”ファイター恒成”の是非 /国内屈指のスピードスターの行く道は? - 田中恒成 vs P・カリージョ 直前プレビュー I -
- カテゴリ:
- Preview
■5月21日/パロマ瑞穂アリーナ,名古屋市/52.6キロ(116ポンド)契約10回戦
元3階級制覇王者/WBO3位 田中恒成(畑中) vs WBC13位 パブロ・カリージョ(コロンビア)
元3階級制覇王者/WBO3位 田中恒成(畑中) vs WBC13位 パブロ・カリージョ(コロンビア)
何とも微妙なマッチメイクである。田中陣営と言うか、畑中会長と斉(ひとし/実父)トレーナーの意図をどう判断すべきなのか、真意を測りかねてしまうと言ってしまえばそれまでなのだが・・・。
WBO4位の肩書きを持つヤンガ・シッキポ(南ア)を地元名古屋に迎えて、3-0の10回判定に下した前戦(昨年12月/武田テバオーシャンアリーナ)は、「世界前哨戦」と銘打たれていた。本来ならば、”4階級制覇への再チャレンジ”と行きたいところだったに違いない。
しかしながら、八重樫戦以来10年越しに陽の目を見た2度目の2団体統一戦を失敗(12回マジョリティ・ドロー)したWBO王者井岡には、同じWBOのフライ級王座を返上して階級をアップした中谷潤人(M.T.)との指名戦が指示されていた。
田中自身も、完膚無きまでに打ちのめされた井岡との再戦について、「(際どい判定の接戦ならともかくKO負けした側が)簡単にもう一度とは言えない」と語り、「挑戦」という形での実現には消極的で、「やるなら4階級制覇王者同士の統一戦」との思いが見え隠れする。
井岡相手に実質的な勝利をモノにしたWBA王者ジョシュア・フランコ(米)は、オスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)と良好な関係を継続していたが、2020年の途中で離反を宣言(契約を更新せず)。
アンドリュー・モロニー(豪/ジェイソンの実弟:双子)との2試合はトップランクの仕切りで戦っており、帝拳を仲介した交渉はスムーズな展開が見込める筈だが、井岡が中谷との指名戦を蹴ってしまい、WBOタイトルを放棄。フランコとのダイレクト・リマッチに動く。
井岡の返上で空位となったWBOのベルトは、今週末、MGMグランドのメイン・アリーナで中谷とアンドリューが争う(ヘイニー vs ロマチェンコのアンダーカード)。
クラス最強と目され、緑のベルトを保持するファン・F・エストラーダは、昨年12月3日にロマ・ゴンとの因縁に終止符を打つと、大晦日の井岡 vs フランコ第1戦のリングサイドに姿を現した。
ところが結果は期待に反するものとなり、井岡の勝利を前提にした日本国内での3団体統一戦(WBA・WBC・WBO)は水の泡と消える。
加齢と勤続疲労の影響が忍び寄るエストラーダ(今年の4月で33歳になった)は、ロマ・ゴンとの2試合で総額150万ドル(PPVインセンティブ込み)を得たとされ、大きな注目が集まる統一戦でないと日本への招聘(地上波での中継)は難しい。
田中自身は渡米について何の抵抗もないだろうし、むしろ望むところだと推察するが、畑中会長は2度目の挑戦を失敗した時のリスクを懸念する。田中を後援してきたCBC(中部日本放送)も同じ筈。
エストラーダ,中谷,フランコ,井岡との再戦等々、田中を含めた115ポンドの趨勢は、ファンの関心を惹かずにおかない好カードが目白押しではあるものの、キャリアを決定的に左右する恐れを孕む。
こうなると、田中のターゲットは自ずとIBFのタイトルに絞られる。この階級の赤いベルトは、攻防兼備のフィリピン人サウスポー,ジェルウィン・アンカハスが、2016年9月の獲得以来、足掛け5年5ヶ月に渡って9度もの連続防衛に成功。
磐石の安定政権を維持してきたが、正式契約を結んだWBO王者井岡一翔との統一戦(2021年の大晦日興行)が、しぶとく流行を繰り返す武漢ウィルス禍(第8波:2022年10月~2023年1月)によって流会となり、延期・仕切り直しを切望する井岡陣営に対して、「いつになるのかわからない日本国内の鎮静化を待つことはできない」と通告。
節目となる10度目の防衛戦(昨年2月/ラスベガス・コスモポリタン)で、伏兵フェルナンド・マルティネス(亜)によもやの0-3判定負け。
もともとキツめのプレスを不得手にする傾向はあったものの、公称157センチの小兵がウソのような波状攻撃に押し負けてしまう。もともと120ポンドのS・バンタム級でデビュー(2017年8月)した後、S・フライ~バンタム級を行き来しながら無傷の13連勝(8KO)をマーク。
2008年のユース世界選手権の代表に選ばれ、シニアに進んでからはWSB(World Series of Boxing)の契約選手になるなど、アマチュアでの経験も豊富(戦績詳細は不明)だが、プロの世界では国際的な認知は皆無に等しい。
国内王座とWBCシルバー王座を経て、短期間で挑戦に漕ぎ着けたマルティネスは、云わば遅れてやって来た30歳のプロスペクト。勝利を予想しろと言う方に無理がある。
だがしかし、百聞は一見にしかず。スムーズにアンカハスの動き出しに反応しつつ、隙あらば瞬時に踏み込み、キレのいいショートを鋭く打ち込むマルティネスは、適時スタンスを左右に入れ替え(スイッチ)ながら、じわじわと圧力を強めて行く。
時折り振るう思い切りのいいフックは、力感に満ちてスピードも充分。スペイン語で「火成岩(火山の噴火で噴出したマグマが冷えて出来る岩)」を意味する「プミータ(Pumita)」のニックネームに相応しい。
ディフェンスそっちのけのイケイケどんどんではなく、安易に貰わないクレバネスと攻防のテクニック、アンカハスの疲労度をしっかり把握する冷静と俯瞰も併せ持つ。ボディアタックを軸に中盤盛り返すアンカハスに対して、無駄打ちを極力避けてスタミナを温存しながら、フィジカル&パンチング・パワーの強味を発揮。
後半に差し掛かる頃には典型的な消耗戦,白兵戦の様相となり、クロスレンジにおける精度でも歴戦の王者を上回って行く。
アンカハスも懸命に手数を返して前に出ようとするが、生来の打たれ強さに加えて、マルティネスはカバーリングと細かいボディワークで芯を食わない術に長けている。そして苦しい中でも圧力をかけ続ける精神力と粘り強さで、アンカハスをスローダウンへと追い込む。
簡単に退き下がることなく、クリンチに逃げずに果敢に打ち合う両雄は、最後の最後まで勇者であり続けた。ファイト・オブ・ジ・イヤーに選出されてもおかしくない激闘は、ダイレクト・リマッチに十二分に値する。
昨年10月、カリフォルニア州カーソンに舞台を移した再戦では、ジャブとステップのヴォリュームを増やし、クリンチワークも駆使して接近戦の回避に務めるアンカハスに対して、踏み込みの勢いとプレッシャーのレベルを一段引き上げ、強打の数を増やして攻め込むマルティネスの積極性が目立った。
アンカハスのパンチも当たっていない訳ではないが、マルティネスの攻勢を押し止めるまでには至らず、手数を伴って追いかけ続けるプミータが中盤までに流れを掌握。後半にかけてのストップも想定される展開となったが、アンカハスも意地を見せる。
第1戦と同様自ら前に出て、ハイリスクな接近戦に打って出たアンカハス。マルティネスはペース配分も兼ねた駆け引きの応酬で休みながら、必要に応じたパワーショットで見せ場を容易に譲らない。
第9ラウンドに強めのプレスを再開すると、アンカハスは退き気味にカウンター狙いの態勢で時間稼ぎ(マルティネスの前進を少しでも止める)。だが、機を見てマルティネスが攻め始めると、アンカハスは防戦に追われて反撃する余裕がない。
11ラウンドには飛び込むプミータとアンカハスの足が絡まり、新チャンプが転倒。「すわ、ダウンか?」と場内が沸くも、主審のエドワード・エルナンデスは判断を誤らなかった。
第1戦以上に差が開いた3-0判定でマルティネスの手が挙がり、リングサイドで観戦していた田中(9月上旬から渡米/シッキポ戦に備えた長期のスパーリング合宿を敢行)は、「プレッシャーとパワーにどうしても目が行くけど、実はディフェンスが上手い。強いチャンピオン」だと評価しながらも、「崩しようはあると思った。いけそうかな」と自信を述べている。
マルティネス陣営との間でどこまで本格的な交渉を持ったのか、あるいは持たなかったのか。そこは完全に藪の中でわからないけれど、陣営は「中谷 vs A・モロニー」,「フランコ vs 井岡2(6月24日/大田区総合体育館)」の結果を待つことにした。
最終的なターゲットが誰になるのかは別にして、秋~年末にかけての再挑戦を目指し、田中はハードワークに自らを駆り立てている。
◎Part 2 へ
◎田中(27歳)/前日計量:116ポンド(52.6キロ)
前WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:19戦18勝(10KO)1敗
世界戦通算10戦9勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
右ボクサーファイター
◎カリージョ(34歳)/前日計量:115.75ポンド(52.5キロ)
戦績:38戦28勝(1KO)8敗2分け
身長:154センチ
右ボクサーファイター
■TV中継
<1>地上波:CBC(中京地域限定):13時56分~生中継
※番組公式ホームページ
https://hicbc.com/tv/soulfighting/
<2>動画配信:Locipo(ロキポ):午後12時~LIVE配信
有料:1000円
※公式サイト
https://locipo.jp/
・配信:5月13日(土)12時~5月21日(日)14時
・5月27日(土)~有料見逃し配信予定
・セミファイナルの畑中建人(畑中) vs チャワドン・ムアンスック(タイ)戦を含む
※Locipo番組配信ページ(コンテンツ無し/新規会員登録へのナビゲーション)
https://locipo.jp/premium/live/720b1a1a-f974-49d9-8686-c31491394cb7
試合会場について
試合会場として選ばれた「パロマ瑞穂アリーナ」は、名古屋市瑞穂区にある「瑞穂公園」内に建設された屋内競技場で、2021年6月にオープンしたばかり。3つ(第1~第3)の異なる規模の体育館を備えている。
今回使用されるのは、最も大きい第1競技場(1,144席+車椅子用14席)だと思われるが、体育館の真ん中にリングを設営して、その周囲にパイプ椅子を並べたリングサイドを作る一般的な手法で、2000名近い収容を計画しているのではないか。
※6月26日(土)『パロマ瑞穂アリーナ』がオープン!
2021年6月26日/「みずほん(瑞穂区情報ページ)」
https://mizuhon.com/paloma-mizuho-arena-open-info/
アリーナは元の名称を「瑞穂公園体育館」といって、「名古屋市教育スポーツ協会(公益財団法人)」が所管していた。
公園は無料で開放されているパブリック・スペースと、陸上競技場や野球を主としたグラウンド、ラグビー場等をからなる有料の体育施設で構成され、有料の運動関連部分を「瑞穂運動場」と呼称していた。
地元瑞穂区を代表する企業の「パロマ(有名なガス器具メーカー)」が、2015年から導入されたネーミング・ライツを獲得。以来、「パロマ瑞穂スポーツパーク」と名称変更されている。
「瑞穂運動場=パロマ瑞穂スポーツパーク」は、2026年秋に愛知県で開催が予定されている「アジア大会(Asian Games)」の主要競技場として位置づけられ、アリーナの建設も全面的なリニューアル事業の一環として行われた。
リニューアル事業はいわゆる「官民連携」方式で、「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」に分類されている。
事業(総額約500億円)を落札した竹中工務店を中心とした入札参加企業(美津濃,日本管財,新東通信等:PFIではコンソーシアムと呼ばれる)により、運営会社(SPC:Special Purpose Company/特別目的会社=PFI事業のみを行うペーパー・カンパニー)を設立し、スポーツパークの公式ホームページもSPCが直接運営を行っている。
■関連サイト
<1>パロマ瑞穂スポーツパーク公式サイト
https://mizuho-loop.jp/
<2>施設案内
https://mizuho-loop.jp/equipment/
<3>パロマ瑞穂アリーナ・第1競技場
https://mizuho-loop.jp/equipment/equipment03/
<4>名古屋市教育スポーツ協会公式サイト
https://www.nespa.or.jp/
<5>施設案内・パロマ瑞穂アリーナ
http://nespa.or.jp/shisetsu/mizuho_arena/facility.html
<6>旧パロマ瑞穂アリーナ公式サイト
http://nespa.or.jp/shisetsu/mizuho_arena/
※教育スポーツ協会が立ち上げたサイトで、現在は自動的に<1>に遷移する。PFI事業の満了まで、現在の体制が維持される。