が決まりながら、右拳を負傷して無念の徹底を余儀なくされている。

大いに載冠を期待されていた大柄なサウスポーのパンチャー,大森将平(WOZ/引退)を難なく倒したタパレスへの評価は想像以上に高く、拓真には118ポンドのバンタム級リミット上限で調整した実戦経験が無かったことから、「不幸中の幸い」との声も聞かれた。

相応の実績と経験を持つベテラン勢とのテストマッチを体験できたことは、結果的に拓真にとってプラスだっと見る向きも少なくない。


こうした経緯を経て、2018年の晦日興行(大田区総合体育館/メインは伊藤雅雪 vs E・チュプラコフ=WBO J・ライト級王座戦)で実現したのが、WBCの暫定王座決定戦だった。

不正不当な手段で山中慎介から王座を強奪したルイス・ネリーが、山中とのリマッチで確信犯の体重オーバーでベルトを放棄。WBCはウバーリとラウシー・ウォーレン(ロンドン五輪で因縁を結ぶライバル)に決定戦を指示したがスムーズに交渉が進展せず、挑戦機会を待たされる拓真に(ネリーの問題も含めて)WBCが配慮を示したという状況。

タパレス戦が流れてから丸2年、万全の態勢で臨んだエリミネーターで、WBC2位に付けていたペッチ・CP・フレッシュマート(タイ)に大差判定勝ち。暫定の2文字付きではあるものの、念願だった世界のベルトを巻く。


そしてウバーリのバネとパワー(+経験値)に屈した拓真は、武漢ウィルス禍による休止を挟み、2021年10月に組まれた復帰戦で国内バンタム級のトップに位置していた長身のスラッガー,栗原慶太(一力)と対戦。

大きく上回るスピードのアドバンテージとコンビネーションをフルに活かし、パンチング・パワーに関する限り、国内では尚弥に次ぐ存在と表すべき栗原の強打を空転させ続けた。

初回にバッティングで左の瞼をカットする不運にも見舞われた栗原は、必殺の右をヒットするタイミングを容易に見い出せず(数回チャンスはあったが不発)、瞼からの出血が止まらず9ラウンドでストップ。ジャッジ3名のスコアは、ほぼフルマークで拓真を支持(89-82×2名,90-81×1名)。

S・フライ級に続いてOPBFの2階級を制した拓真だが、4団体統一へとひた走る”リアル・モンスター”こと尚弥の煽りをまともに食らう格好となり、止む無くS・バンタム級に上げてチャンスを模索する。

栗原戦から10ヵ月後の2021年11月、国内S・バンタム級トップの一角,和氣慎吾(FLARE 山上)をワンサイドの12回判定に下し、WBOアジア・パシフィック王座を奪取。昨年6月には、古橋岳也(川崎新田)をほぼフルマークの3-0判定に屠り、日本タイトルとの同時2冠を達成するなど、118~122ポンドで名実ともに国内トップの実力を証明済み。


爆発的な尚弥のパワーは望むべくもないが、打っては外し,外しては打つヒット&アウェイの巧さと精度の高さは紛れもないワールド・クラス。

打撃戦を回避した栗原戦について、「もうちょっとやりようがあったのでは・・・」と注文を着けるファンもいれば、「あれが拓真の真骨頂。無理に打ち合って墓穴を掘っていた久高,益田戦の頃とは別人の成長ぶり」と賞賛する者もいて、評価は賛否に分かれた。

痩身&ボクサーパンチャースタイルの和氣とは、至近距離でガシャガシャにやり合う必要がそもそもなく、思っていた以上に手が合う好勝負。


さらに骨格の違いが露になった古橋戦では、体格差で押し込まれることを前提に、後退あるいはロープを背負いながらでも、常に先手で左(ジャブ,ストレート,フック)を突いて右につなげつつ、ローリングを軸にしたボディワークで古橋のパンチをかわす作戦を徹底。

ハイリスクなクロスレンジに身を置き、かつての久高,益田戦のように勢いだけで無闇に打ち合いにのめり込むこともなく、クリンチ&ホールドからの揉み合いで無駄に時間を潰す愚も冒さず、セーフティ・リードを保ったままゴールテープを切る進境を見せてくれた。

太くなったお腹回りが気になりながらも、S・フライ~バンタム級時代と同等のハンドスピード&機動力(生命線)を維持し、距離と戦い方に関わらず不用意な被弾の確率を減らす。

一回り二回り大きな相手に対して、簡単に当たり負けないフィジカルの強度を作り上げた上で、強引な力による対抗ではなく、ブラッシュアップした攻防のテクニックと良い意味での駆け引きで渡り合う。

プロ10年目を迎えた拓真は、キャリアに相応しい自制心(技術&経験に裏付けされた本物のクレバネス)を身に付け、まさしく充実の時期を迎えつつある。


◎最終会見




不惑を超えてなお、バンタム級のトップ戦線に留まり続けるソリスは、今回が4度目の来日。日本のファンにはお馴染みの顔の1人。

初来日は2013年5月。暫定王者として初防衛を終えたソリスは、指名挑戦者(WBA内の統一戦)の対場で河野公平(ワタナベ/引退)と対峙。一進一退の拮抗した勝負をしのぎ、マジョリティ・ディシジョン(2-0判定)を引き寄せて初載冠を成し遂げる。

そして7ヵ月後の同年12月、2ポンド半のオーバーでブチ切れ状態の前日計量(計量時間を事前通告無しに変更されたと異常な興奮状態)が物議を醸した亀田大毅との2団体統一戦(12回2-1判定勝ち)では、本番のリング上で存分に実力差を見せ付け鬱憤を晴らす。2-1に割れたスプリット・ディシジョンは、幾ら何でも亀田一家に忖度し過ぎ。


「カメダはマフィアだ!」

国内スポーツ紙の取材に応じたソリスは、穏やかならぬ一言を発していたが、そこを突っ込み掘り下げる記者はいない。残念の極みではあるけれど、これが我が国ボクシング界の実態。

その後バンタム級に階級を上げ、”ゴッドレフト”山中慎介の挑戦者として3度目の訪日を実現したのが2016年3月。第3ラウンドに山中を2度倒してあわやの場面を創出。安定政権を築き、リング誌P4Pランキング入りも果たした山中に冷や汗をかかせた。


母国のベネズエラは親子二代でWBAの会長職を務めるメンドサ一家のお膝元であり、軽量級を中心としたベネズエラの人気・有力選手の厚遇は、メキシカンのトップボクサーを手厚くバックアップするWBCと同様、長年の悪しき慣行として知られている。

ソリスも当然のようにWBAに操を立てて(?)、これまで戦った8度の世界戦中、山中戦を除いてすべてWBAのベルトが懸かっていたが、40歳にして2位のランキングを高い下駄と見られてしまうのは致し方のないところだが、必ずしも”温情のみ”とは言い切れない。

とりわけ注目すべきは、モンテカルロで行われたジェイミー・マクドネル(英)との2試合と、空位のレギュラー王座を争ったリゴンドウ戦(2020年2月/ペンシルベニア州アレンタウン)だろう。

3名のジャッジが2~5ポイント差でマクドネルの勝利を支持した第1戦(2016年11月/)は、露骨極まりない地元判定(興行を主催したプロモーターはエディ・ハーン)であり、真の勝者はソリスで間違いない。

ソリス陣営の猛抗議が実り(ベネズエラ人を大事にするWBAらしい)、1年後の2017年11月、同じモンテカルロでリマッチに漕ぎ着けるも、第3ラウンドに発生したバッティングで遭えなくノーコンテスト。切望した第3戦は陽の目を見ることなく、マクドネルは来日して井上尚弥に瞬殺された。


マクドネルとの第1戦で、ソリスは事実上の2階級制覇を達成していたという次第。活動拠点のパナマシティと母国を行き来しながらローカルファイトでやり直し、5連勝(3KO)をマークして辿り着いたのが、リゴンドウとの決定戦。

130ポンド契約でのロマチェンコ戦で惨敗を喫した後、井上尚弥とのビッグマネー・ファイトを追い求めて、かつてのライバル,ドネアの後を追うように階級ダウンを表明したリゴンドウは、フリオ・セハとのテストマッチ(2019年6月)で”慣れない打撃戦”を選択。

実力に比してまったく盛り上がらない人気と報酬に業を煮やしたのか、何度もグラつきながらようやく8回にレフェリーストップを呼び込み、どうにかこうにか事無きを得るも、磐石だった安定感に大きな疑問符が付く。


「これでわかっただろう?。打ち合いだってやれば出来るんだ!」

鼻息も荒く胸を張るリゴンドウだったが、精一杯の虚勢としか映らない。言葉が過ぎることを、リゴンドウ・ファンの皆様に深くお詫びする。セハ戦の金メダリストは、”年寄りの冷や水”そのものだった。


右に左にヒラリヒラリとその身を翻し、逃げながら常にカウンターを狙うキューバの天才。一撃必倒の破壊力を誇るリゴンドウの左の大砲に怯むことなく、積極果敢な波状攻撃を繰り返すソリス。

惜しむらくは、中盤第7ラウンドの攻防。遂にリゴンドウの左を被弾して腰砕けになり、追撃をかわし切れずにエイトカウントのノックダウン。

ここでもしぶとく粘ってフルラウンズを戦い終えたが、1-2のスプリット・ディシジョンはリゴを支持。ニューヨークから派遣された3名のジャッジのうち、ソリスに振った1人は115-113を付けていた。完封勝ちをアピールするリゴンドウは、いつにも増して不満げな表情を浮かべていたが、山中戦とマクドネル戦に負けず劣らず、ソリスはまたもや負けて株を上げる。


大金星を上げ損ねたソリスは、パナマに戻ってローカル・ファイトの繰り返し。パンデミックによる休止(2020年2月~2021年6月)が、加齢による衰えに拍車をかけても良さそうなものだが、無駄に打たせないディフェンス・テクニックの賜物なのか、スタミナ面も含めて顕著な退潮傾向は見られない。

直近の2試合は母国で行っており、フルラウンズの試合映像が見当たらず、ソリスの現状について明確な判断がしづらいのは確か。

けれども、拓真はけっして「40歳のジジイ」などと思わず、河野に競り勝ち山中を2度倒した頃と同じと見る慎重さが何よりも重要。


荒々しいタフ&ラフから、丁寧な技術戦までソツなくこなすソリスと彼のチームは、対戦相手の分析と具体的な対策を着実かつ抜かりなくやってくる。

乱戦・混戦を苦手にするマクドネルには、河野戦と同じくごちゃごちゃのラフ・ファイトを仕掛け、打ち終わりのタッチでポイントを掠め取るリゴンドウには、追いかけつつも態勢を崩してまでの深追いはしない(カウンター対策を兼ねる)。

ベネズエラ陣営は拓真の試合映像をしっかりチェックして、マクドネル,河野と同じ見立てでやって来るのではないか。


スピードに優る拓真を自由にさせて、好きなように出はいりさせたらその時点で勝負にならない。思った以上に素早い踏み込みから一気に抱きつき、揉み合い上等のクリンチワークでかく乱すると同時に、見えづらい角度からセオリーにないパンチをしつこく繰り出す。

強引にでもタフ&ラフに引きずり込み、バッティングも有りでとにかくひっかきまわす。そうやって拓真のストロング・ポイントを潰して、どちらとも取れるラウンドを増やし、”逆地元判定”とも呼ばれた河野戦の再現を狙う・・・。



□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
拓真:-2000(1.05倍)
ソリス:+750(8.5倍)

<2>Bet365
拓真:-2000(1.05倍)
ソリス:+750(8.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拓真:1/16(1.0625倍)
ソリス:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
拓真:1/14(約1.071倍)
ソリス:13/2(13倍)

スポーツブックのオッズは、流石に拓真に寄せ過ぎか。どれだけ離れても、1対5程度が適切と思われる。


拓真の勝利を毛ほども疑う訳ではないけれど、ソリスを甘く見ると痛い目に遭う。抱きつかれたら、逆に密着してソリスの動きを封じるべき。中途半端に両手を広げて、例え1発でも2発でも打たせる隙は作らないのが得策。

スピードの差を過信することなく、打たせずに打つボクシングに徹して欲しい。



◎拓真(27歳)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
元WBCバンタム級暫定王者(V0),前日本S・バンタム級(V0),WBOアジア・パシフィック S・バンタム級(V1),OPBFバンタム級(V0), 元OPBF S・フライ級(V2)王者
戦績:18戦17勝(4KO)1敗
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)
戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。
”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士。
身長:164.2センチ,リーチ:163センチ
※ウバーリ戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎ソリス(41歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
元WBA S・フライ級王者(V3)
戦績:43戦35勝(16KO)6敗1分け
世界戦通算:7戦4勝2敗1NC
身長:163センチ,リーチ:177センチ
※山中慎介戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎参考映像:前日計量



○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□オフィシャル

主審:ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)

副審:
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)
ロベール・レーヌ(モナコ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


◎発表会見フル映像



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■バンタム級の動き

<1>WBO決定戦
5月13日カリフォルニア州ストックトン
ジェイソン・モロニー(豪) vs ビンセント・アストロラビオ(比)

<2>IBF決定戦
期日・会場未定(5月~6月中?)
1位 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs 2位 メルヴィン・ロペス(ニカラグァ)

※EMMANUEL RODRIGUEZ AND MELVIN LOPEZ TO VIE FOR VACANT IBF BANTAMWEIGHT TITLE
https://www.ringtv.com/650336-emmanuel-rodriguez-and-melvin-lopez-to-vie-for-vacant-ibf-bantamweight-title/

<3>WBC:未定
直近ランキングの上位5名
1位:ドネア
2位:ナワポン・ソー・ルンヴィサイ(タイ)
3位:レイマート・ガバリョ(比)
4位:アレッサンドロ・S・バリオス(メキシコ)
5位:アストロラビオ(比)


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