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2023年04月

タンク vs キング /軽中量級の勢力図を左右する大一番が実現 - G・ディヴィス vs R・ガルシア ショートプレビュー -

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■4月22日/T-モバイルアリーナ,ラスベガス/S・ライト級(136ポンド)契約12回戦
WBAライト級正規王者 ジャーボンティ・ディヴィス(米) VS 元WBCライト級暫定王者 ライアン・ガルシア(米)


Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Press Conference Highlights


※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンスhttps://www.youtube.com/watch?v=Py32E_OqlBw


ライト級の今後を左右する対決が、いよいよ本番当日を迎えた。

契約ウェイトの136ポンド(135ポンドのリミット上限+1ポンド)について、既に140ポンドのS・ライト級で試運転を終えているガルシアに不利な条件を譲らなかったことについて、批判的な意見が聞こえて来るのは仕方がない。

3階級制覇の看板欲しさに、ディヴィスも1試合だけ140ポンドで戦っている。2年前の2021年6月、S・ライト級のWBAレギュラー王座を持っていたマリオ・バリオスに挑戦して、11回TKOに屠っている。

公称183センチのバリオスは、同じく178センチのガルシアよりさらに大きい。がしかし、フィジカル・パワーはともかく、バリオスにはガルシアに匹敵するスピードと1発の破壊力がなかった。


サイズに加えて、抜きん出たスピード&1発(左フック)を併せ持つガルシアと、140ポンドでやる選択肢はない。ウェイト・ハンディ無しでは戦えないと、ディヴィスは自ら公言したに等しい。

135ポンドの正規ウェイトでやるとなれば、ディヴィスが保持するWBAレギュラーのベルトが懸かる。135.1ポンド超の契約なら、負けても丸腰にならずに済む。20世紀のチャンピオンは、防衛戦の合間に数多くのノンタイトルを挟んで、チューンナップを兼ねて稼ぐのが当たり前だったが、それらは当然キャッチウェイトであり、実際に負ける場合も少なくなかった。

そこまでベルトに執着しているのか、ディヴィスの本音はよくわからないけれど、「そう見えてしまう」のはこちらもまた致し方がない。


そして、この条件を呑まなければ交渉がまとまらないことをガルシアも十分過ぎるほどわかっていたから、調整の難易度が増すのを承知の上で敢えてリスクを取った。大きなチャンスに大きなリスクは付きもの。「ビッグマネー+確固たるポジション:という大きなリターンを、ガルシアは逃したくなかった。

「(対等な立場だなんて)勘違いするなよ。試合をやるかやらないか、決定権を握っているのはオレ様だ。」

形の上では3階級制覇を達成して、ガンボアとサンタクルス、ホセ・ペドラサにイサック・クルス、そして直近のエクトル・ガルシア(今年1月/9回TKO勝ち)ら、倒した現役・元世界王者は十指に登る。

一方ガルシアの最も大きな戦果は、WBC暫定王座を獲得したルーク・キャンベル(ダウンを挽回して7回TKO勝ち)と、昨年7月に6回KOで蹴散らしたハビエル・フォルトナの2人。世界タイトルホルダーはフォルトナだけだ。


「契約書にサインをした以上グズグズ言うな。負けた時の言い訳には使えないぜ。」

上から目線でガルシアを見下ろすディヴィスが、どうしたってヒールの役回りになる。これは、両雄の外見(失礼)だけの問題ではない。

交渉の開始からアンダードッグの立場に甘んじ続けるしかなく、再戦条項に関わる無理難題(※)だけは譲ることなく、辛抱強く粘りに粘って条件を変更させたデラ・ホーヤが、ファイナル・プレス・カンファレンスで遂に憤懣を爆発させた。

※再戦条項を巡るバトル:「ディヴィス陣営だけが再戦の権利を持つ」との付帯条件に激怒したデラ・ホーヤが強硬に反発。

◎Oscar De La Hoya comes out swinging in the final presser



「I look at Ryan and I know he's ready. I look at Ryan's team and they know he's ready.」

「I look at tank and he looks ready. but when I look at Tank's team's actions throughout the whole promotion, I am left to wonder do they really think this guy is ready.」

「Catch weights and rehydration clauses, late afternoon weigh-ins, all of these small petty requirement points to a team that looks to protect. 」

「Their fighter and why would they protect. Their fighter unless they don't think maybe he's not ready for this moment.」

「Ryan who was so hungry, so willing, so ready, for this stage that he simply said yes to every request no matter what it was.」

「That is a confident fighter.」


ちょっと長いけれど、まとめてみよう(意訳)。

「ライアンと彼のチームは準備万端だ。タンク(ディヴィス個人)も準備万端に見える。だが、タンクのチームはどうだ?」

「キャッチウェイトに始まり、水分補給条項に午後遅い時間帯の計量(前日計量は午後の早い時間帯に行うのが一般的)等々、細かいことをあれこれあげつらう。」

「要するに、タンクのチームは自信がないんだ。まともにやったら勝ち目はない、時期尚早(準備が間に合わない)だってね。じゃなきゃ、過剰なプロテクトの説明がつかない。」

「ライアンはハングリーで、待ち望んできた大きなステージが目の前にあり、準備は整っている。だから、どんな要求にも動じない。答えは1つ(イエス)。即答だった。」

「まさしく、自信に満ち溢れたファイターそのものだ。」


ゴールデン・ボーイの次に演壇に呼ばれたのは、メイウェザー・プロモーションズのCEO,レナード・エラーブ(エラービ:Leonard Ellerbe)。ほんの少しだけとは言え、内幕をバラされてカチンときたのは明らかで、「1000パーセント、タンクがKOで勝つ。1000パーセントだ。」と反論。

◎LEONARD ELLERBE GOES OFF ON OSCAR DE LA HOYA AND RIPS HIM SAVAGELY!



「オスカーには余裕がない。一杯一杯だな(何故そんなにいきり立つ?。自信がないのはお前らだろ?)。」

デラ・ホーヤの過去(女性の下着を着けた写真をバラまかれたスキャンダルと薬物依存の発覚,その後のリハビリ)と、右腕リチャード・シェーファーの造反に端を発した支配下選手の大量離脱(引き抜き)を暗に示唆しながら、「(GBP傘下の)ファイターたちとフロイド(とシェーファー)が逃げ出したのは、お前が眠り(遊び)呆けていたからだ!」とやり返す。

当のエラーブも含めて、触れられたくない過去が1つもない人間などいない筈だが、恥ずかしくも悔しい負い目をモロに突き返されてしまい、憮然とした表情も露のデラ・ホーヤは動揺を隠し切れず、予期せぬ舌戦は傷み分け。


再戦を主張する権利を除き、ディヴィス陣営が出してきた条件をほとんど丸呑みするしかなったゴールデン・ボーイ。どんな内容と結果になるにせよ、どちらが勝ってもリマッチは無いというのが、現時点での率直な印象ではある。

早い時間帯のバッティングとか、互いにヒートアップし過ぎて反則の応酬になった挙句のノーコンテストとか、アクシデントやトラブル絡みでもどうだろう。

良好なPPVセールス(85万件と伝えられている)に気を良くしたスティーブン・エスピノーザ(Showtimeのスポーツ・イベント部門を統括/GBPの元顧問弁護士)が、二匹目のドジョウを狙って両陣営をせっついたとしても・・・?。


ちなみに両選手のギャランティは以下の通り。

・ディヴィス:500万ドル+PPVインセンティブ
・ガルシア:250万ドル+PPVインセンティブ
※PPVインセンティブ:2人の取り分を50-50で折半


HBOのボクシング中継撤退に伴い、スペイン語の放送も行っているESPNではなく、2016年に設立された新興勢力DAZNと手を結んだデラ・ホーヤは、DAZNのバックアップを得て米国進出に打って出たエディ・ハーンと堅い握手を交わし、「PPVは死んだ(時代はサブスク)。」と言い放った。

そのデラ・ホーヤが、ディヴィスの大遅刻(およそ2時間)で幕を開けたキック・オフ・カンファレンス(3月日/N.Y.)の席上、「(ボクシング中継に)PPVの時代が再び戻って来るかもしれない」と述べている。

「いったいどの口で・・・」

舌の根も乾かずとは良く言ったものだが、ケーブルTVを基盤にしたPPVに対するデラ・ホーヤの思い入れは、実はひとかたならぬものがある。

モハメッド・アリ(サッカーの王様ペレとともに)が確立した「衛星中継+クローズド・サーキット」の新しいビジネス・モデルにより、スポーツ・イベントの経済基盤が根底から一変した70年代。

そして80年代初頭、中量級BIG4(レナード,ハーンズ,ハグラー,デュラン)の熾烈なライバル争いを軸に、PPVは本格的なスタートを切る。


ケーブル網の整備と拡充に成否のカギを握られ、まだまだ先行きが不透明だったPPVを、ヘビー級に出現したKOモンスター,マイク・タイソンが爆発的な成功へと導く。

タイソンが試合をやるというだけで、対戦相手に関係なく100万件超の申し込みが殺到。少しでも苦戦が予想されたり、ファンの耳目を集める強敵・難敵とのマッチアップになると、セールスは200万件に迫る勢いを見せた。

タイソンのギャランティは天文学的な数字にまで跳ね上がり、アリがそうだったように、オポーネントに支払われる報酬もウナギ上りにアップ。しかし、最大の後ろ盾だった高齢のカス・ダマトをプロ入りまもなく失ったタイソンは、気代の悪女(?)ロビン・キヴンズとの結婚(あっという間に離婚)に続き、ダマトが忌み嫌ったドン・キングの策略に絡め取られるや否や、あっという間に短い全盛を滑り落ちる。

そしてアイアン・マイクの後を引き継いだのが、バルセロナ五輪(1992年)のボクシング米国代表チームに唯一の金メダルをもたらし、ボブ・アラムのスカウトに応じて鳴り物入りで登場したデラ・ホーヤだった。

PPVの旨味と過酷(巨額のギャラと引き換えに実力者との連戦が続く)、光と影を存分に味わい尽くしたデラ・ホーヤは、フロイド・メイウェザー・Jr.とマニー・パッキャオの2人に敗れてその座を譲り、実戦のリングを去っている。


裏切り者(デラ・ホーヤから見れば)のシェーファーの手引きで、ウェルター級を中心とした大量のトップボクサーをGBPから引き抜いたアル・ヘイモンは、Showtimeの強力な支援を背にPBCを立ち上げた。

HBOがボクシングから手を引くからと言って、Showtimeに鞍替えすることはできない。その場合、ESPNが唯一と言っていい選択肢になるのだが、かつて蜜月の関係だったアラムが一足早く話をつけてしまう。

収益の多くをサッカー中継に依存していたネット配信のDAZNは、幸いなことにボクシングにも積極的で、大看板になり得るスターを探していた。ヘビー級のアンソニー・ジョシュアを保有するエディ・ハーンを引き込むと、メイウェザーからPPVセールス・キングの座を継承した中量級の雄,カネロ・アルバレスに目を付ける。

中心選手を根こそぎもって行かれたデラ・ホーヤだが、米本土におけるカネロのプロモート権は手放していなかった(現在は離反)。ESPNも喉から手が出るほどカネロを欲しがったと思うが、世界中を驚嘆させた超努級の大型契約を提示したDAZNで決着。


「夢よもう一度・・・」

デイヴィス vs ガルシアの着地(経済的な成否)次第になるけれど、あわゆくばShowtimeとの元サヤも有りか。デラ・ホーヤの気持ちがグラグラ揺れ動いたとしても、単順性急な批判は憚られる。

◎ALL ACCESS: Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Ep 1



という訳で、この対戦を本気で模索し始めた両陣営は、「2023年最大のイベント,メガ・ファイト」だと喧伝してきた。

ファイナル・プレッサーの冒頭、PBCを代表するプロモーター,トム・ブラウンは、この試合をかつての「ハグラー vs ハーンズ」になぞらえた上で、「我々はハグラー(ディヴィス)を持っている」と胸を張った。

幾ら何でもこれは言い過ぎ。大注目のカードではあるが、ハグラーとハーンズに肩を並べるのはおこがましい。


網膜はく離を理由に引退したレナードが、3年に及ぶブランクにもかかわらず、ハグラーへの挑戦(未経験のミドル級への増量)を決める際、使用グローブからリングのサイズに至るまで、徹底的な条件闘争に明け暮れる。

とりわけこだわったのがラウンド数。スタミナに不安を抱えるレナードは、当時WBCだけが独断専行していた12ラウンド制にこだわった。

「王様か独裁者にでもなったつもりか?。何から何まで自分の思い通りにならなきゃ、オレとは戦えないってわけだ。ボクシングは男と男の勝負だとオレは思ってきたし、今もそれは変わっていない。だが、ヤツはそうじゃなかったってことさ。ヤツのいいようにすりゃあいいさ。オレは試合さえできればそれでいい。何でも言ってくれ。全部OKだ。」

半ば呆れ顔でハグラーはそう語っていた。


生涯の宿敵ファン・M・マルケスに衝撃的なKO負けを喫するパッキャオを目撃して、ようやく対決に舵を切ったメイウェザーの条件闘争も酷かったが、ディヴィスも確実に男を下げた。トム・ブラウンは根本的に間違っている。

ハーンズを3ラウンドで破滅させたハグラーのように、ガルシアを圧倒して欲しいという願望はわかるが、あれこれ条件を付けた側のディヴィスが、徹頭徹尾のアウェイに追いやられたハグラーであっていい訳がない。

今回のディヴィスは、てんこ盛りのホーム・アドバンテージに浴したハグラー戦におけるレナードであり、パッキャオ戦を承諾したメイウェザーの立場になる。優位なポジションと影響力をこれでもかと総動員して、負けない為の環境を徹底して作り上げる。

ラスベガス(メイウェザー一家の総本山)での開催は、環境作りの最も重要な根幹。メイウェザーさながらの安全運転に徹するディヴィスを見る可能性は、絶対にないと断言し切れない。

スポーツブックのオッズは、キック・オフ当初から一貫してディヴィス。直近の数字をご紹介しておく。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
デイヴィス:-200(1.5倍)
R・ガルシア:+175(2.75倍)

<2>betway
デイヴィス:-211(約1.47倍)
R・ガルシア:+195(2.95倍)

<3>Bet365
デイヴィス:-230(約1.43倍)
R・ガルシア:+135(2.35倍)

<4>ウィリアム・ヒル
デイヴィス:2/5(1.4倍)
R・ガルシア:19/10(2.9倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
デイヴィス:2/5(1.4倍)
R・ガルシア:2/1(3倍)
ドロー:20/1(21倍)


◎ALL ACCESS: Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Ep 2



肝心の試合展開だが、ディヴィスはバリオス戦と同じやり方を採る公算が大。長身のオーソドックスが打ち下ろすワンツーを待ち、引き手の戻りに合わせて鋭く飛び込み、下から左右のストレートを刺し込み、独特かつ強烈なアッパーをカチ上げる。

◎試合映像:マリオ・バリオス戦ハイライト



S・フェザー時代のパワープレス一辺倒ではなく、出はいりのボクシングを基本にして、前後左右に良く動きながらガルシアの左(フック,ジャブ=生命線)をかわしつつ、全盛のパックマンよろしく迷いなく一気に踏み込んで強打を打ち込む。

煩い出はいりとクリンチ&ホールドによる時間潰しを繰り返し、ガルシアをイラつかせて攻防が粗雑になるのを待ち、カウンターのタイミングとチャンスを拡げて行く。KOするにこしたことはないが、僅差判定でも全然OK。

内容がどうであれ勝てばいい。後は勝ち逃げを決め込むだけ。接近した展開のまま12ラウンズを終えて、ファンと関係者から判定に文句が付いて、ガルシアとデラ・ホーヤが何をどう言おうが知ったこっちゃない。


そしてアンダードッグのガルシア。こちらは、直近のフォルトナ戦が格好のケース・スタディ。

速くて強い左リードを数突いて、小柄なサウスポーの接近を簡単に許さない。単発ではなく、ダブル・トリプルでガードの内・外を打ち分ける中、瞬時に必殺の左フック(自慢のサンデーパンチ)に切り替える。

2018年10月から合流したチーム・カネロとの関係を清算し、アメリカを代表するベテラン・トレーナーの1人,ジョー・グーセン(今年度の殿堂入り/2014年に64歳で早逝したプロモーターのダン・グーセンは実兄:ダンも2020年に殿堂入り)を新たなチーフに招いたガルシアは、左腕を下げるヒットマン・スタイルを修正。

しっかりガードを保持する時間を増やし、制空権を維持する為に、ディフェンスの軸に据えてきた小さ目のスウェイ(単なる癖?)だけでなく足で外す手間も惜しまない。


ステップアウトする際に両腕を長く伸ばす癖があり、同時にそれがワイドに広がってしまい、相手に反撃を許すきっかけになっていた。ルーク・キャンベルに喫したダウンも、このウィークネスを抜け目なく狙われている。

◎試合映像:ルーク・キャンベル戦ハイライト


大柄なキャンベルにはサイズのアドバンテージが普段通りに機能せず、距離を見誤った(平均的な135~140パウンダーならパンチが届き切らない/同じディスタンスでもキャンベルは届く)感もあるが、ガードを保持したままステップバックするか、真っ直ぐ下がらずに左右どちらかに回り込んでいれば、左ストレートを顎に貰わずに済んでいた。

グーセンはこの点も見逃すことなく、ちゃんと手をつけている。伸ばすにしても左腕1本だけにして、右の拳を顔(頬)の前でしっかりキープするようになった。


ただし、上半身の力だけで右ストレートを強振する悪癖は、フォルトナとやった時点(昨年7月)では手付かず。

しっかり下半身から踏み込んで打つなら問題はないけれど、足の位置をそのままにして、右のパンチをブンと振ってしまう。身長差があるお陰で、並みのローカル・ランカーならヒットして倒すこともできるが、一定の経験と攻防の基本が身に付いた相手にはかわされる場面も目立つ。

上体だけで振っているから、身体が硬直して顎が上がり、打ち終わりにそのまま右の拳が流れて、引き手も戻らない上に軸がブレてオフ・バランスになり易い。ディヴィス相手にこれを頻発すると、左ストレートか左右のアッパーで間違いなくやられる。

ガードをコンパクトに保って、ジャブをしっかり突けている間は、そう簡単にディヴィスも入っていけない。タンクは右フックも強いけれど、シャープネスに注力したジャブを続けていれば、まともに食う恐れはないだろう。


勿論、ディヴィスのディフェンスにも不安はある。強靭なフィジカル&パンチング・パワーだけでなく、スピード&アジリティにも優れたディヴィスは、最高水準ではないものの、黒人特有の柔軟性も兼ね備えており、「眼と勘」が守りの基本。

ハイリスクなクロスレンジに留まる時も、カバーリングに使うのはほとんど左腕のみ。昔に比べてレフティが増えたと言っても、主流はあくまで右構えだから、オーソドックスの右強打を対策する為に用いる。

堅実なブロック&カバーではなく、眼と勘(反応)の良さが必須となるローリング&スリッピング、上体のボディワーク(深いダックとスウェイ込み)で相手の攻撃をを外しながら、隙あらばリターンとカウンターを見舞うオールド・スクールのボクシング。


そしてさらに、いいパンチを貰うと打ち返さずにはいられない。本当に強いボクサーは例外なく気も強いが、強引に行ってもいい状況なのかどうか、一旦立ち止まって俯瞰し直す冷静さが極めて重要になる。

階級を上げるに従い、イケイケの荒ぶるディヴィスにも、経験値に相応しい慎重さが見られるようになった。それでも倒し続けている点は、もっと評価されて然るべき。

スリリングな打ち合い・倒し合いは、それこそプロボクシングが表現し得る最高の醍醐味ではあるけれど、安全策(見境のないクリンチ&ホールドではなく)との切り替えができるボクサーは、必要に応じて躊躇なく使い分けした方がいい。

無駄に打たれ(せ)ていい事は1つもないし、ダメージも残さない方がいいに決まっているからだ。何でもバランスが大事という話しになるが、動いている間のボディ・バランスにおいても、黒人だけに許された身体能力の高さが強味になる。


ただし、下から飛び込まなければならないディヴィスは、打ち込む際にどうしても顎が上がりがちになる上、ブロック&カバーに頼らない守りは大きな穴になり易い。

細身のエクトル・ガルシアだけでなく、背格好の変わらないイサック・クルスにも、一度ならずその穴をこじ開けられそうになり、コーナーとファンの肝を冷やした。ガルシアに同じことをやったら、命取りになる確率が格段に増す。

拙ブログの予想は、大きな大きな期待値を込みでキング・ライ。どうにかして僅少差の判定勝負に持ち込みたいが、それだと十中八九タンクに凱歌が挙がる。ガルシアが判定で勝つ為には、明白過ぎるぐらいのリードが必要。

そうなると、必然的に複数回のノックダウンが不可欠になり、ならばいっそKO(TKO)でとなってしまう。一進一退のシーソーゲームから徐々にガルシアが抜け出し、名だたる黒人ファイターたちのお株を奪う、アッパーとフックの中間軌道を通る左を放ち、決定的な場面を作って欲しい。


◎デイヴィス(28歳)/前日計量:135.1ポンド
現WBAライト級正規(V4),元WBA S・ライト級(V0/返上).元WBA S・フェザー級スーパー(第1期:V2/第2期:V0:返上),元IBF J・ライト級(V1/はく奪:体重超過)王者
戦績:28戦全勝(26KO)
アマ通算:206勝15敗
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
ナショナルPAL優勝2回
ナショナル・シルバー・グローブス3連覇(ジュニア)
ジュニアオリンピック優勝2回
※アマ時代(シニア)のウェイト:バンタム級
身長:166(168)cm/リーチ:171(175)cm
※Boxrecの身体データが修正されている/()内はM・バリオス戦当時の数値
好戦的な左ボクサーファイター


◎ガルシア(24歳)/前日計量:135.5ポンド
元WBCライト級暫定(V0),元WBCライト級シルバー(V1)王者
戦績:23戦全勝(19KO)
アマ通算:215勝15敗
2016年ユース(U19)全米選手権優勝(ライト級)
2015年ユース(U19)全米選手権ベスト8(ライト級)
2014年ジュニア(U17)全米選手権準優勝(フェザー級)
身長:センチ,リーチ:センチ
右ボクサーファイター


■前日計量


■前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=ECw2Ax8lToo


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■リング・オフィシャル:未発表


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■キック・オフ・プレス・カンファレンス
<1>3月8日/ニューヨーク
https://www.youtube.com/watch?v=wVtznbT4904

<2>3月9日/ロサンゼルス
https://www.youtube.com/watch?v=I-9mu65I4sE

カテゴリ:
■4月16日/国立代々木競技場第二体育館/IBF世界M・フライ級暫定王座決定12回戦
前王者/IBF3位 レネ・マーク・クァルト(比) VS IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)



それにしても、酷い試合だった。

お断りするまでもないが、年明け早々に行われた銀次郎の初挑戦である。ダニエル・バラダレスは二線級のなんちゃってチャンピオンに過ぎないけれど、とにかくバッティングが心配な”当たり屋”である。

だとしても、自分から当たりに行ったのが銀次郎の首で、ぶつけられた方はピンピンしているのに、硬いところに衝突していない筈のバラダレスが、眩暈の為に戦えないと言い出す始末。

まあ、百万歩譲ってそれはいい。トチ狂っているのは、バラダレスの試合放棄を取らずに、テクニカル・ドローにしてしまう運営側だ。挙句の果てがノーコンテストへの修正・・・これはもう、渡嘉敷勝男 vs ルペ・マデラ第4戦に匹敵する酷さと言うしかない。

厚顔無恥を決め込むIBFもダイレクトリマッチを認めるしかなかったけれど、今度はバラダレスが「怪我が治らない」とグズり出す。救いようがないとはこのことだ。

結果的にメキシコでバラダレスにベルトを強奪されたクァルトにチャンスが与えられたのだから、災い転じて福と為ったと喜ぶべき。性根の腐った二流・三流はもう結構。


クァルトは正攻法のボクサーファイターで、軽快なステップとまとまりの良い攻防を持ち味にしつつ、強打の交換にも怯むことがない。そしてフィリピン伝統の柔軟なボディワークも受け継いでいる。

最軽量の105ポンドとしては、けっしてパンチが無いという訳ではないが、決定力と前後の直線的なスピードは銀次郎が上回る。だとしても、受けに回った時の懐の深さとしぶとさを侮ると、適時下がるクァルトに上下のハードヒットを上手くかわされ、逆にカウンターを食らう恐れが皆無ではない。

重岡兄弟が得意にするボディの応酬は、クァルトも大いに望むところ。早い時間帯で正面切って打ち合いに出るのは、いささかリスキー。スタートから勢いに乗りたいのはヤマヤマだが、慎重かつ丁寧にクァルトの出方と動きを読むことも必要。


直前のオッズは銀次郎推し。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
クァルト:+300(4倍)
銀次郎:-400(1.25倍)

<2>betway
クァルト:+280(3.8倍)
銀次郎:-400(1.25倍)

<3>Bet365
クァルト:+300(4倍)
銀次郎:-450(約1.22倍)

<4>ウィリアム・ヒル
クァルト:3/1(4倍)
銀次郎:2/9(約1.22倍)
ドロー:14/1(15倍)


銀次郎以上に筋力に頼って強振する癖があり、敢えて打ち合いに誘い込んで粗くなるところを狙う手も勿論ある。銀次郎なら、それぐらいの仕掛けは朝飯前(?)。

ただし、銀次郎もどちらかと言えば硬い方なので、まともに相打ちされるのが恐ろしい。万が一の状況に陥る危険性が付いて回る

圧力をかけ続ける展開に持って行くだけなら、さほどの手間も労力も要らないと思う。問題なのは、そこから流れを切り拓く手順。崩しの手間を省く、短兵急な攻め急ぎはまずい。

簡単に勝たせては貰えないことを前提に、序盤は深追いに気を付け、セットアップのやり直しを厭わないこと。そして、入念な崩しの手際の披露に期待したい。


◎クァルト(26歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
前IBF M・フライ級王者(V1)
戦績:26戦21勝(12KO)3敗2分け
アマ戦績:不明
身長:156センチ
リーチ:156.8センチ
首周:36センチ
胸囲:88センチ
拳囲:左26.3/右26.2センチ
視力:左1.5/右2.0
右ボクサーファイター


◎銀次郎(23歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
戦績:8戦全勝(6KO)
アマ通産:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153.5センチ
リーチ:154センチ
首周:37センチ
胸囲:86.5センチ
拳囲:左右とも25センチ
視力:左1.0/右1.2
※計量時の予備検診データ
血圧:120/79mm/Hg
脈拍:64/分
体温:36.3℃
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:フランク・ガルサ(米/ミシガン州)

副審:
トーマス・ナルドーネ(米/フロリダ州)
マルコム・ブルナー(豪)
エド・ピアソン(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


カテゴリ:
■4月16日/国立代々木競技場第二体育館/WBC世界ストロー級暫定王座決定12回戦
WBC2位 重岡優大(日/ワタナベ) VS 元WBO王者/WBC7位 ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)


柔と剛。

強靭なフィジカルとパンチング・パワーを武器に、積極的に倒しにかかる好戦的な弟銀次郎。誤解を恐れずに言えば、直線的で速攻型のボクシング。

一方兄の優大は、上体を柔らかく使うボディワークと丁寧なステップワークを軸に、巧さで勝負する技巧派。アマ時代に全日本選手権を制覇した実績は伊達ではない。その優大が、プロ7戦目での世界初挑戦に挑む。


本番12日前の今月4日、挑戦を受ける筈だったWBC王者ペッチマニー・CP・フレッシュマート(ゴーキャットジム/パンヤ・プラダブスリ/プラダシー)が、インフルエンザの罹患と入院を理由にドタキャン。

中止も止む無しと報じられる事態に陥ったが、一昨(2021)年の暮れ、同門の谷口将隆に敗れてWBO同級王座を失ったメンデスが急浮上。WBCも暫定王座を大盤振る舞いしてくれた。

◎過去記事:メンデス vs 谷口戦を含むプレビュー
リアル・モンスターが幕を開ける国内PPVの成否やいかに? - 井上尚弥 VS A・ディパエン 直前プレビュー -
2021年12月14日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/b4d40fc44a98dde197645a91867fa7aa


「体重オーバーで居直るつもりなんじゃ・・・?」

「ただのギャラ泥棒だろう?」

なにしろ最軽量のミニマム級だけに、2週間を切ったタイミングで本当にウェイトとコンディションを作ることができるのか、「結局試合が成立しないんじゃないか」と懸念する声が聞こえて来なかった訳ではないが、予備検診と計量を無事に通過して一安心。


郷里熊本の開新高校で本格的な競技生活に入った兄弟だが、高校でアマ・キャリアを終えた銀次郎に対して、拓大へ進んだ優大は東京五輪のメダルを目標に据えていた。

しかし、女子の階級増(3→5)に伴い男子の階級を見直す(10→8)ことが決定。優大が主戦場にしていたL・フライ級とL・ウェルター級の2つが削減の対象となり、「今からフライ級へ上げるのは厳しい」と判断。

銀次郎に遅れること1年、2019年10月に同じワタナベジムからプロデビュー(B級ライセンス:6回戦)。初陣で相対したのは無名のタイ人で、難なく2回KOでし止めると、2戦目は世界タイトルへの挑戦経験を持つベテラン,リト・ダンテ(比/元OPBF王者)に危なげのない判定勝ち。


順調なスタートを切ったところで、パンデミックが襲来。2020年を丸々1年休み、休養明けの復帰戦がプロ初のタイトルマッチ。三迫ジムの堀川龍を5回TKOに退け、3戦目で日本ユース王座を獲得(2021年2月)。

続く4戦目は、銀次郎が返上したWBOアジア・パシフィックのベルトを懸け、元OPBF王者の小浦翼(E&Jカシアス)と激突(2021年2月)。リト・ダンテに敗れて3度防衛したOPBF王座を失っていたことから、明白な勝利を期待された優大だが前半出遅れる。

プロキャリアに優る小浦にペースを握られ、クリンチからの揉み合いにバッティングも発生。互いに決定打を欠く苦しい展開が続いたが、単発ながらも後半から終盤にかけて右フックと左ストレートを好打した優大の手が挙がった。

どちらに流れてもおかしくないラウンドが多く、スコアは接近していた(115-113×2名,114-114×1名=マジョリティ・ディシジョン)。


昨年7月に組まれたWBOアジアパシフィック王座の初防衛戦は、故郷熊本での凱旋興行。フィリピンの中堅選手クリス・ガノーサが呼ばれた。来日経験がなく、入手可能な映像も限られて、どんな選手なのかよくわからない。。

どうなることかと思っていたら、何のことはない、ごくごく平均的なアンダードッグだった。左のボディストレート1発で即決(3回TKO)。足踏みを回避する意味もあったのだろうが、もう少し歯応えのある選手を連れて来て欲しかった。

事実上興行の看板を任された銀次郎も、ランク1位の春口直也(橋口)を4ラウンドでレフェリー・ストップ。アウェイの沖縄で、仲島辰郎(平仲)を破って得た日本タイトルのV1に成功。


この直後、世界戦の交渉が具体化した銀次郎は日本タイトルを返上。そして昨年11月、空位のベルトを優大と仲島が争う。

銀次郎と10ラウンズを渡り合った仲島は、手頃なアンダードッグとの再起戦を挟むことなく、立て続けのタイトルマッチ。さらに言うと、銀次郎に敗れる8ヶ月前(2021年6月)、当時日本王者だった谷口将隆に挑戦して5回TKO負けを喫していた。

日本タイトルを2試合続けて落とした連敗中の仲島が、復帰戦をすっ飛ばして決定戦に出て来ること自体、105ポンドの深刻な空洞化(人材の枯渇)を如実に物語る。

仲島を間に入れた銀次郎との比較も含めて、優大のパフォーマンスに注目が集まったが、序盤から快調に飛ばした優大が、第3ラウンドに強烈な右フックを2発決めて仲島を撃沈。銀次郎のお株を奪う強打者ぶりを見せつけた。

プロ入りが1年遅れた為に仕方のない面はあるものの、「弟からの禅譲」と見られてしまうのは否めない。本人も当然意識はしていて、本来の持ち味ではないインファイトへの志向が増す原因ではないかと、そんな気がしなくもない。




緊急スクランブル発進に応じたメンデスは、谷口に敗れて無冠となった後、昨年は4月(L・フライ級契約6回戦/106ポンド1/4で調整)と11月(105ポンドのWBO地域王座戦)に2試合をこなしており、いずれも判定勝ち。数は多いとは言えないながらも、試合枯れはしていない。

ボクサーを志した最大の理由はハングリネス。極貧の少年時代を過ごしたメンデスは、宿願の世界王座を獲得(2019年8月)すると、2ヶ月後の10月に初防衛戦を敢行。さらに4ヶ月後の2020年2月にV2戦をこなしている。


「一番軽い階級(lower weight class)だから、例え世界戦でも1試合で大きくは稼げない。間隔を開けずに防衛を続けて、一刻も早く貧乏から抜け出したかった。」

だがしかし、武漢ウィルスの猛威がメンデスの前に立ちはだかる。ブランクは1年半をゆうに超えて、防衛戦がまとまる気配は無し。

「蓄えも底をつきかけて、何とか試合をやらなければと八方手を尽くしていた。そこへ日本行きのオファーが届いた。断る選択肢は無かった。」


貧困からの脱出をモチベーションにする海外のボクサー(白人以外のマイノリティ)は、オフの時期でも一定の体重をキープし続けて、急なプロポーザルに応えられるよう、常に準備を怠らない選手が少なくない。

もともと5月に来日の誘いを受けていて、本格的なトレーニングを開始していたというが、世界のベルトを一度は巻いたメンデスも、経済的な成功に飢えた若者の1人であり続けている。

谷口に王座を譲った初来日時は、入国直後の外出規制(自主隔離)の影響をまともに受けてしまい、「ホテルから1歩も出られず、満足な練習が出来なかった。」と語る。

「確かに準備期間は十分とは言えないが、ジムワークができるだけ前回よりはマシ。シゲオカの分析?。もともと対戦相手のビデオをじっくり見るタイプではないし、実際にリングに立ってみないと本当のところはわからない。」

「いつも相手の出方を見ながら、ラウンドの展開を考えてどう戦うかを決めて行く。ビデオを見なくても問題はない。」

「110ポンド(リミット+2ポンド)での再来日」を公称していたメンデスの言葉に、どうやらウソは無かった模様。


戦績が示す通り、メンデスは細かく煩い駆け引きを軸にした神経戦に本領を発揮する。クリンチワークでグダグダの様相に持ち込み時間を潰すだけでなく、必要に応じてラフ&ダーティへの対応にも抜かりはない。

と言うと、中南米伝統のやりづらさ満載かつ熟練した業師を思い浮かべてしまうが、そこまでの高水準に達してはおらず、攻防のそこかしこにキメの粗さが覗く。

谷口には、組み付いた状態の離れ際を狙われた。第2ラウンドに左ストレートの直撃を食らい、早くもダウン。一気に勝負をかけず、一旦様子を見た谷口に半ば救われる格好で持ち直し、中盤から接近戦を仕掛けるも、しつこいホールドをチェックされて減点。

消耗戦の気配が漂う中、大振りとオフ・バランスが目立って行くメンデス。迎えた11ラウンド、谷口は右アッパーのカウンターから集中打をまとめてストップを呼び込んだ。


プロの乱戦に十分慣れていない優大にとって、メンデスの抱きつき戦術が一番怖い。絡め取られたまま戦況を打開できず、ラウンドを重ねる流れだけは避けたいところ。時として露になる、銀次郎以上の気の強さがマイナスに働きかねない。

どこまでも冷静に自分自身を俯瞰しながら、徹底した出はいりと精度の高いショートでメンデスを空転させ続けるのがベスト。

直前のオッズは、現時点における力量の違いをまずまず正確に言い当てている。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
メンデス:+400(5倍)
優大:-500(1.2倍)

<2>betway
メンデス:+400(5倍)
優大:-599(約1.03倍)

<3>Bet365
メンデス:+400(5倍)
優大:-704(約1.14倍)

<4>ウィリアム・ヒル
メンデス:7/2(4.5倍)
優大:1/6(約1.17倍)
ドロー:16/1(17倍)


順当なら、中差程度の3-0判定で優大。乱戦に巻き込まれて、バッティングによる出血などのアクシデントさえ無ければ、問題なく載冠してくれるだろう。

インフルエンザにやられた正規王者ペッチマニーは、早期に回復する筈。夏から秋にかけて、WBC内の統一戦が実現してくれたら言うことはない。


◎優大(25歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
前日本ミニマム級(V0),前WBOアジア・パシフィックM・フライ級(V1),前日本ユースミニマム級(V0)王者
戦績:6戦全勝(4KO)
アマ通算:91戦81勝(21RSC・KO)10敗
2018年度全日本選手権優勝(L・フライ級)
2015年度高校選抜優勝
2015年度インターハイ優勝
2015年度第70回回国体少年の部優勝
2014年度インターハイ優勝
階級:ピン級
熊本開新高校→拓殖大学
身長:160.8センチ
リーチ:158.7センチ
首周:36センチ
胸囲:86.5センチ
拳囲:左23.5/右25.3センチ
視力:左1.2/右0.8
左ボクサーファイター

◎メンデス(26歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
戦績:20戦18勝(6KO)2敗
アマ通算:約180戦(詳細不明)
身長:164.1センチ
リーチ:163センチ
首周:33.5センチ
胸囲:79センチ
拳囲:左26.0/右26.5センチ
視力:左右とも1.2
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:中村勝彦(日/JBC)

副審:
染谷路朗(日/JBC)
カール・ザッピア(豪)
グレッグ・オルテガ(比)

立会人(スーパーバイザー):未発表


世界基準を突き崩せ - シャクール vs 吉野 直前プレビュー -

カテゴリ:
4月8日//WBC世界ライト級挑戦者決定12回戦
2階級制覇王者/WBC3位 シャクール・スティーブンソン(米) VS WBC4位 吉野修一郎(三迫)






「オレはナカタニとは訳が違うぞ。どうやってオレに勝つつもりなんだ?」

実に和やかな雰囲気(悪く言えばユルユル?)で進むファイナル・プレッサーの席上、終始余裕綽々のシャクール。雰囲気を盛り上げようとしてるのか、しきりに挑発気味の発言を繰り返す。

そして、本場のムードに呑まれることなく、吉野も苦笑交じりで「すべてはリングの上で」と受け流す。

「中谷とは違う?・・・(そりゃそうだ)」

「(日本で)ゲームプランをしっかり準備してきた。」


シャクールの巧妙堅牢なディフェンスをいかにして崩すのか?。

ESPNの司会進行役も軽く触れていたが、「前に出て攻め続ける吉野 vs しっかり守りつつリターン&カウンターのシャクール」という基本的な構図は、ファンと関係者なら誰もがイメージする展開である。

自分より大きく右に決定力を持つ吉野に対して、シャクールはいつも以上に丁寧かつ慎重に立ち上がるだろう。

細かいステップ&ボディワークで吉野のパワーを空かしながら、右(リード&ショートフック)と左ストレートを中心にコツコツ当てて、無理をせずポイントメイクにいそしむ。


真正面から正直に攻め込むだけでは、間違いなく空転させられ大差の判定を失う。無論シャクールも人間だから、ケアレス・ミスがゼロではない。攻撃的になれば隙も生じる。ただ、その頻度が非常に少ない。

前後左右に小さくサークリングしながら、けっして1ヶ所に留まらないのが戦術のベース。L字に近い構えもやるが、コンパクトにまとめたガードへの意識は高く、見切りと勘にどっぷり依存することなく、ブロック&カバーをサボらないところも長所の1つ。

常に精度を心がけ無茶振りはしない。ぱっと見の印象はそれほどスナッピーではないが、打たれた方はけっこう効く。見た目以上にキレと威力があると、そう判断せざるを得ない。


吉野も構えた姿はいい。しっかり顎を引いたセミクラウチングを維持しつつ、上体を振りながら左を突いて前に出る。

この上半身の動きには一定の柔らかさがあり、フィリピン人の母から良いDNAを受け継いだのではないか。

ただ、前に出る時左に身体を倒す癖があり、シャクールは当然そこを右で狙う。左ストレートを囮に使い、(シャクールから見て)逆ワンツー的に右を強打してくる場合も有り得る。

少しでも反応が遅れると、シャクールは調子に乗って2発・3発とコンビネーションを回転させて来る為、距離はできるだけ長めに取りたい。無理に追ったりせず、逆にシャクールを引き出したいところ。

長めのミドルレンジを基本に細かく出はいりして、そこから無駄に打たせずプレスするのは確かに大変。距離を潰す場面では、ある程度の被弾は覚悟しなければならない。


スピードスタータイプの黒人選手は、例外なく反応と見切りに過剰なまでの自信を持っている。シャクールも同様だが、調子に乗り過ぎず感情を適切にコントロールできるのが強味。

ただ、左の打ち終わりにガードを戻さないことがある。あるいは左手を下げたままにする癖が時折り顔を出す。ハンドフェイント気味に左を内・外に散らし、左ストレートをステップバックでかわしざま、肩超しの右を打ち下ろせると面白いのだが・・・。


■ファイナル・プレス・カンファレンス(フル)



スポーツブックの賭け率はご覧の通り。止むを得ないことではあるが、米国内における認知がゼロに等しい吉野は完全に万馬券扱い。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
シャクール:-2000(1.05倍)
吉野:+900(10倍)

<2>betway
シャクール:-2500(1.04倍)
吉野:+750(8.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
シャクール:1/20(1.05倍)
吉野:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
シャクール:1/16(1.0625倍)
吉野:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)


好漢吉野が世界基準のライト級を前に、どこまで踏ん張れるのか。自らが信じて鍛え上げてきたボクシングを貫き、一矢を報いて欲しいと願わずにはいられない。


◎スティーブンソン(25歳)/前日計量:ポンド
WBO J・ライト級(V2),WBC S・フェザー級(V0),元WBOフェザー級(V0)王者
戦績:19戦全勝(9KO)
世界戦:5戦全勝(1KO)
現在の世界ランク:WBAライト級5位・WBC3位・IBF5位・WBO2位
アマ戦績:詳細不明
2016年リオ五輪バンタム級銀メダル
2015年ユース全米選手権(18歳以下対象)バンタム級優勝
2014年ユース世界選手権(ソフィア/ブルガリア)フライ級金メダル
2014年ジュニアオリンピック(ネバダ州リノ)フライ級優勝
2014年ユースオリンピック(南京/中国)フライ級金メダル
2013年ジュニア世界選手権(キエフ/ウクライナ)フライ級金メダル
2013年ジュニア全米選手権フライ級優勝
身長:170(173)センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター


◎吉野(31歳)/前日計量:ポンド
OPBF(V2),WBOアジア・パシフィック(V3),前日本ライト級(V7/返上)王者
現在の世界ランク:WBC5位・IBF13位・WBO7位(WBAランク外)
戦績:16戦全勝(12KO)
アマ通算:124戦104勝20敗
作新学院→東京農大
2011年度全日本選手権3位(L・ウェルター級)
国体成年準優勝(2年連続2回)
※2013年東京,2014年長崎(ウェルター級),
2010年~111年台北カップ2年連続銀メダル(L・ウェルター級)
高校4冠(インターハイ,国体,高校選抜)
身長:175センチ,リーチ:173センチ
右ボクサーファイター


■前日計量



■前日計量(フル)



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■リング・オフィシャル:未発表




有明4大決戦+α プレビュー 3 /キックの神童は国際式でも花開くのか? - 那須川天心 vs 与那覇勇気 -

カテゴリ:
■4月8日/有明アリーナ/S・バンタム級6回戦
日本バンタム級4位 与那覇勇気(真正) VS 元キック王者 那須川天心(帝拳)





「ボクシング(界)からの果たし状だと思っている。」

メインのダブル世界戦を完全に食う格好となった、”日本キック史上最高・最強の天才”那須川天心の国際式デビュー戦。

1階級下とは言え、現役上位ランカーとの6回戦での初お目見えについて、「試金石(地金を試される)」であると捉え、「覚悟を持って臨む。そして本物を証明して見せる」と、余計な力みもなく自然な受け応えができている。

メイウェザーとのエキジビション・マッチの時は流石に緊張が隠せず、やや舞い上がっている様子も垣間見られたが、半年に及ぶ準備期間のお陰もあって十分に落ち着いていた。


小学生の頃から帝拳ジムに通い、引退して指導者に転じた葛西裕一(現在は自分のジムを開いて独立)の指導を受けていたというだけあり、早くから国際式への適性が噂され、京口紘人を始めとするボクシングのスパーリング映像や、具志堅用高やホルヘ・リナレスらとの絡みも含め、映像は様々アップされている。

ボクシング関係者の反応は概ね良好で、「国際式でも間違いなく成功する」とのお墨付きが引きも切らない。

一足早く大橋ジムからデビューした武居由樹(同じS・バンタム級&サウスポー/4戦目でOPBF王座を獲得)との比較、出世競争への期待も含めて話題に事欠く心配はゼロ。


秀でたスピード&パワーに柔軟性を併せ持ち、どちらかと言えば硬さばかりが目に付くキック出身者とは思えない、スムーズかつセンシブルなムーヴで筋金入りのボクシング・ファンを驚かせた武居に対して、同じく突出したスピード&パワーが際立つ天心。

柔らかさと動きと変化の多彩さでは武居に1歩譲るが、真っ直ぐ伸びるストレートの貫通力、突破力は天心が優る。

無駄な予備動作が少なくなかったステップとパンチが、半年間の助走で様変わり。以下のスパーリング映像を一見していただければわかる通り、キック時代のボクシング・スパーとはまるで別人。


◎参考映像:2018年12月にロサンゼルスで行われた公開スパー


◎参考映像:4月1日に行われた公開スパー



2018年12月当時のスパーは、パートナーがライト級のプロスペクト(15戦全勝10KO)ということもあり、大きな体格差を十二分に考慮して見ないといけないけれど、天心は圧力をまともに受けて下がるしかなく、自分の間合いとタイミングを見い出すことができずに苦しむ。

相手の選手(オスカル・デュアルテ/現在:25勝20KO1敗1分け)も、日本から来た撮影クルーを気にして相当手加減をしてくれているが、天心は攻守のいずれにも余裕がまったくない。

スパーを見守るリナレスが、たまりかねたように大きな声で「止まらない。すぐ動いて」と声をかけている。


1日にやったスパーでは、同門の同じ階級の選手(日本ランク11位)を相手に、堂々たるボクシングを展開。右と左の違いはあるが、背格好はほとんど同じ。常に先手で仕掛け、動き出しを良く見て出はいりしながら自分の距離をキープ。

前後だけでなく左右の動きも堂に入ったもので、経験に優る先輩ボクサーを易々と動かしながらペースを作っている。

3階級制覇のリナレスをして、「ロマチェンコに似ている。もしも再戦が決まったらパートナーをお願いしたい」と言わしめただけのことはある。


◎最終会見



「ボクシング(界)からの果たし状」を神童に突きつけたアンダードック、神戸から呼ばれた与那覇勇気は32歳になるベテラン。

沖縄向学高から東洋大学に進み、63戦のアマキャリアを手土産に2013年5月にB級デビュー(6回戦)。初陣から3連続KO勝ちを収めたものの、8回戦で2連敗。一旦6回戦に戻り、また8回戦をやり直すも、2016年7月の試合で2回TKO負けを喫し引退している。

この時点での戦績は、10戦7勝(5KO)3敗。けっして悪い結果ではないが、アマ・エリートとしては順風満帆とは言い難い。


有体にプロの壁にぶち当たり挫折した訳だが、社会人枠の練習生としてジムワークは続けていたとのこと。結婚して子供も授かったが、2019年10月に再デビュー。

6回戦を引き分けた後、5連勝(3KO)をマークして日本ランキングも2位にアップ。そして昨年10月20日、ランク1位の南出仁(みなみいで・じん/セレス小林ジム:天心のプロテストで胸を貸した選手)と、聖地後楽園ホールでチャンピオン・カーニバルの指名挑戦権を懸けて激突。

サウスポーの南出もアマチュア出身者(和歌山東高→駒澤大/65戦43勝22敗)で、全日本選手権準優勝まで行ったエリート・クラス。

ストレート系のパンチを主体に、スピードを意識したステップワークでポイントメイクする南出に対して、昨今のアマ上がりには珍しい変則的な動きも交えながら、得意の右1発に懸ける与那覇。

対照的な2人の攻防は、ボクサー有利に働くスコアリングを追い風にした南出が、強打の単発傾向が顕著な与那覇を抑えて3-0の8回判定勝ち。


1発の怖さはあるものの、足のあるサウスポーに負けたばかりで、スピードに欠ける1階級下の現役ランカー。失敗が許されない神童のデビュー戦には打ってつけだと、そう見られるのはこの際致し方がない。

帝拳の系列に居るバンタム級の与那覇(直近は負け試合)に、S・バンタム級契約を呑ませて引っ張り出す。見え透いたやり口だとの批判も、天心は甘んじて受ける必要はある。

ただし、この試合を「露骨なウェイト・ハンディ戦」だと揶揄するのは大間違い。話題性と期待値が高い大物ルーキーのデビュー戦に、ある程度の経験と実績を有する選手を下の階級から見繕うのは、洋の東西を問わない常套手段の1つ。

S・フライ級でデビューした与那覇は、一度引退する前にバンタム級での調整を経験し、3年ぶりの再起戦はS・バンタム級契約だった。

ブランクの影響でバンタム級まで絞れなかったと想像するが、フライ~S・フライ級の天心より小さなタイ人やインドネシア人を連れてきたのならともかく、ボクシングのキャリアでは明らかに与那覇が格上になる。


とは言うものの、スピードが違い過ぎて勝負にならないだろうと率直に思う。形振り構わず与那覇が抱きついて、ガシャガシャの揉み合いに持ち込む奇襲も無くは無いが、例えば赤穂亮とやった時の中川麦茶のように、ラフ&ダーティで試合をぶち壊すリスクが少しでもあったなら、そもそも与那覇にオファーはしなかっただろう。

与那覇は変則気味の戦術も使うが、中川や亀田のごとき汚い戦い方はしない。あくまで正当なボクシングの技術&駆け引きの範囲内で天心に向き合い、左ストレートを直撃されて倒される・・・確率が極めて高い。


びっくりしたのは、オッズが付いていたこと。これも、”メイウェザー効果”だろうか(?)。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
天心:-800(1.125倍)
与那覇:+500(6倍)

<2>Bet365
天心:-800(1.125倍)
与那覇:+450(5.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
天心:1/8(1.125倍)
与那覇:5/1(6倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
天心:1/9(約1.11倍)
与那覇:5/1(6倍)


天心が国際式の世界チャンピオンになれるのかどうか。それについて云々するのは、幾ら何でも早過ぎる。5~6戦こなして、ローカル王者クラスとの手合わせを見てからでないと具体的なことは言えないし、言うべきではないだろう。


◎与那覇(32歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:17戦12勝(8KO)4敗1分け
アマ通算:63戦50勝(27RSC・KO)13敗
2008年度高校選抜優勝(バンタム級)
沖縄向学高→東洋大
身長:169センチ
右ボクサーファイター


◎那須川(24歳)/前日計量:122ポンド(55.3キロ)
プロデビュー戦
キック通算:42戦全勝(28KO)
総合通算:4戦全勝(2KO)
身長,リーチとも165センチ
左ボクサーパンチャー


◎参考映像:前日計量



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