”ルーガルー”のピンチヒッターは世界選手権ベスト8の元トップ・アマ - プログレイス vs ソリージャ ショートプレビュー -
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■6月17日/スムージー・キング・センター,ニューオーリンズ(ルイジアナ州)/WBC世界S・ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 レジス・プログレイス(米) vs WBC20位 ダニエリート・ソリージャ(プエルトリコ)
王者 レジス・プログレイス(米) vs WBC20位 ダニエリート・ソリージャ(プエルトリコ)
※ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=in6PYGXHvq8
アウェイのロンドンに赴き、WBSS(World Boxing Super Series)の決勝でジョシュ・テーラー(英)とぶつかり、0-2のマジョリティ・ディシジョンで惜敗したのが2019年の秋。
スポーツブックのオッズも含めて、プログレイスに傾く前評判を引っくり返されたプロ初黒星のショックは小さからぬものがあり、米国内でのリマッチ開催を強く望んだが、武漢ウィルス禍によって活動そのものを阻まれる。
ベン・ディヴィソン(ビリー・ジョー・サンダース,リー・ウッドらのコーナーを歴任/タイソン・フューリーとデヴィン・ヘイニーもサポートしたトレーナー)とともに戦った修行時代、テーラーは正攻法のボクサーファターだった。
どちらかと言えば、センシブルなイン&アウトの完成形を目指しているように見えたが、プログレイス戦では危険なクロスレンジに留まり、丁々発止の白兵戦で一進一退の拮抗した展開を切り抜けている。
サイズのアドバンテージと耐久力が明暗を分けた格好なのだが、試合が決まった時からデイヴィソンとテーラーが準備・意図していたものなのか、とにかくアグレッシブなプログレイスを捌き切れず、打ち合いに応じるしかなくなり、結果的に吉と出た瓢箪から駒なのか、その点はイマイチ判然としない。
カテラルとのリマッチに向けて昨年10月デイヴィソンと決別し、アマチュアのトップ選手から指導者になったジョー・マックナリー(デヴィッド・ヘイのコーナーでコーチ修行)をチーフに迎えて体制を一新した。
もともと打ち合いを嫌うタイプではなかったけれど、プログレス戦の勝利によってテーラーのファイトスタイルがより好戦的になったのは確かであり、トレーナーが変わっても方向性は同じ。待機型のサウスポー,カテラルとの相性の悪さ、不器用と言っても差支えがないほどの修正力の不足は、ロマチェンコ級のスピード&シャープネスを前面に押し出したテオフィモにも苦杯を喫する要因となった。
捲土重来を期すプログレイスは、ニューヨークにオフィスを置く著名なプロモーター、ルー・ディベラの下で戦ってきたが、復帰に際して関係を解消。WBSSの米国サイドを仕切った(?)リチャード・シェーファーとの契約を公表した。
シェーファーが最初に立ち上げたリングスター・スポーツではなく、新たに興したプロベラム傘下に収まり、ジャーボンティ・ディヴィス vs レオ・サンタクルス戦(2020年10月31日/アラモドーム/テキサス州サンアントニオ)のアンダーカードで無名のメキシカン・アメリカンを3ラウンドで撃破。
まさしく戦友と表すべきトレーナー,ボビー・ベントンとの信頼関係は変わらず、攻撃的なスタイルもそのままに、1年ぶりの復帰戦を飾って健在を示す。
WBSSの優勝者となったテーラーは、同じくパンデミックの影響で実戦から遠ざかるも、プログレイスより1ヶ月早くリングに戻り、近藤明広(一力)をショッキングな5回KOで蹴散らし、指名挑戦権を獲得したタイのドウヌア・サックリーリン(アビヌン・コーンソーン)を初回2分2分41秒の即決KOで退け、評価をさらにアップする。
140ポンドのS・ライト級に限らず、WBSSを完全に無視・黙殺したボブ・アラム(井上尚弥は大橋会長との共同プロモート/米国外では大橋会長が主導権を持つ)が支配下に置き、強力にバックアップするWBC&WBOの2冠王ホセ・カルロス・ラミレス(米)との4団体統一戦が具体化。
翌2021年5月22日、ラスベガスのヴァージン・ホテルズでの開催がまとまり、世界中のファンが注視する中、テーラーが2度のダウンを奪って3-0判定勝ち。テレンス・クロフォード続いて、140ポンド史上2人目の4冠制覇に成功。
ただし、2度のノックダウンにも関わらず、オフィシャル・スコアは3名とも114-112の僅少差を付けていた。ラミレスのホーム・アドバンテージを考慮する必要はあるにせよ、ダウンが1回だけだったなら、逆の結果も充分に有り得た接戦には違いがない。
クロスレンジで不可抗力を装い(?)、肩や肘を使った細かいバッティングを繰り返し、時にはラミレスの足を踏むなど、プロの裏技を躊躇なく使うテーラーの割り切り(居直り)に対する批判もあったけれど、主審を仰せつかったケニー・ベイレスが減点に踏み切れない、ギリギリのラインを行き来する狡賢さが、敵地での判定勝ちを引き寄せたとも言える。
テーラー vs ラミレス決定の一報を黙って聞くしかなかったプログレイスは、ラスベガスで4団体統一戦が挙行される1ヶ月前(2021年4月)、ジョージア州アトランタで組まれたローカル興行に出陣。
勧進元のプロモーターはシェーファーではなく、映画プロデューサーが本業のライアン・カバノーで、マイク・タイソンとロイ・ジョーンズのエキシビジョンで一儲けを企てたトリラー(Triller)のイベントである。
対戦相手のイヴァン・レドカッチは、ウェルター級をホームグラウンドにするカリフォルニア在住のウクライナ人で、契約ウェイトは143ポンドだったが、180センチ近いウクライナ人との体格差を心配する声も聞かれた。
しかし、プログレイスは一回り大きなレドカッチをスタートから攻め立ててペースを握り、第6ラウンドに強烈な右ボディをヒット。たまらず前のめりにうずまくるレドカッチは、ローブローの反則を主張。
ライヴ配信を行うFITE(トリラーが運営するデジタル・プラットフォーム)が、スローで問題のシーンをスクリーンに再生すると、疑う余地のないクリーンヒットと判明。ところがどっこい、開催地ジョージア州から選出された主審ジム・コーブは、レドカッチのアピールを受け入れ5分間の休憩を指示。
完全に戦意を喪失したレドカッチが再開に応じる筈もなく、ウクライナ人のコーナーが担架を要請して、さっさとリングから降りてしまう。本当にダメージから回復できなかったのかもしれないが、「反則勝ちを拾いに行った」と見られても仕方がない。
主審の裁定通りならプログレイスの反則負けになるが、元王者のコーナーも当然抗議を行い紛糾。追い詰められた格好の立会人(アトランタを所管するジョージア州のコミッションから派遣されている筈)は、あろうことかテクニカル・ディシジョンを採択した。
リング上に残っているのはプログレイス1人。一般的なプロボクシングのルールに従うなら、第3ラウンド終了のゴングが鳴った時点で試合は完全に成立。
WBCのように第4ラウンドの開始ゴングを必要と定める場合も有り得るが、この試合に関して言えばそれもクリア。ノーコンテストやノーディシジョンにはできない。なおかつ、地元選出のレフェリーの誤審も認めたくない。
国と地域,人種が違ってもお役人の考えることに大差はなく、どちらの面子も立つようにと、その場しのぎの愚行に及ぶ。
反則パンチ(完全な誤審)で退場を余儀なくされたのに判定負け。まるで意味不明な結末が許されるほど王国アメリカの良心は腐り切っておらず、ジョージア州のコミッションは1週間ほど経ってから負傷判定を取り消し、プログレイスのTKO勝ちに改める。
首尾良く(?)反則勝ちを拾った筈のレドカッチは、思惑が外れた上に半端ないバツの悪さを味あわされ、プログレイス戦を最後にリングに上がっていない。引退してもおかしくない年齢(37歳)ではあるけれど、こういうことを1回でもやってしまうと、プロモーターに敬遠されても文句は言えない。
この後プログレイスは、2度目の長期ブランクに入る。容易に勢いの止まらないパンデミックが最大の要因だが、プロモーターとして影が薄くなるばかりのシェーファーの手腕にチームとして不安を覚えたことも確かだ。
アル・ヘイモン一派のシェーファーと手を結んだのは、PBC勢がひしめくウェルター級進出を睨んでの決断であり、テーラーとの再戦も147ポンドでの交渉になると見込んだからでもある。けれども、カテラルとの再戦にこだわりを見せるテーラーは、なかなか147ポンドに上がろうとしない。
テーラーが140ポンドでグズグズしている間は、ハンドリングするトップランクとの交渉を難しくするだけで、事態の進展を期待するのは時間の無駄。なおかつPBC勢が少ない140ポンドでは、統一戦(ファンの注目度が高いビッグマネー・ファイト)の実現はおろか、世界戦を組むことそのものが簡単ではないと、遅ればせながら気付いたからである。
戦線離脱は11ヶ月に渡り、昨年3月19日に実現した公式戦は中東ドバイへの遠征となった。観光資源の1つとして、潤沢なオイル・マネーでラスベガス・スタイルのカジノ付き大型リゾートを推進する王族は、音楽イベントとともにボクシング興行の誘致にも積極的で、オスカー・デラ・ホーヤの右腕としてゴールデン・ボーイ・プロモーションズの隆盛を支えたシェーファー(スイス出身/エリート銀行家から転身)が、面目を躍如する仕事で逆襲に打って出たという構図。
メイン・イベントは、WBCフライ級王座を保持するサニー・エドワーズ(英)の防衛戦。パキスタンの元トップ・アマ,モハメド・ワシームとのマッチアップを仕組んだのは、オイル・マネーとのタッグを積極果敢に推し進めるエディ・ハーン。
プログレイスの相手に、傘下のアイリッシュ,タイロン・マッケンナをあてがったのもハーンである。主催プロモーターの看板をシェーファーに譲った上で、興行の現場をとりまとめていたのはマッチルームだったという次第。
ベルファストからやって来たベテラン中堅を6回TKOに下して大いに気勢を上げたが、熱望して止まないテーラーとの再戦が実現に向かう気配はなし(当然の成り行き)。
そうこうしているうちに、ウェルター級参戦をぶち上げながらとにかく動きの遅い4冠王者テーラーが、こだわっていた筈のカテラルとのリマッチをグズりながら、次々と3つのベルトを放棄。いずれも指名戦を拒否したことが原因で、WBO1つを手元に残して先週のテオフィモ戦を迎えている。
そして先日、伏兵ジャック・カテラル(英)との防衛戦で付けたミソを拭うことなく、140ポンド最強の評価を自ら手放した挙句、虎の子のWBO王座もテオフィモに奪われてしまった。
UAEから戻ったプログレイスは、シェーファーとの契約切れを待ちつつ、マッチルームUSAに急接近。ドバイ滞在中にハーンと何らかの接触があったのは間違いなく、WBCから指示されたホセ・セペダとの決定戦を7週間後に控えた昨年10月、正式契約の締結が公となった。
新しい体制で臨んだセペダ戦を、目論み通りのKO決着(最終盤の11回でストップ=開催地のカーソンを所管するカリフォルニア州ルールではKO)で締め括り、3年ぶりに世界のベルトを巻いたプログレイスは、衰えることのない王座統一への野望のみならず、テーラーとの再戦が決まるなら、147ポンドのウェルター級契約でも構わないと言い放つ。
WBCは1位セペダと2位プログレイスに決定戦を承認するのと同時に、3位に付けるホセ・カルロス・ラミレスに指名挑戦権を認めている。
決定戦の勝者には、ラミレスとの初防衛戦が漏れなく付いて来るという訳で、メキシカンとメキシコ系の人気選手厚遇が常態化したWBCらしい。しかしながら、WBCが決定戦&指名戦を同時に通告した時、プログレイスのプロモート権はシェーファーにあった。ラミレスを保有するトップランクは、早々に挑戦を辞退。
交渉そのものを拒否されたシェーファーに為す術はなく、プログレイスとマッチルームの逢瀬は自ずと加熱・加速した。
WBCから選択戦を容認されたプログレイスに、マッチルームが用意したチャレンジャーは、23戦全勝(14KO)のレコードを誇るランク3位リアム・パロ(豪)。
そしてそのパロも、アキレス腱の負傷を理由にキャンセルしてしまい、スクランブル発進に応じたのが、バルボサに負けた経験を持つプエルトリコのソリージャ(英語圏ではゾリーヤと発音されることが多い)という流れ。
「アーノルド・バルボサ(米/28戦全勝10KO)と平岡アンディ(大橋)にオファーを出したが、(時間的な制約の為に)上手くまとまらなかった。」
WBC20位のランキング(他の3団体はランク外)が示す通り、ソリージャは国際的にはほとんど無名と言って良く、タイトル歴もWBOのローカル王座のみ。ロートルのガマリエル・ディアス(粟生隆寛から大番狂わせでWBC S・フェザー級を奪取した元王者)と、すっかりベテランになったパブロ・セサール・カノ(メキシコ)戦が最大の戦果。
引退したロッキー・マルティネス(元WBO J・ライト級王者)がコーナーを守り、プロモーターとして活動するミゲル・コットのバックアップを受けている。
スポーツブックの賭け率は10倍を超えており、万馬券扱いも止むを得ない状況だが、世界選手権でベスト8に入ったアマ・エリートで、ボクシングの上手さと安定感は侮れない。バルボサ戦も右ストレートを浴びてグラつく7ラウンドまでは、拮抗した展開を作って善戦していた。
惜しむらくは、フィジカル&パンチのパワー不足。押し込まれると後退するしかなく、アマチュアライクなひ弱さが目立ち、力で押し返す気迫がいかにも物足りない。恵まれたタッパとせっかくの技術を、十二分に活かし切れない恨みが残る。
勘に頼るディフェンス(恒常的なガードの低さ)と、攻撃一辺倒のボクシングが災いして攻防のキメが粗くなり、テーラーのフィジカルの強度と体格差に潰れてしまったプログレイスだが、上でも下でも、とにかくまともに当たれば効いてしまう決定力は一級品。
スタイルの相性を考えると、プログレイスが中盤~終盤にかけてストップを呼び込むと見るのが妥当。ソリージャが判定まで逃げ切ったとしても、安全策でセーフティリードをキープする姿は想像しづらい。
◎プログレイス(34歳)/前日計量:139ポンド
戦績:29戦28勝(24KO)1敗
アマ通算:87勝7敗
2012年ロンドン五輪代表候補
2011年全米選手権ベスト4
階級:ウェルター級
身長:175センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター
◎ソリージャ(29歳)/前日計量:139ポンド
戦績:18戦17勝(13KO)1敗
アマ戦績:192勝16敗
2016年リオ五輪米大陸予選ベスト8
2015年世界選手権(ドーハ/カタール)ベスト8
※ウッティチャイ・マスク(タイ)に1-2で惜敗
2015年パン・アメリカン選手権(バルガス/ベネズエラ)銀メダル
※決勝でキューバのヤスニエル・トレド(ロンドン五輪ライト級銅メダル)に0-3判定負け
2014年中米・カリブ海大会(ベラクルス/メキシコ)銀メダル
※決勝でヤスニエル・トレドに1-2判定負け
2014年国内選手権優勝
以上,L・ウェルター級
2013年パンアメリカン選手権(サンティアゴ/チリ)ライト級銅メダル
身長:175センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター
※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=eeYtaXoFaiA
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■リング・オフィシャル:未発表