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■4月8日/有明アリーナ/S・バンタム級6回戦
日本バンタム級4位 与那覇勇気(真正) VS 元キック王者 那須川天心(帝拳)





「ボクシング(界)からの果たし状だと思っている。」

メインのダブル世界戦を完全に食う格好となった、”日本キック史上最高・最強の天才”那須川天心の国際式デビュー戦。

1階級下とは言え、現役上位ランカーとの6回戦での初お目見えについて、「試金石(地金を試される)」であると捉え、「覚悟を持って臨む。そして本物を証明して見せる」と、余計な力みもなく自然な受け応えができている。

メイウェザーとのエキジビション・マッチの時は流石に緊張が隠せず、やや舞い上がっている様子も垣間見られたが、半年に及ぶ準備期間のお陰もあって十分に落ち着いていた。


小学生の頃から帝拳ジムに通い、引退して指導者に転じた葛西裕一(現在は自分のジムを開いて独立)の指導を受けていたというだけあり、早くから国際式への適性が噂され、京口紘人を始めとするボクシングのスパーリング映像や、具志堅用高やホルヘ・リナレスらとの絡みも含め、映像は様々アップされている。

ボクシング関係者の反応は概ね良好で、「国際式でも間違いなく成功する」とのお墨付きが引きも切らない。

一足早く大橋ジムからデビューした武居由樹(同じS・バンタム級&サウスポー/4戦目でOPBF王座を獲得)との比較、出世競争への期待も含めて話題に事欠く心配はゼロ。


秀でたスピード&パワーに柔軟性を併せ持ち、どちらかと言えば硬さばかりが目に付くキック出身者とは思えない、スムーズかつセンシブルなムーヴで筋金入りのボクシング・ファンを驚かせた武居に対して、同じく突出したスピード&パワーが際立つ天心。

柔らかさと動きと変化の多彩さでは武居に1歩譲るが、真っ直ぐ伸びるストレートの貫通力、突破力は天心が優る。

無駄な予備動作が少なくなかったステップとパンチが、半年間の助走で様変わり。以下のスパーリング映像を一見していただければわかる通り、キック時代のボクシング・スパーとはまるで別人。


◎参考映像:2018年12月にロサンゼルスで行われた公開スパー


◎参考映像:4月1日に行われた公開スパー



2018年12月当時のスパーは、パートナーがライト級のプロスペクト(15戦全勝10KO)ということもあり、大きな体格差を十二分に考慮して見ないといけないけれど、天心は圧力をまともに受けて下がるしかなく、自分の間合いとタイミングを見い出すことができずに苦しむ。

相手の選手(オスカル・デュアルテ/現在:25勝20KO1敗1分け)も、日本から来た撮影クルーを気にして相当手加減をしてくれているが、天心は攻守のいずれにも余裕がまったくない。

スパーを見守るリナレスが、たまりかねたように大きな声で「止まらない。すぐ動いて」と声をかけている。


1日にやったスパーでは、同門の同じ階級の選手(日本ランク11位)を相手に、堂々たるボクシングを展開。右と左の違いはあるが、背格好はほとんど同じ。常に先手で仕掛け、動き出しを良く見て出はいりしながら自分の距離をキープ。

前後だけでなく左右の動きも堂に入ったもので、経験に優る先輩ボクサーを易々と動かしながらペースを作っている。

3階級制覇のリナレスをして、「ロマチェンコに似ている。もしも再戦が決まったらパートナーをお願いしたい」と言わしめただけのことはある。


◎最終会見



「ボクシング(界)からの果たし状」を神童に突きつけたアンダードック、神戸から呼ばれた与那覇勇気は32歳になるベテラン。

沖縄向学高から東洋大学に進み、63戦のアマキャリアを手土産に2013年5月にB級デビュー(6回戦)。初陣から3連続KO勝ちを収めたものの、8回戦で2連敗。一旦6回戦に戻り、また8回戦をやり直すも、2016年7月の試合で2回TKO負けを喫し引退している。

この時点での戦績は、10戦7勝(5KO)3敗。けっして悪い結果ではないが、アマ・エリートとしては順風満帆とは言い難い。


有体にプロの壁にぶち当たり挫折した訳だが、社会人枠の練習生としてジムワークは続けていたとのこと。結婚して子供も授かったが、2019年10月に再デビュー。

6回戦を引き分けた後、5連勝(3KO)をマークして日本ランキングも2位にアップ。そして昨年10月20日、ランク1位の南出仁(みなみいで・じん/セレス小林ジム:天心のプロテストで胸を貸した選手)と、聖地後楽園ホールでチャンピオン・カーニバルの指名挑戦権を懸けて激突。

サウスポーの南出もアマチュア出身者(和歌山東高→駒澤大/65戦43勝22敗)で、全日本選手権準優勝まで行ったエリート・クラス。

ストレート系のパンチを主体に、スピードを意識したステップワークでポイントメイクする南出に対して、昨今のアマ上がりには珍しい変則的な動きも交えながら、得意の右1発に懸ける与那覇。

対照的な2人の攻防は、ボクサー有利に働くスコアリングを追い風にした南出が、強打の単発傾向が顕著な与那覇を抑えて3-0の8回判定勝ち。


1発の怖さはあるものの、足のあるサウスポーに負けたばかりで、スピードに欠ける1階級下の現役ランカー。失敗が許されない神童のデビュー戦には打ってつけだと、そう見られるのはこの際致し方がない。

帝拳の系列に居るバンタム級の与那覇(直近は負け試合)に、S・バンタム級契約を呑ませて引っ張り出す。見え透いたやり口だとの批判も、天心は甘んじて受ける必要はある。

ただし、この試合を「露骨なウェイト・ハンディ戦」だと揶揄するのは大間違い。話題性と期待値が高い大物ルーキーのデビュー戦に、ある程度の経験と実績を有する選手を下の階級から見繕うのは、洋の東西を問わない常套手段の1つ。

S・フライ級でデビューした与那覇は、一度引退する前にバンタム級での調整を経験し、3年ぶりの再起戦はS・バンタム級契約だった。

ブランクの影響でバンタム級まで絞れなかったと想像するが、フライ~S・フライ級の天心より小さなタイ人やインドネシア人を連れてきたのならともかく、ボクシングのキャリアでは明らかに与那覇が格上になる。


とは言うものの、スピードが違い過ぎて勝負にならないだろうと率直に思う。形振り構わず与那覇が抱きついて、ガシャガシャの揉み合いに持ち込む奇襲も無くは無いが、例えば赤穂亮とやった時の中川麦茶のように、ラフ&ダーティで試合をぶち壊すリスクが少しでもあったなら、そもそも与那覇にオファーはしなかっただろう。

与那覇は変則気味の戦術も使うが、中川や亀田のごとき汚い戦い方はしない。あくまで正当なボクシングの技術&駆け引きの範囲内で天心に向き合い、左ストレートを直撃されて倒される・・・確率が極めて高い。


びっくりしたのは、オッズが付いていたこと。これも、”メイウェザー効果”だろうか(?)。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
天心:-800(1.125倍)
与那覇:+500(6倍)

<2>Bet365
天心:-800(1.125倍)
与那覇:+450(5.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
天心:1/8(1.125倍)
与那覇:5/1(6倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
天心:1/9(約1.11倍)
与那覇:5/1(6倍)


天心が国際式の世界チャンピオンになれるのかどうか。それについて云々するのは、幾ら何でも早過ぎる。5~6戦こなして、ローカル王者クラスとの手合わせを見てからでないと具体的なことは言えないし、言うべきではないだろう。


◎与那覇(32歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:17戦12勝(8KO)4敗1分け
アマ通算:63戦50勝(27RSC・KO)13敗
2008年度高校選抜優勝(バンタム級)
沖縄向学高→東洋大
身長:169センチ
右ボクサーファイター


◎那須川(24歳)/前日計量:122ポンド(55.3キロ)
プロデビュー戦
キック通算:42戦全勝(28KO)
総合通算:4戦全勝(2KO)
身長,リーチとも165センチ
左ボクサーパンチャー


◎参考映像:前日計量