神々の階級に挑む 1 /「虎と戦うわけじゃない」 - A・クルス vs 三代大訓 プレビュー Part 2 -

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■6月14日/MSGシアター,N.Y./IBF世界ライト級挑戦者決定12回戦
IBF3位 アンディ・クルス(キューバ) vs IBF5位 三代大訓(横浜光)

アンディ・クルス/右:三代大訓

◎東京五輪の覇者に集まる高過ぎる期待と不安
武漢ウィルス禍による甚大な被害を受け、1年遅れの開催となったオリンピックで、米国期待のキィショーン・ディヴィス(プロ・デビュー済み)を4-1のポイントで破り、見事金メダルの栄誉に輝いたアンディ・クルスは、米ロ及び旧ソ連を形成した旧共産圏とともに、アマの頂点を競い続けるキューバが輩出した新たな異能・異才。

2年おきに開催される世界選手権でも、2017年~2021年まで3大会連続で金メダルを獲っている他、パン・アメリカン・ゲームズや中米カリブ大会、パン・アメリカン選手権等々、出場した国際大会のほとんどで優勝している。

「出ると負け」ならぬ「出れば金」状態なのだが、キューバの国内選手権でも2016~2019年まで、L・ウェルター級で4連覇。我が国の柔道と同様、キューバにおけるボクシングは、「五輪と世界選手権のメダルより、ナショナル・チームに入る方が大変」と言われるほど競争が激しい。

申告されたアマチュア・レコードは、149戦140勝9敗。200~300戦の猛者がゾロゾロいるアマのトップクラスの中では、むしろ少ない部類に入る。ジュニア・ユースの時代から、突出した才能と将来性を認められていたということか。


黒人特有の高い身体能力(特に敏捷性)に依存した、異常なまでに発達した反応&反射が最大の特徴で、2000年シドニー~2008年北京までの8年間、2分×4ラウンド制を背景にアマの世界を席巻した”タッチ&ラン”を基本に、「打たせずに触れる」ボクシングを貫く。

ざっくりと言ってしまえば、ギジェルモ・リゴンドウと同じ方向性。ただし、ディフェンス第一主義に凝り固まり過ぎてしまい、プロモーターとファンの支持を失ったリゴンドウを反面教師にしたのか、プロ転向後のクルスは意識的に攻撃性を増している。

その分不用意な被弾がまったく無い訳ではないが、重大なトラブルに見舞われることもなく、2023年7月、長谷川穂積と繰り広げたWBCフェザー級王座決定戦での激しいバトルが懐かしい、37歳になったファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)をワンサイドの10回3-0判定に下し、首尾良く初陣をまとめ上げて以降、ここまで5戦全勝(2KO)を維持継続中。


史上最速となるプロ2戦目での世界奪取を目論んだロマチェンコも、初戦でいきなり10ラウンズを戦っているが、挑戦する以上世界ランキングに入らなければならず、ボブ・アラム率いるトップランクはWBOの下位ランカーを調達して、ローカル・タイトルを獲らせている。

実父バリー・ハーンから興行会社を引き継ぎ、短期間で英国最大のプロモーションにリ・ビルドしたエディ・ハーンは、必ずしもアラムに倣った訳ではないだろうが、ブルゴスとのデビュー戦にIBFのインターナショナル・タイトルを用意。

2~4戦目までの3試合すべてを防衛戦にして、承認料と引き換えにランク・アップを図り、直近(今年1月)の5戦目では、またまたWBAがデッチ上げた「コンチネンタル・ラテン・アメリカ」なるベルトも獲らせた。

◎直近の試合映像
A・クルス 10回3-0判定(98-92×2,99-91) オマール・サルシド(メキシコ)
2025年1月25日/コスモポリタン・ラスベガス



やや近めの中間距離で駆け引きを続けたら、三代にまず勝ち目は無い。得意のジャブを当てる事自体が難しく、空転させられるのがオチ。ならば一気に距離を潰して、密着したまま白兵戦に持ち込めるのか言えば、それもまた容易ならざる展開。

シャクールになぶりものにされた吉野修一郎、テオフィモ・ロペスに対する善戦と、フェリックス・ヴェルデホから挙げた大金星(9回TKO勝ち)がウソのように、ロマチェンコに蹂躙された中谷正義の悪夢が二重写しになって蘇る。

サイズのアドバンテージを頼りに、思い切って遠めのミドルレンジをベースラインにしつつ、無理に当てる必要はないから、前後左右の動きを止めずに軽めかつショートのジャブ&ワンツーを突き続けて、焦れたクルスが出て来るのを待ち、1発勝負の右カウンターに懸ける手も無くはない。

クルスの反射&反応のスピードは確かに図抜けているけれど、ボディワークとブロック&カバーの腕前は、ニコリノ・ローチェ,パーネル・ウィテカー,ウィルフレド・ベニテス,ロベルト・デュランら、史上に名高いディフェンス・マスターたちの水準には届かず、まったく手も足も出ない最悪のシナリオを回避できる可能性はある。

手厳しいブーイングを浴びることになりかねないが・・・。


戦前のオッズは、当然大差で金メダリストを支持。ただし、想像していた程の開きはない。まだ6戦目で底が見えていない、見せてくれていないとの杞憂(?)、経験値に対する懸念に加えて、プロとしての説得力にイマイチ欠けるとの主張も一部にはある。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
A・クルス:1600(約1.06倍)
三代:+660(7.6倍)

<2>betway
A・クルス:-1408(約1.07倍)
三代:+750(8.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
A・クルス:1/14(約1.07倍)
三代:13/2(7.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
A・クルス:1/10(1.1倍)
三代:10/1(11倍)
ドロー:28/1(29倍)


「巧い。凄い。だけれども・・・」という訳だ。

無尽蔵のスタミナで膨大な手数を出し続け、一瞬たりとも止まることなく、イナズマのように速く鋭いステップで大胆に出はいりを繰り返しながら、相手を圧倒してギブアップに追い込むロマチェンコのような強さとは明らかに違う。

「そりゃ違うよ。だって、クルスはロマじゃない。求める方が間違っている。」

その通り。公称175センチのタッパは、実際のところもうちょっと低そう。リゴンドウが見せた呆れるほどの接近戦回避は、破滅的な打たれ脆さゆえの止むを得ない対策でもあったのだが、「ひょっとしたら、同じ理由がクルスにもあるのでは?」といぶかる者もいる。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
2025年6月12日/マッチルーム公式
https://www.youtube.com/watch?v=F4JW9cZVlYU

◎ySM Sporys による直前のインタビュー



あくまでプロ5戦の現在地における、まったく個人的な見解でしかないけれど、9割方の確率で三代は勝てないと思うし、4本に分かれたライト級のベルトのうち、クルスならどれか1つは必ず獲れる筈だが、スーパースタークラスに登り詰めることができるかと問われたら、そこは躊躇せざるを得ない。

プロの世界チャンピオンになれないまま、キャリアを終えたメダリストもたくさんいる。ヤン・バルテルミーとイェフゲン・キトロフは、天才の評価を得ていたにもかかわらず、修行段階で大きくつまづきメインを張ることすらできなかった。

三代が勝機を見い出すのは極めて難しく、客観的かつ冷静に戦力と素質の差を見つめれば、良くやったとしても一方的大差の判定負け。中盤~後半にかけてのストップも想定の範囲内になってしまう。


◎クルス(29歳)/前日計量:135ポンド
戦績:5戦全勝(2KO)
アマ通算:140勝9敗
■2020年東京五輪ライト級金メダル
■世界選手権
2021年ベオグラード(セルビア)金メダル
2019年エカテリンブルグ(ロシア)金メダル
2017年ハンブルク(独)金メダル
※階級:いずれもL・ウェルター級
2015年ドーハ(カタール)バンタム級ベスト8敗退
※銅メダルを獲得したドミトリー・アサナウ(ベラルーシ)に0-3ポイント負け
■ユース・ジュニア世界選手権
2012年ユース(イェレバン/アルメニア)L・フライ級ベスト8敗退
※決勝でアフマダリエフを破って金メダルを獲得したル・ビン(中国/プロ:4勝2敗と苦戦中)に13-16で惜敗
■パンアメリカン・ゲームズ
2019年リマ(ペルー)L・ウェルター級金メダル
2015年トロント(カナダ)バンタム級金メダル
■セントラル・アメリカン&カリビアン・ゲームズ(中央アメリカ・カリブ海競技大会)
2018年バランキージャ(コロンビア)L・ウェルター級金メダル
■パンアメリカン選手権
2017年(テグシガルパ/ホンジュラス)L・ウェルター級金メダル
■2024年キューバ vs フランス対抗戦(ヴァラデロ/キューバ)
五輪2大会(2016リオ・2020東京)連続銀メダルのソフィアン・ウーミア(プロ:6戦全勝3KO)に0-3ポイント負け(L・ウェルター級)
■キューバ国内選手権
2016年~2019年まで4年連続優勝(L・ウェルター級)
2014年バンタム級準優勝
※決勝でロベイシー・ラミレスにポイント負け
身長:175センチ
右ボクサー


◎三代(30歳)/前日計量:134.6ポンド
前日本ライト級王者(V2/返上),元OPBF S・フェザー級王者(V4/返上)
戦績:19戦17勝(6KO)1敗1分け
アマ通算:57戦41勝(4RSC・KO)16敗
松江工業高→中央大(主将)
2012年度インターハイ(北信越かがやき総体・新潟市体育館)/ライト級ベスト8
※優勝した李健太(り・ごんて/大阪朝鮮高級学校/現日本S・ライト級王者)にポイント負け
身長:177(179)センチ
※()内:Boxrecの身体データ訂正・更新済み
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=56qb2Wot3sg


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□リング・オフィシャル:未発表


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◎試合映像:アマ時代
<1>東京五輪ライト級決勝
A・クルス 4-1 K・ディヴィス
2021年8月8日/両国国技館


金メダルを得てガッツポーズ/東京五輪表彰式

<2>2019年パン・アメリカン・ゲームズ L・ウェルター級決勝
A・クルス 4-1 K・ディヴィス
2019年8月2日/リマ(ペルー)
https://www.youtube.com/watch?v=AGw8MbU6qmk

<3>2017年世界選手権L・ウェルター級決勝
A・クルス 5-0 イクボルヨン・ホルダロフ(ウズベキスタン)
2017年9月2日/ハンブルク(独)
https://www.youtube.com/watch?v=do1KjvnOy-w

<4>2015年パン・アメリカン・ゲームズ バンタム級決勝
A・クルス 3-0 エクトル・ルイス・ガルシア(ドミニカ)
2015年6月8日/トロント(カナダ)
※ガルシア:元WBA S・フェザー級王者(ラモント・ローチに大善戦して再評価)



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◎メイン及び主なアンダーカード

IBF J・ウェルター級王座に就いたリチャードソン・ヒッチンズ(27歳/19戦全勝7KO)が、元統一ライト級王者ジョージ・カンボソス・Jr.(豪)の挑戦を受ける。

ラッセル3兄弟の三男,ゲイリー・アントワンとリオ五輪代表の座(L・ウェルター級)を争い敗れた後、ルーツのハイチ国籍で代表権を獲得。リオの本番でまたもやゲイリー・アントワンとぶつかり惜敗し、無念の帰国を余儀なくされた後、マッチルームUSAと契約してプロ転向。

昨年6月の初挑戦(空位のWBC S・ライト級王座を懸けてA・プエリョに1-2判定負け)に失敗したゲイリー・アントワンを横目で睨みながら、半年遅れてIBF王座に挑んだヒッチンズは、王者リアム・パロ(豪)に首尾良く2-1判定勝ち。140ポンドの赤いベルトを巻く。

同じスプリット・ディシジョンでも、勝ちと負けはイコールで天国と地獄。しかしゲイリー・アントワンもさるもの。今年3月1日、ブルックリンの新名所バークレイズ・センターで行われたジャーボンティ・デイヴィス vs ラモント・ローチのセミ格で、メキシコの攻めダルマ,イサック・クルス相手に番狂わせを起こしたホセ・バレンズエラを大差の3-0判定に退けてWBAの王座に就いた。

ゲイリー・アントワンへの雪辱は勿論、WBC王者プエリョ(プエジョ),WBO王者テオフィモとの統一戦を視野に入れ、何としても負けられない初防衛戦に迎えた挑戦者は、ライト級の元統一王者で、140ポンドに鞍替えしたカンボソス。

世界中をアっと言わせたロマチェンコ攻略の直後、上から目線で粗っぽく攻め急ぐテオフィモから先制のダウンを奪い、しつこいインファイトに巻き込んでWBCを除く3本のベルト(+リング誌王座)を手中にしたまでは良かったものの、初防衛戦でデヴィン・ヘイニーに中~大差の0-3判定負け。ダイレクトリマッチもワンサイドの0-3判定で落としたカンボソスは、マネージャーとのトラブルが訴訟沙汰に発展。

無冠となった2023年は、7月のマイナー団体IBO王座戦のみで終わり、判定を巡って紛糾するオマケまで付く。昨年も5月のロマチェンコ戦(空位のIBF王座決定戦=絶対王者のラスト・ファイトとなる)1試合だけ。試合枯れが続いた。

直前の賭け率は、1対8~10と大きく差が開いている。2021年11月のテオフィモ戦以来、すっきりとした勝利から長らく遠ざかり、今年3月の140ポンド初戦(シドニーで24歳の中堅に12回3-0判定勝ち)でも、何の工夫も無く真っ直ぐ入って被弾を許す悪癖は手付かずのまま。

公称ではカンボソスより5センチ背が低い筈のローカル選手よりも、明らかに一回り以上小さく体格差が目立った。イマイチ冴えないパフォーマンスでファンを満足させるには至らず。

気が付けば年齢も31歳。階級アップによるコンディショニングへの影響も、プラスに働いているとまでは言い難く、「ピークアウトしてしまったのでは?」と、地元ファンの間からも寂しい声が聞かれ出したカンボソスの現状を思えば、これもまた致し方のないところ。

直前のオッズは、概ね1対8~9のワンサイドで黒人チャンプに傾く。

良くも悪くもアマチュア臭さの抜けないヒッチンズを、テオフィモ(175センチを公称しているがカンボソスより少し低かった)同様、得意のタフ&ラフに持ち込んでプレスをかけ続けられれば面白くなるけれど、クリンチワークで接近戦を殺され、後退のステップを詰め切れないと、ジャブ,ワンツーのタッチでポイントを奪われ続けて大差の判定を失いそう。

(おそらくは)良くて170センチそこそこのカンボソス(リーチ:175センチ)にとって、178センチ(リーチ:188センチ)を公称するヒッチンズとのサイズの違いは、文字通り「階級の壁」となって眼前に立ちはだかるだろう。


「無敗のまま10勝してプロボクシングのキャリアを終える」と話す42歳のウェルター級8回戦ボーイ、パブロ・バルデスは、ニューヨーク生まれのドミニカ系移民。麻薬の密売に関わった罪で、2010年~2018年まで8年間服役。うち半分の4年を独房で過ごしたという。

刑務所の更正プログラムでボクシングを選び、トレーニングを続けたバルデスは、出所後の2018年7月にプロデビュー。マブダチ(?)のエドガー・バーランガとのスパーで腕を磨き、武漢ウィルス禍の休止を挟んで積み上げた戦績は、10戦9勝(8KO)1NC。目標にしていた10戦全勝無敗での引退は叶わなかったが、ゴールの10勝目を懸けて8回戦のリングに上がる。

対戦相手のセサール・ディアスは32歳のペルー人で、こちらも9勝(4KO)1敗と戦績はいい。自身初となる米本土登場が殿堂MSG。5千人収容のサブアリーナとは言え、地域限定の遅れてやって来たニューカマーから、内容の伴った勝利を奪うことができれば、”ネクスト・ワン”への道も開ける。

42歳の元受刑者が掲げるもう1つの目標、「ローカルタイトルのチャンピオン」には辿り着けていないが、無事に10回目の勝利をマークしたあかつきには、前言通り永遠にグローブを脱ぐのか、ローカル王座挑戦への可能性を探るのか。エディ・ハーンがGOサインを出しさえすれば、主要4団体のどこでも何かしらのベルトを用意してくれるだろうが・・・。

オーストラリアに出現したヘビー級ホープ,テレモアナ・テレモアナ(27歳)は、198センチ+260~270ポンドの巨漢選手。7戦全勝全KOの余勢を駆って、いよいよ初渡米。同じく9連勝中(6KO)のニューヨーカー,アリーム・ホイットフィールド(35歳/183センチ+230~240ポンド)との6回戦でご機嫌を伺う。


2023年の世界選手権(タシケント/ウズベキスタン)で、復活したL・ミドル級の銅メダルを獲得したインド期待のニシャント・デヴ(24歳/プロ:1勝1KO)が、殿堂MSGで2戦目のリングに上がる。185センチのタッパに恵まれた長身サウスポーは、今年1月25日のラスベガス興行(コスモポリタン/ディエゴ・パチェコとアンディ・クルスがWメイン)でプロの初陣を飾ったばかり。

弱冠二十歳のS・フェザー級ホープ,ザクィン・モーゼス(175センチ/3勝2KO/サウスポー)が、プロ4戦目にして殿堂MSGに進出。全米選手権を3度制したシャクール・スティーヴンソンの従兄弟には、早くも130~135ポンドの2階級制覇への期待が懸かっている。

エディ・ハーンが売り出しに力を入れる18歳のアダム・マカ(英)が、いよいよプロデビュー戦に臨む。ユース&ジュニアで5度の全英選手権優勝(アマ時代の戦績を含めて年度・階級等の詳細は不明)を誇り、欧州選手権でも活躍したというマカは、アルバニア移民の家に生を受け、将来の世界チャンピオンを目指して幼い頃からボクシングに打ち込んできた。

試し斬りの生贄として調達されたのは、ラファエル・カスティーリョ(カスティージョ)という36歳になる無名のニューヨーカー。2勝(1KO)6敗(Boxrecの記載が正確なら)のレコード以上に、身長157センチの小兵が心配の種。レコード載る6戦は、バンタム級×2試合+S・バンタム×4試合。

十中八九3分以内に終わらせる目論みだろうが、1秒でも早くフィニッシュしようと雑に攻め込むと、思わぬ1発を貰ってたたらを踏み、デビュー戦を大失敗したロベイシー・ラミレス(キューバ)のテツを踏みかねない。4回戦はあっという間に終わってしまう。期待の大きさと殿堂MSGの雰囲気に呑まれないよう、メンタルのコントロールが重要になる。

公称175センチの右の本格派は、プロの初陣にバンタム級を選択。「118,122,126ポンドの3階級制覇は確実。何の問題もない。体格的にはライト級まで狙える。5階級制覇も夢じゃない」とほくそ笑むハーンの視線の先には、我らがモンスターの後ろ姿がくっきりと映っているに違いない。

神々の階級に挑む 1 /「虎と戦うわけじゃない」 - A・クルス vs 三代大訓 プレビュー Part 1 -

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■6月14日/MSGシアター,N.Y./IBF世界ライト級挑戦者決定12回戦
IBF3位 アンディ・クルス(キューバ) vs IBF5位 三代大訓(横浜光)

Cruz_Mishiro1

コンビネーション&攻防一体の始祖とされるベニー・レナード、3階級同時制覇のヘンリー・アームストロング、アイク・ウィリアムズ,カルロス・オルティス,”石の拳”ロベルト・デュラン,アレクシス・アルゲリョ,パーネル・ウィテカー.フリオ・セサール・チャベス,シェーン・モズリー,オスカー・デラ・ホーヤ,へクター・カマチョ,フロイド・メイウェザー・Jr.,マニー・パッキャオ,ファン・M・マルケス,テレンス・クロフォード,ヴァシル・ロマチェンコ,そしてジャーボンティ・ディヴィス・・・。

東洋(OPBF)圏が輩出した王者は、数多くの敗北と引分けを糧に史上第1号の栄誉を勝ち取った不屈の雄、まさに”百年に1人の漢男(おとこ)”ガッツ石松、カリスマ辰吉に次ぐ平成のスター畑山隆則、モンゴル出身の第1号王者ラクバ・シン、リング誌伝統のベルトを含む8階級制覇の超天才マニー・パッキャオの4名だけ。

ベネズエラ&日本が共同で創り上げた傑作ホルヘ・リナレス、スーパー及び暫定並立によるWBA正規の小堀佑介(角海老)を含めても、150年に及ぶ近代ボクシングの歴史を通じて僅か6名しかいない。

ヘビー,ミドル,ウェルターの3階級とともに、近代ボクシングの歩みを連綿と紡ぎ、築き上げてきた神々の階級に、今また1人の和製ライト級が挑む。


左ジャブの巧さ(精度&多彩さ)では国内中量級屈指と評すべき存在であり、前後左右に刻む細やかなステップワークとの連動を最大の武器に戦う三代大訓(みしろ・ひろのり)は、昨今当たり前のようになったアマチュア出身組み。

島根県の松江工業高から中央大学へと進み、大きなタイトルには無縁だったものの、強豪中央(関東大学リーグ2部/1部復帰を目指し奮闘中)で主将の重責を担い、ワタナベジムからS・フェザー級でプロ入り。

6戦目で獲得したOPBF王座を4度守り(返上/2021年3月25日付け)、130ポンドのWBO王座を米本土から持ち帰った伊藤雅雪(伴流→横浜光)を2-0の判定に下した10回戦以降、難関のライト級に定住した。

OPBF(130ポンド)のV4には、日本タイトルを持つ末吉大(帝拳)との「OPBF・日本統一戦(スプリット・ドロー)」に始まり、渡邉卓也(青木/元WBO AP王者)、竹中良(三迫/元OPBFフェザー級王者)、木村吉光(白井・具志堅/後にOPBFとWBO AP王座を同時に保持)を3タテした熱闘を含む。


2023年2月25付けにて、ワタナベジムから横浜光ジムに移籍。いち早くネット配信に着目してyoutubeに公式チャンネルを開設し、メキシコとフィリピンを手始めに海外進出を図り、引退してプロモーターに転進した伊藤と共同歩調を取りつつ、問題児カシメロの戦線復帰に尽力するなど、積極果敢に攻め続ける石井一太郎会長(元OPBF・日本ライト級王者)の下、移籍発表から2ヶ月後の4月15日、新天地での初陣を迎える

没落して久しい韓国に渡り、4勝2敗の無名選手を相手にした8回戦(ライト級契約)に臨んだ三代だったが、まさかの5回負傷判定負け。プロ初黒星を喫して世界ランク(WBO12位)を失う。

初回にバッティングで右の瞼をカットした三代は、韓国人選手の攻勢を捌く余裕が無く、ペースを掌握し切れない微妙なラウンドを重ねてしまい、4名の審判団に唯一日本から参加した田中浩二副審も、47-48の1ポイント差で韓国人選手を支持した。


滅多なことでは動じない石井会長も、流石に慌てたに違いない。4ヶ月後の同年8月に8連勝中(5KO/無敗)の中国人選手を招聘し、明白な3-0判定で再起(8回戦)。さらに3ヶ月後の11月には、日本ライト級1位の浦川大将(帝拳)にも8回3-0判定勝ち。日本タイトルへの挑戦権を得る。

こうして昨年4月9日、仲里周磨(オキナワ)に10回3-0判定勝ちを収めて日本タイトルを奪取。中里とはプロ4戦目で拳を交えており、6年5ヶ月ぶりの再戦で旧敵を返り討ちにした。

三代 vs 中里

早期の世界ランク返り咲きを実現すべく、8月に組まれた初防衛戦で11位の宮本知彰(一力)に6回TKO勝ち。続いて12月7日、関西の期待を背負うホープの1人で、フェザー級(元日本王者)から階級を上げた丸田陽七太(まるた・ひなた/森岡)を6回終了TKOに退け、2度目の防衛に成功。

4月度のIBFランキングで5位に付けると、先(5)月16日、キューバから出現した新たな異能アンディ・クルスとのエリミネーターに言及した記事が、リング誌公式サイトに掲載される。

横浜光の公式チャンネル(A-SIGN.BOXING)にも、早速本人が登場する動画が速やかにアップされ、年季の入ったマニアたちを驚かせた。

◎世界選手権3連覇アンディクルスVS三代大訓
2025年5月17日/A-SIGN.BOXING.COM


◎ANDY CRUZ VS. HIRONORI MISHIRO IBF LIGHTWEIGHT TITLE ELIMINATOR SET FOR JUNE 14
2025年5月16日/リング誌公式サイト
https://ringmagazine.com/en/news/andy-cruz-vs-hironori-mishiro-ibf-lightweight-title-eliminator-set-for-june-14

◎日本語版
https://ringmagazine.com/ja/news/andy-cruz-vs-hironori-mishiro-ibf-lightweight-title-eliminator-set-for-june-14-ja


◎三代大訓VSアンディクルス 直前SP


◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
2025年6月12日/マッチルーム公式
※クルスと三代:18分頃~
https://www.youtube.com/watch?v=F4JW9cZVlYU


■試合映像
(1) vs 丸田陽七太(森岡/元日本フェザー級王者)
2024年12月7日/後楽園ホール
6回終了TKO勝ち(日本王座V2)
オフィシャル・スコア(5回まで):59-55×2,58-56
https://www.youtube.com/watch?v=c2nvOrtYQ78

(2) vs 宮本知彰(一力)
2024年8月16日/後楽園ホール
6回TKO勝ち(日本ライト級王座)
オフィシャル・スコア(5回まで):50-44×2,49-45
ttps://www.dailymotion.com/video/x958a8o

(3)vs 仲里周磨(オキナワ)
2024年4月9日/後楽園ホール
10回3-0判定勝ち(日本ライト級王座獲得)
オフィシャル・スコア:96-94×2,97-93
ttps://www.dailymotion.com/video/x8wv040

(4) vs 浦川大将(帝拳)
2023年11月4日/後楽園ホール
8回3-0判定勝ち(日本ライト級挑戦者決定戦)
オフィシャル・スコア:78-74,79-73
ttps://www.dailymotion.com/video/x8qs3bu

(5) vs ジュン・ミンホ(誼敏虎/韓国)
2023年4月15日/パラダイスシティ,仁川(インチョン)
オフィシャル・スコア(5回まで):46-50,47-49,47-48
ttps://www.dailymotion.com/video/x8o86tx

(6) vs 伊藤雅雪(横浜光/元WBO J・ライト級王者)
2020年12月26日/墨田区総合体育館
ttps://www.dailymotion.com/video/x7yfkhb

◎過去記事:国内ライト級No.1決定戦? /難敵三代を相手に鼎の軽重を問われる伊藤・・・ - 話題のA-SIGN興行 直前プレビュー -
2020年12月26日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/6d43494e17e345c8f545d5f48757756d


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◎クルス(29歳)/前日計量:135ポンド
戦績:5戦全勝(2KO)
アマ通算:140勝9敗
■2020年東京五輪ライト級金メダル
■世界選手権
2021年ベオグラード(セルビア)金メダル
2019年エカテリンブルグ(ロシア)金メダル
2017年ハンブルク(独)金メダル
※階級:いずれもL・ウェルター級
2015年ドーハ(カタール)バンタム級ベスト8敗退
※銅メダルを獲得したドミトリー・アサナウ(ベラルーシ)に0-3ポイント負け
■ユース・ジュニア世界選手権
2012年ユース(イェレバン/アルメニア)L・フライ級ベスト8敗退
※決勝でアフマダリエフを破って金メダルを獲得したル・ビン(中国/プロ:4勝2敗と苦戦中)に13-16で惜敗
■パンアメリカン・ゲームズ
2019年リマ(ペルー)L・ウェルター級金メダル
2015年トロント(カナダ)バンタム級金メダル
■セントラル・アメリカン&カリビアン・ゲームズ(中央アメリカ・カリブ海競技大会)
2018年バランキージャ(コロンビア)L・ウェルター級金メダル
■パンアメリカン選手権
2017年(テグシガルパ/ホンジュラス)L・ウェルター級金メダル
■2024年キューバ vs フランス対抗戦(ヴァラデロ/キューバ)
五輪2大会(2016リオ・2020東京)連続銀メダルのソフィアン・ウーミア(プロ:6戦全勝3KO)に0-3ポイント負け(L・ウェルター級)
■キューバ国内選手権
2016年~2019年まで4年連続優勝(L・ウェルター級)
2014年バンタム級準優勝
※決勝でロベイシー・ラミレスにポイント負け
身長:175センチ
右ボクサー


◎三代(30歳)/前日計量:134.6ポンド
前日本ライト級王者(V2/返上),元OPBF S・フェザー級王者(V4/返上)
戦績:19戦17勝(6KO)1敗1分け
アマ通算:57戦41勝(4RSC・KO)16敗
松江工業高→中央大(主将)
2012年度インターハイ(北信越かがやき総体・新潟市体育館)/ライト級ベスト8
※優勝した李健太(り・ごんて/大阪朝鮮高級学校/現日本S・ライト級王者)にポイント負け
身長:177(179)センチ
※()内:Boxrecの身体データ訂正・更新済み
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量(フル)
https://www.youtube.com/watch?v=56qb2Wot3sg




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■リング・オフィシャル:未発表


Part 2 へ

国内男子4例目 日本人王者同士の統一戦 /凱歌はどちらに上がるのか - 中谷潤人 vs 西田凌佑 プレビュー -

カテゴリ:
■6月8日/有明コロシアム/WBC・IBF世界バンタム級王座統一12回戦(勝者は空位のリング誌王者に認定)
WBC王者 中谷潤人(M.T) vs IBF王者 西田凌佑(六島)


※会見フル映像(Prime Video JP 公式)
https://www.youtube.com/watch?v=aidRhJ4X66E

日本人王者に日本人挑戦者がアタックする「日本人同士の世界戦」は、2000年代に入って以降、日常茶飯と呼ぶべき状況が到来。良し悪しはともかく、「当たり前のこと」になった。

がしかし、同一階級の世界王者同士が雌雄を決する「統一戦」は事例が少なく、男女ともに限定的。主要4団体の同一階級において、複数の日本人が同時に王座を保持すること自体が珍しく、なおかつそうした事態になったらなったで、バックに付くTV局(配信プラットフォーム)とプロモーターらの思惑が様々に交錯して、仮に交渉が具体化したとしても実現への道のりは険しく厳しい。

ましてや「日本人世界王者同士の統一戦」となれば、放映権を巡る中継を行う民放地上波キー局の利害調整が困難を極め、乗り越えるべきハードルはより一層高くなってしまう。

交渉が進捗する過程で、優先されるべき指名戦や先行して決まっていた防衛戦で敗れてしまったり、L・フライ級時代の田中恒成(と田口良一)のように、激闘による故障とダメージが原因で泣く泣く諦めざるを得ないケースも当然発生する訳で、妥結を阻む障壁も一様ではない。


これまで実現した「日本人世界王者同士の統一戦」は、以下に記す通り、男子×3戦,女子×2戦の計5試合しかない。いずれもWBAとWBCの2団体統一戦であり、ドロー決着になった女子の1試合を除いて、試合前から有利と見られていたWBC王者がいずれも勝利を収めている。

◎日本国内で行われた日本人世界王者同士による統一戦
※単一団体内の統一戦(正規 vs 暫定,スーパー vs 正規・暫定等)は含まない

<1>富樫直美(ワタナベ) 10回1-1-1引分(97-94,94-96,95-95) 多田悦子(フュチュール:当時)
2009年12月6日/大阪市ATCホール
WBC L・フライ(富樫),WBAミニマム級(多田)統一戦
※契約ウェイト:ミニマム級/富樫のL・フライ級と多田のミニマム級王座を懸けた変則的な2団体統一戦
※主催プロモーション:フュチュールジム/中継:スカイA(CS)

<2>井岡一翔(井岡:当時) 12回3-0判定 八重樫東(大橋)
2012年6月20日/大阪府立体育会館
WBC(井岡)・WBA(八重樫)ミニマム級統一戦
※主催プロモーション:井岡ジム/中継:TBS

<3>小関桃(青木) 10回3-0判定 宮尾綾香(大橋)
2015年10月22日/後楽園ホール
WBC(小関)・WBA(宮尾)アトム級統一戦
※主催プロモーション:大橋ジム/中継:フジ(関東ローカル深夜枠)

<4>寺地拳四朗(B.M.B) vs 京口紘人(ワタナベ)
2022年11月1日/さいたまスーパーアリーナ
WBC(拳四朗)・WBA(京口) L・フライ級統一戦
※主催プロモーション:/配信:Amazon Prime(国内),ESPN+(北米)

<5>寺地拳四朗(B.M.B) 12回TKO ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)
2025年3月13日/両国国技館
WBC(拳四朗)・WBA(阿久井)フライ級統一戦
※主催プロモーション:/配信:U-NEXT(国内),ESPN+(北米)


容態が気がかりな銀次郎と優大の重岡兄弟(ワタナベ)と、帝拳の雄,岩田翔吉が陥落したミニマム,L・フライの最軽量2階級は、国内男子初の2階級同時制覇の矢吹が予定通りフライ級を選び、日本人王者が不在となってしまった。

しかしながら、今もなお4本のベルトを日本が独占するバンタム級、WBAとWBCを統一した寺地拳四朗(L・フライに続く2階級×2団体統一)と、IBF王座に就いた矢吹正道の再戦に注目が集まるフライ級は変わらず熱い。

京口紘人の肉薄を捌いて、さらに評価を上げたWBO王者トニー・オラスクアガ(米)も帝拳がハンドリングしており、拳四朗に惜敗した2023年8月の初挑戦(A・C統一L・フライ級)以来、なんと5試合を日本国内で連戦。矢吹と同様、拳四朗へのリベンジをテーマにした4団体統一への流れが出来上がっている。

井岡一翔と田中恒成のリマッチを軸にした3団体統一への期待が高まっていたS・フライ級は、ミニマムに続く2団体統一を狙った井岡と、WBOを持つ田中の敗戦によって一気に消滅。フェルナンド・マルティネスとの再戦を落とした井岡が現役継続への意欲を見せる中、プメレレ・カフ(南ア)に番狂わせを許した田中は今月4日、悪化した眼疾をカミングアウトして引退を表明。まさに、光陰矢の如し。


ゴロフキン vs 村田諒太の大一番を契機に、遅ればせながら日本国内にも本格的なネット配信時代が訪れ、昭和30年代から連綿と続いてきた、地上波キー局の放映権料を基軸にしたドメスティックなビジネスモデルがようやく崩れ去り、欧米並みとまでは行かないまでも、配信プラットフォーム間の競争による市場の活性化が大きな要因と言えるが、もっと直接的な原動力として国内のボクシング・マーケットを揺り動かしたのは、やはりモンスターの存在。

井上尚弥の2階級×4団体統一とリング誌P4Pランク1位選出、潤沢なオイルマネーを背景に地球的規模でボクシング界を席巻するサウジアラビア総合エンターテイメント庁との破格の大型契約が、他の日本人王者と後に続くプロスペクトたちに与えた刺激はとてつもなく、影響力の大きさは計り知れない。


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そのモンスターと、早ければ来春(?)にも対戦が決定しそうな中谷は、3つ目となるバンタム級で破竹の快進撃中。WBC王座を獲得して3階級制覇に成功したアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)戦以来、圧巻の4連続KO勝利を更新中(3連続KO防衛)。

年齢的(27歳)にも、いよいよキャリアのピークを迎えたと表して良く、過酷さを増しているであろう減量の影響を差し引いても、リング誌P4P7位のランキングも含めて、118ポンドにおけるNo.1の評価は当然。

173センチのタッパ(リーチ:176センチ)に恵まれたサイズは、計量後のリカバリー&リバウンドを経ると、モンスターに呆気なく粉砕されたジェイミー・マクドネル(身長:175.5センチ/リーチ:182センチ)よりも大きく見える、

上半身の厚みだけは、一晩で12キロ(!)も戻したマクドネルには敵わないけれど、1発の決定力、ロング,ミドル,ショートのいずれのディスタンスにおいてもパンチの精度と威力が落ちない技術と適応力、クロスレンジで揉み合いになっても押し負けないフィジカルの強度と安定感に満ちたバランスの良さは、頂点を目指す世界中のバンタムたちの眼に、巨大な脅威と映っているに違いない。

◎渡米中の中谷を追ったショート・ドキュメント
<1>RAW WORK | HEAVY BAG SPRINTS WITH JUNTO NAKATANI IN CAMP | BOXRAW
2025年5月10日/BOXRAW
https://www.youtube.com/watch?v=d0_ZSCo6IdE

<2>First 24 Hours In Camp With Junto Nakatani
2025年5月29日/Ben Amanna


<3>RAW WORK | JUNTO NAKATANI SPARRING FOR UNIFICATION FIGHT | BOXRAW
2025年6月4日/BOXRAW
https://www.youtube.com/watch?v=DYkU8MIQ5ao


対するIBF王者西田も、公称170センチ(リーチ:173センチ)のサウスポー。このクラスでは、十分に長身の部類に入る。デビュー3戦目と4戦目で、同じく長身レフティの強打者大森将平(WOZ)と、フライ級から階級を上げた元世界王者の比嘉大吾(志成/Ambition)を連破して名を上げた後、比嘉から奪ったWBOアジア・パシフィック王座を3度防衛。

6位クリスティアン・メディナ(メキシコ)とのエリミネーターをクリアしてIBFの指名挑戦権を得ると、大森&比嘉戦以上に厳しいと見られた初挑戦で、王座に復活したマニー・ロドリゲス(プエルトリコ)をボディでキャンバスに這わせて、明白な12回3-0判定勝ち。

20%のKO率(10勝2KO)は、世界王者としては物足りない。けれども、日本人離れしたクレバネスと落ち着いた試合運びは、円熟したベテランの技巧派と錯覚しそうなほど練れている。

勝利への執念をたぎらせ、後半逆襲に転じたロドリゲスに対して、逆に自分から密着してインファイトで応戦。ムエタイ上がりの14位アヌチャイとの初防衛戦でも、右から入る逆ワンツー(右構えが採るサウスポー対策の定石)で積極的に飛び込んで来る挑戦者を、前後のステップと切れ味鋭いジャブ&ワンツーで迎え撃った。

ハイリスクな中間距離でアヌチャイの正面に留まり、ヒヤリとさせる被弾を再三許しながらも、第5ラウンドに右フックでラッキーなダウンを奪い(プッシュ気味)、圧力を強めて7回KO勝ち。デビュー戦以来となる、プロ入り後2度目のノックアウトをマーク。苦手とされていた白兵戦にも、ハートの強さ込みで一定の適性を発揮して株価をアップ。


勝敗予想はどうしても中谷に軍配を上げざるを得ない情勢だが、想像を超える西田の善戦、すなわち中谷の苦戦に言及する人たちも一定数いる。にも関わらず、直前のオッズは圧倒的な差でWBC王者を支持。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>FanDuel
中谷:-1250(1.08倍)
西田:+630(7.3倍)

<2>betway
中谷:-800(1.125倍)
西田:+500(6倍)

<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/12(約1.08倍)
西田:6/1(7倍)
ドロー:22/1(23倍)

<4>Sky Sports
中谷:2/17(約1.12倍)
西田:17/2(9.5倍)
ドロー:25/1(26倍)


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ロドリゲス戦とアヌチャイ戦の2試合で、打ち合っても簡単に引き下がらない姿を見せてくれたのは、確かに評価に値する。するけれども、もしも今回、昨年暮れの初防衛戦と同水準の仕上がりと戦い方なら、ほぼ間違いなく西田はKOで敗れるだろう。

それも、序盤~前半で決着しかねない。それぐらい、アヌチャイ戦の西田には危ない被弾が目立った。ディフェンスの堅さと慎重な組み立てについて、昨今西田ほど賞賛された日本人選手はいないと記憶するが、最大の持ち味かつストロング・ポイントである筈の、「近めとやや遠めの距離を出はいりする微妙なさじ加減」が消えていた。

アヌチャイの逆ワンツー,いきなりの右があれだけヒットしたのは、自身の最大の長所だった「微妙な距離と間合いのコントロール」をあえて捨てて、「打ち合って倒す」道を選択したかに他ならない。

だが、今の中谷にそれをやるのは自殺行為に等しく、果敢に打たれるリスクを取って、間一髪のタイミングを見極め、ソリッドな左右のショートカウンターを決めて中谷をだじろがせたり、最良のケースとしてダウンさせたとしても、そこでフィニッシュできなければ必ず反撃される。

その時、厚みと安定感を増した中谷の波状攻撃から、西田がその身を守って持ち応えられるのかと言えば・・・。


S・フライ級までの中谷は、正面からの厳しいプレスに弱かった。115ポンドの初陣で手を焼いたフランシスコ・ロドリゲス・Jr.、ラスベガスのメッカ,MGMグランドで大いに名を上げたアンドリュー・モロニー戦、モロニーを凄絶な最終回のKOに屠って得たWBO王座の初防衛戦で中堅メキシカンにしぶとく粘られ、圧勝の予想と期待を裏切る接戦となったアルヒ・コルテス戦は、中谷が苦しむ典型例と言える。

2人のメキシカンとモロニーが、何か特別変わったことを仕掛けた訳ではない。2人のメキシカンは、中谷の正面に立ち、頑健な心身のタフネスを頼りに圧力をかけつつ、上体を柔らかく使いながら、丁寧なステップによるポジション・チェンジも加味して、適時中谷の攻勢に反応しつつ、強いプレスをかけ続けた。

そしてアンドリュー・モロニーは、実兄ジェイソンが井上尚弥に抗戦した時と同じく、必死に脚を動かし、前後左右にせわしなく移動を繰り返しながら、渾身のジャブ&コンビネーションで崩しをかけ続ける。

どちらも20世紀に確立された、オールド・スクールのスタンダード。プロボクシングの伝統的な技術と戦術、スタイルそのもの。ポイントになるのは、フルに12ラウンズそれを維持継続する心(頭脳)と身体のスタミナ,最後まで勝負を諦めないリアルなタフネスに他ならない。


この当時の中谷は、圧力を受けると真っ直ぐ後退する癖が抜けず、ロープやコーナーを背負うと上体をバタバタと過度に動かし、腰高なオフ・バランスになり易かった。そうなると、まず第一に見栄えが悪く、反撃のパンチも威力が半減してしまう。

もしかしたら、フィジカル面に垣間見える不安定さは、減量がもたらすマイナスだったのかもしれない。それがバンタムに上げたことによって解消され、現在の安定感と爆発力に直結したと考えることには、妥当性と説得力があって素直に頷ける点だ。

けれども、中谷のボクシングそのものにも変化・変貌がある。一番良くなったのは、上半身と下半身のバランス。S・フライ級までの中谷は、やり過ぎというくらいスタンスを拡げて、頭の位置を低くしていた。

大きな体格差に対する1つの解決策ではあるが、攻め込まれると一気に頭が上がって上体も伸びてしまい、秀逸な反応と身長差のお陰もあって、大事に至らずに済んでいたが、「本当に強いメキシカンとやったら、足下をすくわれるかも・・・」と本気で心配することも。


歩幅を拡く取って頭の位置を下げる態勢は、基本的に今も変わっていない。ただ、相手のプレスと前進(飛び込み)に対して、その態勢を崩すことなく、必要最小限の動作で捌けるようになった。

しかもである。今の中谷はそうした動きに、細かく丁寧なステップを連動させ、素早く死角に回り込んで得意のアッパーを突き上げたり、左の打ち下ろしをロングストレートではなくショートフックでヒットし、そこから3~4発のまとめ打ちにつなげることもできる。

プロ10戦というキャリアの浅さを考慮すれば、西田の巧さと冷静さは図抜けた能力と称すべきだが、2人のメキシカンとアンドリュー・モロニーに比べると上半身が硬い。頭をほとんど振らない現代の流儀は、中谷クラスに向き合った時、致命的な被弾のリスクになりかねない。

「中谷はスピードが足りない」という声も聞かれるが、今の中谷は充分に速い。ハンドスピードもフットスピードも、瞬発力に関して特段の不足を感じさせないし、無駄にトップスピードを浪費しない知恵と技も相応に習得したように見受ける。

そしてこれこそが何よりも重要な問題点で、それは西田のボクシングが基本的に「受け」だということ。いわゆるプレッシング・スタイルではない。自分から前に出て相手に肉薄する場合もこれは同じで、距離を潰しながらも応戦していても、相手の攻撃を受けてリターンを返す、打ち終わりを狙って合わせるカウンターが持ち味。

「受けの強さ&巧さ」で相手の攻勢を捌き切り、キメの細かいフェイント&駆け引きで幻惑しながら良さを打ち消す、どちらかと言えば派手さの無い玄人受けするボクシング。圧力を徹底的にかけて迫り、徹頭徹尾攻め崩すスタイルとは本来対極にある。

昨年暮れまでのディフェンスワークで近めのミドルレンジに長く留まり、丁々発止の駆け引きを仕掛けて今の中谷と五分以上に渡り合うのは、西田の技術とセンスを持ってしても厳しいというのが偽らざる実感。

だからこそ、どんな進境を披露してくれるのかと、逆説的な期待も持ってしまう。「西田なら、何かやってくれるのではないか」と・・・。


◎公開練習
<1>西田
2025年6月2日/oricon


<2>中谷
2025年5月31日/デイリースポーツ【公式】


公開練習の映像を見ると、両雄とも好調そうだ。とりわけ西田のシャープネスは半端のないもので、あの左右をまともに食ったら、中谷も平気ではいられないと真剣に思う。キレまくる西田のカウンターが、中谷の顎を直撃するシーンをまったく想像できなくはないけれど、その為にはロドリゲス・Jr.とコルテス並みのフィジカルが必要不可欠。

ただ強度を上げるだけでは意味が無く、前後左右の細かいステップとウィービング&ローリング、必要に応じてダッキングとボビングを連動させる、20世紀のスタンダードが一定水準以上のこなれ方で身に付いていないと駄目だ。

初防衛戦からの半年で、西田のフィジカルとボクシングがどこまで進化したのか。減量のキツいことでは、西田も中谷に引けを取らないだけに、一晩のリカバリーとリバウンドによる回復の度合いも重要な意味を持つ。

拙ブログ管理人は、キャリア最大の強敵を迎えた西田に大いなる進境が見られるに違いないと信じた上で、それでもなお中差以上の判定で中谷。西田がノックダウンを奪われ、窮地に立たされる展開も想定の範囲内。勿論、間逆のケースが絶対無いとは言い切れないけれども。

西田のボクシングとフィジカルが昨年暮れと同水準か、ほんの少し上回る程度なら、早い時間帯のKOも有り。大森,比嘉,マニー・ロドリゲスに続く、4度目にして最高のメガ・アップセット実現に向けて、悔いなき奮闘を。


Amazon Primeのyoutube公式チャンネルで、なかなか贅沢なショート・ドキュメントが無料公開されている。ぜひご視聴を。

◎【無料全編公開 2/2】『独占密着 6.8 Prime Video Boxing 13』中谷潤人、西田凌佑|プライムビデオ?
2025/05/25 Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=ceTb8Ed0yS0



◎【無料全編公開 1/2】『独占密着 6.8 Prime Video Boxing 13』那須川天心、増田陸、坪井智也|プライムビデオ?
https://www.youtube.com/watch?v=6TgSldEhSCQ


◎中谷(27歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
現WBCバンタム級(V32),元WBO J・バンタム級(V1/返上).元WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:30戦全勝(23KO)
世界戦通算:9戦全勝(8KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:173センチ,リーチ:176センチ
※以下は計量時の検診
血圧:110/78
脈拍:104/分
体温: 36.1 ℃
左ボクサーパンチャー


◎西田(28)/前日計量:117.7ポンド(53.4キロ)
IBFバンタム級王者(V1)
戦績:10戦全勝(1KO)
アマ通算:37勝16敗
2014(平成)年度第69回長崎国体フライ級優勝(少年の部)
王寺工高→近畿大
身長:170センチ,リーチ:173センチ
※以下は計量時の検診
血圧:125/87
脈拍:80/分
体温:36.2℃
左ボクサー

◎前日計量


◎前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=yqDVj4YCc68

◎最後のバンタム級についても言及 『Prime Video Boxing13』囲み取材


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■オフィシャル

主審:福地勇治(日)

副審:
田中浩二(日)
飯田徹也(日)
吉田和敏(日)
※審判団:4名全員JBCより選出

立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC事務局長)


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◎試合映像
■西田
<1>6位アヌチャイ・ドーンスア(タイ)
2024年12月15日/住吉スポーツセンター(大阪市)
7回KO勝ち(IBF王座V1)
ttps://www.youtube.com/watch?v=TTR-0rh4-HE

<2>マニー・ロドリゲス(プエルトリコ)
2024年5月4日/エディオン・アリーナ大阪(府立体育会館)
12回3-0判定勝ち(IBF王座獲得)

<3>クリスティアン・メディナ(メキシコ)
2023年8月11日/エディオン・アリーナ大阪
12回3-0判定勝ち(IBF指名挑戦権獲得)
ttps://www.dailymotion.com/video/x8ovke1

<4>比嘉大吾(志成/Ambition)
2021年4月24日/沖縄コンベンションセンター
12回3-0判定勝ち(WBO AP王座獲得)
ttps://www.youtube.com/watch?v=7sjrgafmCQM

<5>大森将平(WOZ)
2020年12月19日/エディオンアリーナ大阪(府立体育会館)
ttps://www.youtube.com/watch?v=9ckUQ11pTN0

■中谷
<1>6位デヴィッド・クェジャル(メキシコ)
2025年2月24日/有明アリーナ
3回KO勝ち(WBC王座V3)
https://www.dailymotion.com/video/x9f35jw

<2>1位ペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)
2024年10月14日/有明アリーナ
6回TKO勝ち(WBC王座V2)
https://www.dailymotion.com/video/x97cyju

<3>1位ビンセント・アストロラビオ(比)
2024年7月20日/両国国技館(WBC王座V1)
初回KO勝ち(WBC王座V1)
https://www.dailymotion.com/video/x92jamq

<4>アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)
2024年2月24日/両国国技館
6回TKO勝ち
https://www.dailymotion.com/video/x92jamq

<5>アルヒ・コルテス(メキシコ)
2023年9月18日/有明アリーナ
12回3-0判定勝ち(WBO J・B級王座V1/返上)
https://www.dailymotion.com/video/x8o61cd

<6>アンドリュー・モロニー(豪)
2023年5月20日/MGMグランド・アリーナ(ラスベガス)
12回KO勝ち
https://www.dailymotion.com/video/x8l3pgc

<7>フランシスコ・ロドリゲス・Jr.(メキシコ)
2022年11月1日/さいたまスーパーアリーナ
10回3-0判定勝ち(S・フライ級初戦)
https://www.youtube.com/watch?v=rcTfyUdi6KA

2026年春,東京ドーム開催決定!? - 年間表彰式で予期せぬビッグ・サプライズ Part 5 -

カテゴリ:
■55年前に実現していた現役世界王者対決

左:小林弘(WBA世界J・ライト級チャンピオン)vs 右:西城正三(WBA世界フェザー級チャンピオン)

華やかなスター然とした西城とは対照的に、”地味で玄人受けする技巧派”の典型だった小林を育成したのは、超スパルタで知られる中村信一会長。硬派一徹ゆえに、負けを一切気にせずハードコアなマッチメイクを弟子たちに強いた。

昭和の会長さんには概してこのタイプが多く、良くも悪くも精神主義・根性論による支配が当たり前。会長が白と言えば白、黒と言えば黒。選手と雇われトレーナーに、面と向かっての反論・反抗は許されない。

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」

スポーツ全般に限らず学校から職場に至るまで、ありとあらゆる場面で「為せば成る」が常套句のように用いられていた。それが昭和という時代・・・いや、流石にこれは言い過ぎか・・・。

そして、海外遠征と言えば小林。フェザー級の日本タイトルを3度防衛した後、1966(昭和41)年5月~8月までの3ヶ月間、中米エクアドルを皮切りに、ベネズエラ,メキシコと南北アメリカ大陸を北上。西城がビッグ・チャンスを掴んだロサンゼルスのオリンピック・オーディトリアムを打ち止めに、世界ランカー2名を含む6試合(!)を消化する超強行軍。

◎中南米遠征の戦績:6戦2勝(2KO)2敗2分け
<1>1966(昭和41)年5月14日/キトー(エクアドル)
△小林 10回引分 ハイメ・バラダレス
130ポンド契約(?)10回戦
※当日計量:バラダレス130ポンド,小林127ポンド1/2
※バラダレス:J・ライト級世界ランカー(2年後のV2戦で再戦して判定勝ち)
----------------------
<2>1966年5月30日/カラカス(ベネズエラ)
●フレディ・レンヒフォ(ベネズエラ) 10回判定 小林
オフィシャル・スコア:非公表
127ポンド契約(?)10回戦
※当日計量:レンヒフォ126ポンド1/4,小林126ポンド1/2
----------------------
<3>1966年6月24日/カラカス(ベネズエラ)
●ペドロ・ゴメス(ベネズエラ) 7回TKO 小林
オフィシャル・スコア(6回まで):非公表
127ポンド契約(?)10回戦
オフィシャル・スコア:非公表
※当日計量:ゴメス126ポンド3/4,小林126ポンド1/2
※ゴメス:フェザー級世界ランカー(3年後に西城の初防衛戦の指名挑戦者として来日・判定負け)
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<4>1966年7月10日/シナロア州シナロア・デ・レイバ(メキシコ)
△小林 10回引分 アウレリオ・カサレス(メキシコ)
※契約ウェイト,当日計量,オフィシャル・スコア:非公表・不明
----------------------
<5>1966年7月31日/シナロア州クリアカン(メキシコ)
○小林 9回KO デルフィーノ・ロサレス(メキシコ)
オフィシャル・スコア(8回まで):非公表
フェザー級(?)10回戦
※当日計量:小林不明,ロサレス126ポンド
----------------------
<6>1966年8月18日/オリンピック・オーディトリアム(米/ロサンゼルス)
○小林 7回終了TKO ボビー・バルデス(米)
オフィシャル・スコア(6回まで):非公開
127ポンド契約(?)10回戦
※当日計量:両者とも127ポンド/バルデス:後のフェザー級世界ランカー
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1966(昭和41)年の小林は、1月~3月まで毎月リングに上がり、キャリアの最終盤に入っていた”メガトン・パンチ”青木勝利(三鷹/元東洋バンタム級王者)、塩山重雄(鈴木/日本タイトル戦)、森洋(極東/S・フェザー級日本ランカー)を連破。

初っ端の3連戦が既に有り得ないが、さらに海外での過酷な6連戦から帰国すると、休む間もなく10月10日に千葉信夫(ヨネクラ/後の日本フェザー級王者)との防衛戦をこなし、11月10日には野畑澄男(常滑/後の日本J・ライト級王者)も10回判定に下してV5を達成。

これで終わりかと思いきや、野畑戦から18日後(!)の11月28日、フィリピンのローカル・ランカーを招聘して10回判定勝ち。12戦8勝(1KO)2敗2分けの戦果を持って、ハードな1年を終えている。


世界へと羽ばたく翌1967(昭和42)年も、小林は8戦して負けなしの全勝(2KO)を記録しているが、5月8日に行った三橋高夫(田辺)との防衛戦を挟み、韓国人選手×4名,比国人選手×2名の7名に完勝。主戦場を130ポンドに移してWBA1位に付けると、10連続防衛で130ポンドの定着に大きく寄与したフラッシュ・エロルデ(比)から、WBCが分裂する前のWBA王座を奪った沼田義明(極東)への挑戦が具体化。

小林がWBAのトップランカーになったことで、「沼田・小林戦うべし」との機運が高まり、世界戦で初めてとなる日本人対決が実現した。

中村会長と極東ジムの小高伊知夫(こだか・いちお)会長が、シナリオの無い本気の舌戦を応酬し合っただけでなく、赤穂浪士の討ち入りで知られる12月14日の日程に加えて、天覧試合になるのではないかとの風聞が出回るなど、スポーツ報道の枠を超える騒動となった。

丁々発止の駆け引き&ペース争いが続く中、第6ラウンドに伝家の宝刀右クロスで先制のダウンを奪った小林が流れを掴み、迎えた第12ラウンド、またもや右クロスを炸裂させる。思い切り顎を跳ね上げられた沼田は、天を仰ぐようにもんどりうって2度目のダウン。

余力を振り絞って立ち上がるも、この機を逃さず集中打をまとめた小林が2度のダウンを重ねてKO勝ち。同門の大先輩、矢尾板貞男が成し得なかった世界の頂点に立つ。

◎試合映像:小林 12回KO 沼田
1967年12月14日/蔵前国技館
オフィシャル・スコア(11回まで):54-51,54-52,53-51(3-0で小林)
WBA世界J・ライト級タイトルマッチ15回戦(分裂前の統一王座)

※フルファイト
ttps://www.youtube.com/watch?v=PF5yrtZ3p18


2000年代の始め頃だったと記憶するが、専門誌の企画で沼田と小林が対談した折に、小高会長との関係について「難しかった。相手を誘い出す為にわざとガードを下げて、狙い通りにカウンターを決めてKOしても、ジムに戻ると”何で言われた通りにやらないんだ!”って、全員が見てる前で怒鳴られる。大変でしたよ」と苦笑まじりに話していた。

「私たちの時代は、会長に逆らうなんて絶対に許されない。でも、記者さんやテレビの取材が入っている時は、すべて小高会長の言うことを忠実に守って練習しましたよ」とも述べている。

その上で、具体的な対策はほとんどすべて自分で考えてやっていたと、現役時代はもとより、小高会長が存命中は口にできなかったであろう本音を吐露していた。

「人前で会長に恥をかかせるわけにいきません。でも会長が見ていない普段の練習は、全部自分で考えて工夫しながらやっていた。会長やトレーナーのアドバイスは聞きますけど、実際に殴り合うのは僕ですから。」

「”小高理論”ですか?。そんなのいくら教わっても、試合でそのまま通用するわけないでしょう。相手は勝ちたい一心で、必死になっていろんなことをしかけてくる。いちいちこだわってなんかいられません。」

1分間のインターバル中、コーナーのアドバイスや指示はちゃんと聞くが、いざラウンドが始まったら、積み重ねた経験と自らの感覚を頼りに、その場に合わせて即興的に判断して行くしかないと、この点でも日本中を沸かせたライバルが異口同音に語っていたのが強く印象に残る。


技巧派の頂点に立っていたと言っても過言ではない小林も、「付きっ切りで面倒を見るという意味での専属トレーナーは、少なくとも僕にはいなかった。練習から何から、すべて自分で考えてやっていました」と話し、沼田の言葉に頷いていた。

「作戦ですか?。事前に色々と考えはしますけど、やっぱり試合当日リングに上がって、ゴングが鳴ってからですね。実際に向かい合ってみないとわからない。僕らの頃は15ラウンド(世界戦)ですから、3~4回ぐらいまでの間に、距離とか癖とか色んなことを大体の感じで掴みながら、じゃあ今日はどうやろうかって考える。」

沼田もまったくの同意見で、「私たちの試合は、まずは駆け引きから始まってこれが結構長い。15ラウンドの長丁場を、判定勝負前提で組み立てますから。玄人が見れば色々見どころもあるんですが、素人目には地味に映るでしょう。だから退屈と思われても仕方がない。」

左:小林と中村会長/右:沼田と小高会長

ハイ・ガードの堅持を第一に、つま先やかかと、頭や腕等の位置をミリ,センチ単位でうるさく指示する独特の指導方法をマスコミが「小高理論」と名付け、映画全盛期の日活が社内に設けた「ボクシング部」にコーチとして招かれ、石原裕次郎,小林旭,赤木圭一郎らのトップスターを教えて有名になった小高会長は、TBSが企画した「ボクシング教室」を共催。主管を任される。

そして、全国から集まった7千人もの応募者の中から10名を選抜。北海道から唯一合格したのが中学を卒業したばかりの沼田だった。ボクシング経験を持たない小高会長は、現場とコーナーを腹心のトレーナーに任せる方針を採っていたが、沼田を発掘してから率先して現場に立つようになり、指導に口を挟むようになって行ったという。

小高理論の申し子のように語られ、"精密機械"と呼ばれた沼田だが、実際のファイトスタイルは自由奔放な天才肌の閃き型。今で言うL字やノーガードで駆け引きしながら足を使ったり、”天井アッパー”が今でも語り草になっているラウル・ロハス戦のように、強打をブンブン振り回すことも珍しくない。


最大の弱点と言われたボディを狙われるのが常で、必要とあればクリンチワークも厭わなかった。その為、「沼田は汚い。狡い」と批判されることも度々あったと記憶する。

「レフェリーの注意を受けない限り、反則じゃないですから。注意されれば僕は止めますよ。でも海外の選手はそんなに甘くない。みんな勝つ為に必死なんですよ。」

「あからさまな反則はそりゃダメですよ。でも海外の選手はギリギリのところを、レフェリーに分からないように上手にやってくる。そのレベルまで行けば、それはもう技術のうちですから・・・」と、真顔で記者の問いに反論を返す場面もあった。

◎天才肌の閃き型を象徴する沼田の2試合
<1>沼田 5回KO ラウル・ロハス(米)
1970年9月27日/日大講堂(旧両国国技館)
WBC世界J・ライト級タイトルマッチ15回戦(V1)
https://www.youtube.com/watch?v=nU4aaBz-Nzw

西城に敗れた後、階級を上げたロハスが沼田に挑戦。メキシカン特有の執拗なボディ攻撃でダウンを奪われ、KO負け寸前まで追い込まれた沼田が、”天井アッパー”を放って驚愕の逆転KO勝ち。コーナーを背にロハスの連打を必死に耐える沼田だが、冷静に元フェザー級王者の隙を伺う鋭い視線にゾクっと背筋が震える。

<2>沼田 15回3-0判定 ライオネル・ローズ(豪)
1971年5月30日/広島県立総合体育館
WBC世界J・ライト級タイトルマッチ15回戦(V3)
https://www.youtube.com/watch?v=PEB3gnyiR0E

野球のON,大相撲の大鵬と並ぶ国民的ヒーロー、ファイティング原田を大番狂わせの15回判定に下し、弱冠19歳8ヶ月の若さでバンタム級の頂点に立ったローズは、柔らかいボディワークと滑らかなフットワークを操る技巧派で、年齢からは想像できない完成度の高さを発揮。豪州の先住民アボリジニ初の世界王者として人気を博した。

原田も19歳6ヶ月で世界フライ級王者となり、22歳1ヶ月で50戦無敗(48勝2分け/37KO)のエデル・ジョフレを破り、国内史上初の2階級制覇を成し遂げた早熟のファイターだったが、ローズの天才もけっして引けを取らない。

東京五輪金メダリストの桜井孝雄(スピード・スタータイプのサウスポー)、チューチョ・カスティーヨ(メキシコ/ルーベン・オリバレスのライバル)、アラン・ラドキン(英/当時の欧州No.1)の3人からベルトを守った後、東洋王座を獲得して再浮上した桜井との挑戦者決定戦を6回KOで難なくクリアした怪物オリバレスに5回KO負け。フェザー~J・ライトへと階級を上げた。

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※歴代最年少世界王者
1.ウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ):17歳5ヶ月(1976年3月:WBA J・ウェルター級)
2.セサール・ポランコ(ドミニカ):18歳2ヶ月(1986年2月:IBF J・バンタム級)
3.ラタナポン・ソー・ウォラピン(タイ):18歳6ヶ月+5日(1992年10月:IBF M・フライ(ミニマム)級)
4.ホセ・ピピノ・クェバス(メキシコ):18歳6ヶ月+21日(1976年7月:WBAウェルター級)
5.井岡弘樹(日/グリーンツダ):18歳9ヶ月(1987年10月:WBCストローc級/初代王者)
6.トニー・カンゾネリ(米):18歳11ヶ月(1927年10月:NYSAC・リング誌公認フェザー級)
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L字と言えば、小林も左のガードを低く構えて、半身を深くしながら相手をけん制するのが上手く、広い意味で沼田と小林も”L字の使い手”と言えるのかもしれない。

当時は誰もがウィービング,ダッキング,ブロッキング,フットワークといった限られたディフェンス用語しか使っていなかったけれど、パリングやローリング、スリッピング、ボビングなどの重要かつ基本的な技術は、すべて過不足なくマスターしていた。


◎試合映像:小林自ら「生涯のベスト・バウト」と認めるカルロス・カネテ戦
1969(昭和44)年11月9日/日大講堂(旧両国国技館)
小林 vs C・カネテ(亜)


WBA1位の指名挑戦者として小林に挑んだカネテは、1960年ローマ五輪に出場したエリート・アマ出身組み。長い手足が技巧派のアウトボクサーを想起させたが、厚みのあるがっしりとした上半身の持ち主で、92戦77勝(52KO)6敗9分けの生涯戦跡が示す通り、ジャブ&ワンツーを飛ばしながら、積極的に仕掛ける好戦的なボクサーファイターだった。

スタートからキレのある動きとパンチで主導権を握った小林は、得意の右クロスを小さく鋭く放ってカネテのリードジャブを殺し、細かいポジションチェンジを繰り返しながら駆け引きを続けつつ、接近戦で揉み合っても押し負けず、一回り大きいカネテをコントロール。苦戦の予想を覆して、大差の3-0判定勝ち(75-63×2,75-65/5点減点法)。見事な内容で、4度目の防衛に成功している。

1962年にプロに転向してから、7年の歳月をかけて辿り着いた世界戦を落とした後も、アルゼンチンの国内王者として1970年9月まで現役を継続したが、ベテランの中堅ローカル・トップに9回TKO負けを喫して王座を追われ引退。

バンタム級の代表として乗り込んだローマでは、初戦(E32)で日本の芳賀勝男(中央大)に0-5のポイントで敗れており、アマ・プロいずれにおいても、ここ一番の大勝負で日本人に苦杯を喫したのも、何かの因縁だろうか。


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”見えざる意思”は動いたのか / - P・タドゥラン vs 銀次郎 2 レビュー Part 1 -

カテゴリ:
■5月24日/インテックス大阪5号館,大阪市住之江区/IBF世界M・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 ペドロ・タドゥラン(比) 判定12R(2-1) 前王者/IBF4位 重岡銀次郎(日/ワタナベ)

勝者タドゥランが告げられた瞬間、国家演奏の時のように左胸に手を当てて天を仰ぐ銀次郎

事ここに至っては、何を言っても書いてもせんないこと。我々ファンに出来ることは、取り返しのつかない悲劇に見舞われた重岡銀次郎の命を召さないよう天に祈り、一刻も早い意識の回復を心から願い続ける以外にない。

兄優大が自身のインスタで公表した直近の容態(24時間で自動削除されるストーリー機能を使用)について、メディアは「小康状態」と報じている。自発呼吸が可能となり人工呼吸器が外れたこと、主に脳波と呼吸系、血中の酸素濃度等になると思われるが、重要な数値が少なくとも悪化していないことが確認された。

ただし、冒頭に記した通り意識は回復しておらず、主治医から「1週間がヤマ」との説明も受けているとあり、楽観が許される状況にないことも忘れてはならない。

◎出身地である熊本ローカル局のニュース
重岡銀次朗「自分で呼吸ができる状態に」兄優大がインスタで明かす【熊本】 (25/05/29 17:50)
2025年5月29日/テレビくまもと(TKUofficial)
https://www.tku.co.jp/news/?news_id=20250529-00000012



◎詳細な記事(論スポ)
「自分で呼吸ができるようになった。数値は悪化していない」開頭手術を受け意識不明の重岡銀次朗の容態を兄の優大がSNSで報告…対戦した王者タドゥラン陣営も「早く元気に」とメッセージ
2025年5月29日 22:28/RONSPO
https://news.goo.ne.jp/article/ronspo/sports/ronspo-12455.html


判定結果がコールされた後、コーナーに戻った銀次郎が意識を失い、リングドクターのチェックを受けた上で担架が要請され、コーナーマンとスタッフに担がれるようにしてリングから運び出された。

1年前の第1戦とまったく同じ光景に愕然とする。気になる仕草はあった。勝敗の結果を聞いた直後、呆然と悄然が相半ばする銀次郎に、兄優大が何事かを語りかけている間、銀次郎が両方のこめかみを押さえてうつむく。

判定結果がコールされた後こめかみを押さえる銀次郎(手前は兄優大)

「大丈夫か・・・?」

あらぬ不安が脳裏を過ぎる。だが、序盤からタドゥランの強打に晒され、ダメージを蓄積した末に9回TKOに退いた前戦とは異なり、今回はラウンドを取られては取り返すシーソー・ファイトだった。

終始一貫脚を動かし続ける銀次郎の戦術選択によって、無謀な打ち合いに及んで被弾を繰り返す場面は限定的で、後段に掲載するオフィシャル・スコアご覧いただくまでもなく、公式裁定は2-1と割れている。ジャッジ3名中、1名は銀次郎の勝利を支持する接戦・・・採点の上では、少なくともそういう結論になる。

終盤に突入した後も銀次郎の脚は健在で、インターバル中も含めて、朦朧としたり集中力が途切れる様子も見られない。思わずヒヤリとする被弾は何度かあったけれど、いずれも単発で、前回のようにそこから打たれ続けることもなかった。

ただ1点、前戦の教訓を活かし切れなかった事象を除いては・・・。現代アメリカのレフェリングの問題点として、検証の必要性に言及しておくべきかもしれず、詳しくは後述する。


大阪市内の病院に搬送された後、銀次郎の容態は秘匿された。ワタナベジムの渡辺均会長は、取材に対して「詳しい状況についてはJBCが発表する。それを待って欲しい」と答えるに止める。「情報を一本化する(混乱を避ける)為」との説明があり、SNSによる誤情報の拡散と、それらによってご家族にかかる余計な心理的負担の回避を最優先したのだろう。

この時点で、取材に当たるベテラン記者は勿論、筋金の入ったファンも「事態は深刻」だと悟った筈である。

一部界隈で「情報の隠蔽」と取る者たちもいたように見受けるが、「病院→JBC→ご家族とワタナベジム→報道陣」の情報統制には、JBCの試合運営とコーナーを率いた町田トレーナーを始めとするスタッフ、ひいてはワタナベジムへの直接的な批判を防止する目的も、実際に含まれていたとは思う。

ダブルメインのIBFフェザー級タイトルマッチとともに、興行を所管するJBCの現場監督として臨席した安河内剛事務局長と、臨席した安河内剛JBC事務局長と、渡辺会長との合意に基づく対応だったと推察するが、様々な意味で止むを得ない措置ではあった。

◎報道の経緯
<1>【ボクシング】重岡銀次朗 判定負け直後に担架で運ばれ救急搬送…リベンジ王座奪還1歩届かず
[2025年5月24日20時57分]/ニッカンスポーツ
https://www.nikkansports.com/battle/news/202505240001763.html

<2>【ボクシング】重岡銀次朗、大阪市内の病院に入院中 JBCは27日に状態発表予定 24日の世界戦で判定負け後に救急搬送
2025/05/26 16:55/サンケイスポーツ
https://www.sanspo.com/article/20250526-F24XGMUI3RMMDGUOTIBI45V7JI/?outputType=theme_fight

<3>ボクシング 重岡銀次朗が現役引退へ 試合後に緊急の開頭手術
2025年5月27日 20時46分/NHK News Web
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250527/k10014818241000.html

<4>重岡銀次朗が急性硬膜下血腫で緊急開頭手術 
2025年5月27日 17時13分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112309/

<5>ワタナベジムが重岡銀次朗について報告「小康状態」、兄優大もインスタで発信
2025年5月29日 20時58分/Boxing News
https://boxingnews.jp/news/112329/


◎ワタナベジム公式サイト
<1>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.29
https://www.watanabegym.com/news/20072/

<2>【重岡銀次朗選手に関するご報告】
2025.05.30
https://www.watanabegym.com/news/20074/

右:判定を聞いてコーナーに戻り椅子に座る銀次郎(朦朧としている様子が伺える)/左:銀次郎の意識を確認するリングドクター

担架で運ばれる銀次郎


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銀次郎が脚で外しにかかるだろうとの予見は、本番に向けて何度か公開された練習の映像や、アマチュア時代の経験を踏まえた戦術の見直しに言及した試合前のインタビューを見れば、ある程度の当たりは付いた。

右回りのフットワークでタドゥランの間合いを外し、外されてもすかされても委細構わす踏み込んで振って来る、重くて硬くて長く、なおかつ最も危険な左には、丁寧かつ素早く小さなダック&ロールで対処する。

上体の動作を必要最小限度に抑えて、歩幅も拡くなり過ぎないよう注意を払い、オフ・バランスを徹底回避。窮屈になり過ぎない程度に肘を内側に絞ったハイ・ガードと、ショートのカウンターを無理なく合わせることができる態勢を常に保持して、引き手の戻りも怠らない。


チーフの町田トレーナーを中心としたチームと銀次郎が、どれほど厳しいトレーニングに自らを駆り立ててリマッチに臨んだのか。その覚悟と意欲が、ディスプレイ越しにひしひしと伝わって来る。

がしかし、それでもなおタドゥランの強靭なフィジカル&パンチング・パワーの壁は分厚く、銀次郎とチームの奮闘は残念ながらあと数歩及ばなかった。

今できることの最善を、ベスト・オブ・ベストを銀次郎は尽くし、コーナーも懸命にそれを支える。これ以上の”Something ELse”は、何をどうしようが出て来ない。勝者がコールされた瞬間、思わず天を仰ぐ銀次郎。

自らの限界を乗り越えて、やれることのすべてをやり尽くし、正真正銘の精一杯のさらにその上を目指し、全身全霊をかけて己を貫き通した者にしか許されない姿がそこにあった。


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◎タドゥラン(28歳)/前日計量:104.5ポンド(47.4キロ)
※当日計量:114.9ポンド(52.1キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
(4回目でパス/1回目:52.4キロ,30分後2回目:52.3キロ,+100分後3回目:52.25キロ)
元IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:23戦18勝(13KO)4敗1分け
世界戦:7戦3勝(2KO)3敗1分け
アマ通算:約100戦(勝敗を含む詳細不明)
身長:163センチ,リーチ:164センチ
血圧:137/102
脈拍:56/分
体温:36.1℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


◎銀次郎(25歳)/前日計量:104.9ポンド(47.6キロ)
※当日計量:114.2ポンド(51.8キロ)/IBF独自ルール(リミット:105ポンド+10ポンドのリバウンド制限)
現在の世界ランク:IBF4位/WBO10位
戦績:14戦11勝(9KO)2敗1NC
世界戦:6戦3勝(3KO)2敗1NC
アマ通算:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ,リーチ:156センチ
血圧:125/70
脈拍:62/分
体温:36.6℃
※計量時の検診データ
左ボクサーファイター


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■オフィシャル

主審:チャーリー・フィッチ(米/ニューヨーク州)

副審:2-1で王者タドゥランを支持
ジル・コー(比):115-113
デイヴ・ブラスロウ(米/メリーランド州):113-115
中村勝彦(日/JBC):118-110

立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)

◎オフィシャル・スコアカード
オフィシャル・スコアカード

◎オフィシャル・スコアカード(清書)
オフィシャル・スコアカード(清書)

中立国から主審1名+副審1名を選び、王者の母国と挑戦者の出身国から、それぞれ副審を1名づつ。昨今は珍しくなったけれど、70年代半ば~80年代前半頃までに行われた世界戦では頻繁に採用された審判団の構成。

フィリピンと米国メリーランド州から呼ばれた2名の副審は、勝者として支持する者の名前は違えど、ともに115-113の2ポイント差を付けている。妥当かつ正当なスコアリングであり、異論を唱えるファンと関係者もいない筈。

議論を呼びそうな中村勝彦審判の118-110には、納得し難い違和感を覚える人も多いだろう。開催地の地元コミッションから選出されたジャッジが、敵陣営に大きく利する採点を行う・・・皆無とまでは言わないが、やはりレアなケースになる。


常識的に考えれば、米・比のジャッジより若干拡めのマージンで銀次郎を支持しそうなものだが、ホームの風が吹くことはなかった。フェアと言えば確かにその通りなのだが、「そこまで差が開く・・・?」との疑問も抱く。

前に出続けたタドゥランのアグレッシブネスは正当に評価されるべきだし、脚を止めずに距離のキープに務める銀次郎のパンチは、スピード&精度(タイミング)を優先する為パワーセーブせざるを得ず力感を欠いた。

思い切り踏ん張って打つことができないがゆえに、ボディショットも普段の決定力を発揮し切れず、基本のリードジャブとワンツー、上を狙うカウンターもタドゥランを押し返すまでには至らない。

コンビネーションと手数でタドゥランを上回ることがでれば良かったが、折角奪ったヒットも、重量感に溢れるタドゥランの反撃に都度打ち消される場面も多く、初防衛に向けて突き進む王者の圧力は最後まで衰えず、タドゥランの勢いに押し負けてしまう。

12ラウンズ中10ラウンズを、王者に振ってしまった中村審判の気持ちは分からんでもないが、プロの公式審判員としてまったく問題が無いとも言い切れない。そう指摘せざるを得ない。


◎管理人KEIのスコア
管理人KEIのスコアカード

手前味噌になってしまい恐縮するばかりだが、無理せず一定程度のイーブンを許容した方が、より試合の展開と内容に即したスコアリングを担保できると思う。

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