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■5月21日/パロマ瑞穂アリーナ,名古屋市/52.6キロ(116ポンド)契約10回戦
元3階級制覇王者/WBO3位 田中恒成(畑中) vs WBC13位 パブロ・カリージョ(コロンビア)



何とも微妙なマッチメイクである。田中陣営と言うか、畑中会長と斉(ひとし/実父)トレーナーの意図をどう判断すべきなのか、真意を測りかねてしまうと言ってしまえばそれまでなのだが・・・。

WBO4位の肩書きを持つヤンガ・シッキポ(南ア)を地元名古屋に迎えて、3-0の10回判定に下した前戦(昨年12月/武田テバオーシャンアリーナ)は、「世界前哨戦」と銘打たれていた。本来ならば、”4階級制覇への再チャレンジ”と行きたいところだったに違いない。

しかしながら、八重樫戦以来10年越しに陽の目を見た2度目の2団体統一戦を失敗(12回マジョリティ・ドロー)したWBO王者井岡には、同じWBOのフライ級王座を返上して階級をアップした中谷潤人(M.T.)との指名戦が指示されていた。

田中自身も、完膚無きまでに打ちのめされた井岡との再戦について、「(際どい判定の接戦ならともかくKO負けした側が)簡単にもう一度とは言えない」と語り、「挑戦」という形での実現には消極的で、「やるなら4階級制覇王者同士の統一戦」との思いが見え隠れする。


井岡相手に実質的な勝利をモノにしたWBA王者ジョシュア・フランコ(米)は、オスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)と良好な関係を継続していたが、2020年の途中で離反を宣言(契約を更新せず)。

アンドリュー・モロニー(豪/ジェイソンの実弟:双子)との2試合はトップランクの仕切りで戦っており、帝拳を仲介した交渉はスムーズな展開が見込める筈だが、井岡が中谷との指名戦を蹴ってしまい、WBOタイトルを放棄。フランコとのダイレクト・リマッチに動く。

井岡の返上で空位となったWBOのベルトは、今週末、MGMグランドのメイン・アリーナで中谷とアンドリューが争う(ヘイニー vs ロマチェンコのアンダーカード)。

クラス最強と目され、緑のベルトを保持するファン・F・エストラーダは、昨年12月3日にロマ・ゴンとの因縁に終止符を打つと、大晦日の井岡 vs フランコ第1戦のリングサイドに姿を現した。

ところが結果は期待に反するものとなり、井岡の勝利を前提にした日本国内での3団体統一戦(WBA・WBC・WBO)は水の泡と消える。


加齢と勤続疲労の影響が忍び寄るエストラーダ(今年の4月で33歳になった)は、ロマ・ゴンとの2試合で総額150万ドル(PPVインセンティブ込み)を得たとされ、大きな注目が集まる統一戦でないと日本への招聘(地上波での中継)は難しい。

田中自身は渡米について何の抵抗もないだろうし、むしろ望むところだと推察するが、畑中会長は2度目の挑戦を失敗した時のリスクを懸念する。田中を後援してきたCBC(中部日本放送)も同じ筈。

エストラーダ,中谷,フランコ,井岡との再戦等々、田中を含めた115ポンドの趨勢は、ファンの関心を惹かずにおかない好カードが目白押しではあるものの、キャリアを決定的に左右する恐れを孕む。


こうなると、田中のターゲットは自ずとIBFのタイトルに絞られる。この階級の赤いベルトは、攻防兼備のフィリピン人サウスポー,ジェルウィン・アンカハスが、2016年9月の獲得以来、足掛け5年5ヶ月に渡って9度もの連続防衛に成功。

磐石の安定政権を維持してきたが、正式契約を結んだWBO王者井岡一翔との統一戦(2021年の大晦日興行)が、しぶとく流行を繰り返す武漢ウィルス禍(第8波:2022年10月~2023年1月)によって流会となり、延期・仕切り直しを切望する井岡陣営に対して、「いつになるのかわからない日本国内の鎮静化を待つことはできない」と通告。

節目となる10度目の防衛戦(昨年2月/ラスベガス・コスモポリタン)で、伏兵フェルナンド・マルティネス(亜)によもやの0-3判定負け。

もともとキツめのプレスを不得手にする傾向はあったものの、公称157センチの小兵がウソのような波状攻撃に押し負けてしまう。もともと120ポンドのS・バンタム級でデビュー(2017年8月)した後、S・フライ~バンタム級を行き来しながら無傷の13連勝(8KO)をマーク。


2008年のユース世界選手権の代表に選ばれ、シニアに進んでからはWSB(World Series of Boxing)の契約選手になるなど、アマチュアでの経験も豊富(戦績詳細は不明)だが、プロの世界では国際的な認知は皆無に等しい。

国内王座とWBCシルバー王座を経て、短期間で挑戦に漕ぎ着けたマルティネスは、云わば遅れてやって来た30歳のプロスペクト。勝利を予想しろと言う方に無理がある。

だがしかし、百聞は一見にしかず。スムーズにアンカハスの動き出しに反応しつつ、隙あらば瞬時に踏み込み、キレのいいショートを鋭く打ち込むマルティネスは、適時スタンスを左右に入れ替え(スイッチ)ながら、じわじわと圧力を強めて行く。

時折り振るう思い切りのいいフックは、力感に満ちてスピードも充分。スペイン語で「火成岩(火山の噴火で噴出したマグマが冷えて出来る岩)」を意味する「プミータ(Pumita)」のニックネームに相応しい。


ディフェンスそっちのけのイケイケどんどんではなく、安易に貰わないクレバネスと攻防のテクニック、アンカハスの疲労度をしっかり把握する冷静と俯瞰も併せ持つ。ボディアタックを軸に中盤盛り返すアンカハスに対して、無駄打ちを極力避けてスタミナを温存しながら、フィジカル&パンチング・パワーの強味を発揮。

後半に差し掛かる頃には典型的な消耗戦,白兵戦の様相となり、クロスレンジにおける精度でも歴戦の王者を上回って行く。

アンカハスも懸命に手数を返して前に出ようとするが、生来の打たれ強さに加えて、マルティネスはカバーリングと細かいボディワークで芯を食わない術に長けている。そして苦しい中でも圧力をかけ続ける精神力と粘り強さで、アンカハスをスローダウンへと追い込む。

簡単に退き下がることなく、クリンチに逃げずに果敢に打ち合う両雄は、最後の最後まで勇者であり続けた。ファイト・オブ・ジ・イヤーに選出されてもおかしくない激闘は、ダイレクト・リマッチに十二分に値する。


昨年10月、カリフォルニア州カーソンに舞台を移した再戦では、ジャブとステップのヴォリュームを増やし、クリンチワークも駆使して接近戦の回避に務めるアンカハスに対して、踏み込みの勢いとプレッシャーのレベルを一段引き上げ、強打の数を増やして攻め込むマルティネスの積極性が目立った。

アンカハスのパンチも当たっていない訳ではないが、マルティネスの攻勢を押し止めるまでには至らず、手数を伴って追いかけ続けるプミータが中盤までに流れを掌握。後半にかけてのストップも想定される展開となったが、アンカハスも意地を見せる。

第1戦と同様自ら前に出て、ハイリスクな接近戦に打って出たアンカハス。マルティネスはペース配分も兼ねた駆け引きの応酬で休みながら、必要に応じたパワーショットで見せ場を容易に譲らない。


第9ラウンドに強めのプレスを再開すると、アンカハスは退き気味にカウンター狙いの態勢で時間稼ぎ(マルティネスの前進を少しでも止める)。だが、機を見てマルティネスが攻め始めると、アンカハスは防戦に追われて反撃する余裕がない。

11ラウンドには飛び込むプミータとアンカハスの足が絡まり、新チャンプが転倒。「すわ、ダウンか?」と場内が沸くも、主審のエドワード・エルナンデスは判断を誤らなかった。

第1戦以上に差が開いた3-0判定でマルティネスの手が挙がり、リングサイドで観戦していた田中(9月上旬から渡米/シッキポ戦に備えた長期のスパーリング合宿を敢行)は、「プレッシャーとパワーにどうしても目が行くけど、実はディフェンスが上手い。強いチャンピオン」だと評価しながらも、「崩しようはあると思った。いけそうかな」と自信を述べている。


マルティネス陣営との間でどこまで本格的な交渉を持ったのか、あるいは持たなかったのか。そこは完全に藪の中でわからないけれど、陣営は「中谷 vs A・モロニー」,「フランコ vs 井岡2(6月24日/大田区総合体育館)」の結果を待つことにした。

最終的なターゲットが誰になるのかは別にして、秋~年末にかけての再挑戦を目指し、田中はハードワークに自らを駆り立てている。


◎Part 2 へ


◎田中(27歳)/前日計量:116ポンド(52.6キロ)
前WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
※現在の世界ランク:WBA4位・WBC4位・IBF3位
戦績:19戦18勝(10KO)1敗
世界戦通算10戦9勝(5KO)1敗
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎カリージョ(34歳)/前日計量:115.75ポンド(52.5キロ)
戦績:38戦28勝(1KO)8敗2分け
身長:154センチ
右ボクサーファイター


■TV中継
<1>地上波:CBC(中京地域限定):13時56分~生中継
※番組公式ホームページ
https://hicbc.com/tv/soulfighting/

<2>動画配信:Locipo(ロキポ):午後12時~LIVE配信
有料:1000円
※公式サイト
https://locipo.jp/

・配信:5月13日(土)12時~5月21日(日)14時
・5月27日(土)~有料見逃し配信予定
・セミファイナルの畑中建人(畑中) vs チャワドン・ムアンスック(タイ)戦を含む

※Locipo番組配信ページ(コンテンツ無し/新規会員登録へのナビゲーション)
https://locipo.jp/premium/live/720b1a1a-f974-49d9-8686-c31491394cb7

試合会場について


試合会場として選ばれた「パロマ瑞穂アリーナ」は、名古屋市瑞穂区にある「瑞穂公園」内に建設された屋内競技場で、2021年6月にオープンしたばかり。3つ(第1~第3)の異なる規模の体育館を備えている。

今回使用されるのは、最も大きい第1競技場(1,144席+車椅子用14席)だと思われるが、体育館の真ん中にリングを設営して、その周囲にパイプ椅子を並べたリングサイドを作る一般的な手法で、2000名近い収容を計画しているのではないか。

※6月26日(土)『パロマ瑞穂アリーナ』がオープン!
2021年6月26日/「みずほん(瑞穂区情報ページ)」
https://mizuhon.com/paloma-mizuho-arena-open-info/


アリーナは元の名称を「瑞穂公園体育館」といって、「名古屋市教育スポーツ協会(公益財団法人)」が所管していた。

公園は無料で開放されているパブリック・スペースと、陸上競技場や野球を主としたグラウンド、ラグビー場等をからなる有料の体育施設で構成され、有料の運動関連部分を「瑞穂運動場」と呼称していた。

地元瑞穂区を代表する企業の「パロマ(有名なガス器具メーカー)」が、2015年から導入されたネーミング・ライツを獲得。以来、「パロマ瑞穂スポーツパーク」と名称変更されている。

「瑞穂運動場=パロマ瑞穂スポーツパーク」は、2026年秋に愛知県で開催が予定されている「アジア大会(Asian Games)」の主要競技場として位置づけられ、アリーナの建設も全面的なリニューアル事業の一環として行われた。

リニューアル事業はいわゆる「官民連携」方式で、「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」に分類されている。

事業(総額約500億円)を落札した竹中工務店を中心とした入札参加企業(美津濃,日本管財,新東通信等:PFIではコンソーシアムと呼ばれる)により、運営会社(SPC:Special Purpose Company/特別目的会社=PFI事業のみを行うペーパー・カンパニー)を設立し、スポーツパークの公式ホームページもSPCが直接運営を行っている。


■関連サイト
<1>パロマ瑞穂スポーツパーク公式サイト
https://mizuho-loop.jp/

<2>施設案内
https://mizuho-loop.jp/equipment/

<3>パロマ瑞穂アリーナ・第1競技場
https://mizuho-loop.jp/equipment/equipment03/

<4>名古屋市教育スポーツ協会公式サイト
https://www.nespa.or.jp/

<5>施設案内・パロマ瑞穂アリーナ
http://nespa.or.jp/shisetsu/mizuho_arena/facility.html

<6>旧パロマ瑞穂アリーナ公式サイト
http://nespa.or.jp/shisetsu/mizuho_arena/

※教育スポーツ協会が立ち上げたサイトで、現在は自動的に<1>に遷移する。PFI事業の満了まで、現在の体制が維持される。


ナミビアの”荒ぶるエナジー”来襲 /ド迫力のシバキ合い上等・・・? - カシメロ vs ウンギタンバ 直前プレビュー -

■5月13日/オカダ・マニラ(ホテル&カジノ),シティ・オブ・パラニャーケ(マニラ)/WBOグローバルS・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者/WBO10位 フィリパス・ウンギタンバ(ナミビア) vs 元3階級制覇王者/WBO5位 ジョンリエル・カシメロ(比)



※ファイナル・プレス・カンファレンス(Filipino Boxing TV公式チャンネル)

赤穂亮との再起戦で披露した豪快なパフォーマンスにより、世界ランキングに復活したカシメロが、復帰第2戦で首都マニラに見参。母国での試合は、2019年8月の防衛戦(WBOバンタム級暫定V1)以来、およそ4年ぶりとなる。

WBO直轄の下部タイトルが懸けられ、カシメロは挑戦者ということになるが、キャリア&実績において遥かに格上。年齢的にも胸を貸す立場で間違いない。

度重なる試合のキャンセルと中止、MPプロモーションズ(パッキャオの興行会社)との間で表面化した軋轢・確執、動画配信サイトやSNSで繰り返された舌禍に加えて、10代の少女に対する性的暴行疑惑が致命傷となり、現役の継続すら危ぶまれる苦境に追い込まれた。

単なるプロモーターの範疇に止まらない献身的なサポートで、まさに危機的な窮状からカシメロを救い出し、戦う場所を提供してくれただけでなく、近況を伝える継続的な動画配信が奏功して、トラブルメイカーの悪しきイメージ払拭にも尽力する石井一太郎会長(横浜光)と伊藤雅雪が、寄る辺の無くなった元3冠王の厚い信任を得たのは当然の成り行きではある。


石井会長と伊藤の2人が、カシメロの訴訟について丁寧に現状を調査した上で、自らカシメロを連れ立ってフィリピンへ飛び、ビザの申請と取得まで手伝った直接的な動機は、キャリアの第4コーナーを回った赤穂に、文字通りのラスト・チャンス,ビッグ・チャンスを与えたかったからであり、けっしてカシメロのカムバックを強力に後押しする為ではない。

カシメロの実情を映像で公開したのは、MPプロモーションズの現代表,ショーン・ギボンズ(トップランクとメキシコのサンフェルでマッチメイクを任されていた人物)の執拗な妨害工作への対抗策の一環も兼ねている。パラダイス・シティでの旗揚げ興行を、必要以上に邪魔されたくなかった。

すべての苦労は赤穂の為だったのだが、それが却って良かった。「あわゆくば・・・」との下心がまったく無かった訳ではないだろうが、赤穂が負けた場合の保険をチラつかせなかったことが、カシメロ・ファミリーの信頼につなっがったのだと思う。

1年4ヶ月ぶりのリングで、カシメロは存分に躍動した。L・フライ,フライ,バンタムの3階級を制覇した豪打と踏み込みのスピードは、122ポンドのS・バンタムでも健在。長いレイ・オフの影響をまったくと言っていいほど感じさせない。

5発のラビットパンチは余計だったけれど、凄まじい迫力と勢いで一気呵成に赤穂をねじ伏せてしまう。我と我が身を滅ぼしかけた一連のトラッシュトークは、必ずしも妄言とは言い切れない。2階級で4団体統一を本気で狙う井上尚弥にとって、カシメロは未だ難敵と成り得ることを証明した。

◎カシメロのインタビュー映像
カシメロ凱旋試合 on U-NEXT
A-SIGN BOXING公式チャンネル


ナミビアから遠路遥々やって来たローカル・チャンプは、27歳の黒人パンチャー。詳しい来歴は不明だが、2017年9月に6回戦でデビューしている。この初陣をを判定で失った後、12連勝(11KO)をマーク。

ただし、リング誌に掲載された記事によれば、「アマチュア時代に国外への遠征を経験しており、Boxrecのレコードには載っていないが、ジンバブエではプロとしても戦った。」とのこと。

※リング誌の記事
FILLIPUS NGHITUMBWA LIKES HIS CHANCES AGAINST EX-CHAMP JOHN RIEL CASIMERO IN PHILIPPINES
2023年5月10日
https://www.ringtv.com/652738-fillipus-nghitumbwa-likes-his-chances-against-ex-champ-john-riel-casimero-in-philippines/

映像や写真で見る限り、身長は165センチの公称よりも高く感じられる。この階級としては、けっして小さくはないとの印象。

ナミビアはガーナと南アフリカに次ぐ優秀なプロボクサーの輩出国で、アマチュアが盛んなこともあって、痩身の黒人選手は一般的にボクサータイプが主流。

しかし、ウンギタンバ(ンギーチュバ,ギタンバ等カナ表記は色々)は違う。好戦的なスタイルを採り、ガンガンプレッシャーをかけて思い切り良く強打を振るう。これまでのところは、それで問題のない水準の相手ばかりと見ることもできるけれど、1発の切れ味と上下にまとめるコンビネーションはなかなかの見もの。

その気になればちゃんとボクシングもできるのだろうが、とにかく倒して勝つことを主眼にして、強引かつ荒削りな打撃戦を辞さない強気のファイトが持ち味。”エナジー(Energy)”のあだ名は伊達ではなく、そういう意味でカシメロとは手が合うタイプと考えていい。

◎ウンギタンバのインタビュー映像
Are you knocking out Quadro Alas Casimero? 100% - Filipus Nghitumbwa | Exclusive Interview
Power Sports


左右のストレートは長い射程と一般的な中間距離のどちらも鋭く、「届かないだろう」と安心していると、予期せぬディスタンスから予期せぬタイミングで着弾する。右→左の打ち終わりに軸足を入れ替えて、オーソドックス・スタンスで右を返す芸も有り、調子に乗せると厄介なことになりそう。

想像以上に賢く思慮深いカシメロのことだから、おそらく抜かりはないと思うけれど、ローカル・チャンプの「間合いと踏み込みの速さ」には充分な注意が必要。

1発の破壊力は当然カシメロだが、適度な出はいりで駆け引きに集中されると、クレバネスが裏目に出て膠着し易いのも3冠王の特徴の1つ(ジョナス・スルタンに喫した判定負けは典型例)。

ナミビア期待のローカル・チャンプが、普段通りイケイケの積極策で行くのか、それとも慎重に距離を取りながら丁寧にセットアップして行くのか。

そのどちらで来られたとしても、カシメロには潰し切るだけのパワー&スピードがある筈。赤穂戦で持ち直した評価を確固たるものとする為にも、内容の伴ったKO(TKO)勝ちがどうしても欲しい。


直前の賭け率は以下の通り。欧米のファンに過小評価されがちなカシメロらしさとも取れるし、ナミビア人への過大評価との見方も成り立つ微妙な数字。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
カシメロ:-333(約1.30倍)
ウンギタンバ:+250(3.5倍)

<2>Bet365
カシメロ:-351(約1.28倍)
ウンギタンバ:+250(3.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
カシメロ:7/4(2.75倍)
ウンギタンバ:23/10(3.3倍)
ドロー:14/1(15倍)


仮にウンギタンバがしぶとく粘り強いボックス(クリンチ&ホールドによるインファイト潰し込み)を選択しても、今のカシメロならむざむざ名をなさしめることはないだろうし、ブンブン振り回してくれれば即決勝負への期待が高まる。判定,KO(TKO)のいずれにしても、カシメロの勝利は堅い。

「(ウンギタンバ)はいい選手だ。でも、オレはレベルが違う。」

いつものようにオレ様キャラ全開で前景気を煽るカシメロ。万が一にも間違いはないと信じているし、ホーム・アドバンテージに頼るようなチキンとは対極・間逆のメンタリティの持ち主だが、地元の安心感が悪い方向に出ないよう、ゆめゆめ油断は禁物・・・と、またまた要らぬお節介の発動・・・。


◎ウンギタンバ(27歳)/前日計量:121.6ポンド
戦績:13戦12勝(11KO)1敗
アマ戦績:不明
身長:165センチ
好戦的な左ボクサーパンチャー


◎カシメロ(34歳)/前日計量:121.6ポンド
前WBOバンタム級(V4/はく奪),元IBFフライ級(V1/返上),元IBF J・フライ級(V4/返上:暫定→正規昇格),元WBO J・フライ級暫定(V0)王者
戦績:36戦32勝(22KO)4敗
世界戦通算:16戦13勝(10KO)3敗
身長,リーチとも163センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量(Powcast Sports)


※別映像
CASIMERO VS NGHITUMBWA OFFICIAL WEIGH IN VIDEO
Filipino Boxing TV
https://www.youtube.com/watch?v=-ivZEIBqgeA


◎リング・オフィシャル:未発表

WBO立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC)


主なアンダーカード


ハイメ・ムンギア(WBO王座挑戦),ティム・ジューと対戦した国内S・ウェルター級の雄,井上岳志(たけし/ワールドスポーツ/33歳/19勝11KO2敗1分け)が、保持するWBOアジア・パシフィック王座の防衛戦。

挑戦者のウェルジョン・ミンドロ(比)は、すべてKOの10連勝で勢いに乗る23歳のヤング・ボーイ。

Boxrecに身体データが記載されておらず、具体的な数値はわからないが、一見すると185センチ級の大型選手。パンチはそれなりに重く威力もありそうだが、はっきりスピード&シャープネスに欠ける。いわゆる”ドスン・パンチ”。

ショートアッパーを上手に突く器用さも垣間見せるものの、パンチは全体に大振りで粗く、打ち終わりの処理も甘い。計量後のリバウンドも含めたサイズのアドバンテージのみで押し切る大味なボクシング。


公称183センチのムンギアには、先制の左右とステップワークに阻まれ後手を踏み続け、何とか自分の距離に入るとクリンチ&ホールドで接近を潰される展開を打開できなかった。

ムンギアよりは背の低いティム・ジューには、計量後のリバウンドで生じた上半身の厚みの違いがそのままフィジカル・パワーの差となってしまい、左から入るところを左右で迎撃され、真っ直ぐ下がるところを強打で追撃される悪循環。

けっして上半身は硬くはないのに、頭と肩を振りながら上手く相手のうち懐に潜り込むことができない。昭和の優れた和製中量級の中には、輪島功一を筆頭に体格に恵まれない選手がほとんど。

がしかし、彼らは上体を柔らかく使う術を学び、踏み込みのスピードに磨きをかけ、飛び込むタイミングと角度に変化をつけて韓国のつわものたち(すっかり没落した現在の層と質は見る影も無い)と渡り合い、技術と工夫で世界との勝負に備えた。


井上が同じリズムとパターンで単調な正面突破を繰り返すだけだと、ムンギア,ジューにやられたテツをまた踏まされるリスクは小さくない。

幸い(?)なことに、ミンドロはまだまだ修行途中のグリーンボーイであり、流石にこの段階の相手に金星の献上は許されないだろう。


メキシコでデビューして帰国後、再び北米圏に足場を戻したフライ級,花田歩夢(21歳/10勝8KO1敗1分け)が、105ポンド時代の京口紘人に挑戦した経験持つヴィンス・パラス(比)と8回戦で対決。

170センチ超のタッパを持つ花田は、体格面で大きな優位に立つ。パーラも2019年以降は1分けを挟む5連勝(4KO)で戦績は安定しているが、明白なリードを保ったまま、5~6ラウンドまでには終らせたい相手ではある。


大商大のボクシング部で主将を務めたアマ51勝15敗の池側純(角海老/25歳/4勝1KO2分け)は、石田匠(井岡),清水聡,天笠尚らとの対戦経験を持つ中堅,カルロ・デメシーリョ(比)とS・バンタム級8回戦を予定。

初の海外遠征を白星で飾り、キャリアに弾みをつけたいところ。


「オカダ・マニラ」について



日本のパチンコ・パチスロメーカー,アクロス等を傘下に収める「ユニバーサル・エンターテイメント」が開発を手掛けた、いわゆるIR(Integrated Resort:統合型リゾート」。2017年3月にグランド・オープンしたばかり。

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ネーミングの「オカダ」は、「ユニバーサル・エンターテイメント」の創業者,岡田和生(おかだ・かずお)に由来すると思われるが、現在の代表者(CEO兼CIO)である富士本淳(ふじもと・じゅん:ゲーム機メーカー「セタ」の創業者/後にユニバーサル・エンターテイメントの子会社となり2011年に親会社の社長に就任)らによって追放された(2017年/会長職を解任)。

993室の客室と500席のカジノ・テーブル、約3千台のスロットマシンを設置し、和・洋・中は勿論、比国の伝統的なメニューを提供する多数の高級レストラン、高級ナイト・クラブ、トップ・ブランドを含めた大規模なショッピング・モール、フィットネスやリラクゼーション等々の施設を網羅する。


そして、エンターテイメントの中核を担う数千人規模のライヴ・イベント会場こそ、本場アメリカでラスベガス・スタイルの興行を実体験した、新興のボクシング・プロモーター,伊藤雅雪(元WBO J・ライト級王者)のターゲット。

共同プロモートの契約を交わしたボブ・アラム率いるトップランクのキャッチ・コピー、「This is Boxing,This is Top Rank」に触発され、「本物のボクシングを追求・提供する」との志を掲げた伊藤は、巨大カジノ・ホテルをベースにした「ラスベガス・スタイル」の興行に取り組む。

その心意気を形で示したのが、韓国のパラダイス・シティでやった旗揚げ及び第2弾のイベントであり、すべては身から出たサビとは言え、様々な苦難を承知の上で四面楚歌(?)のジョンリエル・カシメロを引っ張り出し、キャリア最終盤を向かえた手勢のエース,赤穂亮にぶつけた。

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私個人は積極的な賛成派でもなければ、何でもかんでも反対のどちらでもないが、日本国内に本格的なIRがあったならば、おそらく伊藤はそこを活動の拠点に据えて旗を上げ、徐々に東~東南アジアへと勢力を拡げる計画を立てたのではないか。

おそらくだが、シンガポールの「マリーナベイ・サンズ(晩年のクリス・ジョンを主役にして複数回のボクシング興行を打った)」と「リゾート・ワールド・セントーサ」、ゾウ・シミンを獲得したトップランクが進出を目論んで頓挫した「ヴェネチアン・マカオ」も、伊藤は視野に捉えていると推察する。

当然のことながら、それらの先には王国アメリカへの本格的な進出という最終的な大目標、帝拳グループですら到達し切れていない遥けき大望があるに違いない。


◎関連サイト
<1>OKADA MANILA(ユニバーサル・エンターテイメント公式サイト)
https://www.universal-777.com/corporate/business/okada-manila/

<2>ユニバーサル・エンターテイメント公式サイト
https://www.universal-777.com/corporate/

<3>会社概要(ユニバーサル・エンターテイメント公式サイト)
https://www.universal-777.com/corporate/company/about/

PPVセールス・キングの帰還 /期待値ゼロの暫定王者に勝算有り? - カネロ vs ライダー ショートプレビュー -

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■5月6日/エスタディオ・アクロン,グァダラハラ/4団体統一世界S・ミドル級タイトルマッチ12回戦
4団体統一王者 カネロ・アルバレス(メキシコ) VS WBO暫定王者 ジョン・ライダー(英)





2度目となるL・ヘビー挑戦に大失敗してから早や一年。昨秋組まれた復帰戦で不惑のGGGにS・ミドル級契約を呑ませて、5年越しの因縁に決着を着けたことにしたカネロは、ファンが熱視線を送り続けるデヴィッド・ベナビデスには目もくれず(?)、毎年恒例の「シンコ・デ・マヨ決戦」に選んだ相手は、WBOの暫定王座を保持するイングランド人。

「正規 vs 暫定」のWBO内統一戦・・・という体裁を取り、筋道は通っているかのように見えるが、WBOが暫定王座を認めるに至った経緯そのものに問題があることは、あらためてお断りするまでもない。

何かと比較されることの多い、”J・C・スーパースター”ことフリオ・セサール・チャベスは、米本土で行う防衛戦の合間に数多くのノンタイトルを母国でこなし、休みなくリングに上がり続ける”戦うチャンピオン”だった。

数あるチューンナップの中には、世界最大規模の闘牛場とされるプラサ・デ・トロス(メキシコシティ/カネロ vs シントロン戦もここで行われた)でやった6試合(フランキー・ランドールとの第3戦を含む)も含まれるが、メキシコ国内のタイトルマッチで一番有名なのは、アステカ・スタジアムに13万人超の観客を動員したグレッグ・ホーゲン戦(1993年2月20日)だろう。

会場として用意されたエスタディオ・アクロンは、2010年夏にオープンした近代的なスタジアムで、地元のフットボール・クラブ,CDグアダラハラ(チーパス・グァダラハラ)の本拠地(5万人規模の収容を誇る)。


前売りのチケットは完売が伝えられており、前日計量にも多くのファンが参集した模様。DAZNが配信するPPVセールスにも大きな数字が期待されている。

”おらがスーパースター”を一目見ようと会場の外に集まったカネロ・フリークたちが、治安維持の為に配備された警官と小競り合いを起こしたらしく、熱量もレッドゾーン(古い)を突破する勢い。

◎CHAOS! CANELO MOBBED BY FANS AND POLICE IMMEDIATELY AFTER HIS WEIGH-IN VS JOHN RYDER
※「暴徒化」まではしていないように見えるが確かに危険な状況



武漢ウィルス禍の甚大な影響に直撃されたDAZN(サッカー中継が収益基盤)から、全世界を驚嘆させた超大型契約(5年間・11試合総額3億6500万ドル/当時のレートで約410億円)の見直しを打診された際、10年以上の長きに渡ってプロモートを任せてきたゴールデン・ボーイ・プロモーションズとの関係を清算したカネロは、マッチルームUSAと接近した。

ホームタウンのサッカー・スタジアムで完全復活を強力にアピールしたいチーム・カネロの要望に応えて、オスカー・デラ・ホーヤの後釜に納まったエディ・ハーンが、手勢の暫定チャンプを生贄に差し出したという次第。

スポーツブックのオッズも大きな差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
カネロ:-1600(1.0625倍)
ライダー:+800(9倍)

<2>betway
カネロ:-1408(約1.07倍)
ライダー:+1000(11倍)

<3>Bet365
カネロ:-900(約1.11倍)
ライダー:+1613(17.13倍)

<4>ウィリアム・ヒル
カネロ:1/20(1.05倍)
ライダー:8/1(9倍)
ドロー:25/1(26倍)

<5>Sky Sports
カネロ:1/16(1.0625倍)
ライダー:10/1(11倍)
ドロー:33/1(34倍)


Bet365の17倍は異常値に近く、よからぬ不正工作の匂いが香ばしく立ち込めなくもないが、英国の2大ブックメイカーとMGMは適正と思われる数字に落ち着いている。

2年余り前のアヴニ・イルディリム戦以来となる即決KOを確実視する声が上がる中、「いや、そこまで簡単な相手じゃない。消化試合だと思ってナメてかかると厄介なことになる」との反論も。

そんな挑戦者ジョン・ライダーは、2010年の秋にプロの初陣を飾ったベテラン。首都ロンドンの北部にあるディストリクトの1つ、エミレーツ・スタジアム(アーセナルのホーム)を持つイズリントンの出身で、マッチルームを率いる若き辣腕エディ・ハーンから主力選手を任され続けてきたトレーナー,トニー・シムズがコーナーを守る。

アマチュアの戦績は少ないけれど、シニア・ノーヴィス(senior novice:19歳以上のデビュー直後の選手を対象としたクラス)のABA(世界最古の歴史を有するイングランドのアマチュア統機関)選手権で優勝している。


デビュー戦はミック・ヘネシー(イングランドで活動する代表的なプロモーターの1人)の興行だったが、トレーナーのトニー・シムズが直接手掛けるローカル興行で修行を積んだ。

マッチルームの有力選手を継続的に預かるようになったシムズが、お抱えと言っていい状態になる2012年頃から、エディ・ハーンの仕切りで戦うようになる。

余り感心しないニックネーム(The Gorilla)とは裏腹に、近代ボクシング発祥の地,英国伝統のボクサーファイトを引き継ぐ、勇敢でクリーンなサウスポー。

12年超のキャリアで喫した5度の敗北は、世界を獲る前のビリー・ジョー・サンダースとの地域&国内王座戦、同じイングランドの中堅どころ,ニック・ブラックウェルにアタックした国内王座戦、ブラックプールの人気者ジャック・アンフィールドとのローカルスター対決、ロッキー・フィールディングとの国内トップ争い、それに続くカラム・スミスのWBAタイトル挑戦。

7回TKOで敗れたブラックウェル戦以外はすべて判定決着で、いずれも善戦健闘の惜敗。ワンサイドで打ち負けたケースはただの一度もない。一見するとコワモテだが、リングを離れれば温厚実直そのものの人柄で、規律と節制にも不足無し。


米国進出という親子二代の夢を果たし、王国で足場を固めようと日々奮戦中のエディ・ハーンが、過大な要求(?)に手を焼き頭を悩ませた挙句、遂に御しかねてデメトリアス・アンドラーデを放出したのは、ちょうど1年前,昨年5月のことだった。

苦労をして試合を組んでも、「あそこが痛い、ここが痛い」とダダをこねて、怪我が治ったと思えば「ゼロの数が違う(報酬の金額)」とつむじを曲げてソッポを向く。

「オレ様が望んでいるのは、こんな安いカードじゃない。契約した時の景気のいい話はどうなった?。カネロとGGGは?。ベナビデスは?。仕事が遅過ぎる。すぐに決めろ。それがプロモーターの務めだろ?」

ビッグマネー・ファイトの実現に向けて粘り腰の難しい交渉を重ねる中、例え無敗の世界チャンピオン経験者でも切る時は切る。これまでの苦労は水の泡だが、ボクシングに限らずビジネスはすべからく厳しい。

ましてや実入りが少なく、持ち出し覚悟の興行も少なくないローカル・ランカーが、これだけ国内&地域王座戦で失敗を繰り返したら、どれほど情深いプロモーターでも普通は手を引く。同胞というファクターを加味する必要はあるものの、バックアップを惜しまずチャンスを作り続けたのもわかる気がする。


◎ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)


◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=tz7F9Rj7Rec


得意とするパンチは右フック。クロスレンジで打ち合いを仕掛けつつ、ショートでスカっと打ち抜く。昨今極めて見る機会が減った、”右で効かせるサウスポー”としても、貴重な存在。

左ストレート(ワンツー)から返す基本のパターンはもとより、右のリードをフックに変えて飛び込んだり、左右のストレートでボディを狙うフェイントから、外よりの軌道でスウィング気味に振るなど、10年選手に相応しい芸の細かさにも磨きがかかってきた。

オーソドックスの右強打を誘って、一瞬速く踏み込みカウンターを取る感覚にも優れたものがあり、難航不落のライト級でガッツ石松とともに世界に名乗りを挙げた悲運のレフティ,我らが門田新一の決定力には及ばないものの、キラリと光る魅力がある。


ベーシックな攻防の技術と経験に不足はなく、戦績も安定していて、どんなタイプと戦ってもしっかり試合を作り大崩れしない。積極果敢なインファイトもやれば、手堅くまとまったボックスもそれなりにこなす。

惜しむらくは、突出した武器がないこと。パワー,スピード,テクニックのいずれにおいても平均点のスコアに留まってしまい、キャリアを左右する重要なタイトルマッチを勝ち切れない。地域&国内王座の壁に阻まれてしまう。

”ローカル・ランクの上位止まり(失礼)”の典型例とも言えるが、そんな中堅選手がある日突然、目覚しい勝利をモノにするのもボクシング。”円熟”という名の、小さな奇跡が訪れる。


ライダーの場合は、2018年5月のジェイミー・コックス戦(コモンウェルス・ゲームズ金メダリストに2回KO勝ち)であり、鮮やかな3回TKOで初渡米を成功させたビラル・アカウェイ(豪州期待のプロスペクト/WBA暫定王座決定戦)戦だ。カラム・スミスへの挑戦を引き当てたのは、この2勝があったればこそ。

さらに昨年2月12日、アレクサンドラ妃の名前を冠した地元の展示会場(1万人規模)で、ダニー・ジェイコブスを僅差の2-1判定に退ける。文字通り、キャリア最大の勝利と表するべき大番狂わせ。

こうして昨年11月、トップ・アマ出身組みで無敗のザック・パーカーを4回終了負傷TKOで破り、デメトリアス・アンドラーデに振り回される格好で二転三転したWBOの暫定王座に就いた。


秀逸なスピード&集中力に加えて、鋭い反応を如何なく発揮する序盤のカネロに、自慢の右を炸裂させるのは正直難しい。強引(中途半端)に打ち込んでも素早くかわされ、瞬間的にまとめて打ち返すリターンのコンビネーションでみすみすポイントを献上するだけ。

焦って攻め急いだところで、強烈な左ボディを効かされ、右の”ボラード(メキシコ伝統のフック系の強振)”であえなく撃沈・・・という結末になりかねない。

だがしかし、距離とタイミングに充分気を付けながら、上手に出はいりを繰り返しつつ前半戦をしのぐことができれば、カネロのスタミナと集中が切れだす中盤以降、ライダーにも一筋の光明が見えて来る。

後半~終盤にかけてのスタミナは、若い頃から一貫して変わらないカネロの課題(ウィークネス)。完勝したとされるGGGとの第3戦でも、8ラウンド以降のカネロはスローダウンが目立ち、アベレージのボクサーファイターになりかけていた。


勝敗と決着のラウンド数はともかく、”アウェイの中のアウェイ”,”究極のオン・ザ・ロード”の真っ只中で、PPVセールスキングに一泡吹かせて欲しい。

大輪の檜舞台は無理にしても、プロ13年目に陽の目を見たリアルなビッグ・ファイトが、無残な公開処刑と化さないことを願う。

◎カネロ(32歳)/前日計量:167.5ポンド
現WBA(V5),現WBC(V4),現IBF(V2),現WBO(V3)S・ミドル級王者
前WBO L・ヘビー級(V0/返上),前WBCミドル級(第2期:V1/返上),前IBFミドル級(V1/返上),WBAミドル級スーパー(V1/返上),元WBC S・ウェルター級(V6/WBA王座吸収V0),元WBCミドル級(第1期:V1/返上),元WBO J・ミドル級(V0/返上)王者
戦績:62戦58勝(39KO)2敗2分け
世界戦通算:22戦19勝(11KO)2敗1分け
アマ通算:不明
※20戦,44勝2敗など諸説有り
2005年ジュニア国内選手権優勝
2004年ジュニア国内選手権準優勝
※年齢・階級等詳細不明
身長:175センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター


◎ライダー(34歳)/前日計量:168ポンド
現WBOS・ミドル級暫定(V0),元WBA同級暫定(V0)王者
元英国(BBBofC British)同級(V0)王者
戦績:37戦32勝(18KO)5敗
ABA(全英)シニア・ノーヴィス(Senior Novice)選手権ミドル級優勝
アマ戦績:30勝5敗
身長:175センチ,リーチ:183センチ
左ボクサーファイター


◎前日計量



◎前日計量(フル映像)
Matchroom公式チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=BHZnADR_Zfg


◎オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
ジョー・パスクァーレ(米/ニュージャージー州)
ジェレミー・ヘイズ(カナダ)
ヘラルド・マルティネス(プエルトリコ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ヒルベルト・メンドサ
WBC:マウリシオ・スレイマン
IBF:ダリル・ピープルズ
WBO:フランシスコ・パコ・バルカルセル
※会長4名が勢揃い。168ポンドで堅調な内容と結果が続く限り、仮にPED騒動を繰り返す破目に陥ったとしても、カネロのVIP待遇はまだまだ続く。

タンク vs キング /軽中量級の勢力図を左右する大一番が実現 - G・ディヴィス vs R・ガルシア ショートプレビュー -

カテゴリ:
■4月22日/T-モバイルアリーナ,ラスベガス/S・ライト級(136ポンド)契約12回戦
WBAライト級正規王者 ジャーボンティ・ディヴィス(米) VS 元WBCライト級暫定王者 ライアン・ガルシア(米)


Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Press Conference Highlights


※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンスhttps://www.youtube.com/watch?v=Py32E_OqlBw


ライト級の今後を左右する対決が、いよいよ本番当日を迎えた。

契約ウェイトの136ポンド(135ポンドのリミット上限+1ポンド)について、既に140ポンドのS・ライト級で試運転を終えているガルシアに不利な条件を譲らなかったことについて、批判的な意見が聞こえて来るのは仕方がない。

3階級制覇の看板欲しさに、ディヴィスも1試合だけ140ポンドで戦っている。2年前の2021年6月、S・ライト級のWBAレギュラー王座を持っていたマリオ・バリオスに挑戦して、11回TKOに屠っている。

公称183センチのバリオスは、同じく178センチのガルシアよりさらに大きい。がしかし、フィジカル・パワーはともかく、バリオスにはガルシアに匹敵するスピードと1発の破壊力がなかった。


サイズに加えて、抜きん出たスピード&1発(左フック)を併せ持つガルシアと、140ポンドでやる選択肢はない。ウェイト・ハンディ無しでは戦えないと、ディヴィスは自ら公言したに等しい。

135ポンドの正規ウェイトでやるとなれば、ディヴィスが保持するWBAレギュラーのベルトが懸かる。135.1ポンド超の契約なら、負けても丸腰にならずに済む。20世紀のチャンピオンは、防衛戦の合間に数多くのノンタイトルを挟んで、チューンナップを兼ねて稼ぐのが当たり前だったが、それらは当然キャッチウェイトであり、実際に負ける場合も少なくなかった。

そこまでベルトに執着しているのか、ディヴィスの本音はよくわからないけれど、「そう見えてしまう」のはこちらもまた致し方がない。


そして、この条件を呑まなければ交渉がまとまらないことをガルシアも十分過ぎるほどわかっていたから、調整の難易度が増すのを承知の上で敢えてリスクを取った。大きなチャンスに大きなリスクは付きもの。「ビッグマネー+確固たるポジション:という大きなリターンを、ガルシアは逃したくなかった。

「(対等な立場だなんて)勘違いするなよ。試合をやるかやらないか、決定権を握っているのはオレ様だ。」

形の上では3階級制覇を達成して、ガンボアとサンタクルス、ホセ・ペドラサにイサック・クルス、そして直近のエクトル・ガルシア(今年1月/9回TKO勝ち)ら、倒した現役・元世界王者は十指に登る。

一方ガルシアの最も大きな戦果は、WBC暫定王座を獲得したルーク・キャンベル(ダウンを挽回して7回TKO勝ち)と、昨年7月に6回KOで蹴散らしたハビエル・フォルトナの2人。世界タイトルホルダーはフォルトナだけだ。


「契約書にサインをした以上グズグズ言うな。負けた時の言い訳には使えないぜ。」

上から目線でガルシアを見下ろすディヴィスが、どうしたってヒールの役回りになる。これは、両雄の外見(失礼)だけの問題ではない。

交渉の開始からアンダードッグの立場に甘んじ続けるしかなく、再戦条項に関わる無理難題(※)だけは譲ることなく、辛抱強く粘りに粘って条件を変更させたデラ・ホーヤが、ファイナル・プレス・カンファレンスで遂に憤懣を爆発させた。

※再戦条項を巡るバトル:「ディヴィス陣営だけが再戦の権利を持つ」との付帯条件に激怒したデラ・ホーヤが強硬に反発。

◎Oscar De La Hoya comes out swinging in the final presser



「I look at Ryan and I know he's ready. I look at Ryan's team and they know he's ready.」

「I look at tank and he looks ready. but when I look at Tank's team's actions throughout the whole promotion, I am left to wonder do they really think this guy is ready.」

「Catch weights and rehydration clauses, late afternoon weigh-ins, all of these small petty requirement points to a team that looks to protect. 」

「Their fighter and why would they protect. Their fighter unless they don't think maybe he's not ready for this moment.」

「Ryan who was so hungry, so willing, so ready, for this stage that he simply said yes to every request no matter what it was.」

「That is a confident fighter.」


ちょっと長いけれど、まとめてみよう(意訳)。

「ライアンと彼のチームは準備万端だ。タンク(ディヴィス個人)も準備万端に見える。だが、タンクのチームはどうだ?」

「キャッチウェイトに始まり、水分補給条項に午後遅い時間帯の計量(前日計量は午後の早い時間帯に行うのが一般的)等々、細かいことをあれこれあげつらう。」

「要するに、タンクのチームは自信がないんだ。まともにやったら勝ち目はない、時期尚早(準備が間に合わない)だってね。じゃなきゃ、過剰なプロテクトの説明がつかない。」

「ライアンはハングリーで、待ち望んできた大きなステージが目の前にあり、準備は整っている。だから、どんな要求にも動じない。答えは1つ(イエス)。即答だった。」

「まさしく、自信に満ち溢れたファイターそのものだ。」


ゴールデン・ボーイの次に演壇に呼ばれたのは、メイウェザー・プロモーションズのCEO,レナード・エラーブ(エラービ:Leonard Ellerbe)。ほんの少しだけとは言え、内幕をバラされてカチンときたのは明らかで、「1000パーセント、タンクがKOで勝つ。1000パーセントだ。」と反論。

◎LEONARD ELLERBE GOES OFF ON OSCAR DE LA HOYA AND RIPS HIM SAVAGELY!



「オスカーには余裕がない。一杯一杯だな(何故そんなにいきり立つ?。自信がないのはお前らだろ?)。」

デラ・ホーヤの過去(女性の下着を着けた写真をバラまかれたスキャンダルと薬物依存の発覚,その後のリハビリ)と、右腕リチャード・シェーファーの造反に端を発した支配下選手の大量離脱(引き抜き)を暗に示唆しながら、「(GBP傘下の)ファイターたちとフロイド(とシェーファー)が逃げ出したのは、お前が眠り(遊び)呆けていたからだ!」とやり返す。

当のエラーブも含めて、触れられたくない過去が1つもない人間などいない筈だが、恥ずかしくも悔しい負い目をモロに突き返されてしまい、憮然とした表情も露のデラ・ホーヤは動揺を隠し切れず、予期せぬ舌戦は傷み分け。


再戦を主張する権利を除き、ディヴィス陣営が出してきた条件をほとんど丸呑みするしかなったゴールデン・ボーイ。どんな内容と結果になるにせよ、どちらが勝ってもリマッチは無いというのが、現時点での率直な印象ではある。

早い時間帯のバッティングとか、互いにヒートアップし過ぎて反則の応酬になった挙句のノーコンテストとか、アクシデントやトラブル絡みでもどうだろう。

良好なPPVセールス(85万件と伝えられている)に気を良くしたスティーブン・エスピノーザ(Showtimeのスポーツ・イベント部門を統括/GBPの元顧問弁護士)が、二匹目のドジョウを狙って両陣営をせっついたとしても・・・?。


ちなみに両選手のギャランティは以下の通り。

・ディヴィス:500万ドル+PPVインセンティブ
・ガルシア:250万ドル+PPVインセンティブ
※PPVインセンティブ:2人の取り分を50-50で折半


HBOのボクシング中継撤退に伴い、スペイン語の放送も行っているESPNではなく、2016年に設立された新興勢力DAZNと手を結んだデラ・ホーヤは、DAZNのバックアップを得て米国進出に打って出たエディ・ハーンと堅い握手を交わし、「PPVは死んだ(時代はサブスク)。」と言い放った。

そのデラ・ホーヤが、ディヴィスの大遅刻(およそ2時間)で幕を開けたキック・オフ・カンファレンス(3月日/N.Y.)の席上、「(ボクシング中継に)PPVの時代が再び戻って来るかもしれない」と述べている。

「いったいどの口で・・・」

舌の根も乾かずとは良く言ったものだが、ケーブルTVを基盤にしたPPVに対するデラ・ホーヤの思い入れは、実はひとかたならぬものがある。

モハメッド・アリ(サッカーの王様ペレとともに)が確立した「衛星中継+クローズド・サーキット」の新しいビジネス・モデルにより、スポーツ・イベントの経済基盤が根底から一変した70年代。

そして80年代初頭、中量級BIG4(レナード,ハーンズ,ハグラー,デュラン)の熾烈なライバル争いを軸に、PPVは本格的なスタートを切る。


ケーブル網の整備と拡充に成否のカギを握られ、まだまだ先行きが不透明だったPPVを、ヘビー級に出現したKOモンスター,マイク・タイソンが爆発的な成功へと導く。

タイソンが試合をやるというだけで、対戦相手に関係なく100万件超の申し込みが殺到。少しでも苦戦が予想されたり、ファンの耳目を集める強敵・難敵とのマッチアップになると、セールスは200万件に迫る勢いを見せた。

タイソンのギャランティは天文学的な数字にまで跳ね上がり、アリがそうだったように、オポーネントに支払われる報酬もウナギ上りにアップ。しかし、最大の後ろ盾だった高齢のカス・ダマトをプロ入りまもなく失ったタイソンは、気代の悪女(?)ロビン・キヴンズとの結婚(あっという間に離婚)に続き、ダマトが忌み嫌ったドン・キングの策略に絡め取られるや否や、あっという間に短い全盛を滑り落ちる。

そしてアイアン・マイクの後を引き継いだのが、バルセロナ五輪(1992年)のボクシング米国代表チームに唯一の金メダルをもたらし、ボブ・アラムのスカウトに応じて鳴り物入りで登場したデラ・ホーヤだった。

PPVの旨味と過酷(巨額のギャラと引き換えに実力者との連戦が続く)、光と影を存分に味わい尽くしたデラ・ホーヤは、フロイド・メイウェザー・Jr.とマニー・パッキャオの2人に敗れてその座を譲り、実戦のリングを去っている。


裏切り者(デラ・ホーヤから見れば)のシェーファーの手引きで、ウェルター級を中心とした大量のトップボクサーをGBPから引き抜いたアル・ヘイモンは、Showtimeの強力な支援を背にPBCを立ち上げた。

HBOがボクシングから手を引くからと言って、Showtimeに鞍替えすることはできない。その場合、ESPNが唯一と言っていい選択肢になるのだが、かつて蜜月の関係だったアラムが一足早く話をつけてしまう。

収益の多くをサッカー中継に依存していたネット配信のDAZNは、幸いなことにボクシングにも積極的で、大看板になり得るスターを探していた。ヘビー級のアンソニー・ジョシュアを保有するエディ・ハーンを引き込むと、メイウェザーからPPVセールス・キングの座を継承した中量級の雄,カネロ・アルバレスに目を付ける。

中心選手を根こそぎもって行かれたデラ・ホーヤだが、米本土におけるカネロのプロモート権は手放していなかった(現在は離反)。ESPNも喉から手が出るほどカネロを欲しがったと思うが、世界中を驚嘆させた超努級の大型契約を提示したDAZNで決着。


「夢よもう一度・・・」

デイヴィス vs ガルシアの着地(経済的な成否)次第になるけれど、あわゆくばShowtimeとの元サヤも有りか。デラ・ホーヤの気持ちがグラグラ揺れ動いたとしても、単順性急な批判は憚られる。

◎ALL ACCESS: Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Ep 1



という訳で、この対戦を本気で模索し始めた両陣営は、「2023年最大のイベント,メガ・ファイト」だと喧伝してきた。

ファイナル・プレッサーの冒頭、PBCを代表するプロモーター,トム・ブラウンは、この試合をかつての「ハグラー vs ハーンズ」になぞらえた上で、「我々はハグラー(ディヴィス)を持っている」と胸を張った。

幾ら何でもこれは言い過ぎ。大注目のカードではあるが、ハグラーとハーンズに肩を並べるのはおこがましい。


網膜はく離を理由に引退したレナードが、3年に及ぶブランクにもかかわらず、ハグラーへの挑戦(未経験のミドル級への増量)を決める際、使用グローブからリングのサイズに至るまで、徹底的な条件闘争に明け暮れる。

とりわけこだわったのがラウンド数。スタミナに不安を抱えるレナードは、当時WBCだけが独断専行していた12ラウンド制にこだわった。

「王様か独裁者にでもなったつもりか?。何から何まで自分の思い通りにならなきゃ、オレとは戦えないってわけだ。ボクシングは男と男の勝負だとオレは思ってきたし、今もそれは変わっていない。だが、ヤツはそうじゃなかったってことさ。ヤツのいいようにすりゃあいいさ。オレは試合さえできればそれでいい。何でも言ってくれ。全部OKだ。」

半ば呆れ顔でハグラーはそう語っていた。


生涯の宿敵ファン・M・マルケスに衝撃的なKO負けを喫するパッキャオを目撃して、ようやく対決に舵を切ったメイウェザーの条件闘争も酷かったが、ディヴィスも確実に男を下げた。トム・ブラウンは根本的に間違っている。

ハーンズを3ラウンドで破滅させたハグラーのように、ガルシアを圧倒して欲しいという願望はわかるが、あれこれ条件を付けた側のディヴィスが、徹頭徹尾のアウェイに追いやられたハグラーであっていい訳がない。

今回のディヴィスは、てんこ盛りのホーム・アドバンテージに浴したハグラー戦におけるレナードであり、パッキャオ戦を承諾したメイウェザーの立場になる。優位なポジションと影響力をこれでもかと総動員して、負けない為の環境を徹底して作り上げる。

ラスベガス(メイウェザー一家の総本山)での開催は、環境作りの最も重要な根幹。メイウェザーさながらの安全運転に徹するディヴィスを見る可能性は、絶対にないと断言し切れない。

スポーツブックのオッズは、キック・オフ当初から一貫してディヴィス。直近の数字をご紹介しておく。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
デイヴィス:-200(1.5倍)
R・ガルシア:+175(2.75倍)

<2>betway
デイヴィス:-211(約1.47倍)
R・ガルシア:+195(2.95倍)

<3>Bet365
デイヴィス:-230(約1.43倍)
R・ガルシア:+135(2.35倍)

<4>ウィリアム・ヒル
デイヴィス:2/5(1.4倍)
R・ガルシア:19/10(2.9倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
デイヴィス:2/5(1.4倍)
R・ガルシア:2/1(3倍)
ドロー:20/1(21倍)


◎ALL ACCESS: Gervonta Davis vs. Ryan Garcia Ep 2



肝心の試合展開だが、ディヴィスはバリオス戦と同じやり方を採る公算が大。長身のオーソドックスが打ち下ろすワンツーを待ち、引き手の戻りに合わせて鋭く飛び込み、下から左右のストレートを刺し込み、独特かつ強烈なアッパーをカチ上げる。

◎試合映像:マリオ・バリオス戦ハイライト



S・フェザー時代のパワープレス一辺倒ではなく、出はいりのボクシングを基本にして、前後左右に良く動きながらガルシアの左(フック,ジャブ=生命線)をかわしつつ、全盛のパックマンよろしく迷いなく一気に踏み込んで強打を打ち込む。

煩い出はいりとクリンチ&ホールドによる時間潰しを繰り返し、ガルシアをイラつかせて攻防が粗雑になるのを待ち、カウンターのタイミングとチャンスを拡げて行く。KOするにこしたことはないが、僅差判定でも全然OK。

内容がどうであれ勝てばいい。後は勝ち逃げを決め込むだけ。接近した展開のまま12ラウンズを終えて、ファンと関係者から判定に文句が付いて、ガルシアとデラ・ホーヤが何をどう言おうが知ったこっちゃない。


そしてアンダードッグのガルシア。こちらは、直近のフォルトナ戦が格好のケース・スタディ。

速くて強い左リードを数突いて、小柄なサウスポーの接近を簡単に許さない。単発ではなく、ダブル・トリプルでガードの内・外を打ち分ける中、瞬時に必殺の左フック(自慢のサンデーパンチ)に切り替える。

2018年10月から合流したチーム・カネロとの関係を清算し、アメリカを代表するベテラン・トレーナーの1人,ジョー・グーセン(今年度の殿堂入り/2014年に64歳で早逝したプロモーターのダン・グーセンは実兄:ダンも2020年に殿堂入り)を新たなチーフに招いたガルシアは、左腕を下げるヒットマン・スタイルを修正。

しっかりガードを保持する時間を増やし、制空権を維持する為に、ディフェンスの軸に据えてきた小さ目のスウェイ(単なる癖?)だけでなく足で外す手間も惜しまない。


ステップアウトする際に両腕を長く伸ばす癖があり、同時にそれがワイドに広がってしまい、相手に反撃を許すきっかけになっていた。ルーク・キャンベルに喫したダウンも、このウィークネスを抜け目なく狙われている。

◎試合映像:ルーク・キャンベル戦ハイライト


大柄なキャンベルにはサイズのアドバンテージが普段通りに機能せず、距離を見誤った(平均的な135~140パウンダーならパンチが届き切らない/同じディスタンスでもキャンベルは届く)感もあるが、ガードを保持したままステップバックするか、真っ直ぐ下がらずに左右どちらかに回り込んでいれば、左ストレートを顎に貰わずに済んでいた。

グーセンはこの点も見逃すことなく、ちゃんと手をつけている。伸ばすにしても左腕1本だけにして、右の拳を顔(頬)の前でしっかりキープするようになった。


ただし、上半身の力だけで右ストレートを強振する悪癖は、フォルトナとやった時点(昨年7月)では手付かず。

しっかり下半身から踏み込んで打つなら問題はないけれど、足の位置をそのままにして、右のパンチをブンと振ってしまう。身長差があるお陰で、並みのローカル・ランカーならヒットして倒すこともできるが、一定の経験と攻防の基本が身に付いた相手にはかわされる場面も目立つ。

上体だけで振っているから、身体が硬直して顎が上がり、打ち終わりにそのまま右の拳が流れて、引き手も戻らない上に軸がブレてオフ・バランスになり易い。ディヴィス相手にこれを頻発すると、左ストレートか左右のアッパーで間違いなくやられる。

ガードをコンパクトに保って、ジャブをしっかり突けている間は、そう簡単にディヴィスも入っていけない。タンクは右フックも強いけれど、シャープネスに注力したジャブを続けていれば、まともに食う恐れはないだろう。


勿論、ディヴィスのディフェンスにも不安はある。強靭なフィジカル&パンチング・パワーだけでなく、スピード&アジリティにも優れたディヴィスは、最高水準ではないものの、黒人特有の柔軟性も兼ね備えており、「眼と勘」が守りの基本。

ハイリスクなクロスレンジに留まる時も、カバーリングに使うのはほとんど左腕のみ。昔に比べてレフティが増えたと言っても、主流はあくまで右構えだから、オーソドックスの右強打を対策する為に用いる。

堅実なブロック&カバーではなく、眼と勘(反応)の良さが必須となるローリング&スリッピング、上体のボディワーク(深いダックとスウェイ込み)で相手の攻撃をを外しながら、隙あらばリターンとカウンターを見舞うオールド・スクールのボクシング。


そしてさらに、いいパンチを貰うと打ち返さずにはいられない。本当に強いボクサーは例外なく気も強いが、強引に行ってもいい状況なのかどうか、一旦立ち止まって俯瞰し直す冷静さが極めて重要になる。

階級を上げるに従い、イケイケの荒ぶるディヴィスにも、経験値に相応しい慎重さが見られるようになった。それでも倒し続けている点は、もっと評価されて然るべき。

スリリングな打ち合い・倒し合いは、それこそプロボクシングが表現し得る最高の醍醐味ではあるけれど、安全策(見境のないクリンチ&ホールドではなく)との切り替えができるボクサーは、必要に応じて躊躇なく使い分けした方がいい。

無駄に打たれ(せ)ていい事は1つもないし、ダメージも残さない方がいいに決まっているからだ。何でもバランスが大事という話しになるが、動いている間のボディ・バランスにおいても、黒人だけに許された身体能力の高さが強味になる。


ただし、下から飛び込まなければならないディヴィスは、打ち込む際にどうしても顎が上がりがちになる上、ブロック&カバーに頼らない守りは大きな穴になり易い。

細身のエクトル・ガルシアだけでなく、背格好の変わらないイサック・クルスにも、一度ならずその穴をこじ開けられそうになり、コーナーとファンの肝を冷やした。ガルシアに同じことをやったら、命取りになる確率が格段に増す。

拙ブログの予想は、大きな大きな期待値を込みでキング・ライ。どうにかして僅少差の判定勝負に持ち込みたいが、それだと十中八九タンクに凱歌が挙がる。ガルシアが判定で勝つ為には、明白過ぎるぐらいのリードが必要。

そうなると、必然的に複数回のノックダウンが不可欠になり、ならばいっそKO(TKO)でとなってしまう。一進一退のシーソーゲームから徐々にガルシアが抜け出し、名だたる黒人ファイターたちのお株を奪う、アッパーとフックの中間軌道を通る左を放ち、決定的な場面を作って欲しい。


◎デイヴィス(28歳)/前日計量:135.1ポンド
現WBAライト級正規(V4),元WBA S・ライト級(V0/返上).元WBA S・フェザー級スーパー(第1期:V2/第2期:V0:返上),元IBF J・ライト級(V1/はく奪:体重超過)王者
戦績:28戦全勝(26KO)
アマ通算:206勝15敗
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
ナショナルPAL優勝2回
ナショナル・シルバー・グローブス3連覇(ジュニア)
ジュニアオリンピック優勝2回
※アマ時代(シニア)のウェイト:バンタム級
身長:166(168)cm/リーチ:171(175)cm
※Boxrecの身体データが修正されている/()内はM・バリオス戦当時の数値
好戦的な左ボクサーファイター


◎ガルシア(24歳)/前日計量:135.5ポンド
元WBCライト級暫定(V0),元WBCライト級シルバー(V1)王者
戦績:23戦全勝(19KO)
アマ通算:215勝15敗
2016年ユース(U19)全米選手権優勝(ライト級)
2015年ユース(U19)全米選手権ベスト8(ライト級)
2014年ジュニア(U17)全米選手権準優勝(フェザー級)
身長:センチ,リーチ:センチ
右ボクサーファイター


■前日計量


■前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=ECw2Ax8lToo


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■リング・オフィシャル:未発表


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■キック・オフ・プレス・カンファレンス
<1>3月8日/ニューヨーク
https://www.youtube.com/watch?v=wVtznbT4904

<2>3月9日/ロサンゼルス
https://www.youtube.com/watch?v=I-9mu65I4sE

カテゴリ:
■4月16日/国立代々木競技場第二体育館/IBF世界M・フライ級暫定王座決定12回戦
前王者/IBF3位 レネ・マーク・クァルト(比) VS IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)



それにしても、酷い試合だった。

お断りするまでもないが、年明け早々に行われた銀次郎の初挑戦である。ダニエル・バラダレスは二線級のなんちゃってチャンピオンに過ぎないけれど、とにかくバッティングが心配な”当たり屋”である。

だとしても、自分から当たりに行ったのが銀次郎の首で、ぶつけられた方はピンピンしているのに、硬いところに衝突していない筈のバラダレスが、眩暈の為に戦えないと言い出す始末。

まあ、百万歩譲ってそれはいい。トチ狂っているのは、バラダレスの試合放棄を取らずに、テクニカル・ドローにしてしまう運営側だ。挙句の果てがノーコンテストへの修正・・・これはもう、渡嘉敷勝男 vs ルペ・マデラ第4戦に匹敵する酷さと言うしかない。

厚顔無恥を決め込むIBFもダイレクトリマッチを認めるしかなかったけれど、今度はバラダレスが「怪我が治らない」とグズり出す。救いようがないとはこのことだ。

結果的にメキシコでバラダレスにベルトを強奪されたクァルトにチャンスが与えられたのだから、災い転じて福と為ったと喜ぶべき。性根の腐った二流・三流はもう結構。


クァルトは正攻法のボクサーファイターで、軽快なステップとまとまりの良い攻防を持ち味にしつつ、強打の交換にも怯むことがない。そしてフィリピン伝統の柔軟なボディワークも受け継いでいる。

最軽量の105ポンドとしては、けっしてパンチが無いという訳ではないが、決定力と前後の直線的なスピードは銀次郎が上回る。だとしても、受けに回った時の懐の深さとしぶとさを侮ると、適時下がるクァルトに上下のハードヒットを上手くかわされ、逆にカウンターを食らう恐れが皆無ではない。

重岡兄弟が得意にするボディの応酬は、クァルトも大いに望むところ。早い時間帯で正面切って打ち合いに出るのは、いささかリスキー。スタートから勢いに乗りたいのはヤマヤマだが、慎重かつ丁寧にクァルトの出方と動きを読むことも必要。


直前のオッズは銀次郎推し。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
クァルト:+300(4倍)
銀次郎:-400(1.25倍)

<2>betway
クァルト:+280(3.8倍)
銀次郎:-400(1.25倍)

<3>Bet365
クァルト:+300(4倍)
銀次郎:-450(約1.22倍)

<4>ウィリアム・ヒル
クァルト:3/1(4倍)
銀次郎:2/9(約1.22倍)
ドロー:14/1(15倍)


銀次郎以上に筋力に頼って強振する癖があり、敢えて打ち合いに誘い込んで粗くなるところを狙う手も勿論ある。銀次郎なら、それぐらいの仕掛けは朝飯前(?)。

ただし、銀次郎もどちらかと言えば硬い方なので、まともに相打ちされるのが恐ろしい。万が一の状況に陥る危険性が付いて回る

圧力をかけ続ける展開に持って行くだけなら、さほどの手間も労力も要らないと思う。問題なのは、そこから流れを切り拓く手順。崩しの手間を省く、短兵急な攻め急ぎはまずい。

簡単に勝たせては貰えないことを前提に、序盤は深追いに気を付け、セットアップのやり直しを厭わないこと。そして、入念な崩しの手際の披露に期待したい。


◎クァルト(26歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
前IBF M・フライ級王者(V1)
戦績:26戦21勝(12KO)3敗2分け
アマ戦績:不明
身長:156センチ
リーチ:156.8センチ
首周:36センチ
胸囲:88センチ
拳囲:左26.3/右26.2センチ
視力:左1.5/右2.0
右ボクサーファイター


◎銀次郎(23歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
戦績:8戦全勝(6KO)
アマ通産:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153.5センチ
リーチ:154センチ
首周:37センチ
胸囲:86.5センチ
拳囲:左右とも25センチ
視力:左1.0/右1.2
※計量時の予備検診データ
血圧:120/79mm/Hg
脈拍:64/分
体温:36.3℃
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:フランク・ガルサ(米/ミシガン州)

副審:
トーマス・ナルドーネ(米/フロリダ州)
マルコム・ブルナー(豪)
エド・ピアソン(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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