有明4大決戦+α プレビュー2 /代理挑戦者はルディの愛弟子 - 拳四朗 vs A・オラスクアガ -
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■4月8日/有明アリーナ/WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B) VS WBA4位 アンソニー・オラスクアガ(米)
統一王者 寺地拳四朗(B.M.B) VS WBA4位 アンソニー・オラスクアガ(米)
「4団体を絶対に獲る!」
帝拳期待のホープ,岩田翔吉にキャリアの違いを嫌と言うほど味合わせ、WBOのベルトを守ったジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との3団体統一戦の正式発表に際して、京口紘人(ワタナベ)を想定外のワンサイドで打ち砕き、108ポンド国内最強を証明した拳四朗はそう言い放つ。
8連続防衛の真っ最中だった2021年当時、拳四朗と寺地永会長(実父/元OPBF L・ヘビー級王者)は、具志堅用高が打ち立てた連続防衛記録(13回)の更新にこだわっていた。
ところが、中京から現れた伏兵,矢吹正道(緑)によってその夢を絶たれてしまう。矢吹とのリマッチで、スタート直後から打ち合いに出た拳四朗は、圧倒的なフィジカル&パンチング・パワーを発揮。
僅か3ラウンドで矢吹を粉砕した拳四朗の姿に、「覚醒」の二文字を思い浮かべたファンは多かったに違いない。
連続13回の記録更新が不可能となり、陣営は統一路線へと舵を切る。井上尚弥の快進撃だけでなく、テレンス・クロフォード,オレクサンドル・ウシク,ジャーメル・チャーロ,ジョシュ・テイラー,カネロ・アルバレスらが4団体を完全制覇。
さらに女子は、2階級で4つのベルトを揃えたクラレッサ・シールズ、ライト級に君臨するアイリッシュ・クィーン,ケイティ・テーラー、真の女王の座を巡りケイティと激しく争うアマンダ・セラノ(フェザー級)、S・ライト級のジェシカ・マカスキルとマカスキルを破ったシャンテル・キャメロン、S・フェザー級のアリシア・バウムガードナーら、4冠王が軒を並べる事態へ。
世はまさに「4団体統一」。拳四朗と寺地会長も、どちらかと言えば消極的と見られていた京口との激突を選択。
「(態度を一変?させたのは)矢吹に負けたからでしょう。それまでは、いくらこっちからアプローチしても見向きもされなかった。」
統一戦の発表会見で、京口は拳四朗陣営の掌返しをチクリとやったが、実際矢吹に勝っていたら、14連続防衛めがけてまっしぐらに突き進んでいたと誰もが思う。
だがしかし、そのお陰で京口とのドリームマッチが実現したのだから、この際結果オーライとしよう。
あらためて断るまでもなく、載冠当初の拳四朗はフットワークと左ジャブで活路を切り拓く、典型的なアウトボクサーだった。細身で頼りなく見えた若き王者が、防衛を重ねる中で安定感を増し、不断のトレーニングと加齢に応じて身体が大きくなること自体は珍しいことではない。
しかし、矢吹との2試合でも感じたことだが、計量後のリバウンド込みでリカバリーした拳四朗の上半身はグンと厚みを増して、本当に大きく見えた。京口との統一戦では、体格差のアドバンテージがさらに際立つ。
「拳四朗がデカ過ぎる・・・」
予期せぬ呼吸器の感染症に見舞われ、ビッグ・チャンスをフイにして療養中のジョナサン・ゴンサレスには申し訳ないが、予定通り無事に来日していたとしても、打倒拳四朗は叶わなかったと確信する。
◎最終会見
どこにも付け入る隙が無さそうに見える拳四朗だが、ピンチヒッターとして呼ばれた挑戦者の評判がすこぶるいい。
プロ僅か5戦(全勝3KO)。一定の戦果を残したとされるアマチュア・レコードも23戦に過ぎず、対戦レコードに顔と名前を良く知られた元王者やビッグネームは皆無。ランキング入りの根拠は、デビュー3戦目に獲得したWBA直轄のローカル・タイトルのみ。
「本当に大丈夫?。1ラウンドか2ラウンドで終るんじゃないの?。」
思わず余計な心配をしたくなってしまうが、”トニー”の愛称で呼ばれるチャレンジャーは、USA帝拳の重鎮,ルディ・エルナンデスによって発見育成された「未来のスーパースター」ということらしい。
ある日、ルディの愛息マイケルが1人の少年をジムに連れてきた。「好きなスポーツはバスケット(ボール)」と言って笑う12歳の少年は、見よう見真似の練習を数日間やっただけで、周囲が驚くほどの成長を見せたという。
「1週間続けられたら、お小遣いを上げるよ。」
ルディがぶら下げたニンジン(10ドル)につられて、12歳の少年は毎日ジムにやって来たが、約束の小遣いを貰うと姿を消す。
「毎日同じ事の繰り返し。シャドーとヘビーバッグばかりで飽きちゃったんだ。」
トニー少年の生家はご他聞に漏れず貧しく、気性の荒い父は、母と6人いた兄弟にいつも暴力を振るっていたという。将来を案じたルディと彼の家族は、トニー少年を引き取って育てることにした。
ルディの下を訪れる多くの著名ボクサーとも親しくなって行くが、中谷潤人もその1人。恵まれた運動神経と身体能力に加えて、強烈な1発も併せ持つトニー少年は、ジムでちやほやされ出していささか調子に乗っていた。
ルディは中谷との実戦スパーを計画すると、「ボディで倒してくれ。」とこっそり中谷に依頼。実戦経験を持つ中谷はルディの要求通りにスパーを終え、天狗の鼻をへし折られて半べそのトニー少年は、「やられっ放しで引き下がってたまるか」と雪辱に燃える。
ルディが見込んだだけあり、本気でボクシングに打ち込むようになったトニー少年は、溢れるポテンシャルを開花させて行く・・・というのがここまでのストーリー。
2017年には、渡米した拳四朗ともスパーで手合わせを済ませている。寺地会長が思わず「本物の天才」と口走ってしまうほど、トニー少年の身のこなしとセンスは抜きん出ていた。
直近の試合映像(昨年10月/マルコ・ススタイタ戦/初回KO勝ち)を見ると、確かに反応が鋭く、ステップもパンチも実にスムーズ。ごく自然に圧力をかけて距離を詰めると、アッパーを交えた左右のコンビネーションを回転させる。
自らロープを背負いわざと打たせてカウンターの隙を狙ったり、板に付いているとまでは言えないけれど、瞬間的にサウスポーにスイッチしたりと、器用さも如何なく発揮。
右が強いのは間違いないし、前に出た左も実に良くキレる。確かにパンチはあるが、今のところは重さよりもシャープネスで勝負するタイプ。打ち合いになるとまだまだ硬さと粗さが覗くし、見切りと勘に頼ることが多いディフェンスにも不安は残るが、攻防の技術とラウンドをまとめる手際は、プロで5戦しかやっていないグリーンボーイの域を遥かに越えている。
◎試合映像:マルコ・ススタイタ(Marco Sustaita)戦/初回KO勝ち
2022年10月14日/セネカ・ナイアガラ・リゾート&カジノ/N.Y.州ナイアガラ・フォールズ
◎試合映像:グスタボ・ペレス戦/6回終了TKO勝ち
2022年5月13日/セネカ・ナイアガラ・リゾート&カジノ/N.Y.州ナイアガラ・フォールズ
あのルディが早い時期の世界タイトル挑戦を標榜するだけあって、秀でた素質と将来性に疑問を差し挟む余地はない。でも・・・。このタイミングでの拳四朗戦は、長くボクシングを見続けてきたオールド・ファンの目にはギャンブルと映る。
スポーツブックの賭け率は驚く程接近していて、先物買いの気持ちは理解できるが、「ちょっとどうなの(?)」と思ってしまう。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拳四朗:-450(約1.22倍)
オラスクアガ:+350(4.5倍)
<2>betway
拳四朗:-500(1.2倍)
オラスクアガ:+333(4.33倍)
<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:2/9(約1.22倍)
オラスクアガ:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)
<4>Sky Sports
拳四朗:1/7(約1.14倍)
オラスクアガ:4/1(5倍)
勝算が無ければ挑戦はしないだろうし、実際にノー・チャンスではないとも思うけれど、拳四朗へのアタックは流石に時期尚早なのでは・・・。
安定チャンピオンにとっての最大のリスクは、精神的なゆとりがもたらす油断のみ。3団体統一戦が吹っ飛び、代役に引っ張り出されたのがプロ5戦の若いボクサー。どれだけ有望なホープであったとしても、格下もいいところ。
まあ、確かに足下をすくわれる典型的な状況ではある・・が・・・。拳四朗は既に矢吹正道との防衛戦で、大番狂わせの落城を経験済み。2度目の大失敗は無いと思う。
◎拳四朗(31歳)/前日計量:107ポンド(48.6キロ)
現WBC(通算V9/連続V8)・WBA(V0)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:21戦20勝(11KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター
◎オラスクアガ(24歳)/前日計量:107ポンド(48.5キロ)
戦績:5戦全勝(3KO)
アマ通算:23戦22勝1敗
身長:167センチ
右ボクサーファイター
◎参考映像:前日計量
公称167センチのオラスクアガは、110ポンドのフライ級でプロデビュー(2020年9月)を済ませると、パンデミックの影響で丸1年開いた2戦目(2021年8月)と3戦目(昨年3月)を109ポンド台の調整で戦い、4戦目(昨年5月/G・ペレス)と5戦目(昨年10月/M・ススタイタ)をフライ級で仕上げている。
すなわち、オラスクアガの主戦場は112ポンド上限のフライ級。前日計量の映像を見ると、165センチ弱の拳四朗の方が明らかに大きい。米本土では1~1.5インチ程度のサバ読みは珍しくないので、おそらくオラスクアガも同じ手を使っている筈だ。
デビューからフライ級のリミット内で戦ってきたオラスクアガにとって、108ポンド上限のL・フライ級まで絞るのは簡単ではないと思う。4ポンドの違いがもたらす消耗が、どこまで挑戦者のコンディションを削るのか。小さからぬ懸念材料と見ていい。
直近2試合の映像で確認する限り、計量をクリアした後の食事と水分補給で、拳四朗に引けを取らないリバウンドで大きくなるだろうから、矢吹と京口を圧倒したサイズのアドバンテージが目減りするのも確かだけれども・・・。
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■オフィシャル
主審:マーク・ネルソン(米/ミネソタ州)
副審:
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州)
宮崎久利(日/JBC)
池原信遂(日/JBC)
立会人(スーパーバイザー):未発表
◎発表会見フル映像